埼玉大学「連合寄付講座」

2012年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第13回(1/21)

若年者雇用にかかわる課題とその対応
-若者の雇用に関する連合の考え方と労働組合のとりくみ-

連合副事務局長 安永 貴夫

はじめに

 連合では、若い皆さんの雇用に関する問題解決を、「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けた取り組みの一環として取り組んでいるところです。
 それでは、「働くことを軸とする安心社会」とはどういう社会でしょうか。日本は働いている人が約6,250万人といわれていますが、そのうち約5,470万人、約9割が雇われて働いている労働者です。日本が雇用社会と言われるのは、このことからだと思われます。したがって、日本で雇用の安定・安心というのは、社会の安定に直結する不可欠な要素だと考えられます。また、働くということは、雇われて賃金を得るという形態だけではありません。たとえば、農業・漁業をされている皆さん、地域活動をされている皆さん、子育て中の皆さん、専業主婦も含め、誰もがさまざまなところで働いています。
 働く人たち全てに、公正な労働条件が確保され、そして、人と人とが支え合いながら、経済的にも社会的にも自立ができる、さらに自分自身が次のステージに向かっていける社会。病気、怪我、失業といった長い人生におけるリスクについては、社会が支える、そういったシステムがきちんと確立している社会を私達は「働くことを軸とする安心社会」と呼ぼうと決めました。
 そして、私たちが目指す社会像をパッケージにして、ホームページ等に掲載したり、こういった講義などでも取り入れたりして、世の中に広く訴えているところです。

1.若者の雇用をめぐる課題

 高い若年失業率や400万人に達している非正規労働者など、若者をめぐる雇用状況は依然として多くの問題を抱えています。将来の日本を支える若い皆さんの雇用対策は重要で、その問題については緊急に解決を必要とするものです。したがって、私たちは、若者の雇用対策についても「働くことを軸とする安心社会」に基づいて、世の中にも政府にも経営者側にも訴え続けているところです。
 一例として、学生の就活活動の問題があります。地方の学生が首都圏で就職活動をする場合、何度も旅費を使ってやってきて、ホテルに宿泊しなければなりません。それは仕方ないこととしても、昼間の就職活動の合間も居場所がなく、大きな荷物をガラガラと引っ張って町をうろうろせざるを得ない、そういうことで悩んでいる学生たちに対して、行政としても少し目を向けたらどうかという意見を出しています。

(1)若者の雇用の実態について
①若者雇用状況統計
 若者の雇用の実態については、最近日経新聞などで大卒の内定者が2年連続で増えたとか、かなり持ち直してきたという記事が出ていました。しかし、残念ながらこれは、リーマンショック前の約7割まで戻ってきた程度で、完全に戻りきったわけではありません。また、この数字は、大手企業の状況だけなので、中小企業になるとまだまだ厳しい状況にあるのではないかと思います。
 文科省の調査結果によると、大卒者の56万人のうち、正規の職に就けたのはその60%の33万5千人、安定的な雇用につけていないのが22.9%の12万8千人に及んでいます。就職できなかった(しなかった)人たちには、大学院に行ったり他の大学に進学したりといった選択をした人も含まれています。
 高校から大学・短大への進学率は、ここ2年は微減ですが、長期的に見て上昇傾向にあります。2012年の進学率は、53.6%という高い水準になっています。大学の数を見ても、1992年には全国で大学は523校でしたが、2012年はその1.5倍、780校にもなっています。
 それから、日本の教育費に対して税金等がどのくらい使われているかといいますと、全体の3.3%で、OECDの加盟国中最下位です。逆に、家計の負担は、教育費が21.7%と最高水準にあります。いかに教育費に国のお金がつかわれずに、家計の負担となっているかがわかります。高校入学から大学卒業までの一人当たり教育費は1,059万円で、さらに増加傾向にあります。

②年齢別完全失業率
 次に、15歳~24歳の若年層の年齢別完全失業率は、男性が7.7%、女性が5.6%、男女計が6.5%となっています。男女とも、一番失業率の高い年齢層がここになります。
 それから、新卒者で、就職後3年に以内に離職してしまう率は、中卒で64.7%、高卒で37.6%、大卒で30%となっています。この数字をとって、「七五三現象」と言ってきましたが、今もその状況が続いています。
 改めて離職理由を聞いてみますと、労働時間や休暇の内容が募集時の条件と違っていたというのが一番多かったです。働かせ方の問題がかなり影響したのではないのかと私達は見ています。

③卒業後に経験したことがある雇用形態
 学校卒業後に、正規でしか働いたことがない人、正規と非正規の両方で働いたことがある人、非正規でしか働いたことがない人をそれぞれ見ると、男性と女性では大きな差があることがわかりました。特に女性は、結婚・出産・育児などで、正規を辞めざるを得なくなり、その後、非正規として働くことが多いと考えられます。こういったことからも女性の就労には、多くの問題があると言えます。
 フリーターについても、フリーター期間が半年以内の場合は、男性72.5%、女性56.5%の人たちは、その後正社員になっています。しかし、フリーター期間が3年以上になると、正社員になれた比率は男性が57%、女性が38.3%です。フリーターの期間が長いと正社員になることが難しいということが明らかになりました。
 併せて教育訓練の状況を見ますと、企業でOff-JTを実施したところは、正社員向けが71.4%でした。それに比べて正社員以外は39.2%で、正社員に偏った教育訓練になっています。OJTでも正社員向けが63%、正社員以外が30.8%という状態です。

(2)若年者雇用問題に係る検討の視点
 以上のような状態を今後どのように変えていくか。連合では、若者の雇用問題については、まず、労働・社会保障・教育・産業政策などにかかわる省庁が、縦割りでなく、連携を取りながら取り組むよう要請しています。
 そして、企業としてどのように改善し、実行しなければならないのか、教育機関として何を実行しなければならないのか、それから、若者本人とその家族も含めて何を実行し、考えなければならないのか、これら3つがそれぞれ重なり合って、改善していくべきと考えています。
 また、社会全体として、就職率の地域間格差などを考えていくことや、労働組合としても、若者は将来の仲間という観点で、一緒に力を入れて取り組んでいく。連合では、こういった視点から、若者の雇用問題の改善などについて検討していくようにしています。

2.政府の雇用戦略対話での議論

(1)論点
 昨年3~6月にかけて、政府の雇用戦略対話の若者雇用に関するワーキンググループ会合が持たれました。政府と労働組合、経営団体、さらに教育界からも大学だけではなくて高校や専門学校、それからNPOといった幅広い団体の皆さんと会合が行われました。連合からも私を含めた3人がワーキンググループ会合に参加し、教育政策の観点、雇用労働政策の観点、それから経済産業政策の観点で論議を行ってきました。
 その中で、野田総理(当時)は、ワーキンググループのメンバーである私たちに、若者の雇用について「機会均等・キャリア教育の充実」「若者のキャリアアップ支援」「雇用のミスマッチの解消」の3つを検討してほしいと言われました。
 機会均等という点では、親の収入が教育だけでなく就職活動にも影響すること、また、雇用のミスマッチという点では、就活の際、優秀な中小企業がたくさんあるのに気付かず、大手企業にばかり集中してしまうことへの解決策等の検討を要請しました。
 これらについて検討を行い、6月に「若者雇用戦略」という文書にとりまとめて、お互いに合意したところです。

(2)連合の主張
 政府の雇用戦略対話で連合は、4つのことを強く主張しました。
 一つ目は、良質な雇用の創出です。経済界の一部には、「働くということは、もともと経済成長とその企業活動が活性化することが不可欠なのだから、景気の変動によって雇用も減って当たり前だ」というような声もあります。確かに、国の成長や競争力を高めていくことが経済成長には重要です。しかし、持続可能な経済成長というのは、そこに良質な雇用があってこそ生まれ、長続きするものだと私達は思っています。
 二つ目は、若者への投資です。将来を担う皆さんに投資することで、賃金によって税収が増え、国の財政へ戻ってきますし、社会保険料もきちんと支払われ、社会保障の安定にもつながります。また、稼いだお金で消費することにより、経済は成長し、社会全体にその利益は享受されます。したがって、若者の人件費をコストとして見るのではなく、投資という見方に変えていくことが重要なのだと訴えました。
 三つ目は、働き続けられる環境の整備です。失業率の低下だけでは、働き続けられる良い環境とは言えません。労働法に違反していないか、ハラスメントはないか、長時間労働になっていないか、そういった働かせ方の問題を解決して、働きやすい職場を実現することが必要だということです。
 四つ目は、地域における連携の重要性です。たとえば、地方自治体や各都道府県の労働局、教育界、産業界、労働組合等が連携して、自分たちの地域にある企業と求職者とのマッチングを促進する、そういった営みも必要だと提起しました。
 これらの主張は、最終的な合意文書におおむね取り入れられました。

3.ILO総会での議論

 雇用戦略対話で合意文書ができた頃、ILO総会では若者の雇用危機がテーマとして議論されていました。若者の雇用危機問題ということで、世界中から100名の若者のリーダーも集まり、フォーラムを開き、意見を聞きながら議論が進められました。
 世界全体で言うと、現在7,500万人の若者に仕事がありません。その若者の怒りは世界各地で政治に対する抗議運動として、昨年、一昨年に爆発してしまった状況があります。ILO総会では「若者に投資を!さもなくば、一つの世代が失われる」というスローガンが掲げられました。このスローガンを見て、私達が雇用戦略対話で言ってきたことは間違いではなかったと確信しました。
 議論では、労働側と経営側が対立した内容もありました。経営側は、「柔軟な雇用契約(日本で言えば非正規労働)は安定した雇用への飛び石」という見方をしました。つまり、とりあえず非正規になっておけば、正社員になれるというような表現を経営側は文書に盛り込もうとしました。しかし、労働側は、実際の現場ではそんなことにはなっていないと反発しました。非正規の人は非正規のまま続いてしまう状況があるし、正社員への登用はまだまだ広がっていないということで、労働側対経営側で議論が進んでいきました。
 結局、アフリカ、ラテンアメリカ諸国等の政府委員の反対でこれは削除することができました。アフリカやラテンアメリカが反対した背景には、欧米などの様々な雇用方式が持ち込まれた結果、国の中が今大変なことになっているという問題があります。そういったことから、先進国の経営者に対する反発や不信感を抱いているという印象を持ちました。

4.すべての若年者に良質な就労機会を実現するために

 マスコミなどでは、若者の就労の問題については、若者の意識の問題という議論に偏りがちになってしまうのですが、決してそれだけでは片付けられない問題です。
 連合では、すべての若者に良質な就労機会を実現することを打ち出しています。その施策として「働く場をつくる」「働く力をつける」「働く場とむすぶ」「働き続けられる」という4つの分野で同時進行していくことが必要だと考えています。

(1)働く場をつくる
 まず、起業支援や地域の中小企業への支援、そして働き甲斐のある良質な職場を作ることです。特に、今需要が高い医療、介護、子育て、環境、エネルギー、観光、こういった分野に予算を配分し、さらに税制措置や規制の見直しをしていく、そのためには、産業政策と雇用創出を一体的に考えるべきではないかと考えています。
 今、介護・子育ての分野は人手が足りないと言われています。しかし、こういった分野は労働条件が低く、働きづらい環境にあり、なかなか人が集まらない状況です。こういった雇用吸収力がある分野の労働条件等をきっちり整備し、魅力ある労働環境にしていく対策も必要だと思っています。

(2)働く力をつける
 働く力をつけるといったところでは、学ぶ権利・学ぶ機会の保障として、奨学金の拡充や高校無償化の継続、中途退学者対策などが必要です。
 それから、キャリア教育・職業教育・労働(法)教育の推進という点では、私達は特に労働(法)教育の推進を重視しています。労働三権や労働三法を丸覚えすることだけが労働(法)教育ではありません。働くことの意義、働く者の権利・義務、ディーセントワークやワーク・ライフ・バランスの必要性、こういったものを、中学、高校の早い段階でしっかり根付かせていくようにすることが必要ではないかと思っています。

(3)働く場とむすぶ
 若者と職場をむすぶという点では、一つは、学校による就職支援機能の強化です。それにより、インターネットのみに頼る偏った就職活動を防ごうというものです。
 また、ハローワーク、ジョブカフェ、ジョブサポーターの質・量の向上です。たとえば、ジョブサポーターは全国に2,000名いますが、残念なことにこの人たち自身が非正規労働者です。正社員として一人でも多くの若者を社会に送ろうとしているサポーターが非正規でいいのかということも提起しています。
 就職関連の情報開示強化については、就職説明会を開催する場合、前もって、昨年は何名受けて何名雇った、今年は何人雇う予定といったような情報を知らせること、さらに労働基準局で指摘されたことも情報開示すべきだと私達は訴えていますが、この辺は経営者団体と激しく対立していて、今のところまだ改善等はされていません。
 中小企業とのマッチングの問題で訴えているのは、人事担当者を置く余裕がない中小企業への支援、地方出身者が地元の中小企業のことを知りたいと思っていたときに知る方法がないことへの対処、その他に通年採用やインターシップの制度化等についても提起しています。インターンシップについては、一括した明確なルールがなく、賃金が支払われているところがあったり、働いているのと同様な活動をさせられているのに賃金が支払われていなかったり、労働法規違反ではないかといった問題もあります。したがって、大学におけるインターンシップ普及のためのガイドラインを見直すなどの整備が必要です。

(4)働き続けられる
 働き続けられるという点は、私達労働組合の役割が大きいだろうと思っています。
 労働組合の取り組みとして、長時間労働の撲滅など、働き続けられる職場づくり、ワーク・ライフ・バランスと健康に配慮した労働時間法制の在り方を検討しているところです。
 また、労働政策審議会や若者戦略推進協議会等を通じた政策実現、地域雇用戦略会議やキャリア教育支援協議会等、政労使による就労支援ネットワークの構築といったこと、働くことの意義を含めたキャリア教育・労働教育や職場体験にも取り組んでいます。埼玉大学のように、大学等で講義をもつなどして、働く現場の問題を若い皆さんにお伝えし、実際に就職した時に困らないような対応をお話ししています。
 そして、若い人たちに労働組合へ加入してもらうことです。残念ながら日本の労働者のうち労働組合に入っているのは2割弱です。そういう中できちんと労働条件が守られているのか、ワークルールが守られているのかをだれがチェックするのか。組織率の低下は私達労働組合の活動の弱さの責任とも思っていますので、労働組合として仲間を増やすことに取り組んでいきたいと思っているところです。

5.労働組合の具体的な取り組み

(1)学生×労働組合:本音で話します!
 連合では、学生の皆さんと本音で話そうという趣旨で、昨年のメーデーで最近就職したばかりの組合員と学生の皆さん5~6人を一つのグループにして本音の座談会をもっていただきました。
 「就職活動中に企業にこんなことを聞いたら雇ってもらえないのではないか」という恐れのあることも、気軽に意見交換させていただきました。さらに、時間外労働の実態や仕事を失敗した時にクビと言われたらどうしたらいいのか、仕事をしていて嬉しいこと、辛いこと等、具体的でかつ本音が聞けるような機会を設けさせていただきました。
 その時に私達が気をつけたことは、親のような世代が参加しない方が良いということでした。親の世代が加わるとつい説教をしてしまうので、こういう時には若い組合員が参加するということを大切にしています。

(2)ディーセントワーク世界行動デー
 世界中の労働組合が同時に取り組む「ディーセントワーク世界行動デー」にも参加しています。ディーセントワークとは、「働きがいがある人間らしい仕事」と訳していますが、それを求めて世界で取り組んでいる行動です。
 今回は初めて若者の皆さんも参加し、大学生に発言をしてもらったり、ステージで大学生のヨサコイ踊りにも出演していただきました。

(3)女子学生のための、就活応援セミナー
 「女子大生のための、就活応援セミナー」を昨年初めて行いました。女性の就職事情がどうなっているかといった講義のほかに、「女子学生のための就活ビューティー講座」も開催しました。短時間で「一緒に働きたい」と思われるような立ち居振る舞い等の実技を交えた講座です。
 「労働組合がビューティー講座を開くのか」と、いろいろ意見はありましたが、かなり好評でした。

(4)職場でも地域でも!
 そのほかにもさまざまな職場、地域で行われている就活応援策があるので、ご紹介しておきます。
 海員組合では、船員を目指す学生のための奨学金制度があります。また、体験乗船も行っています。JAMでは、ボランティアで高校の授業に参加して、旋盤を動かしたり、生徒と話をしたりしています。京都ジョブパークというのもあります。そこでは、政労使で働くことに関する様々な相談、支援活動を行っています。他にも、情報労連が中心となって行っている「明日知恵塾」というのがあります。そこでは、通信やIT業界の組合員から、職場の実態を聞くことができます。

おわりに
 少子高齢化社会のなかで、今後日本では、若い人たちはどんどん減り続け、それに伴い働く人たちの数も減少し続けていきます。
 そういう中では、年配の人を雇い続けると若い人が雇えないという議論ではなくて、働く人たちをいかに確保しなければいけないのかを考えることが大事です。そうしないと近い将来必ず、働く人たちが足りなくなってしまいます。したがって私達は、高齢者も、女性も、若い人もトータルで働くことを考えなければいけない時代に入ってきていると主張し続けているところです。
 最後に、就職後は、ぜひ労働組合に積極的に加入していただきたいと思います。
 就職活動をする際に、そこに労働組合があるかどうかわからないと言われますが、株式会社であれば、有価証券報告書に従業員の状況という欄があり、労働組合の有無について記入することになっています。そういったもので確認していただければと思います。
 また、就職して何年かしたら、ぜひ組合幹部として活動してください。世界が広がりますし、人脈も増えます。実は、様々な経験をとおして、また人脈を生かして、企業の幹部になっていく人も多いです。出世のために組合役員になるわけではありませんが、普通の仕事だけでは経験ができない世界が拡がり、広い視野で物事を観る目を養うことが出来るのではと思っております。
 以上を私からの問題提起とさせていただきます。どうもありがとうございました。


戻る