埼玉大学「連合寄付講座」

2009年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第10回(7/1)

課題解決に向けての取り組み② 女性労働者をめぐる制度上の課題
―女性の働き方と税制、社会保障制度の課題―

小島茂(連合総合政策局長)

1.はじめに

 連合は、当初民間の組合が集まって結成されました。私はその民間連合に2年間おりまして、その後、公務員の組合と一緒になって今の連合になりました。今の連合になってから20年になりますので、私は22年連合で仕事をしていることになります。特に、社会保障や税金を中心に政策全般を担当しています。きょうは女性労働者をめぐる制度の課題、「女性の働き方と税制、社会保障」について講義をさせていただきます。
 きょうの講義のテーマは大きくは2つの柱があります。1つ目は女性の働き方で、特にパート労働者を中心に話をしたいと思います。現在、パート労働者が1000万人を超えていて、そのうち8割近くは女性であり、パート労働と税金の問題、社会保険適用の問題についてどのような課題があるのかということについてお話します。
 2つ目は、女性の働き方によって、年金制度の加入が変わるということです。20歳以上の全ての人が加入することになっている国民年金は、第1号、第2号、第3号と3つの加入者グループに分かれています。それぞれのグループにおける保険料、あるいは給付は違っています。これは、女性の働き方や配偶者の働き方によっても、年金の仕組みが変わってくるということになりますので、それについての課題、問題点を取り上げます。

2.パート労働と税制、社会保険適用の課題

(1)所得税の人的控除(配偶者控除等)と「103万円問題」

①「103万円問題」の内容

 パート収入が年間で103万円を超えると、所得税がかかります。所得税の「103万円問題」と呼ばれています。毎月8万6000円以上の収入で、年間を通して働くと103万円を超えます。そうすると、税金がかかるのが今の税制の仕組みとなっています。多くのパートの皆さんは自分で税金を納めたくないということで、1月から11月まで働いて103万円を超えてしまいそうだと、12月年末に働く時間を調整し、年間の所得を103万円以下におさえるということがあります。
 もう一つは、夫の税金も高くなります。妻の収入が103万円を超えると、配偶者控除の対象からはずれてしまうという問題があります。これは、働いている妻も税金がかかり、夫も配偶者控除がなくなるので税金の負担が増えることになります。このような二重の負担を避けるために、パートの妻が103万円を超えない働き方を選ぶといわれています。
 多くの企業では夫の賃金に家族手当をつけています。働いていない妻がいる場合、家族手当の中で配偶者手当を付けている企業があります。そして、妻の年収基準を103万円としている企業が多いため、配偶者手当もつかなくなってしまいます。家計からすると、パートで働いている妻の税金が高くなって、夫の所得税がさらに増える、さらに今まで支給されていた手当もなくなってしまう、2重3重の負担が増えたり、収入が減ったりすることになります。
 このような理由で、パートの皆さんが、103万円を超えないような労働時間調整を、年末に行うということが起きてくるわけです。そうしますと、スーパーなどは、ちょうど年末の忙しい時にパートの皆さんが働いてくれないということになり、人員の配置(やり繰り)に相当苦労するという問題も起こってくることにもなります。

②給与所得者の所得税額の仕組み

 では、どうして103万円を超えると税金がかかり、103万円未満であれば税金がかからないのか。それには、給与所得控除の仕組みにあります。給与をもらって働いているサラリーマンの必要経費の最低保障額は65万円です。それと、税金を納めている一人ひとりの基礎控除として38万円が認められています。この38万円の基礎控除と給与所得控除の最低保障額の65万円を合わせると103万円になります。この103万円を超えなければ、税金(所得税)は納めなくてもよいことになっています。
 もう少し説明します。給与をもらっているサラリーマンの所得税の計算の仕組みを理解してもらうと、この103万円ということがよくわかると思います。税金を計算する仕組みとして、まず、年間の給与収入があります。サラリーマンの給与は、賃金を得るために必要な経費である給与所得控除が認められています。給与収入から給与所得控除を引いたものが、「給与所得」になります。サラリーマンの必要経費としては、年収の約3割~4割くらいが認められています。これを自営業で考えると、原材料や家賃などが必要経費ということになります。それと同じような考え方で、サラリーマンでも必要経費が認められていて、それを引いたものが「給与所得」ということです。
 さらに、その「給与所得」から、全ての人に認められている基礎控除が引かれます。基礎控除は、衣食住などで最低これだけはかかるだろうとされるもので、38万円の控除が認められています。その他に、配偶者控除があります。働いていない妻がいると38万円、そして、子どもがいれば扶養控除として1人につき38万円認められています。
 このように、それぞれの控除を足し合わせ、給与収入からそれらを引いたものが最終的に税金のかかる「課税所得」ということになります。こういう仕組みで、最終的には課税所得がいくらになるか、100万円なのか200万円なのか、それによって税金が違ってきます。所得の少ない人は5%の税率、課税所得の合計が1800万円を超える人は、所得の40%の税率となります。

③給与所得控除の計算

 このように、収入に応じて課税所得が決まり、納める税金も違うということです。つまりは、課税所得がゼロであれば、税金はかからないということになります。この税金がかからないというのが、先ほど言いました給与所得控除(サラリーマンの必要経費)が大いにかかわってきます。必要経費は、賃金の収入に応じてその額を計算するということになっています。年間の収入が65万円以下の場合は、全部必要経費として認めるということになっています。そして、65万円を超えて、162万円以下の人については、一律に必要経費として65万円までを認められます。また、162万円を超えるような人は、その収入の4割くらい、収入が、500万~600万円の人ですと必要経費は、大雑把にいうと収入の3割くらい認められることになります。
 このような計算を月8万円くらい稼いで、給与収入が年間103万円であったという人に当てはめてみると、給与所得控除は65万円となり、本人分の基礎控除が38万円ですので、65万円と38万円を合わせるとちょうど103万円となります。つまり、控除額が103万円認められるということで、収入103万円から引いた課税所得はゼロということになります。よって、税金はかからないということになります。
 計算がこのような仕組みになっているため、パート労働者は103万円を超えないように年末に仕事を休むという問題が起きてきます。では、103万円ではなく130万円にしたらどうかという意見もあります。そうすると今度は、必要経費の給与所得控除を引き上げるか、基礎控除を上げるということになります。基礎控除は、給与所得者だけでなく、全ての人が対象となります。こういうことをどう考えるか、また、所得税の負担をどう考えるかということです。それは、社会保障給付90兆円という膨大な費用をどのように誰が払うかという話になってきます。あるいは、国の予算を編成する時、所得税を納める人が少なくなってしまうので、この課税対象の103万円を引き上げることにはならないということにもなります。そこが大きな問題だと思っています。

④所得税計算の実例

 では、実際に年収700万円のサラリーマン、夫婦子ども2人の家庭をモデルとし、所得税がどのくらいかかるのか計算してみたいと思います。年収700万では、給与所得控除として190万円の必要経費が認められます。さらに社会保険料(厚生年金、健康保険料)、40歳以上ですと介護保険料などこの合計額がまた経費として認められるということになります。ここでは便宜上、収入の10%を社会保険料として計算をしています。実際にはもう少し多いのですが、とりあえず10%とします。70万円の社会保険料となります。
 次に、家族構成ですが、夫婦、子ども2人で計算をしていますので、扶養控除38万円、さらに15歳以上の子どもがいる場合は、63万円の控除が認められることになっています。それで、2人合わせて101万円ということになるわけです。さらに、妻が専業主婦あるいは103万円以下で働いている場合は、配偶者控除として38万円が控除されます。そして、働いている本人の基礎控除が38万円で、これらを合計すると控除額は437万円ということになります。そして、700万円から437万円を引いた残りが課税所得263万円ということになります。
 これを5%から40%の累進的な税率表でみると、10%の税率が適用されます。263万円の10%なので、26.3万円が年間の所得税額ということになります。こういう計算で実際の所得税が計算されるわけです。このサラリーマンは、26.3万円の税金を毎月の給与から引かれるということになります。12分にすれば、1か月2万円弱が毎月の給与から天引きされるということです。

⑤配偶者特別控除

 妻の収入が103万円を超えてしまうと、夫の収入の配偶者控除がなくなり、場合によっては、世帯収入については夫と妻を合わせて若干は増えたけれども、税金がそれ以上に増えてしまい、世帯収入が逆に減ってしまうという問題があります。この逆転現象を解消するために妻の収入が103万円を超えても、103万~141万円までは、配偶者特別控除というものでなだらかに控除を減らしていき、実際の家計収入が増加しても税金が増えない措置をとっています。そういうことで配偶者特別控除が残っています。
 以前は、この配偶者特別控除は基礎控除38万円の上に乗っていました。これだけ共働き世帯が増える中、それはさすがにおかしいということで、専業主婦優先である配偶者控除の上乗せ部分は2004年から廃止されました。今残っているのは、103万円以上からかかる配偶者特別控除分だけで、逆転現象を調整する仕組みとして残っています。
 この配偶者控除、配偶者特別控除については、議論として色々あります。141万円以上になると、この配偶者特別控除はなくなってしまいます。そうすると、141万円以上で働いているパートの奥さんは、この配偶者控除も配偶者特別控除もつかないということになります。働いていない専業主婦や103万円以下で働いている主婦を優遇するような控除自体をやめてしまった方がよいのではないかという議論があります。この控除については税制をめぐる問題として大きなポイントとなります。皆さんにもこのことについて考えていただければと思います。

(2)社会保険適用と年収「130万円問題」

①社会保険の適用要件

 次に「130万円問題」について話したいと思います。パートで働いている人が年収130万円を超えると、健康保険や厚生年金あるいは国民年金を自分で支払うということになります。これはなぜかというと、社会保険は、扶養されている場合は、扶養している夫の保険料で賄うという仕組みになっていて、その収入要件が130万円となっているからです。パートで働いている人が60歳未満で、年間の収入が130万円未満であれば扶養の対象となります。130万円を超えなければ、本人が健康保険や厚生年金を支払うことをしなくてもよいことになっています。60歳以上の高齢者あるいは障害者の場合は180万円まで優遇措置がとられています。
 もう一つの要件は、扶養している夫の収入の2分の1以下であるということです。例えば、夫の収入が200万円、妻の収入が120万円だと、妻は扶養対象にはならないのですが、200万円の2分の1の100万円以下ですと対象になります。
 このことについては、低所得者で収入が少ない共働きで、夫が200万円、妻が120万円という場合は扶養にならないで、妻が120万円でもし夫が1000万円の収入であれば対象になるというのは不公平ではないかと言われます。ここで問題としなければならないのは、この被扶養認定の要件と被扶養認定の基準をどう考えるかということです。連合では、被扶養認定の基準が高すぎるのではないかということで、この半分くらい、所得税の給与所得控除の最低保障額が65万円ですので、これに合わせて年収が65万円未満の場合に限り、被扶養認定にしたらどうかということを提案しています。

②年収130万円を境にして保険料負担が変わる

 では、年収130万円を境にして、保険料の負担がどう変わるかということです。パート収入が、年間130万円未満ですと夫の扶養家族扱いとなり、妻が自分で健康保険料を払う必要がありません。一方、130万円を超えると、基本的には健康保険に自分で入ることになります。
 今まで政府がやっていた中小企業の労働者等が入る政府管掌健康保険(政管健保)が、去年の10月から民営化されて、『協会けんぽ』と名称が変わりました。そこに入ることを前提にして、保険料を計算すると、ちょうど130万円の収入ですとその保険料は、月額4510円という保険料になります。保険料率は給与の8.2%で、これを使用者と雇用者で折半しますので、4500円くらいになります。このように130万円を超えると、毎月4500円くらいの保険料を本人の収入から支払うようになります。
 次に年金ですが、これは厚生年金か国民年金かで保険料の負担の額が違ってきます。今は一般的に主婦の方は、第3号被保険者になります。夫に扶養されている場合は、直接自分で保険料を負担しなくてもいいということになっています。しかし、パート労働者で独身の場合は、収入が130万円未満でも第1号保険者となり、月1万4600円の国民年金保険料を支払うようになっています。しかし、厚生年金の被保険者になれば、毎月の保険料は8400円で済みます。国民年金の第1号で、1万4600円を払っている人に比べると、厚生年金の対象になったほうが本人の負担は半分くらいで済むわけです。厚生年金の保険料は合計では1万6000円で、労使で半分ずつですので、本人負担はその半分の8400円で済みます。
 このように、第1号か第3号かによって年金額が相当違ってくるわけです。また、国民年金に入った場合は、収入が130万円でも200万円でも保険料は変わりません。厚生年金は、収入に応じて保険料は変わっていきます。そのため、私たち労働組合は、基本的にパート労働者でも、厚生年金に加入できるようにすべきと考えています。

3.女性の働き方と社会保障制度(年金問題)

(1)パート労働の厚生年金適用と「第3号被保険者」問題

①年金制度全体の仕組み

 女性の働き方と社会保障制度の問題ということで、特に年金問題についてこれからお話をしたいと思います。まず、日本の年金制度全体の仕組みについて説明します。日本の年金制度は2階建てになっていて、20歳以上の人は全員、1階部分の国民年金に加入することになっています。学生の皆さんもこの国民年金に加入することになります。20歳になると、各市町村から年金手帳が送られてきます。その時に保険料を納める余裕がない場合は、保険料の学生納付特例制度がありますので、そちらをぜひ申請してください。10年間保険料負担を先のばしできるという仕組みです。この手続きだけは忘れないようにしてください。
 今の日本の年金制度では、20歳になると全ての国民が、国民年金に加入することになっています。民間のサラリーマンについては、基本的には厚生年金に加入することになっています。公務員は、国家公務員ならば国家公務員共済年金、地方公務員であれば地方公務員共済年金ということになっています。民間サラリーマンあるいは公務員は、2階部分となる厚生年金、共済年金に加入すると同時に、1階部分の国民年金にも加入しているという扱いです。

②国民年金の保険料等

 さらに、国民年金の加入者は、保険料の負担の違いから3つのグループに分けられています。まずは、本来の国民年金の対象として考えられた自営業者グループで、この人たちを第1号被保険者といいます。次に、民間サラリーマン及び公務員のグループを第2号被保険者と呼んでいます。そして、第3号被保険者というのが専業主婦の人たちのグループで、1109万人くらいいます。この第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている配偶者です。専業主婦、あるいは扶養要件である年間の収入が130万円以下の妻が第3号被保険者の対象となっています。
 保険料は、第1号は、毎月定額で納めることになっています。毎月の保険料は1万4600円で、これは2009年4月からの金額で、毎年若干ずつ上がっています。第2号は民間であれば厚生年金保険料で、ボーナスを含めて収入の15.35%という保険料を納めることになっています。これは使用者との折半になっているので、実際の本人が支払う分は7.6%くらいです。この金額を毎月賃金から天引きされるという仕組みになっています。また、国民年金の保険料相当分は、この厚生年金の保険料の中に含まれていますので、民間サラリーマン及び公務員の皆さんは、国民年金と厚生年金の保険料相当分を毎月納めているという仕組みになっています。
 第3号の皆さんは、自分では保険料を納めなくてもいいということになっています。これは第2号に扶養されているということだからです。では、この第3号の保険料はだれが払っているのかというと、基本的には第2号グループ全体で第3号の保険料を負担しているということになっています。第3号被保険者は1100万人くらいいます。第2号のグループがおよそ3700万人ですから、3人で第3号1人分の保険料1万4600円相当を負担しているという計算になります。
 このように保険料負担の違いによって、第1号・第2号・第3号と分かれているということです。つい最近国会で、国庫負担金を基礎年金全体の3分の1を、2009年度から2分の1に引き上げるという法案が成立しました。

③パート労働者等の社会保険拡大に向けた課題

 今、働いている雇用労働者のうち3分の1が非正規労働者であり、その数はさらに増えてきています。こうした状況の下、最大の問題は、非正規労働者が増え、国民年金あるいは国民健康保険の保険料が払いきれず、保険料の未納者、滞納者が増えているということです。そういう状況の中で、パート労働者の多いスーパー業界などは、保険料の半分は事業主負担となるため、なるべくパート労働者を厚生年金などの社会保険に適用しない対応をとっています。このことが、非正規労働者の社会保険適用がなかなか拡大しないことになっており、これも今大きな問題となっています。
 また、自営業者等が入る第1号被保険者の半分は、非正規労働者や中小企業労働者、あるいは失業者で今仕事を探しているといった人々の雇用労働者グループです。このように、賃金も低く、雇用も不安定という人が増え、毎月1万4660円の保険料を払いきれず、国民年金の納付率が近年非常に下がってきています。かつでは85%の納付率だったのですが、直近では、61%にまで落ち込んでいます。2007年で64%といったん持ち直したのですが、一番新しい数字ですと、保険料を納めるべき人が納めていないということで、納付率が61%までに落ちてしまっています。保険料を納めていなければ、年金を受け取れない、あるいは受け取ってもきわめて低い年金になってしまうという問題が起こってしまいます。
 これは非正規労働者が増えた影響が大きいと思います。特に、若い人ほど国民年金の納付率が低くなっています。25歳~29歳の団塊ジュニアと呼ばれている世代の人達の多くが、フリーター、あるいは派遣労働などで働き、安定的な職に就いていません。そのため、給与が低く、雇用も不安定なため、国民年金の保険料を支払えなくなっています。本来なら100%でなければいけないのに、50%しか納めていないという問題が起こっています。このような問題を防ぐために、非正規労働者も国民年金ではなくて、厚生年金に入るべきだと連合は主張しています。

(2)社会保険適用に対する政・労・使の主張の違い

 労働組合、経営者、政府が、パート労働者に対する社会保険適用に対してどう考えているのか代表的な意見を紹介します。連合は、働いている全ての人が、厚生年金、健康保健に加入すべきであると考えています。当面は週20時間以上の労働時間、年収が65万円以上ある場合には厚生年金の適用者とするとしています。そうすれば、国民年金の保険料の半分の負担で済むことになります。
 経営者側としては、特にスーパー業界といった女性パート労働者が多い業界では、基本的に反対だと主張しています。先ほども言いましたように、厚生年金にすると事業主負担がありますので、その負担を少なくしたいということです。なので、厚生年金適用をパートにも拡大することに反対するという主張です。
 しかし、全てのパート労働者が第3号となっているわけではなく、今でも被扶養でなければ第1号で、1万4660円の保険料を支払っているわけです。ですから、その第1号のパート労働者が、第2号の厚生年金適用になれば、今まで負担していた国民年金保険料の半分程度で済むとういことになります。加えて、1階だけでなく2階分も年金を受けられるということになります。連合は、こちらの方がパートを含めた非正規労働者にとって良いと考えています。それに対して政府は、その折衷案という感じです。連合では、これでは何の解決にもならないと考えています。

(3)国民年金制度の第3号被保険者制度の見直し問題

①第3号問題に対する考え方

 国民年金制度に関しては、第3号問題をどう考えていくかということが大きな課題です。第3号の皆さんから直接保険料を徴収したらどうかという考えもありますが、収入のない人からどう負担してもらうかという問題があります。なので、基本的に1階部分については、これは保険料で賄うのではなくて、全て税金で賄うようにするというのが連合の考えです。2階部分は、とりあえず厚生年金と共済年金を一緒にするということです。それと合わせて自営業者である第1号の皆さんには、この2階部分に自営業者独自の年金を作り、2階部分と一緒にするという考えをもっています。
 それに対して経営者はどう考えているかというと、現行の第3号制度を残すべきと考えています。そうすればパート労働者の保険料負担をせずに済むので、経営側は現行制度を維持するという域はでられないわけです。しかし、第3号の保険料は、サラリーマン全体で負担しているので、共働き世帯は2人分の3号保険料相当分を払う、また、単身者は、自分の保険料のほかに他人の妻の保険料相当分の負担をするという仕組みです。このことが、第3号保険料に対する不公平だと言われています。

②「女性と年金検討会」報告書による6つの見直し案

 第3号問題の解決については、色々な考え方があります。2001年末の「女性の年金検討会」の報告では、第3号保険料負担について6つの見直し案が示されました。この6つの基本的な考えについてご紹介したいと思います。
 まずは、現行維持ということです。主な論点として、共働き世帯あるいは単身世帯から、他人の保険料をなぜ負担しなければならないのかという保険料負担の不公平感があるという指摘がありました。それに対して、現行維持で良いという意見は、共働き世帯と専業主婦世帯を比較して、同じ世帯収入の場合は、専業主婦世帯で夫の給与が毎月50万円の場合と、共働きの夫と妻の所得が月25万円ずつで合計すると50万円となります。共働き世帯だと両方で厚生年金を負担していますが、その保険料の合計額は、専業主婦世帯の夫の保険料と同じです。
 給付も2階分の方は同じです。1階分も、共働き世帯は基礎年金が両方につきますので、給付も1階2階を合わせると、共働き世帯と専業主婦世帯が、保険料の負担も年金の給付金額も全く同じになります。ここには不公平はないということです。このように現行制度でもよいというのが政府の考えです。しかし、単身世帯ではそのような考え方はできないという論点もあり、第1から第4までの見直し案が出されました。
 「第1案」は、専業主婦の妻に、夫と同じく定率で負担を求めるという考えです。収入がない専業主婦をどうやって負担をするのかというと、夫の収入は妻の内助の功があってのことであり、夫婦二人で稼いでいるのだということにして、折半することにします。例えば、夫の収入が50万円であれば、25万円ずつを稼いだということにして、そこに保険料率をかけて二人から差し引くという考え方です。しかし、そういう考え方が実際に成立するのかが論点です。
 「第2案」は、第3号の妻から、直接1号と同じ保険料1万4660円を負担してもらうということです。実際専業主婦は収入がないのでどうやって負担させるのかというと、その保険料は夫の収入から負担する。実質的には夫が支払うというわけです。
 「第3案」は、夫が直接第3号の妻の保険料を負担するという考えです。第二案と第三案は実質的に同じ考えです。
 「第4案」は、夫が定率の負担をするということです。第3号の保険料を、自分の厚生年金の17%くらいを賃金から負担するという方法です。
 「第5案」は、専業主婦のいる世帯は夫の賃金が高いので、今決められている厚生年金の保険料負担の上限を引き上げるというものです。今は、毎月の賃金が300万円、400万円であっても、上限は98万円と決められ、それに厚生年金料率をかけることになっています。その上限をはずし、限度額を引き上げるということで、収入の高い夫の保険料負担を引き上げるという考え方です。
 このように色々な考え方が出されたのですが、議論は収斂せず問題はいまだに残っています。例えば、「第2案」の第3号本人に負担をさせるということになると、収入の低い世帯に一定額の負担をさせることは、所得に逆進的であり、これが社会保障ということにふさわしいのかという議論もあってなかなか収斂しません。したがって、結局この2001年の「女性と年金検討会」報告では実際には何も制度改正がおこなわれておらず、一応こういう考え方があるということに留まっています。

4.年金制度の様々な改正

 2001年の検討会では、第3号問題以外でも、女性と年金に関することが指摘をされています。実際に制度改正がなされたのですが、一つは、離婚した時、夫婦で厚生年金の分割をするという仕組みが新しくスタートしています。これは、2階分の厚生年金を分割するという考え方です。夫が厚生年金に入っていて、妻も厚生年金に入っている場合は、厚生年金に入っている期間を合算して、それを半分ずつにするというもので、協議、同意に基づいて分割する仕組みです。
 もう一つは、第3号被保険者期間については、妻が第3号であった期間は、離婚した時、夫の厚生年金の半分が自動的に妻の方に分割されるという仕組みで、これは、「離婚時の年金分割」と呼ばれる制度で昨年スタートしました。
 さらに、年金制度で、子育て支援をどのようにやっていくのかという議論がありました。その中で、従来あった制度をさらに拡充させたのが、2004年度に年金制度を改正した時に実現した内容です。一つは、育児休業を1年間とれることになっていますが、その間、厚生年金と健康保険の保険料を免除する制度があります。これを、1歳から3歳まで育児のために仕事を休む場合、最大3年間は保険料を免除することになりました。給付される時には、この期間は保険料を納めていたということで全額支払われます。いわば、子育てをしていた期間は、厚生年金全体で負担するという仕組みです。
 また、育児期間中も休まずに、短い勤務時間に切り替えるという人もいます。今まではこの場合には何の支援もなかったのですが、今回からは短時間勤務になっても以前と同じ勤務時間とてして賃金を計算し、年金の給付額に影響はないようになりました。子育て中、賃金が減っても年金は減らさないという仕組みを、新しく導入したということです。これは女性だけでなく、男性の育児休暇の場合でも同様です。
 女性と年金制度・税制の問題で、今どういうものがあるのかということを説明してきました。「103万円の壁」、「130万円問題」、「第3号被保険者問題」について取り上げてきました。その中でも、「第3号被保険者問題」の見直しは、なかなか議論が収斂しない極めて複雑な問題であることを、最後に申し上げて、私の講義を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

以 上

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