本と資料の紹介コーナー

このコーナーでは、労働運動、労働組合の分野で皆さんに読んでいただきたい本と文献を取り上げます。重要と思われる文献については、労働一般、経済社会問題まで広げて紹介していくとともに、連合周辺の刊行物も収録します。
文献の選定には教育文化協会の書評委員会があたっていますが、紹介内容は連合または教育文化協会の主張を必ずしも反映せず、高木郁朗 日本女子大学名誉教授の責任監修で行われています。

2018年9月の紹介本

おすすめ本

  • 小池和男
    『企業統治改革の陥穽 -労組を活かす経営-』

    評者:鈴木祥司(生保労連 総合局長)

     日本社会における労働組合の評価は低い。経営に対する姿勢は弱腰で経営の言いなりだとか、そもそも企業別組合だから飾り物に過ぎないとか、概してネガティブなイメージが定着している。著者は本書で、こうした通念に疑問を投げかける。労働組合は総じて企業経営にもしっかり発言してきたし、一企業にとどまらず日本経済の競争力にも少なからず貢献してきたのではないか。米国を真似て社外取締役に期待するより、企業内での長期の経験やそれにもとづく知見をもつ従業員代表の発言を活かすことこそ、真の企業統治改革といえるのではないか。これらを立証する調査データや事例は乏しいが、著者は限られた資料を丹念に読み取っていく。
     そこから私たちは、会社を良くするために発言し、仲間の雇用を守ろうとしてきた労働組合や従業員の切実な願いと行動があったことを知ることができる。それらを歴史の中に埋もれさせまいとする著者の思いが伝わってくる。

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    小池和男著『企業統治改革の陥穽 -労組を活かす経営-』
    日本経済新聞出版社
    2,800円+税
    2018年1月23日

ルーツを求めて

  • 三島由紀夫
    『絹と明察』
    朝倉克己
    『近江絹糸「人権争議」はなぜ起きたか』、『近江絹糸「人権争議」の真実』

    評者:西野ゆかり(連合広報局長)

     1954年に勃発した戦後日本の労働運動史上特筆される近江絹糸の人権争議。労働界に身を置く人なら誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。私が近江絹糸のことを初めて“目の当たり”にしたのは、今から凡そ十数年前、岡山の友愛の丘にある友愛記念館を訪ねたときであった。もちろんそれまでに書物や先輩の口からその名や概要に触れたことはあったが、資料館に置かれた生々しく痛々しい写真や、「立ち上がる、女子労働者」の映像をつきつけられ、本当にこんなことがわが国であったのか・・・と愕然としたのを今でも思い出す。
     今回は、この争議について、1964年にこの作品が発表された前年に三島由紀夫が現地を取材して書いた小説「絹と明察」と、主要な登場人物である「大槻青年」のモデルで、実際に争議の渦中で闘った朝倉克己氏が2012年および2014年に出版した書籍をセットでご紹介する。前者は「使うてる者をわが子と思い、むこうもわしを親と思うてくれとる」と平然と語る社長の姿に焦点があてられ、一方後者は争議を闘い抜いた労働者本人が筆をとっている。全く違う角度から書かれており、ぜひセットで読んでいただきたい。
     それにしてもなぜ今、この60年以上も前におきた近江絹糸の人権争議を読んで欲しいのか。それは、残念なことに今のこの日本で未だに起きていることだからだ。外国人の技能実習制度の現場では、国際貢献とは名ばかりで人権侵害や賃金未払いなどのさまざまな問題が起きている。近江絹糸人権争議は決して昔の話ではないのだ。

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    三島由紀夫『絹と明察』
    新潮社
    680円+税
    1987年9月30日
    朝倉克己『近江絹糸「人権争議」はなぜ起きたか』
    サンライズ出版
    1,600円+税
    2012年8月28日
    朝倉克己『近江絹糸「人権争議」の真実』
    サンライズ出版
    1,600円+税
    2014年9月6日
  • 岩井克人
    『貨幣論』

    評者:山根正幸(連合経済政策局局長)

     「貨幣とは何か」。この問いに対する筆者の答えは実にシンプルなものである。「貨幣は、貨幣として使われるものである」。金の代わりが貨幣なのではない。兌換紙幣であれ不換紙幣であれ、あるいは電子化されているかを問わず、誰もがそれを別の商品と交換できると思って流通させている限り、貨幣としての価値と機能は保たれる。
     筆者は、マルクスが「資本論」で行った貨幣に関する議論を批判的に考察しながら、貨幣の本質に迫っていく。そのうえで筆者は、資本主義にとっての本質的な危機は、生産過剰による「恐慌」ではなく、すべての人々が貨幣から遁走し、貨幣が貨幣でなくなる「ハイパー・インフレーション」であるとする。いろいろな論議はありうるが、本書はいまや貨幣についての古典としての意義をもつと同時に、現段階の経済政策や金融政策を考えるうえでも示唆深いものがある。

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    岩井克人『貨幣論』
    ちくま学芸文庫
    840円+税
    1998年3月10日

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