改正事業譲渡指針等における努力義務の構造化
―契約型事業譲渡における再編決定主体者説と集団的調整実務モデル―
本論文は、事業譲渡を中心とする企業再編局面における労働者保護について、現行法および改正事業譲渡等指針の枠内で実務的に運用可能な枠組みを構造化することを目的とする論文である。本論文は、はじめにおよび第2章で検討した菅野・土田・西谷による三説を理論基盤として有機的に統合し、譲渡側会社・譲受側会社・労働組合・当該労働者から成る「協働者構造」と、経営責任・雇用責任・評価責任・特別労働条件形成責任から成る「四責任構造」を提示する。さらに、これらを、経営判断段階の事前協議・集団的合意形成・三者確認から成る「多層手続」として手続構造に位置づけるとともに、維持・通算区分、調整・経過措置区分、新設・代替処遇区分から成る「特別労働条件三区分設計」として具体的保護内容に落とし込む。
加えて、企業グループ内/第三者と平時/有事から成る「二軸マトリクス」と、軽度・中度・重度から成る「再編深度三区分」を用いて、事案類型ごとに要求される保護内容を段階的に整理する。とりわけ、第三者×有事にあたる象限Dを重度事案の典型として位置づけ、「象限Dチェックリスト」により、対象労働者選定の透明性、総合的労働条件の全項目開示、特別労働条件三区分に基づく協議、非正規労働者の声の反映をミニマム・セットとして確保することを目指す。これにより、民法625条1項上の個別同意を形式的同意にとどめない実質的同意へと高めつつ、企業再編の円滑化と労働者保護の調和を図る実務モデルを提示する。