異動の経験を組織の資源に変える

―JAMにおける人材育成制度の歴史と展望―

盛田 賢介 (JAM)

 JAMは中小金属機械産業を基盤とする産別労働組合である。書記局員(専従職員)は活動の中核を担っている。そして、書記局員の能力向上のために人事制度内規に計画的な人事交流の実施が明記されている。にもかかわらず、本部・地方間および地方間の異動はほとんどおこなわれてこなかった。本稿はこの制度的不在の要因を、二つの理論枠組みから分析する。第一は、Weick(1995=2001)のセンスメイキング論である。2006〜07年の「新しいJAMのすがた」をめぐる組織再編において、JAMは「地方中心の産別」というアイデンティティを選択した。この選択が本部機能を周縁化し、計画的な人事異動を主導する組織能力の形成を構造的に妨げてきた。第二は、Doeringer & Piore(1971=2007)の企業特殊的技能概念である。地方の単組との長期的な信頼関係に依拠した技能が重視されるほど、異動は「技能の喪失」として認識され、長期在任が当然視されてきた。偶発的な異動経験者へのインタビューからは、スキルの幅の拡大・産別全体の視野の獲得・組織内ネットワークの形成という三つのメリットが、事後的にしか言語化されないことが明らかになる。要するに、異動の便益の不可視化こそが制度不在を温存してきた構造的要因であり、その可視化が人材育成改革の端緒となりうる。