埼玉大学「連合寄付講座」

2009年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第9回(6/24)

課題解決に向けての取り組み① 女性労働者の組織化の視点から

ゲストスピーカー:北山淳(セブン&アイ・フードシステムズ労働組合 中央執行書記長)

1.はじめに

 皆さん、こんにちは。私はセブン&アイ・フードシステムズ労働組合の中央執行書記長をしています北山と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
  簡単に自己紹介をさせていただくと、私とデニーズとのかかわりは、高校1年の時、アルバイトをしたのがきっかけでした。一応進学校に通っていましたので、アルバイトは禁止だったのですが、どうしてもアルバイトをしたい理由がありまして、働き始めたのがデニーズでした。この私が、労働組合の活動や女性労働者やパート労働者について話をさせていただくことは大変素敵で名誉なことだと思っています。
  その反面、高校生の頃お世話になった店長、従業員の皆さんに非常に良くしていただき、一生の仕事として選択したという面もあります。そういう意味からも、私たち労働組合も、とりわけ、パートさんに一生懸命仕事をしてもらえるように取り組んでいます。それらの経験を踏まえ「女性労働者の組織化の視点から」というテーマで、現場の状況を中心に講義をしていきたいと思います。
  私どもの労働組合は、デニーズジャパン労働組合として、1979年に結成されました。それ以来、正社員を中心に労働組合の活動をしてきましたが、2006年にパート社員を組織化しました。私たちの会社は、パートタイマーが非常に多い職場です。中でも、女性が多く活躍をしています。そうしたこともあり、労働組合及び会社が取り組まなければならない課題だと思います。

2.セブン&アイ・フードシステムズについて

①株式会社セブン&アイ・フードシステムズの概要
  パートタイマーという大きなくくりの中で、とりわけ女性の視点が中心になることをご理解いただいた上で、きょうは話を進めていきたいと思います。一言でパートタイマーといっても、業種、会社によって色々な働き方があります。皆さんの理解を深めるために、外食産業である当社の従業員の状況をまず、説明していきたいと思います。
  セブン&アイ・フードシステムズの創立は2007年となっています。その前身でありますデニーズジャパン、ファミール、ヨーク物産の3つの外食産業の会社が統合して設立した会社です。ファミールは1972年、デニーズジャパンは1973年にアメリカのデニーズ社とイトーヨーカドーが提携して設立しました。最近、新聞を騒がしているセブンイレブン・ジャパンも1973年に設立された会社です。2009年2月期の売上高は、1,207億円、店舗数は約950店舗、従業員数は正社員が約1,700名、パート社員は約23,000名ということになっています。
  主な会社の業態は、デニーズ、ファミールがファミリーレストランです。そして、コントラクトフードといった給食事業があります。企業の社員食堂や大学の学食を運営しています。また、ファストフードとして、イトーヨーカドーの店舗内でたこ焼きやポテトフライ、ラーメンなどを提供しているお店をやっています。

②セブン&アイ・フードシステムズ労働組合の概要
  労働組合も2007年結成ということになっています。前身のデニーズ労働組合とファミール労働組合は1979年に結成しています。組合員数は約8,000名です。加入対象者は、正社員と週契約20時間以上のパート社員となっています。
  先ほど正社員約1,700名、パート社員約23,000名と申しましたが、私どもの会社の全従業員約25,000名のうち93.2%がパートで占められているということになります。一般的に流通や外食はパートの比率が高いと言われています。改めてグラフなどで見ますと、パート中心の会社であることがわかります。
  パートと一言でいっても、色々な人が勤めています。大学生や高校生もいますし、フリーター、主婦、社会人の方も大勢いらっしゃいます。このうち女性の割合は全体の68.1%と大きな割合となっています。正社員も含めますと、会社全体の女性が占める割合は72.1%となります。男女平等ということが言われていますが、当社においては男性が少し押されているかなと、女性上位の会社であると言えるのではないかと思います。
  ただし、この女性上位というのは、パートについてのみいえることです。正社員に関しては、1,699名のうち女性は207名しかいません。取締役も部長も女性は、今のところ0名です。執行役員で1名となっています。本部に29名の統括マネージャーという役職がありますが、その中でも女性は2名しかいません。このような状況から、会社での女性の活躍の場をもっと広げていかなければいけないと労働組合では考えています。

③セブン&アイ・フードシステムズの社員群制度
  当社は、それぞれの働き方に応じての社員群制度という制度を設けています。正社員は、ナショナル社員とエリア社員というくくりにしています。
  ナショナル社員は、国内外全ての事務所に人事異動が可能な社員ということで、転勤の辞令が出ましたら、ただちに赴任しなければなりません。私たちの会社は、転勤が多く、イトーヨーカドーではなくて「異動ヨーカード―」などと皮肉られることもあります。
  最近も、神奈川県内の店舗から秋田県内の店舗への転勤の辞令が出て、1週間で業務の引継や赴任先の住居を探さなければならないという話がありました。それくらい急な人事異動がある会社です。
  それに対してエリア社員は、自宅から勤務できる範囲内での人事異動ということになります。正社員の中にも、色々な事情がある人がいます。子供の養育、親の介護、あるいは配偶者の通院など色々な事情を抱えている人がいます。正社員で働きたいけれども、全国どこにでも行けるわけではないという場合があるからです。
  そして、パートのくくりでは、当社ではユニット社員と呼んでいます。ユニットいうのは「単位」のことですが、例えば、店長をユニットマネージャーと呼んでいます。「そのお店で働く従業員」という意味でこの名称を使っています。ユニット社員はパート社員と置き換えていただいて結構です。こちらは、有期期限の雇用契約で、契約した事務所で勤務する社員ということです。基本的には、人事異動はない社員ということになります。
  主な職務をまとめてみますと、週の労働時間ついては、正社員は基本40時間、ユニット社員は最大35時間までの勤務ということになります。人事異動は、正社員はナショナル社員、エリア社員の両方ともにありますが、ユニット社員には基本的にありません。基本的にないというのは本人が希望すれば店舗を移ることができる仕組みあるからです。例えば、主婦の方が、ご主人の転勤に伴い東京から名古屋に行くといった時に、名古屋のデニーズで働きたいという人などについては、そのまま店舗を異動していただき、時給などの条件もそのままで働いていただいています。
  給与に関しては、正社員は固定給、ユニット社員は時給です。職責につきましても、正社員については上限なしですが、ユニット社員は最大店長までということになります。雇用期間は、正社員は無期、ユニット社員は有期ということになります。また、資格制度、賞与制度、昇給制度、評価制度などは、正社員とユニット社員両方にあるということになります。

④役職者におけるパート社員の比率
  先ほど私どもの会社では、ユニット社員が活躍していると言いました。数字で見るとどうなっているのかということを具体的に説明したいと思います。全国約950か所の事業所で、それぞれの職種で仕事を担っている人がいます。
  レストランというくくりの中では、一番上の店長職が509名、その中でパートの人が店長職についている例は14名、2.8%となります。14名のパート店長のうち11名が女性です。
  また、リーダーという役職があります。リーダーは、デニーズの例でみますと、フロントリーダー、キッチンリーダーという役職があります。これらは、マネジメントというより、直接の運営のリーダーで、店の売上において重責を担うことになります。そのリーダーが全体で843名、そのうちの561名、割合でいうと66%がパートさんです。
  それから、コントラクトの店長は252名、その中で108名、4割の人がパートとなっています。また、ファストフードでは、133名中84名と半分以上のパートが店長となっています。さらに、この84名のパート店長のうち78名が女性です。

3.なぜ、ユニット社員の組織化に取り組んだのか

①「3つの基本的な考え方」
  なぜユニット社員の組織化を進めたのか、取り組んだのかということを説明させていただきます。
  私どもの労働組合は企業別労働組合です。企業別労働組合である以上、会社の成長なくして、私どもの労働条件処遇の向上はあり得ないわけです。そこで、私たち労働組合は、次の3つの基本的な考えのもと行動しています。一つ目は「涸れた井戸から水は汲めない」、二つ目は「一人は皆のために、皆は一人のために」、三つ目は「組合員による組合員のための組合活動」です。
  このうち、きょうの講義で注目していただきたいのは 、一つ目の「涸れた井戸から水は汲めない」ということです。会社を井戸にたとえれば、水は利益、給与の配分ということになろうかと思います。頑張って会社という井戸に水をためて、その溜まった水をみんなで分配しよう、水を溜めるまでは皆で頑張ろうという考えです。そして、全体の90%を占めるユニット社員の協力がない限りこういった井戸に水は溜められないわけです。こうした点においても、ユニット社員のやる気を引き出し、処遇を向上し、働きがいを持ってもらうことが、井戸に水を溜めることにつながると思います。
  色々な条件や制約を持つ人がいる中、みんなが安心して働けたり、生産性を向上したりするためには、ユニット社員は当然組合員の方がよいということになります。労働組合は、組合員の声あるいは要望を踏まえ、会社と協議することができますので、組合員であることが重要だと考えています。
  私どもセブン&アイ・ホールディングスは、前身のイトーヨーカ堂の時代から、誠実ということをモットーして取り組んできた会社です。これはお客様、取引先だけなくて、従業員に対しても誠実であれということが社訓の一つとなっています。これまでも長年労働組合の活動のなかで、ユニット社員の方が組合員でない場合でも、各種の協議や確認はしてきました。けれども、そうはいっても組合員ではないユニット社員に関しては、会社との間で協定や協約は結べないわけでして、彼らと同じ会社の仲間として会社と協議することが大切だと考えています。
  色々な条件や制約がある中、一生懸命働いているユニット社員が望むことは、正社員と違う部分がたくさんあります。外食産業や流通業につきましては、マンパワー産業と言われていて、働く人の技術、前向きな気持ちは、店舗の営業状態を大きく左右すると思います。働く人が前向きに長く働けることは、会社にとって大きな財産になるわけで、このことが井戸に水を溜めよという考えであります。
  店舗運営の原動力はユニット社員であるということです。そして、ユニット社員の技術を向上させることが、店舗の技術の向上となり、お客様の満足が向上することにつながります。そのために、ユニット社員の不満、悩みを改善し、安心して働ける職場づくりが急務ということです。

②背景とその目的
  当社がユニット社員の組織化に取り組んだ背景には、正社員だけではなく、ユニット社員の労働条件、雇用条件の維持向上を確認していく必要がありました。それだけでなく、コンプライアンスの観点ということもあります。法改正に伴ってパートタイマーという働き方に対して、今は働く側が主体的に取り組むようになってきています。従来、会社側から押し付けられた制度や、処遇だけでは対応できなくなってきているということです。また、店舗における従業員同士のトラブルといったこともあります。例えば、セクハラといったことに、ユニット社員が関わっているケースが多分にあります。
  こうした事例に対応するために、目的として次のことを掲げています。一つ目は「より良い職場環境づくり」ということです。従業員同士の仲が良い店舗は、接客でも良い雰囲気が伝わると思います。より良い職場環境づくりは、会社にとっても大切なことでありますし、働く側、私たち労働組合にとっても大事なものだと思います。
  二つ目は「従業員相互の信頼関係の構築とロイヤリティーの向上」ということです。数多く寄せられる従業員、特に、ユニット社員の不満や疑問には、制度そのものではなく、上司及び責任者もしくは、本人たちの理解不足や誤解などに起因していることが実はたくさんあります。ですから、労働組合としては、そういう不満や誤解の声が入った時には、すぐに制度を変えようとするのではなくて、現在ある制度をきちんと理解し、正しく運用しようということにしています。こういうことは、働く私たちもお互いに勉強して取り組まなければいけないということです。こうした積み重ねが、従業員同士の理解、もしくは会社のロイヤリティーにつながるのだと労働組合も確信しています。
  三つ目は、「仕事、会社だけではなく、充実した自分時間(家庭時間)づくり」ということです。1日24時間の中で、睡眠の時間も含め「自分の時間」を持っていると思います。セブン&アイ・フードシステムズに勤めている本人だけでなく、その家族も含めて楽しく過ごせるようにということで、グループのスケールメリットを生かして、色々なプランの提案をしています。例えば、保養所や旅行などの斡旋、グループ内の店舗で買い物に使える割引券の発行といったことを会社との協議で行っています。
  こうした取り組みを通じて、良い職場環境づくりをしていくと、従業員は定着していきます。従業員が定着すると、生産性が向上し、店舗の利益が上がって、従業員に配分できることになります。良い循環になることを労働組合は目指しています。

4.ユニット社員組織化に当たっての考え方

 ユニット社員を組織化し、労働組合として活動していくにあたって、会社と従業員の抱える問題は、大きく3つに整理できると思います。
  まず、一つ目は内部環境の変化です。外食・流通産業はマンパワー産業であるにもかかわらず、長い間、人員不足で悩んできた業種でもあります。現在、100年に一度の不況と言われる中で、外食・流通産業にも応募が殺到しています。例えば、デニーズを例にとりますと、求人広告に関する費用は、昨年と比べ10%くらいで済んでいるそうです。会社全体で言いますと10%というのは、大変な経費削減となるわけです。従業員の採用も、昨年に比べて、1.5倍くらい増加しました。
  ただ、これは偶然ではないかと私は考えています。中長期で考えますと、優秀な人材確保をしなければいけないということには変わりないと思います。長く勤めてもらうことで店舗のレベルが上がって、お客様に満足していただいて、会社の成長にもつながるということになります。
  二つ目は外部環境の変化です。今後日本では、労働人口が大きく減っていくと思われます。そうした厳しい外部環境に対する法律への対応、コンプライアンス経営ということでも10年前、20年前とは全く環境が違うと思います。会社として、労働組合として、働く私たちが取り組まなければいけない課題は数多くあるということになります。
  三つ目は店舗内における問題ということになります。売上の大きな店舗になりますと、70名から80名の従業員が働いています。それだけの従業員がいますと、同じ方向を向いて仕事をすることは、なかなか難しい現実があります。セブン&アイ・フードシステムズではパート社員23,000名と先ほど言いましたが、このうち、一年間どれだけ退職しているかという話をしますと、延べ人数で23,000名入って、23.000名やめているということになります。実際には10年20年と長期働いている人もいますが、短期を含めてみるとこのような数になってしまいます。
  従業員の退職には2つの大きな理由があると考えています。一つは、理由のある退職です。例えば、学生が卒業し就職が決まった場合、主婦がご主人の転勤で遠くに引っ越さなければならない場合など仕方なく辞めなければならないというのが、理由のある退職と呼べると思います。そして、もう一つは理由なき退職です。特に、仕事が継続できない理由がないにもかかわらず、人間関係だとか、何となくという理由で退職される人もいます。これは、職場の雰囲気に馴染めなかったことが原因かと思います。労働組合でも問題視し、こうした理由で退職する人の数は、なるべく減らさなければいけないと考えています。 
  こうした人間関係の問題、セクハラ・パワハラの問題、あるいは、同じ仕事をしているのに正社員とユニット社員では、時給が違う、処遇が全然違うといった同一価値労働同一賃金の問題があります。同じ職場で働くうえでの問題は、なかなかなくなりません。

5.何故「パート」で働くのか

 次に、なぜパートタイマーという働き方をするのかということです。流通・外食産業で勤務される人の中には、消極的に仕方なくパートで働いているということではなくて、積極的にパートタイマーという働き方を選んでいる人も大勢いるという視点で考えてみました。大きな視点でみますと、本当は正社員で働きたいのだけれども、現在の法律、社会の仕組みでは、正社員では働けないというケースもあります。
  私どものパート社員は、主婦が約40%を占めています。結婚している世帯において、過去は専業主婦の世帯の方が多かったのですが、1994年頃から逆転をし、現在では共働き世帯の方が多いというデータがあります。
  なぜ、共働きをしなければいけないのかと言いますと、第一は収入のためということがあります。そして、その収入の中でも教育費の問題があります。昭和45年から平成16年までの教育費の推移をみますと、最初は上がっていましたが、平成に入ると、横ばいかやや減っているという状況が続いています。支出に占める教育費の割合は、金額の割合は平成に入ってから16年間あまり変わっていないようにみえるのですが、実はこの間一世帯あたりの教育費のかかる子供の数が、2.4人から1.7人に大きく減少しています。ということは、一世帯当たりの教育費のかかる子供の数が大きく減っているということです。にもかかわらず、支出の割合は減っていないわけです。これは家計にとっては、切実な問題であるといえると思います。
  ただし、共働きはしたいという意識は持っていても、主婦にとっては多くの制約があります。労働組合で教育費の他に心配なことを聞くと、子育ての「壁」という意見が挙がります。まず、赤ちゃんを産んで、1歳になった時に「1歳の壁」が出てきます。赤ちゃんを保育園にあずけて勤めに出たいと思っても、保育園がいっぱいで入れないということです。次に「4歳の壁」で、昼間パートで働きたいけれども、幼稚園の送り迎えの時間の制限があるなかでは、なかなか働けないということです。次は「小1の壁」です。仕事をしている人は、学校が終わってから学童保育に子どもさんをあずける人が多くいます。今日の新聞でも、この10年間で学童保育の数は急激したけれども、相変わらず待機児童は9,000人いるという記事が載っていました。小学校に無事に上がれても、学童保育になかなか入れないという問題があります。次は「小4の壁」ということで、多くの学童保育は小学校3年で終了するので、この時点では、放課後に子どもをどうするのかということが大きな問題となってきます。

6.ユニット社員が職場に求めること

 そういった事情を反映してか、働きやすい職場ということを、主婦に聞いたデータを見てみますと、「勤務時間や勤務日を自分の都合に合わせられる」という意見が圧倒的でした。パートという働き方をしている人は、こうしたことを理由にパートという働き方を選んでいるのではないかと考えられます。同じ質問を正社員に聞いても、こういう回答にはならないと思います。
  当社に勤めているユニット社員は、実際どんな勤務をしているのかということを話したいと思います。小さな子どもがいる主婦の例です。朝6時に起きて、朝食を作ったり、ご主人や子どもを送り出したりしています。そして、9時頃から3時ごろまでパートで勤め、それが終わりますと子どもの迎えや、買物、家事をこなして、夕食を食べてから、また家事や自分の時間を持ち睡眠をとる。昼間パートで働く主婦の方に多く見られるパターンと思います。
  デニーズは24時間営業をしていますので、こういう例もあります。これは、お子さんが赤ちゃんで、まだ手が離せないという方の例です。昼間は、赤ちゃんの世話をしながら、家事をこなし、夕方ご主人が帰宅され、ご飯を食べて、子どもを寝かしつけた後、深夜12時くらいから早朝6時ごろまで勤務するという人も結構います。私が店長を経験した店舗でも、このような働き方をしている人がかなりいました。昼間、保育園などに子どもをあずけられない人に多い事例だと思いますが、こういった理由で、正社員ではなくて、パートという働き方を積極的に選ばざるを得ないという言い方もできると思います。
  一方、店舗運営側から見たユニット社員の配置というのを見ると、24時間営業店舗の入客データというのがあります。飲食店ですので、お昼時と夕飯時に波があります。こういったなかでは、従業員の配置は1時間単位あるいは30分単位というなかで計画を立てないと、お客さんに迷惑をかけたり、働く側にとっても大きな負担となったりすることがあります。もし、正社員中心で運営した場合、正社員はフレックスとか変則勤務をしないかぎり、8時間通しの勤務ということになりますので、それではきめ細かな配置ができないということになります。その点、パートであるユニット社員ならば、極端にいうと15分単位で従業員を配置することができます。店舗の状況と本人の都合を考慮しながら、スケジュールを組むことができて、働く側にも会社側にも非常にメリットがあるということがいえると思います。
  ただし、労働組合ではそうした働き方を、全てよしとしているわけではありません。本人たちの負担にならないような勤務時間を確認し、問題があるようなら、その店舗の上長に修正の要請をするよう活動もしています。

7.労働組合のユニット社員に対する取り組み

①ユニット社員が安心して働くために
  労働組合が、ユニット社員に安心して働いてもらうために、どのようなことに取り組んでいるのかということをいくつか紹介させていただきます。
  まずは、人事制度についての取り組みです。人事制度というのは、働く側にとって、賃金、休日などの労働条件にとって非常に重要なことです。特に、時間単位で働くパート勤務にとって制度や契約は非常に大切です。これまでは、労働組合員でないユニット社員の人事制度については、会社が一方的に決めているものでした。私が正社員になって店長になった時に配属されたのは、偶然にも高校1年の時にアルバイトをしていた店舗でした。その頃のユニット社員は組合員ではなかったので、店長に何の通告もなく半年の調整機関を経てユニット社員の時給が下がるということになりました。私が高校生の時、皿洗いを教えてもらった女性がいました。その人は、その店舗で10年以上働いていたのですが、私が店長になって一番初めにやらなければいけないことは、その人に、時給が100円下がることの承諾の印鑑をもらうという大変つらい仕事でした。
  その時は、すぐには思わなかったのですが、職場で経験を積むと、こうしたことを一方的に決めるのはおかしいと考えるようになりました。ですから、今回の新人事制度の導入に関しても、会社が一方的であったり、もしくは会社と一部の労働組合の役員が密室で協議したりするということではなくて、きちんと労使人事制度検討委員会というものを設立しました。問題点の整備の段階から働く人の声を聞き、1年半で延べ50回以上協議を重ね成立した人事制度です。
  その中で、ユニット社員の声を聞くと、私たちが思っていた以上に、やりがいや働きがいを求めている人が大勢いるということがわかりました。正社員であれば1円でも給料が多く欲しいと思うのは当然のことだと思うのですが、ユニット社員の中には、ご主人の扶養家族の範囲内での就業にして欲しいという人もたくさんいました。給料よりも休日などの制度を充実させて、働きやすくして欲しいという意見もたくさんありました。
  その反面、そういったことの制限のないユニット社員の中には、給料がたくさん欲しいという意見の人もいました。たくさんの声を聞くということは非常に良いことですが、一定の着地点を見つけることは難しいことです。

②ユニット社員新人事制度概要
  新しい人事制度では、まず、「一人ひとりがやりがいを求められる制度」、二つ目は「労働法、改正パート法に対応できる制度」、三つ目は「シンプルでわかりやすい制度」、四つ目は「仕事の役割と能力を踏まえた処遇」ということを大きな柱にして考えました。
  これらのことを基本にして、ユニット社員の人事制度の内容を4つに大きく分けて決定しました。資格制度ということでは、ユニット社員であっても責任の範囲と給料を明確にしました。店舗マネジメント、教育といった店舗の中で起きる高度な内容や、または調理、接客、発注など実務的な作業を全て分解して、できる・できないといった範囲を分解しました。何をがんばれば、次の資格に上がれるのかということを明確にすることによって、ユニット社員の頑張りに応えて、やる気が出る仕組みに近づけたのではないかと思います。
  賞与制度については、過去は正社員中心でしたが、今年からはユニット社員についてもリーダー以上の役職については賞与が支給される仕組みとなっています。この制度を作る中で、みんなの声を聞いたところ、金額は大きくなくてもよいから、頑張っていることに対する賞与が欲しいということがたくさんありました。そのため、それに応える制度ということで、会社と協議を進めました。
  評価制度では、資格制度だけではなくて、等級も明確にしました。過去にも昇格制度はありましたが、時給の昇格については必ずしも昇格と連動しているわけではありませんでした。各店舗の責任者が人件費とのかねあいの中で、個別に昇給を実施しているのが実態でした。この場合、金額にすれば10円20円単位のものとなりますが、上げてもらった側からすれば、金額の問題ではなくて、店長が自分を評価してくれ時給を上げてくれたという気持ちが非常にうれしいものなのですね。こういうことを上手に運用して、人件費を予算内でおさえつつ、従業員の信頼を得ているという店長もたくさんいました。
  ただ、属人的要素が大変強くて、店長が異動して、次の店長になったら評価も変わってしまうというということになりかねません。そういったことではなくて、公平な評価ということを目指して取り組みました。
  群転換という制度も設けました。これは正社員への道を開いているということです。このことは、改正パート労働法にも対応しているわけですが、新制度ではユニット社員のうち希望される人がいれば、正社員への登用もあるということになっています。
  基本的には、1年に1回、試験を実施して、その結果に応じて社員登用するということになっています。以前は学歴や年齢といったことを考慮するということもありましたが、これらのことは撤廃し、基本的には誰でも試験を受けることができるというものになっています。

③労働組合相談窓口~困ったときの「駆け込み寺」~
  正社員の店長であれば、本部とのかかわりの中で、色々相談する相手がいますが、ユニット社員はその店舗の中で勤務するということになりますので、その店舗のなかで、セクハラ・パワハラということが起きた時、誰にも相談できないということも考えられます。そういったことを解決するために、労働組合では相談窓口を開設しています。
  月に20~30件位の相談がありますが、相談の内容としては、賃金や評価といったこと以外に、人間関係のこと、セクハラ・パワハラに関することがあります。また、最近では、私生活に関しての相談もあります。例えば、お金に困っていること、ご主人に暴力を振るわれて困っているといった相談もありました。
  こうしたことの対策として、会社側も企業行動委員会を設置しています。従業員はそちらに相談をすることもできますが、労働組合でも会社側と定期的に連絡をとりあいながら問題解決にあたっています。

④過重労働の防止・制度の確認
  労働組合には「近付かなければ近付かない」という言葉があります。相談窓口は、私たち労働組合から「何か困っていることはないか」と聞く性質のものではありませんので、従業員から一方的に近づいてもらうことになろうかと思います。けれども、労働組合の方からも近づくために、全国各地で定期的に集会を開催しています。こちらでは現場で働く人の声を直接聞くということに取り組んでいます。
  正社員中心の集会ですと、どうしても給与や休日、福利厚生についての意見が多く出てきます。それに対して、ユニット社員中心の集会では、店舗で使う食材の納品管理、使い勝手の問題など、会社の生産性を向上させるための有益な改善や提案が挙がってきたりします。その他、デニーズのお店で接客を担当する人のストッキングにかかるお金が馬鹿にならないといったことがありました。こういったことは、女性の視線からでないとなかなかわからないことです。
  また、長時間残業、休日の不足など過重労働の問題があります。過重労働に関しては、労働組合でも取り組んでいます。ユニット社員は月末締めで、その就業データは翌月の5日くらいに出ます。そのデータがわかり次第、毎月、労働組合と会社の人事の間で、就業確認会を実施しています。その話し合いでは、正社員、ユニット社員合わせて25,000名の従業員全員の勤務状況を見て、月間の残業時間の多い人や、休日取得の少ない人をチェックしていきます。本当に一人ひとりに至るまで問題はないかどうかということを確認しています。
  人事制度というは、導入したら終わりではありません。実際に運用を始めてから何か不具合はないか、もしくは、毎年の法改正や、時代の変化で、対応できていない部分がないかどうかを常に点検・確認をする必要があります。昨年、導入した新人事制度についても、人事制度委員会を設置し、常に問題点の点検・確認を議論しています。

⑤プラスアルファライフ
  これまでは、仕事の中心の話でしたが、仕事以外の時間についても色々な提案をして、プライベートの時間を有効に使ってもらう取り組みも行っています。
  セブン&アイ・グループは、世界中に30万人の従業員がいます。そうしたスケールメリットを生かして、色々なサービスを行っています。その中心にワークライフバランスがあります。
  ワークライフバランスについて、私はつい最近まで勘違いをしていました。自分の能力が100あるなか、今、仕事がちょっと忙しいから、仕事は80にして、ライフは20にしようというように、100のなかでバランスをとるというのがワークライフバランスと思っていました。そうではなくて、仕事の効率をよくすることによって、今まで9時間かかっていたものを8時間にし、1時間家庭の時間に使う。もしくは、仕事を一生懸命やることによって昇給や昇格をしたら、給料も増えて私生活も充実する。私生活を充実すると有効な休日を取得することができて、やる気もみなぎり、体力も出て仕事に打ち込めるようになる。このような好循環になるということで、80+20が100ではなくて、100+100で200にするという考えがワークライフバランスかなと最近考えています。
  逆にいえば、考え方を転換させていかないと、出産、介護、育児という課題に対応できず、そのため仕事も充実させることができず、結局、仕事も家庭も中途半端になってしまうかもしれません。特に、私どもの会社は、30代40代の社員が大勢いますで、ワークライフバランスは、主婦のパートだけではなく、会社全体にとって大変切実な問題だと考えています。

8.出産・育児からの職場復帰~リチャレンジプラン~

 私たちの職場では13年ほど前から、出産・育児からの職場復帰を支援するリチャレンジプランという取り組みを進めています。妊娠をしたら、女性は体調を考えながら、短時間でも勤務ができ、休日が取れるようにする。それから、産前産後休暇が取得できるようにしています。
  具体的には、育児休暇プラン、短時間勤務プラン、再雇用プランを設けています。これは、育児に伴っての休職、基本的に8時間の勤務を、1時間単位の勤務や5時間、6時間勤務に設定できる短時間勤務のプランです。女性だけでなくて、配偶者が育児をできない事情があれば、男性の申請も可能ということになっています。
  育児介護休業法の改正案が提出されましたので、その内容も確認しながら、安心して、育児や介護に取り組める制度としてさらに充実させていきたいと考えています。

9.今後の展望

 9割をパートが占める当社としましては、パート社員がやりがいをもって、長く勤めてくれることは、企業にとって生きるか死ぬかの切実な問題であると考えています。いろいろな問題があって、対応が難しくはありますが、パート社員の声を聞き、少しでもやりがいが持てる仕事となるようにしていきたいと思います。
  最後に、労働組合としては、同じ職場で働くものみんなが家族も含めて、安心して長く働ける職場を目指して活動しているということでまとめさせていただきたいと思います。皆さま、ご静聴ありがとうございました。

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