埼玉大学「連合寄付講座」

2015年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第8回(11/24)

グローバル時代でのCSRに取り組む

全髙島屋労働組合連合会会長 末吉 武嘉

1. はじめに

 今日は何をお話しするかと申しますと、1つは髙島屋の労使がグローバル枠組み協定を結んで何をしているのか。それからもう1つはCSRの取り組みと労働組合の関係はどうなっているのかということ。この2つについてお話ししたいと思います。
 まず、CSRって何なのだろうという疑問があると思います。企業が社会の中で活動していく中で、納税から商品やサービスの提供といった経済的基本的役割から、社会的役割ということでステークホルダーそれぞれに対して価値あるものを事業活動を通じて提供するという、そうした活動の中で企業が単に儲ければいいということではなく、社会の一員としてきちんと責任を果たすことを考えるということがCSRということかなと思います。
 それからグローバル枠組み協定とは何かということですけれども、社会的責任、SR(Social Responsibility)とあります。USRとCSRというのがありますが、CSRはコーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(Corporate Social Responsibility)ですから、企業の社会的責任です。USRは何なのかというと、ユニオン・ソーシャル・レスポンシビリティ(Union Social Responsibility)、労働組合の社会的責任です。
 企業を運営するのは、経営者だけではなく労働者とともにやっていますので、全員が当事者になります。そういうことで社会的責任ということを考えた時に会社だけでやるCSRだけではなくて、従業員が加わる、労働組合が加わるUSRとしてやることで、より高いレベルで社会的責任に取り組めるのではないかということで、CとかUとかを取ってしまってSRを労使でやろうということで、組織の社会的責任と考えようということです。
 それを労使でやりましょうという話のひとつが、冒頭言いましたグローバル枠組み協定を環境・労働・人権について行うということです。SRという言葉は、これからさらに広がっていくと思います。今、企業だけではなくて地球レベルで環境問題とか持続可能性の問題が取り上げられていますので、そのためには企業だけではなく国レベルあるいは政府、NGOなどどんな団体であってもどんな組織であっても社会的責任を考えければいけないと言えると思います。
 これからの説明で、髙島屋の取り組みを詳しく知っていただきながら、社会的責任と企業や労働組合の関わりから何を考えるのがいいのか、というお話ができればと思っています。
 今日は3つのことをみなさんと考える機会にしたいと思います。1つはそうしたCSRとかSRって何だということを一緒に考える機会です。資料にあります概念図(下図参照)では、先ほど見ていただいた経済的役割から社会的役割へというものへ拡がりを見せていますけれども、こうしたこと全体を考えながらステークホルダーへの責任を果たすという取り組みがCSRという取り組みになっています。

 CSRもグローバル化が進む中でどんどん概念が大きく変わってきています。私が入社した頃は経済的役割が主流でした。20年くらい前には、各企業が何をしていたかというと利益の中から寄付をしようとか、文化を守るために博物館を作ろうとか美術館を作ろうとか、あるいはスポーツのスポンサーになりそれで隆盛させていこうとか、そういう形のCSRという考え方が強かったですけれども、その後競争社会になっていく中で企業がいろんな問題などを起こすようになりました。
 そうした中で、会社が利益を優先させるだけではなくきちんと法律や社会のことを考えなければいけないとなって、社会的役割へ移ってきました。最近では2つの大きな流れがあり、1つは倫理、法律やルールを守っていればいいということではなくて、きちんとした働く環境なのかとか、安全な商品を提供しているのかとか、環境への努力をしている会社なのかとか、法律以上の自分たちで定める倫理をきちんとやっていこうという時代へ移ってきているということです。
 2つ目は、現在では社会的役割として、事業を通じた社会への価値提供や、会社がやっている事業が社会問題の解決につながるといったことがより強く求められてきているということです。地球レベルで協力しあって環境を守る、あるいは働く場を作るということをしていかないとみんなの地球がダメになってしまうというような話からグローバルな動きが強くなっていると言われています。
 例えば、単に人を雇えばいいというのではなく、働きながら育児や介護ができる会社にならなければならないとか、あるいはアフリカのコーヒーの農園で児童を使って商売をしている会社があった場合、その農園をきちんと儲かる事業になるよう応援して、子どもは学校に行けるようにしてあげるということもひとつの社会問題の解決です。
 それから車を作る時に単に安いとか速いとかいうことではなくて、環境への負荷を解決するとか、高齢者が乗りやすい車を作るとかといったこともそのひとつですが、そうした問題に取り組む企業が社会的にも認められると、その企業で働きたいと思う人が増えてくるということに繋がるのではないかと言われています。
 2つめは、では何で労働組合がそれに取り組むのかということですけれども、その答えを皆さんと最後に確認できればと思います。
 3つめは、労働組合が取り組む必要があるのかということも考えたいと思います。これについて少し触れたいと思いますが、CSRや法律、ルールは企業がきちんとやると決めて、やれと命令すればできるのではないかと思うのですが、実はそれほど簡単ではありません。
 会社はどんなところか、ひとりではできないことをするために集まって事業をするのが会社です。そうすると様々な価値観を持った人が集まってきます。当然社長から平社員まで上下の仕事のラインというものができます。するとみんな上司と部下の関係になります。全員社長の部下です。給料とか配置転換とかというものを握られてしまいます。それから会社経営をしていると悩むのは、利益か経費かということです。安全とか環境にお金を使えば使うほど利益が減っていきます。自分の仕事でいえば自分の成績を上げるために経費を減らすのか、あるいは自分の成績を我慢しても社会貢献につながる、社会的責任につながるお金を使うのかということに悩まされるのです。そうした中で絶対にこちらだと、上司と違う意見を言い続けるのは簡単なことではありません。
 では、なぜ労働組合が取り組む必要があるかというのを考えると、会社の中で起きる多くのことは実は従業員、組合員が知っているわけです。また労働組合というのは、会社の中にある唯一の社長の命令を受けない独立した機関です。そうしたことから会社では、1人では言いづらいとか個人ではおかしいと思うことも言えないことがありますけれども、労働組合という団体で組織として言うならできる場合がある、できることがあるということがあります。後で少し実際の例を言いますが、そうしたことから労働組合が取り組む意味があるというのを知ってもらえればと思います。
 最後に、現場で簡単に起きうる問題ということで例を言いますので、それで先ほど言ったことの理解をしていただければと思います。自分が職場の責任者だったとして何が起きるか。例えば部下の労働時間の管理をします。何時間残業するか決めます。そうした時に利益の予算を達成するためにいっぱい働かせたい、でもこれ以上経費を使えないという場合、何をするかというと、ちょっと残業したけれども残業代をつけないでいいかということを思ってしまうかもしれません。それから商品管理をしなければならない時、在庫がいくらあるか当然適切に報告しなければいけないけれども、仕事していたら途中で無くなってしまったあるいは取られた、でも在庫が無いと利益も無くなってしまいますので、あったことにしようかとか悩んだりもする。あとは自分の職場の中に正社員の方とパートタイマーの方がいる、当然給料が違います、やっていい仕事の範囲も決められています。でも忙しいので、ちょっと役割とは違うけれどこれもやって下さいと言いたくなってしまうというようなことが、職場では日々起こります。
 そんなことがあってもその場合、いけないことはいけないとやり通せるのか、見つからなければいいと思ってやってしまうのか、どんな立場の人も関係しうるというのが会社の中で起きることです。それが最もエスカレートしてしまうと某企業のように粉飾とか、社長がごまかせといった場合に社員はどうするのか、ということに繋がっていくわけです。でも労働組合だったら言えるし、発見できることがあるということです。

2. 髙島屋の紹介

 髙島屋は1831年に創業し現在まで至っている百貨店です。国内だけではなくシンガポールや上海にも出店し、今後ベトナムやタイにも事業を拡げていこうとしております。店舗のネットワークですが、東海道沿いの大都市に店舗を持つということをしておりまして、海外店舗は先ほど言ったシンガポールや上海に加えASEANの各国の主要都市に出店していこうといま準備をしているところです。

3. 髙島屋の労働組合

 髙島屋で働く方が入っている労働組合ですが、特徴としては流通業、百貨店ですので女性が7割、それからいわゆる正社員は半分以下となっています。1992年にパートタイマーの組織化があり、労働組合に入ってもらいました。1998年に契約社員、2002年に定年後の嘱託社員も仲間に入ってもらいました。これは髙島屋で働いている人はほぼ、経営側の人でない限り立場は違っても労働組合員ですよということです。当たり前に見えるかもしれませんが、例えば製造業などは今でも、いわゆる正社員だけの組合がメインというところがいっぱいあるので、当たり前ということではありません。私たちは労使で話し合い、今は正社員という言葉を無くしました。会社は様々な立場の人が支えるもので、いわゆる正社員という人たちだけが正しい社員で、他の人たちが正しくないというのは違うでしょうということで、この正社員という言葉は労使ともに無くしたいということで名称を変えました。雇用形態ごとの呼び方をしているというのを、追加で知っておいていただければと思います。

4. 労働組合とCSR

 労働組合とCSRについてですが、CSRというとイメージしやすいのはコンプライアンス、法律をちゃんと守るとか、寄付とかスポンサーをやるとか環境を守ろうとか、安全な商品にこだわろうとかいろいろありますが、実は働くこととも大きく関係しているということで考えていただきたいと思います。例えば大手メーカーが児童労働や強制労働をアジアの工場や原産地でやって摘発されています。アジアの途上国では非常に安い賃金で休みもなく子どもを働かせたり、セクハラがあったり、長時間の強制労働をしていたり、国によってはそれを何とかしたくて労働組合を作ろうとするとそれを妨害し、もっとひどい国になると解雇したり殺人に発展したりということもある。それが世界の現状です。そういう意味で、CSRと働くことというのは実はすごく大きな問題としてあるということです。
 日本においてもブラック企業問題、みなさんも耳にすると思いますが、休ませない、成績が悪い人は辞めて欲しいから仕事を押し付けるとかそんなことをする企業もあります。それから秋葉原の無差別殺人事件というのもありました。これは工場で働く方で、いわゆる正社員ではない非正社員の非常に待遇の低い立場で働く人が社会と断絶する中で起こしてしまった事件ということですが、そうしたこともあります。先ほど言いましたが労働ということがCSRと深く関係しているということです。国際労使紛争というのもありますがアジアの中では労働組合を作ろうとすると事件が起きたり、組合があるけれども外部の人が介入してきて騒ぎを起こしたりということが、日常的に起きるということがあります。
 そうした世界的な動きもある中、行動規範ということに対して労使で約束をし、CSRでもUSRでもなくてSRという形で、企業を構成する組織の人全体で責任を果たす仕組みを推進しようという話として関連していると思っていただければと思います。
 こうした中で労働組合がなぜCSRに向き合うのかということで、大事なポイントは、社会の中で労働CSRということがどのようにとらえられるのかということ。それから、個々の企業の中で実際のこととしてどう考えるかということです。
 まず、社会の中で労働に関わるCSRをどう考えるのかということですが、先ほどありましたが、企業社会の現実として長時間労働とか差別とか非正規労働問題とかありますね。そのことが自殺とか少子化とか貧困に繋がったりしています。要は企業社会の現実がより良い社会づくりの障害になっていないかということを考えませんかということが1つです。もう1つは公正競争の点です。社会が従業員のことなど全く考えず利益を上げる企業ばかりになってしまったら、きちんとした企業が淘汰されていくかもしれません。そうしたことを根拠に、社会全体の問題として労働に関するCSRの問題を取り上げるべきだということを覚えていただきたいと思います。

労働CSRの意味と正当化の根拠

5. CSRに対する連合の考え方

 国全体のレベルで政府や行政と対するのは、労働組合が全部集まった連合という組織です。その中でCSRに対する基本的な考え方を整理しています。今日は触れませんが、興味がある人はそこも見ていただければと思いますし、その中で特に労使協議、労使でCSRについて話し合うことが重要だということと、社会全体で取り組むことが重要だということが主に言われていますので見てください。
 冒頭にありました、企業の中で様々なことが起こりうるということをどうガバナンスしていくかという時に、労働組合が大事になるという話です。コーポレートガバナンスという言葉は最近聞かれるかと思います。色んな訳語がありますけれども、簡単に言うときちんと経営をするために企業をしっかり運営していくということです。コーポレートガバナンスでは2つの側面で大事なことがあり、それを両立していかなければいけないと思っていることがあります。1つは効率的な経営をするという、当たり前なことですね。株主からは預かったお金できちんと利益を出すということ。2つめ、それだけではダメで、法律を守るとか、公正な経営をするとか、社会問題の解決に取り組むということもやらなければいけない。これがCSRと重なるコーポレートガバナンスの前提ということになります。この2つを両立させていくということが大事だろうと思います。
 コーポレートガバナンスと労働組合との関係はということですが、これは既にお話ししたとおり、労働組合はその重要な当事者になりうるということです。そのことを確認すると、1つは1990年代以降企業の不祥事が頻発したという話を先ほどしましたが、リコール隠しや産地偽装、個人データの情報漏えいなど、今も様々な事件が起こっています。私が思うのは、従業員や労働組合は何をしていたのだろうということです。おそらく従業員の方は、自分の会社がそんなことをやっていたということを知っていましたよね。でも言い出せない、解決できないということがあってはいけない。そういうことを考えているのがコーポレートガバナンスと労働組合の関係のひとつです。
 もう1つは企業のリスクと労働者のリスクということですが、そうした事件を起こした企業は、対応を誤ると会社が無くなってしまう場合がありますよね。企業が不祥事を起こせば働く場も失うかもしれない。少なくとも賃金は減ってしまう。このため企業がきちんとCSRに取り組むというのは労働組合の問題でもあります。この2つがコーポレートガバナンスと労働組合の関係かなと思います。
 労働組合の役割は何なのかということですが、2つのことがあります。1つは企業の内部者として企業の経営者とともにそれをきちんとやろう、問題があれば修正しようという行動を自ら労働組合も従業員代表としてやること。2つめは経営もきちんとしているかを監視する、チェックする、あるいは情報ルートとして現場で問題が起きていたらきちんと経営に伝えて修正させることです。きちんとやっているかやっていないかは見えづらいですよね。でも実際に様々な努力をしている企業は日々危機を防いでいると思います。その取り組みが弱い企業では問題が起きてしまっているかもしれません。見えづらいけれども、やっているところはきちんとやっているということですね。
 今日はグローバル枠組み協定の話などをしますが、労使の約束事としてオープンにして社会からもきちんとチェックを受け、できないということがないようにしようということが、髙島屋労使が協定を結んだ最大の意味合いだと思っていただければいいと思います。

6. 髙島屋労使の取り組み事例

 髙島屋が120年前に作った創業時の精神は、自分の儲けだけを考えずに、お客様や取引先の儲けも考えながらどんな商品も公正な内容でお客様を差別せずに提供しようということを定めました。今では当たり前だと思いますが、当時はお客様によって値段も変えるということが当たり前な世の中だったので、画期的だったと言われています。その創業の精神がスタートですが、その後『いつも人から』という経営理念が作られて今日のCSRの話に繋がっています。創業当時に関係するステークホルダーはすべて人間の集まりですので、すべての人に対して貢献する経営をしていきましょうという意味です。ステークホルダーというのは、お客様、株主、従業員、取引先、地域の方々などを指します。
 その象徴となる出来事を2つ紹介します。1つは幕末ですが、蛤御門の変の話が受け継がれています。幕末で薩長が激突する中で町が焼け野原になり、髙島屋も全焼しました。着るものが無くなった人がたくさんいましたが、髙島屋は倉庫だけ残りました。その時、他の業者さんは商品の値段をいつもより高くしていました。売れるから。でも髙島屋の創業者はこういう時は提供しようと、いつもより安い値段で販売したということです。そうした事を受け継いでうちの企業はどうあるべきかという話がされています。
 もう1つは数年前の東日本大震災の際の話です。東京中が帰宅難民で溢れました。帰れなくなった人がいっぱい出ました。他の商業施設は次々に閉店をしましたが、髙島屋の経営者は、開放しなさい、すべての人が泊まれるようにしなさいと言いました。従業員も朝までお水を配ったり余っている食料品を食べてもらったりしましたが、従業員の中に自分は自分の家に帰りたいという人はいませんでした。そんなことも受け継いできたことの結果としてできているのであれば、CSRに取り組んできたということはとても重要だなと考えるという話の例です。

7. 髙島屋労働組合のUSR

 労働組合もそうした意味から社会、企業の中で果たすべき責任ということを見つめ直した時、定めたのがUSR政策というものです。労働組合は単に自由な存在として存在するわけではなく、企業の中の大事な構成員として、あるいは社会の一員として果たすべき責任があるということをみんなで確認して取り組んだということです。具体的な役割は何かというと、本質的役割としては労働者の労働条件を守り高めていくということです。倫理的役割として労働条件を高めるということだけではなく、法律やルール、公正な社会づくりとか社会問題の解決に労働組合という立場からも取り組みましょうということです。
 それから今日的役割として、そうしたことを担う役割を労働組合として高めていこうということです。
 先ほど髙島屋の経営理念から蛤御門とか東日本大震災の話をしました。それがCSRを髙島屋労使でしっかりやっていこうということのきっかけのひとつだったわけですが、もうひとつきっかけがあります。
 「これからの行動計画」として冒頭紹介したグローバル枠組み協定以外に、企業全体のCSRについて毎年労使で話し合っているものがあります。会社のことは従業員と経営者が話し合ってしっかりやっていかなければいけないという行動計画です。これができたきっかけは、以前に商法違反事件を髙島屋が起こしました。商法違反事件とは何かというと、総会屋と言われる人たちに暴れるのは止めて、お金を渡すから静かにして、スキャンダルがあったら揉み消してね、ということをやっていた。これで逮捕されてしまったということです。でも、逮捕された人はこの時会社のためだと思ってやっていたのです。会社のためと思って頑張っていた人が社会では認められず、逮捕される事件を起こしました。暴力団と付き合いのある企業だということで、下手すれば倒産してしまうかもという危機に陥り、自分たちの会社をどう立て直そうかという時に、まず経営者と従業員が自分たちの目で自分たちの会社の中に問題がないかを毎年チェックしようということで、行動計画ができました。そのことをスタートに労働組合もUSRを考え、最終的には労使でグローバル枠組み協定を結んで、社会に公約してきちんとやろうというところまで話が繋がっていったということです。
 ちなみにグローバル枠組み協定の締結は、2008年に秋葉原で起きた無差別殺傷事件がきっかけになったところがあります。差別観のある職場で起きた事件でしたが、この時に労使で話したのはうちの会社でも他人事ではない。いろんな立場の人が働いているけれども、果たして自分たちはきちんとできているだろうか。やはりもう少し取り組みを強くしたいということで、CSRでもUSRでもないSRということを労使でやる形、グローバルにオープンな形でやっていこうということでグローバル枠組み協定に繋がったということです。
 実際、どういう協定なのか。内容は簡単に言うと2つあります。一つ目は、グローバル企業と国際産業別労働組合の間で締結する協定、協定というのは約束事ということです。社会に対するコミットメントを企業自ら宣言するのではなく、労働者を代表とする労働組合と協定して一緒にやっていくということを社会に宣言することで、環境問題、労働問題、人権問題についてうちの企業では労使でしっかりやりますというのが、このグローバル枠組み協定です。
 2つ目は、そうした中でCSRを実行したり、経営者が言っていたりするだけではなくて従業員が自らきちんとやっていくということと、協定した者同士、お互いチェックしあうという仕組みを持って実効性のある仕組みにしていきましょうということです。
 日本の企業で多いのは、グローバルコンパクトという国連が定めた原則をしっかりやりますと企業が宣言するものですが、その欠点は企業が言っているだけで従業員は関与しないということです。私たちがやっているグローバル枠組み協定は内容こそほとんど一緒ですが、それを企業だけではなく労使でやろうとしていこうというものだと捉えていただければと思います。
 UNIという国際産業別労働組合ですが、国際レベルで同じ産業に集う人が同じ産業の問題に取り組もうということです。何でグローバル協定だろうと思うかもしれません。締結した企業としてはダイムラー、カルフール、H&Mなどです。今は企業活動の中で国境を越えています。もともとの国はドイツとかスウェーデンとか日本だったとしても、事業所は世界中にありますよね。ですから元々の国で労使が話をしていても現場は世界中にあるわけです。そういうことから1つの国の労使の問題ではない、グローバルということを考えなければいけないという話をしていますし、企業としてもすべての国の現場を見るのは容易ではありません。国際的な活動をする労働組合があればあらゆる国の情報を得られますし、もしアジアの国で問題が起きた時に解決を手伝ってくれるのもこういう人たちです。こうしたことから、グローバルな労働組合と協定を結ぶことが重要ということがありますので、その点も押さえてもらえればと思います。
 もうひとつ疑問がありますよね。グローバル枠組み協定とは何だろうということです。世界レベルで同じ取り組みをしていきましょうといった時に、国際的なひとつのルールとしてこういう枠組みで取り組みましょうと決めたので、枠組み協定という名前がついています。私たちはそれだとよくわからないので「企業の行動規範に関する労使協定」という日本語にしていますが、そういう意味でグローバル枠組み協定という名前です。
 なぜ環境と労働と人権の3つなのということですが、それも世界的に共通で取り組もうとした時に、普遍的な働くことに関する社会の問題で、共通なのはこの3つだということですし、労働組合の側から一番守らなければならないのはこの3つだからということでした。内容は自由に変えられるので、髙島屋の例ではそういうことであるということです。
 先ほど言いましたが髙島屋と髙島屋労働組合が取り組みをしっかりしてきちんとできているか、問題があればどう改善するかを年に1回話し合います。その内容をUAゼンセンとUNIという外部の方々との話し合いに持って行き、企業内だけではなく企業外からもチェックをしてもらう仕組みになっています。
 締結の必要性をどう判断したのかということですが、1つは社内外の背景ということで、グローバルな要請、高まりということで、CSR経営をしっかり取り組んでいくにはこういう取り組みが必要ではないかということを考え出したことと、グローバルな視点であるいはグローバルに進出していくためには準備が必要だということが社内外の背景ということです。
 協定締結の意味合いの一番大事なのは2つめで、労使での協定です。労使という当事者がしっかり参画をして責任を果たす取り組み、相互にチェックしあう取り組みを通じて企業のガバナンスを強化していく必要性があるのではないか。そんな話をして締結に至ったということです。これは締結する前にそんな話を通して、締結への取り組みに繋げていったということで見ていただければと思います。
 一番大事なのは締結して良かったねというのではなく、締結して何をするかということです。スリーピング協定は世の中にいっぱいあります。締結したことに満足して実際に後で何もやっていないということです。会社・組合それからUNIという国際組織がそれぞれどんな責任を果たすのかきちんと確認をしようということです。
 会社はきちんとすべての事業所に対してこの主旨を徹底させるということですし、お客様を含む社会とか従業員全員にきちんと伝えてその取り組みを会社の中で動かしていくというのがあります。
 もうひとつ、労使GFAニュースというのがあります。今ここまで私が話してきたことを職場の中で全員に説明しようと思ったら大変難しいです。でも伝えなければいけません。ごくごくポイントだけ、こういうことを結んだので一緒にやろうねということを伝えなければいけません。そのために作ったのが労使のニュースです。髙島屋百貨店には5万人の従業員がいますので、毎年みんなに伝える取り組みをやっています。これも取り組みの一環です。
 労働組合は何をするかというと、労働組合の活動の中で組合員の方に伝えていくとともに外部の団体と取り組みを良くするための情報交換をします。UNIは何をするのかというと、グローバルな国境を越えたネットワークがありますので、情報収集をして問題があれば教えてもらえますし対応も一緒にするということと、あと髙島屋労使がきちんとやっているかというのも年に1回チェックをするということで三者がそれぞれの立場で取り組むことで、環境・労働・人権のCSRを世界規模できちんとやっていこうということです。
 締結以降は何をしているのかということですが、企業の中では従業員の理解浸透を継続して行う。社会に向けては今日もその一環といえますが、やることの意義を様々な方にお伝えして一緒にやりませんかという企業を増やしていくという取り組みです。その取り組みを重ねて、昨年イオンさんが一緒にやるよということで加わって下さいました。
 あとは労使協議に関する内容が2種類ありますよという話をして終えたいと思いますが、1つはグローバル枠組み協定に関して、環境・労働・人権に関してそれぞれの立場で取り組んでいますという内容、もう1つが環境・労働・人権を含めてCSR全般を行動計画ということで独自の内部統制の仕組みをもって取り組んでいますという内容です。環境・労働・人権に関してはグローバル枠組み協定ということで協定を結んで、社会にも公約してやっていますけれども、それ以外にも企業の中の問題、CSRの問題をきちんとやりましょうということを、独自の内部統制の形を作ってやっています。
 やらなければならないことは2つです。1つはコーポレートガバナンス。経営機構ですね。社外取締役をきちんと活用しているかとか、取締役会で適切な意思決定を経営者がしているかという経営統制の問題と、それから内部統制と言われる企業の中の環境、リスク管理、統制活動、情報開示、モニタリングといったことをきちんとしているかをチェックするということ。それからもう1つは、何度も出てきましたけれども、ステークホルダーに対する責任をきちんと果たしているかです。
 こうしたグローバル枠組み協定でやっている、環境・労働・人権も含めCSR全体について毎年労使でチェックするということを毎年の行動計画の内容として、CSR全体の取り組みを労使でやっています。
 最後に、なぜ労働組合が取り組む必要があるのかということですが、1つは労働組合の役割として何があるのかというのを考えて欲しいのですが、1つは労働条件を守るための労働組合なので会社とお金や労働条件や福利厚生について交渉しますよという側面があるのですが、もう1つの側面から見ると、労働条件を守るために会社の取り組みをチェックして改善する、一緒に改善するということがあります。それがこのCSR活動に取り組むということであります。CSRがしっかりやられる企業を自分たちの立場からも作っていくことが、結果として社会にも必要とされて評価もされて信頼もされて自らの労働条件の向上に繋がるということですし、そうした企業を作ることが、働いている人が良い働く場で良い仕事ができるなという働き甲斐とか自己実現にも繋がる話だと思いますので、そうした意味で労働条件を守り高める活動だということがあります。労働組合として企業と組合員を守るために、自らの立場で行動するということが重要な役割としてCSRに関わるということです。その役割を確認して講義を終わらせていただきたいと思います。


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