埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第10回(6/18)

公務職場における男女平等参画の取り組み
~地方自治体では~

ゲストスピーカー:徳茂 万知子 自治労 副中央執行委員長

【イントロダクション】
  こんにちは。ご紹介いただきました自治労で副委員長をしている徳茂と申します。
  今日は、公務職場における男女平等参画の取り組みについてお話いたします。
  公務員に対するバッシングは昔から何度も繰り返されていて、かつては、公務員に対して「遅れず、休まず、働かずで、クビになる心配もなくていいよな」とよく言われていました。
  しかし、最近は全く事情が変わってきています。職員数も、私が就職した当時は地方公務員全体で400万人といわれていましたが、今は300万人台に減っています。今後、団塊世代が続々と退職をむかえ、いっそう大幅に人員が減っていくと考えられます。
  日本の人口もこれから減少していきますが、行政の事業は大変多様化して幅が広がっているため、仕事の密度は決して小さくならないだろうと考えられます。

1.地方自治体の仕事をイメージする
(1)地方自治体のミッションとしくみ
  地方自治体では、総じてその地域に暮らす人たちのセーフティネットをサポートし、メンテナンスも含めた仕事をしています。そのしくみは、基礎自治体と呼んでいる市町村エリアの住民で住所の登録がある人に税金を負担してもらい、その財源で安心して暮らしていくためのセーフティネットを、なるべく穴が開かないように支えています。
  自治体では、選挙で選ばれた市長と、同様に選挙で選ばれる議会の議員がリーダーシップを持っています。また、お金の使い道は常にチェックをうけるチェック・アンド・バランスのしくみとなっています。これをトータルに自治と呼んでいます。

(2)地方自治体の事業の概観
  自治体については、地方行財政を所管する総務省では「地方公共団体」という言い方をして、「自治」とは異なるとしています。しかし、私たちは、憲法にある地方自治の本旨を体現するのが自治体と考えており、あえて「自治体」と呼ぶと同時に、自らも全日本自治団体労働組合(自治労)と名乗っています。
  具体的な事業としては相当雑多で幅広い仕事をしており、たとえば、保健、医療、介護、保育、教育、まちづくり、下水道、ごみ、リサイクル、人権や平和も自治体の仕事です。今のトピックで言えば、温暖化対策も自治体の仕事になっています。
  それぞれに多様な人材を必要としていますし、その中でもちろん一人ひとりの能力を発揮していくことが期待されている、そういう組織であるわけです。

2.地方自治体の男女平等政策を支えるバックグラウンド
  そもそも自治体は、男女平等の地域をつくるということが自らの仕事としてあります。さらに、そういう職場で働く職員における男女平等を実現するということでもあり、そこが民間企業とは少々異なります。はじめに、自治体が男女平等政策にどういう立場をとっているのか、お話します。

(1)地方自治法
  自治体については、地方自治法の中に、住民の福祉の向上を仕事としているのが地方自治体、地方公共団体である、とあり、同時に自治体の職務と責務についても書かれています。
  「住民の福祉」にはたくさんのエリアがあり、男女平等の推進もその中に入っています。憲法が両性の平等をうたっていますから、最初からあったといえばあったのですが、法的根拠をもつ仕事として規定されたのは、1999年に制定された「男女共同参画社会基本法」であり、そこが仕事となっていった端緒と考えています。

(2)男女共同参画社会基本法に基づく男女平等まちづくり
  男女共同参画社会基本法では、法の目的にも、地方自治体がきちんと男女平等の推進ための計画をつくりその実現のための責務を果たす、と書かれています。
  基本法に基づいた基本計画作成は政府が行い、都道府県と市町村は行動計画を作成します。この行動計画は、全都道府県で作られ、政令指定都市でも作成しています。市町村は努力目標ですが、半分以上が作成しています。住んでいる自治体で行動計画を作っていれば、ホームページに掲載されていますから、一度ご覧ください。
  このような仕事をしている自治体ですから、さぞかし職員に対してもきちんと男女平等を確保しているだろうと思いたいところですが、実態はなかなかそうなっていません。

(3)職員に対する人事政策としての男女平等参画度指標
  まず、職員に対する人事政策としての男女平等について、事実関係からお話します。
  地方公務員のあり方については、地方公務員法に詳細な規定があります。第13条「平等取扱原則」で、「全て国民は、この法律の適用について、平等に取扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によって、政治的意見もしくは政治的所属関係によって差別されてはならない」とあり、性別によって差別されてはならない、とはっきりと明記されています。地方公務員法の違反は罰則つきで、刑事罰の罰則規定もあります。
  現在、国の人事政策については、人事院が女性の人材活用指針を定めてホームページに紹介しています。政府の各部署も地方自治体も、これをモデルに女性の採用・登用を進めるようになっています。この内容は柱が3つあります。
  一つは、女性の採用を増やしていくこと。公務員は女性に人気があり、大勢受験をしますので、成績順に採れば少なからず女性が採用されていくはずです。それでも意図的に増やそうとしないと、なかなか増えていかないという現状です。そのため、まずは採用を増やせということです。
  二つ目は、登用の拡大です。登用というのは昇任・昇格のことで、平職員が係長になり、課長補佐、課長、部長、と職位をステップアップしていくことです。その登用の過程で、女性が男性と遜色なく均等に昇格していけば、管理職における女性比率も差が縮まっていくという指標あるいは考え方を示しています。
  三つ目は、家族的責任に対するワーク・ライフ・バランスのサポートです。そういう政策で、女性が能力発揮できる環境を整備していくようにしています。
このように、採用と登用と環境整備という三つの柱が人事院の指針として示されています。これは、概ねどの自治体でも人事政策の標準モデルとなっています。
  ただし、首長によっては「うちはそんなことは関係ない、うちは女なんかいらない」という人もまだまだいますので、自治体への就職を考えている人は、そこの首長の姿勢をよく確かめ、よく考えて選んでいただいた方がよいと思います。

3.地方自治体の男女平等参画度指標
(1)職員男女構成比率
  まず、地方自治体の実態として、自治体の職務内容別の構成人員と男女比率(5年に1度調査)をみていきます。
  全職員のうち女性の占める割合は1978(昭和53)年には33.3%でしたが、5年前の2003(平成15)年では36.9%です。99年の男女共同参画社会基本法の成立からすでに9年経っていることを考えると、決して大きな伸びとはいえません。
  職種の内訳を見ると、看護士、保健士、保育士は97%以上が女性です。教育公務員である学校の教師では5割近くの女性が働いています。そういう職種を含めて、女性職員の比率が36.9%です。これらの職種や技能労務職、臨時職員などをのぞけば、女性は職場においてまだまだ少数派という現状です。
  現在、特に注目されるのは、この間、臨時職員の女性比率が大きく増えているという点です。全体の規模からみれば2003年では4,648人で、300万人の自治体職員の中では非常に小さい集団ですが、比率で一番大きく増えているのはこの人たちです。
臨時・非常勤職員は、およそ高卒レベル程度の初任給水準の賃金で、しかも賃金の上昇はないまま自治体の仕事を職員と並んで担っており、自治体版ワーキングプアともいわれています。自治体は、一方で住民の福祉の仕事をしながら、一方ではワーキングプアの製造場所にもなっているのではないかと、最近マスコミからも批判されています。
  実は、臨時職員は、法律上は非常勤職員と区別されています。臨時職員の規模は約4,700人ですが、非常勤職員とあわせてトータル45万人と、総務省が発表しています。300万人の職員に対して、45万人の臨時・非常勤の職員がいて、非常に低い賃金水準で行政を支えているという構造です。
  この臨時・非常勤の職員で、たとえば女性相談や消費者相談など相談業務に携わる人は、相当高い学歴を持っています。しかし、職員とは比較にならないほど低い処遇、かつそのほとんどが女性であり、これは、自治体における男女平等の構造的なネックになっています。組合では、現在、臨時・非常勤職員の労働組合の加入を働きかけています。

(2)幹部職員における男女構成比率
  内閣府の調査による都道府県の課長相当職以上の職員比率があります。2007年の女性比率は5.1%です。課長の上には部長、部長の上には局長、その上に特別職といわれる選挙による首長などの人たちがいます。実は、課長の上にいった途端にこの比率が1%未満となり、あまりにも桁が違いすぎるので、課長以上とまるめて数字を出していると考えられます。つまり、昇任・昇格で男女に大きな違いがあるというのは事実です。

(3)男女間の賃金格差、職務配置分布、昇任・昇格の格差
  男女間の賃金格差、職務配置分布、昇任・昇格の格差について、私の経験も少し加えながらお話しします。
  私が就職した横浜市では、係長になる時には係長昇任試験があり、採用から7年経つと誰でも受験可能で、一応誰でも係長になれるという道が開かれています。そういうしくみになっている自治体は、政令指定都市には多数あります。東京都23区でも全てが試験制度になっています。しかし、誰にでも開かれた試験制度があっても、昇任・昇格の適齢期は、女性にとってはちょうど出産の適齢期でもあるわけです。
  22歳で就職したとすると、7年後受験資格ができる時には29歳というのが最短コースです。この頃は子育て真最中の時期でもあり、小さな乳飲み子を抱えている場合、職責が格段にランクアップをして、人事異動の辞令一本で、すぐにどこにでもいかなければならないような条件を引き受けるのは、なかなか困難なことです。
  ちなみに私は29歳で双子を出産しました。子育て、労働組合、フルタイムの共働き、両親のサポートなしという生活で、何度も週末になると熱を出して倒れるという経験をしました。肉体的な負担が相当に重い上、保育園の送迎と仕事の都合を手帳とにらみあいながら夫婦間でやりくりしあうのは、緊張の連続です。それに耐えて管理職という職責を引きうけるのは、本当に大変なのです。そのため、女性ではそんな負担を同時にはできない、子育てが終わったら仕事を頑張ろうということになり、一方、多くの男性は躊躇なく昇格を選んでいきますので、最初のハードルで差が生じてきます。
  その後は、上司の評価を得て推薦されると昇格していくしくみで、多くの場合、評価者は男性ですから、男性が男性に親近感を覚える、ということはなかなか侮れないものがあります。「ガラスの天井、ガラスの壁、ボーイズ・ネットワークがある」という言葉を聞いたことがある人もいると思いますが、そこを個人の力で突破するのはなかなか難しいことだといえます。
  また、子育て中は、なるべく定時に終われる仕事が有難いわけです。時間が不規則で残業が多い職場やこちらから出かけていくような職場より、たとえば住民票の受付窓口のような職場の方が一応5時には閉じられるので、保育園の迎えには都合がいいということがあり、企画立案やリスクの大きい職場を選択することは難しいわけです。
このような生活事情を多くの子育て中の男女が抱えていますが、家庭の責任は未だ女性の方が重いといえるため、同じ年数のキャリアを積んでいても上司の評価に値する水準に達していないという違いが出てきて、昇任・昇格年数の差がどうしても生じます。
  こうしたことから、課長の次の職位では女性比率が1%未満になるのではないかと思います。しかし、そこにたどり着けないのは、女性側に責任があるのではなくて、ワーク・ライフ・バランスを誰もが享受できない現状に問題があるといえます。

(4)臨時・非常勤・派遣労働への行政依存度=構造的女性差別
  現在、臨時・非常勤職員合計45万人のうち、一般事務職員は11万人です。一般行政職は96万人ですから、正規職員に対して約1割の臨時・非常勤がいることになります。このほとんどが女性であることから、自治体職場の人員構成において処遇の低い人たちのところに、女性がたまっていくという問題を作っています。
  この中には子育てや、結婚、介護で一度退職をして、その経験をもう一度役所で活用したいという女性もたくさん含まれています。つまり、ワーク・ライフ・バランスが整っていれば、辞めずに定年まで頑張れる人たちも混ざっているのです。日本では、一度正規雇用を退職すると、それと同等の条件で再就職するのは難しいという現状にありますが、同じ構造が自治体の中にもあるのです。これは正規職員の中でのジェンダー・バランスの不十分な現状と、職員と非正規職員の間にある構造的問題にあるといえます。これらは、解決や手法の手立ては異なりますが、両方見る必要があると考えられます。

(5)自治体職場のワーク・ライフ・バランス度
  自治体の各職場におけるワーク・ライフ・バランスは、決算の集中する時期を除けば、比較的定時で帰りやすい職場からそうでない職場と、幅があります。労働組合としては、職員の希望を実現するために役割発揮が求められています。子育て中の職員はどうしても残業の少ない職場に行きたいということで、とりあえず、緊急避難的にそういう希望をかなえるように働きかけます。
  しかし、全てそうしてしまうと、残業の多い職場は若い人と子育てが終わった人ばかりになってしまうため、やはり全体を編み直すということが不可欠なのだと思います。
  しかし、それはなかなか難しいわけです。そこで、私が横浜で労働組合の役員をしながら、このジェンダー・バランス、ワーク・ライフ・バランスについて取り組んできたいくつかの事例についてお話して、少しイメージをつけていただきたいと思います。

4.男女平等推進における労働組合の役割 at横浜
(1)自治体職員の男女平等に貢献した労働組合活動事例~目標はジェンダー・ニュートラル
①採用差別撤廃・職員配置男女平等
  私は1971年7月に横浜市の採用試験を受け、11月に採用されました。面接の時、人事の職員から「あなたはお茶汲みができますか」と聞かれました。その場面を今でも忘れることはできません。私は「役所というところも、世の中の平均的な常識とかけ離れた場所ではないということは承知しております」と答えました。何を答えたのかわからないような答えですが、承知しているけれどもそのとおりにするとは言わないということで、冷や汗をかきながらそう答えました。
  当時女性の採用は、全体の3分の1に抑えるという暗黙の了解があったと聞いています。最初にお示した職員の女性比率が30%をなかなか超えられないのは、今でもそういう傾向があるためではないかと思っています。当時横浜市では、事務A、事務Bと採用が2つに分かれていて、男女の採用定員を別々に分けていました。公務員は妊娠・出産で辞めなくてすむ職場でしたから、当時から女性に人気が高くて、単純に試験の成績だけで決めると女性が3分の2を占めてしまうという事情にありました。そこで、男女別々の定員数で採用していたのです。
  これは、結果的に女性の採用を抑えることになるので、労働組合として問題を指摘し、その撤廃を求めて要求を出し、団体交渉を行って、当局に是正を求めました。その結果、3年がかりでようやく男女別の定員枠を撤廃することができ、表向き男性の採用枠と女性の採用枠と区別をしないで採用されることになりました。これは1975年頃だったと思いますが、どういう時期だったかというと、女性に対する差別撤廃条約を作ろうということで国連で議論された時期にあたりました。世界行動計画が採択され、「国連女性の10年」が始まる年にもあたっていました。そういう時代の風をうけていたことで、女性男性別枠採用の撤廃運動に労働組合でも取り組むことができたのだと思います。

②住宅手当・扶養手当支給の女性差別撤廃
  横浜市では、住宅手当と扶養手当の受給要件に男女で大きな違いがありました。このことが顕在化したのは、私の同僚が2人目の子どもを産んだ時でした。同僚の夫の方がすでに一人目の子どもの扶養手当をもらっていたので、2人目の子どもの扶養手当は共働きである母親がもらいたいと申請したのですが、受け付けてもらえなかったのです。私の職場のことでしたので、私は応援をすることにしました。
  私の場合は、その2年前に双子を産んでいました。事実婚のため戸籍上の婚姻関係になかったので最初は2人とも私の扶養家族になり、その後認知をし、親権の変更手続きをとって、未婚の父である私のパートナーにも一人分の扶養手当が問題なく支給されました。我が家では一人ずつ扶養手当をもらえているのに、結婚している夫婦にそれができないというのは、理不尽であると思ったわけです。
  最初は、労働組合の役員にも、どうせ一家の同じ財布に入るのにどうしてそんなことにこだわるのだ、と全く理解されませんでした。しかし、これには多くの女性が賛同し、自分にはそういう勇気はないけれども、Aさんにはぜひ頑張ってもらいたいと、非常に大きな支援の輪が生まれました。
  この件は、解決までに5,6年と結構長い時間がかかりました。扶養手当がもらえないと、乳飲み子をかかえて健康保険にも入れません。さらに、扶養手当が実質上確定しないので不支給という状態を、Aさんは耐えて頑張りました。これも「世界女性年」の影響が大きく、「がんばろう」という気運がすごく盛り上がっていたと思っています。
  その後、ようやく夫婦が役所で共働きの場合は、どちらか一方が申請すれば申請通りに扶養手当は認めましょうとルールを変更することができ、女性に扶養手当が支給される道が開けました。ルールが変わる前は、夫が失業中か、病気で働けないか、または非常に低所得で女性の所得の半分にしか満たない場合にかぎり、これを女性自らが証明した場合には、女性でも子どもの扶養手当を受け付けますということだったのです。明らかに、地方公務員法13条に大きく逸脱する取り扱いが、まかり通っていたのです。
 
③技術職作業服・安全靴の女性サイズ新設、女性用トイレ・シャワー設置
  自治体の多くの職種では女性はまだまだ少数派です。とくに、技術職ではほとんど探さないと女性は見つからないという状態です。そのため、作業服やヘルメット、重いモノが落ちてきても足を守る安全靴など、現場に入る人に支給される装備について、女性のサイズは用意されていないという状態でした。また、ごみ収集の職場は、今でも圧倒的に男性職場ですが、事務所に女性が配置される際には、女性用のトイレや女性用のシャワーもなかったということもありました。
  そういうことを一つひとつ掘り起こして、労働組合が、年に一度要求書を当局に提出します。それらの取り組みを積み上げて、徐々に勝ち取り、職場の環境を改善してきたという歴史があるのです。

④人事異動ルールにおける通勤時間の基準改善
  次に紹介するのは、人事異動のルールにワーク・ライフ・バランスのルールを取り入れさせたということです。
  横浜市では、人事異動に際して職員の希望を反映させるというルールがあります。その希望の範囲を拡大して、保育園経由の通勤時間を考慮するように改善させました。また、職員の異動先があまりに遠くならないよう1時間以内で通勤できること、同時に保育園経由でも1時間以内を原則とするルールを作りました。
  このようにして、労働組合がジェンダー・ニュートラルな職場作りに役割を発揮してきました。こういうことができたのは、労働組合の役員構成の中に女性を増やしていくということと、表裏一体でした。最後にそのことをお話しようと思います。

(2)労働組合幹部役員の男女構成比率の重要性
①交渉課題の優先順位のジェンダー・バランス確保
  私が横浜市でいろいろ経験ができたのは、自治労横浜市従業員労働組合(略称:自治労横浜)の執行委員という役割をもったからです。そのために、人事や労務の交渉のカウンターパートナーや、当局の人事担当者と直接話し合うことができたのです。自治労横浜では、女性の執行委員は私が初めてでした。
  組合員が労働組合に期待する第一優先順位は、やはり賃金です。賃金が上がっていくこと、下がらざるを得ない場合にも下がり方が著しくないということです。「特勤手当」という様々な手当がこの10年間で大幅に削減されましたが、その削減の仕方や削減の影響を少なくするということも、労働組合は期待されています。
  第二は、労働時間および雇用の安定です。地方自治体の場合は、臨時職員の雇用が大変不安定で、その期待も大きく寄せられています。
  職員は、法令上決められた項目に抵触しない限り、簡単には解雇されませんので、失業の危険はあまり大きくありません。しかし、管理職とそりが合わないからと人事異動で報復として飛ばされることはあってはなりませんし、土日も滅私奉公している人だけが重用されるというのもおかしな話ですから、公平公正な人事異動となるように、労働組合は働きかけています。
  男女が共に働く上での問題はこれだけではないのですが、賃金、労働時間、雇用以外のものは、なかなか交渉のテーブルに乗りません。多くの組合員は、先ほど例にあげたシャワーや、トイレ、安全靴、扶養手当の問題などについて、重要な課題であるという認識はあまりないのです。つまり、組合の執行部に女性が入ることによって交渉課題の優先順位が変わってくるということです。執行委員会の中できちんと議論して、もっともだということになれば、労働組合として取り組むことになります。男女平等は自治体の責務でもあるわけですから、正しいデータと正しい理屈で突きつけられれば、応えざるをえないわけです。そうすれば対策ができます。扶養手当の認定や女性に対する差別的な採用が正されたように、これは正していくことができるのです。

②交渉成果のジェンダー・ニュートラルな評価の確保
  そのためには、交渉の場に女性が混ざって、問題の重要性、優先順位について主張していくことが不可欠です。
  私は、自治労本部で最初、賃金・労働条件の分野を担当しました。当時、大幅賃上げはできない時代になっていて、賃上げにまわせる原資は非常に小さくなっていましたので、ベースアップは無理だから扶養手当を上げようということになりました。手当に数100円を積んで、労働組合も納得せざるをえないという、冬の時代でした。
  その時に、どの扶養手当に上積みするかが問題になりました。私が本部に行く前は、概ね配偶者分の扶養手当に上積みがされていました。専業主婦のいる人は男性ですし、夫婦共働きだと配偶者手当は支給されないので、結果として配偶者手当をもらっている職員の99%が男性でした。つまり、配偶者の扶養手当を上積みするということは、男性の賃上げになるわけで、それでよいのかという問題提起がありました。
  これは、労働組合で女性役員の登用が始まって以降、初めて出てきた議論でした。結果として、配偶者ではなくて子どもの分に上積みしようということになりました。しかし、それでもまだまだ受け取っているのは男性が多く、ジェンダーのアンバランスは残っています。
  ただ、横浜市のように、申請すれば女性も扶養手当がもらえる、そういう選択肢を広げるという道は、徐々に作られてきました。女性が交渉の場にもっと入っていって、このジェンダーのアンバランスを直していく必要があると思っています。

③地方自治の政策・予算・体制のジェンダー・バランス確保
  労働組合である自治労は、自治体の政策のジェンダーチェックも行なっています。自治体の予算の使われ方、まちづくりのあり方などについても、自治体を改革するという観点で運動課題にしています。

(3)職場・地域・労働組合の3分野の男女平等を三位一体に推進する方針
①男女がともに担う自治労計画
  労働組合の執行委員、意思決定権限のあるポストに女性が増えていくことの効果について、自治労の中では、労働組合の政策としても確立をして、「男女がともに担う自治労計画」を策定しました。第一次計画は95年、そして第二次計画は2000年、第三次計画は2007年です。もっぱら役員に占める女性比率を高めるということを目標にしていて、数値目標は3割です。
  労働組合の組織では、最高意思決定機関は大会で、年に1回開催します。その大会代議員の女性を3割とする数値目標です。大会に次ぐ意思決定機関は中央委員会で、3ヵ月に1度開催しますが、中央委員も女性を3割にしようという目標をたてました。各労働組合の執行委員会にも、3割の女性を入れようという目標を立てて取り組んでいます。

②人材育成装置としての自治労男女平等産別闘争
  職場における男女平等と労働組合における男女平等、そして、地域における男女平等、これは3つとも同時にすすめなければ成し遂げられないと考えています。その考え方のもとに、男女平等産別統一闘争を毎年6月にやっています。今がちょうどその時期にあたっていて、今日は全国で集中交渉日となっています。自治労に所属している約1,800の労働組合のうち、およそ半分の組合が現在交渉中だと思います。
  そこで、去年よりは今年、今年よりは来年と、一つひとつ男女平等に携わる制度改善について当局から回答を得ています。これは、日本社会全体にとっても見過ごすことができない、自治労が果たしている社会的役割であろうと考えています。

③職場・地域における男女平等の推進のために
  ポジティブ・アクション、すなわち数値目標を立てて女性を増やすことは有効なのか疑問、という意見があります。実は、労働組合の中にも根強く、これは組合が女性を登用しない強力な論拠になっています。数合わせで中央委員会に出てきても、椅子に座っているだけで、実質的な執行や労働組合運動、意思決定の権限に結びついていないのでは全然意味がない、という意見です。これはもっともなことです。
  しかし、だからといって、今のままでは永遠に女性の比率は増えません。増えないままでいれば、労働組合のさまざまな交渉課題が男性の利害に偏っていく。これを放置することもできないわけです。鶏と卵の関係のように言っていますが、やはり数値目標を作り、委員長の決意を示して無理やりにでも女性を入れる、ポジティブ・アクションを行う、ということに意義があると私は考えています。
  能力がある女性組合員は大勢いるのに、経験を積んでいないために自信がない、だから席を空けて待っていても女性が立候補してくれないということが、多くの男性役員の言い分であり、それが現状です。
  交渉の当事者双方が男性ばかりでは、ジェンダー・バイアスの是正に実効性のある成果は決してあがりません。これは当然なことで、ジェンダー・アンバランスに対するリアリティが、女性と男性では全く異なるからです。成果が上がらない労働組合には魅力を感じないから、女性はますます遠ざかります。そういう悪循環の構造にある労働組合が、まだまだ多くあります。もし、その交渉の場に女性が一人でも混ざれば、このリアリティが全然違ってくるのです。
  つまり、ポジティブ・アクションを行うのは、交渉経験と自信がない女性役員と、要求内容にリアリティはないが交渉のノウハウやキャリアはある男性役員が、一緒に交渉をすることによって、労働組合としてジェンダー・アンバランスを正すことができるからです。労働組合自身がこれらを実践できなければ、地域における男女平等政策の自治体の仕事ぶりをチェックすることは、到底不可能です。
  自治労がこのしくみを生み出したのは、労働組合、連合の中でも特筆すべき事柄です。社会に対する責任としても、歴史的に評価されるに違いないと、自信を持っています。
  数合わせだけでは意味がないと主張する人は、男性にも女性にもいます。それは、自分がポジティブ・アクションに踏み出せない男性の言い訳であり、踏み出すことによって、新しい責任を引き取ってしまうことに恐れを抱いてしまう女性側の逃げでしかありません。この2つが、労働組合を支配している限りは、労働組合の社会的責任は果たせないと考えています。
  いくつか言い残してしまったことがありますが、それは質疑の中で補い、私からの話は以上にさせていただきたいと思います。ご清聴大変ありがとうございました。

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