第18回「私の提言」

佳作賞

実効性ある感情労働者権利保護法制の構築を目指して
~韓国における感情労働者権利保護法制、特にソウル市条例に基づく取り組みを題材に~

鄭 ハナ

1 待ったなしの「感情労働者の権利保護」問題

 “連合・労働組合が、「働くことを軸とする安心社会―まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向けて取り組むべき最大の課題は、感情労働者の権利保護のために、実効性ある制度的基盤の構築に尽力することである”というのが、本稿における筆者の主張である。
 「感情労働者」とは、「窓口や電話での相談、販売店員、介護・看護職をはじめ、接客で自分の気持ちをコントロールすることを迫られる仕事」(大島2020:29)に就いている人々を指す。こうした人々の多くが、いわゆる「カスタマーハラスメント」(=顧客による度が過ぎたクレーム等。以下、「カスハラ」と呼ぶ。)にさらされ、「ディーセント・ワーク」とかけ離れた働き方をしている。たとえば、数時間に渡りクレームを受け、「お前のような低レベルのオンナでは話にならない」などと個人の尊厳を無視したような発言をされたり、怒鳴り散らされたりするといった具合である。
 そして、コロナ禍がこうした状況をさらに悪化させている。すなわち、2020年7月10日~9月23日にかけて実施され、233組合の2万6927人から回答を得た産業別労働組合「UAゼンセン」流通部門の「悪質クレームアンケート調査」によれば、回答した組合員の約57%が過去2年間で迷惑行為を受けたとし、そのうちの3分の1以上が新型コロナウイルス感染症流行の影響による行為だと答えたという
 このように、コロナ禍によって最も困難な状況にさらされているのが感情労働に従事する人々であり、彼(女)らの置かれた状況の改善は喫緊の課題となっている。にもかかわらず、そのための取り組みは不十分である。確かに、労働施策総合推進法など五つの関連法を改正することを内容とする女性活躍・ハラスメント規制法が2019年5月に成立し、「改正労働施策総合推進法」(同年6月施行)において、パワーハラスメント(以下、「パワハラ」と呼ぶ。)防止のための必要な措置を講じることが使用者側に義務化されるとともに(30条の2第1項)、パワハラの具体的な定義や事業主が講じる雇用管理上の措置の具体的な内容を定めるため、厚労大臣が「指針」を策定することとされた(30条の2第3項)。しかし、カスハラについては、法律上の措置義務の対象とはされず、上記「指針」(=「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2020年1月15日厚生労働省告示第5号))において、労働者からの相談体制の整備や被害者への適切な配慮等を行うことが望ましい旨が記載されるにとどまったのである。
 さらに、その記載内容は、極めて簡潔であり、中小企業を中心に「抽象的で分かりにくい」として、具体的な基準や対応方法を求める声が小さくなかった(『毎日新聞』2020年10月20日、東京朝刊)。そのため、厚労省は、カスハラについての企業向けの対応マニュアルを作成するため、2021年1月に「顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」をスタートさせた。同対応マニュアルは、2021年度中にとりまとめられる予定である。
 このように、カスハラ対応は、企業にとっての「努力義務」とされるにとどまっている。そして、“各企業が採るべき対応の具体的中身を国が検討している最中である”というのが、日本の現状なのである。
 問題は、国のマニュアルが作成・公表されたとしても、努力義務である以上、どれだけの企業がそれに真剣に取り組むのかは定かでないという点にある。もっとも、仮に将来的に「義務化」されたとしても、各企業の体制整備等が十分なものになるとは限らない。「実効性をどのように担保すればよいのか?」という大きな課題が残るのである
 以上のような問題意識に基づき、本稿では、韓国における感情労働者に対する制度的な取り組み、特に2016年に制定されたソウル特別市「感情労働従事者の権利保護などに関する条例」(以下、「ソウル市条例」と称する。)に焦点を当て、実効性ある制度構築のためのポイントを明らかにしたい。それを通じて日本における実効的な感情労働者保護法制の実現に向けた知見を得ることが本稿の目的である。

2 韓国における感情労働者権利保護法制―その内容・成果・機能条件・課題

2-1 韓国における感情労働者権利保護法制の内容①―条例~その広がりと内容

 韓国における感情労働者権利保護法制は、2016年1月に施行されたソウル市条例の制定によって口火が切られたと言ってよい。同条例は、「感情労働従事者」の権利を定めた上で(4条)、顧客に対し、「暴言、暴行、無理で過度な要求等を通したいじめ」、「性的屈辱感・羞恥心を生じさせる行為」、「感情労働従事者の業務を偽計若しくは威力で妨害する行為」を禁じ(15条)、使用者に対しては、機関別マニュアルの作成を義務づけているほか(11条)、感情労働従事者の該当顧客からの分離や十分な休息権保障、相談体制やメンタルとなった者に対する治療体制の確立などの保護措置も義務づけている(16条)。また、ソウル市に対しては、①「感情労働従事者勤労環境改善計画」の策定(5条)、②実態調査(6条)およびそれに基づく勧告及び経営評価等(8条)、③感情労働権利保障および保護のため教育の実施(第7条)、④ガイドラインの公表(9条)、⑤模範マニュアルの配布(10条)が義務づけられている。そして、感情労働関連事項を審議・諮問する「ソウル市感情労働従事者権利保護委員会」(18条、19条)や実態調査等を担う組織である「ソウル市感情労働従事者権利保護センター」(21条)の設置も規定されている。
 この条例の対象となっている「感情労働従事者」は、(ア)(自治体組織としての)ソウル市、(イ)ソウル市傘下の地方公企業および出資・支援機関、(ウ)市の事務委託機関、(エ)市の支援を受ける各種施設、(オ)ソウル市と工事、用役その他類似の契約を締結して契約内容による業務を遂行する法人等で働く感情労働者であり、ソウル市内で働くすべての感情労働者が対象となっているわけではない。単純化して言えば、「ソウル市の公的機関+ソウル市と契約関係にある、もしくは、ソウル市から補助金等を得ている民間事業者」で働いている「感情労働従事者」が対象ということになる。感情労働者全体に対するカバー率は高くはないかもしれないが、それでも約5万人を超える「感情労働従事者」が対象になっている(ジョン・ギルホ2019:38-39)。
 同条例は呼び水となり、全国の自治体で、類似の条例の制定の動きが広がることになった。ちなみに、2021年7月現在、66自治体(全国243自治体の中)で条例制定済みである。
 特筆すべき点として、その後に制定された条例の中には、同自治体で生活するすべての感情労働従事者を対象とするもの(例:京畿道「感情労働者の保護及び健全な労働文化助成に関する条例」、釜山広域市「感情労働者権益保護及び増進のための条例」、済州特別自治道「感情労働者保護などに関する条例」など)が現れているという点である(キム・セジン2020:21)。カバー率を上げるという点では一歩前進のようにもみえるが、他方で、「実効性が確保できるのか?」という大きな問題に直面せざるを得ないだろう。この点は、改めて後述したい。

2-2 韓国における感情労働者権利保護法制の内容②―法律~その内容

 上記の自治体レベルでの動きを受ける形で国レベルでも立法化の動きが生じた。2016年に「感情労働者保護法案」が国会上程されたのはその一つである。しかし、これは成立せず、最終的には、産業安全保険法の改正(2018年5月、同年10月施行)に帰結した。同法26条2項に感情労働者保護関連条項が新設され、感情労働者を雇用した事業主の健康障害予防義務等が規定されたのである(キム・セジン2020:9)。その後、2020年1月に、顧客対応以外の業務に従事する者にまで適用範囲を拡大することを主な趣旨とする全部改正が行われ、同条文の内容は41条に移動した。その後も細かな修正がなされており、以下が2021年5月末現在の内容となっている。

<感情労働者保護法(産業安全保険法)>

第41条(顧客の暴言等による健康障害予防措置等) 事業主は、主に顧客に直接対面し、又は「情報通信網利用促進及び情報保護等に関する法律」第2条第1項第1号による情報通信網を通じて応対しながら商品を販売し、又はサービスを提供する業務に従事する顧客応対労働者に対して、顧客の暴言、暴行、その他適正範囲を超える身体的・精神的苦痛を誘発する行為(以下この条で「暴言等」という。) による健康障害を予防するため、雇用労働部令の定めにより必要な措置を講じなければならない。 <改正2021.4.13.>

2 事業主は、業務と関連して顧客等第三者の暴言等により労働者に健康障害が発生し、又は発生する顕著な憂慮がある場合には、業務の一時的中断又は転換等、大統領令で定める必要な措置をとらなければならない。 <改正2021.4.13.>

3 労働者は事業主に第2項の規定による措置を要求することができ、事業主は労働者の要求を理由に解雇またはその他の不利な処遇をしてはならない。 <改正2021.4.13.>

 なお、同法と条例との関係については、「『産業安全保護法』は感情労働者の権利保護体系を包括的に表したものなので、各自治体の条例でこれを地域特性に合わせたり、人口構成により補完しなければならない」とされている(キム・セジン2020:10)。すなわち、法律はあくまで今後の感情労働者保護のための土台なものであり、条例が不要になったわけではなく、むしろ、法を補完するという位置づけとなっている。

2-3 韓国における感情労働者権利保護法制の成果

 ところで、上記の法改正に際しては、すべての条項に罰則規定を入れるべきとの意見が強かったものの、最終的な調整過程で除外された。これにより実効性の確保が難しくなったという見解もある。この点は、法制定によって実際に成果が上がっているのかどうかという問題につながる。実際のところ、どうなのであろうか。
 結論から言うと、法施行から2年経った段階で、残念ながら、感情労働被害が数値上減少しているという結果は報告されていないばかりか、コロナ禍によって被害がむしろ増加している側面すらあると言われている。雇用労働部の管理・監督は不十分であり、法律は有名無実化しているという批判もある。全体としてみた場合、期待された成果が上がっているという評価は見られない。
 では、自治体レベルの条例の方はどうか。実は、こちらについても、感情労働者に関する住民意識を高めることへの一定程度の効果があっても、直接的な目に見える形での成果が確認された例はない。しかし、例外がある。それはソウル市条例のケースである。ソウル市条例は、感情労働者の権利保護に一定程度成果を上げているとされている

2-4 韓国における感情労働者権利保護法制の機能条件

 では、なぜソウル市では、改善に結びついているのであろうか。筆者の考えでは、その最大のポイントは、条例に基づき、推進体制がしっかり整備されているという点にある。とりわけ、「ソウル市感情労働従事者権利保護センター(以下、「センター」と称する。)」の設立が最大のポイントである。これによって、第1に、独力では使用者責任を果たすことができない使用者を支援することが可能になっており、第2に、条例で規定されている任務をソウル市が遂行するための人員等の確保が可能になっているからである。
 まず、前者について言えば、ソウル市条例の制定前にまとめられた報告書において、市が感情労働者に関するガイドラインを使用者側に勧告しても、独力では使用者責任を果たすことができない(=それを実行できるような人材・予算を持っていない)使用者が存在すること、それゆえ、ソウル市が、そうした使用者をサポートする役割を担うべきことが明記されていた(ソウル市 2015:106)。
 これに対応すべく、センターでは、①機関別感情労働保護制度に関するコンサルティングの実施、感情労働マニュアルの開発、既存マニュアルの改善に向けたアドバイスを行ったり、②感情労働者に権利保障に関する教育、事業者・管理者に関しては義務措置事項の教育を行ったり、③1対1の心理相談、集団治癒プログラムを運営し、出張相談も行ったりすることで、独力では十分な感情労働者保護ができない使用者をカバーしている。加えて、④ネットワーク事業として、労働組合・事業者・政府・社会をつなげるソウル感情労働ネットワーク活動を行ったり、感情労働者の権利保障に一緒に取り組むことに関し、センターとソウル市内にある感情労働者が働く事業体との間で合意文書(覚書)を締結するという事業を行ったりしている点も、使用者支援の取り組みとして位置づけることができるだろう。
 一方、後者、すなわち、ソウル市の任務遂行への貢献について言えば、すでに述べた任務のほか、センターは、使用者から提出された報告書を検討し、改善事項を見出して、フィードバックする役割を担ったり、感情労働実態調査の実施を行ったり、感情労働者・事業所・ソウル市民を対象とするキャンペーンや広告制作、コンテンツ制作活動なども行ったりもしている(ソウル市感情労働従事者権利保護センター2021)。ソウル市では、これだけ広範な任務を遂行できているからこそ、一定の実効性が確保できているのであるが、これを市役所の一部局で担うことは困難であろう。

図表 センターの事業実績

図表 センターの事業実績

出典:ソウル市感情労働者保護センター(2021)の9頁をもとに筆者が翻訳)

 実際、他の自治体の条例においては、実態調査等は規定されているものの、努力義務にとどまり(キム・セジン2020:6、19-20)、実際、それが十分に行われていないケースも少なくない。予算の確保をはじめとする推進体制が不十分なのである(キム・セジン2020:6、10)。成果が上がっていないのも当然であろう。
 このことは、罰則論議についても示唆を与えてくれる。産業安全保険法の改正に際して、実効性を高める観点から、すべての条項に罰則規定を入れるべきとの意見が強かったことは、すでに触れた通りである。この見解は、罰則規定が実効性を高めるという前提に立っている。しかし、罰則を機能させるには、罰則を科すだけの論拠が必要であり、情報収集が不可欠である。そして、それを行うためには、十分な組織体制が確立されていなければならないのである。罰則さえ規定すれば、実効性が高まるというのは、過度の楽観主義と言わざるを得ない。

2-5 ソウル市条例の課題から学ぶ

 ソウル市条例は、感情労働者の権利保護に一定程度成果を上げているものの、使用者からの報告書の提出が極めて不十分な状況にあるなど、なお改善を要する点は少なくない。とりわけソウル市と契約関係にある民間事業者に対し、条例を遵守させるためには、やはり何らかの罰則なり、インセンティブが必要となる。
 しかし、すでに触れたように、罰則は、そのための論拠を揃えるなど、実際にこれを課すのは容易ではない。より使い勝手の良い仕掛けが必要であろう。では、それはどのようなものであろうか。
 この点、最終的には条例に反映されなかったが、条例制定前の最終報告書の中で、民間委託事業を発注する際、感情労働者保護のための内容を契約事項として入れることにより実効性を確保することが提案されていた点(ソウル市 2015:107)に改めて注目したい。感情労働者保護の義務を遵守しない民間事業者は、ソウル市と契約関係を結ぶことができない(また、補助金等も得られない)とする方針が提案されていたのである。これは、日本で言うところの「公契約条例」の発想であろう。ソウル市がいまだ実現できていないこの方策の導入こそ、実効性確保の最大のカギを握るのではないだろうか。

3 結論―実効性ある感情労働者権利保護法制の構築のために

 以上を踏まえ、実効性ある感情労働者権利保護法制の構築に求められる視点を最後にまとめることにしたい。
第1に、今後、日本で、カスハラに関しては相談体制の整備や被害者の配慮が法律で義務化されたとしても、実効性の確保を考えなければ、制度を作ったこと自体がゴールになってしまう危険性がある。
 第2に、実効性確保のためには、法律を整備するだけでは不十分であり、地域の実情を踏まえた条例との役割分担という視点が大事である。
第3に、感情労働者の権利保護の担い手として、自治体の責務を正面から見据える必要がある。とりわけ、独力では使用者責任を果たしきれない民間事業者をいかに支援していけるかが自治体に問われるであろう。自治体を感情労働者の権利保護の重要な責務のある存在とすることで、感情労働者の権利保護に関する社会的な雰囲気を作ることにも大きなプラスの影響があるものと思われる。
 第4に、実効性を確保するには、推進体制の整備が不可欠である。もっとも、昨今の財政事情からすると、いずれの自治体でもそれは難しいかもしれない。だとすれば、行政以外の主体、とりわけ労働組合が機能分担する形で協働していくことも考えるべきであろう。連合・労働組合は、この点でも旗振り役にならなければならない。
第5に、感情労働者権利保護の実効性を確保するためには、公契約や補助金との連動を図る必要がある。具体的には、連合や自治労が従前から制定を推進してきた公契約条例をバージョンアップした上で、これとの連結を図ることが特に有効であろう。これまでの公契約条例は、委託先(およびその下請け、孫請け等の)労働者の賃金に焦点を当てたものであったが、感情労働者の権利保障にも焦点を当てるというのが、そこで言う「バージョンアップ」の中身である。感情労働者を多く抱えている民間事業者との契約可能性が高いのは財政規模の大きな自治体であろうから、まずはこうした自治体での実現が期待される。
 なお、自治体職員の中にも感情労働者が少なからず存在するのであり、自治体行政組織自体にも感情労働者の権利保護の取り組みを浸透させていく必要があることも付言しておきたい。
 最後になるが、感情労働者は、かなりの割合で非正規労働者であり、女性であり、社会的な弱者でもことが多い。そして、コロナ禍は、感情労働者をより困難な状況に追い込んでいる。連合・労働組合が「まもる・つなぐ・創り出す」を大事にしているのであれば、まずは彼女たちにあたたかい手を差し伸べていただきたいと思う。


  1. 1983年にアメリカの社会学者・アーリーホックシールドが提唱したのがこの概念の初出であるとされる。
  2. 「過去2年間で受けた悪質クレームの3分の1が新型コロナの影響―UAゼンセンの組合員アンケート」『ビジネス・レーバー・トレンド』2021年4月号。
  3. 同条例は、脇田(2017)に訳出されている。
  4. 感情労働者の権益保護及び増進のために貢献した個人・機関・団体を褒賞できる”というオリジナルな規定を定めるチェジュ特別自治道条例に見られるように、細かな部分での違いはあるにせよ、条例内容は概ね類似している。この点をめぐっては、「…地域ごとに分けてみると、地域には特性がある。大都市のサービス業形態と、観光が特化されているチェジュ特別自治道のサービス業形態は多少異なる。…(中略)…このような状況では自治体の条例は地域の特性を反映する必要があるが、他の自治体の条例内容をそのまま採択したケースが多い。」(キム・セジン2020:6、18-19)という批判的な評価もある。
  5. 「期待半分 憂慮半分 施行する感情労働者保護法…実効性に関する騒ぎ)」『ツデー新聞』(2018年11月9日)。 (기대반 우려반 시행된 감정노동자 보호법…실효성 두고 ‘시끌’、투데이신문)
  6. なお、具体的な成果としてしばしば言及されるのが、「一発アウト制度」(一度の暴言等のみで応答をシャットアウトすることができるとする制度)の導入により、93%の悪質クレーマー減少を実現した茶山コールセンターの例であるが(ジョン・ギルホ2019:66)、これは、条例制定前の取り組みであることに留意していただきたい。すなわち、この成果は条例によるものではなく、むしろ、同コールセンターの取り組みの蓄積が条例制定につながっていったのである。なお、同コールセンターは、ソウル市との委託関係にある3つの民間事業者によって運営されていたが、2017年5月からソウル市の財団による直接雇用形態に変わった。
  7. 実態調査の結果は、経営評価などにも反映されることになっているため、使用者側からすると、影響の大きな仕組みだと言える。しかし、そうであるからこそ、慎重かつ段階的な導入が求められることになる。そのため、現時点では、報告書を経営評価に反映するための基準を作るための「感情労働保護制度移行点検」という取り組みの段階にとどまっている。以上、センターへの電話ヒアリングによる。

【参考文献】

  • UAゼンセン(2021)「第1回 顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」(2021年1月21日開催)提出資料
  • 大島秀利(2020)「感情労働とカスタマーハラスメント防止対策」『労働の科学』75巻4号
  • 脇田滋(2017)「韓国における雇用安全網関連の法令・資料(6) :ソウル特別市感情労働者保護条例・関連資料」『龍谷法学』50巻1号
  • キム・セジン(2020)「感情労働者権利保護条例の革新報告研究(감정노동자 권리보호 조례의 혁신방향 연구)」『希望イッシュー』No.58
  • キム・ジョンジン他(2021)「感情労働制度化現況と改善課題(감정노동 제도화현황과 개선과제)」『韓国労働社会研究所イッシュペーパー』152号
  • ジョン・ギルホ(2019)「企業―消費者の接点―労働者の感情労働現状及び主要イッシュー、改善方案(기업 소비자 접점 근로자 감정노동 현황 및 주요 이슈, 개선방안)」『誠信女子大學校』博士論文
  • キム・カンヌク(2018)「抵抗の重さ:コールセンター女性像…労働組合形成に関する体の現象学(저항의 무게 콜센터 여성상…노동조합형성에 대한 몸의 현상학)」『韓国文化人類学会』第51巻第3号
  • ソウル市(2015)「ソウル市公共部門感情労働報告書(最終版)(서울시 공공부문 감정노동 보고서(최종본))」
  • ソウル市感情労働保護センター(2021)「ソウル市感情労働センターを紹介します」
  • 松井健=松﨑基憲(2020)「悪質クレームの実態と対策の重要性―顧客等によるハラスメントに対面する労働者をいかに守るか パワハラ防止措置の義務化と企業対応」

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