埼玉大学「連合寄付講座」

2012年度後期「働くということと労働組合」講義要録

第4回(10/29)

【仲間をつくる(1)】労働組合をつくる

MEMC労働組合 執行委員長 瓦井 芳幸

 今日は、「【仲間をつくる(1)】労働組合をつくる」というテーマで、私なりの強い思いを皆さんにお伝えし、こんな考えで行動する人もいるということをわかっていただければと思います。よろしくお願いします。

1.会社と労働組合の概要
 エムイーエムシー株式会社は、従業員約400名弱の外資100%の会社です。1959年に創業し、1977年に宇都宮に工場ができました。グローバルに展開していて、世界9拠点で太陽光発電のパネルや、半導体のウエハーを作っています。2002年から量産が始まりました。
 MEMC労働組合の設立は2008年6月です。2009年2月には、単組として組合を法人化しました。このときに、電機連合に加盟しました。現在組合員数は320名です。私をはじめ執行委員は他に5名います。私は組合の委員長ですが、非専従ですので、会社で働いた分については会社から給料をもらっています。しかし、組合活動をしているときは組合から給料をもらっています。

2.労働組合設立に至るまで
(1)労働組合結成のきっかけ

 エムイーエムシー株式会社は、外資系の会社ということもあり、これまで組合が結成されたことはありませんでした。組合を結成するとクビになるとも言われていたのですが、私はクビ覚悟で、連合栃木の「労働相談ダイヤル」に電話しました。連合栃木の地域ユニオン(連合栃木ユニオン)は個人でも加入できるので、まず、毎月1,000円払って連合栃木ユニオンの組合員になりました。その後、会社独自で単組として労働組合を立ち上げることになりました。
 労働組合を立ち上げるきっかけになったのは、1本の社内メールです。2008年5月に「今期6月から賃金の10%以上をカット、賞与をほぼゼロにする。」というメールが日本法人の社長から全従業員に配信されました。このメールが配信される直前、今期最高の生産量を達成したということで、報奨金として各社員に5万円が支給されていました。そのような状況のなかで、賃金カットなどありえないことです。ところが、理由もないまま、賃金、賞与の減額の通知のみがメールで送られてきたのです。
 こういった突然の通告というのは、外資系には珍しいことではないのですが、やはり説明責任は果たすべきだと、社員40~50名で社長に詰め寄って、会社側に説明会を実施するように要求しました。

(2)自分に何が出来るかを考え行動
 その結果、説明会は開いてもらえたのですが、賃金カットを強行する気持ちに変わりはないという態度が目に見えていました。会社には、会社側が組織した社員会がありましたが、会社側に言われて集まっているような会でした。そこで何か決めるわけでもなく、委員長も社長に軽くあしらわれている状態でした。
 私はその時職場のリーダーで、部下や同僚から「給料が減額され、そのうえ賞与もゼロになったら、住宅ローンが払えない。会社は補てんしてくれない。これでは生活が成り立たなくなる」と言われました。さらに、「一緒に瓦井さんと仕事をしたいけれども、会社には魅力がないし、家庭を支えることができない。生活をとるなら、やはりやめようと思います」という声もかなり上がっていました。
 私自身この時はまだ入社して4年くらいしかたっていなかったのですが、松下電子工業に勤めていた経験があったので、特に教育担当をしていました。皆をまとめながらも、賃金がしっかりしていないから他に移りたいと思う気持ちはよくわかりました。
 しかし、その一方で、一生懸命頑張ろうとしている仲間や、身近にいる仲間を失いたくありませんでした。そこで私は、2008年5月に自分1人で行動を起こしました。

(3)会社に対する3つの課題
 この時の課題は、1つ目は、上司の好き嫌いによる指名解雇の撤廃です。
 2つ目が経営状況の開示です。会社はこれまで外資系ということを理由に私たちに経営状況について開示してきませんでした。でも、実際は日本にある法人ですから、外資系ということは理由になりません。
 3つ目が経営ビジョンの提示です。これから会社をどうしていきたいのか、従業員にどういう働き方をしてほしいのか、そういったビジョンについての説明が全くない会社でした。そうなると当然社員のやる気はあがりません。
 そういった会社側のやり方は、社員のモラルにもあらわれていました。工場内での服装が乱れていたり、タバコが吸いたくなれば周りの状況にお構いなしで一服してきたり、帰りたくなれば8時間いなくても報告なしで帰ってしまう人もいました。やはり、社会のなかで生産活動をしているのであれば、ある程度のルールは必要だと思います。

(4)自社内で労働組合をつくる決意を固める
 そのような中でも自分の会社を好きになりたいと考えている人はいました。最初は、親睦会を作っていこうと訴えたのですが、親睦会は法律で守られる根拠が何もないので、弱い立場のままです。たとえば、うるさいことを言えば、評価を下げられたり、一方的な配置転換命令をされたりしてしまいます。会社は人事権をもっていますが、親睦会では、会社の人事権に対して意見を言うことができないわけです。
 そこで、自分たちで労働組合を作ろうと訴えました。自分たちの意見をしっかり言っていくためには、労働者が持てる武器を持つべきで、そのためにまずは団結しようと訴えました。
 この時、私は、連合栃木ユニオンに個人で加盟していたのですが、皆からは「会社に見つかったらクビになるのではないか」と言われていました。実際のところ、連合栃木ユニオンのアドバイザーからも、本気で労働組合を作りたいと言うならばバックアップするが、もしかしたらクビになる可能性も否定できないと言われていました。
 私は、一度大きな会社をやめているので、ここでクビになってもまた次を探そうという開き直った気持ちでいました。それに「労働組合でこの会社を変えられる」という気持ちが強く、こちらのほうに私は賭けていました。
 そして「1人でも多くの力が必要なので、力を貸してくれ。仲間のために力を貸してくれ」と、立ち上がることを訴え、2008年6月に37名の賛同者と連合栃木ユニオンのMEMC支部を設立しました。そこで、会社をもっとよくするために、皆で協力して一人ひとりに声をかけて輪を広げていき、労働組合の拡大をはかろうということになりました。

3.MEMC労働組合の設立の経過
(1)仲間を増やす

 当初、組合を作ろうと考えたのは私1人でしたので、設立にあたっては、まず一緒に行動してくれる仲間を確保することから始めました。私は、栃木の工場で働く気のおけない仲間5人くらいに声がけをしました。
 外資系で、20年以上組合がなかった会社でしたので、組合に関わったらクビになると考える人が多くいました。私自身も内心は不安でいっぱいでしたが、何かあったら自分が責任をとる(=退職する)からと、賛同してくれるようお願いしました。
 勧誘に際しては、事務所で組合の話などをすれば上司にわかってしまうので、トイレなどで「今、こういうことをしているのだけど、あとで話を聞いてくれないか。」と約束を取り付けて、後から倉庫などで話を聞いてもらうというゲリラ的な活動をしていました。業務時間は17時25分までなので、その時間以外でそういった活動を続けていきました。

(2)連合栃木ユニオンの支部から単独の組合へ
 2008年6月、37名で連合栃木ユニオンの支部を作りました。12月には、500名いた従業員のうち395名が自分たちも会社をよくしたいと組合員になってくれました。保険と思って入る人が多いことも事実です。それでも一緒に活動してくれるならいいのではないかと思っています。
 半年間で395名もメンバーが集まったので、連合栃木ユニオンから、もう自分たちの力だけで組合活動をやっていきなさいと言われました。連合栃木ユニオンは、100人規模の小さい組織をバックアップしているところなので、電機連合などの産業別組織に入りなさいという指導を受けました。

(3)労働組合の運営って素人ができるの?
 私は、連合栃木ユニオンから離れ、自分たち素人が労働組合を運営できるのだろうかと本当に悩みました。以前、松下電子工業にいたときは組合員でありながら、労働組合のことは何も知りませんでした。それがいきなり委員長になってしまったわけです。
 それでも連合栃木や、電機連合の人たちに勇気づけられて、上部団体と信頼関係もできたので、電機連合に加盟しようと決意を固めました。そして、MEMC労働組合を設立したわけです。
 まず、コンプライアンス遵守を受け身ではなく、自分たち従業員でしっかりやっていこう、そうすれば会社は変わるということを活動の方針にしました。また、素人なので、専門家の力を借りるという意味で、行政とも連携していくことを皆で話し合いました。

(4)会社への通知
 そして、組合を結成したという通知を会社にしました。経営者というのは、従業員が反旗を翻して組合を作っているなどということは「まさか」と考えているようです。我々が、組合を作ったという通知を昼休みに社長室に持っていったところ、初めは何のことか分からずキョトンとしていたのをよく覚えています。
 その時は委員長、書記長、副委員長3人の5人で、紙1枚を渡して、また後日伺いますというものでした。一緒に行ってくれた仲間には本当に感謝しています。そういう仲間でいてくれて本当によかったと思っています。
 組合を作ったことで、団体交渉ができるようになりました。労働組合が団体交渉を申し入れると、会社側はそれを拒否できません。驚いたことに、経営側は労働組合について何も知らないようで、組合員になったことで不利益を被るようなことは法律で禁じられているのに、会社は平気で「組合員になったら評価を下げる」等と言ってきました。また、組合事務所の開設、チェックオフ、掲示板使用の許可等を要求したのですが、これらについて会社側はどういうふうに回答すればいいのかわからないようで、後日弁護士と相談して回答するということでした。
 このように何もわかっていない会社の対応に、イライラする人も当然いて「組合を馬鹿にしているのか!」と机を叩いたり、それに対して、会社側も「うるさい!お前らの言っていることはおかしいだろう!」と激論となり、それが1ヶ月続きました。

(5)労働協約の締結へ
 そういうやり取りを経て、お互いが「こういうことがあるんだ」と知ることになりました。そして、団体交渉や、団体交渉の前の協議を綿密にしていくことで、管理職の人たちに組合を知ってもらうだけでなく、管理職とは何かということも組合をとおして学ぶことになりました。
 また、就業規則というのが必ず会社にあって、その上には、労使で結ぶ労働協約があります。私たちは、包括的な労働協約を結ぶことに力を注ぎました。たとえば、ショップ制ですが、ショップ制には労働組合に自由に入脱会ができるオープンショップと、入社したら組合に加盟し、組合を辞めると同時に会社も退職するというユニオンショップがあります。私たちは、会社に入ったら組合に入ることを義務付けているユニオンショップを目指しています。

4.労働組合が出来てから何が変わったのか?
(1)コンプライアンス遵守

 労働組合がないと、成果主義といっても、コストを重視した人事評価制度となっています。成果を出すことについても、経営のバランスシートをきちんと開示してくれなければ、生産によって会社にどれだけ利益をもたらしたかわからないわけです。また、賃上げについても、会社の経営状態が明らかにされていれば、今年はちょっと苦しいから賃上げができないと言われても納得がいきます。
 ところが、組合のない会社はバランスシートを開示しないところが多いです。自分たちが働いている会社の経営状況がわからないことほど不安なことはないです。私たちの会社でも、10年以上賃金が一度も上がっていない人が実際にいました。これは組合のある会社ではありえないことです。
 それから、管理職という名前だけをつけて、年俸制にして、残業をしても残業代は支払われない「みなし管理職」の問題があります。これはコンプライアンス無視です。この問題については、当時はマクドナルドの店長が労働者なのか管理職なのかで問題になっていました。私たちの会社でも「みなし管理職」ではないかということで、2~3回労働基準監督署に入ってもらい、是正がはかられました。今では、コンプライアンス遵守を会社側も意識し始め、みなし管理職はなくなり、残業したらその分きちんと賃金がもらえるようになっています。

(2)可能になった会社との協議
 会社で何か問題があると、私はよく労働基準監督署に行きました。組合ができても問題はいろいろあります。しかし、労働組合ができたことによって、たんに労働基準監督署に行くだけでなく、その問題について会社側と労働者側が一緒に考えて解決することができるようになりました。このように、労使できちんと協議できる環境が整っているのが、労働組合のある会社なのです。

(3)法令を意識した取り組みへ
 組合役員というのは、労働三法、判例、民法を理解していないと会社としっかり議論できません。私も労働基準法や判例などを一生懸命勉強しました。今でも法律については制度が変わるので勉強しています。そうしなければ、会社側の社労士や弁護士と話ができません。
 労働基準監督署は、会社に勤めている人が行くことはあまりないです。でも、ここは労働基準法順守の立場から、使用者に対して指揮監督する行政組織なので、本当はどんどん行くべきです。先般も、障がい者雇用についてトラブルがありました。会社は、障がい者を解雇しようとしたのですが、組合側としては、それはおかしいのではないかということになり、労働基準監督署に入ってもらい意見を求めました。
 このように労働基準監督署という行政をきちんと活用していくことも、役員としての力だと思っています。また、法律をしっか把握していくことが非常に大切です。そして、人間力のある人が、企業を育てていきます。知識、理論だけでは会社は伸びていきません。私は、人を育てていくことを何よりも優先しています。

5.今後の課題と労働組合の役割
 今、会社では、さまざまな問題が山積みです。たとえば、現在おきている円高や、電力料金値上げは、外資系なので大きな打撃を受けます。電気代でいえば、韓国や台湾のグループ企業より日本のほうが、すでに4割も高いです。従業員も、そういうところで競争をしていけるのかという懸念や不安を抱いています。
 また、組合を設立した後に会社から人員削減提案が2回もあり、雇用を守ることの難しさも痛感しているところです。
 ただ、組合設立後は、会社と従業員が話し合える環境がしっかり整っています。また、先ほど話したように、コンプライアンスが守られる会社になってきました。本当にいい会社になってきたと思っています。組合の存在と役割は、会社と従業員の双方にとって重要であると確信しているところです。

 最後に、何か決断を持って行動できる人は、会社、さらには社会をも変えていけます。若い皆さんは、そういった可能性を誰もが秘めています。どうぞ、自分以上に仲間を信じて、いい社会を作っていってください。そして、その時に、労働組合という組織もあるのだということをわかっていただければ、今回私が皆さんの前でお話しできた意義があると思います。


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