多様化する人事制度の運用上の課題と労働組合の関与
―単組の関与と制度運用の乖離に着目して―
本稿は、近年の賃上げ進展のもとでも、従業員の納得感や意欲形成に関わる課題がなお残っている点に着目し、その背景を人事制度の形式的整備と制度運用上の受け止めとの乖離から探索的に検討するものである。分析には、UAゼンセンの賃金闘争資料、A社のエンゲージメント・サーベイ、クレジット産業内労働組合協議会(クレ労協)所属組合を対象としたWebアンケート、ならびに8労組に対する個別ヒアリング結果を用いた。検討の結果、第一に、賃上げ進展それ自体は確認できる一方で、制度整備が進んだ企業においても、評価、説明、育成、キャリア見通しに関わる運用上の課題が残りうることが示唆された。第二に、制度の形式的整備が進んでいても納得感・公平感は必ずしも高くなく、その差異を説明する主要因は制度類型の違いそのものよりも、目標設定の妥当性、評価者教育の継続性、面談・説明責任の履行、処遇連動の理解可能性といった運用過程の公正性と可視性に起因していた。第三に、同一制度下でも運用差により納得感に差が生じ、職種特性と評価運用のミスマッチも不満の重要な要因であった。以上を踏まえ、産業別労働組合には、制度運用の直接代行ではなく、単組への比較分析、情報提供、研修支援の基盤整備が求められる。