埼玉大学「連合寄付講座」

2015年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第6回(11/10)

仕事と生活の両立をはかる

生保労連中央副執行委員長 藤本 英和

1 はじめに

1-1生保労連の紹介

 まず、私のいる組織についてのお話をさせていただきます。正式名称は全国生命保険労働組合連合会と申します。話の中では「生保労連」といいますが、生命保険会社に存在する労働組合が集まった組織となっています。
 結成は1969年、内勤職員、主に生命保険会社の事務を担当する職員と、生命保険の販売に携わっている営業職員の組織が一緒になって発足して、今年で46年目になります。
 組合員数は約25万名で、内訳は全体の約8割が営業職員。そして男女別にみると8割が女性ということになっていますので、働く女性の多い組織ということをご理解いただければと思います。連合にも加盟しており、人数規模で9番目に大きい組織となっております。
 産業によっては、同じ産業でも複数の産業別労働組合がある組織もあるのですが、実は生保労連というのは生保産業で唯一の産業別労働組合です。
 業界団体としては生命保険協会という団体があります。普段は「生保協会」と略して言っておりますが、生保協会に加盟している会社が大体いくつくらいあるか、みなさん想像つきますか。今、日本には生命保険会社が40数社あって、そのうち16社に生保労連に加盟している労働組合があり、加盟組合は資料(下表参照)でご紹介しているとおりとなっております。

 その他の会社はどうなのかということになりますと、損害保険会社系の生命保険会社の組合員は、損害保険会社の労働組合の産業別組織である損保労連に加盟してらっしゃるというのと、あとは一部の外資系の保険会社や、インターネット販売等の保険会社には元々労働組合が無いということなので、生命保険会社に元々存在する労働組合は、生保労連の名の下にみんな加盟いただいているという状況になります。
 日ごろ営業ではしのぎを削っているライバルですが、労働組合という組織の下では、同じ産業で働く仲間として産業の発展に向けて、みな力を合わせて頑張っているというのも、労働組合のいい所ということでぜひご理解をいただきたいと思っています。

1-2生保労連の運動方針

 次は生保労連の運動方針を簡単にご説明させていただきたいと思います。運動方針とは何か。簡単に言うと、会社でいう事業計画とか経営計画のようなものだと思ってもらえればいいと思います。生保労連としての活動の方向性ですが、大きく4つの柱で構成をしています。
 1つめは「生命保険産業の社会的使命の達成」です。これは生命保険に対する理解を広く普及していこう、働く立場から経営をしっかりチェックしていこうというような取り組みです。
 2つめは「労働条件の改善・向上」です。これは労働組合の活動の根幹と言ってもいいかもしれません。日々現場で働く組合員の皆さんの働く条件をしっかり改善・向上して行く取組みです。今日のテーマである「仕事と生活の両立をはかる」というのも、この二番目の柱の中の取り組みということになります。
 そして各組合のアドバイス強化、そして組合活動の参加促進などの取り組みということで、3つめの柱は「組織の強化・拡大」です。
 4つめの柱は「生保産業と営業職員の社会的理解の拡大」ということで、業界をよく知ってもらう活動です。広報活動や社会貢献活動を行っており、我々はこの4つの柱で活動を行っています。
 実際、生保労連と各加盟組合、組合員との関係団体との連携図を配布資料(下図参照)にまとめさせていただいております。生保労連の接点というのを大きく分けると、中央に生保労連とありますが、上側の生保産業内の接点と、下側の産業の外側の接点と大きく2つに分かれております。上側の内側の接点というのはまさに労働組合の本質的な取り組みですね。加盟組合があって組合員の方々がいらっしゃる。その組合員の声を加盟組合がしっかり集約して経営側としっかり交渉する。そのサポートを生保労連はしっかり行っていく、という方向性になります。

 生保労連から下側、産業の外の接点は一言で言うと、単位組合とか組合員の方が単体ではできないこと、例えば税制や国の政策制度、社会保障も含めてですね。こういう国の制度とか政策に関わるものというのは、一人ひとりや一つの組合だとなかなか動きが取れないことなので、そこをしっかり生保労連が産業別の組織としてやっていこうと、外の接点を持っています。
 内側、単位組合に向けては大きな方向性を示して情報共有、そして提供を進めていく。外側の接点は産業の理解拡大、そして政策をしっかり要請・提言をしていくという形で我々生保労連は取り組んでいるということをご理解いただきたいと思います。

2 仕事と生活の両立に向けた生保労連の取り組み

2-1仕事と生活の両立とは

 まず今日のテーマである仕事と生活の両立についてです。両立とはどういう意味があるのかを辞書で調べてみると、二つの物事が同時に支障なく成り立つことということです。仕事と生活の両立となると、仕事だけでもダメ、生活だけでもダメ、両方のバランスをとって生きていくことが大事だよね、ということだと思います。
 ブラックバイトという言葉を最近よく聞きますが、今日の新聞でも、学生の約6割の方がアルバイトで何かトラブルを抱えているという調査結果が発表されていました。皆さんアルバイトをしている方が多いかと思いますけれども、約束と違うのに長く働かされているとかはないですか。もし何か相談したいことがあれば、労働組合に相談されてみるのもいいかもしれません。
 そして、アルバイトをすることも重要かもしれませんが、本業は学業というか勉強だから、アルバイトをしていても勉強とのバランスというのが非常に重要になってくる。アンバランスはダメだよね、という話になってくると思います。
 我々働く側からすると、例えばプライベートを充実させたいけど、全然仕事が終わらないとか、仕事がしたいけど家事が大変だからなかなかできないとか、様々な考え方や声があるかもしれません。そういう意味ではこの仕事と生活のバランスの両立ってすごく大事です。生保労連では「ワーク・ライフ・バランスの実現」として、私たちの働き甲斐とか生きがいに欠かせないだけでなく、男性も女性もともに活躍していこうというような男女共同参画の取り組みだとか、さらには多様な人材が活躍できる環境整備といった視点からもすごく重要になってくると思います。また、それに対しては労働時間の短縮や両立支援制度の充実、メンタルヘルス対策等、様々な課題があると我々は考えています。

2-2生保労連のワーク・ライフ・バランス中期方針

 実際、このワーク・ライフ・バランスの実現に向けて生保労連ではどういう取り組みをしているのか。生保労連では、2014年8月に2020年8月までの6年間を期間とした「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた中期方針」を策定しています。資料の中にお示ししているのは、我々の中期方針の全体像を表したものになります(下図参照)。

 生保労連ではこれまで、10年くらいワーク・ライフ・バランスの取り組みを進め、着実に前進してきています。ただ、課題も多いということで、この中期方針を定めています。みなさんも様々なイメージを持っているかと思いますが、我々の考えるワーク・ライフ・バランスは、単に早く帰ることだとか、休みを取りやすくすることだけではないと思っています。
 「めざす姿」というのを記載していますが、働く人たちにとって仕事と生活が互いに好影響を与える関係が大切で、要は休むだけ、または早く帰るだけではなく、それによって仕事にも好影響を与えないと意味がないといえます。経営にとってもこのワーク・ライフ・バランスが当然重要だと考えます。人材の定着だとか、働く意欲の高まりによる生産性の向上、こういう所も必ずプラスになるということが言えると思いますので、そういう意味では、仕事と生活の好循環を実現させていくというのが我々の基本スタンス、めざす姿ということでご理解いただきたいと思います。
 このめざす姿を実現するためにどうすればいいのかということで、取り組みの柱として3つ、そして基盤づくりとして2つ挙げさせてもらっています。具体的な取り組みの柱と、その土台となる基盤、この2つの視点でしっかりとめざす姿に向けて取り組みを進めて行こうということになります。加えて、取り組みの柱ごとに色々なメニューを設けて、加盟組合の皆さんが、それぞれ課題認識に応じて取り組みを進めていくこととし、そのサポートを生保労連がしていきます。さらに、到達ガイドラインとして政府が主に発信をしている数値目標なども目安にしながら、各組合の進捗状況を確認し、仕事と生活の両立に向けて様々な取り組みをしています。

2-3仕事と生活の両立に向けた生保労連の取り組み

 我々生保労連が実際に行っているワーク・ライフ・バランス関連の具体的な取り組みを紹介します。
 1つめはワーク・ライフ・バランス推進担当者会議です。会社とどういう協議をしているのかとか、ある組合ではこんなことやっていますよというような、お互いの情報を共有する場として会議を実施しています。昨年11月は介護をテーマにした講演会などもあわせて実施したりしています。そして各組合が会社と協議を行うに当たってのマニュアルを作成したり、組合員の方に直接働きかける一環としてポスターを作ったり、広報誌の中でも実践事例を紹介する等、直接組合員の方にもワーク・ライフ・バランスの必要性などを発信している、ということになります。
 また、経営側、会社側との一体的な取り組みや、男女共同参画といった視点からもいろいろな取組みを実施しています。今年4月にはワーク・ライフ・バランス労使フォーラムということで、会社側からも多くの方に参加してもらって、労使で課題認識の共有を図りました。また、女性組合員の交流会やセミナーといった形で、女性活躍推進に向けた様々な取り組みも合わせて行っています。これらは仕事と生活の両立に密に関わっているということで実施させてもらっています。

3 労働組合の具体的な取り組み~仕事と生活を両立できる職場づくりに向けて~

3-1仕事と生活の両立をはかる制度

 では具体的に各労働組合が仕事と生活の両立に向けてどういった取り組みをしているのか、ということをお話ししていきたいと思います。事例に入る前に、仕事と生活の両立をはかるために様々な制度があるので、知っているものもあれば知らないものもあるかもしれません。ざっと制度を挙げさせていただきます。
 先ほどは、生保労連のワーク・ライフ・バランス中期方針のお話をさせていただきましたが、仕事と生活の両立には大きく2つの視点、中期方針でいう取り組みの柱、それから基盤づくりがあります。この2つはそれぞれ車の両輪ともいえる形で、うまく制度と運営の両方を回していかなければいけないと思っております。
 制度は、資料にも生保労連の中期方針で3つの視点で挙げさせてもらっていますが、まず1つめの柱は労働時間の短縮と休暇の取得促進の各制度ということで、パソコンの電源ON・OFFによる労働時間管理など諸々挙げさせてもらっていますが、ここは前回労働時間短縮の講義があったということなので、ざっとこんなことがあるということで見てください。
 次に健康増進・職場環境の改善に関する取り組みは、ハラスメントに対する体制整備、ストレスチェック等、様々な取り組みを行っています。
 両立支援制度には様々な制度があります。育児・介護休業や短時間・短日勤務などです。資料では代表的なものを挙げさせていただきました。今日のテーマにおそらく一番近い両立支援制度の拡充・活用促進というところで少し具体的な事例をお話しさせていただきたいと思います。それぞれ制度の内容は資料(下表参照)に記載してありますので、内容はご確認いただきたいと思います。なかなか学生の皆さんだとピンとこない制度もあるかもしれませんが、実はとても大切なことですし、これからの将来にも関わってくる権利だと思いますので、こういう制度があるのだということは、ぜひ興味深く感じ取っていただければと思います。

 いろいろある両立支援制度ですが、国には育児・介護休業法という法律があります。最近ニュースとか様々な形で耳にする機会があると思いますけれども、例えば、出生率をもっと上げていこうとか、女性がもっと活躍できる社会にしていこうとか、人口が減少していく社会の中で、様々な形で仕事との両立を進めていかなければならないというのは政府も言っているところなので、この育児・介護休業法で、企業としてこういう制度は一定程度用意しなさい、と法律で義務付けられています。
 例えば、育児休業であれば法律で必ず会社は子が1歳まで、場合によっては最長1歳6か月までは休めるようにしなければいけない、となっています。介護休業であれば対象家族1人に対して93日までは必ず休めるようにというのが、法律で決められています。
 現在、我々生保産業の現状はどうかというと、まさに労働組合の役割と取り組みのところですが、産業全体ではこの制度がかなり進んで来ていると言えると思います(下表参照)。

 例えば短時間・短日勤務制度というのを見ていただくと、法律では3歳までの子どもを対象に1日の働く時間を短くする仕組みを持ちなさいということが決められていますが、生保産業では、小学校就学前までを対象にこの短時間・短日勤務制度を認めましょうという仕組みが一般的になっています。また、看護休暇制度はお子さんの体調が急に悪くなったら休める制度ですけれども、法律で認められているのは小学校就学前の子ども1人に対して年間5日ですが、生保産業を見ると一般的には小学校3年生までを対象に、年間10日といった制度を持っている会社が多いという感じですので、産業全体としてはかなり進んでいると思います。さらに先進的な事例ということでさらに一歩進んだ会社もいくつかあります。
 先ほどの短時間・短日勤務制度でいけば、小学校卒業までのお子さんまでを対象に勤務時間を短くしていいよと決めている会社もあれば、子どもが生まれる前、妊娠中の女性の方も使っていいよというような事例もありますし、看護休暇も同じく小学校卒業までのお子さんを対象にしていいよというような、さらに進んだ事例も出て来ています。

3-2仕事と生活の両立をはかる環境整備

 両輪のもう一つの輪になりますけれども、制度をうまく活用できる環境整備、いわゆる運営がすごく重要です。制度と同じくらい重要と言えると思いますので、我々の中期方針でも基盤づくりということで取り組みを進めています。
 仕事と生活の両立には、経営側のやるぞという姿勢がすごく重要で、経営トップが「ワーク・ライフ・バランスを重視します」と発信することをしっかり各社やっていたりとか、早く帰る、休みを取るにも仕事があると休めないので、仕事自体の量を削減したり効率化するとか、業務の効率化を考える部署を作っているというような会社もあります。また、上司の評価項目にワーク・ライフ・バランス関係の指標を入れている会社もあります。上司が率先して労働時間を短くする、部下が早く帰れるようにする、休みがとりやすいようにすることによって、上司の評価が高まるといったケースも増えてきており、制度を活用できるような運営もすごく大事だということで、しっかり取り組みを進めていく必要があると思っています。
 加えて意識改革です。運営と合わせて、制度を使う側の意識を変えていくこともしっかり取り組んでいく。様々な制度を使って仕事・生活を両立することによって、生産性や企業業績に絶対にプラスになるという認識も、労働組合として会社と交渉するに当たってはすごく重要になってくると思っています。

3-3労働組合の具体的取り組み

 ご紹介した制度や運営は労働組合として大きく関わっていくべき組合の意義に通ずるところになっています。労働組合が様々な取り組みを進めてきたからこそ先ほどご紹介した制度の進展があったり、様々な環境の整備がされてきたりしていると言えます。労働組合の本来の役割は、この寄付講座の全体のテーマの中でも聞いていらっしゃると思いますが、根幹にあるのは労働諸条件、働く一人ひとりの働く条件を少しでもいい方へ変えていこうという取り組みです。そのため会社としっかり協議を行っていくことが重要です。
 会社の組織は一言で言うとトップダウンです。社長がこうだと決めたことが、部長なり課長なり、そして従業員に会社の方針が上から下へと伝わっていくものですが、労働組合の組織は真逆だと考えていて、ボトムアップの組織です。まさに組合員、働く一人ひとりが主役で、働く一人ひとりの声というのが出発点。それを例えば職場レベル、都道府県レベル、全国レベルということで、声を集約してそれぞれのレベルで、本部で本社と労使協議したり、職場で解決できる問題は組合の支部と会社の支社で交渉したりと、会社に改善を促していく。労使で協議してしっかり労働条件を引き上げていく、これがまさに労働組合の役割であり組織だということだと思っています。

3-4仕事と生活の両立に向けた組合員の声

 実際に、主役である組合員の声というのはどういうものがあるのか。とりわけ仕事と生活の両立に向けて、働く側の意見を少し紹介させていただきます。
 大きく分けて二つ、制度と運営と言っていますが、制度に関する意見としては、例えば皆さん「小1の壁」って聞いたことありますか。小学生になると保育園よりも早く帰宅してしまうので、短時間勤務の対象をもっと拡大して欲しいとか、看護休暇制度は、法律では小学校就学前までだけど、もっと拡大して欲しいとか、保育料に対する補助をもっと増やして欲しいというような、制度を良くして欲しいというような声もあります。一方で運営の改善、制度はあるけど今の職場のことを考えるとなかなか使いづらいので、職場環境をもっと良くして欲しいとか、そもそもどんな制度があるのかよく知らないので、こんな制度があるということをもっとアピールして欲しいといった声もあったりします。
 先ほど触れたように、制度面では生保産業はかなり進んでいると思います。だから制度の充実よりも、最近では周知とか運営の改善を求める組合員の声がすごく強くなってきているな、と感じているところです。

3-5具体的な取り組み事例

 では、実際にこういった組合員の声を踏まえてどういう取り組みを行っているのかということで、事例をいくつか紹介したいと思います。
 1つめの事例は育児休業の取得期間延長の事例です。組合員の声として、なかなか保育園が見つからないとか、保育園に入れないという事が問題になってきていますので、期間が1年だと厳しいというのがもともとの発端です。休業期間をもっと長くして欲しいという声を組合本部で集約し、会社側と交渉して、先ほど少し先進的な事例として生保産業の現状を紹介しましたが、育児休業を、法律は1年までだけど3年まで取得可能にしようという会社がいくつかあります。
 このように、制度の拡充は組合が交渉することによって実現するのですが、皆さん大学を3年休学してまた3年後に復学をするといったらどうでしょう。結構怖くないですか。実は制度は良くなっているのですが、3年休むと職場に戻って本当に仕事ができるのかなという不安の声が、組合員の方から上がってきます。やはり3年間も職場から離れてしまうと復職が少し不安ということで、長く休むのもいいけれど、仕事しながらうまく生活と両立できるような環境整備というのをもっとしてくれるといいよねという組合員の声に発展していきます。それが先に触れた短時間勤務とか、看護休暇制度、最近では在宅勤務、例えば埼玉から東京に通勤するなら大宮にも事務所もあるから、大宮の事務所でも仕事できるようにするといった動きも出てきています。このように組合員の声を踏まえて実現しながら、一方でまた別の声が出てくるというような状態が、この仕事と生活の両立に向けた取組みということなのかなと思います。
 事例の2つめですが、働き続けられる環境という事に連動するのですが、看護休暇制度の拡充ということで挙げさせていただきます。先ほど少し触れたように小学校1年生の壁、小学生になったから子育ての手が離れるということは全くなくて、実は育児との両立がすごく大変ということで、この看護休暇制度の内容を拡充してくれないかという声が、組合員の方から結構上がってきます。同じように組合本部で意見を集約して、会社と労使協議をするということです。我々は組合員の声を代弁するので、本当に率直にこうすべきだということを、協議で経営側に伝えます。制度を拡充していくことは組合員、働く者一人ひとりが働きやすい環境を作ることになるのでいいことだし、業界内とか他の産業にとっても、先進的な取り組みになれば会社にとってもプラスになるということで、我々は経営側に主張をしていくわけです。
 一方、会社は会社で主張があって、例えば、会社は諸々の諸制度全般を踏まえて考えなくてはならないから、例えば看護休暇を拡充してくれって言われても困る。保険会社の中ではうちは結構法対応以上やっているから充分ではないか、他に優先すべき課題があればそちらをやりたい、といった形で、結構意見がぶつかり合います。なので、ここはまさに交渉で、そうは言いながら何とかしてもらえないかというようなやりとりを重ねながら、実現につなげていくことになります。
 我々組合の立場では、こういう制度を拡充してくれという組合員の声が強いので要求するのですが、一方で、小さい子どもを抱えている人だけこの制度の恩恵を被ることができるという意味では、一部の組合員の声をどこまで、きっちり会社に交渉して行けばいいのかという悩みもあります。
 同じ組合員の中でも短時間勤務という制度だけ主張して、私はこれを使えるから早く帰ります、朝は遅れて来ます、子供が病気だから私は権利があるので休みます、というような形になってしまうと、周りにいる組合員の方からは、あまり拡充されても周りにしわ寄せが来てしまうから、ちょっと困るというような声も、あったりします。
 仕事と生活の両立をはかっていく上で組合として様々な取り組みをするのですが、良い部分もあれば実はそうではない部分もあるという声もあったりもするので、いろいろと各組合は頭を悩ませながら、会社にどのレベル感でどのように我々の主張を訴えていくのか、そしてそれをどう組合員に納得をしてもらえるような説明をしていくのかということを考えながら交渉していることを、少し感じていただければと思います。
 組合本部がしっかり交渉することによって、小学校6年生まで看護休暇を取っていいように看護休暇制度を変えましょうというようなことができる。でも制度はあるけれども、職場の周りの忙しさを考えるとなかなか早くは帰れませんとか、遅く来ることはできません、なかなか休むことはできませんという声も強く、なかなか取り組みには終わりがないのも現状です。最近、子の看護休暇は時間単位でも取れるような取り組みも進んで来ていますけれども、あわせて意識を変えていくというのがすごく重要になってくると思っています。
 意識という側面で最後に1つ事例を紹介したいと思っています。意識改革につながる取り組みで、男性の育児休業取得100%に対するチャレンジです。ある生保会社で、会社が主導権をもって取り組みながら、労働組合もしっかり会社と連携しながら取り組まれているので、事例として紹介したいと思います。
 新聞などで皆さん目にすることがあると思いますが、男性の育児休業の取得率は大体3%くらいです。育児休業を取りたいと思っている男性は、ある調査では8割に達するという調査もあるので、育休を取りたい男性は多いけれども取れていないという現状の中で、会社として男性育休100%にしていこうじゃないかと進められた取り組みです。
 まずは経営がトップメッセージを発信し、トップダウンでこれやるぞ、ということが大きいと思います。
 実際、この男性育休100%をやったことによる効果というのはいっぱいあって、本人は効率的な働き方を意識して仕事意識が向上する。職場も業務の見える化が進んだりコミュニケーションが活性化したりする。そしてほかの会社での評価で「御社は男性育休100%取得したらしいね」というような話題になる。そういった様々な成果があったというのが、この取り組みになります。
 実は、ここでの事例紹介のポイントは、男性が育児休業を取得するということではありません。100%といいますが、男性の育児休業の平均取得日数は大体1週間くらいです。男性が育児休暇を1週間取りましたからといって、何かが変わりますか。仕事と生活の両立がそれでできましたかというと、答えはNOです。男性が一週間休んだからといって、特に両立面で何か変わるわけではない。ポイントなのは意識が変わることだと思います。意識が変われば本人の仕事への意欲、休む以上は効率的にもっともっと働こう、というように本人は思うわけで、そしてそれが周りにも好影響を及ぼすということです。だから上司は休みを取らせようとするし、周りの人は休むならサポートしよう、もしくは休むに当たって自分の仕事はこうですというのを周りと共有するから、業務の見える化ということにもつながるので、まさに仕事と生活の好循環に向けてこの男性育休100%というのが大きくプラスに働いているというところです。
 これが具体的取り組み事例の3つめということで、意識を変える取り組みということでお話をさせていただきました。
 
 「仕事と生活の両立をはかる」という今日のテーマですが、実現していくことの目的は、働く一人ひとりの働き甲斐とか生きがいを高めていくということになるので、組合としては会社のトップや経営層からのメッセージの発信というのも非常に重要ですけれども、やはりそれだけではダメで、従業員の声を、組合として今現場で働いている一人ひとりがこんなことを考えているというのをしっかり把握して、それをいかに経営に反映させていくか。ここがまさに労働組合の役割だし、そういった観点での取り組みというのはたぶん、会社が発展していく上でも必要不可欠だろうと思っています。会社と組合で本当に議論をたくさん重ねて導入されている制度も数多くあるし、そういう流れで導入されたものは、使い勝手も良いしうまく運用されると思います。組合の中でも様々な葛藤がありますけれども、こういった取り組みが働く一人ひとりの仕事と生活の両立につながっているということを、ご理解をいただきたいと思っています。

4 まとめ

 今日のテーマである仕事と生活の両立に向けた労働組合の取り組みの事例を通じて、役割・意義ということに触れてきましたけれども、最後にまとめということでお話をさせていただきたいと思います。
 今日の話を少し振り返っておきたいと思いますが、仕事と生活の両立をはかる上ではまず制度がとても大事です、ということをお話ししました。でも制度だけではダメで、それが使える環境もすごく大事、運営もすごく大事。これ車の両輪ですよ、というお話をさせてもらいました。そしてもう1つ何より大事なのが一人ひとりの意識、要は制度そして運営と環境整備、この両輪を操る我々一人ひとりの意識が何より大事だと思います。
 真に生活と仕事の両立をしていく上ではまずは自分の意識を転換していくことがやはり一番大切だし、出発点になるだろうと思います。例えば先ほどの事例の3つ目、男性が育児休業を取得しようというのもある意味、意識の転換です。当然、単に休むだけではダメです。仕事でしっかり成果を出しながら、育児にもしっかり携わって、仕事と生活を両立させよう、という意識の転換がとても重要になります。
 自分の意識が変われば必ず周りの意識が変わります。自分の意識のチェンジが周囲の同僚の意識のチェンジにもつながるし、上司のチェンジにも当然つながっていくわけです。また部下の意識のチェンジにもつながるでしょう。将来的に、自分が上司になった時には、なおのこと部下の意識のチェンジというのにも波及効果が生じます。まずは自分の気持ちや意識を変えることで、職場全体にお互い様意識が醸成される。そしてそれは波及効果で会社全体に広がっていくと思います。
 そして自分と仕事の理想的な関係ということで、自分と仕事、2つの丸を描くとしたら、どう描きますか。皆さんの場合だったら仕事というのを、大学、勉強とかに置き換えてもらってもいいかもしれません。
 仕事の中に自分があるという人はいますか。これは完全にダメパターン。まさに会社人間ですね。たぶん皆さんのお父さん世代には多いのかなと思ったりもしますけれども、本当に時代錯誤の仕事人間タイプだと思います。私見も含めてですが、仕事と自分の理想的な位置関係は、たぶん自分が中心だと思います。自分の丸の中に仕事という丸がある、これがおそらく理想的な位置関係ということになると思います。
 なぜかというと、自分が中心になると自分の中には仕事だけじゃなくていろんな要素がありますよね。趣味もあれば自己啓発という要素もあるかもしれないし、ひょっとしたら家族の関わりというような要素もあるかもしれません。多分これから皆さんが会社、社会に出ていく過程では育児という要素も出てくるかもわからないし、もう少し長い目で見ると、親の介護という要素も出て来る。ワーク・ライフ・バランス社会、すなわち仕事と生活の両立をしていく社会というのは、自分の中でいろんな要素をその時々に応じて大きくしたり、小さくしたりする。それぞれバランスを自分の中でとっていくというのが、まさに仕事と生活の調和だと思いますし、そういう認識を持っていただくといいかな、と思っています。
 最後に働く個人として、これから仕事していくと様々なことがあると思います。様々な選択肢があると思いますが、やっておけばよかったという後悔と、やらなければよかったという後悔では、絶対にやっておけばよかったという後悔の方が大きいはずです。なので、もし皆さんも労働組合と何らかの関わりを持つ機会があればぜひ、やらずに後悔よりやって後悔、労働組合に対しても積極的な意識・関わりを持ってもらうと、今日お話しした意味があるかなと思います。


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