第21回 私の提言
第21回「私の提言」は、7月22日に募集を締め切り、計44編のご応募をいただきました。貴重なご提言ありがとうございました。
運営委員会にて審査の結果、入賞提言を下記のとおり決定しましたので、発表いたします。
優秀賞
LGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ
1.はじめに
歴史的に、労働組合は労働者や社会的弱者の声をすくい上げ、しばしば政府や企業に先立って反差別や人権を訴え、議論をリードしてきた。しかし、現代において大きな課題となっているジェンダー平等やLGBTQ+(注1)の包摂に目を向けた際、労働組合が果たすべき役割を全うできているとは言い切れないのが現状だろう。
たしかに、日本労働組合総連合会(連合)も誰ひとり取り残されない社会を目指し、2017年には「性的指向及び性自認(SOGI)に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」 iを発表した。2024~2025年度運動方針の重点分野にも「ジェンダー平等をはじめとして、一人ひとりが尊重された『真の多様性』が根付く職場・社会の実現」ⅱを掲げている。ただ、多様性の重要性を理解し、労働組合の要求がなくても、前のめりに取り組みを進めている企業も増えており、労働組合の役割も再考せざるを得ない状況が生じているといえよう。一方で、企業の経営者中心の取り組みには課題があり、労働者の声を直接集めることができる労働組合だからこそ解決できるポテンシャル(潜在能力)があると考える。
本稿では、上記の問題意識に基づき、連合を含む労働組合がLGBTQ+の包摂をリードすることを提言する。具体的には、現状のLGBTQ+に対する経営者中心のアプローチの課題を述べたのち、労働組合が本来持つ役割をもとに具体的なアクションを提案する。
なお、本稿では下記2点の視点から議論を進める。第一に、LGBTQ+に関する議論は、当事者に対象を限定するものではない。すべての人に関わる問題であり、とりわけこの問題に関心の高い若年層に労働組合の役割を認識してもらう上で重要なテーマである。第二に、法律や政策ではなく職場単位の課題に注目する。労働組合にとって政策提言の重要性は言を俟たないが、個々の組合員や労働者が実際に行動することができるよう、日々の労働現場である職場から変えられることを中心に議論する。2.企業のアプローチと課題
2017年、経済団体の日本経済団体連合会(経団連)は、「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」を発表し、LGBTQ+への対応例を示した。2019年には、電機大手のNECが同性パートナーや事実婚の配偶者を法律上の配偶者と同等の扱いにするため労働協約書と社内規定を改定するなど、外資系企業のみならず日系企業でも対応が進められている。さらには、一般社団法人work with Pride によるLGBTQ+に関する取り組みの評価指標であるPRIDE指標(2023年)への応募企業・団体のうち、中小企業は22%を占め、企業規模を問わず取り組みが進められている。
また、各企業内のLGBTQ+の当事者や支援者が集まり、情報共有や意見交換を行う場として「従業員リソースグループ」と呼ばれるEmployee Resource Group(ERG)を結成する事例も見られる。こうしたERGは、属性などの共通点をもとに従業員が集まり、経営者に意見を伝える役割も果たしている。保険大手のアクサのERGを紹介した記事では、「日本の場合、従業員の声を経営者に伝える機能を担ってきた代表例は労働組合」だが、労組の組織率低下を受け、「ERGが労組に代わる意思疎通のルートにもなる」ⅲと指摘されている。ただ、ERGには後述するように組織としての限界があり、労働組合を代替する存在になると一概には言えない。
企業主導の取り組みはLGBTQ+の労働環境を実際に改善している点で大きな意義を有している一方で、以下のような課題も指摘できる。
まず、経営者や人事部門主導のアプローチでは、当事者の参画が制度的に保障されているわけではなく、トップダウンの施策に陥る可能性がある。その結果、当事者の抱える困難が解決できないことが想定される。企業側にとってもニーズが把握できないという問題が生じている。実際、2021年に国内の主要100社を対象としたアンケートでは、70社が 「当事者のニーズや意見を把握するのが難しい」ⅳと回答している。こうした問題を解決すべく先述したERGが結成されている場合もあるが、ERGは労働組合と異なり、法的な位置づけが与えられていないため、各企業の意向によって目的や権限を左右されてしまうという点で限界も明らかである。本来、人権は誰にとっても保障されるべきものであるにも関わらず、経営者の考えや経営状況に依存しているのが現状である。
そのうえ、企業では上司と部下という業務上の指揮命令系統があるため、上司がLGBTQ+に無関心であったり、理解がなかったりする場合は、制度が存在していても利用しにくい実情がある。もちろん、そうした事態を防ぐために、研修を実施している企業もあるが、研修でよく用いられるe-learningや有識者の講演のみでは意識を変えることは容易ではないだろう。仮に上司がLGBTQ+に寛容であったとしても、業務命令を下し、自身の評価を決定する相手に対して、セクシュアリティや性自認といったプライベートなことを開示することに抵抗を覚える当事者も多いと考えられる。法律で保障された労働者のそのほかの権利であっても、実際に行使するまでのハードルが高く、労働組合への相談が絶えないことを考えれば、企業の社内規定や担当者の個別判断に頼るしかないLGBTQ+の権利保障は極めて脆弱な基盤の上に成り立っている。
こうした状況を打開できるポテンシャルを有しているのが、労働組合である。労働組合法等で権利が法的に保障されている労働組合は、当事者からの意見集約および経営者への要求の両方を行うことができる主体である。労働組合は、実際に労働環境を改善するノウハウと人員を有している点も強みである。特に、ナショナルセンターである連合は、企業の枠を超えた連携や事例共有も可能であり、これまでの労働運動で蓄積した経験をLGBTQ+の取り組みに応用する素地をすでに備えている。
以上の議論を踏まえ、次節では、具体的なアクションを提示する。3.提言
(1)LGBTQ+に関する職場の課題を解決する
労働組合が労働環境を改善するために行ってきた取り組みを、LGBTQ+に関する領域にも適用するべきだ。すなわち、組合員へのニーズ調査、意見集約、経営側への提言・要求、解決に至る一連のサイクルを回す必要がある。給与や職場環境に関する調査時にLGBTQ+に関する項目も質問項目に盛り込むことがまずは一歩目になるだろう。
LGBTQ+に関する相談窓口を設置している労働組合もあるが、当事者からの連絡を待つだけではなく、プッシュ型で自らニーズを調査するべきだ。ERGによる意見収集に限界がある点と共通しているが、自分から声を上げることは心理的負担も大きく、相談するほどではないと思いとどまってしまうリスクがある。早めに相談できなかった結果、トラブルが深刻化し、休職や退職を決断せざるを得ない状態にまで発展するケースもあると予想される。一方、組合員全体を対象としたアンケート調査なら答えやすいという人もいるだろう。必要であれば、事前の許可を得て追加でヒアリングを実施すれば、詳細を確認することもできる。
また、このような調査は対象を当事者に限定しないことが重要である。非当事者からもLGBTQ+に対するハラスメントや差別を目撃したことがないかを聞き、職場環境を把握することが必要である。また、性暴力やセクシュアルハラスメントの抑止にアクティブ・バイスタンダー(行動する傍観者)の役割が注目されているが、調査を実施すること自体が非当事者の意識変革につながり、職場環境の改善に貢献する。こうした調査を実施すること自体が、労働組合がマイノリティの問題にも関心を有していることを知らせるメッセージにもなる。
困りごとを含むニーズを把握できれば、次に意見集約を実施するべきだ。当事者がニーズを的確に言語化できるとは限らないため、時として本人も気づいていない潜在ニーズを発見する必要がある。具体的な困りごとの背景には、ハラスメントや組織の風通しの悪さなど、そもそも関係性や職場環境に問題がある場合も想定できる。労働組合としては、個別の問題の背景にある社会構造や労使関係の視点から位置付けることも必要だろう。この点もERGにはない労働組合ならではの意義がある。
集約した意見をもとに、労使交渉等の場で経営者に提言・要求することも労働組合に求められる役割の一つだ。連合ビジョンでは、「一人ひとりを守るには集団的労使関係の確立と拡大が重要となる。働く一人ひとりは弱い存在であり、個別の課題をバラバラに要求しても解決が難しいことが多い」ⅴと述べている。この点は、まさにLGBTQ+に関する問題にもあてはまる。現状の企業中心のアプローチや個別相談だけでなく、集団的労使関係のもとで解決を図ることも検討されるべきである。
改善が約されれば、実際に改善されたかを継続的にフォローすることも大切だ。これまで労働組合が給与や労働環境の改善に対するチェック機能、ルールの周知・徹底の役割を果たしてきたように、LGBTQ+に関する問題も「やりっぱなし」ではなく、フォローおよび次回のニーズ調査へと一連のサイクルを回し続けることがより大きな効果をもたらす。性的指向・性自認による差別禁止を明文化する企業も増えているが、実際に守られているかどうかの調査まで企業側で手が回っていない場合も少なくないと考えられるため、職場に根を張る労働組合こそ実態を検証するべきである。
企業側で社内規定が定められていない場合は、担当者が変わると対応が変わることも考えられるため、労働組合へ個別の対応事例を蓄積し、ノウハウが失われないようにする役割も考えられる。(2)若手と経験豊富な幹部が連携する
上記の施策は、一部の労働組合の幹部のみで進めるべきではなく、若手の当事者とアライと呼ばれる支援者と連携して進めることが望ましい。担当者として抜擢するのも一手であろう。2016年の連合による調査ⅵでも、若い世代ほどLGBTQ+の認知率が高い傾向が示されており、上の世代や幹部だから詳しいと決めつけずに、若手の視点を率直に取り入れることが必要だ。
ただ、それは若手の意見をそのまま採用したり、言いなりになったりするという意味ではない。むしろ、経験のある労働組合幹部による適切な支援が求められる。2019年に9か国の17~19歳を対象にした日本財団の調査ⅶでは、「自分で国や社会を変えられると思う」と答えた割合は日本が最低で、18.3%だった。また、年功序列制度が変化しつつあるとはいえ、経験の少ない若手が経営側に意見を通すことは難しいことは容易に想像できる。だからこそ、経験豊富なベテランや幹部がメンターとなって、若手の意欲を生かし、職場を実際に変えられるまで伴走する取り組みが必要だ。
支援にあたっては、LGBTQ+に関する最低限の知識を習得していることが前提となる。基礎的な理解を欠いたまま、指導を行うことは、若手の離脱を招くだけでなく、それ自体がハラスメントのリスクになる。また、マンスプレイニングに陥らないよう注意を払わなければならない。マンスプレイニングとは、男性が女性に対し一方的に説明し、優越感を得る行為を指す。この構造は、男女間に限らず、若手と幹部の間でも生じることが懸念される。幹部は、若手を無知と決めつけ、説き伏せるのではなく、節度のある振る舞いによって、若手の自発性を伸ばすことが求められる。
このような配慮を行うことは、一見すると幹部の負担が大きいだけのようだが、若手と幹部が接点を持つことで、労働組合としての考え方やノウハウを継承し、次世代の労働組合を担う人材を育成する機会にもなる。(3)企業別労働組合の枠を超えて、上部組織でノウハウを共有する
労働者のプライバシーを保護したうえで、上部組織で対応事例やノウハウを共有し、よりよい職場環境の実現を目指して試行錯誤することも必要である。ナショナルセンターである連合は、加盟する労働組合から集まった情報を分析し、ベストプラクティスを見つけ出す役割が期待される。
LGBTQ+に関する対応の経験を持つ組合関係者は多くないと予想されるため、経験や知識のある人々が企業別労働組合の枠を超えて、助言などの支援を行うことも有効だろう。4.おわりに
本稿では、LGBTQ+を切り口に、経営者中心のアプローチの限界を解決する労働組合の役割を提言した。最後に、筆者の立場と本提言の意義について述べたい。
筆者は、LGBTQ+の当事者であり、現在、民間企業で勤務しているが、就職活動では心無い発言や差別に遭うことが多かった。その際、行政や大学のキャリアセンターにも相談したが、現在の法律では対応できないと言われたことが印象に残っている。幸いにも現在の会社では周囲の人に恵まれ、自分らしく過ごすことができているが、他の当事者からは、就職活動や勤務先で苦労しているという声も未だに聞く。
過去と比較すれば組織率が低下し、もはや労働組合に労働者の代表としての役割を期待しない風潮もあるが、本稿で強調した通り、労働組合の歴史や法的位置づけを踏まえれば、現状を変えられるポテンシャルがあると考えている。また、LGBTQ+に対する差別を禁止する立法措置の必要性は認識しているが、労働3法や男女雇用機会均等法ですら守られず、労働相談が行われている現状を考えると、差別禁止法が仮に成立したとしても差別が完全に解消されるわけではないと予想される。そのため、第1章でも述べたように、本稿は政策提言を議論の範囲から対象外とし、労働組合の課題に絞った。
本提言を実行すれば、LGBTQ+の当事者の職場環境を改善することができるだけでなく、労働組合が実際に職場を変えているという実感を与えられる。労使交渉が必ずしも上手くいくとは限らないが、多様性の尊重については、政労使で方向性は一致しているがゆえに、変化を生み出しやすい領域でもある点は強調しておきたい。
取り組みを通じ、労働組合の存在意義が明瞭になり、若手を含む熱意のある組合員を労働組合に引き付けることも可能になるだろう。労働組合の地位を向上させる意味でも、組合員の獲得と育成は重要である。
もちろん、労働組合や労働者の利益になるだけでなく、企業価値の向上、社会貢献にもなるため誰にとっても利益をもたらすといえる。経営者にとっても、これまで把握できなかったニーズを知る機会となり、LGBTQ+をはじめとする人材施策を改善する契機となる。
労働組合にとってLGBTQ+という領域は新しく見えるものの、本稿が論じたように労働組合のこれまでの取り組みの延⾧線上に位置づけることができる。もし、直ちに提言を実行できないとしても、部分的に取り入れることや一部の労働組合のみで先行導入することもできる。今こそLGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ変革することを呼び掛ける。
注1:「LGBT」以外にも性的指向・性自認等の性に関する多様なアイデンティティが存在するため、本稿では性的マイノリティの総称として「LGBTQ+」を用いる。
参考文献
- 1. 日本労働組合総連合会「性的指向及び性自認(SOGI)に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/gender/lgbtsogi/data/SOGI_guideline20190805.pdf?7722(2024年7月21日閲覧) - 2. 日本労働組合総連合会「2024~2025年度運動方針」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/about_rengo/data/2024_2025_houshin.pdf?9793(2024年7 月21 日閲覧) - 3. 水野裕司「傾聴力育むERGアクサ、働き手の意見吸い上げ」日本経済新聞、2022年3月9日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD17AGY0X10C22A2000000/(2024年7月21日閲覧) - 4. 土居新平「『LGBT差別禁止』84社が明文化100社調査、課題も浮かぶ」朝日新聞、2021年12月26日
https://digital.asahi.com/articles/ASPDT54BTPD7ULFA00N.html(2024年7月21日閲覧) - 5. 日本労働組合総連合会「連合ビジョン」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/about_rengo/data/vision.pdf?901(2024年7月21日閲覧) - 6. 日本労働組合総連合会「LGBTに関する職場の意識調査」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20160825.pdf?0826(2024年7月21日閲覧) - 7. 日本財団「18歳意識調査「第20回‒社会や国に対する意識調査-」要約版」
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/11/wha_pro_eig_97.pdf(2024年7月21日閲覧)
- 1. 日本労働組合総連合会「性的指向及び性自認(SOGI)に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」
佳作賞
地方連合会として労働組合の専従役職員のメンタルケアやサポートにどう関わるべきか~専従役職員を守るために地方連合会は何が出来るか~
はじめに
心理的負荷による精神障害の労災認定基準が2023年9月1日に改正された。改正された部分は、①具体的出来事にカスタマーハラスメントの追加、②心理的負荷の強度具体例を拡充、③精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲の見直し、④医学意見の収集方法を効率化――等である。それほど、精神障害の労災申請数が多く、業務が起因し、精神障害を引き起こしてしまう事由が幅広いということである。
さて、労働組合の専従役職員を取り巻く環境はどうだろうか。定常的に多い残業により、ワークライフバランスが良い環境とは言えない。また、産別・構成組織や単組の人員も潤沢では無いため、作業もひとりひとりの負担が大きく、また狭い人間関係であることからメンタル不調を引き起こしやすい環境が揃っていると思われる。
本論文では、労働組合の専従役職員の取り巻く環境を明らかにし、地方連合会として専従役職員のメンタルヘルスを守る取り組みとして何が出来るのか提言したい。1.メンタルヘルスの労働組合の取り組み、および労働者がストレスを感じる要因について
(1)メンタルヘルスについての労働組合の取り組み状況
メンタルヘルスについての取り組み状況であるが、まずは企業側の取り組みについて紹介したい。図表1は企業におけるメンタルヘルスの取り組みについてである。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.4%となっており、まだまだメンタルヘルス問題の取り組み状況には課題を感じる。また、内容(複数回答)については、「ストレスチェックの実施」が63.1%と最も多く、次いで「メンタルヘルス不調の労働者に対する必要な配慮の実施」が53.6%となっている。
次に労働組合におけるメンタルヘルスの取り組み状況についてだが、図表2は労働組合におけるこれまで取り組みを「行ってきた」とする労働組合は64.3%となっており、こちらもまだまだメンタルヘルス問題の取り組み状況には課題を感じる。また、取り組み事項(複数回答)別にみると「安全衛生委員会(衛生委員会も含む)の調査審議への参加」63.1%が最も高く、「組合員を対象としたアンケート・面談等による実態把握」55.1%となっている。
半数以上の企業と労働組合双方で労働者のメンタルヘルスを守る取り組みを行っている状況が分かった。(2)労働者がストレスを感じる要因について
次に、精神疾患を引き起こす要因についてであるが、図表3に記載があるように、強いストレスや不安を感じている労働者の中で最も多いのが“仕事の量”が約36%であり、“仕事の質”が約27%、“対人関係(ハラスメント含む)”が約26%、“役割・地位の変化”が約16%である。この回答状況から労働者は仕事の中で様々な要因によってストレスを感じていることが分かった。
次の章では、労働組合の役職員のメンタルヘルスの問題についてのインタビュー調査から見えた問題点について明らかにしたい。2.労働組合専従役職員をとりまく状況
(1)インタビュー調査の概要
①調査の目的
前章でも論述した通り、組合員のメンタルヘルスを守るための活動は行っていることは明らかになったが、自身たちのメンタルヘルスを守る活動を行っているという声は小さく、組織毎に区々である。インタビュー調査の目的は、労働組合役職員を対象とするメンタルヘルス調査や実態、文献自体が組織的に記録・整理されていないことから、実際に労働組合専従役職員を取り巻く環境について連合東京加盟の産別・構成組織および単組へ質的調査を行い、労働組合役職員のメンタルヘルスに関する課題を分析し、連合東京としてのどのような取り組みを行うべきか考察するために行った。②調査対象の選定
本インタビュー調査の実施にあたっては、本論文の主旨や目的について賛同頂けた、連合東京加盟の産別・構成組織・単組への質的調査を行ったものであり、意図をもって抽出したものではない。なお、本調査はメンタルヘルスという個人情報を含む内容であり、個人の特定を避けるため、産別・構成組織・単組からの希望により、職種・業種、規模などは一切公開しないこととする。③インタビュー調査の設問内容
1組織あたり2時間程度のインタビューとし、機密性の高い内容であるため、録音は行なわず、質問内容を3つに分けて行った。1つめは、産別・構成組織・単組の状況についての質問およびメンタルヘルスの取り組みについて、2つめは、メンタルヘルス不調者に対する質問、3つめは、メンタルヘルス不調者の対応を行った労働組合役員への質問で構成した。(2)産別・構成組織・単組の実態とメンタルヘルス対策に対する取り組み課題
①インタビュー調査より見えてきた産別・構成組織・単組の実態
まず、産別・構成組織・単組の状況およびメンタルヘルスにおける取り組みを知るところから始める。今回、連合東京加盟の産別・構成組織・単組は3組合へインタビュー調査を行い、それぞれの状況を比較すると図表4の結果となった。この表からわかることは次のとおり。
A組合は、メンタル不調者が出た場合、基本は事務局長に一任され負担が大きい。
B組合は、残業時間が定常的に多く、専従組合役員の業務負担が大きい。
C組合は、会社の医療センターを使用出来る。
メンタルヘルス不調者は医師およびカウンセラーへの相談が可能。
また、3組織とも新任の役員への研修は充実しているが、一方で中堅やベテランへの研修やフォローについては、「日常的なコミュニケーション」「本部役員からのフォロー」など充実していない状況にあり、産別・構成組織・単組の中核を担う中で、自身のキャリアアップや悩みを抱えた際に相談がしにくい環境にあることが推測出来る。②専従役員が組合活動をする中で感じる悩みや不安について
前項の推測に関係して、労働調査協議会の調査から分かった組合専従役員の悩みや不安について考察したい。図表5から分かるのは、支部分会専従役員の三役・執行委員に共通して挙げられている悩みや不安は「自分の時間や家庭生活が犠牲になる」「今後の組合役員としての将来が心配」「今後の仕事の昇進・昇格が心配」であるという結果が出ており、ワークライフバランスや今後の自身の仕事でのポストについて不安を感じていることが特徴的である。そして、一定数「役員の悩みを相談する相手がいない」を選択している役員もいるため、相談可能な相手が少ない実態が分かる。(3)産別・構成組織・単組のメンタル不調者について
続いて実際にメンタル不調に陥ってしまった役職員についてのインタビュー調査を行った。当人ではなく、当時の状況を知る役職員へインタビュー調査を行い、図表6のとおり3組合で計15名のメンタル不調者がいることが分かった。対象期間などは個人情報のため公開できないが、少なくはない不調者がいることが分かる。
この表から、性別や役職・ポジション関係なく、メンタル不調者が出ており、そのほとんどが人間関係から起因した問題であった。
在職役員のほとんどがメンタル不調を感じた場合は会社側へ戻り、職員の場合は配置転換することで人間関係のリセットを行い、専従役員も、職員同様に配置転換での対応となるが、組合内であることから範囲も狭く限りがあるため、根本的な問題解決には至っていない課題がある。
また、2023年平均の就業者数は6747万人(5)であり、前章でも紹介した令和4年度の精神障害における労災請求数2683件であるため就業者数に対し、メンタル不調に陥った労働者の割合は約0.004%である。一方で、A組合・B組合・C組合の在職人数115名に対し、メンタル不調者は15名であり、メンタル不調に陥った労働者数は13%となっている。今回の調査対象の労働組合数が少ないため、単純に比較は出来ない問題ではあるが、数値だけで言えば、労働組合内でのメンタル不調者数が多いことが分かる。狭いコミュニティの中での扱いとなり、課題解決も難しい状況にあることが伺える。(4)メンタル不調を抱える組合役職員の対応を行った専従役職員について
最後にメンタル不調を抱える組合役職員の対応を行った専従役職員へのインタビュー調査を行い、その結果を図表7にまとめた。一部メンタルヘルス不調者の対応について抜粋したものである。
この表からわかることは前調査「産別・構成組織・単組の状況」の結果とも合わせ、以下のとおり。
A組合は、すべての対応を基本的に事務局長が行うため(図表4参照)、事務局長への負荷が大きく、自身のメンタルを保つことが困難な状況にあることが分かる。
B組合は、メンタルヘルス不調を起こすまで周囲は気が付かず、時間外労働も定常的にあることから(図4参照)、お互いの変化の機敏に気が付きにくかった環境であることが分かる。
C組合は、組合役員が自死するというショッキングな内容であるが、対応した役員が同じ専従役員への相談や医療センターのカウンセリングにより、メンタル不調を起こさずに役員を継続している状況が分かる。
また、A組合とB組合は外部にメンタルヘルスの相談機能があった方が良いと回答しており、自組織外での相談機能は必要であると考えていることが分かった。(5)A組合とC組合の状況比較
①A組合とC組合を比較が必要な理由
今度はA組合とC組合の比較を行いたい。比較する理由としてA組合はメンタル不調の組合役職員が多く、事務局長への負担や相談可能な環境が少ないという実態がある。
C組合は組合役員の自死というショッキングな出来事はあったものの、同じ専従役員への相談や会社の運営する医療センターのカウンセリングが利用により、現在も専従役員を続けている。A組合とC組合は対照的な状況であるため、組合同士の状況を比較し、なぜこのような状況が起こるのかを分析していきたい。②A組合について
A組合は基本的に連合東京管轄内ではホワイトカラー系の職種がメインであるが、ブルーカラー系の職種もあり、個人能力主義である部分が大きい。組合の専従役員は、会社を休職し、完全に労働組合の雇用となり、昇進・昇格に関しても組合内でのポストが少ないため、狭き門である。また、役員構成が40~50代をメインに構成されており、かの有名な心理学者カール・グスタフ・ユングが“人生の正午”と例えた世代が多い。“人生の正午”とは、中年から老人への転換期は、それまでのものの考え方や行動を大きく変える必要があるが、人は簡単にはそのように変化することはできず、人生の午前と午後の境目の“人生の正午”こそが、人生最大の危機であるという考え方である。今後の人生を考えるタイミングで労働組合専従となるということは、自身のキャリアや人生を大幅転換しなければならず、精神的にも肉体的にも大きな負荷がかかることが予想される。
また、オープンショップ協定であるということは、自分たち自身で組合員を増やしていかなければならず、組合員の減少は組織の存続や労働組合に雇用されている人たち全体の問題になるため、大きなプレッシャーがある。③C組合について
一方、C組合はブルーカラー系の職種が基本的に多く、チームで作業し、一日の大半をその中で過ごすため、チーム内での人間関係が良くも悪くも大きく影響する。そして、ユニオンショップ協定のため、入社と同時に組合員となり、チームの先輩から組合行事へ誘われ参加するパターンが多く、労働組合を身近に感じる環境となっている。
労働組合専従役員も会社からの出向扱いとなり、基本的には会社の福利厚生が継続し、昇進試験も受験可能で、組合専従役員をしながらも会社の中でのキャリアが継続可能である。専従役員の構成も30~40代のため、比較的若い年代での構成となっている。C組合は約15年前から労働組合専従役員の若返り化を目指し、変革をしてきており、若手の役員がチャレンジしやすく、人間関係も同世代の役員同士で良好ということである。専従役員任期中は上部組織等への派遣の可能性もあるが、基本的には会社へ戻り、管理職となるパターンが多く、労働組合専従は片道切符ではなく、労働組合と会社の間の往復切符であるため、自身のキャリアを含め、会社に戻れる場所がある状況だ。④まとめ
以上のことから、両組合は対照的な状況であることが分かる。しかし、多くの組合は、A組合かC組合のパターンに当てはまることが多く、労働組合の歴史や状況は各組合で異なるため、どちらが正しい・間違っているということではなく、各労働組合の特性を理解した上で、それぞれの特性に沿った支援や活動が必要である。前章で労働者が仕事の中でストレスを感じる要因にもあった“対人関係”と“役割・地位の変化”という原因がA組合の中にあり、特にキャリアが不安定であることからメンタル問題を発症しやい状況があると推測出来る。しっかりとその対策を講じなければメンタル不調者を減らすことはできないが、このパートだけで判断するとなるとユニオンショップ制、かつ専従役員退任後のキャリア形成に接続されるということであると、その不安も解消されるが、その点については組織と人事的な課題であるため、今回は論じないこととする。
次の章では、本章で明らかになった労働組合専従の役職員のメンタルヘルスについての課題を連合東京としてどのように解決し、サポートが出来るのか提言したい。3.地方連合会として労働組合役職員のメンタルヘルス支援で何が出来るか
(1)労働組合役職員自身の学習の場の設定とメンタルヘルスを守る取り組み
前章で課題の一つとして取り上げた産別・構成組織・単組の中核を担う、中堅・ベテラン層へのフォローや研修機会について連合東京としてどう取り組むべきであるかを考えたい。
①S労働組合の労働組合役員へ向けたメンタルヘルス対応の取り組み
S労働組合では、労働組合役員のメンタルヘルスについての学習機会について活動方針に明記しており、労働組合の役員へ向けて、外部講師を招き、「組合員のメンタルヘルス相談」のセミナーを開催している。内容としては、「組合員に対するメンタルヘルスケア」や「組合員からの相談を受ける技術」、「相談を受ける組合役員の心のケアについて」である。このセミナーでは、傾聴の基礎が学ぶことができ、組合員から相談を受ける役員自身の心構えやメンタルヘルスを守る方法なども紹介することで、労働組合の役員自身のメンタルヘルス不調を起こさない取り組みを行っている。②メンタル不調者対応が与える影響について
中堅・ベテラン層になると組合員や所属の組織の部下や後輩に対し、相談対応や面談など行う場合がある。しかしながら、ほとんどの場合が、対応マニュアルがあるわけでも、研修やセミナーがあるわけでもないため、自身の経験で補い、対応していることを前章で明らかにした。広島修道大学准教授の塗師本彩氏(6)は、実際の労働環境においてフィールド実験を行った研究について記載された論文結果を自身の論文で引用している。内容としては、就職支援機関において働くキャリアカウンセラーに初めて受けに来た求職者をランダムに割り当て、そのことによる仕事負担の影響を分析している。メンタルヘルスの状態が悪い求職者のカウンセリングを行うことは、そうでない場合と比べて仕事の負担が大きいという結果を紹介している。つまり、メンタルヘルス不調の組合員や部下や後輩への相談や面談対応することは、仕事の負担をより増やしているということである。③連合東京として労働組合中堅・ベテラン役職員へ向けた取り組み
以上のことから、連合東京として中堅・ベテラン層へ向け、「メンタルヘルスのセルフケアと傾聴」について学べる学習コースの開設を提案したい。参集は月2回程度、期間は半年程度を想定している。なぜ、単発の開催ではなく半年程度の期間であるかというと、傾聴を軸とする産業カウンセラー(7)の資格取得に向けた養成講座も半年または10か月コースの2つが提供されているため、傾聴の技術の取得には少なくとも半年程度の期間が必要であることが分かる。また、先ほどから出てくる傾聴(8)とは、米国の心理学者でカウンセリングの大家であるカール・ロジャーズ氏により、聴く側の3要素を提唱している。- 1.共感的理解 (empathy, empathic understanding)
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。 - 2.無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。そのことによって、話し手は安心して話が出来る。 - 3.自己一致 (congruence)
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
――とある。傾聴はコンサルティングやコーチングとも異なり、相談者自身で問題解決の道筋を見つける手助けをし、カウンセラー自身も客観的立場から相談者と向き合うことで、自身のメンタルを保つための方法なども学べるため、労働組合役職員にとって役立つ内容である。
また、ある一定の期間を同じグループのメンバーと過ごすことにより、自組織以外の繋がりを作ることで、自分自身の悩みなどを相談する場が出来ると考える。
以上のことから、多くの労働組合を支える、中堅・ベテラン層へ向け、連合東京だからこそ対応可能な産別・構成組織の横の繋がりを提供し、自己研鑽や、組合員などの相談対応に対し、自信を高める学習の場としたい。(2)労働組合役職員へのカウンセリングの提供について
さて、次に労働組合役職員が悩んだ時や辛い時に電話もしくは面談でカウンセリングを受けられるサービスの提供を提案したい。
①産別・構成組織、単組でのカウンセリング提供について
前章でも労働組合の専従役職員が相談出来るような場が少ないことは取り上げた。自組織の中でカウンセリングや相談受けられることが一番であるが、カウンセリングの扱いをふまえ、自組織内の役職員が当事者であること、更には産別・構成組織、単組にて自前で用意となると費用面や負担など含め、ハードルが高い。また、人間関係の悩みを相談するとなると、労働組合内は狭い職場環境のため、相談しづらい現状がある。②カウンセリングの効果について
ここで、カウンセリング効果(9)について説明をしたい。ロンドンのローハンプトン大学でカウンセリング心理学教授をしているミック・クーパー氏によると、- 仕事に関する問題症状に関しては、全てのクライアントのおよそ半数において、カウンセリングの結果、通常の範囲まで回復する
- 病気や欠勤に関しては、(カウンセリング開始前の)25~50%まで減少する
- 仕事のコミットメントと満足度は増加する
- 薬物乱用は減少する
- 産業カウンセリングを利用した大多数の人がカウンセリングについて「非常に満足している」と答えている
――とのことである。つまり、カウンセリングを受けることで、問題を抱えている状況から通常の範囲までメンタル状況が良くなるということ、更には労働組合組織としての風通しが良くなり、生産性も一定程度維持することが分かる。
③連合東京がカウンセリングを行う意義
産別・構成組織を取りまとめるローカルセンターとして、連合東京は労働組合の役職員を守る必要があると考える。理由としては、会社組織であれば、組織として従業員を守る必要があるが、これを労働組合に置き換えると、連合東京は連合という組織として労働組合の役職員を守る責任や義務があるのではないだろうか。
また、カウンセリングのハードルの高さの一つに、自身の職種や職場の状況についてカウンセラーに説明し、理解をしてもらう必要があるが、労働組合が行うカウンセリングであれば、その部分はある程度理解可能なため、省略可能であり、相談者の負担が少なく、円滑に進むことが期待出来る。何より、電話相談であれば匿名、直接面談相談の場合も個人情報のため、外部に相談内容含め名前や組織名も漏れることがないため、内部で相談するよりも気兼ねなく利用出来る。そして、些細なことでも相談や話が出来る場があることで、未然にメンタル不調を防ぐことが出来る。
カウンセリングの担当も元労働組合の役職員のOBやOG、連合東京のプロパー職員など様々な年齢で構成し、相談者の特性や希望に合った相談員の担当を可能にし、安心して相談出来るよう、相談員は産業カウンセラーの資格の取得を必須とする。また、労働組合のOBやOGを雇用することで、今までの労働組合の経験をシニアになっても活かせる場となり、連合東京職員も含め、相互に良い刺激となると考える。
以上のことから、連合東京でカウンセリングを提供することでローカルセンターとしての存在意義をより高められると考える。おわりに
私たち連合の職員や労働組合活動に従事する役職員すべての人に、自分の周りの人が今どんな顔をして、どんな気持ちになっているのかを慮ってほしい。私自身も労働組合は組合員のために一生懸命活動していることは連合東京に入職して以来、痛いほど感じている。だからこそ地方連合会や連合本部は、足元の労働組合役職員を守る必要があるのではないか。本稿とあわせてハラスメントの加害者教育についても提言を考えたが、今回は様々な観点から見送ったものの、取り組みとしては必要であると考えている。引き続き私自身も連合東京の職員として、足元の組合員たちのために活動を頑張っていきたい。
参考・引用文献
- 1. 厚生労働省 令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_gaikyo.pdf - 2. 厚生労働省 令和3年「労働組合活動等に関する実態調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/18-r03gaiyou06.pdf - 3. 厚生労働省 令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_gaikyo.pdf - 4. 第5回 次代のユニオンリーダー調査
西村 博史氏(特別調査研究員)・職業としてのユニオンリーダー~専従役員の世界~
https://www.rochokyo.gr.jp/articles/2308_10.pdf - 5. 総務省 労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の要約 1頁
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/youyaku.pdf - 6. 塗師本彩「職場環境とメンタルヘルス」(2022年8月掲載)20頁https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/08/pdf/014-024.pdf
- 7. 一般社団法人日本産業カウンセラー協会「資格取得のスケジュール」
https://www.counselor.or.jp/portals/0/elearning/?utm_source=honbu&utm_medium=post&utm_campaign=lp - 8. 厚生労働省 こころの耳「傾聴とは」https://kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen001/
- 9. 産業カウンセリング研究所 「ミック・クーパー教授 カウンセリング特別講演会」(2009年8月実施)19頁 https://www.counselor.or.jp/Portals/0/resources/research/data/shiryou.pdf
産別および単組についての質問
- 1. 在職役職員人数
総人数:
役員:
職員 - 2. メンタル機能の相談の有無(どちらかに〇をしてください。)
有・無
(※有の場合は詳しく) - 3. 相談窓口の担当者(あてはまるものに〇をしてください。)
職場上長 組織上長 同僚 先輩 その他
その他の場合の担当者を記載ください。 - 4. メンタル疾患の労働者への対応方法
- 5. 新任役員に対してのスキルアップ研修の有無(どちらかに〇をしてください。)
有・無
(※有の場合は詳しく) - 6. 新任役員に対してのフォローの有無(どちらかに〇をしてください。)
有・無
(※有の場合は詳しく) - 7. 中堅・ベテランに対しての研修の有無(どちらかに〇をしてください。)
有・無
(※有の場合は詳しく) - 8. 中堅・ベテランに対してのフォローの有無(どちらかに〇をしてください。)
有・無
(※有の場合は詳しく) - 9. 時間外労働の有無どちらかに〇をしてください。)
有・無
ある場合は全体のおおよその平均時間を記載ください。
メンタル問題を抱える労働者に対しての質問
- 1. 年代
- 2. 組合役員歴
- 3. 性別(あてはまるものに〇をしてください。)
男性・女性・その他 - 4. 当時の担当業務
- 5. 病院受診の有無
無の場合→本人の状況
有の場合→診断名など - 6. メンタル問題を抱えた理由など(わかる範囲で構いませんので記載ください。)
- 7. 当人のその後について(メンタル問題を抱えた後、職場異動や退職などあったかなど。)
メンタル問題をかかえた労働者に対応した役職員対する質問
- 1. 年代
- 2. 組合役員歴
- 3. 性別(あてはまるものに〇をしてください。)
男性・女性・その他 - 4. 当時の担当業務
- 5. メンタル問題を抱える労働者に対する対応方法
- 6. メンタルダウンした労働者との関係
(ア) 労働者との関係性
(イ) 労働者との普段の業務での関わり - 7. メンタルダウンした労働者との面談後の当人の状況とその状況を受けての対応方法
- 8. 対応後問題は解決したか
- 9. 対応中や対応後の自分自身のメンタル状況について
- 10. 振り返った時に当時の望ましい対応は?またはどういった対応が必要であったか。
- 11. メンタルヘルス相談機能は、組織外部に設置したほうが良いか
- 1.共感的理解 (empathy, empathic understanding)
奨励賞
組合役員の人材確保と人材育成への対応 ―「組合役員の隠された魅力」と「労働組合としての失策」とは―
<はじめに>
日本における労働組合の組織率は、1980年代以降低下傾向にあり、厚生労働省令和5年労働組合基礎調査(1)では16.3%となっている。これは先進国の中でも最低水準である。
日本の労働組合の組織率の低下と労働運動の衰退は、社会の変化と共に労働者の意識や行動様式が変わったことを示している。
このような状況においても労働運動を推進し、組織を率いることができる組合役員の存在は欠かせない。これは労働運動に携わる誰しもが一度は耳にしている言葉である。
加えて、企業の競争力向上のために人材育成が大切であるのと同じように、労働運動の推進を後押しできるためのスキルを身につけた組合役員としての資質を兼ね備えることも寛容であると考える。つまり、組合役員の育成も欠かせない大切な取り組むべき課題であると考える。なぜならば組合員は、意識するしないにかかわらず、組合費というコストを支払う見返りとして、何らかの恩恵を期待している。それは、単なる労働条件の向上だけにとどまらない。最近では、仕事と生活を調和させ、両方を充実させるワークライフバランスに重きを置く組合員も少なくはない。むしろ大半の組合員はそうではなかろうか。
今日の日本では、その組合員の恩恵に応えるのは、「単組」の組合役員である。労働組合がどんなにたくさんの資金を持っていても、それを有効に使うことができなければ、組合費を集める意味はない。組合が持つ資金をうまく活用して、組合員に大きなベネフィットをもたらすためには、アイデアと実行力をもった有能な組合役員が必要である。
そして、日本における労働運動を根底で支えているのは単組であり、そこでの組合役員の実態を明らかにしなければ真の課題を追求することはできない。
更に、単組はナショナルセンターである連合や産業別労働組合における組合役員の最も大きな供給源である。
既存の調査から組合役員としての意識の変容など現状の課題を探るとともに単組の組合役員と退任した組合役員経験者のインタビュー調査を実施し、組合役員の人材不足の真の課題を追求したうえで組合役員の人材確保と人材育成への対応を提言する。1.既存の調査からわかる組合役員の人材不足の課題
既存の調査である次代のユニオンリーダー調査から「第5回次代のユニオンリーダー調査(2)」(以降、「第5回調査」とする。)と「第4回次代のユニオンリーダー調査(3)」(以降、「第4回調査」とする。)の7年における組合役員の意識の変容から組合役員の人材不足の課題を明らかにした。
(1)組合役員のなり手に対する意識
図表1では、「あまり経験しない」が2.3ポイント減少し、「よく経験する」が4.5ポイント増加していることがわかり、組合役員のなり手となる人材が不足している課題は健在であり、より深刻な課題になっていることがわかる。
(2)組合役員となりうる人材が不足する理由
次に組合役員となりうる人材が不足する事態になっているのかを既存の4つの調査結果から見出した。
図表2では、憧れや目標となる先輩役員がいないと感じる「よく経験する」、「ときどき経験する」が6.8ポイントも増えていることがわかる。年々憧れや目標となる先輩役員が減少し、組合役員を引き受けたものの、そこから憧れや目標となる先輩役員がいないことで、日々の組合活動のモチベーションや組合活動に対してのやる気に影響を及ぼし、組合役員の人材不足の一因となっているのではないかと推測できる。図表3で悩みや不満の大半を占めているのが、「自分の時間や家庭生活が犠牲になる」(37.8%)、「仕事が忙しくて組合業務ができない」(30.2%)、「組合が忙しくて仕事に支障をきたす」(21.4%)と組合活動と生活や仕事との両立に関する悩みや不満である。
次に多いのが「代わりがいないのでやめられない」(22.0%)、「組合活動の成果が感じられない」(19.9%)、「仕事や職場の変化についていけない」(18.0%)、「今後の組合役員としての将来が心配」(13.6%)といった組合役員の人材不足や自身のキャリアプランへの影響である。これらの結果から「組合活動と生活・仕事の両立」と「人材不足や自身のキャリアプランへの影響」この2つの事柄も組合役員の人材不足の課題を語るうえでは重要な論点である。図表4では、組合役員を引き受けることが企業内で魅力あるキャリアパスでなくなっているということがわかる。これは、組合役員の人材確保に大きく影響を及ぼす調査結果であり、労働組合としてこの結果をしっかりと直視していかなければならない。
これらの課題があってなお、現役組合役員がなぜ組合役員を引き受けるのか。図表5の調査結果では、自発的に組合役員となる人はほんの一部であり、大半は受動的で誰かしらの関与に影響を受けて仕方がなしに引き受けていることが伺える。この経験は恐らく現役組合役員の半数以上が経験してきたことではないかお推測する。
しかしながら、この結果に悲観する必要はないと考える。言い方を変えれば労働組合側から適切な関与をすれば組合役員を引き受けてくれる人がいることがわかる。(3)組合役員の継続の意思はどうか
図表6では、他にやる人がいなければとやむを得ずに継続を選択する組合役員が多いことがわかる。また注目すべき点は「どちらともいえない」(30.1%)という判断を示さない組合役員も全体の3割を占めていることである。
この層の組合役員が継続の意識を示すように変えていくかが、今後の労働組合の活性化に繋がる重要なポイントになると考える。(4)組合役員の人材育成はされているのか
図表7では、組合役員として育成されていないと感じる組合役員が増えており、育てられないことが組合活動に対する不満や愛着心の低下につながっているのではないかと推測できる。従って、組合役員の人材不足を解消するためには現役組合役員の人材育成も欠かせない重要な課題である。
2.インタビュー調査から人材不足の課題を探る
既存の調査で明らかになった課題から「組合役員というキャリアの魅力」、「組合役員の人材育成」の2つの視点から労働組合の全体的な傾向を単組のミクロの視点のインタビュー調査で検証した。インタビュー調査は、全国電力関連産業労働組合総連合(以下、「電力総連」とする。)に加盟する1つの単組(以下、「A労働組合」とする。)の現役組合役員と退任した組合役員を対象に実施した。
A労働組合は、約1万2千の組合員が加盟する電力総連においても比較的規模の大きい単組である。今回のインタビュー調査では組合役員のうち組合専従者を対象とした。
また、A労働組合は2~4年に退任時期が集中しており、特に3年目で退任する組合役員が多い。そのことから3年目を中心に、多様な組合役員の生の声を聴くために、年代、性別、役職のバランスを考慮し、組合役員および職場復帰した組合役員経験者に実施した。特に現在組合活動を担う現役組合役員と職場復帰した組合役員経験者の異なる視点から課題を探った。(1)インタビュー調査結果
①組合役員というキャリアの魅力
組合役員になることは本当に魅力がないのか、組合役員を経験して得られたこと、組合役員が魅力あるキャリアと認識していたかインタビューし、「組合役員の隠された魅力」に迫った。ⅰ)組合役員を経験して得られたこと
組合役員を経験して得られたことは、職場では経験出来ないような視野の広い知識の習得や何よりも人間関係の構築が最も経験として得られていることがインタビュー調査からわかった。
他に特徴的な点としては、インタビューの中で、一般職で組合役員となり、その後管理職で職場に戻ってから、一般職の時代には意識しなかった後輩の育成についても、組合役員時代の世話役活動などを通して培ってきた経験が職場での管理職としてのマネジメントに活かされていると話していたことは注目する点であった。
また、職場復帰した組合役員全員が組合役員の経験が活かされたと話しており、組合役員を経験する魅力は充分にあると言える。
一方で、インタビューにおいて組合役員を経験しないとわからないことであり、組合役員を引き受ける際には知らなかった。実際にやってみないと分からなかった。と話していたことも注目しなければならない。
組合役員というキャリアの魅力には組合役員になってから時間を経過してから始めて気づくものである。更に、職場に戻ってからその魅力をより強く感じていたのである。人材確保するうえでは、退任間近や職場復帰後にその魅力に気づいてからでは遅いのである。
つまり、魅力はあるが気づくには時間を要する「組合役員の隠された魅力」であると言えよう。ⅱ)組合役員が魅力あるキャリアと認識していたか
インタビュー対象者全員が魅力ある経験をしたと話す一方で、企業内で魅力あるキャリアと感じるかと問うとその魅力が必ずしも企業内で魅力あるキャリアに結びつくとはいえないことがわかった。
しかしながら、職場復帰した組合役員経験者はインタビュー時に組合役員を経験することは企業内で魅力あるキャリアであると話していた。インタビューにおいて職場に戻ってみると組合役員は魅力あるキャリアの一つであると感じたと話しており、現役で組合役員をしているときは感じられなかったことが職場に戻ってやっとわかるということがわかった。
つまり、組合役員になる以前や現役組合役員では魅力あるキャリアに気づける人が一握りである。現役組合役員がその魅力あるキャリアに気づいていないことが大きな問題であることがわかった。
したがって、いかに早い段階に組合役員を担って得られる経験が企業内で魅力あるキャリアであることに結び付け組合役員を担う人材を呼び込むことが重要であるといえる。②労働組合としての失策
次に労働組合としてなぜ活かせなかったかを組合役員というキャリアの魅力が伝わっていたか、更には組合役員の人材育成がなされていたかの2つの観点から「労働組合としての失策」に迫った。ⅰ)組合役員の魅力の発信
インタビュー結果から、対象者全てが自ら組合役員になることを選択したわけではなく、かつ、大半が労働組合からではなく会社の上司からの声掛けであることがわかった。そして、職場で組合活動や青年部活動を精力的にやっていて、心から労働組合役員になりたいという自主的な姿は、少なくともA労働組合のインタビュー対象者にはいないことがわかった。
一方で、組合役員になることが後ろ向きではなく、その形式においても会社の上司あるいは労働組合の委員長からの勧誘では、組合役員になることがその人個人のキャリアに影響あるものだと伝えてくれている場合もあることがわかった。
しかしながら、組合役員を引き受けるきっかけになり得る組合役員の魅力を、労働組合として充分に発信出来ているとは言い難い結果であった。ⅱ)組合役員の人材育成
A労働組合では、組合役員としての人材育成は初期導入の研修以降はOJTが主流となっていることがわかった。インタビューにおいて組合役員のキャリアプランを考えるのであれば中長期的な育成計画があった方が良かったとの発言があり、組合役員として育成されている実感はなく、大半が組合役員としての人材育成を求めていたことが分かった。
また、「組合役員として続けていくのか、職場に戻るのか、先行きを示されないことは不安であった。」「育成計画などビジョンを示すことが必要であったと職場に戻ってから強く感じた。」とインタビューの中で現役組合役員時代に不安を抱えていたことを語っていたことが印象的であった。3.人材確保と人材育成の仕組みづくりに向けて
組合役員を引き受けることは受動的であり、誰かしらの関与に影響を受けていること、組合役員を引き受けることが企業内で魅力あるキャリアでなくなっていると感じていること、そして組合役員から組織立った人材育成が求められていることが明らかになった。そこで4つの人材確保と人材育成への対応について提言する。
(1)組合活動と生活・仕事の両立に向けた効率化
既存の調査で明らかになったように、組合役員が組合活動と生活・仕事の両立が図れないことには、組合役員の人材確保や人材育成の仕組みづくりのスタートラインには立てない。
組合役員になると多忙で業務に追われているという話はよく耳にすることである。筆者自身も組合専従者でありながら、組合活動と生活の両立には苦労している面もある。多忙になる要因は人材不足など様々あるが、とりわけ紙ベースの文書管理や、対面での会議など、アナログ方式で行われている活動スタイルである。徐々に改善は図られているものの時代の流れには追いついていないといえる。
決して、過去から脈々と継承されてきた労働運動の精神を受け継ぐことは否定するものではない。しかしながら、活動スタイルを時代に併せてバージョンアップさせなければ、組合役員はおろか、組合員も労働組合への関心が希薄化するであろう。既に想像以上のスピードで希薄化が進んでいるのではないか。
加えてアナログ方式は時間がかかる上、資源の浪費にもつながる。このような非効率性な方式は、組合活動と生活・仕事の両立が出来ない大きな要因であると考える。
労働組合も時代に併せて進化しなければならない。初期投資や組合役員のデジタルスキルの向上など、乗り越える壁はあるが、労働組合として変えられるものを変える勇気を持って、デジタルツールやクラウドベースのシステムの導入などによる効率的かつ抜本的なデジタル化を進めるべきである。そして、組合役員が組合活動と生活・仕事の両立が出来る環境を整えることが組合役員の人材確保や人材育成の仕組みづくりの土台となると考える。(2)組合役員のポジティブキャンペーン
インタビューの中で「会社に入って組合役員をやるとは考えもしなかった。」、「組合活動に従事する中で、会社に入ってなぜこの活動をしているのか自問自答することもあった。」との発言があった。これは組合役員経験者の誰もが経験することであり、ごく当たり前のことである。
つまり、インタビュー調査で明らかになった「組合役員の隠された魅力」が言葉のとおり隠されたまま表に出ていないことが正にインタビューの発言に繋がっているのである。
したがって、「隠された組合役員の魅力」を組合内外に発信させることが重要である。
例えば労働組合が新入組合員の教育研修で労働組合の歴史や意義を説明するが、組合役員にどのような人がいて、その組合役員がどのような活動をしているかまでは、説明しないのではないかと推測する。こうした機会で、インタビュー調査結果にあった組合役員の体験談から、組合役員の魅力についてアピールしていかなければならないと考える。
組合役員には、比較的に相手との会話を円滑に進められるコミュニケーション能力が高い人が多いが、その能力を組合役員同士でしか発揮する機会を設けていないことも多く、能力が活かされていないことも多々あると考える。
そして、労働組合の活動は、組合員や外部にも発信するが、組合役員がどのような活動をやっているかなどの、労働組合内部のことを発信することに対して、極めて保守的であると感じる。
これが、組合役員の隠された魅力の、「隠された」に繋がっているといっても過言ではない。組合役員の人材確保のためには、例示したような機会を捉えて、組合役員の魅力を組合員や企業に対してもオープンに発信する、ポジティブキャンペーンを積極的に行うべきであると考える。(3)組合役員を組合員から広く募集する
組合役員を引き受けるきっかけは、企業の上司から打診あるいは組合役員からの勧誘が主流である。特にA労働組合では企業の上司からの打診がほとんどであった。かく言う筆者も企業の上司からの打診により現在に至るのであった。インタビュー調査では、引き受ける際に組合役員の魅力について、説明なく引き受けているケースがほとんどであり、その後、組合役員になってから、やっと組合役員の魅力に引き込まれていくものであった。
つまり、組合活動の魅力が労働組合内部で留まり、組合役員を担う組合員に、組合役員の魅力が伝わらない状況となっているのでは、と考える。それでは、優秀な人材確保をすることは難しい。
例えば、組合員に対して、広く組合役員の公募をするのはどうだろうか。組合役員は、通常民主的に選挙で選ばれる。それは推薦ないし立候補により選出される。公募をすることで、能動的に組合役員をやりたい人も立候補することができる。当然、公募となるため、一定程度面談等の適正の判断や、企業側の理解も必要となるが、公募制度にはメリットも多くある。
組合員は、自ら進んでなりたい組合役員になり、自分の思い描くキャリア形成に沿った組合活動ができるので、必然的に活動へのモチベーションが上がり、組合活動の活性化に繋がるのではと考える。
また、公募する労働組合としても、意欲が高い人材を迎えられることにつながると考える。全組合員に対して行うことは容易ではないが、まずは、青年活動イベントから公募を取り入れていくべきと考える。(4)組合役員の魅力を広める語り部の任命
今回のインタビューでは、3名の職場復帰した組合役員経験者へインタビューを行った。最も組合活動の魅力を知っており、職場に戻っているため、労働運動を担う人材となる組合員に一番近いという強みを持っている。更に、インタビューの中では、3名共に、組合役員は魅力あるキャリアであると断言していたのである。長年組合役員として労働組合活動に従事してきた知見やノウハウを、退任してしまったからと言って発揮できないことは非常に惜しいことである。この、退任した組合役員との接点を上手く活かせないか。
組合役員を退任したため、組合活動を主体に取り組むことは難しいと考えるが、退任後に有志で、「語り部」としての職場委員に任命し、組合員と日常的に接しながら組合役員の魅力について宣伝することはできないだろうか。
例えば、春季生活闘争の情宣活動が行われた際に、語り部の組合役員経験者が、組合役員がどのように関わっているかを組合員に宣伝することによって、組合役員の活動に関心を示してもらうことができるのではないかと考える。
退任者の意向や、労働組合規約、企業との調整等が必要となるが、労働組合として組合役員の人材確保のために、あらゆるコネクションを活用すべきと考える。(5)組合役員の責任ある人材育成を
組合役員のほとんどが、長い職業生活のごく一部分を組合側で過ごす。A労働組合で言えば3~4年で交替し、会社へ戻り、通常の職場生活を継続していくのである。その長い職業生活の中で、引き受けたきっかけはどうあれ自身のキャリアプランの一つとして組合役員を担うことを選択している。
そのような中で、Fさんがインタビューで「組合役員として続けていくのか、職場に戻るのか、先行きを示されないことは不安であった。」と発言したように自身のキャリアプランで組合役員を担うことに一抹の不安を抱いているのである。
組合役員を担うことにネガティブな意識を抱かせないように、OJTだけの育成に頼らず、労働組合として、組織立っての組合役員の育成をするべきであると考える。
労働組合として、組合役員の継続に関わらず、例えば3~5年といった中長期スパンで組合役員の能力開発計画やキャリア開発計画を立てて、示していくことが必要である。その育成計画で、組合役員のキャリアゴールの一つを三役として、組織対策、賃金・労働条件、政治などの業務から、組合役員の適性を見極めながら配置や教育を行い、労働組合の中で、組合役員の人材育成について、充分にコミュニケーションをとるべきである。
組合役員の人材不足は課題であることを、各労働組合で十分に認識していると考えるが、果たして、組合役員に対し、責任ある人材育成を行っているのだろうか。改めて一人一人が見つめ直し、組合役員の成長と、労働組合の活性化に結びつけていくべきと考える。おわりに
組合役員の人材確保や人材育成が今日明日で解消するものではない。しかしながら、インタビューした組合役員全員が、既に職場復帰している場合であっても、組合活動に前向きであり、決して後ろ向きな結果ばかりではなく、組合役員の魅力については確かな実績と希望があることがわかった。
労働組合として、この組合役員の魅力を隠されたものではなく、着実に組合内外へ発信し、人材の確保につなげていかなければならない。
また、人材確保したら終わりではない。組合役員の継続意思に関わらず、その人個人のキャリアに寄り添った人材育成をしていくことが、労働組合への愛着や組合役員としての成長に繋がるといっても過言ではない。
多くいる組合役員の中で、1人でも労働組合に残れば良いといった考え方もあるが、人材不足の日本で、いつまでその考えが続くだろうか。手遅れになる前に、労働組合も変わっていかなければ過去の産物と言われかねない。
本提言が、これからの未来の労働運動を担う組合役員が生まれる環境づくりに繋がるきっかけとなることを祈念し、本稿の結びとする。
引用文献
- 厚生労働省「令和5年労働組合基礎調査の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/roushi/kiso/23/index.html
- 労働調査協議会「第4回 次代のユニオンリーダー調査」調査報告『労働調査』7月号、2015年
- 労働調査協議会「第5回 次代のユニオンリーダー調査」調査報告『労働調査』8月号、2022年
学生特別賞
学生が安心して羽ばたける労働環境のために―学生目線だから言えること―
1.はじめに
私はアルバイトや就職活動を通じて労働に対していくつか疑問を抱いたため、このテーマを設定した。学生目線だからこそ言えることや感じることがあると思う。したがって、主にアルバイトにおける課題と我々がこれから社会人として働く上で不安を解消するにはどうしたら良いのかについて提言を行う。
2.アルバイトにおける課題
私の大学で労働組合の方がいらっしゃってワークルールを教えて下さる授業があった。その際生徒からアルバイトにおける相談を募集し、いくつか抜粋して紹介された。その中には、「給料明細を貰ったことがない」や「お客さんの前で店長に怒鳴られた」といった相談が寄せられていた。相談をしていたほとんどの学生がアルバイト先で声をあげられず1人悩みを抱え込んでいるのが現実だ。また、アルバイトでも有給休暇が使えることや、アルバイトを休む際に代わりを探すことは義務では無いことを知らない学生も多く見受けられた。
私自身もアルバイトで悩んだことがある。大学一年生の時、居酒屋のアルバイトだ。内容としては、時給がホームページや面接時に提示された額と異なっていたり、給料が一日分抜かれていたりした。その際、友人に相談してすぐに店長に抗議したが、「お前がそう思うならいいよ」と足りない分のお金を渡された。店長から謝罪の一言もなく、その時初めてアルバイトで理不尽な目にあった。他にも疑問に思うことが沢山あったためそのアルバイト先はそのまま辞めた。もし私が気の弱い何も言えない性格だったら一日頑張って働いた給料を貰えず泣き寝入りしていたのだろうと思うし、実際世の中の大学生で店長に抗議出来るような性格の人はそれほど多くないだろう。また、私自身が給料をしっかり計算していたため気づくことができた事例であるため、自己管理の大切さをそこで実感したし、世の中には信用できない会社もあるものだと痛感した。そう思うとやるせない気持ちにもなる。また、大学の授業にてアルバイトで悩みを抱えている学生が沢山居たように世の中にはアルバイトで嫌な思いをした人が沢山いるのではないか。そこで、図1はアルバイトで悩んだことがあるかどうかのアンケートだ。これを見ていただくと分かるように、約半数の学生がアルバイトで悩みを抱えていることが分かる。3.アルバイトにおける問題を解決するには
図2を見ると、パート・アルバイトの人達が労働に関する権利をどれほど認知しているのかが分かる。正社員の人達よりもかなり認知度が低いことが分かる。自分たちの生活に関わる“労働”に対してあまり知識がないという現状は、自分を守る為にも改善していくべきであると思う。この現状を打破するには“ワークルールを広めること”が1番効果的であると思う。私自身労働組合の方の講義を聞いてもっと早く知りたかったと思った。そのため、是非大学に入学したての学生や高校でアルバイトをできる年齢の学生向けに講義をして頂けたら被害を受ける学生は減ると思う。また、雇い主側もワークルールを知らずに破ってしまっている可能性もあるため、雇い主側にも学ぶ機会があれば良いと思う。労働に関する全ての人がワークルールを理解することで、正しい労働環境を整えること出来ると考えられるし、アルバイトの人たちも声を上げやすい環境を作ることが出来ると思う。また、SNSでの呼びかけも増えていくとより良いと思う。大学の構内に最低賃金についてのポスターが貼ってあるのを見かけたが、目に入るところに情報を載せるのはとても良い施策だと思う。情報を視界に入れることで学生のワークルールに対する意識を強めると共に自分を守るためにも積極的に学んでいくべきだ。
4.学生が不安に思うこと
これから社会に出る学生は不安だらけだ。「就活で約90%の学生が不安を感じている就職関連サービスを提供する株式会社ディスコが実施した、『2024年卒学生9月後半時点の就職意識調査』によると、就職活動への不安について、『とても不安』『やや不安』を合わせて、約9割が『不安がある』と回答(計 89.6%)しています。不安の内容は、『夏インターンの選考に大量に落ちたので本選考が不安』『選考の早期化の影響で修士研究との両立が大変』など多岐にわたります。調査結果から分かるのは、不安の内容にこそ違いはあるけれど、就活に不安を感じるのは特に珍しくないということです。そのため、自分だけが不安を感じている、就活がうまくいっていないなどと考えず、誰しも不安を感じながら就活を進めていると理解しておきましょう。」(注1)以上のことから分かるように、なんと就活生の約90%が不安を感じているのだ。私自身就職活動を終えて4月に入社を控えている身であるが、就職活動中と就職活動が終わって入社に向けての期間に2種類の不安があった。
4−1 就職活動中の不安
私自身、就職活動中は、「内定を貰えるのか」や「面接で上手く喋れるか」や「周りと比べて遅れている」と言うような就職活動事態に関する不安が多かった。図3を見ると、他の就活生がどのような悩みを抱えているのかが分かる。私と同じように就職活動についての悩みが多く、これらは就職活動が終えることや努力をすることである程度解消できるような悩みであると言える。
4−2 就職活動終了後の不安、内定ブルー
内定ブルーという言葉をご存知だろうか。「内定ブルーとは、学生が就職活動で内定を得て承諾した後に、自分の選択に疑念を抱いたり、社会人生活への不安などにより気分が落ち込む状態を指す言葉です。新しい経験や人生の大きな決断の前に感じる精神状態を表しており、結婚前のマリッジブルーや妊娠中のマタニティブルーと似ています。」(注2)先ほど就職活動中と就職活動を終えた後で二種類の不安があったと述べた。私は、企業から内定を頂きやっとの思いで就職活動を終えたのに、次は内定ブルーに陥ってしまったのだ。
「売り手市場のなか、採用活動を前倒しで進める企業が増えており、企業が内定・内々定を発表する時期も以前よりも早まっています。
社会人経験がない学生にとって、先輩や友人、家族、口コミなどからのネガティブな情報は、比較対象とする情報がない分、将来の不透明感からくる精神的負担へとつながりやすいものです。先述のとおり、学生の内定をもらってから実際に働くまでの猶予期間は長くなっており、そういった情報に触れる機会が増えやすい状況にあります。猶予期間の長期化は、未知の環境に対する不安を抱える期間の長期化でもあり、これが内定ブルーを引き起こす背景となっている可能性があります。」(注3)内定ブルーには様々な要因があるが、そのうちの一つに就職活動の早期化があるようだ。就職活動の早期化は、就職活動中の不安を引き起こす要因でもあると思う。就職活動が早期化するせいで学業に取り組む時間が減ってしまったり、インターンに受かることが出来なかった時に非常に焦ってしまったり、自分のやりたいことをゆっくり考える時間が減ってしまった。さらには内定ブルーの要因にもなってしまうということで、学生側にデメリットが多いように感じる。そのため、これ以上の早期化は望ましくない。また、そのほかの要因として配属先どのようであるか分からないといった不確実性によるストレスもある。こういった部分も企業の努力である程度は解消できるのではないか。
私が内定ブルーを乗り越えられたのは実際に社会人として働いている先輩に「仕事は常に勉強。もし入社して思ったのと違うって思うことがあるかもしれないけど、どこに行っても思ったのと違うことは絶対にあるからまずは続けてみて、そのうち楽しくなるよ。」という言葉のおかげだ。普段色んな人から、納得いかなければ転職したらいいよと言われてその言葉にピンと来なかった私にとって、先輩の言葉はとても腑に落ちた。きっとどこに入社しても嫌な思いはするだろう。もちろんそういった仕方ない事情は前提として、少しでも無駄に不安にならないように、労働組合にぜひ取り組んで欲しいことがある。5.企業も労働者も守られるための認定制度
私が考えた制度は、望んだ全ての人々にワークルールの講習を受けてもらい、実行した人には受講済みの認定証が渡されるという制度だ。この制度を企業向けにも実施し、管理職などの企業の中でも上の立場にいる人たちに受講してもらい、達成した企業に認定証が渡される。これは、「ホワイト企業認定」「プラチナくるみん」のように労働者が働く場所を決める際の指標になり得ると考えられる。また。ホワイト企業認定とプラチナくるみんについては以下の通りである。
「ホワイト企業認定について、ホワイト企業認定ロゴ次世代に残すべき素晴らしい企業を発掘し、『ホワイト企業』として認定します。ホワイト企業認定とは?家族に入社を勧めたい次世代に残していきたい企業のホワイト化を総合的に評価する国内唯一の認定制度一般財団法人日本次世代企業普及機構(通称:ホワイト財団)は、“次世代に残すべき素晴らしい企業”を発見し、ホワイト企業認定によって取り組みを評価・表彰する組織です。人々がそれぞれの個性と特徴を活かしながら。溌剌と創造的に働く。そのような企業であふれ、明日が楽しみに思える社会の実現を目指します。」(注4)
「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークとは『子育てサポート企業』として、厚生労働大臣の認定を受けた証です。
次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって『子育てサポート企業』として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。」(注5)
私は就職活動を行う際にこう言った証をひとつの指標として見ていた。そのため、ワークルール受講済みの証は働き手にとっても企業の善し悪しを決める1つの指標となり、良い企業であると判断して貰えたら新たな働き手の獲得にも繋がると言える。
ワークルールの受講を推奨したいのは、一般企業はもちろん、個人の飲食店といった、従業員数が少ない所といった、幅広く全ての労働に関わる人達だ。その中で管理職の人たちに優先的に受けてもらいたい。なぜ管理職の人達に優先的に受けてもらいたいと考えたのかと言うと、管理職の人たちは部下を従える立場にあるため、ワークルールを知らないまま部下に嫌な思いをさせてしまうことが比較的多いと思う。例えば学生アルバイトの多い飲食店等は店長がシフト管理や労働環境の管理をしていると思うが、その際ワークルールを知らないままでいると、無意識にワークルールを破ってしまったり、嫌な思いをしたりするアルバイトの人が出てしまう。また、特に居酒屋のような飲食店でアルバイトしている人達がアルバイト先で揉め事が起きているイメージが強い。そのため、管理職の人たちに優先的に受けてもらいたいのだ。6.まとめ
人口減少から働き手の不足により、雇い手も働く側も不安を抱えている。特に若者は働くことだけでなく、将来望んだ人間関係を築けているのか、自分が高齢者になった時に年金を貰えるのかと言った多岐に渡る不安がある。人生100年時代と言われているが、まだ100年の5分の1しか生きていないのだから、何十年も先の未来を見通すことはかなり難しいことではある。そんな中で、学生時代に培った能力を活かして行くためにも、働く場所というのは生活に大きく影響を与える。不安なことを沢山あげてきたが、改善してきたところも沢山ある。例えば、「労働環境を改善した企業の成功事例:日本電算機販売株式会社
『日本電算機販売株式会社』は、複数のフロアに人員が分散しているせいで、業務の効率が上がりにくいという課題を持っていました。
従業員同士がなかなか顔を合わせる機会を持てず、コミュニケーションを円滑に行えていなかったのです。
そのような労働環境を改善するために同社が取った手段は、オフィスを移転して人員をワンフロアに集結させることでした。
さらに、どこに座っても良いというフリーアドレス制を採用したことも重要なポイントです。
この2点により、好きなときに誰とでも顔を合わせられる職場に進化しました。
ソフト部門とハード部門の従業員が隣同士になってシステム開発の打ち合わせをするなど、組織の垣根がなくなったこともメリットの一つです。
他人の仕事や進捗もよく分かるようになり、お互いを助け合うような一体感のある社風が育まれました。
自由で明るい雰囲気なので、身分に関係なく自分の意見を気軽に発言できているとのことです。」(注6)
このように働き手のことを考えて改善している企業も沢山あるのだ。
また、私の入社予定の会社もコロナウイルスの影響でリモートワークが定着した。リモートワークの導入のおかげで、住む場所や働く場所を縛られずに仕事できるので家族と離れて住まなくても良くなった人や、子育てと仕事が両立しやすくなったようだ。私はそういったワークライフバランスの取りやすさに魅力を感じ入社を決意したのだ。そういった良い面にも着目すると、我々も不安に感じすぎなくても良いのではないかと思える。企業がより良い労働環境のために努力すれば、その企業に魅力を感じる学生も増えるだろうし、良い学生が集まりやすくなると思う。
働き手側も、良い企業を見極め、疑問に思ったら抗議できるようにワークルールを学んでいくと良い。両者の努力がより良い社会を作っていけるだろう。
また、今回提案したワークルールの講習の認定制度はそういった両者の努力の手助けを出来るだろう。社会に出たことの無い学生目線の提言ではあるが、アルバイトや就職活動を通して考えたことを記した。一人の大学生の生の声として世の中に少しでも良い影響を与えられたら良いと思う。これから、社会人になって部下を従える立場になった時に、今感じたことを忘れずにいられたら良いと思う。それぞれの人の努力で全ての人にとって良い労働環境を作り上げていきたい。
- 図1(https://townwork.net/magazine/job_wpaper/st_trend/7386/)
- 図2(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/02/dl/h0227-8b_0014.pdf)
- 注1(https://offerbox.jp/columns/30122.html)
- 図3(https://prtimes.jp./main/html/rd/p/000000870.000013485.html)
- 注2.3(https://www.manpowergroup.jp/client/manpowerclip/employ/postoffer-blues.html)
- 注4(https://jws-japan.or.jp/recognition/)
- 注5(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/index.html)
- 注6(https://thanks-gift.net/column/engagement/change-working-environment/?utm_source=organic&utm_medium=column)
講評と寸評
講評と寸評
講評
第21回「私の提言」運営委員会
委員長 相原 康伸本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、スタートしました。第8回から「私の提言・働くことを軸とする安心社会」として、連合がめざす社会像実現のための提言の募集を、組合員のみならず幅広く呼び掛け、実施してまいりました。「山田精吾顕彰会」から数えて27回目、連合の事業となってから21回目となる今回は、テーマを前回と同じ「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-の実現に向けて連合・労働組合が今取り組むべきこと」といたしました。
連合はもとより、教育文化協会HP、公募ガイドなどを通じて、今回は44編の応募をいただきました。「どなたでも応募できます」という呼びかけに呼応頂く形で、労働組合役職員のみならず、公務、民間問わず様々な職場で働かれる方々、さらには、自営業、学生、定年退職された方々など、実に幅広い皆さま方から応募いただきました。感謝申し上げます。これからはどのような社会、どのような働き方をめざすべきか、労働組合に何を期待するのかなど、時宜を得た多岐にわたる提言が寄せられました。どれも豊かな経験と高い問題意識を基とした意義深いものでありました。また、労働組合役職員からの応募が17編となりましたが、労働組合の現場から今後さらに多くの提言をいただけるよう、運営する側として一層の周知に取り組んでまいります。
提言の選考にあたる運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言度」「自身の経験を踏まえたオリジナリティ性」などを様々な角度から最終選考を進めました。その結果、委員の総意で「優秀賞」1編、「佳作賞」1編、「奨励賞」1編、「学生特別賞」1編を選定しました。「優秀賞」には、労働組合の可能性に言及された提言が入賞を果たされましたが、ご自身の経験をもとに政策提言にまで高められたご努力に敬意を表したいと思います。なお、今回、寄せられた提言は「これからの社会、労働組合活動の姿」、そして、「その実現に向けた具体的取り組みは如何にあるべきか」等、その高い問題意識は、いずれも労働組合の未来を予感させる力作揃いとなりました。
最終選考にあたっての議論経過は以上ですが、入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、金井郁さん、大谷由里子さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の44編の提言に託された思いを受け止め、いかにして連合運動に生かしていくかがわれわれの使命であると思います。来年2025年に、教育文化協会は結成30周年の節目を迎えます。連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」の実現に向け、ますます多くの皆様からの提言をいただきたいと考えております。
また、最後になりますが、応募いただいたすべての方に感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に御礼申し上げます。
寸評
國學院大學教授 橋元 秀一
夫婦別姓問題、看護人材、労働組合の情報セキュリティや地域社会との関わり方など、様々な重要問題の提言が寄せられた。受賞には至らなかったものの、優れた作品もあった。また、それぞれの人生経験を通じて得てこられた貴重なご意見も応募くださった。しかし、提言としては理解しにくいものもあった。提言審査の観点からすれば、提言する問題に関して、現状はどうなっているのか、何が問題か、その解決策としての提言を具体的に示すことなど、提言内容の明快さが求められる。
審査結果として、優秀賞には、久保明日香「LGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ」が決まった。作品構成がしっかりとしており、文章表現としても読みやすかった。内容としては、近年進みつつある動きの中で、「連合を含む労働組合がLGBTQ+の包摂をリードすることを提言」している。しかも、「個々の組合員や労働者が実際に行動することができるよう、日々の労働現場である職場から変えられる」観点にこだわり、提言の焦点が明確とされていることは評価できる。権利が法的に保障されている労働組合が取り組むことの意義が強調され、「組合員へのニーズ調査、意見集約、経営側への提言・要求、解決に至る一連のサイクルを回す必要」などを提言している。これは組合活動の大原則であり、それを職場からどれほど丁寧に実施できているかは、組合員の参画を左右するものであろう。「本提言を実行すれば、LGBTQ+の当事者の職場環境を改善することができるだけでなく、労働組合が実際に職場を変えているという実感を与えられる。・・・労働組合の存在意義が明瞭になり、若手を含む熱意のある組合員を労働組合に引き付けることも可能になるだろう。」と言う。まさしく、職場活動の活性化が問われていよう。
佳作賞は、田中寛乃「地方連合会として労働組合の専従役職員のメンタルケアやサポートにどう関わるべきか~専従役職員を守るために地方連合会は何が出来るか~」である。表だって議論されてこなかった専従組合職員が抱えているメンタルヘルス問題への対応策を論じている。インタビュー調査にも取り組み、現状と問題点を踏まえ、地方連合会の役割として具体的提言を明快に示している。政策論としては、原因や要因のさらなる分析が望まれるものの、今後の取り組みに期待したい。
奨励賞は、白鳥優一「組合役員の人材確保と人材育成への対応 ―「組合役員の隠された魅力」と「労働組合としての失策」とは―」である。今日の組合にとって深刻な問題を、データに基づきかつ調査も実施した上で、提言している有意義なものであった。ただし、組合は社会的産業的な役割も担っているので、単組に限定して論じる意義と限界が関説される必要があろう。なお、学生特別賞は、豊田真由「学生が安心して羽ばたける労働環境のために―学生目線だから言えること―」であった。アルバイトや就職活動経験から、ワークルール講習・認定を利用した制度の提言をしており、学生の状況や感覚での提案が評価され選ばれた。
次回には、これからの労働組合、次代の姿へのいっそう多くの提言を期待したい。
寸評
埼玉大学教授 金井 郁
2023年春闘2024年春闘と、個々の単組や産別の取組みが奏功し、賃上げを勝ち取る組合が多く、高水準の賃上げを達成し、組合員にとっても社会的にも労働組合の存在感が高まっているといえる。近年、インフレ、人手不足など急速に労働市場環境が変わり、ハラスメントやジェンダー平等、LGBTQ+への社会的な認識も高まる中で、生活者、労働者、組合員、学生といった様々な立場からの思いや提言も集まった。今回は44件の応募があり、労働組合関係者からの応募が多く、またその内容も多様で斬新なテーマが多かったのが特徴であった。
優秀賞は、久保明日香さん(NECソリューションイノベータ労働組合)が執筆した「LGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ」が選ばれた。同提言は、労働組合が労働環境を改善するために行ってきた組合員へのニーズ調査、意見集約、経営側への提言・要求、解決といった取組みを、LGBTQ+に関する領域にも適用することを提案する。会社や行政には、これらの職場の課題を解決するには限界があることを認識したうえで、労働組合は歴史的にも職場の課題を解決してきたことに期待をしている。また、もしLGBTQ+の当事者の職場環境を改善することができれば、労働組合が実際に職場を変えているという実感も一般組合員含めて持てるようになるという。どの提案も具体的で、こうしたテーマに労働組合が取り組む必要があることを改めて読者にも訴えかけるもので、その構成、着眼点、文章力などが高く評価され、優秀賞となった。
佳作賞は、田中寛乃さん(連合東京)の「地方連合会として労働組合の専従役職員のメンタルケアやサポートにどう関わるべきか~専従役職員を守るために地方連合会は何が出来るか~」が選ばれた。労働組合の役員の過重労働やそれに伴うメンタルヘルスの問題は様々な場面で指摘されてはいるものの、真正面から組合員自身が取り上げることはなかったテーマである。また、それに対してインタビュー調査を実施し、それに基づいた分析がなされ、提言は極めて具体的であった。テーマの独創性、重要性をもつ提言で高く評価された。
奨励賞は、白鳥優一さん(電力総連)「組合役員の人材確保と人材育成への対応 ―「組合役員の隠された魅力」と「労働組合としての失策」とは―」が選ばれた。どこの労働組合でも課題となっている組合役員をいかに確保し、育成していくのか、調査を実施しそれに基づいた分析が行われ、具体的で実現可能性の高い提言であることが高く評価された。
学生特別賞には、豊田真由さん(中央大学経済学部4年)「学生が安心して羽ばたける労働環境のために―学生目線だからこそ言えることー」が選ばれた。学生の立場から、等身大にアルバイトと就職活動を通して感じた日本の労働現場の疑問についてまとめ、ワークルール認定資格を管理職が率先して取る仕組みづくりを提言している。書式や文章表現など粗削りだが、学生としての実感ある経験からの提言が高く評価された。
来年も生活者、労働者、組合員といった様々な立場からの多くの提言が寄せられることを期待しています。
寸評
志縁塾 代表 大谷 由里子
今回、学生の応募が例年より少なかったこともあって、学生特別賞からの話し合いになりました。学生たちのテーマは、「子育てとの両立」や「非正規雇用労働者を取り巻く課題」があり、それぞれ労働組合への提言がありました。その中で、今回は、中央大学経済学部経済学科4年の豊田真由さんの「学生が安心して羽ばたける労働環境のために―学生目線だからこそ言えること―」が学生特別賞に選ばれました。「論文としては、書式や文章力が未熟」という意見もありましたが、本人の体験から伝わる内容に説得力やリアル感や説得力があり、豊田さんを推す審査員も多く、彼女が選ばれました。わたし自身、内定をもらったのち不安になる「内定ブルー」などという言葉も学びになりました。
一方で、優秀賞は、ほぼ満場一致でNECソリューションイノベーター労働組合の組合員である久保明日香さんの「LGBTQ+の包摂をリードし、職場を変えられる実感のある労働組合へ」が選ばれました。わたしもこの論文を強く推しました。理由は、「LGBTQ+」が、現代社会において避けて通れないところまで来ているにもかかわらず、労働組合や企業が包摂に果たすべき役割を全うできているとは言い切れない現状があります。そこに、しっかりと切り込んだ論文であったからです。また、「労働組合の上部組織でノウハウを共有する」など提言もしっかりとなされています。
佳作には、連合東京の田中寛乃さんの「地方連合会として労働組合の専従役職員のメンタルケアやサポートにどう関わるべきか」が選ばれました。「労働者がストレスを感じる要因について」、「労働組合専従役職員を取り巻く状況」などインタビューも含めてよく調査もされていて文章表現もレベルが高く、このまま講演などの資料としても使えそうな論文です。また、「労働組合の専従役職員のメンタルケア」に注目というのも興味深かったです。
奨励賞には、電力総連の白鳥優一さんの「組合役員の人材確保と人材育成への対応」が選ばれました。こちらは、現実に労働運動に携わっているメンバーが感じている切実な課題であり、とても大切な内容です。サブタイトルが―「組合員の隠された魅力」と「労働組合としての失策」とは―となっていて、興味も惹かれました。何を認めて、何に向かい合わなければならないか、そして、どんなことを伝えていかなければならないかが書かれていて個人的には、執行部にしっかり読んでいただきたい論文です。
どの論文も読みやすく、現実感と具体性があります。ぜひ、この4編をたくさんの労働運動に携わる人に読んでいただきたいです。
運営委員会構成
運営委員会の構成
2024年9月2日現在
運営委員長
- 相原 康伸(教育文化協会 理事長)
運営委員
- 清水 秀行(連合 事務局長/教育文化協会 副理事長)
- 橋元 秀一(國學院大學経済学部 教授)
- 金井 郁(埼玉大学人文社会科学研究科 教授)
- 大谷 由里(有限会社志縁塾 代表)
- 吉川 沙織(参議院議員)
- 田中 智(UAゼンセン 常任中央執行委員)
- 高橋 英司(電機連合 中央執行委員)
- 佐藤 重己(連合東京 事務局長・連合関東ブロック連絡会)
- 平川 則男(連合総研 専務理事)
- 南部 美智代(中央労福協 事務局長)
- 永井 浩(教育文化協会 専務理事)
- 河野 広宣(連合 総合組織局長/教育文化協会 常務理事)
- 山本 昌弘(連合 総合企画局長)