埼玉大学「連合寄付講座」

2012年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第11回(12/17)

ミズノ(株)とミズノユニオンから見た「グローバル枠組み協定の意義」

ミズノユニオン 中央執行委員長 黒川 剛

グローバル化に対応する -グローバル枠組み協定の締結を例として

UAゼンセン 国際局長 郷野 晶子

ミズノ(株)とミズノユニオンから見た「グローバル枠組み協定の意義」

ミズノユニオン 中央執行委員長 黒川 剛

1.ミズノ(株)とミズノユニオンの概要

 ミズノ(株)は、1906年に創業し、100年以上経過しています。企業理念は、「よりよいスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」で、スポーツ用具のほかに、シューズ、ウエア、スポーツ施設関連も扱っています。スポーツ施設関連については、ミズノとしては、スポーツの振興を理念としていますので、スポーツをする場所を作り、運営もしています。これは、スポーツ施設部あるいはスポーツサービス部という部署が扱っています。
 売り上げ規模は、2011年度の連結で約1,550億円です。グループは、海外の販売会社5社、製造の子会社が7社で、海外2社を含みます。その他にスポーツ施設を運営する子会社が2社あります。従業員数は、連結で5,238名、単体で1,941名です。
 ミズノユニオンは、ミズノ(株)と国内の製造子会社5社の正社員からなる単一組合です。組合員数は、約1,800名でうち子会社280名です。産別はUAゼンセンで、製造産業部門に属し、スポーツ業種労組委員会の代表も務めています。

2.ミズノ(株)におけるグローバル枠組み協定の意義

(1)オリンピック日本代表公式ウエア
 今日は少しでも興味を持っていただこうと思い、ロンドンオリンピックの日本選手団公式ウエアを着て来ました。日本選手が表彰台に上る時に着ていたウエアです。オリンピックを見て感動された方達から、このウエアをほしいという需要があって、レプリカを作って販売しています。
 まだまだ納品中ですので、最終的な売り上げは発表できないのですが、長野オリンピックの公式ウエアは、24億円の売り上げでした。たぶんオリンピックのレプリカでは1番売れたのではないかと思います。ロンドンオリンピックのウエアは、上着だけで4万円します。長野オリンピックのウエアも4万円くらいしました。ちょっと金額の設定を間違えているのではないかと思いましたが、それでも予約が殺到しました。
 皆さんが、このウエアに対して持っている印象は、感動であるとか、興奮、誇り、夢、さわやかさ、また、ロンドンオリンピックは女性が活躍しましたので、なでしこジャパンの見せた笑顔などが挙げられるのではないかと思います。
 ミズノ(株)にとって、こういったオリンピックのウエアに取り組むことは、選手に使ってもらうことや、その年の売り上げを確保するためではありません。長いスパンの中でブランドのイメージ・企業の価値を皆さんに認識していただくこと、スポーツで社会に貢献する企業として、オリンピック等の場でも活躍し、ブランドの価値を上げていくために、こういった協賛をさせていただいている意義のほうが大きいのではないかと考えています。
 このウエアは、中国の上海にあるミズノ(株)の自社工場で作られています。企画やデザインは日本国内の担当者がやって、作るのは中国です。今、ミズノの製品も、他の企業と同じように海外での生産が非常に高まっています。直接発注しているのは18カ国で、そのほとんどがアジアの国々になります。代表的なところは、ヴェトナム、タイ、フィリピン、インドネシア、台湾といったところです。
 では、なぜ、アジアでモノを作るのかですが、海外のほうが安く作ることができるからです。どうして安く作れるのかというと、まず費用がかからないことです。メディアでもよく取り上げられているように、人件費がかからないことが共通に認識されていることかと思います。ただ、費用というのは、人件費だけではなく、土地から始まって、いろいろな設備投資、修繕、その他管理費がかかります。税金が優遇されている特区などもありますし、為替の問題もあります。さらに、リスクを分散するなどいろいろな意味があると思いますが、まず人件費がかからないということで、海外に進出しているのが一つの大きな側面かと思われます。
 進出している国が、それなりに豊かで、安全に暮らせる環境であればいいのですが、幼い子どもに労働させたり、残業代は不払いのまま長時間労働を従業員に強制したり、非衛生的で危険な職場環境を放置している、また、そういった状況を改善しようとする労働者の運動・労働組合の運動が制約を受けている場合もあります。
 最近、バングラディシュにある某企業の衣料品工場で火災事故があり、大勢の人が亡くなりました。こういった事故から、費用がかからないのではなく、費用をかけないでいるのではないかと考えてしまいます。
 もしそのような現場で、企業のイメージを高めるために取り組んでいるオリンピックのウエアが作られているとしたら、このウエアに抱いているイメージは、先程話したものとは変わってしまうと思います。それは、ミズノ(株)の企業価値、ブランドの低下につながってしまいます。それだけでなく、バングラディシュで工場が焼けてしまったときには、商品の供給がストップしてしまいました。結果的に、企業がダメージを受けることになると考えられます。

(2)プレイフェアキャンペーン
 2004年にアテネオリンピックがありました。その時に、労働者の権利が確立されていない現場で製造されている商品があるということで、NGOや労働組合が、ブランドの責任を追及するために、プレイフェアキャンペーンを立ち上げました。
 そのキャンペーンのなかで、国際産業別労働組合が日本のUIゼンセン同盟(当時)を通じて、ミズノユニオンとミズノ(株)に対してこういった問題に対応する枠組み協定を締結して、問題ある地域の労働者の権利を守ることと、グローバル企業が抱えるリスクを軽減することを実現しようと提案し、対話を開始しました。
 この協定は、グローバル企業と国際産業別労働組合との間で締結する協定(グローバル枠組み協定)で、国際労働機関(ILO)が定めた労働基本権の重視などグローバルな活動領域に共同で取り組み、企業がいろいろな地域で、労働基本権を守っていくことを定めた協定です。

(3)ミズノ(株)にとってのグローバル枠組み協定締結の狙い
 ミズノ(株)は、ブランド価値や企業イメージの低下を防ぎ、信頼性の高い、安定的により良い商品を供給できる取引先を確保し、社会的責任を果たしていくという3つを狙いにして、国際的な労働組合と協定を結びました。
 労働者の権利がいまだに認められていない国がまだまだたくさんあります。そのような国だからこそグローバル企業が生産拠点を設けていく場合もあるのですが、企業にとって、良い面もあればリスクもあります。そこで、グローバルな労働組合組織と協定を結ぶことで、労働に関する問題の予防、発生時の対応を行い、結果的にミズノが狙いとする3点の効果を生むことにつながると考えています。
 それから、企業の社会的責任(CSR)という考え方は、今では社会に浸透し、現代の経営において欠かすことのできないファクターとなっています。この協定は、そういう責任を果たす企業であることを、広く知らしめることに寄与するものと考えています。

3.ミズノユニオンにおけるグローバル枠組み協定の意義

(1)企業内労働組合として
 会社が利益をあげることにより、我々は賃金を受け取ることができるし、いろいろな労働条件を改善・実現することができます。会社が儲からないと、賃金は上がりませんし、労働条件が低下してしまうかもしれません。
 会社が利益を上げることで、より豊かな生活を享受することができるのですから、企業の発展成長は、組合員の幸せとイコールになります。したがって、会社が狙いとしているブランド価値の低下を防ぎ、安定的によりよい商品を供給できる取引先を確保することは、最終的には企業の成長・発展につながるわけですから、それは我々の労働条件改善にもつながることになります。そういう意味で、企業内労働組合として、企業の活動に協力することになります。
 それから、企業が利益を上げる過程の中で、コストを重視するあまり、取引先に契約金額等の無理な条件を強いていないか、その結果、その取引先、工場等で労働者に過酷な労働条件を強いることになっていないか等、自社だけでなく、持続可能な社会を形成していくために、企業が社会的責任を果たしているのか、そういったことをチェックする機関として、企業内労働組合は機能していかなくてはならないと考えて活動しています。

(2)社会の一員として
[1]何のための労働組合か

 今、労働組合に加入している人の数が非常に少なくなっています。それなのに、今でも労働組合は存在し、活動しています。これはどうしてなのでしょうか。今改めて考えてみたいことは、労働組合は何故できたのか、なぜ今もなお存在しているのかということです。私は、一人でやるのは難しいけれども、仲間の力が集まれば何とかできるという思いがあって、労働組合が結成されたと思っています。
 そして、一つの企業だけではなく、同じ業界の仲間の力が集まればもっといろいろなことができるだろうと、産業別の労働組合が結成され、さらに、日本で働く全ての労働者がよりよい生活を送れるようにと、日本のナショナルセンター・連合が結成されました。
 さらに、一国だけでなく世界中の誰もが「働くことを軸とする安心社会」、これは連合が目指している日本の社会ですけれども、そういった社会の一員になれるようにと、国際的な産別労働組合が活動していると言っていいと思います。

[2]今、労働組合に求められているもの
 世界中でミズノ製品に関わる人々の利益を考える協定を結ぶことをきっかけに、自分たちを取り巻くいろいろいな環境、背景を理解して行動できればと考えています。どういうことかというと、ウエアを少しでも安くお客様に提供しようと思った時に、少しでも仕入れを安くしようと担当者は努力します。けれども、安くする程度が無理な注文であれば、ウエアを作っているアジアの工場では、賃金もろくに払われないような現場を生みだしてしまっているかもしれない、ということを理解して、我々は行動することが必要なのかなと思っています。
 そのように一人一人が、様々なことに当事者意識を持って関与する姿勢を持ち始めれば、それらの環境(世界、国、地域、政治、行政、企業、労働組合)は、より良い変化を遂げられるのではないだろうかと、今考えています。
 労働組合は、互いに助けあうために生まれた組織です。そういう意味では、企業の中で、産業の中で、国の中で、世界の中で互いに助けあう、そういう原点を継承し、そのような精神を持つ社会人を育むことが、今労働組合に求められていると思いますし、社会的責任の一つだと考えています。
 ミズノの組合が各国の労働条件の改善に対して、直接何かをできるわけではないのですが、我々自身がそういったことを認識して、日々活動を行っていく、そういう気持ちを養っていくことが、国や企業を良くしていくことにつながると信じています。そして、何よりも、当事者として関与していくことが大切だと思っています。

4.より広い社会に飛び立つ皆さんへ

 「明日は、きっと、できる。」これはミズノのブランド・スローガンです。チャレンジすることで、「明日は、きっと、できる。」という意味です。
 それから、ミズノユニオンの活動のスローガンである「self」。これは、私たち自身が当事者意識をもって活動していこうというメッセージです。「私自身」あるいは「私たち自身」という当事者意識と行動さえあれば、「明日は、きっと、できる。」と信じて、グローバル協定を締結し、労使協調して、活動を進めています。
 皆さんも就職すれば、家族や仲間といった枠組みよりさらに広い、上司、部下、顧客、取引先といろいろな関わり合いが出てくると思います。働くということは、関わりがたくさん増えて、その中で生きていくことと考えています。そういった関わりの中で当事者意識をもって、いろいろなことに取り組んでいただきたいと思う次第です。

グローバル化に対応する
-グローバル枠組み協定の締結を例として

UAゼンセン 国際局長 郷野 晶子

1.はじめに

 今日は、日本を除くアジアの国々と日本の違いを強調して、一つは、グローバル枠組み協定を結ばないと、どうして多国籍企業が言うことをきかないのかということ、もう一つは、アジアの労働条件が日本といかに違うかということについてお話をさせていただければと思っています。
 以前、アジアの工場に行った時のことですが、トイレの前に女性が座っていて、労働者が何回、どのくらいの時間トイレに行っていたかということを記録して、その記録をもとに給料を差し引くことをしていました。また、工場によっては、トイレを工場の真ん中に置き、誰からも見られるようにし、行きにくい環境にしているところもあります。さらに、休憩時間以外はトイレに行かせなかったり、女性のトイレが非常に少なかったりして、なかなかトイレに行くことができないという状況もありました。このように、トイレ一つをとっても、過酷な条件で働かされている労働者、特に女性の実態がアジアにはあるということを頭に置いておいてください。
 それから、日本はいいなあと思うのは、「企業が発展すると、自分たちも発展するんだ。」と素直に言えることです。アジアの労働者はそうは思いません。企業の発展は、企業の発展であって、自分たちとは関係ありません。自分たちは酷使されているだけで、企業の発展があればボーナスが上がるということもあり得ません。契約以外のものはもらえない、そのような状況では、労働者と企業は必然的に敵対的な労使関係を築くことになります。
 私は、日本の労使関係を素晴らしいと思っています。労働組合の立場として、これをアジアに広めたいと思っています。しかし、日本以外(シンガポールもそうですが)のアジアの諸国において、労使の不信感はものすごく大きく、経営者は、労働者から取れるだけ取って、自分たちは楽をする、そのために自分たちは努力もし、財を蓄えているわけで、労働者の施しのために事業を行っているのではないというのが、基本的に特に中国・華僑の経営者の姿かなと思います。
 そういう過酷な労働環境にあるアジアでどういうことが起きているのか、という話をしていきたいと思います。

(1)UAゼンセンについて
 まず、UAゼンセンについて簡単に説明しておきます。UAゼンセンは、2012年11月に合併しました。前身は1946年に結成された全繊同盟です。
 もともとは繊維中心の企業が集まった産業別労働組合ですが、今は民間企業最大の産業別労働組合で、繊維だけでなく流通、介護関係、医療、パチンコに至るまでほとんどの産業が加盟しています。民間企業の組合ならば受け入れる、これがUAゼンセンです。

(2)ITGLWF(国際繊維被服皮革労組同盟)について
 日本でも産業別組織がありますが、国際的にも繊維関係の組合を集めた組織があります。これがITGLWF(国際繊維被服皮革労組同盟)で、ミズノがグローバル枠組み協定を締結した相手となります。ITGLWFは他の組織と合併し、今はIndustriALLという組織になっています。

(3)労働組合の求めるCSRとは
 アジアや南米では、賃金を交渉することは日本ほど容易ではありません。日本なら労働組合を作って交渉すればいいのですが、アジアや南米の多くでは、労働組合を作ることは時として命がけになります。南米のコロンビアでは、最近また労働組合役員が一人殺されました。労働組合活動をしただけで殺されるのですが、コロンビアは最悪の国で年間何十人かが殺されています。規模は違いますが、アジアもその例外ではありません。
 それから、日本でも昔はありましたが、今では考えられないような児童労働がアジアでは蔓延しています。
 また、新興国、特にアジアにおいては、国を興すときに政府として産業を呼び興さなければなりません。そうするには、何らかのメリットを外資系企業に与えなければいけません。そのメリットの一つとして、極端に言えば、「労働組合を作らせません。だから、お好きに安い賃金で酷使してください。その代わり、ここに来てください。」という条件を与えたりしているわけです。
 たとえば、バングラディシュは、今1カ月40ドルぐらいの賃金になりましたが、以前は、朝から晩まで毎日働いても20ドルちょっとの賃金しか支払われていませんでした。これでは食べていけないと労働者がストライキを起こします。そうすると経営者は何をするかというと、往々にして、軍隊か警察を呼びます。そしてもみ合いになり、発砲して犠牲者が出る、それに激怒した労働者が、また反抗して立ち向かう、それに対して経営者は、強制的な暴力を用います。また、労働者も過激で、工場に火をつけたりします。アッシリアというところにあった衣料工場にも火がつけられ、生産が全くできなくなったことがあります。こうなると、やっと経営者団体や首相が出てきて、賃金を上げる、ということになります。こういったことが何年かに一回繰り返されています。つまり何人か犠牲者が出ないと最低賃金が上がらないという状態です。
 そういう状態に対抗し労働組合は、労働者の権利の確立・擁護、そして、適正な労働条件の確立と向上といったことをCSRを活用しながら経営者に求めています。

2.アジアの問題

(1)結社の自由と労働者の権利の深刻な侵害
 労働組合を法律で禁止するような頭の悪い国はありません。しかし、いろいろな意味で組合の結成が阻止されているのが現実です。ミャンマーは、民主化される前には組合の結成が禁止されていました。その他にも実質的に組合を禁止する国もあります。それから、中国、ヴェトナムのように結社の自由がない国もあります。これらの国で、組合が結成されたことがありますが、当事者たちは逮捕され、今でも拘禁されています。これがアジアの現状です。
 それから、もう一つの例として、スリランカやフィリピン、バングラディシュに自由貿易地域(FTZ)、輸出加工区(EPZ)というのがあります。一見きれいな工業団地なのですが、入口は一カ所で、労働者をコントロールするための見張りがいます。FTZ、EPZを設ける目的は、組合を作らせないというのも一つの理由となっています。さらに、ここは一カ所しか入口がないので、どうしてもオルグが入ることができず、活動しにくいというのが現状となっています。
 それにもかかわらず、スリランカのFTZで組合ができましたが、組合のリーダーはやはり殺人候補者リストの筆頭に挙げられています。

(2)労務費=賃金、保険、税金、諸手当
 こういうアジアの状況で、労務費がどうなっているかというと、たとえば月額では、中国で450ドル、タイだと400ドルちょっと、バングラディシュだと140ドルとなっています。これは保険や税金も含めて経営者が払う総額で、やはり経営者がこういう国に行くのは、労務費が安いからとだといえます。経営者自ら、賃上げをするわけがありません。
 そこで労働者が自分たちの力で賃金を上げていこうという動きになるのですが、本来貰うべき賃金と払われている賃金がずいぶん違っています。たとえば、インドネシア、バングラディシュの衣料労働者は賃金より支出が多い場合があります。つまり朝から晩まで働いてもなかなか食べられない、そのため親から仕送りをしてもらっている人もいます。
 カンボジアで調査したときも、実際貰っている賃金で何とか食べてはいけますけれども、訪れた衣料労働者の家は、アパートというよりも小屋でした。小屋がいくつか並んでいて、ベッドがあって、そこに4人住んでいて、自分たちで自炊をしながら、お風呂はシャワーがなくカメがあって、それで体を洗う、そういう暮らしをしながら、毎月73ドルくらい稼いでいるというのが、カンボジアの状況です。また、この衣料労働者の労働条件はそんなに悪くはないはずなのですが、仕事中に何人もが気絶するという事件が起きていて、安全衛生が悪いのではないかと問題視されています。

3.グローバル枠組み協定の事例

 2005年にバングラディシュで夜中に縫製工場の床が抜けて64名が亡くなり、80名以上が負傷するという大きな事故がありました。その工場は、ZARAというブランドを展開しているInditexの製品を作っていましたが、Inditex所有の工場ではありませんでした。しかし、発注した工場で床が抜けて人が亡くなったということで、ブランドのイメージを守るために、Inditexが50万ユーロの基金を作り、犠牲者の家族や負傷者への補償金としました。そして、この事件がきっかけとなり、ITGLWF とInditexでグローバル枠組み協定を締結することになったわけです。
 それから、2012年11月にもバングラディシュで火災があり、124名が亡くなっています。ここはウォルマートの製品を作っていました。火事が起きた時、警報が鳴りましたが、監督者は誤報だと避難させずに作業を続けさせ、そのために逃げ遅れてしまったということです。さらに問題になったのは、同工場の従業員名簿がないことでした。経営者自身、誰が働いているのかわからない、それくらいいい加減な労務管理をやっているのです。
 このように、アジアの工場では、過酷な労働条件に加え安全衛生も二の次となっています。今、ユニクロもバングラディシュで商品を作るようになっていますが、そのバングラディシュでは、陰ではこういうことが行われているのです。

(1)グローバル枠組み協定の意義
 私たちの目的は、労働者が労働組合を作って、自分たちの労働条件を自分たちで交渉できる場をつくることです。そして、グローバル枠組み協定がある限り、労働組合を作っても、後ろにはUAゼンセンやITGLWFがいて、酷いことはされないという安心感があるということです。これは非常に大事です。組合を作ると即刻クビというのが当たり前の世界なので、組合を結成しても不当労働行為が行われないという保証が、労働者には一番ありがたいことです。
 2011年11月にミズノとのグローバル枠組み協定が締結されました。その協定の中には、ITGLWF、ミズノ、ミズノユニオン、UIゼンセン同盟(同時)がお互いに相手を認め合い、結社の自由を認める、何か問題があった時には、一緒に解決していきましょうということが書かれています。このコミットメントが、労働者と労働組合にとっては非常に大事なのです。

(2)ブランドの責任
 以前は、ブランドは発注先の工場の労働条件や安全衛生に責任を負っていませんでしたが、今は、Inditexのように責任を負うようになってきています。法律を守っていればいいという会社もありますが、国内の法律が国際基準より劣っている国があります。私たちは、最低基準をILOに合わせるようにと言っています。グローバル枠組み協定の中でも一般にILOの基準が使われています。国内の労働法が未整備なアジアの場合、グローバル枠組み協定の中で国際労働基準を守らせるといった意味も持っています。
 私たちが、グローバル枠組み協定の中で行っているのは、ブランドとサプライヤーがお互いに協議して、問題があった時に共に解決をしていくことです。こういった社会対話を実施・維持することが非常に大事だと思います。

(3)最も望ましい姿
 私たちは、グローバル枠組み協定があるなしに関わらず組合ができて、労使交渉がその現場でできるという理想的な姿を求めているのですが、今はまだブランドの力を借りながら、取り組んでいる状況です。
 国連にグローバル・コンパクトというものもあります。企業が申請して、自分たちが行っているCSR活動を公表し、優良企業として認められるものです。しかし私たちは、グローバル・コンパクトだけでは完璧ではないと考えています。やはり、グローバル枠組み協定を結び、労使が共に問題を解決していく、という立場で活動をしています。

4.おわりに

 一つ覚えておいてほしいのは、皆さんがお店で買う「安くていいもの」の中には、アジアの労働者が、苦しんで作っているものがあるかもしれないということです。
 最近までミャンマーは組合を認めないので、「ミャンマーの製品は買わないでください、輸入しないでください」というキャンペーンを行っていました。今は解除されていますが、UAゼンセンの中でもそのキャンペーンを行っていました。このようなキャンペーンもあるということもご紹介しておきます。

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