本と資料の紹介コーナー

このコーナーでは、労働運動、労働組合の分野で皆さんに読んでいただきたい本と文献を取り上げます。重要と思われる文献については、労働一般、経済社会問題まで広げて紹介していくとともに、連合周辺の刊行物も収録します。
文献の選定には教育文化協会の書評委員会があたっていますが、紹介内容は連合または教育文化協会の主張を必ずしも反映せず、高木郁朗 日本女子大学名誉教授の責任監修で行われています。

2017年5月の紹介本

おすすめ本

  • 山崎憲
    『「働くこと」を問い直す』

    評者:西野ゆかり(連合広報・教育局長)

     かつて、労使関係は社会に大きな影響力を持っていた。労使関係で扱う範囲は「働くこと」だけでなく、社会すべてに関わることだった。どうすれば日本が世界に貢献できるのか、どうすれば平和な世界を実現できるのか、どうすれば貧困をなくせるのかという理想をめざす思いがあった。そしてその思いは労使双方に共通していた。しかしいつしか労使関係は、企業と労働組合だけの関係に閉じ込もってしまった。人々の生活をめぐる状況は悪化の一途をたどっていたにも関わらず、労働組合が職場の外にまで足を踏み出すことはなかった。そのため、労使関係には社会を変える力などないと皆が思うようになった。歪んだ形で日本的経営が進み、社会が支払わなければならない代償も大きくなった。この国が経済の発展を優先し続けた結果だ。
     本書は、迷走する労使関係の来歴をたどりながら「働くこととは」を読者に問いかけてくる。そのうえで、では私たちはこれからどうすれば良いのだろうか。労使関係を再び社会に向けて開かせねばならないだろう。一人ひとりが身の回りの問題に自ら参加することで社会を良い方向に変えていく「参加型民主主義」を取り戻していかねばならない。労使関係は、この参加型民主主義の最も小さな単位なのだ。さらにカギとなるのは「コミュニティ・オーガナイジング(CO)」という新しい手法を取り入れることであると筆者は提示している。

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    岩波書店
    780円+税
    2014年11月

ルーツを求めて

  • アマルティア・セン
    『アマルティア・セン講義 経済学と倫理学』

    評者:末永太(国際労働財団調査・広報グループリーダー)

     本書はノーベル賞経済学者であるアマルティア・セン氏が、1986年4月にカリフォルニア大学バークレー校で行ったロイヤー講義の内容である。
     経済学には二つの流れがある。一つはA.スミスの系統を引く倫理学と結びついた伝統、もう一つは「工学的な」、つまり数理上での因果関係の証明というかたちで、問題処理に専念する伝統である。この二つの流れのうち、もっぱら工学的アプローチのみが近年、排他的に発展してきた。本書は、倫理学から離れることによって貧困化した経済学に対し、数理的定式化による制約から脱し、資本主義の初期のA.スミスの時代のように、経済学が倫理学と密接に結びついていた思考方法を取り戻すことが、経済学にとっても、また、倫理学にとっても、必要なことだとする著者の信念を理論的にコンパクトにまとめたものである。

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    筑摩書房
    1,000円+税
    2016年12月

議論を深める

  • 小池和男
    『「非正規労働」を考える 戦後労働史の視角から』

    評者:金井郁(埼玉大学経済学部准教授)

     本書は、低賃金・使い捨てとの対象という通常の見解とは異なり、非正規労働者が存在する根拠として、その経済合理性を3つの観点から検討し、非正規労働をめぐる議論を再検討することを試みている。非正規労働の経済合理性とは、➀よい人材、またその素材を見極める人材選別機能、②誰が解雇されるか前もって決める手段としての雇用調整機能、③不熟練労働、技能向上の見込みの乏しい仕事を担当するという意味での低技能分野のにない手機能であり、正社員と同じ技能を前提とすれば、通常の非正規雇用をめぐる議論で強調される低コスト機能は否定されることを著者は主張する。多くの疑問点は残るが、労働組合が非正規問題に取り組むうえで考慮すべき重要な論点を提示しているといえる。

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    名古屋大学出版会
    3,200円+税
    2016年5月
  • 井上智洋
    『人工知能と経済の未来 -2030年雇用大崩壊』

    評者:鈴木祥司(生保労連 労働局・政策局局長)

     人工知能(AI)が新聞やネットで取り上げられない日は今やない。とりわけ、シンギュラリティ(AIが人間の知性を超えること)は起きるのか、それはいつかといった予測が耳目を集めている。想定されている年がそう遠くない将来だけに、私たちは焦りを感じつつも、今一つ現実感をもてないまま、漠然とした不安の中をさまよっている。
     本書は、AI技術が今どんな水準にあり、今後どの程度発達するのか、経済や雇用にどんな影響を与えるのか、今後どんな対策が必要なのかを考察することで、漠然とした不安に一つの輪郭を与えようとしている。しかし、そこで描かれているのは、根拠薄弱の悲観的な未来であり、私たちの不安を逆に煽るものとなってしまっている。刺激的で興味深い内容ではあるが、まだ見ぬ未来の話だけに、もっと謙虚で冷静な議論を望むのは評者だけではないだろう。

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    文藝春秋
    800円+税
    2016年7月
  • 井手英策・古市将人・宮崎雅人
    『分断社会を終わらせる――「だれもが受益者」という財政戦略』

    評者:畠中亨(帝京平成大学 地域医療学部助教)

     日本に住んでいて、日本の社会福祉政策を高く評価する人は少ないだろう。むしろ待機児童問題や、介護労働者の低賃金、人口減少地域の医療従事者の不足など、否が応でも意識させられる問題が山積している。「北欧のように高負担でもいいから、福祉を充実させたらいいのに」とは、大学で社会福祉を教える評者が良く耳にする声である。社会福祉が身近となり、ほとんどの人たちが、福祉サービス抜きでは生活が成り立たなくなっている現代社会において、こうした意見は決して少数派ではないだろう。だが、日本がそのような社会に向かう気配は一向に見えず、まるで袋小路にはまったように社会問題の悪化を、ただ見守るだけの状態が続いている。
     本書は、日本がそうした袋小路に嵌まってしまった理由を、明快に説明している。問題の本質は、社会が分断化されてしまっていることにある。そのうえで、本書は日本が目指すべき道筋を示している。

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    筑摩書房
    1,600円+税
    2016年1月

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