第22回 私の提言

 第22回「私の提言」は、2025年7月22日に募集を締め切り、計57編のご応募をいただきました。貴重なご提言ありがとうございました。
 運営委員会にて審査の結果、入賞提言を下記のとおり決定しましたので、発表いたします。

目次

優秀賞

  • 不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会~SNS を活用した「労働組合を知る機会」の創出~

    大山佳祐(國學院大學 経済学部3年)
    吉村透真(國學院大學 経済学部3年)
    大崎康平(國學院大學 経済学部3年)

    はじめに

    現代の日本では、「不満があっても言えない」労働環境が常態化しつつある。総務省「労働力調査」によるとi 、2024 年の平均就業者数は 6,781 万人に達している。これに対し、日本労働組合総連合会の「イメージ調査 2025 年」ではii 66.2%が「仕事や職場に対する不満がある」と回答している。単純計算すると約 4,400 万~4,500 万人が何らかの不満を抱えており、日本の就業者の約 3 分の2近くが現状の職場環境に課題を感じている実態が浮き彫りになった。特に非正規雇用者は、雇用形態の不安定さゆえに、声を上げることを躊躇することが多い。実際、私たちの友人の中にも、単発アルバイトに応募したものの、求人の記載内容と実際の仕事内容が異なっていたという経験を持つ人がいる。改善を求めたり指摘したりすることができないまま働く状況は大きな社会的課題である。
     こうした構造的な問題を解決し、誰もが安心して声を上げられる社会を築くためには、労働者と制度の間に新たな接点を設けることが不可欠である。本論文の目的は、「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会」の実現を目指し、労働組合が情報発信の仕組みを整備することによって、社会に新たなつながりを生み出し、課題改善につながる環境を構築することである。

    1.若年層の労働環境と組合参加率の低下に関する分析

     昨今の日本では、いわゆるブラック企業やブラックバイトに象徴されるような労働環境が社会問題となっている。Job総研は『2023年働く環境の実態調査』でiii 、これまでのキャリアにおいてブラック企業だと感じた企業に勤めた経験があるかを尋ねたところ、回答者の 52.8%が「経験あり」と回答した。また、経験ありと答えた360人に対し、ブラックだと感じた具体的な内容を尋ねたところ、「長時間勤務」が68.9%で最多となり、次いで「ハラスメントがある」48.3%、「根性論が飛び交っている」43.3%が続いた。さらに、ブラック企業での勤務経験がある360人に対し、その事象を理由に転職した経験の有無を尋ねた結果、「経験あり」が47.8%、「経験なし」が52.2%であり、およそ半数の人が何の行動も起こしていないことが分かった。
     加えて、日本労働組合総連合会(連合)の『連合および労働組合のイメージ調査 2025』iv によると、就業経験のある1,811人に対して、仕事や職場に対する不満の有無を尋ねたところ、不満がある(またはあった)人の割合は 65.1%に上った。不満を解決するためにどのような行動を取ったかという質問に対しては、「何もしていない」が57.7%と最多であり、「労働組合に相談した」が4.2%と最も少なかった。行動を起こさなかった理由としては、「不満の解消は諦めている」が39.1%で最も多く、「解消する手段を知らない」20.0%、「労働に関する知識がない」13.9%と続いており、知識不足や諦めの感情が行動を阻む要因になっていることが明らかである。
     以上の調査結果から、労働環境に対する不満を抱えているにもかかわらず、具体的な行動に移せない労働者が相当数存在している実態が浮き彫りになった。
     厚生労働省『令和 6 年労働組合基礎調査の概況』によるとv 、労働組合の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員の割合)は16.1%であり、過去最低を記録している。特に 15〜29歳の若年層における組織率は5.8%にとどまり、10 年前と比べ2.4 ポイント減少している。また、日本労働組合総連合会(連合)の『連合および労働組合のイメージ調査 2025』ではvi 、全体の26.3%、20 代に限ると 40.1%が「自分が組合員かどうか分からない」と回答している。
     これらの結果から、現代の若年層労働者は「参加しない ⇄ 見えない」のスパイラルに陥っていると考えられる。具体的に以下の 3 点がその構造を形成している。第一に、組織率が過去最低水準にあること。第二に、職場に不満があっても、労働組合を活用する若年層がわずか 3%にとどまり、そもそも 15歳から 29歳の加入率も極めて低いこと。第三に、20 代の約 4 割が自身の加入状況すら把握していないことである。
     これら三つの要因が、「低組織率 → 交渉力の低下 → 組合の見えにくさ(低可視性) → さらなる組織率の低下」という悪循環を生み出している。さらに、次節で述べる「教育機会の不足」「影響力の希薄化」といった要因と相まって、若年層の労働組合離れを加速させていると考えられる。
     実際、立教大学経済学部の首藤若菜教授は「組合員の数は交渉力の源泉であり、労働組合の基盤そのものである。組織率が低下すれば組合機能が弱まり、さらなる組織率の低下につながるという負のスパイラルに陥る。世界的に見ても、組織率が低下した国では賃上げ率が下がり、労働条件格差が拡大し、政治的影響力も弱まっている」と指摘しているvii 。

    2.日本とアイスランドの比較から見えた解決策

     労働組合組織率が長期低落を続ける最も大きな要因は「教育機会の欠如(知る機会の欠如)」である。日本には大学が803校あるが、連合(日本労働組合総連合会)が正規科目として寄付講座を開設しているのは全国でおよそ20校にすぎずviii、大学生の大半は労働組合を学ぶ機会を持たない。高校段階でも事情は似ている。法務省の調査ix によれば、憲法・労働法などを含む法教育授業を実施した高校は24.7%にとどまり、労働法単独で授業が行われるケースはほとんどない。
     知識不足は労働組合のイメージを硬直化させる。連合のイメージ調査xでは、「伝統的」、「保守的」といった“古さ”を想起させる形容が上位を占めた。若年層の視点ではさらに厳しい。労働組合向けアプリ「TUNAG for UNION」を運営する佐々木隆寛氏によるとxi 、多くの若者は組合を「古臭い」、「閉鎖的」、「政治活動に偏っている」と捉えているという。JILPT『ビジネス・レーバー・トレンド』(2022年12月号)もxii 、若手社員の間で「組合は身近でない・古い」とする回答が増え、役員のなり手不足が深刻化していると報告する。こうしたイメージと情報空白は「加入しているか分からない」状態を生みxiii 、厚生労働省『労働組合基礎調査』(2024年)では15〜29歳の推定組織率が一桁台(約5.8%)に沈んでいるxiv 。
     対照的に、教育を通じて交渉リテラシーを育む仕組みを確立したのがアイスランドであるOECD統計によれば、同国の組合組織率は92.2%(2020年)と世界最高水準を維持し、最も低い 16〜24歳でも 72%が組合員であるxv。その根底にあるのは、非組合員にも標準的な労働条件が波及する「産業別協約の自動延長」であり、組合加入のメリットが可視化される。
     教育制度も交渉体験を前提に設計される。上級中等教育法(Upper Secondary Education Act No.92/2008)は、各校に校長・教職員・生徒代表で構成するスクール・カウンシルの設置を義務づけ、生徒が学校運営に公式に参加できるようにしているxvi 。国家カリキュラム・ガイド(2011年改訂)は「すべての上級中等学校に生徒会を置き、福祉と権益を扱う」と明記しxvii、生徒会がカウンシルに代表を送ることができるようになっている。さらに、高等教育段階では、2013年設立の全国学生組織LÍS が8 大学・約2万人を代表し、政府や大学との正式な交渉権を有するxviii 。
     こうして生徒・学生は、高校から大学に至るまで一貫して「代表を選び、交渉し、成果を共有する」プロセスを経験する。日本は「教育不足 → 交渉力縮小 → 成果希薄 → 加入意欲減退 → 組織率低下」という負のスパイラルに陥っている。他方で、アイスランドは「教育 → 交渉経験 → 協約成果の波及 → 加入が社会慣行化 → 高組織率」という好循環を維持している。両国の差を生み出す決定的な分岐点は、若年期に交渉リテラシーを涵養できるか否かである。すなわち教育機会の有無である。労働組合の再活性化を図るならば、日本は高校・大学で交渉の経験と労働法を正課に位置づけ、「学びから始まる組合文化」を制度的に育てる必要があると考えた。
     しかし、労働組合を高校・大学の正課に組み込むことは理念としては望ましいが、現実には 5 つの壁が立ちはだかる。
     第一に「授業時数の飽和」である。現行学習指導要領は公民科全体で年間70時間前後しか割り当てず、そこに政治・経済・主権者教育などの必修テーマが競合するため、学校現場からは「追加単元を確保する余裕がない」との声が多いxix 。法務省の全国調査xx でも、法教育を実施しない理由の最多回答が「時間が取れない」(63.4%)であった。
     第二に「教員リソースの不足」がある。労働法や団体交渉を専門的に教えられる教員は極めて少なく、厚生労働省の報告書も「教える側の専門知識と教材が決定的に不足している」と指摘するxxi 。外部講師を招く方法はあるものの、日程調整・旅費負担・授業設計などの調整コストが高く、継続的な実施は困難である。
     第三に「政治的中立性の確保」という制度制約がある。学校教育の政治的中立を定める臨時措置法と学習指導要領解説は、特定の団体への勧誘と受け取られかねない授業を慎重に扱うよう求めており、教員は労使問題を取り上げること自体に萎縮しやすい。
     第四に「カリキュラム改訂の長期性」がある。指導要領の全面改訂はおおむね 10 年周期であり、労働組合単元の新設には中央教育審議会での審議、政令改正、教科書検定、教員研修の全段階を経る必要があるxxii 。したがって、制度改編は最短でも数年単位のタイムラグを伴う。
     第五に「若年層の情報接触行動の変化」である。Z 世代の SNS 利用率は YouTube86%、Instagram74%、X(旧 Twitter)71%、TikTok55%と、教科書よりもタイムラインに学習資源を求める傾向が顕著であるxxiii 。教室に載せる前に、まず彼らの情報動線上に労働組合の基礎知識を提示しなければ接触機会そのものが生まれない。
     以上を踏まえれば、アイスランドでは「教育→労働組合加入」という導線が社会においてテンプレート化されている。しかし日本では様々な要因から「教育→労働組合加入」という導線の実現は、現時点では難しい。そのため私たちは新しい、労働組合加入の導線として、「SNS→労働組合加入」を提言したい。このサイクルが実現されることで、今まで声をあげることができなかった人々が「声をあげることができる社会」の創出につながるのではないのだろうか。

    3.提言の前に ~なぜ若者を対象とするのか~

     私たちの提言は若者を対象としたものである。将来の労働組合員を増やすためには、若年層の組合員数を増やすことが不可欠だと考えるからであり、理由は大きく四つある。
     第一に、組織の「持続可能性」を確保することである。労働組合の組織率は過去最低を更新しており、組合員の年齢構成も高齢化が進んでいる。すでに退職期にあたる層がボリュームゾーンとなっており、OECDの調査ではxxiv 、日本の労働力人口が2100年までに半減する可能性があると示唆されている。若年層を取り込まなければ、組合は縮小均衡を避けられない。
     第二に、非正規就労の拡大に対応するためである。フリーランス協会の2024年調査ではxxv、20代のフードデリバリー配達員の55.1%が複数のプラットフォームで就労していると報告されており、若年層ほどギグワーク比率が高い傾向にある。既存の企業別組合はこうした働き方を把握・支援しづらく、若年層の無組織化が進んでいる。若者を取り込むことで、より広範な労働者を包括することが可能となる。
     第三に、リーダーシップの継承とデジタルイノベーションの促進である。組合員の若年層が薄いため全体として組合員の高齢化が進行している。高齢の執行部では、 SNS による情報発信や AI・プラットフォームといった新産業への対応が難しく、「組合は古い」というイメージが固定化される恐れがある。デジタルネイティブ世代を取り込むことで、柔軟かつ機動的な広報・政策対応が可能となり、組合の存在意義を社会に再提示できると考える。
     第四に、負のスパイラルを反転させるには若者が唯一の起点となり得るためである。前章で述べたように、「低組織率 → 交渉力低下 → 組合の存在感希薄化 → さらなる低組織率」という循環を断ち切るには、若年層において可視的メリットを提供することが鍵となる。若者は労働市場での滞在期間が長く、成功体験が口コミとして広がれば、長期的な加入と波及的な拡大が期待できる。つまり、若年層の組織率向上は、負のスパイラルを断ち切る唯一の手段であり、持続可能な労働組合運営の実現には不可欠である。そのため、若者の SNS 事情という観点から、提言の実効性を見ていく。

    4.若者の SNS事情

     労働組合の組織率の低下、そしてそれに伴い「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられない社会」になっている要因の一つとして、「労働組合を知る機会の少なさ」が考えられる。就労経験が浅く、学校教育でも労働教育がおろそかになっている現代を生きる若者にとっては、労働組合はそもそも「知るきっかけすらないもの」となっている。そのため、若者世代に労働組合を認知してもらうには、「知る機会」の創出が必要である。SNSを用いた施策を提言するにあたり、まず若年層のメディア接触傾向を確認したい。
     総務省「令和5年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」ではxxvi 、平日の平均インターネット利用時間は10代で257.8 分、20代で275.8分であり、テレビ視聴時間(それぞれ39.2 分、53.9 分)の5倍以上に相当する。新聞の閲読・ラジオの聴取時間はほとんど皆無であり、若者の主たる情報源はインターネットに移行している。さらに、休日のインターネット利用時間は10 代が342.2 分、20 代が309.4 分と、平日よりもさらに長時間に及ぶ。中でも、動画投稿・共有サービス(例:YouTube、TikTok 等)に費やす時間は、平日でも10代で112.1 分、20代で101.4分、休日にはそれぞれ174 分、134.9分と全体の中でも際立って長い。このことから、若者の情報収集の中心に動画視聴があると考えられる。

    表1 年代別SNS利用実態:10代・20代における主要SNSサービスの利用状況

    出典総務省「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」xxvii

     これらの数値から明らかなように、若年層にとって SNS は最もアクセス頻度の高い生活インフラの一部になっている。したがって、労働組合が若年層に認知されるためにはこうした SNS を活用した情報発信の強化が、必要不可欠な戦略であると考えられる。

    5.提言 「SNS を活用した労働組合を知る機会の創出」

     本稿では、「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会」の実現を目指し、労働組合が果たすべき新たな役割として、SNS(ショート動画等)を通じた情報発信を推奨する。 いま一度確認すると、現在の日本では、高校や大学において体系的かつ実践的な労働教育がほとんど行われておらず、特に非正規雇用や短期雇用といった不安定な働き方をする層にとっては、「知る機会すらない」ことが常態化している。この「教育の空白」は単なる情報不足を引き起こすだけにとどまらず、「自分の労働環境が法的に不当である可能性」や「不満を抱えたときに相談する場」など、働くうえで最低限守られるべき基盤の欠如に、気づくことすらできない土壌を形成している。その結果、「労働組合に頼らない」という選択や、労働組合を「古臭いもの」、「頼りにくく自分とは関係のないもの」、「正社員のもの」とみなす若者がほとんどである。その具体的な役割や活動内容の理解が広まっておらず、「何をしているのかわからない組織」という認識が若年層の間で根強く残っている。
     こうした状況を打開する一歩として、労働組合が若者の主要な情報収集手段である SNS(Instagram Reels、TikTok、YouTube Shorts、X 等)を活用し、情報に自然に出会える環境を作ることが有効であると考える。前章でも述べたように、多くの若者が SNS を主な情報源としており、ニュースや学習・就職活動ですらも SNS 経由で情報を得ているという実態が明らかになっている。
     配信する動画の内容としては、以下の 2 種類を想定している。一つ目は視聴者の実体験に訴えるものであり、二つ目は労働組合の活動紹介である。
     一つ目の動画は例えば、「同じ仕事をしているのに賃金が異なる」「パワーハラスメント」「休憩時間を取らせてもらえない」など、仕事に対して不満を感じている人々に対して、「自分のいる状況は違法なのでは?」という、視聴者が自身の経験と重ね合わせやすいものにする。SNS のアルゴリズムは、視聴履歴や関心に基づき、利用者に最適化された動画を自動的に提示する設計となっている。そのため、少しでも労働環境に疑念を持つ人々が検索し視聴すると、それ以降は必要な動画を届けることができるようになる。つまり、従来のような「受ける教育」ではなく、「自然に情報に出会う」設計になるため、現代の動画視聴を情報源とする若者の行動様式に非常にマッチしている。
     二つ目の動画は、労働組合の組織活動をショート動画で発信するものである。伝統的、堅実、保守的、そういったイメージを持つ労働組合が動画配信をすること自体が、若者が持つ「労働組合=古臭い」といった固定観念の払拭にもつながるであろう。現場での成功事例や相談・対応を簡潔に紹介することで、若者が組織の役割を視覚的に理解し、親近感を持つことが可能となり、組合の透明化にもつながることも考えられる。

    おわりに

     SNS の活用には、発信するための戦略やノウハウと人材リソースの確保といった課題が伴う。また、継続的に運用するための体制整備も必要不可欠である。しかしながら、これらを上回る意義として、労働組合組織率の回復と若年層との接点拡大への寄与という点で、取り組みの価値は大きい。
     私たちが目指すのは、「知るきっかけ」がないまま取り残されてきた若年層や非正規雇用者など、不安定な雇用の下で働く人々に対し、労働組合という存在を届けることである。すなわち、「すべての働く人たちのために」という理念の実現に向けた一歩であり、連合が掲げる「働くことを軸とする安心社会―まもる・つなぐ・創り出す―」の構築にも貢献するものである。
     加えて、重要なのは労働組合加入につながる導線の確保である。たとえば、LINE などのメッセージアプリを活用した相談・加入システムの構築は、現代の若者の行動様式に即した施策といえるだろう。労働組合が時代の変化に適応し、その在り方を柔軟に変え、「待つ存在」から「出会いに行く存在」へと変わることが求められている。
     SNS で、「知る」、LINE で「相談する」、そして必要に応じて「加入する」という一連の流れを整えることで、従来は取りこぼされていた労働者が「声をあげられる社会」につながるだろう。


    参考文献

佳作賞

  • 「人材の流動化」による労働市場や職場への影響~ 今後の企業・労働組合に求められるもの ~

    廣田 一貴(電力総連 労働政策局次長)

    はじめに

     最近、転職を中心とした「人材の流動化」についての情報をよく目にする。企業側からすると、「既卒・経験者」を採用することで、その企業の戦略や必要なスキルを持った人材を即充することが可能となる。採用される側からしても、技術・技能・スキルを活かして活躍することが望めるため、自身のステップアップにもつながる。このような「人材の流動化」は今後増加し、転職することが前提の雇用形態が広がっていくのではないだろうか。近年の若年層は「転職」をキャリアアップと捉え、個人の価値を高めていく。転職する人の増加は、「人材の流動化」が活発になることであり、成長産業を中心として日本経済の活性化につながっていく。一方で、「人材の流動化」が前提の労働市場が拡がっていくことは、企業にとって、これまでとは違った戦略や人材育成を採っていくことになる。  労働組合にも「人材の流動化」に対して、これまでの活動や取り組みとは違った対応が求められるのではないだろうか。様々な課題を持つ労働組合において、将来へ向けた活動を着実に進めていくためには、「人材の流動化」にどう対処していかなければならないかを検討し、対応していく必要がある。
     本稿において、「人材の流動化」の現状や背景、今後の課題を整理し、労働組合に求められることや取り組んでいくことを検討し、提言する。

    1.日本における雇用制度と働く者の意識の変化

     日本では長年、「終身雇用制度」を中心としたメンバーシップ型雇用が主流であった。これは企業が新卒社員を一括採用し、定年まで育成・雇用するスタイルで、職務ではなく「人」に焦点を当てた雇用管理である。この制度は法律ではなく慣行として浸透しており、特に大企業を中心に採用されてきた。
     終身雇用制度の起源は大正末期から昭和初期にかけての長期雇用慣行にあり、第一次世界大戦後の経済発展を背景に企業が熟練工の流出を防ぐため、定期昇給制度や退職金制度を導入したことに始まる。戦後は高度経済成長に伴い、労働人口不足や労働組合の台頭も相まって、企業内での人材育成が強化され、制度が定着していった。
     しかし、近年この制度は支持を失いつつある。企業において、人件費の増加や柔軟な人材調整の困難さ、また社員にとっては仕事への甘えによる生産性低下などの課題が表面化している。加えて、AIやDXの進展、グローバル競争の激化により、即戦力となる専門人材の確保が求められている。こうした背景から、「ジョブ型雇用制度」への移行が進んでいる。
     ジョブ型雇用は職務内容を明確に定めた上で人材を採用する制度で、主に欧米で導入されてきた。企業は職務ごとに人材調整が可能となり、必要なスキルを持つ人材を即時に投入できるメリットがある。反面、雇用の安定性には課題があるが、専門性の高い職務に絞って働くことで、社員は成果へのプレッシャーが緩和される側面もある。
     図表1の意識調査によれば、ジョブ型雇用への肯定的な意見がメンバーシップ型を上回っており、図表2の若手の就労意識の変化では、「定年まで働く」という回答は相対的に多くない。それよりも、「次の就職先が見つかるまで」「ライフイベントにあわせて」など、個人の生き方・働き方を強く意識して仕事をしていることが伺える。
     雇用制度の変化は、企業側にとっても組合側にとっても非常に大きい課題と考える。特に、大企業を中心として終身雇用が成り立っている企業においては、中長期で考える必要がある人事管理や人材マネジメントに影響が出てくる。組織は「人」である。将来組織を背負っていく若手の意識、さらには動向を十分に把握し、対策をしておかなければならず、組合側にも同様の対策が求められる。

    図表1 ジョブ型雇用に関する意識調査

    (出典)転職サービスdoda「ジョブ型雇用に関する意識調査(2024.3)」

    図表2 若手の就労意識の変化

    (出典)一般社団法人日本経営協会「若手社会人就労意識ギャップ調査報告書2024」

     将来的には、ジョブ型雇用が広く浸透する可能性があるが、全ての人材が高い専門性を持つわけではない。企業は職種や戦略に応じて、メンバーシップ型による長期育成とジョブ型による即戦力採用を併用することで、柔軟な人材配置が可能となる。加えて、外国人人材の受け入れもジョブ型雇用が中心で進められており、多様な人材の活用が進むと考える。

     企業は両制度の特性を活かし、人材を適材適所に配置しながら成長を支える必要がある。各企業には、社員を大切にして社員自身の仕事に対するやる気や能力を引き出し、貴重な戦力として育てていくための「人への投資」を惜しみなく行っていく責任と義務がある。労働組合としても、この責任と義務を企業が着実に取り組むよう、注視しておく必要があり、組合員の安定した生活と安心して業務に取り組めるよう、雇用制度や労働条件の構築に積極的に関わっていかなくてはならない。

    2.「人材の流動化」の現状と今後の展望

    (1)問題意識と背景

     筆者が「人材の流動化」に注目したきっかけは、職場での離職者の増加傾向や組合員の退職希望の声、さらには退職代行サービスの活用といった、自組織で従来にはなかった現象が出てきたことにある。若手を中心に短期間で離職する傾向や、新卒者が転職前提で入社する現状を踏まえ、労働市場の変化と労働組合活動への影響を考察する必要があると認識した。

    (2)転職の実態と意識

     厚生労働省と総務省の統計データに基づく分析(図表3~5)によると、ここ数年での離職率や転職者数自体は横ばい傾向にある。一方、正規雇用者における「転職等希望者」の割合は2020年頃から増加傾向にある。このことから、実際の離職率は上昇していなくても、潜在的な転職志向が広まりつつあると言える。

    図表3 学歴別就職後3年以内離職率の推移(高校卒・大学卒)

    (出典)厚生労働省「新規学卒者の離職状況」

    図表4 転職者、転職等希望者の推移

    (出典)総務省統計局「直近の転職者及び転職等希望者の動向について」

    図表5 転職者比率、転職等希望者の就業者に占める割合(左:正規、右非正規)

    (出典)総務省統計局「直近の転職者及び転職等希望者の動向について」

    (3)企業の採用方針の変化と中途採用の活発化

     政府が策定した「働き方改革実行計画」により、転職者受け入れの促進が企業に要請され、アルムナイ採用やリファラル採用など、多様な採用制度によって、企業は柔軟な手法で人材確保に努めている。
     図表6で示す2023年度の中途採用実績調査では、1社あたりの採用人数が前年度比10.1%増加しており、特に5000人以上の大企業では44.7%の増加を示す。この傾向から、中小企業のみならず、大企業においても将来的に中途採用市場は拡大すると予想される。

    図表6 2023年度通期の中途採用実績(対前年度増減率)

    (出典)リクルートワークス研究所「中途採用実績調査(2023年度実績)」

     また、図表7の企業間の労働移動に関する統計では、中小企業から大企業への転職が増加している一方で、大企業から中小企業への転職は低いことが読み取れる。人材確保・定着を目的として、大企業の人材獲得戦略の展開と、雇われる側の「今の会社よりも条件の良い企業へ」という意識が表れているものと推察する。

    図表7 企業規模間の労働移動

    (出典)厚生労働省「令和6年度 労働経済の分析-人手不足への対応-」

    (4)アンケート調査から見える転職者の意識

     実際の転職者の意識を調査することを目的に、筆者が所属する構成組織において、以前「99人以下」の中小企業に勤めていた中途入職者(13名)に意識調査を実施すると、以下のような傾向・意見があった。

    • 退職理由は「労働時間・休暇」「賃金条件」が主な要因。
    • 前職の職場環境は良好だったが、「労働条件」への不満が転職の決め手。
    • 現職の選択理由は「専門性の活用」「キャリアアップ」「労働条件の良さ」など。
    • 現在の職場に満足しており、多くの回答者が定年までの在籍を希望。
    • 現職の企業規模は前職よりも大きく、より安定的な職場への移行傾向がある。

     この内容から、「労働条件」が転職の大きな要因の一つであり、企業が良好な条件を整えることが人材の確保・定着につながると言える。より良い労働条件の構築にあたっては、労働組合の存在意義は非常に大きく、過去から積み上げてきた組織力・交渉力を発揮して、人材の確保・定着に向けて果たす役割は、これまで以上に重要になってくることは間違いない。

    (5)今後の労働市場における課題と展望

     少子高齢化の進行により、労働力人口の減少は避けられず、中途採用による即戦力の獲得は企業にとって不可欠となる。先ほど述べたように、大企業でもその傾向が強まってくることで、企業体力で劣る中小企業の人材確保はますます厳しくなる。
     実際に最低賃金の上昇に伴い、賃金支払いに不安を持つ中小企業もあると聞く。さらに、労働力人口の都心部への移動によって地方での働き手は減少傾向にあり、この現象が地方経済の担い手としての中小企業の存続にも関わってくる。多くの中小企業が存在する地方にとって、地域の経済・雇用に深刻な影響を与えかねない。
     現時点では人材の流動化が想定ほど拡大していないものの、転職希望者や中途採用の増加、企業の人材争奪の激化により、今後の労働市場はより流動的になることが予想される。労働組合としては積極的に労使協議を進め、人材確保と定着のための戦略的な取り組みを、労働組合からもアプローチしていくが必要である。

    3.人材が流動化する状況で労働組合が取り組んでいくこと

     これまで論じてきた内容を踏まえると、今後も一定数の人材が流動する労働市場が継続、または増加すると考える。この状況を労働組合がどう捉え、どのように対応していくかが課題である。本節では、入職者・離職者に対して行っていくべき今後の取り組みを、一部では電力総連での取り組みを交えながら、検討し提言する。

    (1)入職者への対応

     中途採用の人材が職場へ増えてくることによる影響を考察する。中途採用が頻繁に行われている中小企業において、田中(2021)は「中小企業における中途採用者への組織適応施策としての上司からのサポートが組織理解を促し,組織への愛着を高めることが明らかになった。また,組織理解において,とりわけ組織方針への理解と仕事内容・ 役割への理解が高まることで中途採用者たちの働きがいが高まることも明らかになった。そして,組織方針への理解と働きがいが高まると,組織への定着意思も高まることも明らかになった。」と整理している。「組織方針への理解と働きがいの高まり」「組織への定着意思の高まり」が実現すれば、中途採用者の企業へ果たす貢献度合いは格段に上がり、企業業績への好影響が期待できる。
     筆者自身、上記の「組織適応施策としての上司からのサポート」を、労働組合としても入職してきた社員(組合員)へ積極的に行っていくべきと考える。労働組合の組織率が17%をきっている状況において、転職してきた社員の前の職場に労働組合があったということは基本考えない方が良い。(前項のアンケート調査でもそうであった。)
     そのような中で、入職者に労働組合を「身近な存在」と認識してもらい、共に活動していく仲間となってもらうために、様々な活動からのアプローチが求められる。

    ①組織活動からのアプローチ

     強固で団結した活動を進めていくためにも、組織活動は大変重要なものである。しかしながら、これまで労働組合のなかった職場にいた入職者からすれば、そもそも「労働組合とは何か」というところから始まる。各組織の理念や活動方針、意義などに加えて、労働組合がどういった取り組みをして、組合員の生活にどれだけ良い影響があるかをわかりやすく説明するなど、丁寧に対応する必要がある。近年はSNS等でのコミュニケーションツールも盛んに使われるようになってきたことから、昔ながらの「Face to Face」だけにこだわらず、様々なツールを活用しつつ着実に労働運動を進めることにこだわっていかなくてはならない。加えて、働き方改革に伴った組合活動の在り方やジェンダー視点で組織活動を展開していくことも、労働組合として積極的に取り組むべきである。
     また、執行部だけでなく、職場組合員の声や取り組みが、全体の活動へ波及していくことも、活動を進めながら実感してもらうべきではないか。電力総連では「女性委員会」「青年委員会」を組織しており、全国の構成総連から選出されたそれぞれの委員が、定期的に集まり、積極的に活動を行っている。数年前には、女性委員会内で論議・検討した内容を、実際にその後の春闘の要求項目に織り込むなど、着実な成果をあげている。執行部の考えだけではなく、組合員一人一人の参画によって労働組合活動が活発化していくことが、入職者のみならず、将来的に、組織活動のよりよい発展につながってくると考える。

    ②労働条件の向上に向けた取り組みからのアプローチ

     労働条件の向上については、「春季生活闘争」を中心とした取り組みが中心となってくる。前節でも示したが、入職者はより良い労働条件を求めて入ってくる人が多い。そのため、入職希望者に自組織を選んでもらうためには、他の産業に負けない労働条件を整備・獲得すべく、会社側としっかり交渉する必要がある。もっとも、昨今の初任給の大幅な上昇などから分かるように、人材の確保については労働組合よりも会社側が力を入れている現状も見受けられる。筆者としては、賃金・賞与以外の労働条件の充実の実現こそ、労働組合の腕の見せ所と考える。職場の状況、産業課題など、組合員に最も近いところで活動する各組合が、独自の戦略や特徴を持って取り組めることができる。
     会社の人員構成は各社によって異なるものの、20歳前後から60歳までと幅広く年齢も違えば価値観も異なる社員が同じ企業に属している。労働条件を充実させるにあたっては、例えば新しい制度を会社が提案してきたとして、当然組合執行部としては、どの年代のどの組合員へ、どういった影響が出てくるかを精査するが、実際に制度が始まって以降の影響や組合員の評価を細かく分析する必要があると考える。会社が想定している内容とは異なる意見や状況をくみ取ることができるのも、加盟組合・職場支部の大きな役割・機能の一つであり、多様な価値観が拡がってきている今こそ、この強みを活かした活動を展開していくべきである。多くの産業において人材の確保が課題となっている状況を踏まえると、労使で一体となって、人材の確保につなげていくべく、建設的な労使交渉を行っていく必要がある。さらには、人材を定着させるためにも、一旦決めた労働条件についても適宜検討を行い、スピード感を持って、よりよい制度に改めていくことも重要である。

    ③政治・産業政策活動からのアプローチ

     各産別組織は組織内国会議員や政治活動等を通じて、それぞれの産業の発展や課題解決に向けて、政治・産業政策活動に取り組んでいる。電力関連産業においても産業政策課題は原子力政策をはじめとして国の将来のエネルギー政策にも極めて大きく関わってくることから、取り組みの重要性は増すばかりである。この取り組みは、電力総連全体で進めていくべき重要な取り組みであるが、電力総連の加盟組合の中には、業種の特性上、エネルギー政策への関わりが低い組合も存在する。そういった組合の組合員に、電力総連としての産業政策課題をどのように理解し、共に行動に取り組んでもらえるかが、課題であると考えている。国や省庁との接点の多い電力総連が、現状の政策課題や今後取り組んでいくべき対応、また、それぞれの職場へ直結する法令などを、速やかに加盟組合まで連携し、職場へ入職してきた人にも、丁寧な説明を通して理解してもらうことが必要である。
     時代の変化とともに、各産業における課題があらゆる場面で出てきている。足元の物価上昇や日常生活の中での課題、トランプ関税による外交面からくる産業課題など、解決・対応していくべき課題が押し寄せてくる。自身が加入している組合がどういった活動によって、それぞれの産業の発展に寄与しているかなどの理解活動を進めていくことも、入職者への大きなアプローチになると考える。
     また、組織内国会議員の取り組みもしっかりと説明していかなくてはならない。労働組合の活動をしていると、組織内国会議員の重要性や政治が日常生活にどのようにつながってくるかを自然と意識してしまうが、色んな選挙の投票率を見ても、まだ政治に無関心な人は多いと考えざるをえない。入職してきた人全員が政治に無関心とは言えないが、政治と電力産業との関わりに絡めて、組織内国会議員の役割や重要性を理解してもらう取り組みが重要と考える。さらには、各自治体の組織内地方議員についても、より身近な生活に関わっている点なども伝えなければならない。場合によっては、議員本人と座談会のような場で意見交換をしてもよいのではないだろうか。組合員のみならず、自分の家族も生活する地域に根差した活動に取り組む議員が自分たちの職場から出ていることは、組合員にとっても非常に心強いはずである。労働組合活動と政治の役割を関連付けながら理解を求めていくべきである。
    「労働組合の活動だから一緒にやってもらう」という、押しつけのような取り組みはさすがに現状少なくなっていると思うが、結局は労働組合という組織の役割や説明を、丁寧に粘り強く行っていくことが、最終的には入職者に労働組合の活動を理解してもらえる近道であると考えている。実際に、筆者が所属する加盟組合の職場支部の役員(非専従)には、中途採用で入職してきた人がいた。その人は、「以前の職場では労働組合はなかった。今、職場支部の役員として活動しているが、労働組合の存在がこんなに素晴らしいものとは思わなかった。」と発言していた。組合役員をしている筆者としても正直驚いた発言であったが、入社以来、労働組合があることが当たり前の筆者からすると、そういった感覚が薄まってきているのかもしれないと感じた場面であった。また、筆者が所属する構成総連の加盟組合には、中途採用で入職してきた後に委員長となった人も数人いる。どの委員長も素晴らしい活躍をしている。
     人材の流動化によって、労働組合のなかった職場から入職してきた人にも「労働組合の活動は有意義で素晴らしい」と感じてもらうとともに、共に活動する仲間になってもらうためにも、地道な活動を着実に、自身を持って進めていくことが今後も重要であると考える。

    (2)離職者への対応

     本稿にて、将来的に転職をする人が増え、さらなる人材の流動化が現実になる可能性が高いことを示唆した。離職される企業としては、貴重な戦力を失ってしまうことになる。離職された分の人材を確保できればよいが、離職者がどういった理由で離職したかの原因によっては、同じことを繰り返してしまう可能性がある。離職者が多く人材が確保できなければ、企業の存続も危ぶまれ、職場で働く人の雇用・生活が脅かされることになる。
     離職者が増えるということに対し、その原因が企業にあるのか、離職者自身にあるのかなど詳細に分析し、その対策を講じることが重要と考える。組合としてどういう取り組みをすべきか、以下の通り提言する。

    ①職場組合員のニーズ分析

     離職原因が企業にあったとすると、働く環境や職場などに原因が潜んでいる可能性がある。企業側(経営側)では把握しきれない職場の現状や職場の声を拾えるのは労働組合である。この職場の声である「職場組合員のニーズ」を丁寧に分析し会社に対して団体交渉などで解決を求めていく取り組みを強化すべきである。私の所属元の単組では、毎年「職場点検活動」として職場組合員からの声を集約し、解決に向けて取り組んでいる。「職場で解決に取り組むこと」「職場支部で解決に取り組むこと」「労働組合として会社へ団体交渉を申し入れて解決に取り組むこと」などに分類し、会社側と解決に向けて議論を重ねている。ここで注意すべきは、個人の主張が職場全体の意見とすり替わらないよう、冷静に分析し、対応することである。職場環境が離職原因につながっているケースも多いことから、労働組合として積極的に職場課題の改善に向けて取り組むべきである。

    ②労働条件向上

     前段で述べた意識調査の中でも、離職原因に労働条件が満足できないといった声があった。労働条件がどこまで改善すれば離職されない状況になるのかは、非常に難しい。そのような状況の中で労働組合としては、同業他社や同一地域の同規模企業の労働条件などを調査・分析し、会社と交渉を進めることが重要である。交渉の場面で会社側も参考指標として他社の数値を出してくることが推測されるが、「人材の確保」が課題となっている現状において、「同業他社と同等」ではなく、「同業他社より優位」な労働条件を引き出すべく、労働組合として毅然な態度で交渉していかなくてはならない。会社と労働組合の考える労働条件のギャップをどのように埋めて、離職防止につなげていくための労働条件構築を、断続的に取り組んでいくべきである。

    ③地域経済の活性化の視点からの取り組み

     労働組合は自組織の組合員のために活動を進めていくことがメインであるものの、地方組織や全国組織などと連携しながら、地域経済の活性化という視点をもったうえでの活動にも取り組むべきではないだろうか。なぜなら、地域経済の活性化は、雇用の創出につながっていくと考えるからである。
     私の地元である広島県では、人口流出に歯止めがかからない。特に、若い世代が進学や就職で県外に出ていく事例が多い。そういった中、広島県内の企業3社(いずれも大企業)が若者流出の対策を探る企業ネットワークを発足させた。組織の枠を越え、広島を「働く場所」としてより魅力的な県にしていくことを目的として活動を進めている。まだ新しい取り組みなので、今後どのような成果が出てくるか個人的にも大変興味深いが、このような取り組みが、特に地方を中心として広がっていけば良いと考える。
     筆者としては、労働組合としても地域のヨコの連携をはかった、「地域としての」離職対策や雇用維持といった取り組みができればよいと考える。幸いにも、働く者のための地域の組織として、地方連合が存在する。地域経済の活性化や雇用創出、さらに経済が盛り上がることでその地域で働く者の賃金が上がり、将来的には労働条件の向上にもつながっていけば、非常に効果的と考える。一企業の離職防止には効果がないかもしれないが、地域で雇用を支える取り組みを進めることで、「地域における雇用維持」による都心部への労働力の移動を少なくすることができれば、一極集中ではなく、日本全体の経済の底上げにもつながっていくのではないだろうか。

    おわりに

     今回のテーマを選んだきっかけは、自身が所属する会社の離職者が増えているということだった。今は組合役員として活動をしているものの、電力インフラを担う事業者の一員として、特に現場技術者の離職や、人材育成をする前に離職するといった話を聞くたびに、会社の行く末を案じ、焦りの気持ちが生じていた。また、会社の周りの先輩は当たり前のように定年まで勤めあげる人ばかりだったので、「終身雇用が当たり前」という認識であったが、今回のテーマの研究を進めるうちに、「日本の企業のほとんどが終身雇用」とは言えないということ、少子高齢化・人材不足という事実に対して「転職する人が増えてきている」という報道等が実際は異なっているということも、研究を進める中で改めて認識することができた。
     「働き方改革」が進み、仕事をしやすい、家庭やプライベートとの両立がしやすい環境整備が着実に整ってきていると感じている。この労働環境の変化は、社会的な背景も影響しているが、これまでの労働運動を進めてきた諸先輩方が、努力をして勝ち取ってきた賃金や労働条件の上に成り立っており、労働組合が国民生活のために知恵を絞って考え、会社と激しく論議し、勝ち取ってきた成果とも言える。
     人手不足やAI・DX等新技術の発展により、今後、「人材の流動化」や労働環境がどのように変化していくか、なかなか想像し難いが、そのような状況だからこそ、労働組合の存在は間違いなく必要で、組合員とその家族が安心して幸せな生活を営むことができるよう、先を見据えて着実に活動を進めていかなくてはならないことも再認識できた。
     今後も、組合員のために何ができるかを日々模索しながら、引き続き労働運動に邁進していきたいと思う。


    参考文献

  • 外国人特定技能者100万人の受入れが進む中、適正な受入れと人間尊重に基づく共生社会実現のため連合の果たすイニシアティブの重要性

    前田 充康(国際行政書士MAEDA法務事務所 代表)

    1.はじめに

     新型コロナウィルス(COVID-19)は2019年末から流行が始まり、日本では、2020年2月ごろから急速に拡大した。それに伴い緊急事態宣言が発令され、来日する外国人旅行者は激減し、国際人流はめっきりとだえた。約3年ほど経って、2023年5月に日本で新型コロナウィルスが感染法上の分類が第3類から第5類に変更されたことを受け、外国人が我が国を訪れる人流が復活した。2024年には外国人入国者数は約3700万人と過去最高を記録した。この人流復活により、外国人観光客のインバウンドとしての経済効果が顕著に表れて、日本経済に多大なる好影響を与えている。
     一方、少子・高齢化が急速に進み、各産業分野で人手不足が深刻化して必要な人材が確保できないという現状が現れてきている。これまでは、国内の必要な人材確保を女性活用、高齢者の活用などで、埋め合わせをしてきた。しかし、それも、2024年の1年間に生まれた子供の数が、ついに70万人を切るほど、次世代を担う子供の出生数が低下してきている。
     そうした中、国内の労働力の需給調整だけでは、いよいよ限界であり、各産業分野で不足する労働力を外国人労働者の受入れに求める声が2010年代半ばころから急速に高まってきた。
     外国人労働者の受入れに関する政府の基本政策は、従来一貫して「高度の技術を持つ外国人は積極的に受け入れるが単純労働者は慎重に対応する」こととされてきた。そのため、従来、「わが国で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域等へ移転することによって、当該地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的とする外国人技能実習制度を行なってきた。外国人技能実習制度では、外国人実習生の活動は、労働ではなく、あくまでも研修として位置付けられていた。
     しかし、政府は、2018年に出入国管理法を改正して、「国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れること」を目的として、新たな在留資格である「特定技能」を創設した。就労すること、すなわち、労働することができると明確に位置付けられた在留資格「特定技能」が新設されたことを受けて、政府は、2019年4月から「国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れるための上限数を2019年から2023年までに34万5000人とする外国人特定技能者受入れ計画を決定した。そして、2023年末までに、約21万人の外国人特定技能者が我が国に入国した。続いて、2024年6月、政府は、2024年から2028年までにさらに82万人の外国人労働者を在留資格「特定技能」をもって外国人労働者を受け入れていく計画を発表した。その結果、2028年までに実に約100万人の外国人の「特定技能」の外国人労働者が日本に新たに入ってくることとなった。
     今後、2028年までの数年間で約100万人にも及ぶ在留資格「特定技能」の外国人労働者が①介護、②ビルクリーニング、③工業製品製造業、④建設業、⑤造船・舶用業、⑥自動車整備、⑦航空、⑧宿泊、⑨農業、➉漁業、⑪飲食料品製造業、⑫外食業、⑬自動車運送業、⑭鉄道、⑮林業、⑯木材産業の16分野で受け入れられていくが、その過程では多くの未経験の課題が山積である。技能実習制度から特定技能制度として所謂単純労働者の受入れに踏み切った新制度の下、多くの外国人労働者が我が国の中にしっかりと包接され、共生社会を構築していくためには、職場の実態を熟知し、働く外国人労働者を人間尊重の理念で支援する連合のイニシアティブは欠かすことができず、ますます重要なものとなってきている。
     そのために今後、連合が急増する外国人労働者受入れにあたって検討すべき視点や期待されるイニシアティブについて、我が国の外国人労働者受入れに関する政府の政策の変遷を通して明らかにしていきたい。

    2.外国人労働者受入れに関する政府の政策の変遷

     我が国における外国人労働者受入れに関する政府の政策をみると、次のような変遷をたどってきた。

    (1)【いわゆる「単純労働者」受入れは慎重に】(注:参考文献①)

     1980年代後半、日本への観光客や企業のグローバル化の進展による商用による外国人の来訪が盛んになった。同時に、円高による影響から外国人の不法滞在者の急激な増加が大きな社会問題となった。当時、日本の経済は、バブル期にあり、深刻な人手不足の状況にあった。そうした状況のもと、外国人労働者の受け入れに関してどのような対策を取るべきか大きな議論が巻き起こった。その時の論点としては、①国内の労働市場への圧迫、②治安問題、③社会的コスト等があげられた。当時の労使の論調(注:参考文献②~⑥)としては、技能を有しないいわゆる単純労働者の導入に関しては、極めて慎重な対応が必要であるというものであった。そして、政府としては、「専門、技術的な能力や外国人ならではの能力を有する外国人については可能な限り受け入れる方向で対処するが、いわゆる単純労働者の受入れについては十分慎重に対応する」との基本方針を1988年の第6次雇用対策基本計画の中で、閣議決定した。

    (2)【国際研修協力機構(JITCO)の創設】(注:参考文献⑦)

     1990年に改正入管法が施行され、「わが国で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域等へ移転することによって、当該地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的とする技能実習制度がスタートした。技能実習制度では、外国人実習生の活動は、技能や技術等の移転を図る国際貢献活動のための活動であり、労働ではなく、あくまで研修として位置付けられた。
     1991年に国際研修協力機構(JITCO)が創設され、1993年から技能実習制度が本格的に開始された。在留資格としては、最初の1年は「研修」で2年目は「特定活動」とされ、当初は2年間で帰国するというものであった。それゆえ、技能実習生は、労働者保護法の対象外としての扱いであった。なお、1997年に技能実習での日本滞在期間がそれまでの最長2年間が最長3年間に延長された。

    (3)【在留資格「技能実習」の新設】

     2010年7月、前年2009年7月の入管法改正を受けて、新たに「技能実習」という在留資格が新設された。それまで技能実習制度に関しての在留資格は、「研修」と「特定活動」の二つの在留資格からなっていた。しかし、新しく「技能実習」の在留資格が新設されたことから、それまで、「研修」とされた期間の在留資格は「技能実習1号」として、それまで「特定活動」とされた期間の在留資格は「技能実習2号」と変更された。それに伴い、技能習得期間のうち、実務に従事する期間は全て労働者として、労働者保護法の適用がなされることとなった。

    (4)【技能実習法成立と外国人技能実習機構(OTIT)の新設】

     2016年11月、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律:(略称『技能実習法』」が公布された。これを受けて、2017年1月に技術の移転という外国人技能実習制度の目的に沿った実習が適正に行なっているかを監査する外国人技能実習機構((OTIT)が新たに設立された。外国人技能実習機構(OTIT)は、それまで国際研修協力機構(JITCO)が担ってきた技能実習生に関する監理・監督権限を引き継ぎ、より強化した組織として新設された。技能実習生の受入れ仲介を行なう監理団体や実習実施機関(企業)に対して強制的に調査する権限が与えられ、また、不正・人権侵害に対する罰則が強化された。技能実習制度を悪用する監理団体や企業への取り締まりが強化された一方、制度を正しく運用する機関(企業)は、「優良」と認定され、3年間の在留期間を終えた技能実習2号を新たに追加された在留資格「技能実習3号」として、さらに2年、受入れを延長することが、可能となった。

    (5)【在留資格「特定技能」新設と特定技能者100万人受入れ計画】(注:参考文献⑧⑨)

     2018年に出入国管理法が改正され、2019年4月から「特定技能」の在留資格が新たに新設された。在留資格の「特定技能」は、「生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行ってもなお、人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野(特定産業分野)において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする特定技能制度を構築するために新設されたものである。
     具体的な特定産業分野は、2019年に当初14分野でスタートしたが、追加修正されて、2025年7月現在、①介護、②ビルクリーニング、③工業製品製造業、④建設業、⑤造船・舶用業、⑥自動車整備、⑦航空、⑧宿泊、⑨農業、⑩漁業、⑪飲食料品製造業、⑫外食業、⑬自動車運送業、⑭鉄道、⑮林業、⑯木材産業の16分野となっており、それぞれの特定産業分野毎に受入れ人数枠が設定されている。
     在留資格「特定技能」には、特定技能1号と特定技能2号があり、特定技能1号は、「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験」を、また特定技能2号は「特定産業分野に属する熟練した技能」を有するものである。特定技能1号は、滞在できる最長は5年間で、家族帯同は原則できない。一方、特定技能2号は、在留期間の更新を受ければ、滞在期間の上限はなく、条件を満たせば永住権の取得もできる。家族滞在も可能。
     政府は、2019年3月に特定技能者を積極的に受け入れるとして2019年から2023年までの5年間に34万5000人の外国人特定技能者を受け入れる方針を閣議決定した。その方針に基づき、2023年末までに約21万人の外国人労働者が「特定技能」の在留資格を得た。そして、2024年3月、政府は2024年から2028年までの5年間でさらに特定技能者82万人を受け入れることを閣議決定した。その結果、2028年までに、実に約100万人の外国人労働者が新たに「特定技能」の在留資格で日本で働くことがほぼ確実となっている。
     なお、「特定技能」外国人の人数は出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況」によると、2024年6月現在、合計25万1747人である。国籍別では、①ベトナム12万6832人(50.4%)②インドネシア4万4305人(17.6%)③フィリピン2万5311人(10.1%)④ミャンマー1万9059人(7.6%)⑤中国1万5696人(6.2%)⑥カンボジア5461人(2.2%)⑦ネパール5386人(2.1%)⑧タイ5178人(2.1%)⑨その他4519人(1.8%)となっている。また、受入れの都道府県別では、①愛知2万757人(8.2%)②大阪1万6543人(6.6%)③埼玉1万5530人(6.2%)④千葉1万5185人(6.0%)⑤東京1万4920人(5.9%)⑥神奈川1万3645人(5.4%)⑦茨城1万2872人(5.1%)⑧北海道1万869人(4.3%)⑨福岡8962人(3.6%)⑩兵庫8941人(3.6%)の順となっている。

    (6)【技能実習制度から育成就労制度への移行】(注:参考文献⑩)

     2022年11月に「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の下に「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が設置され、1年にわたり技能実習制度及び特定技能制度等に関する運営状況等の検討がなされた。2023年11月に同有識者会議の最終報告書がまとめられ、「技能実習制度を実態に即して発展的に解消し、人手不足分野における人材の確保と人材の育成を目的とする新たな制度を創設」するとの提言がなされた。
    これを受けて、2024年6月、「技能実習制度」に代わる新たな「育成就労制度」を創設するための技能実習法等関連法の改正がなされ、「外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律:略称『技能実習法』」は、「外国人の育成就労の適正な実施および育成就労外国人の保護に関する法律:略称『育成就労法』」と改変された。法律の目的も、「技能実習法」の「開発途上地域等の経済発展を担う人づくりへの協力」から「育成就労法」では「特定技能1号水準の技能を有する人材の育成」及び「育成就労産業分野における人材の確保」に変更され、国内の労働力不足に対応して、国内の労働力不足分野の労働力不足補填のために外国人労働者を受け入れることが明言された。
     なお、育成就労制度は、2024年6月に成立した育成就労法成立後3年以内の施行とされており、現在2027年から施行、運用が始まる見込みとなっている。さらに、施行後3年間の激変緩和措置として3年間の移行期間が設けられるので、おおむね2030年までの3年間は、従来の技能実習制度と育成就労制度が並存することになる。
     そして、2031年以降は、我が国の外国人労働者受入れは、2027年に施行が見込まれる育成就労法に基づき、当初、「育成就労」の在留資格で入国し、続いて「特定技能」の在留資格に変更してわが国で就労するという「育成就労制度」一本に外国人労働者受け入れの制度が収斂されていくこととなる。

    3.外国人労働者受入れの必要性や妥当性を判断するための3つの視点

     外国人労働者が新たに国内労働市場に入ってくる場合、①国内労働者と雇用面の競合関係が生じたり、②働く労働者として労働基準法等の労働者保護法等の関係、さらに、③社会生活を送る「生活者」として地域社会との関係など多くの検討すべき課題がある。そうした課題を整理するためには、次の3つの視点に立った検討が必要である。
      第1番目としては、外国人労働者の受入れの必要性や妥当性を国内労働市場の状況から客観的に判断する視点である。外国人労働者の受入れは、闇雲に行なわれるものではなく、出入国在留管理法に基づき、就労可能な「在留資格」を得て初めて入国し就労することができる。外国人労働者の受入れは、政府の外国人労働者の受入れが国内の労働市場の調整機能をフル活用しても困難であることの政策的判断に基づいて行なわれる。それゆえ、外国人労働者受け入れの具体的受け入れ人数枠などの決定をするための前提となる国内労働市場の客観的状況を労働力人口動態及び労働力人口構造など短期的及び中長期的に正確な雇用状況把握を行なう必要がある。
     第2番目としては、外国人労働者を受け入れる場合、外国人労働者は、日本人とまったく同じ労働者保護規定が適用されるということを確認する視点である。すなわち、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、最低賃金法、労働契約法などすべての労働者保護法が適用になる。そこには、当然、セクハラ、パワハラなどの防止も含まれる。同時に各種労働保険への加入も加入条件にしたがって加入することが義務付けられる。こうした外国人を就労可能な特定技能の在留資格で働く場合は、日本の労働者保護規制が日本人と同じく平等に適用されることを確認することは重要である。
     第3番目としては、外国人労働者が、日本の社会の中で社会生活を送る「生活者」であり、それを支援する体制整備がなされているかを確認する視点である。外国人労働者は、職場で働くと同時に日本における社会での生活者としての存在でもある。住居を借りたり近所付き合いなど社会的な交流も出てきたりする。家族帯同が認められるようになった場合には、子供が生まれ、幼稚園や学校に通わせることもあろう。さらに、滞在が長くなって日本に永住する可能性も出てくれば住居購入やそれに伴う金融・保険機関等との関係も出てくる。そうした生活者としての社会活動をいかに支援していくかの支援体制の整備、構築が極めて大切である。

    4.連合に期待する人間尊重の理念による職場環境・共生社会実現へのリーダーシップ

     外国人労働者問題を連合は労働組合運動としてどのように対応していくべきか。
     上記3で述べた「外国人労働者受入れの必要性や妥当性を判断するための3つの視点に則って「働く労働者を守る」という労働組合の立場から、正論を真正面から展開していっていただきたい。
     第1番目の視点である外国人労働者の受入れの必要性や妥当性を客観的に判断するために、国内労働市場に与える影響を中長期的な国内労働需給の観点から人手不足の絶対数を正確に把握していることが重要である。外国人労働者をどれほど受け入れるべきかの外国人労働者受入れ枠の決定するに当たっては、客観的な統計数字にもとづき、労働組合の代表として各種公的審議会等で国内労働市場への過剰な圧迫が生じないかどうか等国内労働者保護の立場から積極的に労働組合としての意見を述べて言っていただくことが重要である。
     第2番目の視点である「受け入れられた外国人労働者」は、労働の現場で日本人とまったく同じ保護を与えられるものであることは絶対に保障されなければならない。労働基準法、労働安全衛生法等すべての労働者保護規定など日本人労働者と等しい同様の保護が与えられるのであり、当然最低賃金法に基づく最低賃金以上の賃金でなくてはならないし、各種社会保険にも加入しなければならない。特に。安全の確保については、命に関わるもので絶対おろそかにできない重要分野である。言葉の違いにより、誤解や意思疎通の不十分さから重大事故発生の危険性は高い。それゆえ、安全に関する注意は言葉は分からなくても誰にでも分かり易い一目でわかる標識ではっきりと示したり、安全教育や安全講習は特に重点的に取り組むことが重要である。その一環として、職場の連絡や意思疎通を円滑に行なうために、多言語による相談窓口を開設して、スマホなどから直接相談ができる体制も整備しておくことも重要である。
     また、外国人労働者は働く仲間である。それゆえ、各職場の労働組合が外国人労働者を労働組合員に迎えることはなんら差支えないのであり、外国人の方の生の声を聴くことができるチャンスであり、労働組合として外国人労働者を組織化する努力を継続して行なっていただきたい。
     第3番目の視点である外国人が生活者として充実した日常生活が送られるよう支援体制を講じることは共生社会実現の観点からしっかりと推し進めることが大事である。外国人労働者特有の問題として言葉の壁があることからの誤解や行き違いが生じたり、日本の生活習慣やルール等に慣れていないことが多いのは当然である。新しい土地と環境のもとで、外国人の方が、生活者として、安全で快適に、有意義な市民生活が送られるように地方自治体等の援助体制も活用して近隣の皆様との交流も活発に図れるように支援することが大切である。特に、外国人の方に対して間違った偏見を抱いたりすることのないように、人間としての尊厳を常に意識し、お互いにリスペクトを持った態度で接するように心がけることが大切である。そうした外国人への温かい接し方の大切さを連合としても常に機関紙や広報媒体を通して広く呼びかけていただきたい。そうした地道な活動は、我が国における外国人と日本人の相互理解を深め、互いの伝統や文化を尊重しあう共生社会を構築する上で大変有意義かつ効果的である。

    5.まとめ

     外国人労働者問題について日本で議論が始まったのは、バブル経済末期の1990年ごろであり、それからちょうど35年ほどになる。その間、労働力不足を補うために外国人労働者の導入を積極的に行うべきであるとの議論は常になされてきた。そして現在は、まさに少子・高齢化もきわまり、政府も少子高齢化の下、長く続いた、開発途上国への技能等の移転を通した人づくりを目的とする「技能実習制度」から我が国の労働力不足に対応するために「特定技能」の在留資格で外国人労働者を100万人規模で2028年までに受け入れるとの大きな政策変更決定を行なった。現在は、働き方改革や長時間労働など過重労働の規制強化の2024年問題もあり、まさに、外国人労働力を導入しなければ日本の産業は成り立たないという各産業現場の悲痛な声を受けて、日本の外国人受入れ政策は外国からの労働力を導入して国内産業を維持していく方向に大きく舵を切った。そして、今は、まさに、外国人労働者が製造業、建設業、流通業、サービス業等の16分野に着実に受入れが進む大きな過渡期である。
     現在進行中の日本社会の激変する働く現場に外国人の方々が日本の労働力不足を補うために来てくれる過程で決して忘れてならないことは、外国人労働者は、一人ひとりが人格を持った立派な人間であるということである。日本の労働力不足を補う貴重な労働力として職場で懸命に汗をかき働いてくれるだけでなく、日本にて生活する「生活者」としての存在であることをはっきりと認識して、日本社会として、来られる外国人の皆様に職場においても社会においても礼儀をもってリスペクトの精神で受入れをすることが大切である。もともと外国人として他国で働くということは多くの困難やストレスがある。そうした中、縁あって日本の職場でともに働いていただく皆様。友情と敬意をもって、職場でも地域社会でも共助の精神で助け合っていきたいもの。外国の方々が困っていたら積極的に声をかけ、応援して上げ、外国から来られる働く仲間の皆様が安全で楽しく有意義な職業生活を日本で過ごし、是非日本を好きになって無事帰国していってほしいと切に願っている。
     そのためにも、連合の人間尊重の理念と共助の精神に基づき、外国人労働者の受入れに関して力強いリーダーシップを引き続き発揮していっていただくことを心からご期待申し上げる。


    参考文献

    • ①外国人労働者の労働面等に及ぼす影響等に関する研究会報告書(1991年)労働省
    • ②「政策・制度要求提言」日本労働組合総連合会(1991年)
    • ③労働問題研究委員会報告」日本経営者団体連盟(1990年)
    • ④「これからの外国人雇用のあり方について」経済同友会(1989年)
    • ⑤「発展途上国の人材育成への協力推進を訴える」経済団体連合会(1990年)
    • ⑥「外国人労働者熟練形成制度の創設等に関する提言」東京商工会議所(1989年)
    • ⑦外国人雇用問題研究会報告書(2002年)厚生労働省
    • ⑧出入国在留管理庁2024-2025(広報用パンフレット)
    • ⑨入管法と外国人労務管理・監査の実務(第3版)(2022年)山脇康嗣著
    • ⑩入管法令改正及び育成就労法の解説(2024年)山脇康嗣著

ILEC30周年記念・組合特別賞

  • “まもる”から“そだてる”へ ―フォー・ユーキャリアが描くキャリア支援型ユニオンの未来

    石原 崇弘(ファイブスター労働組合 中央執行委員長)

    序章:サービス業の現場から生まれた新たな挑戦

    「労働組合の存在意義が問われている」。
    組合員比率が働く人の5人に1人程度まで低下し、労働組合が身近でない存在になりつつある中、「賃上げ交渉くらいしかしてくれない」と組合への期待がしぼむ声も聞かれます。しかし一方で、正社員とパートの垣根が低くなり転職も当たり前になるなど働き方は多様化し、若者の就職難やメンタル不調者の増加など新たな問題も噴出しています。

    こうした変化の中、労働組合は単に労働条件を「まもる」だけでなく、働く一人ひとりのキャリアや成長を「そだてる」支援へと役割を広げるべきではないか?私はその問いに挑みました。

    第1章:「守る」から「育てる」へ ― キャリア支援の必要性

    流動性が高く離職も起こりやすい飲食業界で働く仲間のため、現場では店長クラスの管理職が長時間労働と責任の重圧に追われ、将来のキャリアを描く余裕もなく孤立しがちでした。実際、「日々の業務に追われ自分のキャリアを考える時間が持てず、一人で不安を抱え込んでいた」という声が店長たちから上がっていました。そんな現状を目の当たりにした組合は、「どうすれば安心して将来を考えられる環境を現場に整えられるか?」と模索を始めたのです。

    飲食業界の店長たちは、長時間労働や人手不足のなかで責任を一身に背負い、キャリアを描く余裕すら持てない現状にあります。その孤立は若手の定着率低下や、職場の心理的安全性の低下を招き、さらなる離職と悪循環を生んでいました。

    そうした課題に対し、「守る」から「育てる」への転換を図り、独自のキャリア支援制度「フォー・ユーキャリア」を立ち上げました。キャリアコンサルタント資格を持つ組合役員が中心となり、厚生労働省の「ジョブ・カード」を活用したセルフ・キャリアドックを導入。キャリア形成・リスキリング支援センターと連携し、定期的な研修・面談体制を整備しました。

    第2章:キャリア支援が職場にもたらす好循環

    研修では、参加者が自らの経験を振り返り、5年後・10年後のキャリアビジョンを言語化。「新店舗の立ち上げに関わりたい」「専門資格に挑戦したい」といった前向きな目標が次々と生まれました。組合主導だからこそ語れた本音が、行動へとつながりました。

    この取り組みにより、店舗内には「キャリアを語り合い応援し合う文化」が生まれ、店長同士の横のつながりも強化。「孤立していたが、他の店長も同じ悩みを持っていると知って安心した」という声も上がりました。研修でのグループワークをきっかけに、店長同士がLINEグループを作ってお互いに相談し合うようになった事例もありました。

    さらに、組合を通じて経営側に現場の課題が伝わり、人材育成制度の見直しも進みました。「部下とのキャリア面談の時間が十分に取れていない」「管理職向けの教育が不足している」といった声は、これまで埋もれていた現場のリアルです。組合が信頼される窓口として機能したことで、経営と現場の接点が増え、具体的な制度改善にもつながったのです。

    フォー・ユーキャリアは、若手従業員向けのキャリアワークショップや、パート・非正規社員への研修機会の提供へと裾野を広げています。サービス業ではアルバイト・パートタイマーなど非正規で働く人も多く、そうした仲間にもキャリア形成の支援を届けることが喫緊の課題です。労働組合には本来、正社員だけでなく非正規労働者を含めて幅広く組織化する責務があります。

    UAゼンセンなどの産業別組織ではパート社員の組合加入を推進し、待遇改善とキャリアアップ支援に力を入れています。「人材の流動化が進む今、企業に依存しない自律的なキャリア形成が重要」であるという考え方は、企業だけでなく組合にも求められる視点になりつつあります。経営側も、従業員のキャリア支援については労働組合との連携強化を意識し始めており、「組合の力を借りて若手の定着率を上げたい」との声も聞かれるようになりました。

    第3章:若手の伴走者、メンタルケアの担い手へ

    また、組合は新人や若手への“伴走者”としての役割も果たし始めています。社会人になりたての若者にとって、自分の強みや適性を客観視するのは容易ではありません。そんなとき、組合の先輩メンバーがキャリア支援担当として寄り添い、メンターのように相談に乗る仕組みが求められています。

    「上司には言いにくいけれど、組合の先輩だからこそ本音で話せた」というケースは少なくありません。たとえば、「本当は他部署で違う仕事に挑戦してみたいけれど、どう伝えたらいいかわからない」といった悩みに対して、組合が間に立って会社と調整を図り、異動が実現した例もありました(※この事例は実際の展開を想定した架空の例です)。このように、組合という“利害関係のない第三者”だからこそ、安心してキャリアの悩みを打ち明けられるのです。

    これは、組織心理学の分野で注目されている「心理的安全性」の観点からも非常に重要です。心理的安全性が高い職場では、従業員は自分の意見や悩みを安心して共有でき、結果的にチームの生産性や創造性が向上することがわかっています。組合が若手のメンタル面にも寄り添い、将来展望を一緒に考えることで、職場全体の雰囲気が変わり、離職の抑制にもつながるという効果が期待されています。

    これは、組織心理学の分野で注目されている「心理的安全性」の観点からも非常に重要です。心理的安全性が高い職場では、従業員は自分の意見や悩みを安心して共有でき、結果的にチームの生産性や創造性が向上することがわかっています。組合が若手のメンタル面にも寄り添い、将来展望を一緒に考えることで、職場全体の雰囲気が変わり、離職の抑制にもつながるという効果が期待されています。

    実際に、「部下の様子に以前より気を配るようになった」「傾聴の姿勢を学び、相談を受け止められる自信がついた」といった声が参加者から多く寄せられています。研修だけでなく、日常の職場において「声をかけるタイミング」や「寄り添い方」が変化してきたことは、心理的安全性の向上という意味でも大きな前進でした。

    加えて、今後は組合窓口に産業カウンセラーやメンタルヘルスの専門スタッフを配置し、気軽に相談できる体制づくりも検討しています。企業内の健康管理室や産業医とは独立した“セカンドライン”の相談先を用意することで、「会社に知られたら不利益になるのでは…」といった不安を抱える人でも、安心して相談できるような環境を目指しています。

    これは本人のケアにとどまらず、結果として休職や退職といった深刻な状況を未然に防ぐ効果もあります。つまり、組合によるこうした取り組みは、メンタルヘルス不調を個人の問題として片付けるのではなく、「職場の文化」や「安心感のある風土」を再構築する一手段として機能しているのです。

    第4章:現場発の取り組みが社会を変える

    このように、労働組合がキャリア形成支援やメンタル面で多様な仲間を支えることは、個々人の安心感を高めるだけでなく、職場の安定や企業の持続的成長にもつながっていきます。実際、キャリア支援を受けた従業員は、将来に対して希望を持ちやすくなり、会社に過度に依存せずとも主体的に自分のキャリアを切り拓こうとする傾向が見られました。

    それは、労働市場の変化が激しい現代において、失業や不本意な転職に翻弄されにくいレジリエンスのある働き方にもつながります。地域においても、失業不安の軽減や、スキルのミスマッチの改善といった社会的な意義を持ち、組合がキャリアとメンタルの両面から働く人を支えるハブとなることで、真に「働くことを軸とする安心社会」が近づいていくので私たちの取り組みは、一つの企業単体で完結する話ではありません。むしろ、このような「現場からのキャリア支援」が産業別組織や地域連携にどう波及できるかが、今後の鍵を握ります。

    たとえば私たちは現在、他産業の労働組合との交流や、地域ネットワークとの連携も模索し始めています。キャリア支援という共通のテーマを介せば、対立しがちな組合同士や、異なる組織文化を持つ事業所間にも「学び合い」の接点が生まれるのです。

    実際、近隣の別会社に勤める同業の店長同士が、ジョブ・カードの使い方や面談の工夫を情報交換し合う場面もありました。こうした場は単なる横のつながりではなく、「労働者同士が互いに自律性を高め合う協働の場」へと進化しうるものでした。

    さらに、フォー・ユーキャリアの仕組みは、サービス業界にとどまらず、介護や小売など、同じく人材流動性が高く、心理的安全性が課題になりやすい現場にも応用可能です。これらの業界でも「組合がキャリアを支援する」というアプローチは、特に新人や中堅層の定着に大きく寄与する可能性があります。

    地域社会との連携も重要です。滋賀県のキャリア形成・リスキリング支援センターとの協力が突破口となりましたが、今後は地元大学やNPO、自治体とも連携し、「職場を超えたキャリア相談」「地域ぐるみの育成文化づくり」に挑戦していく構想も生まれています。

    企業や職場という枠を越え、キャリア支援を共通言語にして地域の“働く人”を支えるネットワークをつくる──。これは単なる労組活動の拡張ではなく、「人生100年時代の地域包括型キャリア支援」という新しい社会モデルの胎動なのかもしれません。

    こうした波及には、産別やナショナルセンターの役割も極めて重要です。例えば、産別組織による「キャリア支援スーパーバイザー」の養成、複数組合による研修共有プラットフォームの整備などは、現場主導の取組をより力強く後押しするものになります。

    連合としても、このような草の根の成功事例を集約・横展開することで、組合活動が「生活と成長を支える支援組織」へと進化している姿を、広く社会に提示できるのではないでしょうか。そこには、単なる「防波堤」ではない、労働組合の“希望のインフラ”としての姿が見えてくるはずです。

    第5章:組合の「自己肯定感」と新しい信頼の形

    こうした活動は、単に1つの組織の取り組みにとどまりません。私たちの「フォー・ユーキャリア」は、サービス業という現場から生まれたチャレンジでありながら、すべての産業、すべての労働組合に共通する課題に応えるモデルとなり得ます。

    変化の激しい時代において、「会社任せ」「自己責任」ではなく、第三のキャリア支援主体として労働組合が台頭することが求められているのです。実際、最近では企業側からも「組合ともっと連携して若手のキャリア支援をしたい」「エンゲージメントを高めたい」といった声が聞かれるようになってきました。

    フォー・ユーキャリアの実践は、まさにその可能性を具体的に示した事例です。

    特筆すべきは、この取り組みが「厚生労働省ジョブ・カード活用事例集」に労働組合として初めて掲載され、公的にもその意義が認められたことです。「組合は何かを“まもる”だけでなく、“そだてる・ささえる・未来をつくる”こともできる」という自己肯定感を、組合自身が再発見する機会にもなりました。

    また、参加した組合員からは「組合がここまで自分たちの成長に寄り添ってくれるとは思わなかった」「誇らしく感じた」という声が相次ぎ、これまでとは異なる新しい信頼の形が築かれました。フォー・ユーキャリアがもたらしたのは、単なるキャリア支援ではなく、職場全体に“前向きな循環”を生み出す起点だったのです。

    「フォー・ユーキャリア」が示したキャリア支援型ユニオンの姿勢は、過去に永井幸子氏が提言した「産業別労働組合がキャリア形成を支援する存在になるべきだ」という構想を、企業内単組レベルで具体化したものでした。

    第一回「私の提言」論文集に掲載された永井氏の論文『キャリア形成のサポート組織としての産業別労働組合の可能性──産業別労働組合はどこまで組合員個人と関われるのか──』では、労働組合が「再就職支援」や「スキル開発の中継点」となり、組合員一人ひとりのキャリア形成を支える存在になる未来が示唆されていました。そこでは「キャリアは単なる職業選択ではなく、その人の生き方そのもの」と位置づけられており、組合がそうした人生の伴走者となるためには、個別支援スキルの強化と信頼構築が不可欠であると指摘されています。

    私たちは、そのメッセージを約20年の時を超えて実装し始めています。特に注目すべきは、組合スタッフ自身がキャリアコンサルタント資格を取得し、内部人材として専門性を備えた点です。これにより、「組合=交渉団体」ではなく、「組合=キャリアの相談窓口」という新たなイメージが組合内外で生まれつつあります。

    また、キャリア支援に取り組むこと自体が組合の組織力を高めるという副次的効果も生まれています。実際、フォー・ユーキャリアの実施を通じて、組合役員・職場委員の中には「仲間の人生に寄り添った経験が、自分のキャリア観にも影響を与えた」と語る者も現れました。労働者の自己理解を支援する経験は、支援する側にも自己成長をもたらす双方向的な学びの場となっているのです。

    このように、キャリア形成支援に取り組む組合は、自らの“人的資本”をも強化することができます。専門性を持った相談員、若手に寄り添えるメンター、メンタル面の支援ができるリーダーの存在は、単に組合活動の強化にとどまらず、会社全体にも好影響を与えます。労使間の関係性も、交渉の場だけでなく、「成長支援を通じた協働のパートナー」へと深化していく可能性を秘めているのです。

    終章:労働組合の未来像 ― 「守る」と「育てる」の好循環

    ここで強調したいのは、「まもる」ことと「そだてる」ことの両立は、労働組合の未来像において決して相反するものではないという点です。むしろ、働く人々の将来への安心と成長への期待を支えることができてこそ、本当の意味での“まもる”が成り立ちます。

    労働条件の改善は大前提ですが、それに加えて働く意義やビジョンの明確化、安心して成長できる環境づくりは、組合員の意欲やエンゲージメントを高め、結果的に労働条件のさらなる改善にもつながっていくのです。この“まもる”と“そだてる”の好循環は、これからの労働組合が目指すべき理想的な姿ではないでしょうか。

    フォー・ユーキャリアが描き出した未来像は、働く人がキャリアの不安や悩みを一人で抱え込まず、信頼できる組織とともに歩める社会です。そこでは、労働組合が単なる交渉の場ではなく、キャリア支援の伴走者、ライフキャリアのコンパスのような存在として機能します。

    特に人生100年時代においては、定年までの働き方に加え、第二・第三のキャリア形成が当たり前となっていきます。こうした変化に対応するには、従来の労働組合の枠を超えた柔軟な発想と、実践に基づいた支援が不可欠です。

    その意味でも、フォー・ユーキャリアの取り組みは、他産業や他企業の労働組合にも大きなヒントを与えるものであり、また産別・ナショナルセンターである連合にとっても、「仲間をまもる」から「仲間とともに未来をそだてる」運動への進化を後押しする材料になるでしょう。

    最後に、こうしたキャリア支援を通じた新たな労働組合像を広く共有し、産業別・地域別を問わず展開していくことが、真の意味で「働くことを軸とする安心社会」の実現につながっていきます。そのためにも、現場発の取り組みを積み上げ、信頼をベースに仲間をつなぎ、未来を共に創り出す「キャリア支援型ユニオン」の輪を広げていきたいと考えます。

    フォー・ユーキャリアが芽生えたこの現場から、日本の労働組合の新たなステージが始まっています。今こそ、「まもる」だけではなく「そだてる」力を備えた労働組合へと、共に進化していく時なのです。

    よって私は、連合が各産業の現場と連携し、キャリア支援とメンタルケアを通じた“人を育てる支援型ユニオン”を推進し、働く人の尊厳と社会正義を守る新たな運動を提言します。

  • 声を届けるだけでは、もう足りない──指定管理者制度と現場からの提言──

    橋本 英幸(自治労松阪市民病院職員組合 執行委員長)

    第1章 はじめに

     近年、日本の公共サービスの分野では「効率化」や「民間活力の活用」といった名のもとに、指定管理者制度や業務委託、アウトソーシングの導入が加速している。財政の健全化、行政運営の柔軟化、サービスの質の向上──こうした言葉が並ぶ中で、現場で働く職員たちの声が、どれほど政策に反映されているだろうか。
     私が所属する自治体でも、市民病院を巡って指定管理者制度の導入が進められ、多くの職員が「整理退職」となる事態に直面した。制度の是非そのもの以前に、移行にあたっての説明不足、処遇の不透明さ、将来への不安が渦巻く現場において、「働くことを軸とする安心社会」という言葉は、あまりに遠い理想のように感じられた。
     労働組合の立場から現場を見つめてきた私は、このような制度導入が、決して「人」を置き去りにしたものであってはならないと痛感している。民間活用による効率化と、働く人の尊厳ややりがいの維持──この二つの価値を両立させる制度設計こそ、今、求められているのではないだろうか。
     本稿では、指定管理者制度導入に伴う現場の混乱と、その中で職員が直面した課題を整理しつつ、組合として取り組んできた実践と課題を振り返る。そして、公共サービスの持続可能性と「安心して働ける社会」を両立させるための提言を行いたい。現場に根ざした声を、より良い制度と社会づくりのための一助として届けたい──それが、本稿を執筆する動機である。

    第2章 制度導入の背景と現状

    指定管理者制度は、2003年の地方自治法の改正により導入された仕組みである。従来、公の施設の管理は直営または「管理委託制度」による運営に限られており、委託先も公共的団体などに限定されていたが、法改正により、民間事業者やNPO法人など幅広い団体が管理者として指定されることが可能となった。導入の主な目的は、「民間のノウハウを活用し、効率的かつ柔軟な運営を実現すること」とされている。
     当初は文化施設やスポーツ施設など比較的影響の小さい分野からの導入が進んだが、近年では医療や福祉など、高度な専門性と公共性が求められる分野にも広がりを見せている。自治体にとっては、財政負担の軽減や人件費の削減を見込める一方で、制度導入に際しての「説明責任」「サービス水準の維持」「職員の処遇移行」などが課題として浮上している。
     私が勤務する自治体でも、近年、市民病院の経営改善や再編が議論される中で、「指定管理者制度の導入」が具体的に検討されるようになった。背景には、少子高齢化に伴う医療需要の変化や、地域医療構想による病床機能の再編、さらには財政健全化を求める行政改革の波がある。市民病院は、地域の中核医療機関として重要な役割を果たしてきたが、経営の安定化や人材確保の難しさといった課題も抱えていた。
     行政当局は「制度導入によって経営基盤の安定化と医療サービスの維持が図れる」と説明するが、その過程で現場職員への説明が後手に回り、混乱が生じた。特に大きな問題となったのは、「現職職員の扱い」だった。制度導入に伴い、市直営の雇用から、指定管理者である民間法人(本市の場合は社会福祉法人)への雇用転換が求められ、多くの職員が「整理退職」という選択を迫られた。
     これは事実上の「全員解雇・再雇用」であり、雇用条件の変化、退職金制度の有無、将来的な身分保障などについて不安の声が噴出した。また、一部の職員には制度や処遇の違いが伝わらないまま進行したケースもあり、「納得のいく制度移行」とは程遠い状況だった。これらの問題は、単なる制度の移行ではなく、「働く人の人生設計」に直結する重大なテーマであり、慎重かつ丁寧な対応が本来必要だったはずである。
     制度そのものを否定するつもりはない。しかし、「公共性」と「効率性」の間にある本質的な緊張関係に目を向けず、表面的な経営論理だけで推し進めたときに、そのひずみは、現場の職員だけでなく、医療を必要とする地域の人々にも重くのしかかる。本章ではそのことを、あらためて指摘しておきたい。

    第3章 労働現場の実態と課題

     制度の変更は紙の上で完結しても、その影響は現場で働く一人ひとりの職員の生活と心に直接及ぶ。指定管理者制度の導入が決定されて以降、私たち組合には多くの職員から不安や困惑の声が寄せられた。
     「私はもう20年以上、この病院で働いてきたんです。民間法人に転籍となれば、退職金はどうなるんでしょう」「私のキャリアや資格は、そのまま認められるんでしょうか」「子どもが高校に進学する年なのに、収入や雇用がどうなるか分からない」──。これらはすべて実際に寄せられた声である。もちろん、制度導入に際して行政から一定の説明はあった。しかし、個別の状況や背景に応じたきめ細かな対応はなされず、多くの職員が「理解しないまま受け入れる」か「抗うすべもなく辞めざるを得ない」という二択を迫られた感覚を持っていた。
     特に看護師やコメディカルスタッフ(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士、薬剤師など)といった専門職として長年地域医療を支えてきた職員ほど、自身の専門性が軽視されているのではないかという危機感を抱いていた。公立病院という場は、単なる「医療の提供場所」ではない。地域住民の命と健康を守る最後の砦であり、働く者にとっても「使命感」と「誇り」を持てる職場であったはずである。だが、その環境が制度の移行によって根底から揺らぎ始めた。また、「指定管理者のもとでも職場は続くのだから、大きな変化はない」という趣旨の説明が行政からなされることもあったが、それはあくまで制度設計上の理屈に過ぎない。実際には、雇用形態の変更により昇給制度や福利厚生が見直され、ボーナスの算定基準も変わる。
     人事評価の透明性や公平性についても、職員の間に強い不安があった。
     加えて、制度導入までのスケジュールが極めてタイトであったことも、現場を混乱させた一因である。関係各所との協議が十分に行われないまま説明会が開かれ、今後の雇用や勤務条件に関する十分な情報がない中で、職員は自らの進路について考えざるを得ない状況に置かれた。職員にとっては、「納得の時間」ではなく、「諦めの時間」が流れていたのが実情だ。このような現場の空気に、私は組合の執行委員長として強い危機感を抱いた。「制度の方向性を決めること」と、「それを現場に根づかせること」は、まったく別次元の問題である。後者においては、職員一人ひとりの尊厳、人生設計、働きがいがかかっている。その重みを受け止めたうえでの制度設計や導入プロセスが不可欠であるにもかかわらず、今回の移行ではそれが著しく欠けていた。
     もちろん、全ての職員が制度導入に反対していたわけではない。中には、「これを機に病院経営が安定すればよい」と前向きに捉える声もあった。しかし、制度の「意義」に納得していたとしても、その「導入のしかた」に疑問を持つ職員が多かったことは、組合として強く実感している。
     制度導入にあたって最も欠けていたのは、「当事者参加」の視点である。現場の職員が単なる“制度の対象”として扱われるのではなく、“制度づくりの一員”として尊重されていたならば、ここまでの混乱や不信感は生まれなかったはずである。

    第4章 組合の取り組みと意義

     制度導入が正式に決定される以前から、組合としては一貫して「現場職員の声を政策に反映させること」を目的に、さまざまな対応を行ってきた。組合員からの不安や疑問を拾い上げ、必要な情報を収集・整理し、行政との交渉や意見表明の場をつくる──それは容易な道ではなかったが、「声なき声」が取り残されないよう尽力したつもりである。
     最初に行ったのは、現場職員へのヒアリングとアンケート調査である。「制度が導入されたら、何が一番不安か」「どのような説明が不足していると感じているか」──そうした声を可視化することで、個々人のモヤモヤが“政策課題”として浮かび上がってきた。特に多かったのは、「雇用条件の将来性への不安」「退職金制度への不透明感」「民間法人での労務管理体制への懸念」である。
     その結果をもとに、私たちは行政側との話し合いの場を何度も求めた。当初は制度の大枠がすでに決定された後だったこともあり、「方針は変えられない」との壁にぶつかる場面も多かったが、それでも粘り強く交渉を重ねた。単に“反対”するのではなく、「少しでも安心材料となる施策を追加できないか」「移行支援の手当や制度設計に現場の知見を取り入れられないか」と具体的な提案を行った。
     また、制度移行に関わる説明会の内容や文書についても、組合が積極的にチェックを行い、職員にとって不利益となりかねない文言については修正を求めた。たとえば「整理退職後、原則として新法人に雇用される予定」といった曖昧な表現に対し、「“原則”とは何か」「例外はどんなケースか」などを明確にするよう求め、最終的に一部の文書では修正がなされた。
     さらに、組合単独での交渉に限界を感じた段階で、上部団体である自治労三重県本部とも連携を強化し、さらに他の自治体労組や関係団体、議員との協力も進めた。
     市議会においては、制度導入の進め方や職員処遇への懸念を取り上げてくれる議員と連携し、本会議における一般質問や委員会での質疑を通じて「公の場」で問題提起をしてもらうことができた。こうした“外からの圧力”と“内からの声”の相乗効果は、一定の効果を生んだと感じている。
     もちろん、すべてが思い通りに進んでいるわけではない。制度導入のスケジュール自体が非常にタイトであったため、現場の意見が十分に反映されないまま進行してしまった場面もあった。組合としても、「本当にすべてを守り切ることができるのか」という葛藤を抱えながらの対応が続いているのが実情である。
     中には、「一体何のための組合なのか」と厳しい声を寄せる職員もいた。しかし、そうした声も私たちは真摯に受け止め、今後の活動に確実に活かしていきたいと考えている。  それでもなお、最後まで職員の立場を貫いて粘り強く交渉を重ねた結果、制度や文言の一部に加え、処遇面でも一定の見直しを実現できたことは、組合の存在意義を確かに示すものだと受け止めている。加えて、これまで組合活動にあまり関心を示さなかった職員が、自らの問題として関わり始めるという変化も生まれている。組合活動が“日常”の中に再び根づき始めた――その実感を、私は久しぶりに強く抱いている。
     制度改革という大きな波に直面している今こそ、組合の役割は「声を届ける窓口」にとどまらず、「持続可能な公共サービスをともに考えるパートナー」へと進化すべき時なのではないか。私たちが現場での経験をもとに制度の課題を提起することは、決して“内輪の保身”ではなく、むしろ「より良い公共とは何か」を社会に問い直す行為に他ならないと、私は信じている。

    第5章 提言 ─ 制度設計と働き方への視点転換

     公共サービスにおける指定管理者制度の導入は、今後ますます拡大するだろう。財政的制約の中で、自治体が民間活力を活用しようとするのは、ある意味で時代の要請とも言える。しかし、制度導入が現場職員の尊厳や生活の安定を犠牲にして進められるならば、その制度は「持続可能な公共サービス」とは呼べない。ここでは、私たちが経験した問題を踏まえ、今後の制度設計や運用において必要な視点を3つの柱で提言したい。
     第一に、「合意形成のプロセスを制度化すること」である。指定管理者制度の導入にあたっては、当事者である職員や関係団体との協議が不可欠であり、説明会や意見交換の場が一定程度設けられていたとしても、それだけでは不十分である。制度設計の初期段階から現場の声を反映させ、意思決定プロセスに実質的に参加できる仕組みが必要だ。具体的には、労使双方が対等に議論できる協議の場や、制度導入を検討するための委員会の設置、さらに第三者を交えた対話の場などを、制度としてあらかじめ組み込んでおくべきである。こうした仕組みの整備によってこそ、透明性と合意形成が担保され、納得と共感に基づいた制度導入が可能になると考える。
     第二に、「処遇の移行に関する法的・制度的ガイドラインの整備」が急務である。現在の指定管理者制度には、雇用移行に際してのルールが整備されておらず、各自治体や指定管理者側の裁量に大きく左右されている。その結果、処遇の格差や混乱が各地で起きている。少なくとも、公務職として長年勤務してきた職員が、制度の変更を理由に一方的に不利益を被ることがないよう、退職金の引き継ぎ、昇給制度の整合性、勤続年数の継続性などについて、国や都道府県レベルで一定のガイドラインを設けるべきである。
     第三に、「働きがいのある職場づくりを制度の中核に据えること」である。制度設計は財政や効率の観点から語られがちだが、最も重要なのは、現場で働く人々が「誇り」と「やりがい」をもって働き続けられる環境を守ることである。医療や福祉、教育といった領域では、職員のモチベーションがそのままサービスの質に直結する。だからこそ、指定管理者制度の中にも、「働きがい評価指標」や「職場環境チェック機能」などを導入し、単なる数値目標だけではない“人を大切にする視点”を組み込むべきである。
     加えて、制度導入後の検証・評価も重要だ。導入して終わりではなく、1年後、3年後、5年後といった節目で「制度が何をもたらしたのか」を多角的に検証する必要がある。サービス水準、職員満足度、市民の声などを総合的に評価し、必要に応じて制度の見直しを行う──そうした柔軟性と自己修正機能を制度の中に組み込むことが、持続可能な公共サービスには不可欠である。
     これらの提言はいずれも、今回の病院指定管理者制度導入の経験を通じて、私自身が強く痛感したことばかりである。現場を知らないまま進められる制度ほど、恐ろしいものはない。一度損なわれた信頼は、制度の成否とは無関係に、職場の空気や人間関係に長く影を落とす。だからこそ、制度の“内容”と同じくらい、“プロセス”が重要なのだ。

    第6章 おわりに

     指定管理者制度の導入は、単なる制度変更にとどまらず、「働くことの意味」や「公共サービスの本質」を問い直す契機となった。効率や財政合理性といった言葉の裏で、現場で働く人々が感じた不安や孤立、やりきれなさは、決して数字には表れないが、決して軽視してはならないものである。
     私たちが求めてきたのは、「制度の反対」ではない。「働く人の声がきちんと届く制度」であり、「安心して暮らせる社会の仕組み」である。公的なサービスが人々の命と生活を支えるのであれば、そこで働く人の安心もまた、制度の根幹に据えられるべきだ。現場の声を拾い、制度の運用に活かす──それが組合の本来の役割であり、今回の取り組みを通じて、私はその使命の重みをあらためて実感した。
     制度は一度つくられて終わりではなく、時代や現場に応じて変化し、磨かれていくべきものである。だからこそ、今後の社会においても、制度設計の段階から当事者の声が反映される仕組みづくりが求められる。そして私たち労働組合は、その橋渡し役として、現場と制度、働く人と社会とをつなぎ続けなければならない。
     本稿が、これから同様の制度導入を検討する自治体や組織、あるいは悩みながら現場で働く多くの人たちにとって、ささやかながらも参考となり、対話のきっかけになれば幸いである。そして何より、すべての“働く人”が尊厳と誇りをもって、安心して働ける社会が実現されることを、私は心から願ってやまない。

  • 「食べ残しのない集会」への挑戦-しまね自治研におけるフードロス対策の実践と意義-

    楳田 博之(自治労しまね自治研フードロス対策チーム)
    田原 孝次(自治労しまね自治研フードロス対策チーム)
    前田  藍(自治労しまね自治研フードロス対策チーム)

    はじめに

     2025年、日本は深刻なコメ不足に陥り政府は安定供給のために備蓄米を放出するまでに至った。コメ不足の一方で、日本は相反する課題にも直面している。フードロス(食品ロス)である。フードロスとは、まだ食べられるのにも関わらず捨てられてしまう食品のことを指し、消費者庁の統計によると2022年度のフードロス量は472万トンに上り、経済損失は約4兆円 と試算されている。国民一人当たり1日約88円 に相当する規模である。そこで本稿では、フードロスを発生させない集会運営をめざして企画・運営を行った自治労の自治研活動を取り上げ、大規模な集会におけるフードロス対策の実践を紹介したい。労働組合がフードロスの削減に積極的に取り組むことは、現代社会が抱える課題の解決に向けた大きな一歩となる。

    第1章 集会におけるフードロス問題

    1.自治労が抱えるフードロス問題

     自治労では、年間を通じて組合員を対象とした集会・セミナーを数多く主催しており、昼食時間をまたぐ場合は、円滑な運営のために主催者が弁当を手配することも少なくない。この間、自治労では参加者の当日キャンセル等に伴い、用意したお弁当が余ってしまうフードロスが発生してきた。とりわけ参加者が1000人を超えるような大規模な集会にあたっては、処分される弁当の数も多く深刻であった。
     フードロスがもたらす問題の本質は、限りある資源やエネルギーを使って生産・流通させた食品を、さらなるエネルギーをつかって廃棄処理することであり、「もったいない」という心理的な問題を超えて、地域の環境負荷につながるという点にある。一方で、こども食堂やフードバンクなどへの高いニーズに象徴されるように、食をめぐる社会的不均衡がもたらす課題も焦点化している。

    2.自治研における挑戦

     公共サービスに従事する職員が結集する産別・自治労にとって、フードロス対策を講じた集会運営を行うことは、自らの仕事にも直結した課題解決の実験であるといえる。自治労では、質の高い公共サービスをめざして、職場や地域の課題を自ら研究・実践し、より良い公共サービスを創造する取り組みを地方自治研究(自治研)と名付け、1957年から職場や地域で展開してきた。
     自治労本部では、職場や地域における自治研活動を持ち合い、全国的な実践交流を行う場として、隔年で地方自治研究集会を開催している。「第40回地方自治研究集会(以下:しまね自治研)」(2024年10月開催)を舞台に、フードロスを生み出さない集会運営を自治研活動として取り組むこととした。具体的には、しまね自治研の企画・運営を行う自治研中央推進委員会に「しまね自治研・フードロス対策チーム」をワーキンググループとして立ち上げ研究を進めることとした。委員は手上げ方式で募集し、次のメンバーで2024年2月に立ち上げた。

    <しまね自治研・フードロス対策チーム・構成メンバー>
    自治労京都府本部 楳田博之
    自治労島根県本部 田原孝次
    自治労本部    前田藍

    第2章 集会におけるフードロスの原因と抑制策

     自治労主催の集会・セミナーにおいて発生するフードロス量はどれほどのものか既存調査はないが、次の2つの集会における実態をもとに何も対策を講じない場合、弁当発注数の7~8%程度がフードロスとして発生しているとの仮説を立てた。

    集会名(仮称)弁当発注数フードロス発生数
    A集会565個39個
    B集会265個20個

     最初にフードロス対策チームは、集会においてなぜお弁当が余ってしまうのか、原因の分析から着手した。

    1.原因分析:なぜお弁当が余るのか

     集会・セミナーにおいてフードロスが発生する背景は、事前に集約するお弁当の注文数と実際の参加者数にギャップが生じるからであり、その要因としては次のようなものがあげられる。

    (1)タイムラグ

     本部が集会を開催する場合、開催案内は県本部を経由して、参加者の所属する単組へと通知される。反対に集会への参加申し込みは単組から県本部を経由し、本部へと登録される。個人ではなく各所属を通じての申し込みとなるため、キャンセルや変更には一定のタイムラグが生じることになる。
     特に大規模集会の場合、弁当業者の準備にも時間を要するため、早めにお弁当の数を確定する必要がある。加えて、本部・県本部・単組とそれぞれの所属において、タイムラグを考慮した締め切りを設定し作業にあたることから、参加者レベルでは遅くとも集会の1ヶ月前にお弁当の有無を確定することになる。
     集会直前のキャンセル・変更は、このタイムラグを吸収する時間的余裕がないため、キャンセル分を注文数に反映することが困難となる。また、主催者は弁当代を事前に参加者から徴収しているため、注文数よりも少なく発注することができない。つまり、集会におけるフードロス対策は、手を尽くしたとしても発注段階では抑制効果に限界があることがわかる。

    (2)心理的要素

     地方で開催される集会においては、参加者の心理としてその地方の名物を食したいと言う気持ちが生じるのは当然である。この当然の心理が、参加者がお弁当を食べずに地元のお店で昼食を食べるという行動の要因になっている。加えて、お弁当代は所属の組合に対して請求するため、当日、参加者が用意されたお弁当を食べない選択をとるにあたっての心理的ハードルが低いのも原因の一つと推測した。
     一方で、参加者にとってみれば、このような行為が大きなフードロスにつながっているという実態を知る機会がない。集会主催者はお弁当が余るのは運営側の問題としてとらえがちであり、この問題について積極的に参加者にむけてアナウンスすることもなかった。これら心理的要素に情報の非対称性が加わり、集会においてフードロスが発生していると分析した。

    2.フードロス事前対策:「注文したら食べる」意識の醸成

     これら原因分析をもとに、フードロス対策チームでは、まず、フードロスの発生抑制策として「注文したら食べる」意識の浸透をはかることとした。集会要項やリーフレットなど、集会告知に用いる媒体にはフードロス対策を講じた集会運営を行うことを明記し、参加者に対し「注文したら食べる」意識の共有を図った。集会当日は、弁当の注文状況を明確にするため、弁当の有無について受付時に参加者に伝え発生抑制の一助とした。

    ● 画像1「しまね自治研開催リーフレット」より抜粋

     加えて、ロス発生時の対策として「食べるボランティア」を募る方向で検討に入った。「食べるボランティア」の導入にあたっては、食中毒のリスクを排し安全な消費につなげることが絶対であることから、先行事例や専門的知見を得るため関係団体へのヒアリングを行った。

    3.関係団体へのヒアリング

    ヒアリング① 認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ

     余ったお弁当の有効活用として最初に誰もが考えつくのは、子ども食堂やフードバンクへの寄付である。フードロス対策チームにおいても、子ども食堂との連携を想定し、イベントで余ったお弁当を子ども食堂に配食した、日本コンベンションサービス株式会社と認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえの実証実験 に着目し、むすびえへのヒアリングを行った。
     この結果、同手法をしまね自治研で導入するにあたっては、①残ったお弁当を安全に管理する設備、②連携先への配送体制、③人的配置の課題をクリアすることが困難であることがわかった。また、チームメンバーからは「子どもには余ったお弁当ではなく、必要な栄養や味付けを配慮したものを食べてほしい」といった意見も上がったことから、お弁当が余って困っているのはまずは私たち自身であるとし、今回のフードロス対策と、子どもの食をめぐる課題は切り分けて整理することとした。

    ヒアリング② 島根大学生活協同組合

     次に、地元の島根大学生活協同組合と連携策を模索した。学生の発信力や未来を担う若者がフードロスに取り組む意義を考えるきっかけになってほしいという期待も込めて学生をフードロス対策の連携先の候補とした。
     ヒアリング実施前、フードロス対策チームでは一人暮らしの学生にとって無料で昼食がとれる事は魅力があるのではと想定していたが、実際に話を聞いてみると、多くの学生は学内にある生協食堂を利用しており、事前に食費を支払う「ミールプラン」を利用しているため、食費に対する不安が少ないことがわかった。加えて、島根大学から集会会場となった「くにびきメッセ(島根県立産業会館)」までは約2キロの距離があり、会場の往復時間を考えると授業の合間を縫ってわざわざ食べに来る人は少ないのではとのことであった。
     一方でヒアリングを通じて、フードロスの取り組みへの共感が得られ、大学構内の食堂や売店において、しまね自治研における「食べるボランティア」の募集についてのチラシを配布をしてもらうこととなった。また、より効果を上げる方法として、会場で余ったお弁当を学生食堂に運び、そこで学生に提供するという提案をいただいたが、後述の松江保健所へのヒアリングを経て、大学へ弁当を配送することは衛生管理の観点から不安がぬぐえないため、お弁当の提供は会場でのみ行うこととした。

    ヒアリング③ 松江保健所

     フードロスとなるお弁当を集会会場から、近隣の大学や他団体の施設へ持ちだし消費することは食品衛生管理上、問題のある行為に該当しないか、松江保健所に問い合わせを行った。その結果、会場外へ持ち出すことは食品衛生法上、禁止事項ではないものの、いったん納品された弁当を何ら対策も講じず、別の会場に配送し食べることには大きな不安が残るとの見解であった。
     保健所からは、フードロス想定数を納品時からクーラーボックスなどで温度管理すること、万が一の事態に備えて責任の所在を明らかにするために、事前に弁当業者の同意を求めることなどのアドバイスをいただいた。ヒアリング内容をフードロス対策チームにて検討した結果、フードロスの解消と食品衛生管理のバランスをとることは予想以上に難しいことから、安全・安心にフードロスの解消に務めるため、自分たちで管理可能な枠組みで取り組むことを確認した。

    第3章 しまね自治研におけるフードロス対策の実践

    1.「食べるボランティア」の着想

     衛生管理の徹底とともに、フードロス対策チームを悩ませたのは、実際にロスがどれだけ発生するのかわからない、何人ボランティアが集まるかわからないという二つの不確実要素である。
     「食べるボランティア」という斬新な取り組みが注目を集めることとなったが、「注文したら食べる」という発生抑制策の周知の結果、各県本部・単組だけでなく、参加者レベルまでフードロス対策の認知度が上がっており、何も対策を講じていない場合と比べてロスが発生する可能性は押し下げられた。しまね自治研におけるフードロス対策を紹介した動画の再生回数は252 回(10 月31 日現在)に達しており、事前の周知においては運営側も手ごたえを感じていた。
     フードロス対策チームでは、ロスの発生数を、1日目50個、2日目70個と仮定したが、想定より多く「食べるボランティア」が集まると、お弁当が足りなくなるのではないかという逆説的な不安が生じていた。フードロスの取り組みではあるものの、ボランティアに対して「お弁当が無くても許して下さい」という理屈は通用しないのではという意見もあり、ロス数を超えるボランティアが集まった場合の対応についても検討した。
     前例のないチャレンジであり、最善策が見いだせないなか、最終的にフードロス対策チームとしてだした結論は、この挑戦は「失敗して次につなげる役目」を担っており、その価値観をボランティアと共有することを柱に、足りなかった場合の策は設けずに実行する方針を固めた。まさにこの間、自治研が育んできた「トライ&エラー」を許容しチャレンジを応援する価値観が、この取り組みを支えてくれたと言える。

    2.第二の矢:「2個目チャレンジ」

     上記のようなチャレンジを後押しした理由はもうひとつある。フードロス対策チームで「食べるボランティア」の議論を進める中で、全国から多くの人が集まる集会なので、中にはお弁当一つでは少ないと感じる人もいるのではないかという指摘があった。実際に、他の集会において「(このくらいのボリュームなら)もう一つ食べられる」という参加者の発言を聞いていたこともあり、すでにお弁当を食べた参加者を対象に「食べるボランティア」を拡張した「2個目チャレンジ」をフーロドス対策・第二の矢として補助的に構えることとした。「2個目チャレンジ」の場合、すでに一つ目のお弁当を食べているため、仮にロスとなるお弁当が無くてもボランティアに受け入れやすいことが導入のしやすさにつながった。この第2の矢「2個目チャレンジ」の発案により、お弁当を食べていない(注文していない)人が対象の「食べるボランティア」を先行実施し、「2個目チャレンジ」でロス数との調整弁とする策が固まった。
     その上で、お弁当の選定は量を少なく質を高めることとした。これにより2個目チャレンジに取り組むボランティアも増え、少食の人でも食べ切れる量にすることで弁当内のロスも減らす事ができる。

    3.「食べるボランティア」の運営

     約7か月にわたるフードロス対策チームの検討を経て、集会当日における「食べるボランティア」の運営は、次の通り実施された。

    (1)広報

     ①PRチラシの作成
     しまね自治研がフードロス対策を講じた集会運営であることを参加者に周知するため、チラシを自作し、島根大学生活協同組合の協力の下、学生に配布した。

    ● 画像2「食べるボランティア募集チラシ」

     ②Peatixの活用
     「食べるボランティア」参加者を事前に把握するためのツールとして日本最大級のイベント・コミュニティプラットフォーム「Peatix」を活用した。主に島根大学生協および集会参加者を中心にPeatixを使ったボランティアの募集を行ったが、応募は2日間を通じて延べ4人に留まった。Peatixは利用にあたって会員登録が必要なため、応募を躊躇した人がいたのではないかと推測できる。発信力とともに、事前に参加者数を把握するさらなる工夫の必要性が課題としてのこった。

    (2)当日の運営

     集会当日においては、フードロス対策が参加者にわかりやすく取り組みやすい環境となるよう、主に次の要素に工夫をこらした。

     ①参加者向けのアナウンス
     総合司会を通じて、しまね自治研ではフードロスを生み出さない集会運営に取り組んでいること、「食べるボランティア」実施のため、お弁当の受け取りは12時20分までに終えるようアナウンスを行った。

     ②ボランティア受付体制
     当日はフードロス対策チームとは別に10人の運営メンバーを配置し、ボランティアへの対応を図った。主に会場案内、ロスとなるお弁当の回収、ボランティアの受付および弁当の受け渡しを担った。

    ● 画像3「フードロス対策・食べるボランティアブース」

     ③会場づくりとアンケート協力依頼
     気兼ねなく「食べるボランティア」や「2個目チャレンジ」に協力してもらうため、ボランティア専用の飲食エリアを会場内に設置した。また、飲食エリアにはフードロスに対する意識を調査するためのアンケートチラシを掲示し、ボランティアに協力を仰いだ。

    ● 画像4「食べるボランティア・アンケートチラシ」

     ④当日のタイムライン
     実際にはプログラムの進行の遅れもあり、予定した通りとはならなかったが、タイムラインを事前に共有しておくことは、臨機応変な対応をとるうえでも役立った。ロスとなるお弁当は衛生管理の観点から両日とも13:20以降は渡さないことを厳守した。

    【1日目】
    11:45 休憩スタート(司会から12:20までに取りに来るようにアナウンス)
    12:00 運営班「フードロス対策ブース」に集合。簡単に流れを説明
    12:20 弁当ロスを「フードロス対策ブース」に移動
    12:20 「食べるボランティア」スタート
        ・ボランティアにPeatixのチケット画面を提示してもらう
        ・お弁当をお渡しする
    12:30 2個食べチャレンジ開始(時間は現場判断)
        ・発動条件:ロスが多かった。ボランティアが少なかった
    13:20 「食べるボランティア」「2個食べチャレンジ」終了
        ・ロス弁当をカウントしリーダーに報告

    【2日目】
    11:45 休憩スタート(司会から12:20までに取りに来るようにアナウンス)
    12:20 担当者が各会場を回りロス弁当を「フードロス対策ブース」に移動
    12:20 「食べるボランティア」スタート
        ・Peatixのチケット画面を提示してもらう
        ・お弁当をお渡しする
    12:30 2個食べチャレンジ開始(時間は現場判断)
        ・発動条件:ロスが多かった。ボランティアが少なかった
    13:20 「食べるボランティア」「2個食べチャレンジ」終了
        ・ロス弁当をカウントしリーダーに報告

    第4章 フードロス対策の効果検証

    1.実施状況(1日目・2日目)

     このような取り組みを経て、最終的にしまね自治研におけるフードロス対策の結果を記したい。ともにメイン会場の「くにびきメッセ」のみのカウントとなり、フードロス発生数については、後述のとおり流動的な対処となったため、残念ながら概算となった点に留意されたい。

    弁当発注数フードロス発生数フードロス対策後
    1日目1189個40個0個
    2日目1088個40個0個

     この通り、フードロスの発生は全体会、分科会ともにゼロを達成することができた 。しまね自治研全体の参加者数は2700人であり、これだけの大規模集会においてフードロスが発生しない運営が実現できたことは大きな成果となった。一方で、集会初日は午前のプログラムの時間がズレ込み、お弁当配布時間が遅れるなど想定していなかった事態も起きた。また、当日サポートに入ったメンバーとの役割分担が明確でなくスムーズな案内ができなかったことも課題として残った。
     最も改善の余地を残したのは、ロスとなるお弁当数の把握方法についてである。お弁当の配布は受付カウンターにて地域ブロック別に行ったが、フードロスブースには各受付から余ったお弁当が次々と送られて来るのと同時に、「食べるボランティア」が集まる状況となり、ロスとなるお弁当数を正確に把握する事が出来なかった。今後、ロスとなる弁当を「食べるボランティア」「2個目チャレンジ」へとつなげる上で精度を上げたフローを構築する必要がある。この点については、今後、さまざまな集会・会議においてフードロス対策が実践されることで知見が積み重ねられ、より良い手法が編み出されることを期待したい。

    ● 画像5 参加者に配布した弁当

    2.「食べるボランティア」参加者アンケートの結果

     実際に「食べるボランティア」に協力したボランティアのアンケート(N=23)の結果から、本取り組みに対する満足度を紹介したい。「しまね自治研・フードロス対策の取り組みについて全体的な満足度は」という問いに対し、「大変満足」「満足」が約9 割を超え、「自治労の集会で今後もフードロス対策を実施した場合、参加したいと思うか」という問いに対しても、「ぜひ参加したい」「予定が合えば参加したい」も約9割と高い評価を受けた。集会参加者にとっても、フードロス対策を通じて開催地に貢献できることは、集会準備から運営まで長期間尽力した開催地への返礼でもあり、上記のような高評価につながったことが伺える。
     一方で、準備の未熟さも露呈した。特に「2個目チャレンジ」を参加者に呼びかける際は、「若いから食べられるだろう」「体が大きいから食べられるだろう」というのは思い込みであり、場合によっては相手を傷つける可能性もある。「2個目チャレンジ」に協力してくれるボランティアは無理をすることなく、気持ちよく安心して食べてもらいたかったが、しまね自治研では運営側に十分な対策が出来ていなかった。実際、外見から判断され「食べられるのではと声をかけられた」とアンケートに書いた方もいたことから、今後、ボランティアへ「2個目チャレンジ」の協力を求める際は、思い込みを排し、気持ちよくボランティアに協力してもらえるよう、配慮が必要である。

    3.小括

     しまね自治研におけるフードロス対策の実証実験において得られた知見は大きく二点にまとめられる。第一に、参加者にフードロス削減の意識を共有することである。さまざまな媒体を通じて主催者から参加者にむけてフードロスを生み出さない集会運営を行うことを発信した結果、アナウンス効果によりフードロスの発生を抑制することにつながった。フードロスに取り組む姿勢を評価する声も多く、SDGsに配慮した集会として付加価値も高めることができた。地道な発信が集会開催前からさまざまな効果をもたらす結果となった。
     第二に、手の届く範囲でフードロス対策に協力してくれるボランティアを募集したことである。当初、子ども食堂や大学との連携を模索したが、結果的に衛生管理の問題をクリアするには至らなかったことから、参加者ベースでの取り組みに力点をおくこととなった。参加者の中から「食べるボランティア」が集まってくれるのか半信半疑ではあったが、弁当のロス数に対して十分なボランティアを得ることができ、手の届く範囲内であっても十分に効果が得られることが分かった。

    第5章 提言:組合活動からフードロスを生み出さないために

    1.フードロスチャレンジを終えて

     数ある自治労主催の集会において、フードロスの発生しない集会運営を掲げて実施するのは、今回のしまね自治研が初めてとなる。二千人を超える大規模集会においてもフードロスを発生させない集会運営を行い、フードロスゼロを達成できたことは画期的と言える。
     フードロス対策チームが約7か月にわたって議論を交わし、実際にしまね自治研において実践して得たフードロス解消にむけた有効策は「注文したら食べる」と「食べるボランティア」の二点である。解からみると、単純で当たり前と思われる方もいるだろうが、試行錯誤、紆余曲折をへて、挑戦したからこそ導き出した結果である。また、どちらの有効策も身の丈にあった範囲で取り組むことができる。フードロス対策チームにおいても、当初、他のセクターとの連携がなければ解決困難と考えていたが、結果的には参加者を対象に取り組みを浸透させることで、フードロスゼロを達成することができた。一番身近な参加者が最大の協力者となりうることを実感した。

    2.めざす未来

     かねてより連合では「連合エコライフ運動」のひとつとして、食品廃棄の削減を呼び掛けている。また、食べ残しゼロにむけた3010運動や15・10運動を提唱し、組合活動を通じたフードロス対策を呼び掛けている。これらの運動をもう一歩先に進める実践として、まずは組合主催の会議・集会におけるお弁当のフードロス対策を呼びかけられないだろうか。お弁当の廃棄に心を痛めている主催者は少なくないはずである。本稿を通じて、フードロスを生み出さない意識のもとで開催される会議・集会が、規模の大小に関係なく、産別の枠を超えて広がっていくことを心から期待したい。このような価値観や活動を、働くものの活動領域から少しずつ浸透させ、全国で開催される集会や会議で実践されれば、フードロスの削減に大きく貢献することができる。
     最後に私たちの取り組みを実践する上で欠かせない専門的知見を授けてくれた、認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ、松江保健所、島根大学生活協同組合へ謝辞を書き添えたい。実際には連携を行うことはなかったが、この方たちの協力や助言なしにはしまね自治研におけるフードロスゼロは達成しえなかった。また、フードロス対策チームの挑戦を支えてくれた、自治研中央推進委員会、とくに各集会におけるフードロスの実態調査に奔走し、エビデンスを補強してくれた静岡県本部・大木恭委員にこの場を借りて感謝を伝えたい。さまざまな助けがフードロスを生み出さない集会運営の実現を支えてくれたことを最後に記しておきたい。


    参考文献

奨励賞

  • 誰一人取り残さない安心社会のために-労働組合が「すべての働く人の応援団」であることを目指して-

    長谷川 麻紀(アルファ税理士法人 職員)

    【はじめに】

     かつての私は、「賃上げ」や「労働条件の改善」を遠い世界の出来事だと感じていた。従業員は私含めて3人の小さな会計事務所で、労働組合とは縁がなかったからだ。就業規則や労働条件はある程度整備されていても、給与交渉やキャリアパスに関する要望など、個人的な「より良くしたい」という思いを声にすることは、非常に難しいと感じていた。大手企業で享受される組織的な労働者の声が反映される仕組みは、私には異国の物語のように思えた。
     しかし、連合加盟の産業別労働組合で労働組合役員の専従をしている夫との日々の対話、そして自らの小さな一歩を通して、「労働組合」や「連合」の持つ計り知れない力を実感するようになった。個人の力では変えがたい課題に直面する人々の声を代弁し、守ろうとする組織があるという事実に、私は希望を見出したのだ。
     本稿では、「働くことを軸とする安心社会」の実現に向け、連合および労働組合が果たすべき役割について、労働組合がない立場からの具体的な気づきと提案を述べてみたい。この経験を通じて、労働組合が単なる賃上げ交渉の主体に留まらず、誰もが安心して働ける社会を築く「すべての働く人の応援団」であり得ることを確信している。私の体験が、多くの未組織労働者の共感を呼び、労働組合がその役割を拡大していく一助となれば幸いだと考えている。

    【第1章】労働組合が「ない」現実

    -そもそもどうやって声を上げればいいのか?-

     私の職場は、従業員は私1名と上司が2名しかいない小さな会計事務所である。就業規則や給与・有給休暇の管理は適正に行われていたと感じているが、その根底には、上司との個人的な信頼関係が基盤にあった。例えば、業績向上や勤務年数増加に見合う報酬アップは、自ら声を上げなければ実現しない状況だった。
     このような環境では、「さらに良くしたい」「もっと評価されたい」という前向きな要望であっても、口にすることは極めて困難だった。関係性を損ねるかのような心理的ハードルがあり、「個人の限界」を強く感じていたからである。
     特に「賃上げ」は、私には無縁の話だと考えていた。ニュースで聞く春闘やベアは大手企業の話で、私のような小規模事業所に勤める者には関係ないと思い込んでおり、意見を述べることさえ躊躇していた。正直に言って、「個別の交渉力」の限界を感じていた。
     厚生労働省の調査では、労働組合の組織率は年々低下し、特に中小企業は低い。これは、私のような未組織労働者が大多数を占める現実を浮き彫りにしているように思う。多くの人が、労働組合がない職場で、声を上げられない、あるいは受け止めてもらえないかもしれないという不安や孤立感を抱えているのだ。この状況こそが、現代日本の労働現場における、「表面的な整備」の裏に隠された「声なき声」の問題だと私は考えている。
     非正規雇用者やフリーランスといった多様な働き方をする人々も、既存の労働組合の枠組みから外れがちだと認識している。彼らは個々に契約を結び、労働基準法の保護が届きにくい領域で働く。ここにも、形式的な労働条件の有無を超えた、本質的な「交渉力」の欠如が見て取れる。この「声を上げられない」背景には、日本社会特有の「和を重んじる」文化と「終身雇用神話の崩壊」が複雑に絡み合っているように感じる。経営者に異論を唱えることが、職を危うくする、あるいは「居づらくなる」という心理的圧力になる。また、情報格差も大きな問題だと見ている。例えば、労働法規を学び、知識を付けたとしても、実践的な情報が不足している場合も少なくない。これらの複合的な要因が絡み合い、多くの「声なき声」が社会に埋もれている。この構造を変革し、誰もが安心して声を上げられる社会を築くことこそが、今、日本の労働運動に課せられた喫緊の課題だと認識している。

    【第2章】夫との対話が変えた意識

    -労働組合の意義に気づくきっかけは?-

     私の意識が大きく変わったきっかけは、夫との日常的な会話だった。夫は連合加盟の産業別労働組合で専従役員として、様々な組合活動や団体交渉に奔走している。
     ある日、私は夫に尋ねた。「賃上げって、大手企業だけの話じゃないの?」夫は穏やかに首を振り、「そうじゃない。労働組合のあるなしに関係なく、社会全体で賃上げのムーブメントをつくることが大切なんだ」と答えた。大手企業が賃上げすれば、それが中小企業にも波及していく。社会全体が「適正な賃金はこれくらいだ」という共通認識を持つことができれば、未組織の小さな会社でも、経営者も意識せざるを得なくなるというのだ。
     その言葉にはっとさせられた。賃上げは社会全体の底上げのために必要なこと。それを実現するには、「そういう空気」「そういう社会的合意」が必要なのだということに気づかされたのだと思う。夫はさらに、連合が毎年発表する「春季生活闘争方針」や、政府・経済界への要請活動など、社会全体の賃金水準を引き上げるためのマクロな取り組みについても説明してくれた。
     連合が掲げる「まもる・つなぐ・創り出す」というビジョンがある。そのうちの「つなぐ」ことが、働く者同士の間だけでなく、労働組合の中と外をも結びつけるものなのだと理解するようになってきた。「一人で抱え込まずに、まずは相談してほしいんだ」と夫は語っていたように記憶している。
     この夫との対話を通じて、私は労働組合の役割が、単に組合員の労働条件の改善や雇用を守るだけでなく、もっと広範で社会的な意義を持つものであることを知った。それは、まるで社会のセーフティネットの一部として機能し、経済的な弱者や声なき人々の権利を守り、社会全体で「人間らしい働き方」を追求する役割を担っているのだと。私自身がまさにその「組合の外」にいる一人であり、その存在の大きさに、私は初めて希望を感じ始めたのだと思う。
     夫との対話は、日本の賃金停滞の根源についても深く考えるきっかけとなった。夫は、賃金停滞がデフレ経済に加え、企業が人件費をコストとみなし、労働分配率を下げてきたことにも一因があると指摘した。労働組合の組織率の低下も、その傾向に拍車をかけた可能性があるという。しかし、近年、政府も経済界も「賃上げ」の重要性を認識し始めている。これは、労働組合が長年にわたって「賃上げこそ経済成長の源」と主張し続けてきた成果の一端であり、社会全体の意識がようやく追いついてきた証拠だと夫は語ったように記憶している。 夫はまた、労働組合が単なる「要求団体」ではないことも強調した。労働組合は、賃上げや労働条件の改善だけでなく、生産性向上への貢献、企業の持続的成長への提言、ワークライフバランスの推進、ハラスメントの防止など、多岐にわたる活動を通じて、健全な労使関係を構築し、企業価値の向上にも寄与しているというのだ。これらの話を聞くにつれて、私は労働組合が単なる労使対立の象徴ではなく、労使協調を通じて社会全体をより良くしていくための重要なプレイヤーであると理解するようになった。
     この意識の変化は、私自身の働き方に対する見方をも変えたように感じる。これまで「仕方ない」と諦めていた現状も、もしかしたら変えられるかもしれない。私自身の声も、社会の大きな流れの一部として受け止められる可能性がある。そう考えることで、漠然とした不安の中に一筋の光が差し込んだような感覚を覚えたのだ。夫との対話は、単なる知識の伝達に留まらず、自分の内なる意識を揺さぶり、行動へと駆り立てる大きな原動力となったように思う。

    【第3章】勇気を出して声を上げることができた「連合」の存在

    -たった一人で声を上げる勇気は、どこから生まれたのだろうか?-

     ある時、私は意を決して、事務所の経営者に対して賃上げの要望を伝えることにした。夫との対話で得た新たな視点と、社会全体の賃上げムードが、自分の中で確かな後押しとなったからだと感じている。特別な制度や後ろ盾があったわけではない。ただ、日々高騰する生活費や物価、そして自分の働きぶりに見合う報酬を求める、ごく自然で切実な思いからだった。
     要求内容をまとめるにあたり、自分の担当業務範囲と貢献度を客観的に見つめ直した。就業規則や労働条件が整備されていることは承知していたが、それが個別の賃金交渉の障壁となるわけではないと考えた。むしろ、「適正な評価と報酬」という側面から、自身の貢献度を明確に示すことが重要だと判断した。一般の賃金水準に関する情報も調べ、自分の主張する賃上げ額が客観的な根拠に基づいたものであることを示せるように準備したのだと思う。
     非常に緊張したし、言葉を選ぶのにも時間がかかった。経営者に切り出すタイミングも慎重に選び、面談の冒頭では日頃の感謝を伝え、「事務所に貢献したい気持ちは変わりませんが、正直なところ、現在の物価上昇と生活費を考えると、現状の給与では厳しい局面が増えております」と切り出した。自分の業務範囲の広がりと貢献度、世間一般の賃金動向を説明した。上司も最初から快諾したわけではないように見受けられた。人件費の負担増、事務所の経営状況などを理由に、一度は難色を示したのだ。
     しかし、私はそこで引き下がらなかった。夫から学んだ「粘り強さ」を思い出し、冷静に、しかし毅然とした態度で、自分の要求が正当なものであることを伝え続けた。
     この時、心の中には「社会全体で賃上げの流れがある」「連合がそれを後押ししている」という確かな「安心」があったように感じる。連合の取り組みや、夫の活動を通じて、「私のような人間の声も、きっと誰かが見てくれている。そして、この声が社会全体の流れと無関係ではない」と思うことができたのだ。この確信が、私を支える精神的な柱となっていた。孤立した状態では、人は自分一人で戦う勇気を持つことは難しいものだと思う。しかし、「見えない後ろ盾」としての連合の存在が、私にその一歩を踏み出す勇気を与えてくれたのだと考える。
     結果的に、わずかではあるが賃金の引き上げが実現した。この金額が、自分の当初の希望額を完全に満たすものではなかったとしても、私にとっては大きな一歩だった。賃上げの金額は控えめだったが、それがもたらした精神的な変化は計り知れないように感じる。
     この経験は、私に大きな自信を与えてくれた。声を上げることの難しさ、孤立感、そして「どうせ無理だろう」という諦めなど、これら全てを乗り越えて、自分の正当な要求を主張し、わずかであってもそれを実現できたという事実は、私にとって計り知れない価値があったように思う。そして、それは単なる個人的な成功体験に留まらず、社会の中に、私たち個人の声を受け止める大きな流れが存在すること、そしてその流れを創り出す存在が「連合」でもあるという確信へと繋がった。この経験こそが、私を「すべての働く人の応援団」としての労働組合の意義を深く理解するに至らせた、決定的な転換点となった。
     この経験は、労働組合が社会に与える「心理的効果」の重要性を示しているように思う。たとえ直接的な組織介入がなくても、その存在が社会全体に「労働者の権利は守られるべきものだ」「適正な賃金は支払われるべきだ」という意識を醸成し、それが個々の労働者の行動を後押しする。これは、組織率という数字だけでは測れない、労働組合の「見えない力」であり、極めて重要な役割だと認識している。

    【第4章】連合が「すべての働く人の応援団」であるために

    -連合は、どうすれば「組合の外」にいる人々の光になれるのだろうか?-

     連合は、加盟組織である労働組合のための存在であることは間違いがない。しかし、その使命はそれだけにとどまるべきではないと考えている。労働組合のない職場で働く人、非正規雇用者、個人事業主、フリーランス、外国人労働者など、「組合の外にいる人々」にも、働く人としての権利や声がある。その声に寄り添い、支えていく存在であってほしいと強く思う。
     そのためには、連合がこれまで以上に、多様な働き方をする人々にリーチし、彼らのニーズに応えるための具体的な取り組みを強化していく必要があると考えている。
     地域ユニオンや労働相談窓口の充実・周知を強化し、SNSやインターネットを活用した情報発信、例えば短尺動画コンテンツやWebサイト改善などを通じて、より多くの人々にメッセージを届けるべきだと考える。非正規労働者や若者、外国人労働者に対しては、特性に合わせたサポート体制の強化が必要だ。就業規則がある職場でも、「規則だけでは解決できないグレーゾーンの問題」に労働組合が寄り添い、解決に導いた事例を共有することも有効だろう。また、地域社会との連携を深め、弁護士や社労士など専門家とのネットワークを構築し、働く人々を包括的に支援する体制を整えるべきだと感じる。
     孤立した個人が「声を上げる」までに感じる壁は高いものだと思う。たとえ労働条件が「ちゃんとしている」と感じられても、より良くしたいという意欲を持つことは時に大きな壁にぶつかるものだ。だからこそ、その一歩を後押しする温かな仕組みが必要なのだと強く感じている。

    【第5章】労働組合の価値を高め、組織率の向上へ

    -「労働組合なんて関係ない」という壁を、どう乗り越えるのだろうか?-

     日本の労働組合の組織率は低く、「労働組合の意義が見えづらくなっている」ことの現れだと痛感している。特に、就業規則が整備され、最低限の労働条件が確保されている職場では、「労働組合がなくても困らない」と感じる人も少なくないかもしれない。だからこそ、労働組合本来の価値である「誰かの声を聴き、代弁し、守る存在」であることを社会に対して丁寧に発信し続けることが、組織率向上への第一歩となると考えている。
     労働組合の取り組みや成果を「見える化」するため、具体的な成功事例をストーリーとして発信し、データなどで客観的に示すべきだと考える。就業規則が整備されていても、個別のハラスメントや人間関係の悩みなど、「規則だけでは解決できないグレーゾーンの問題」に労働組合がどう寄り添い、解決に導いたかを示すことが重要だと感じる。
     多様なメディアを活用した情報発信も不可欠だ。SNSなどでの積極的な交流を通じて、より多くの層にアプローチすべきだろう。特に若い世代には、労働組合の堅いイメージを払拭し、「Z世代向けに10秒で分かる労働組合の意味」といったコンテンツやキャリア教育との連携を通じて、労働組合の活動を「自分ごと」として捉えてもらうべきだと考える。
     「連合がいてくれてよかった」と実感した私の経験は、決して特別なことではない。そうした無数の「最初の実感」を丁寧に積み重ねていくことが、信頼につながり、やがては組織化への第一歩となるのではないかと考えている。個別の労働相談や支援に徹底的に寄り添い、「たとえ労働条件が整っていても、個別の悩みに寄り添える存在であること」を示すことが、新たな信頼を生む鍵になると思う。
     連合が「まもる・つなぐ・創り出す」社会の実現を目指す中で、どれだけ多くの「まもられたい」「つながりたい」「創りたい」と願う人々と接点を持てるかが、今後の鍵を握っている。その接点一つひとつを大切にし、個別の声を社会的な力に変えていくことが、労働組合に求められる次なる役割なのだと強く信じている。

    【第6章】労働運動の未来と、多様な「はたらく」との向き合い方

    -変化する「はたらく」の形に、労働組合はどう寄り添うべきなのだろうか?-

     日本の労働市場は多様化し、複雑化している。副業・兼業、在宅勤務、ギグワーカー、生成AIの活用といった新たな働き方が急速に広がっている。就業規則や労働条件が整っている企業でも、これらの新しい働き方に対応しきれていない場合もあるだろう。こうした変化に対応しながら、労働組合もその組織や活動内容を柔軟に変化させていく必要があると考えている。
     今後は、従来の「企業単位」や「産業単位」を超えた、より柔軟な組織化と支援のあり方が求められるいくのではないか。個人加盟ユニオンの強化など契約形態に応じた支援モデルの開発が不可欠だと考える。就業規則がある会社で副業をする際のルールなど、「会社での労働条件」と「副業・兼業での働き方」のギャップから生まれる問題にも対応する必要があるだろう。生成AIの普及に伴う雇用の変化や新たなハラスメント、賃金構造の変化など、AI時代における労働者の権利と保護について、積極的に議論を提起し、新たなルール形成を求めていくことも重要だと考える。
     若い世代や未組織労働者が「労働組合とは何か」を知る機会を増やすことも、労働運動の未来を拓く上で不可欠だと考えている。学校教育への導入や、地域イベントでの啓発、社会人向け学習プログラムなどを通じて、労働運動の価値を伝えていくべきだろう。
     労働組合は、企業経営者、政府、地方自治体、学術機関、NPOなど、多様な社会的パートナーとの連携を強化し、社会全体で労働問題を解決していく姿勢が求められると考えている。労働基準法の改正や最低賃金引き上げなど、法制度の強化への政策提言を継続的に行う。労働組合がない中小企業においても、労使間の対話を促進するための協議の場を創設することは、就業規則の運用をより柔軟かつ労働者寄りのものにするための重要なステップになりうる。国際的な連帯を強化し、グローバルサプライチェーンにおける労働者の権利保護や、多国籍企業における労働条件の改善に取り組むことも重要だろう。

    【おわりに】未来に向けて、「まもる・つなぐ・創り出す」社会を

     今、社会全体が不安定さを増し、働く人々の孤立や分断が深まる中で、労働組合の存在意義があらためて問われているように感じる。就業規則やある程度の労働条件が整備されていても、個々人が抱える「より良くしたい」という潜在的な不満や、時代と共に変化する働き方への対応は、一企業の努力だけでは限界があるものだろう。
     「安心して声を上げられる社会」をつくるためには、法制度や政策の整備だけでなく、目に見えにくい不安や孤立に寄り添う仕組み、そして「自分は一人ではない」と感じられる連帯の場が必要だと考える。その中核にあるべきなのが、働く人々に最も近い存在である労働組合だと、私は確信している。
     連合には、「誰ひとり取り残さない」という強い意思のもとで、社会のすみずみまで目を向け、見過ごされがちな声をすくい上げる責任と力がある。それは、既存の枠組みに囚われず、新たな働き方をする人々や、これまで労働組合と縁がなかった人々にも積極的に手を差し伸べることで実現される。これらの取り組みを通じて、労働組合の活動が私たち自身の生活に直結していることを実感できるような社会を創り出す必要があると考えている。
     その姿勢が社会に広く伝わることで、「労働組合の価値」は再認識され、やがては組織率の向上や組織全体の強化にもつながっていくはずだと見ている。そして、一人ひとりの声が結びつき、社会的な力となることで、誰もが安心して働き、人間らしく生きられる「働くことを軸とする安心社会」の実現が、現実のものとなるだろうと信じている。
     名もなき一人が、臆することなく声を上げられることこそが、「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた第一歩であると、私は信じてやまない。そして、私自身の小さな一歩が、この大きな流れの一部となり、未来を創る力となることを願っている。


    参考文献

学生特別賞

  • すべての若者に公平なスタートラインを

    村松 優(中央大学 経済学部3年)

    働くことを軸にした安心社会。その理想像は、誰もが一度は夢見るものだと私は思います。雇用が安定していて、労働環境が整っていて、生活に困ることがなく、そして何より、未来に対しても明るい展望を描ける。そんな社会がもし実現したならば、どれだけ多くの人が日々の暮らしに前向きな気持ちを持てることでしょうか。朝の光の中、まだまぶたの重さが残るなかでも、少し目をこすりながら、「よし、今日もがんばろう」と自然に思える。そんな日常の連なりこそが、人生の土台になり、生きていくための力につながっていくと、私はそう信じています。朝起きて、パンを焼き、コーヒーを淹れながらテレビをつける。今日は天気が良さそうだ。そう思えるだけでも、心は少し軽くなる。駅までの道を歩きながら、空を見上げる。青空の広がる空を見て、「今日はいいことがあるかも」と小さく笑う。そんなふうに、自分の日常の中に安心感を見出せる社会。そのための「働くこと」であってほしいと、私は心から思うのです。けれど、現実はどうか。もし誰かに「今の社会は、あなたにとって理想的ですか?」と聞かれたら、私は胸を張って「はい、理想通りです」とは答えられません。いや、きっと多くの人が同じように思うのではないでしょうか。どこかでモヤモヤを抱え、どこかで不安を抱え、見えない将来に怯える。そんな感情を胸の奥にしまいながら、私たちは働いています。広がる格差。とまらない将来への不安。押し寄せる情報、止まらないストレス。そして、誰にも相談できない孤独感。働くことが、生きる糧ではなく、重荷になってしまっている現実があります。本来であれば、働くことは人間の尊厳を守る営みであり、社会とつながるための大切な手段であったはずです。ところが今、その「働くこと」が、かえって人の心を壊し、体をすり減らす要因になってしまっている。これでは、本末転倒です。私は、そこに深い矛盾を感じてなりません。ブラック企業という言葉が日常語のように使われる時代になりました。過労死という痛ましい出来事も、決して特別な事件ではなくなっている。それどころか、「働いているのだから、これくらい我慢しなくちゃいけない」「若いんだから、耐えるのが当たり前」そんな風潮がいまだに残っていることにも、大きな問題があると感じます。ニュースを見れば、連日のように働く現場で起きるトラブルが取り上げられています。パワーハラスメント、長時間労働、低賃金、雇用の不安定さ。そうした問題に直面している人たちは、実は決して一部の人間だけではありません。どこかで自分のこととして受け止めざるを得ない。そういう社会に、私たちは生きているのだと思います。だからこそ、私は考えます。「働くことを軸とした安心社会」を、どうすれば本当の意味で築くことができるのか。そのために、誰が、どんな役割を果たすべきなのか。とくに、労働組合や連合といった組織が、今の時代において果たすべき責任とは何か。私自身、大学で学びながら、就職活動という人生の大きな節目に立たされている一人として、真剣に向き合いたいテーマだと感じています。

    特に私が注目したいのは、「働く前」にいる若者たちの存在です。つまり、まだ社会人ではないけれど、その入口に立っている人たち。大学生、専門学校生、あるいは就職活動中の若者たち。なぜその存在に注目するのかと問われたら、それは私自身がまさにその立場にいるからです。今、私は大学生として、就職活動の真っ只中にいます。そして、学生でありながら、社会との接点を持つために、長期インターンにも参加してきました。自分が将来どんな仕事に就きたいのか、どんな働き方をしたいのか、何を大切にしたいのか。それを考えるためには、やはり「実際に働いてみること」が一番の近道だと感じたからです。そして大学1生の春休みに私は初めて長期インターンに挑戦する決意をしました。正直に言えば、業界のことも仕事内容も、まったく分かっていなかった。企業の名前だけで選び、「とにかく経験がしたい」という気持ちだけで、エントリーしました。そして運良く採用され、飛び込み営業という非常に厳しい現場に配属されたのです。その初日。今でも鮮明に覚えています。見知らぬ住宅街を歩き、インターホンの前で立ち尽くす自分。知らない家のチャイムを押し、見ず知らずの相手に、突然サービスの説明をする。言葉が詰まり、声が震え、手が汗ばみ、どうしても緊張が抜けない。相手の表情が硬く、冷たくあしらわれた瞬間、心がズキンと痛む。「自分は、いったい何をしているのだろう」そう思った瞬間が、何度もありました。逃げ出したくて、何度も心が折れそうになりました。アルバイトとはまったく違う世界。学生であることが通用しない、厳しいビジネスの現場。求められるのは、成果。甘えは通用しない世界に、私は戸惑いました。それでも、私がそのインターンをやめなかったのは、「この経験がきっと、自分を変えてくれる」と、どこかで信じていたからだと思います。もちろん、そう簡単なことではありませんでした。現場には常に数字が付きまとい、成果を出すことが求められました。結果がすべて。どれだけ努力しても、結果が伴わなければ意味がないと言われる世界。プレッシャーの中で、私は自分の価値を見失いそうになることもありました。他のインターン生の成績が良ければ、自分と比較して落ち込む。社員と同じような役割を求められ、未熟な自分を責めたこともありました。けれど、その一方で、仲間からの励ましや、ふとした会話、お客様の「ありがとう」という言葉に救われた瞬間も、数えきれないほどありました。業務に慣れていくうちに気づけば、私は少しずつ変わっていました。話し方が変わった。表情も変わった。そしてなにより、自分に対する見方が変わったのです。できない自分を責めるのではなく、「できるようになりたい」と願うようになった。ミスを恐れるのではなく、「次こそは」と思えるようになった。これは、机の上の勉強では決して得られなかった感覚だと、私は思います。

    インターンを通して感じたのは、社会の厳しさだけではありません。「働くとはどういうことなのか」という問いの重みです。私たちは、学生の間、どうしても「働く」という行為を遠いもののように感じてしまいがちです。でも、実際に現場に出て、社会の一員として扱われる中で、その距離が一気に縮まりました。「ああ、社会ってこういうものなんだ」と肌で感じる。それが、私にとって何よりの学びでした。近年では、インターンという言葉自体が特別なものではなくなり、就職活動の一環として「やっておくべきこと」のように扱われています。「インターン経験はありますか?」「ガクチカには何を書きますか?」そういった質問が当たり前のように飛び交う時代。もはや「やったかどうか」ではなく、「どんな経験をしたか」「何を学んだか」が問われているのです。

    企業側も、インターンを通じて学生の資質や適性を見極めようとしています。いわば、選考の一部として組み込まれているわけです。それだけに、インターンは学生にとっても、避けては通れない重要なプロセスになっています。しかし、ここに大きな落とし穴があることを、私は自分自身の経験を通じて痛感しています。

    すべての学生が、等しくインターンに参加できるわけではないということ。そこに、まず最初の大きな壁があるのです。たとえば、情報格差。大学によって、インターン情報の豊富さや、紹介制度の整備状況は大きく異なります。キャリアセンターが手厚いところもあれば、ほとんど支援がないという大学もあります。結果として、どこに、どういう企業が、どんな募集をしているのか、まったくわからないまま過ごしてしまう学生も多いのです。また、経済的な格差も見逃せません。有給インターンであればともかく、無給のインターンに参加するには、時間とお金に余裕が必要です。交通費、食費、場合によっては宿泊費。遠方の企業でのインターンに参加したくても、それらを自己負担でまかなうのは、決して簡単なことではありません。「お金がないから、インターンに行けない」という声。これは決して珍しいものではなく、実際に私の友人たちの間でもよく聞かれる話です。さらに、地方の学生にとっては、地理的な制約が大きな障壁となります。都心部には数多くの企業が集中しており、インターンの選択肢も豊富です。しかし、地方では募集自体が少ないうえに、都市部の企業に参加するには移動や滞在のコストがかかります。つまり、スタートラインがそもそも不平等なのです。このような状況で、「すべての学生がインターンを経験すべき」と語るのは、あまりにも一面的で、現実を見ていないと私は思います。

    こうした格差が存在する中で、最も深刻だと感じるのは「無給インターン」の問題です。一見すると「学びの場」のように見えて、実際には学生を無料で労働力として活用しているケースも存在します。もちろん、すべての無給インターンが悪質というわけではありません。学びを中心に据え、丁寧なフィードバックを行い、成長を支援してくれる企業もたくさんあります。しかし、その一方で、「教育目的だから報酬は不要」「学生だから労働法の対象外」といった言い分のもと、学生に実質的な労働を課しながら、その対価を支払わない企業もある。しかも、責任やノルマは社員並み。これでは、学生は使い捨ての駒になってしまいます。これは制度の抜け穴を悪用しているとしか思えません。私は、たまたま有給のインターンに参加することができ、良い上司や仲間にも恵まれました。けれど、それは幸運だっただけなのかもしれません。ほんの少し歯車がずれていたら、私は自信を失い、「働くこと」自体にネガティブな印象を持っていたかもしれない。つまり、インターンの質は、現時点ではほとんど運任せのような側面があるのです。このような現実に対して、私は一つの疑問を抱きます。

    「インターンとは、本来何のために存在するのか?」ということです。そもそもインターンは、学生が社会を知り、自分の適性や志向を確認する機会として位置づけられていたはずです。就職前に、実際の職場に触れることで、単なる「企業の名前」や「条件」だけでなく、仕事の中身や自分との相性を確かめられる。そのうえで、より納得感のある進路選択ができるようにする。それが、本来の意義だったはずです。

    しかし、現状ではどうでしょうか。
    インターンが就活の選考の一部として機能し始めたことで、学生側も「とにかく良い評価を得なければ」というプレッシャーにさらされています。そのため、「学びの場」から「競争の場」へと性質が変わりつつあるように感じるのです。この変化の中で、学生が置かれている立場は極めて不安定です。企業から見れば、まだ正式な社員でもなければ、労働者としての法的保護も不十分な存在。いわば、労働者でも消費者でもない「曖昧な立場」にあります。そしてその曖昧さが、制度の隙間を生み、不公平や不正義を生む温床になっているのです。だからこそ私は、いま一度問い直す必要があると感じます。「学生にとって本当に意味のあるインターンとは何か?」 「それを支える制度やルールは、十分に整っているのか?」「働く前段階にある若者たちを、社会はどう支えるべきか?」、こうした問いに正面から向き合うべきなのは、企業だけではありません。 むしろ、働く人々の権利や労働環境を守ることを使命とする、労働組合や連合のような存在こそが、声を上げるべきだと私は思うのです。なぜなら、インターンの現場には、すでに「働くこと」が始まっているからです。学生という立場であっても、そこには労働に近い経験が存在し、責任を伴う役割が与えられているのです。

    「インターンは教育の一環だから労働ではない」と言い切ることは簡単です。けれど、その実態が「明らかな労働」である場合、その理屈は通用しません。たとえ学生であっても、一定の業務に従事しているのであれば、労働法の保護対象となるべきではないでしょうか。そうした議論を本格的に進めていく必要があると思います。そして、学生自身にも「声を上げる力」が求められています。
    不当な扱いを受けたとき、不安や疑問を抱いたとき、誰かに相談できる場所が必要です。労働組合が、社会人だけでなく、インターン生や就活生、あるいはアルバイトとして働く学生たちにも開かれた存在であってほしい。安心して頼れる窓口があれば、どれだけ多くの若者が救われるでしょうか。

    今の時代、「学生=保護される側」という固定観念は通用しません。
    学生のうちから社会に出て、責任ある役割を果たすことが求められている。であれば、同時に「守られる権利」や「声を上げる手段」も必要なはずです。それがないまま、社会に出ていけと言われるのは、あまりに一方的で不誠実ではないでしょうか。

    私は、「働くことを軸とした安心社会」とは、決して社会人になってから始まるものではないと考えています。それはもっと前段階、つまり「働く前」の人たちにも等しく届くものでなければならない。高校生や大学生、就職活動中の若者。彼らもまた、「働くこと」に向き合い始めている人たちです。そうした人々が、不安なく第一歩を踏み出せる社会。失敗しても、やり直せる余地がある社会。そんな社会であってほしいと、私は強く願います。ここで一つ、私の友人の話を紹介したいと思います。

    彼女は大学3年生のとき、ある大手企業のインターンに参加しました。数週間にわたる実務型インターンで、プロジェクトの一員としてチームで成果を出すことが求められました。やりがいはありましたが、毎日の業務量はかなり多く、夜遅くまでオンラインで作業を続ける日々が続きました。にもかかわらず、報酬はゼロ。交通費すら出ませんでした。それどころか、「評価次第で内定に直結する」という空気が漂っていたため、メンバー同士が競い合い、次第にギスギスした雰囲気になっていったそうです。「最後の方は、何のためにやっているのか分からなくなった」と、彼女は言っていました。私はその話を聞きながら、「これが本当に“学びの場”と呼べるのだろうか」と、強い疑問を感じました。そして同時に、こうした状況が「よくある話」として共有されてしまっている社会に、深い問題があると思いました。これを放置していては、「働くこと」に対する信頼そのものが損なわれていくのではないでしょうか。

    働くことは、本来、尊い営みのはずです。誰かの役に立ち、社会とつながり、自分の存在を感じられる行為。けれど、その出発点であるインターンや就活の段階で心が折れてしまえば、「働くこと」自体に希望を見出せなくなってしまう。そんな若者が増えてしまうことを、私は何よりも恐れています。では、こうした問題を前に、私たちは何ができるのか。どうすれば、「働くことを軸とした安心社会」を、若者や学生にとっても実感できるものにできるのか。そのために、私は三つの視点から考えてみたいと思います。

    第一に、「制度」の整備です。
    現状のインターン制度には、明確なルールが存在していません。企業ごとに定義や内容、待遇がバラバラで、学生は手探りのまま応募し、現場に出て、はじめて「こんなに過酷だったのか」「こんなに放置されるとは思わなかった」と気づく。これは、あまりにも無防備な状態です。たとえば、インターンの種類を明確に分類するルールが必要です。1日完結型の業界説明インターンと、長期の実務型インターンは、目的も期待される成果もまったく異なります。であれば、企業はその目的や位置づけを明記し、それに応じた契約や待遇が設定されるべきです。「体験型」「実務参加型」「選考直結型」などの類型を定め、学生もそれを理解したうえで選択できるようにすること。それだけでも、誤解やトラブルは大幅に減らせるはずです。また、労働に該当する実務インターンには、最低限の労働基準法の適用を義務づける必要があると思います。勤務時間、休憩、報酬、安全配慮義務。それらが不明確なままでは、「教育」の名のもとに、無償で労働させる構造はいつまでもなくなりません。

    第二に、「教育」の再設計です。
    インターン制度の乱立に伴って、「実践経験のある学生が有利」という空気が強まっています。しかしその一方で、大学や専門学校側のサポート体制が十分とはいえない現状があります。「キャリア教育」という言葉は定着しましたが、それが実際の企業体験とどうつながっているのか。多くの学生は、そのギャップに戸惑っています。私たちが求めるべきは、インターンを「就活テクニック」としてではなく、「学び」としてとらえ直すことだと思います。つまり、キャリア教育の一部として、インターンがどのように位置づけられているのかを見直す。そして、学生がその経験から何を感じ、何を得たのかを言語化し、振り返る場をつくる。大学が単なる紹介機関ではなく、「学びの場」としてインターンを取り込むことで、学生の経験は一過性のものではなく、将来につながる「問い」に変わります。「私は何に価値を感じるのか」「どんな働き方が自分に合っているのか」――。そうした問いを自分に投げかけることこそが、本当のキャリア形成なのではないでしょうか。

    第三に、「連帯」の仕組みづくりです。
    ここで、労働組合や連合といった、働く人々の連帯を支える存在の役割が問われます。現時点では、インターンに参加している学生と、労働組合との接点はほとんど存在しません。しかし、働く現場の入り口で問題が起きている以上、組合はもっと早い段階から、若者に手を差し伸べるべきだと私は思います。たとえば、「学生・若年者向けの相談窓口」を常設し、インターンやアルバイトで困ったときに気軽に連絡できる体制を整えること。労働法や就業規則、最低賃金など、基本的な労働知識を伝える場を設けること。あるいは、悪質なインターン企業の情報を共有するプラットフォームをつくること。そうした取り組みが、若者の安心感を大きく高めるはずです。また、学生たち自身が「声を上げる力」を持つことも重要です。決して大きな運動でなくても、「これっておかしくない?」「私はこう思った」という小さな声の共有が、連帯の第一歩になります。SNSや学生団体を通じた情報共有、大学を越えたネットワークの形成。そこに、労働組合が伴走者として寄り添い、共に学び、動いていく。それが、次の時代にふさわしい「連合のかたち」ではないでしょうか。私は、労働組合という存在が、ただの「権利の代弁者」にとどまらず、「希望の伴走者」として若者のそばにいてほしいと願っています。「まだ働いていないから、組合には関係ない」、そんな境界線を越えて、「これから働く人たち」にも手を差し伸べる。それこそが、「働くことを軸とした安心社会」への第一歩だと、私は信じています。

    社会の中で生きるということ。それは、日々の生活を送りながら、自分なりの役割や存在意義を見つけていく営みだと私は思います。働くことは、その中核にあります。どこかに所属して、自分の時間や力を誰かのために使う。それが収入となり、暮らしを支え、誇りとなり、やがて自己実現へとつながっていく。だからこそ、働くことが「苦しみ」や「不安」ではなく、「希望」や「安心」と結びついてほしいと、私は切に願うのです。私自身、長期インターンという経験を通じて、働くことのリアルを学びました。楽しいことばかりではありませんでした。むしろ、怖くて、つらくて、何度も逃げ出したくなりました。でも、その現場で出会った言葉、表情、失敗、成功のひとつひとつが、自分を少しずつ変えていきました。「働くとは、こういうことか」と体で覚えた実感。それが、今の私の土台になっています。しかし、もしこのインターンが、もっと過酷な環境だったら。もし、助けてくれる人が誰もいなかったら。私は、ここまで来られなかったかもしれません。そして、それは私だけでなく、多くの学生にとっても同じです。だからこそ、「運」や「偶然」に頼らず、誰もが安心して働く世界の入口に立てるような仕組みが必要だと、私は強く思います。社会には、いろいろな人がいます。能力も、環境も、価値観も、それぞれ違う。でも、一つだけ共通しているのは、「よりよく生きたい」という願いです。その願いに応えられる社会。誰かの尊厳を踏みにじることなく、誰かの不安を放置することなく、一人ひとりが「働いてよかった」と思える社会。それが、私の考える「安心社会」の理想です。そして、そうした社会の実現において、労働組合や連合が果たせる役割は、今まで以上に大きくなるはずです。これまでは、働く人々を「守る」ことが中心でした。しかしこれからは、「これから働く人々」を「迎え入れ、育て、支える」存在へと進化する必要があります。その変化を、私は「希望のインフラ」と呼びたいと思います。組合は、「困ったときに頼れる場所」だけではなく、「何も困っていなくても関われる場所」になってほしい。セミナー、ワークショップ、イベント、オンラインコミュニティ。どんな形であれ、若者が自然に関わり、学び合える場づくりが求められているのではないでしょうか。ときに、私たちは「社会を変えるなんて無理だ」と思ってしまいます。自分一人が声を上げたところで、何も変わらない。大人たちは分かってくれない。そういう気持ちになることもあります。でも私は、今こうして文章を書きながら、信じたいと思っています。言葉は届く。想いは動かす力になる。小さな声が、やがて大きな変化を生む。そういう奇跡は、きっとある。飛び込み営業の現場で、何度も「帰れ」と言われました。でも、最後の最後で「話を聞いてくれてありがとう」と言ってくれた人もいました。その一言が、どれだけ心を救ってくれたか。社会は冷たい。でも、思った以上に、あたたかい。だからこそ、私たちもまた、誰かにとっての「一言」になれる存在でありたい。そう思います。

    安心とは、制度だけでは成り立ちません。人と人とのつながり、信頼、支え合い。そうした見えない力が、日々の生活を支えてくれる。労働組合が、そうした「見えない力」を制度として形にする存在であってほしい。一人では抱えきれない不安を、誰かと一緒に乗り越える場であってほしい。それが私の、心からの願いです。これから、私は社会人になります。どんな道を歩むか、まだ分かりません。でも一つだけ決めていることがあります。それは、自分が受け取った優しさや学びを、次の誰かに手渡していくこと。働くことで、社会に支えられた恩を、今度は自分が支える側として返していくこと。それが、私のこれからの生き方です。働くことを軸とした安心社会。その実現には、長い時間と、多くの人の力が必要です。でも、始まりはいつも一人の気づきから。一人の「おかしいと思う」「変えたいと思う」気持ちから。私もその一人として、小さな一歩を踏み出していきたいと思います。そして、その一歩が、誰かの背中を押す力になることを信じています。

講評と寸評

  • 講評と寸評

    講評

    第22回「私の提言」運営委員会
    委員長 相原 康伸

     本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承し、2004年から「私の提言・連合論文募集」としてスタートしました。第8回からは「私の提言・働くことを軸とする安心社会」を掲げ、連合がめざす社会像実現のための提言を連合組織内外に広く呼び掛けてまいりました。「山田精吾顕彰会」から28回目、連合の事業として22回目を数える等、年々、多くの応募をいただきながら、その定着を図ることが出来ました。

     また、教育文化協会設立30周年の節目にあたる今回は、「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-の実現に向けて連合・労働組合が今取り組むべきこと」をテーマに、新たに「ILEC30周年記念・組合特別賞」を設ける等、労働組合が織りなす様々な日常に迫る工夫も凝らしました。

     今回、全国から寄せられた応募件数は計57編。連合加盟の労働組合役職員はもとより、「どなたでも応募できます」という呼びかけに呼応頂き、労働組合の無い職場で働かれる方々、また、学生や定年退職された方々など、幅広い皆さまから貴重な提言を賜りました。心より感謝申し上げます。また、労働組合役職員から19編の意味ある提言をいただきました。主催者としては、労働組合の現場の取り組みが提言の源であることをより一層、周知してまいります。

     提言の選考にあたる運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言度」「自身の経験を踏まえたオリジナリティ性」などを様々な角度から最終選考を進めました。その結果、委員の総意で「優秀賞」1編、「佳作賞」2編、「ILEC30周年記念・組合特別賞」3編、「奨励賞」1編、「学生特別賞」1編を選定しました。
     今回寄せられた提言は、「これからの社会と求められる労働組合の姿」、そして、「その実現に向けた具体的取り組み」等、高い問題意識と実践に裏打ちされた読み応えのある、また、労働組合の未来を感じさせる力作揃いとなりました。
     その中で、「優秀賞」には、SNSを活用した若年層が労働組合を知る機会の創出を求めるという学生からの提言が入賞を果たしました。若者の目線から、労働組合は「待つ存在」から「出会いに行く存在」に変わるべきという新鮮、かつ、具体的な提言は、多くの示唆に富んでいました。入賞おめでとうございます。

     入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、金井郁さん、大谷由里子さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の57編の提言に託された思いを受け止め、連合運動に活かしていくことが私たちの使命です。連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向け、次回以降もより一層多くの皆様からの提言をいただけるよう取り組んで参ります。

     結びに、応募いただいたすべての皆様、そして、公正なる審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に心より御礼申し上げます。


    寸評

    國學院大學名誉教授 橋元 秀一

     本年度の応募は、昨年より13篇も増え、過去最多に迫った。労働組合員・組合役員や学生からの応募が目立った。30周年記念として「組合特別賞」が設けられたり、教育文化協会による冠講座など大学で労働組合について受講できる数が増えたりしたことや広報努力の影響と思われる。
     しかも、例年以上に力作が多かった。組合員の作品では、指定管理者制度導入に伴う組合活動の教訓と現場からの課題提起、フードロス対策の経験、女性委員会での集団的検討による提言など、組合活動の成果が寄せられた。また、実務を担う組合役員調査による組織運営の改善提案、キャリア支援やリスキリングを重視するものなど、今後の組合のあり方や課題について提言されている。学生の作品では、学生や若者に労働組合の存在を理解してもらう方法の提言、非正規雇用労働者やフリーランサーの労働組合・協同組合への組織化、学生のインターンシップの中で生じている問題や組合の関与を期待する提言などがあった。それ以外の一般応募者からは、非常勤講師や障害者としての経験を踏まえた問題の指摘と組合への提言や、深刻化する地域社会の脆弱さに対する労働組合が取り組むべき課題を提示するなど、「まもる・つなぐ・創り出す」ことを通じて「働くことを軸とする安心社会」をめざす連合への熱い期待と有意義な提言がさまざま寄せられた。これらの作品の中には賞に漏れたものの、授賞に値するレベルの作品もあり、個人的には絞り込みにここ数年で最も苦しんだ。
     優秀賞は、大学3年生の大山佳祐氏、吉村透真氏、大崎康平氏の共同執筆による「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会~SNSを活用した労働組合を知る機会の創出~」である。「現代の日本では、「不満があっても言えない」労働環境が常態化しつつ」ある。とりわけ「現代の若年層労働者は「参加しない⇄見えない」のスパイラルに陥って・・・「低組織率→交渉力の低下→組合の見えにくさ(低可視性)→さらなる組織率の低下」という悪循環を生み出し・・・「教育機会の不足」「影響力の希薄化」といった要因と相まって、若年層の労働組合離れを加速させている」とする。それゆえ、「「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会」の実現を目指し、労働組合が果たすべき新たな役割として、SNS(ショート動画等)を通じた情報発信を推奨」している。こうした情報発信が非常に重要となっており、労働組合にとって急務である。本作は、簡潔ながらデータを踏まえて説明しており、より具体的な提言内容が望まれたが、若者自身からこうした情報発信を強く期待する提言が寄せられたことは重く受け止める必要があろう。
     佳作賞は、廣田一貴氏「「人材の流動化」による労働市場や職場への影響~今後の企業・労働組合に求められるもの~」、前田充康氏「外国人特定技能者100万人の受入れが進む中、適正な受入れと人間尊重に基づく共生社会実現のため連合の果たすイニシアティブの重要性」が選ばれた。それぞれが取り上げた論点は、近年ますます重要となった問題であり、組合として取り組むべき施策を提示している。
     次回には、これからの新時代における連合・労働組合に対するさらに積極的な提言を期待したい。


    寸評

    埼玉大学教授 金井 郁

     2025年春闘も、個々の単組や産別の取組みが奏功し、賃上げを勝ち取る組合が多く、高水準の賃上げを達成し、組合員にとっても社会的にも労働組合の存在感が高まっている。しかし、労働組合が取り組むべき課題は多様化しており、生活者、労働者、組合員、学生という様々な立場からの思いや提言が今年も集まった。今回は57件の応募があり、労働組合関係者からの応募が増え、またその内容も多様で斬新なテーマが多かった。
     優秀賞は、大山佳祐さん・吉村透真さん・大崎康平さん(國學院大學3年生)が執筆した「不当な労働環境の下で働く人々が声をあげられる社会~SNSを活用した労働組合を知る機会の創出~」が選ばれた。同提言は、労働組合との接点を作ることの重要性、知ってもらうことの重要性をうったえ、それをいかに実現するのか具体的に提言している。労働組合が従来、不得意としてきたSNSの活用方法などの提案が具体的で、こうしたテーマに労働組合が取り組む必要があることを改めて読者にも訴えかけるもので、その構成、着眼点、文章力などが高く評価され、優秀賞となった。
     佳作賞は、廣田一貴さんの「「人材の流動化」による労働市場や職場への影響~今後の企業・労働組合に求められるもの~」と前田充康さんの「外国人特定技能者100万人の受入れが進む中、適正な受入れと人間尊重に基づく共生社会実現のため連合の果たすイニシアティブの重要性」が選ばれた。労働組合の視点から労働市場の流動化や共生社会をテーマとして取り上げ、具体的な提言を行っている点が評価された。
     組合特別賞には、石原崇弘さんの「“まもる”から“そだてる”へ ―フォー・ユーキャリアが描くキャリア支援型ユニオンの未来」、橋本英幸さんの「声を届けるだけでは、もう足りない ─指定管理者制度と現場からの提言─」、前田藍さん・楳田博之さん・田原孝次さんの「「食べ残しのない集会」への挑戦 ―しまね自治研におけるフードロス対策の実践と意義―」が選ばれた。とくに前田さんらのフードロスの取組みは、組合活動のなかでの弁当の廃棄をいかに減らせるのかといった独自の取組みで、フードロス対策だけでなく「廃棄労働」といった労働の側面につながる広がりのあるテーマにとして高く評価された。
     奨励賞は、長谷川麻紀さんの「誰一人取り残さない安心社会のために―労働組合が「すべての働く人の応援団」であることを目指して―」が選ばれた。未組織の小企業で働く立場から、賃上げ交渉を行った自らの体験を執筆したもので、未組織者が増える中で、今後の労働運動を考える上でも示唆的な内容であった。
     学生特別賞には、村松優さん(中央大学3年生)「すべての若者に公平なスタートラインを」が選ばれた。企業のインターンシップと採用のあり方がいかに変化しており、学生を「労働者」ではないまま、労働者のように扱い、それを学生がどのように受け止めているのかがよくわかる内容であった。インターンのあり方を労働組合としても検討していく必要性を感じさせるものとして、学生としての実感ある経験からの提言が高く評価された。
     来年も生活者、労働者、組合員といった様々な立場からの多くの提言が寄せられることを期待しています。


    寸評

    志縁塾 代表 大谷 由里子

     今回で22回目ともなりました連合への「私の提言」論文の募集ですが第1回目から関わらせていただいているのはわたしひとりになりました。テーマも最初の頃には無かったSNSに関する論文やリモートワークやハラスメントなどに関する論文もあり、時代の変化を感じさせていただいたり、世の中の変化を気付かされたり、また変わっていないものもあることなどを改めて感じたり楽しく審査させていただきました。
     私が住む岐阜県大垣市は25人に1人が外国人と言われています。結果ゴミ問題や学校や地域でのコミュニケーションの問題もあり、今回、個人的には国際行政書士事務所の代表である前田充康さんの論文、「外国人特定技能者100万人の受け入れが進む中、適正な受け入れと人間尊重に基づく共生社会実現のため連合の果たすイニシアティブの重要性」を推させていただきました。結果は、佳作賞でしたが、非常に現実的な論文だと感じて評価しています。
     もちろん、他の論文も興味深いものがたくさんあり、毎年のことですが、審査するメンバーもいろいろ悩みました。結果、優秀賞に選ばれたのは、國學院大學3年生の大山佳祐さんを含む3人で執筆された論文、「SNSを活用した労働組合を知る機会の創出」が選ばれました。学生ですが、論文の形式もしっかりしていて、また、組合への提言としても大切なことが書かれていて論文としての評価も高かったです。
     また、今年は教育文化協会(ILEC)設立30周年ということもあり組合活動のリアルを知るための「組合特別賞」も設けられました。そのためか、組合の現場で活躍されている方々の論文も多く運営メンバーにとっても学びになりました。その結果、選ばれたのは、キャリア支援型ユニオンについて書かれたファイブスター労働組合中央執行委員長の石原崇弘さん、指定管理者制度と現場について書かれた自治労松阪市民病院職員組合の橋本英幸さん、フードロスの取り組みを書かれた自治労本部総合政治政策局の前田藍さんを含む自治労しまね自治研フードロス対策チームの3人が選ばれました。いずれも現場の活動を踏まえた提言で他の組合にも展開できる内容でもあります。
     「人材の流動化」について書かれた電力総連の廣田一貴さん、佳作ですが職場調査もされていて評価も高かったです。また、学生特別賞の村松優さんは論文形式としては難があったものの内容は連合も取り組むべき問題でもあり受賞に至りました。  奨励賞の長谷川麻紀さんの論文は実体験をもとによくまとまっていました。
    今回は、全体として現場を踏まえての提言などしっかりした論文も多く、わたしとしては読み応えがありました。これからもこれらの提言をきっかけに組合活動に興味を持ってくださる人が増えることを期待しています。


    寸評

    参議院議員 吉川 沙織

     連合「私の提言」募集の運営委員として、第7回以降選考に携わる機会をいただき、評者にとって16回目を迎えた。すなわち、運営委員として15回以上携わってきたことになり、提言内容は当然ながら時代や社会の変化を反映していることが興味深い。  今回の第22回においては、教育文化協会の設立30周年記念として、「組合特別賞」を設けており、応募者が所属する組織で実績のある取り組みで、他の組織でも展開が可能なものが対象となったことから、応募者所属組織の取り組みについての紹介や提言が多かったことは特徴の一つである。
     そのような中、各運営委員が個別選考結果を持ち寄り、本審査となる運営委員会において活発な議論がなされた結果、優秀賞1編、佳作賞2編、組合特別賞3編、奨励賞1編、学生特別賞1編を選出した。ただ、その本審査において議論となったのは、優秀賞を学生の提言にするのか否かということ、組合特別賞うち1編については運営委員間で大きく意見が分かれたことなど、特に後者についてはこれまで15回以上の運営委員会の中で経験しなかったような議論もあったことは付記しておきたい。
     優秀賞に選出された大山氏(共同執筆)の提言については、SNSを活用した労働組合を知る機会の創出として、憲法・労働法などを含む法教育授業の実態を示し、労働法単独で授業が行われるケースがほとんどないこと、知識不足が労働組合のイメージを硬直化させること、高校や大学の正課に組み込むことは理念として望ましいものの、指導要領の改訂にはハードルがあることをデータを明らかにして示しつつ、非正規雇用や短期雇用といった不安定な働き方であればあるほど、労働組合を「知る機会すらない」ことの常態化を改めて示しており、問題意識や課題も明確、提言内容も具現化しやすいことから、運営委員の個別審査段階でも高い評価を得ていたことから優秀賞に選出されたものである。
     次に、佳作賞に選出された廣田氏については、労働市場の人材の流動化に着目した上で、より良い労働条件の構築に当たって労働組合の存在意義が非常に大きいことを論じ、人材の確保・定着に向けて果たす役割と、転職してきた社員の前の職場に労働組合があったということは基本的に考えない方がよいということを述べた上で、身近な存在として認識し共に活動してもらうため、他には見られないアプローチから提言をまとめており佳作賞に選出された。もう1編の前田氏については、昨今特に議論になることの多い外国人労働者の問題について論じており選出されたものである。
     奨励賞に選出された長谷川氏については、出典などは少ないものの、実体験に基づく説得力ある提言となっていることから選出され、学生特別賞については学生インターンシップについて論じており、社会的問題の提示でもあることから選出された。
     最後に、従前より指摘し続けていることでもあるが、提言の内容で実現可能なものについては連合等には活用して欲しいと切に願うものである。

運営委員会構成

  • 運営委員会の構成

    2025年9月4日現在

    運営委員長

    • 相原 康伸(教育文化協会 理事長)

    運営委員

    • 清水 秀行(連合 事務局長/教育文化協会 副理事長)
    • 橋元 秀一(國學院大學経済学部 教授)
    • 金井 郁(埼玉大学人文社会科学研究科 教授)
    • 大谷 由里子(有限会社志縁塾 代表)
    • 吉川 沙織(参議院議員)
    • 田中 智(UAゼンセン 常任中央執行委員)
    • 高橋 英司(電機連合 中央執行委員)
    • 今泉 竜(連合静岡 事務局長・連合 東海ブロック連絡会)
    • 平川 則男(連合総研 専務理事/教育文化協会 理事)
    • 南部 美智代(中央労福協 事務局長/教育文化協会 理事)
    • 永井 浩(教育文化協会 専務理事)
    • 河野 広宣(連合 総合組織局長/教育文化協会 常務理事)
    • 山本 昌弘(連合 総合企画局長)