『私の提言』

講評

第18回「私の提言」運営委員会
委員長 南雲 弘行

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、第8回から「私の提言・働くことを軸とする安心社会」として、連合が目指す社会像実現のための提言を組合員のみならず幅広く募集を呼び掛け、実施してまいりました。「山田精吾顕彰会」から数えて24回目、連合の事業となってからは18回目となる今回は、テーマを「コロナ禍を乗り越え、働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-の実現に向けて連合・労働組合が今取り組むべきこと」としました。

 連合はもとより、教育文化協会HP、公募ガイドなどを通じて、今回は60編の応募をいただきました。「どなたでも応募できます」という呼びかけに賛同し、労働組合役職員、会社員、教職員、学生、OBなど、多くの方から自身の経験に基づく切実な提言を応募いただいたことは大変喜ばしい限りです。今回は2020年から続く世界的な新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けるなかで、これからどのような社会、どのような働き方を目指すべきか、労働組合に何を期待するのかなど、それぞれの視点から提言をご応募いただき、テーマも多岐にわたりました。また、労働組合役職員からの応募は今回13編と、前回の6編から大きく増加しました。

 提言を評価する任務を与えられている運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言になっているか」「自身の経験を踏まえたオリジナリティある内容であるか」などを念頭に最終選考にあたり、委員の総意で「優秀賞」1点、「佳作賞」2点、「奨励賞」2点、「学生特別賞」1点を選出しました。特に、連合寄付講座を受講している大学生からの応募も続いており、今回は複数の学生の方が入賞を果たされるなど、労働教育の裾野が着実に広がっていることは回を重ねるごとに感じています。コロナ禍の中にあっても、若い世代が自分たちの社会、未来に対して積極的に提言いただいたことを心強く感じました。

 最終選考にあたっての議論経過は以上ですが、入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、廣瀬真理子さん、大谷由里子さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の60編の提言に託された思いを受け止め、いかにして連合運動に生かしていくかがわれわれの使命であると思います。連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向け、より多くの皆様からの提言をお待ちいたしております。

 また、最後になりますが、応募いただいたすべての方に感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に御礼申し上げます。


寸評

國學院大學教授 橋元 秀一

 新型コロナパンデミックが経済社会に激震をもたらしている。景気後退、テレワークなどの働き方の変化、休業による賃金減さらには失業まで広がった。職場や働く現場では、様々な課題に直面し工夫しているに違いない。その成果を労働生活や労働組合活動の改善へとつなげることが必要であろう。今回の提言テーマへの応募に、大いに期待した。60名が応募くださった。予想に反して、コロナ禍との関連での提言は多くはなく、自分のこれまでの歩みや経験の中から重要と考えることを主張する作品が少なくなかった。そこには凄絶な自分史が描かれていたり、困難を乗り越えてきた経験が語られていたりした。しかし、「with/afterコロナ社会においても、すべての働く人にとって『必ずそばにいる存在』となり、連合ビジョンで掲げる社会を実現するために連合・労働組合が取り組むべきことは何か、具体的な提言を募集します」という趣旨からすれば、読ませる作品ではあっても、「提言」としては評価することはできなかった。「提言」としては、次のような内容構成にご留意いただく必要があろう。論じるテーマ・問題の現状、そこにある問題点、それが生じている原因、対策としての具体的な提言とその意義などである。
 優秀賞は、佐久間悠太氏の「ジェンダー平等に基づくポストコロナ時代の安心社会の実現に向けて――政治分野における『クオータ制度』の導入に向けた運動の展開」が選ばれた。組合役員として取り組んできた経験を踏まえ、「会社の内部制度や職場環境を改善するだけでは限界があり、日本社会に組み込まれている法制度やジェンダー規範という問題について、日本社会全体で議論されるべき」との実感に基づいた提言をしている。ジェンダー平等が進まない現状、問題点、要因を踏まえ、政治分野のクオータ制度導入と同時に、男性正社員の組合イメージから脱却する組合内部改革も主張されている。多様な能力を認め合い支え合う労働組合にとって非常に有意義な提言であり、施策としてのさらなる具体化が期待される。
 佳作賞を受賞したのは、鄭ハナ氏である。悪質な顧客のクレームの問題を取り上げ、ソウル市の条例を紹介しつつ、「実効性ある感情労働者権利保護法制の構築」を提言している。大変有益な提案である。加藤真梨氏も佳作賞であり、将来教師を目指す学生の視点から、教師の労働条件改善のために労働組合が取り組むべきことを的確に提起している。学生特別賞として、島田紗英氏の「男性育休取得率の向上に関する提言―賃金と休業制度の観点から―」が受賞した。現状、問題点、要因、提言と論理的に分析を展開しており、主張は明快で分かり易かった。
 コロナ禍の下で、あるいはコロナ禍を乗り越え、労働組合がいかなる課題に取り組み活動を展開していくべきなのだろうか。次回には、職場や労働組合での様々な経験を通した提言が多数寄せられることを期待している。


寸評

放送大学客員教授 廣瀬 真理子

 コロナ禍に直面してから2年目の夏が過ぎました。第18回「私の提言」の応募締め切り日は、ちょうど東京オリンピック開催中の時期でもありました。暑いなか、競技に参加するアスリートとともに、「提言」作成へのラストスパートに力を注いでくださった応募者もおいでになられたのではないかと思います。たくさんのご応募をありがとうございました。
今回、審査対象となった提言は、52本でした。そのなかで入賞提言として、優秀賞1本、佳作賞2本、奨励賞2本、そして学生特別賞1本が選ばれました。以下では、入賞作品について紹介し、審査結果についてコメントを述べたいと思います。
 まず、優秀賞に選ばれたのは、佐久間悠太さんの「ジェンダー平等に基づくポストコロナ時代の安心社会の実現に向けて――政治分野における『クオータ制度』の導入に向けた運動の展開」でした。ジェンダー平等の実現について、政治分野でのクオータ制の導入が必要であるという主張は明快であり、具体的な一歩を進めるために、本提言の現実的な取り組みが期待されます。
 次に、佳作賞には、鄭ハナさんの「実効性ある感情労働者権利保護法制の構築を目指して~韓国における感情労働者権利保護法制、特にソウル市条例に基づく取り組みを題材に~」が選ばれました。鄭さんは、肉体労働者、頭脳労働者に続く第3の類型ともいわれる「感情労働者」に注目して、職場で顧客との間に生じる軋轢などを問題とし、それらの労働者の権利と保護について、法制化の必要性と労働組合のあり方について提言を行っています。鄭さんの日韓の比較研究にもとづく提言は、その背景に韓国の事例についての詳細な分析があり、提言に独自性が見出せることも評価の対象となりました。また、同じく佳作賞に、加藤真梨さんの「教師の労働条件改善に向けて―持続的な教育を目指して労働組合ができること―」が選ばれました。加藤さんは、現在、学生として教師になることをめざしながら、教師の劣悪な労働環境を知り、安全・安心して働ける学校をつくるために、教師の労働環境の改善について提言を行っています。
 そして、奨励賞として、工藤孝之さんの「コロナ禍で急増した生活困窮者の自立・就労に関する一考察=今、労働組合に求められるブレークスルー=」が選ばれました。工藤さんは、生活困窮者に対する就労支援を行っていますが、高齢の生活困窮者への就労支援を労働組合も含めてより社会的に支援すべきという提言を行っています。また、霜永智弘さんも奨励賞に選ばれましたが、そのタイトルは、「セーフティネットから洩れた若者たち―労働知識や情報を獲得するためのプラットフォームの構築に向けて―」でした。霜永さんは、若者が労働組合への関心を高めることと、連合の雇用・労働知識の獲得機会を提供する役割について提言を行っています。
 また、今回の学生特別賞として、島田紗英さんの「男性育休取得率の向上に関する提言―賃金と休業制度の観点から―」が選ばれました。男性の育児休業取得率を向上させるために、長期休業の義務化と育児休業給付金の改善を提言しています。ていねいに文献調査を行い、テーマへの取り組みに熱意が感じられました。
 来年も、多くの提言をお待ちしています。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 第一回から審査員を務めさせていただいています。今回で18回目になります。
そして、今回ほど時代を感じさせていただいた回はないです。今までになかったコロナ禍の現状など生々しい声やデジタルトランスフォーメーション(DX)やジェンダー論など新しい時代に向けての提言がかなりありました。一方で、学生さんたちの男女共同参画に対する提言など、真剣に自分たちの未来に向けての連合への提言もあり、ぜひ、労働組合の執行部の方々にも読んで欲しい提言もたくさんありました。
 優秀賞は、ジェンダー平等などを述べた中日本高速道路労働組合東京支部書記長の佐久間悠太さんに決まりました。佐久間さんは、労働組合の書記長ということもあって、LGBTや女性、非正規雇用などリアルに職場の課題を理解されていて、政策提言にもすぐに使えそうなくらい非常に分かりやすい分析と提言でした。
 佳作は、鄭ハナさんと学生の加藤真梨さんに決まりました。加藤さんの提言は、これから教師を目指す学生としての思いが詰まった提言でした。一方の鄭さんの提言は、「カスタマーハラスメント」に触れたもので、ソウル市の条例も題材にされていて、審査員メンバーにとっても勉強になる内容でした。わたしも含めて優秀賞に鄭さんを推す審査員も多く、佐久間さんか鄭さんかで意見が分かれました。結果、論文としての文章表現と具体性で少しリードした佐久間さんが優秀賞に選ばれました。が、「カスタマーハラスメント」は、実際、これから連合としても政策提言に入れて行く必要があるテーマなのでぜひ、たくさんの人に読んでいただきたい提言です。
 奨励賞は、同志社大学の博士課程の霜永智弘さんと工藤孝之さんに決まりました。
霜永さんは、セーフティネットから洩れた若者についての提言で、工藤さんはコロナ禍で急増した生活困窮者の自立・就労に関する提言で、どちらもリアルな現代を突きつけた内容でした。そして、確かに連合としても向かい合う必要のあるテーマでした。ただ、目新しさに欠ける部分もあり、これからに期待して「奨励賞」とさせていただきました。
 学生特別賞の島田紗英さんの論文は、男性育休取得率の向上に関する提言で、内容も文章も非常によくできていました。実際、一部の審査員からは、「優秀賞でもいいのではないか」という意見が出たくらいです。これからに期待して学生特別賞にさせていただきました。
 連合の寄付講座の効果もあって学生さんの応募が増えることは喜ばしいのですが、わたしとしては、やはり現場の労組のメンバーからの提言がもっと増えて欲しい。選挙と一緒で、「自分ひとりの提言では変わらない」と思わずに、もっと、現場からの声を届けて欲しい。そして、連合がその提言を受け止めて、政策に活かせるように
なるのが理想です。第19回も現場からのさらなる提言を期待します。


寸評

参議院議員 吉川 沙織

 連合「私の提言」募集の運営委員として、第7回以降選考に携わる機会をいただき、評者にとって12回目を迎えた。運営委員として10回以上を数えると、その回毎に応募者の傾向に特徴があること、社会背景が如実に提言に反映されていることがよく理解でき、コロナ禍の今回は特に興味深く拝読した次第である。
 昨年の第17回もコロナ禍における労働運動や社会の在り方等を問う提言はあったが、今回の第18回においては、年間を通じてコロナ禍にあったことから、感染症を主眼にしたり、感染症が引き起こす課題等を扱ったりした提言が特に多かった点を付記しておきたいと思う。

 さらに、運営委員が予備審査結果を持ち寄る本審査も、東京都等に4度目の緊急事態宣言発出中であったことから、オンライン併用で行われたことも特筆すべき点であろう。オンライン上においても各委員から活発な議論がなされた結果、優秀賞1編、佳作賞2編、奨励賞2編、学生特別賞1編を選出することができた。ただ、その本審査において、ここ数年必ず議論になるのが優秀賞選出の是非についてである。

 今回の本審査においても優秀賞選出の是非について委員間で議論となったが、幾つかの点を勘案し、ジェンダー平等とポストコロナ時代の運動展開の必要性を説いた佐久間氏の提言を最終的に選出した。評者は、自身が立法府に身を置く立場であることもあり、佐久間氏の提言を予備審査で優秀賞1編に選出していたが、選考過程の中で複数の委員から意見として出された佐久間氏の所属組織での取り組みの進展を期待するところである。なお、政治分野においては連合組織内議員とともに、与野党を超えて努力していきたい。

 また、佐久間氏の提言と並んで特に議論になったのは、佳作賞に選出された鄭氏と学生特別賞に選出された島田氏の提言である。鄭氏はコロナ禍において特に社会問題化したカスタマーハラスメントについて韓国の制度を取り上げ、島田氏は男性育休取得率の向上に向けて問題点を明確にしており、それぞれ高く評価されたものである。

 最後に、コロナ禍において社会の在り方はもちろん、連合運動の在り方も改めて問われているのではないかと深刻に考えさせられる提言が今回、複数存在した。今一度、多面的な観点から広く客観的にそれぞれの在り方を捉え直すことが必要であろうし、そのきっかけに本提言を含めた連合の取り組み一つひとつがこれに寄与するものになればと切に願う。


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