埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度後期「若者・働き方・労働組合」講義要録

第6回(11/5)

流通産業における労使の協議と交渉

ゲストスピーカー:木暮 弘 UIゼンセン同盟流通部会 副事務局長

1.はじめに
  皆さん、おはようございます。この秋までマイカルユニオンで委員長をしていました木暮と申します。今私は「おはようございます」と挨拶しましたが、普通この時間帯は、そのような挨拶はしないと思います。これは、我々の業界の習慣のようなもので、仕事始めは、朝夕晩いつでも「おはようございます」、そして、「お疲れさまです」と言って帰るのが、業界での挨拶です。
  今日は、皆さんがこれから就職して仕事をするにあたって、チェーンストア企業で働く従業員はどのような働き方をしているのか、労働条件や処遇はどのように労使で協議され決定されているかについて、お話ししたいと思います。また、私の企業は倒産をした経験があるので、そんなときに従業員は、どのように働いていたのかということも含めて、お話をさせていただければと思います。
  私は、1981年にマイカル(当時はニチイ)に入社しました。私は、労働組合の仕事をしようと思って、会社に入ったのではありませんでした。皆さんも組合の役員をやりたいのでこの会社に入りたいと言ったら、まず会社に入れてもらえません。
  入社して、まず店舗に配属されましたが、私の将来の希望は商品開発をしたいという希望がありました。チェーンストアは、売るだけでなく、商品を作ってもいます。いわゆるプライベート・ブランドの企画をする仕事があります。店舗や企画の仕事を経て、1988年に組合専従役員となり、それからは、組合役員として店舗を回り、組合員の声を聞いたり、現場で働く人たちの実態を見て、それを基に会社と協議をしてきました。その後、2008年にUIゼンセン同盟で仕事をすることになりました。
  UIゼンセン同盟は、繊維・衣料、医薬・化粧品、化学・エネルギー、窯業・建材、食品、流通、印刷、レジャー・サービス、福祉・医療産業、派遣業・業務請負業など、生活に関連する産業の労働者が集まっている産業別労働組合、企業の枠を超えた労働組合の団体で、現在103万人の組合員がいます。小売業ではイオン、セブン&アイ、ダイエー、マツモトキヨシ、マルエツ、カスミ、ヤマダ電機、上新電機などがUIゼンセン同盟傘下の労働組合がある企業です。小売業以外では、ディズニーランド、USJ、すかいらーく、サイゼリア、また東レ、旭化成など、皆さんもよく知っている企業のほとんどがUIゼンセン同盟加盟の組合です。
 
2.株式会社マイカルとマイカルユニオンの紹介
2-1.株式会社マイカルについて
  株式会社マイカルとマイカルユニオンの紹介をします。株式会社マイカルは、サティとビブレという屋号でチェーン展開している総合小売業です。2008年1月現在で全国に111店舗があります。埼玉県内では、北浦和、せんげん台、この秋にオープンした越谷、狭山、新座にマイカルの店舗があります。関連企業は、浦和美園にあるワーナーマイカルなどです。
  会社の沿革では、2001年9月に企業破綻がありました。マイカルの企業破綻前に、そごうが企業破綻をしましたが、今ではそごうもきちんと営業しています。テレビなどで企業倒産や破綻などのニュースを見たときに、よく聞いてほしいのですが、“破産”という言葉が出たときは、会社がなくなるときです。しかし、破綻とか民事再生法、会社更生法の適用を申請したというのは、これからまだなんとかしていこうという状態にあると理解してください。個人の民事再生や自己破産も同じです。
  マイカルも2005年12月に更生手続きが終了して、新しい株式会社マイカルとしてスタートしました。2007年4月から新卒の定期採用を再開しています。労働組合は1969年に結成され、組合員は約20,000名です。そのうち非正規の短時間パートは15,000名です。今、サティやジャスコなどどこでもショッピングセンターで働いている人の9割はパートタイマーです。正社員は、ほとんど売り場にいません。
  いいか悪いかは別として、売り場に正社員がいないのが、今のチェーンストア小売業の特徴です。男女比は男性が15%、女性が85%です。女性の比率が高いのは、パートタイマーがほとんど女性だからです。正社員では男性が6割5分、女性が3割5分という状態です。

2-2.マイカルユニオンについて
  マイカルの労使関係については、労使の間で契約を結んだ内容が、労働協約に書かれています。これはどこの企業の労使も同様だと思います。労働協約は、債務条項と規範条項の2つに分かれています。債務条項は働く人には直接関係はなく、労働組合の活動と深く関係があるものです。働く人に直接関係するのは、規範条項です。これには、人事、勤務、休日勤務、賃金及び退職金、表彰及び懲戒、退職及び解雇、苦情処理などについて規定されています。これから皆さんが働くようになると、会社の上司や人事の人からいろいろなことを言われると思います。その時に、それらは労働組合との約束を守った上で言っているか、約束を破っていないかを、労働組合がチェックすることになります。つまり、これらの規範条項は、働く人にとって非常に重要なものだということです。

(1)労使関係の具体的事項 その1
  労働協約の具体的事項の一つに人事制度への関与があります。今後、就職活動をするときに、給料はいくらかと皆さんは聞かれると思います。それが会社を選ぶ基準にもなると思いますが、それも基本的には会社と労働組合で協議して決めている内容です。また、入社後どのように給与があがっていくかも労使で協議します。
  皆さんは、会社に入るときの給料はとても気にするでしょうが、先輩として言わせてもらえば、大切なのは会社に入ってからです。入ってから給与がどのように上がっていく会社なのかをよく知らないと、大変な失敗をします。3年くらい働いて、こんなはずではなかったといって、辞めてしまうことになります。
  『なぜ若者は3年で会社を辞めるのか』という本に、若い人は仕事がわかってくるとやめてしまうと書かれています。その会社の人事制度や給与体系がどうなっているか、賃金がどのように上がる仕組みになっているのかを、知っておくことが大切だと思います。入るときの給料がいくらよくても、入ってからずっとそのままの給与の会社も現実にあるのです。全然給与が上がらず、上げようと思ったら、死ぬほど働かなければならなかったりします。そういうところを、気を付けて見ていくようにしていただければと思います。
  もう一つの労使関係の具体的事項としては、企業経営への関与があります。いくら労働組合が給料を上げろと要求をしても、会社が儲かっていなければどうにもなりません。今アメリカの金融危機によって、日本の株価は一気に下がり、金融機関が非常に困っている状態だということを、皆さんもこれから実感されるようになると思います。株価が下がると、普段の生活はそれほど変わらなくても、採用人数の減少など、企業にすぐ影響がでてきます。そういう時に、労働組合は、会社の経営方針やどのようにして社会に貢献し、利益を出していくかについて、労働者の代表として説明を受けます。それを従業員に説明し、みんなで協力してやっていこうと話したりもします。

(2)労使関係の具体的事項 その2
  マイカルとマイカルユニオンの労使関係は、まず企業本部と中央との関係があり、中央労使協議会となっています。次に、東日本および西日本にある事業本部とそこにあるエリアで、地域労使協議会があります。また、県単位の営業部とそれぞれブロックでの労使関係で、ブロック労使懇談会が行われています。さらに、各店舗では、店長が経営のトップで、組合は支部長が従業員の代表として、事業所労使協議会が持たれています。

(3)マイカルユニオンの活動
  労働組合の活動というのは、「組合員の幸せの追求」です。誰でも幸せになりたいというのは普遍的なことです。労働組合の活動の枠組みには、企業での職業を通じて自分の幸せを実現するもの、地域、社会を通じて幸せを実現するもの、そして、労働組合の活動を通じて幸せを実現するものがあります。硬い言葉で言うと、「民主的労働運動の堅持と発展」が、マイカルユニオンの活動の柱です。
  そして、労働条件の維持・向上をめざして、「生産性向上運動」を行っています。この運動には3つの柱があります。まず雇用を維持、あるいは採用枠を広げること。第2に、徹底した事前協議をします。会社が勝手に決めるのではなくて、従業員の代表ときちんと話したうえで、やっていくこと。第3に、出た利益については、公正な配分を求めるということで、これらが労働組合の役割です。
  労働組合というと、要求して勝ち取る、という勇ましいイメージがあると思います。ここ数年バブルが崩壊してからは、労働組合はどこへ行ったといわれるくらいおとなしくなったと言われています。しかし、現実には、企業別労働組合が、労使の協議を徹底して行っていることは変わっていません。

3.2001年を中心とする労使協議と団体交渉
(1)2001年前後の労使関係
  企業破綻前のマイカルは、マイカルグループという大きな企業集団でした。マイカル本牧、小樽、リゾナーレ小淵沢、ハミングバード、マイカルマリン、ピープル、ワーナーマイカルなどがそのグループでした。この時は、企業が非常に大きくなっていて、労使関係は、働く側も会社側も双方がよい状態でした。
  しかし、バブルの崩壊から、過大投資の負担が労働条件などに微妙に影を落としてきました。このことが、先ほど言った「企業経営への関与ができなかった」ということです。1990年代前半には、経営・人事・労組の執行部、職場は微妙な関係になっていきます。2001年前後にはマスコミの報道により、株価が大きく下がりました。株価が下がるということは、会社の信用がなくなることにつながり、銀行からお金を借りられなくなってしまいます。この事態と並行して、2000年秋にリストラということで希望退職を募りました。その結果、同年12月にはマイカルだけで1,400名が希望退職しました。このとき労働組合は、どういう公正さを担保するか、ものすごく職場討議をしました。
  労働組合が活躍する企業は、あまりよくないというのは本当です。少し前に、日航グループが、経営が非常に苦しくて労働組合と交渉するとか、希望退職を募るのに労働組合に申し入れをしたなどと報道されました。社会貢献などで、エコ活動やボランティア活動をやっているなどと、労働組合の名前が出てくるのはよいのですが、企業側と交渉に臨んでいるなどといった場合は、その企業の経営状態はあまりよくないと思ってください。ただし、新聞に出る時は、すでに内部では、ほとんど交渉は終わっている状態です。

(2)企業破綻と再生における労使関係
  2001年9月に企業破綻した後、何とか再生する方向で踏み出し、同年11月に会社更生法の申し立てをしました。この時の話を加藤鉱さんという人が『再生したる』(ビジネス社)という本にして出版しました。この中には、労働組合の活躍についても多少出てきます。冒頭の部分はマイカルユニオンの元委員長が書いています。
  会社が倒産すると、たいてい経営者は退きます。経営はそのまま従業員がやり、労働組合が経営をしたようなかたちとなります。企業再生には労働組合の力が必要です。これは、自分がやってきた経験から言えることです。皆さんが企業破綻をしてしまう会社に入ることはないと思いますが、それでも将来どうなるかはわかりません。そうならないようにするためにも、労働組合の存在意義があると思います。

4.流通産業労働組合の存在意義と特徴
4-1.流通・サービスの仕事の特徴
①会社の状況は現場でわかる
  流通産業の仕事の特徴として、会社の経営状況は現場でわかる、ということがあります。今、会社は赤字なのか、儲かっているのか、製造現場の人たちには基本的に教えない方がよいとされていると聞きます。なぜかというと、製造の場合は秒単位で作業をしているので、そういうところでうちの会社は大丈夫なのだろうかなどと言って心配をさせたら、不良品が出る恐れがあるからです。
  ところが、小売業の場合は、この会社の状態がいいか悪いか、現場がわかっています。なぜなら、お客さんが来なければ今日も明日も売れないということは、すぐにわかるからです。お客さんの入りが悪くても給料は出ますが、入りが少ないのに出ていくばかりだと、いつかは経営がもたなくなるのが目に見えています。
  自分のセクションだけではなくて、全体がオープンになっていますから、企業倒産したときも、どうもうちの会社の状況は悪いらしいということが、職場にどんどん広がっていきました。この業界の特徴は、自分たちの目に見えるところで起きていることが、会社経営に反映しているということです。自分のやっている仕事がうまくいけば、当然、会社の売り上げにもつながります。そういう意味ではやりがいがあると思います。

②平日に休むことと土日に働くこと
  もう一つは、特に店舗勤務の場合、土日に休むより、平日に休むことが多いということです。日本で働いている約6千万人のうち2005年の国勢調査主要産業別就業人口によると、土日が休みといわれる製造業、金融保険不動産、サービスの公務部門、建設業関係などおよそ2400万人の4割の人が土日に休み、平日に休む人は約15%といわれています。土日に買い物や遊びに行く人が多いというわけで、私たちは、土日に営業してその4割の人たちにモノを売っているのです。
  今、流通関係の店舗は、コンビニと同様に店全体の定休日がないところがほとんどです。年に1回か2回、棚卸しといって在庫商品を全部数える日がありますが、それ以外の営業休日はありません。しかし、従業員がずっと働いているというのではなく、交代勤務という体制になっています。マイカルでは年間110日の休日がありますし、年次有給休暇も法定通りです。上司の許可が得られれば、休もうと思えばいつでも休めます。ただ、交代で休みますから、職場の仲間と一緒に休むというのはあまりありません。
  流通サービス関係に就職してすぐ辞める人は、ゴールデンウィークで辞めることが多いです。学生時代の友達にゴールデンウィークに遊びに行こうと言われても、小売業はちょうど忙しい時期ですから、休むわけにはいきません。そうすると、入社して間もないこともあり、仕事の大切さをわかっていませんから、友達の方が大切だと言って辞めてしまいます。その後1年位どこかでアルバイトをやるなどして、再就職へのハンデを背負ってしまうケースもありますから、そういう意味では決して早まらないでほしいと思います。
  お店は平日休み型がほとんどですが、売り場の8、9割の人はパートタイマーで、正社員はほほ事業本部や商品部に配属されていますので、かなりの人が土日に休んでいます。最初はキャリアを積む上で現場を経験するため、土日にたくさん働く人がいるということです。若いうちは、平日休みは結構いいものです。どこに遊びに行っても空いていて、値段も安いです。ディズニーランドも並ばなくてもアトラクションに乗れます。ただし、行く相手がきちんといればの話です。
  また、これも小売業のいいところだと思いますが、職場で一斉に休むことはできませんが、意中の人と一緒に休むことは可能です。勤務シフトは、きわめて柔軟的に自分の段取りで組むことができます。また、上司に相談して、この日は休ませてほしいと申告できます。そして、違う部署同士であれば一緒に休めるわけです。実は私もそうなのですが、この業界では社内結婚をする人が多いです。男性と女性の比率は女性の方がきわめて多いので、特に男性で結婚を早く望む人は、小売業に入るとかなりの割合ですぐ結婚ができるかと思います。

③チェーンストアは共通の命題と共通の言語が大事
  チェーンストアは、共通の命題と共通の言語が大事ということがあります。百貨店は接客重視なので、同じ言葉でも、お客様に対して丁寧に対応することが求められる職場です。しかし、私たちスーパーでは、お客様に「いらっしゃいませ」は言いますが、「何をお求めでしょうか」「これはいかがですか」などとすすめることはないと思います。
  チェーンストアの共通の命題は、いかにお客様によい商品を廉価、いわゆる価値ある値段で売るかということです。そのために、無駄を省き、共通の言語を統一的に使います。これはチェーンストア共通言語として、同業他社でも全部同じ言葉を使います。あまり違った言葉は使っていません。本社の大阪からFAXや電子メールによる指示で、全店で同じ行動が行われます。したがって、言葉が大事というのは、あいまいな言葉が職場にはないということです。
  小売業では、愛想がよければよいというのは間違いで、愛想がいいのはごまかすのでよくないと逆に言われます。チェーンストアに入る人は、大体諦めない人がいいと言われています。積極的に新しい商品を仕入れにいく、取引先に諦めずにどんどんお願いにいく、という方が正社員で採用され、入社後もキャリアアップしていきます。愛想よくした方がいいのは、新入社員で売り場にいる最初だけです。ネゴシエーター的な仕事が、チェーンストアでは多いのが現状です。

④転勤と交代勤務
  他にも、転勤が多いのが流通業での大きな特徴です。新卒の人は、ナショナル社員、いわゆる全国転勤社員として大体採用されますから、全国どこへでも行くことが前提となります。よく問題となるのが、両親の面倒を見なければいけない人です。今はほとんど長男長女の時代なので、親の介護が問題になるケースが多いです。また、これから人生を設計する上で、結婚して子どもができたときに、子どもの転校もこの業界をためらう理由になっています。そのため、労働組合と会社でその状況を回避するための制度を作ったりしています。その結果、昔に比べて、鬼のように転勤させるということはなくなってきています。
  また、交代勤務のため、社員同士がなかなか会うことができないという問題があります。一つの職場は24時間営業ですから、3人の人が1日8時間ずつ働いています。それぞれ時間をずらして働くので、交代する一瞬だけしか顔を合わせられません。ほとんど一緒に仕事をすることはないので、孤独感にさいなまれるときがあります。それを解決するためにも、短い時間であっても、コミュニケーションを非常に大切にしています。
  また、現在、販売関係ではITの活用がかなり進んでいます。マイカルでも、携帯電話を使って業務のやり取りを行なっています。
  この働き方の違いが、組合の中でも特徴として現れています。たとえば、組合では、お互いに仕事を調整し、職場の人と会える機会を作る活動をしています。仕事を離れて、組合主催のセミナーを行っていますが、組合の活動なので日当もつきます。お金がないときには組合の活動に参加するのも、いい手段だと思います。

4-2.皆さんにすこし伝えたいこと
  この仕事には楽しいことも、辛いこともあります。とにかく、隣の芝生は青く見えるものです。人間関係の業界だから面白いという反面、人との付き合いが煩わしいと思うことがあるかもしれません。ただこれだけは皆さんに伝えたいのですが、他の人との関係が煩わしと思うのは、自分一人が生きているのだという勘違いから生まれるものです。皆さんは、決して一人では1秒たりとも生きられない世の中になっています。
  人に認めてもらいたかったら、人を認めなければいけないと思っていただきたい。自分が尊重されるということは、集団の中でしかありません。これは笑い話ですが、南海の孤島に一人で行って自分を尊重しようとしても、誰も尊重してくれる人はいないわけです。集団があって初めて、一人ひとりの人格や、あるいはそういう個性が認められるのだと思います。
  幸せになる5つの行動というものがあります。「人のせいにしない」、「人と比べない」、「人を評価しない」、「自分から行く」、「こうだったらやるという前提条件を付けない」ということです。この5つさえ守れば、人は大体幸せになれるそうなので、ぜひ一度そういう行動パターンをしていただければと思います。マーフィーというアメリカの博士は、人間の細胞は11ヵ月で全部入れ替わると主張しています。つまり、これらの行動を11ヵ月間続けたら、人間は間違いなく変われるそうです。ぜひ、試してみてください。

5.最後に~幸せの追求~
  これから皆さんは、社会に出てさまざまな仕事をされると思います。仕事といってもその意味は一つではありません。英語にすると判りやすいのですが、いろいろなレベルがあります。
  仕事が辛いのは、レイバーだからだと思います。レイバーとは、生きていくためにだけする仕事を意味します。「あなたは何のために仕事をしますか」と聞いた時、「食べていくため」「生活をするため」と答える人がいます。それは犬猫と同じです。犬や猫は本当に食べるときにしか働きません。今の日本人は、食べるのには十分で、食べ過ぎて病気になるくらいなのに、それでも長時間働いて病気になっているともいえます。本来であれば、食うために働くというレイバーは、上等な働き方ではないのではないかと思います。
  皆さんが仕事をするときには、レイバーではなく、ぜひワークという働き方をしていただきたいと思います。これは、自我・自分の個性を発揮するために働くということです。もっと上等なのは、自己実現や社会的連帯のために、私は仕事をするのだということです。これを勝手な呼び方ですが、アクションと言っています。
  レイバー→ワーク→アクションということを心がけると、仕事は楽しくなります。お金のためだけに働いていると、悲しい思いをするのは間違いありません。少々景気が悪くなったら、会社の具合が悪くなり採用をやめるということは、俗にいうレイバーレベルの話になってしまうわけです。労働組合は、アクションのレベルに持って行くために、活動の柱として、職業を通じて社会と会社に貢献をしていく使命を持っています。そして、従業員全体がそういったことに関与することが大事です。
  これから皆さんが、先ほどUIゼンセン同盟で名前を挙げた企業に仮に就職すると、ユニオンショップ協定というものがあり、入社の条件として組合員になるということが労使協定で結ばれています。そのため、否応なく組合員になります。そうすると、初めてもらう給料明細の中に組合費という項目があって、勝手にお金を引かれるという約束になっています。つまり、組合員のメンバーにいつの間にかなっているということです。メンバーになったからには、労働組合をどんどん活用していってください。そうすると人間の幅が広がり、仕事のレベルも上がっていくのではないかと思います。
  自立をするためにお互いを認め合い、仲間と一緒に連帯をして、約束は守って信義とし、助け合って友愛・・・古い言葉ではありますが、労働組合が、今職場の中で一番大事にしている言葉です。少し前までは一生懸命働く人が認められた時代でしたが、これからは、みんなで一緒に働く人、チームワークがうまく取れる人が、企業にとっても必要となってきています。もう一度元にもどって、集団的にチームワークで働くことが求められる時代になると言われています。集団的に活動する中には、労働組合が存在しているのです。皆さんが企業を選ぶ選択肢として、労働組合のある企業を考えて頂ければと思います。
  お話してきたように、小売業というのは、人間関係が集約されているところだと思います。そういう意味では、面白くもあり、辛くもある業界だと思っています。
以上で、私からの話を終らせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。

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