埼玉大学「連合寄付講座」

2013年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第13回(1/20)

男女平等参画社会の実現に向けて

連合 副事務局長 高橋 睦子

1.はじめに

 2012年にロンドンオリンピック・パラリンピックが開催され、「男女平等、五輪の夢」と報道されました。すべての競技種目が男女で実施され、ロンドン五輪は「女性の大会」と言われました。実際に、女性の参加率が約44%で、男女ほぼ半々の参加となりましたし、日本、アメリカ、中国、ロシアでは女性の選手数が男性を上回っていました。
 近代オリンピックは、夏季第1回大会がアテネで今から100年以上前の1896年に開催されたのですが、その時は、女性は全く参加できなかっただけでなく、見ることすらできませんでした。まさしく女人禁制のオリンピックでした。その後、100年以上かかり、女性の参加率が44%までになり、すべての競技種目が男女で実施されるまでになったのです。
 このようにオリンピック・パラリンピックをとってみても、男女平等になるには時間がかかるものだと痛感しました。ですから、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、前回のロンドンよりもさらに進んだ男女平等のオリンピックをめざしていかなければならないと思っています。
 そのためには、待遇の格差改善と両立支援策が課題になってきます。聞いたところによると、ロンドンに行くのに、サッカーの男子選手は飛行機がビジネスクラスだったのに対し、女子はエコノミークラスだったそうです。また、女子選手が子育てをしながら練習をし、選考が関わる大会に参加していくのは大変だということがあります。スポーツの世界でもやはり両立の問題や、待遇の格差が問題だと改めて感じているところです。

2.今、なぜ男女平等社会の実現が求められているのか

 今、日本では、少子高齢化が非常に大きな問題となっています。高齢化による人口減少により、働く人の数が減ることで、税金を納める人やモノを消費する人が減ってきます。そうなると、今の経済や社会保障に非常に大きな影響を与え、縮小せざるを得なくなります。そのため、もっと女性に働いてもらい、持続可能な社会を作っていこうという考えがあります。
 世界の中でも、今の日本の経済を活性化し、持続可能な社会にするために、もっと女性が社会の中で活躍してほしいといろいろなところで言われています。たとえば、国際通貨基金(IMF)の緊急リポートでは、女性が日本を救うとまで言っていますし、経済協力開発機構(OECD)の提言でも、女性に対してよりよい就業を提供することが必要だと言っています。
 また、国際社会からの要請があります。2009年8月に、国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)から、日本は、男性は男性の役割、女性は女性の役割といった固定的性別役割分担の意識が強すぎる、こういった態度が男女平等社会の実現を阻んでいる、と指摘されました。また、OECDからも毎年のように、女性の労働参加をもっと高めることが必要だと言われています。
 これに関しては、政治の世界でも、経済活性化には女性の力が必要だと民主党政権のときから言われています。今の安倍政権においても、女性の活躍は成長戦略の中核であるとし、もっと女性に社会進出をしてもらいたいと位置づけられています。
 男性も女性も同じように自分の能力を発揮して、社会に進出して働くようになれば、持続可能な社会になるという経済的観点から、男女平等社会の実現が課題となっています。

3.男女平等参画は世界の潮流

(1)男女平等に向けた法整備
 国際社会からも、日本はもっと男女平等社会に近づけるべきだと言われているのですが、世界でも、やはり男女平等になるためには時間がかかっています。女性が社会の中で差別をされてきたという歴史の中で、1979年に国連で「女性差別撤廃条約」が採択されました。男女がなかなか平等にならないということで、国連で国際的に男女差別をなくす法律を作っていくことになりました。この条約は、法的な拘束力を持ち、性別役割分担を解消していくという国際条約となっています。
 日本も、1985年にこの条約を批准し、それにより「男女雇用機会均等法」という法律ができました。これは、働くための機会において、男女を差別してはいけないという法律です。具体的には、例えば求人の時点で男性のみ採用しますよとか、女性のみ採用しますよということは法律違反になります。男女は働く時の機会については平等だということを、日本でもきちんと法律で定めています。このように、日本も含め世界各国で、女性の差別撤廃と男女平等の実現に取り組んでいるのが今の流れです。
 そして、現在多くの国で導入しているのが、政治や経済の分野で一定の女性の数を割り当てるクォータ制です。OECD加盟30カ国のうち、26カ国が政党でクォータ制を導入し、女性議員を増やす取り組みをしています。お隣の韓国でもこのクォータ制を導入し、女性議員が増えてきています。
 このように、世界の流れが男女平等の実現に向けて走っている、ということも日本にとって男女平等が必要だという理由にもなるわけです。

(2)男女平等が進まない日本の現状
 男女平等については、国際的な指標があります。世界経済フォーラムが毎年女性と男性の格差がどれくらいかというのを数字で出しています。順位も出していて、2012年では、アイスランドが男女の格差がないということで、135カ国中1位でした。日本は、135カ国中101位で、男女が非常に不平等ということが数字でも示されることになりました。
 1位のアイスランドも歴史的には、男女は不平等だったらしいです。それをどのようにして改善させたかというと、まず一つは、女性議員を増やしたことです。政治に女性が参加することで、法律や政策の決定過程に女性が関わって作れるようになります。こういったことで、男女平等に近づくことができたということです。
 それから、もう一つは、女性たちの大きな社会的な運動があったことです。たとえば、スーパーの商品の価格を下げるという運動です。そのような運動の背景には、男女の賃金格差がありました。男性の賃金が100であるのに対して、女性が80ならば、女性が買う商品の価格も下げるべきだという主張です。このように自分たちが受けている格差に対して運動していく中で、男女平等を進めていくことができたということがあります。
 一方日本は、以前からずっと経済活動への参加と政治への関与において女性参画が遅れていることを世界から言われ続けていますが、アイスランドのような運動が起きる状況にありません。

4.男女平等参画を阻む要因

(1)雇用の課題
 日本において男女平等が進まない理由の一つは、働くというところの問題です。今、働いている女性は、2013年の調査では働く人全体の42.3%です。また、1995~96年頃から共働きの世帯も非常に増えてきています。このように、働く女性が増えてきているわけですが、雇用の分野での男女平等についてはあまり進んでいないのが現状です。
 このことは、女性の働き方を国際比較で見るとよくわかります。スウェーデンは、働く女性の数は、学校を卒業したあたりの15~20歳から伸び始め、そのまま60歳くらいまで働き続け、60歳以降になると下がっています。これをカーブで表すと台形の形になり、スウェーデンの女性は学校を卒業してから、60歳を迎えるまでずっと働いているということがわかります。
 それに対して日本は、最初の学校を卒業したところではスウェーデンと一緒ですが、20歳代でカーブは下がります。ということはここで、結婚や出産などにより働くのを辞めているということです。そして、その後、子育てが一段落したと思われる40歳代になるとまたカーブは上がり始めます。このようなカーブをM字カーブと呼んでいるのですが、このM字カーブが日本の女性の働き方の特徴だと言われています。つまり、ライフイベントが女性の働き方に非常に関わっているということです。

 また、合計特殊出生率と女性労働力率を見てみると、スウェーデンやフランスでは、日本の女性より労働力率が高く、また、出産などにより途中で辞めないにもかかわらず、出生率が高くなっています。このことから、女性の社会進出が進んでいる国ほど、合計特殊出生率が高い傾向にあるといえます。

 では、なぜ日本では、M字カーブのような働き方になっているかというと、働く女性の6割が、第一子出産をきっかけに仕事を辞めていることにあります。
 出産を機に辞める理由は、家事・育児に専念したいということもありますが、やはりその多くは、女性が働きながら子どもを育てるのは大変だということからです。つまり、今の日本では、仕事と育児の両立というのは非常に厳しい状況であるということが言えます。しかし、もし、この6割の人たちが辞めないで働き続けるとすれば、日本の労働力人口は5%アップし、国内総生産(GDP)も単純計算で1.5%増加すると言われています。
 一方、M字カーブで再び働き続けるところでは、一回仕事を辞めてしまった女性は、次に働こうと思ってもなかなか正社員の働き口はなく、非正規労働者になります。今、日本の働く女性の54.7%、2人に1人が非正規で働いていて、このことも男女間の賃金格差を大きくしている原因にもなっています。
 男女間の賃金格差については、非正規の問題だけでなく、先ほども述べたように、出産や子育てのため、途中でキャリアをストップさせてしまうことで昇進が遅くなるということもあって、差が出てきてしまいます。男性社員の賃金を100とした場合、正規も非正規も含めた女性のフルタイムで働く人の賃金は、73.3となっています。
 ここで非正規雇用比率についても簡単に触れておきます。非正規雇用比率の推移を見ると、男女ともに非正規雇用比率が上昇傾向にあること、若い人に非正規が増えていること、女性の非正規雇用比率が高いこと、そして、女性の場合は特に年齢が高いほど非正規雇用比率が高いことがいえます。やはり働き方が非正規だと、いつ雇止めになるかわからないという不安定さがありますし、キャリアを積むことができないこと、そして、賃金格差といった問題があります。この非正規の抱える問題も女性が働く上での課題です。

(2)日本の社会的・文化的背景
 日本の男女平等が進まない二つ目の理由は、日本の社会的・文化的背景です。法律では男女平等としながらも、男性は仕事、女性は家庭という性別役割分担の意識が根付いています。このことは、長年の制度・慣行による社会制度によるものといえます。
 また、高度成長期には、企業が男性には長時間労働や終身雇用を前提に、女性には夫の働きを支える役割を期待して、そのために配偶者手当や住居手当などの諸手当を支給し、生活を保障してきました。
 今は共働きも増え、男性も非正規になってしまうこともあり、男性だけの働きで生計を維持することは大変な社会にもなってきています。それにもかかわらず、今も男性は仕事、女性は家庭という意識が強く、男女平等がなかなか進まないということです。

(3)ワーク・ライフ・バランスの難しさ
 三つ目の男女平等が進まない理由は、ワーク・ライフ・バランスの難しさです。女性の社会進出、共働き世帯が増加していても、いまだに「夫と専業主婦」という片働きモデルが社会保障制度の基本になっています。そのため、男性の働き方がまだまだ変わっていないところがあります。長時間労働が前提の働き方や、働いて働いて、終電でしか帰れない男性正社員もたくさん見られます。
 一方女性には、「仕事をしてもいいけれど、育児も家事もちゃんとやりなさい」ということが求められていて、仕事と家庭の両立が難しいという状態です。こういったことが、男女平等を進めることを阻んでいると考えられます。
 男性の働き方を見ても、ちょうど30~40代の子育て期の人たちの5人に1人が週に60時間以上働いています。法律では週40時間ですから、20時間も上回っているわけです。こういう状態ですから、子育てをしたいと思っている男性がいても、現実は子育てなどする時間がなく、結局は女性にその役割がいくということになります。
 実際、男性と女性の生活時間を見ると、男性は有償労働の時間が長いですが、女性は家事などの無償労働の時間がかなり長くなっています。つまり、男性に比べ、家事、育児、介護などといったことに多くの時間を費やしているということになります。
 また、父親の育児参加にしても、2011年の育児休業の取得率が、女性が87%であったのに対して、男性はたったの2.6%です。この原因は、男性の長時間労働を前提とした働き方もありますが、男性が育児休業を取ろうとすると、「育児は女性がやるべき」という感覚の上司がまだまだ多く、申請しにくいといったこともあります。
 働く女性が、子どもを産んでも良いと思える条件は、1人目はキャリア中断の不安がないこと、2人目は夫が育児に関わってくれること、3人目は子どもの教育費で、経済的余裕があれば産んでもいいということです。
 私は、働く女性の子どもを産んでもいいとしている条件が本当に実現すれば、少子化も止まるし、日本経済も良くなるし、男女平等にも近づくと思っています。

(4)政策・方針決定過程への男女平等参画
 四つ目の理由は、政策や方針決定過程に男女平等参画ができていないことです。働く分野で見てみると、民間企業で管理職に就いている女性の数は圧倒的に少なく、役職別で見ると、一番多い係長級でも15.3%しかいません。政治の分野でも、国会議員に占める女性の割合は11.3%と、世界で最低レベルです。他の国では、4割近くが女性で占められているところもあります。国会中継などを見ると、男性ばかりで、女性はほんのわずかしかいませんが、他の国では、この風景はかなり違ったものになると思います。
 このように、政策を決める場において女性が少ないということは、さまざまな女性の声が法律を作る時に反映されないということです。ちなみに、一昨年12月にあった衆議院選挙の結果を見ても、女性の当選者は7.9%と非常に低い数字でした。

4.連合の男女平等参画社会へ向けた取り組み

 以上の要因によって、なかなか男女平等参画社会へ向けた取り組みが進まない現状ではありますが、私たち連合でも、日本を持続可能な社会にするためには、男女平等参画は絶対に必要な要件だと考え、働く場や生活にこのことを活かしていこうと政策を作っているところです。
 連合では、結成当初から、男女が平等になるための計画をずっと作ってきています。今、一番新しい計画が、「第4次男女平等参画推進計画」になります。その中で、連合がめざす男女平等社会とは、「男女が対等・平等で人権が尊重された社会の構成員として、様々な分野への参画の機会が保障され、役割と責任を分かち合う社会。それは、男性も女性も、誰もがくらしやすい社会」です。
 そして、具体的な目標と主要課題として、三つ掲げています。一つ目は、働きがいのある人間らしい仕事、ディーセント・ワークをめざすことです。それによって、誰もが働きやすく働き続けられる職場を作ろうと今取り組んでいます。
 二つ目は、仕事と生活の調和です。日本では、なかなかワーク・ライフ・バランスが実現できないので、男性も女性も仕事と生活の調和がはかれるような職場をしっかり作っていこうということを提起しています。今は、育児休業が法律で整備されながら、それを取りづらかったり、使おうと思うと不利益を被ったりすることがありますので、そういったことのない職場づくりをしていくための取り組みをしています。
 三つ目は、多様な仲間の結集と労働運動の活性化です。ここでは、女性が組合活動にもっと参加することや、意思決定に関わる組合役員や議会といった政治の場、企業の管理職に女性がもっと入り、しっかり意見反映をしていくことを計画に入れています。
 連合では、2020年までに私のような女性役員を30%にしていくことを目標としています。30%という数字は、意見反映ができる最低のラインです。こうした数値目標を立てて、2020年までに、女性の立場で発言する人たちを増やす計画をいろいろ行っているところです。

5.男女平等参画への具体的な取り組み

 今実際に行っている取り組みとしては、春季生活闘争での生活改善交渉です。その中で、育児休業を男女ともにしっかりとれるようにするなど、法律を上回る制度を作ることを経営側に要求しています。そして、少しでも女性が働きやすくなり、また、男性が育児休業などをもっと取りやすくするなど、ワーク・ライフ・バランスがはかれるようにしてもらうといったことも行っています。
 職場での取り組みとしては、製造販売業ではノー残業デー、集中タイムの設定、運輸業では女性の活躍に向けた管理職自身の意識改革、総合化学製造業では男性の育児参加を促進、情報サービス業では社員の声を受けて事業所内保育所を開設したりしています。また、サービス業では、トップダウンで女性の就業継続と定着率の向上といったことに取り組んでいます。
 企業も、このままでは日本はもたないとわかっていますので、働ける男女にはしっかり働いてもらいたいと思っています。また、有能な人材を欲しいと思っていますので、そのための制度をしっかり作って、労使で努力をしているところです。しかし、まだまだ努力が足りないのが今の現実です。

 今後も連合では、誰もが生きやすい平等な社会へ向けて、様々なところで取り組んでいきたいと思っています。今日のこの機会が、皆さん方にとってこれから男女平等参画社会の実現に向けての問題提起になればと思っています。


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