埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第7回(5/28)

非正規労働者の処遇改善に向けた取り組み

ゲストスピーカー:有水 由美子 セブン&アイ・フードシステムズ労働組合 専従書記

1. 自己紹介
  皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました有水由美子と申します。
  今日は、「非正規労働者の処遇改善に向けた取り組み」についてお話させていただきます。私には、大学生の子どもが2人おります。まさに、皆さんのお母さんの世代です。皆さんのお母さんのなかにも、パートで働いていらっしゃる方は多いだろうと思いますが、私もパートの1人です。これから、私のこれまでの経験や現在労働組合で取り組んでいる活動について、お話させていただきます。
  私は1983年にデニーズジャパンに入社しました。デニーズジャパンは昨年9月にセブン&アイのグループ内で同じ外食事業を展開しているファミールとヨーク物産の3社で経営統合して「セブン&アイ・フードシステムズ」という会社になりました。私は、セブン&アイ・フードシステムズ労働組合で仕事をしています。デニーズから数えて25年ほど会社にお世話になっていますが、ずっとパートだったわけではなく、正社員として働いていたところ、結婚し、出産。後にパートに転じ、店長、本部スタッフを経験した後、パートの組合加入を期に、労働組合の仕事をするようになりました。それまで労働組合の活動の経験がない中で、専従者になりました。もちろん今でも雇用形態はパートですが、女性パートで専従というケースは、お付き合いさせていただいている他の労働組合でも、あまりお見かけしませんので、少ないのではないかと思われます。

2. 株式会社セブン&アイ・フードシステムズについて
(1) 会社の概要
  セブン&アイ・フードシステムズの主な業態は、レストラン、給食事業、ファストフードです。ブランド名ではデニーズ、ファミール、ポッポ、芝のラーメンなどです。給食事業では、社員食堂、学校の食堂などで、ファストフードでは、たこ焼き、お好み焼きやラーメンなど中心にした店舗をイトーヨーカドー内などに出店しています。セブン&アイ・ホールディングスには、他にセブンーイレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、ミレニアムリテイリング、セブン銀行などがあります。

(2) セブン&アイ・フードシステムズ労働組合の概要
  セブン&アイ・フードシステムズ労働組合は、会社統合にあわせて、昨年結成しました。ちなみに、前身のファミール労働組合やデニーズジャパン労働組合は、1979(昭和54)年の結成です。組合員数は現在7,000名で、正社員と週20時間以上の労働契約のパート社員が加入しています。セブン&アイグループ労働組合連合会に属し、その上部団体はUIゼンセン同盟です。

(3) セブン&アイ・フードシステムズの人事制度~社員群制度
  この後の話を理解していただけるよう、セブン&アイ・フードシステムズの社員群制度について、少し触れておきたいと思います。セブン&アイ・フードシステムズでは、社員群制度があります。大きくは正社員とパート社員にわけられますが、正社員には、ナショナル社員とエリア社員があり、全国転勤があるナショナルに対して、エリア社員は家族都合などで全国転勤が出来ない場合に、ある一定のエリア内で勤務をする働き方です。
  2008年5月現在、パート社員は、ディストリクト社員とユニット社員に分けられます。ディストリクト社員は有期限の雇用契約で、自宅からの通勤時間1時間半の範囲内で転勤があります。1日の契約時間は6時間~8時間で、社内の検定に合格すれば正社員と同じように、店長や一定時間帯の責任者であるリーダーなどといった役職に任されます。ユニット社員は、契約した事業所で勤務する有期限雇用契約の社員群です。私はディストリクト社員です。

(4) パート社員における役職者
  現在、レストランのパート店長は42名で、レストラン店長全体の6%です。私がデニーズで最初にパートの店長に任命されてから、すでに10年ほど経っていますが、レストランのパート店長の登用については、慎重にすすめられているようです。
  イトーヨーカドー内の社員食堂では3分の2、ファストフード店では約半分の責任者がパートです。
  レストランのデニーズの場合は、365日24時間営業が基本です。状況によっては、店長の拘束時間などが厳しくなることもあり、パートで店長をやる人材は少ないように思います。

3. パートという働き方を選択した理由
(1) 入社~正社員で働いていた期間
  学生さんの前でこのようにお話をさせていただくと「何故正社員にならないのですか」という質問を受けることがあります。もちろん、正社員で働くことができない家庭事情があるから、パートという働き方を選択しているわけですが、逆に言えば、仕事を変えれば正社員で働くチャンスはあったかもしれないのに、この仕事を続けることにこだわったからパートで働いているということでもあります。ここからは、何故この仕事を続けてきたのかをお話ししたいと思います。
  私がデニーズに就職したのは、まだデニーズが200店舗くらいの規模の頃です。当時デニーズでアルバイトしていたお店の店長に薦められて、短大を中退して入社しました。短大中退ということで両親は反対でしたが、私にはこの仕事が魅力的に感じられました。年が若く、また、女性であっても、大事な時間帯を任せてもらえ、何人もの人を動かすやりがいのある仕事に、就職できるチャンスはなかなかないだろうと思い入社を決めました。
  入社した当時は、女性の店長は1人もいませんでした。店長どころか、女性は営業にも10人くらいでした。女性の営業社員は珍しく、私は配属先の店長に活きのいい男の社員が(部下に)欲しかった、と言われました。これが現実でした。
  入社して最初に厨房の仕事を担当しましたが、当時の厨房は器具や機材がアメリカから持ってきたシステムをそのまま使用していたため、体の大きな人に合わせたサイズで女性にとっては、お皿が高いところに置いてあり届かないことや、鍋が大きく、茹でるときなどは、湯と食材で重くて持ち上がらないこともありました。店長にしてみれば、鍋も持ち上げられないのに1人前に仕事ができるのかと思ったことでしょう。

(2) 正社員からパートへの転換
  入社して2年後に結婚しました。仕事か結婚かという選択はありませんでした。結婚することが、仕事にプラスになると思ったのです。その頃の私は主婦業と仕事を両立しているパートで働く人の気持ちや大変さを理解できていませんでした。実は私のこともなかなか主婦の方には理解してもらえずコミュニケーションに苦労していたのです。結婚することで、主婦の方からは仲間として受け入れてもらうことができ、仕事がスムーズに進むようになりました。
  結婚しても働き続けることは、私にとっては普通のことだったのですが、妊娠、出産ということになると、前例もなく、周りの方や上司の配慮で無事に出産することができました。しかし、出産後に職場に復帰しようと保育園を探し始めて愕然としました。0歳児をすぐに預かってくれるところは見つかりませんでした。すがる気持ちで労働組合に電話してみましたが、たとえ保育園がみつかったとしても、勤務できない時間や曜日があるという状況では、今の制度ではどうにもしてあげられないと言われ、仕事を続けることはできないんだと思うと、電話口で子どもを抱えてボロボロと泣きました。そして、私はこの仕事が好きで働き続けたいのだという気持ちを強く意識しました。
  その後、社内資格、役職などはそのままで、パート契約で働いたらどうかという提案をいただき、仕事を続けることになりました。保育園も無認可の保育所が見つかり出産後6ヶ月で仕事に復帰しました。

(3) 仕事と子育ての両立~店長登用
  2人目の出産後も同じように復帰することができました。しかし、2人の子どもを保育園に預けて働くということは、体力的にも金銭的にも楽ではありませんでした。2人分の保育料は時間延長分も合わせて10万円ほどでした。それでも私は仕事を辞めようとは思いませんでした。とにかく仕事が好きで辞めたくなかった。店長になる夢を諦めたくなかったのです。
  上の子どもが小学校に入学したころ、チャンスがきました。会社がパートの店長を登用するということで、私は、10カ月間の副店長を経て店長に登用されました。店長の仕事の緊張感とプレッシャーは想像以上でした。そのため、家族に大きな負担をかけた時期もありました。我が家では、夫が毎日夕食を作り子どもと3人で食事をするという毎日が続きました。

(4) 家庭生活での経験を仕事に生かす
  家事、育児は決してパーフェクトではありませんでしたが、結婚して出産、育児を経験したことは、店長としての仕事の進め方に大きな影響を与えたと思います。
  例えば、お店を運営していく中で一番困るのは何かというと、当日に欠勤が出ることです。欠勤が発生すると埋め合わせなければならず、休日の方にお願いして出勤に変えてもらわないといけない、もしくは自分がやるしかないわけです。しかし、ほとんどの方が、仕事が休みの日には仕事以外の予定を立てているのです。私は皆さんの生活も私の生活も守りたい。そこで、当日に欠勤を出さない努力と工夫をしました。例えば、風邪の流行る時期などは、風邪ひくかな、体調があまり良くないなと思ったら、次の仕事の日が3日先ならその日は休めるように人に変わってもらい、ひどくしないようにしてもらうなどです。代わりに出勤してもらう人を頼むにしても、明日、あさっての予定は変えられても、今日の予定はなかなか変えられないものです。小さなお子さんがいらっしゃる方にも同じようにお願いしました。お子さんの機嫌が悪いとか体調が悪くなりそうだというサインを見逃さないで、もしかしたらと思ったら、その時熱がなくても明日休みたいということを夜9時前には決断してほしい、他の方をお願いするのは、せいぜい夜9時がリミットですとお話しし、休みたいと言う勇気を持ってくださいとお願いしました。また、高校生には、たくさん働きたいという希望があっても、週3回多くても4回までにしましょうと言いました。1週間のうち、3日はアルバイト、2日は友達と遊ぶ、残りの2日は夕飯時には家に居て欲しい、そんな気持ちでのお願いでした。
  こうした努力の結果、皆さんの協力を得て当日欠勤はほぼゼロになりました。外食業界は今あまり学生さんには人気がないようですが、私は今までの25年間でこの仕事を辞めたいと思ったことはありません。長時間働かされて休めないと思われがちですが、ちょっとした工夫や思いやりを積み重ねることで、働く皆さんも自分も働きやすい職場にすることができるのです。私は「おもてなしをする」という仕事に対して本当にやりがいを感じていますし、毎日お客様や働く皆さんの笑顔に囲まれてできることをありがたいことだと感じています。

4.セブン&アイ・フードシステムズ労働組合の取組み
(1)仕事と家庭の両立に障害となっているもの
  セブン&アイ・フードシステムズでは、賃金はもちろん、教育、昇進、昇格など男女等しく機会がありますから、男性と女性の差別はない企業だと思います。しかし、制度としての差別はないものの、私の例でもお話したように、女性は出産、育児、介護など家庭の中での責任を男性より重く背負ってしまうことが多く、正社員では働き続けることが出来ないというケースもあるようです。

(2)仕事と家庭の両立支援
  セブン&アイ・フードシステムズには「リ・チャレンジプラン」という出産、育児、介護から円滑に職場に復帰できることを目的とした制度があります。出産した場合には①育児休職、②短時間勤務、③再雇用の3つのプランがあり、いずれかを選ぶことができます。出産・育児で一時期休んでも復帰でき、退職しなくても良い環境にあります。このプランは男女どちらも利用できますが、今のところ男性は1名しか利用していません。女性はすでに数十人利用者がいて、実際に職場復帰しています。組合員の一人として、このような仕事と家庭の両立支援は今後も充実させていくべきと感じています。

(3)パート社員の組合員化と処遇改善に向けた取組み
  セブン&アイ・フードシステムズの従業員のうち、90%以上がパート社員です。この方たちの活躍なくして、セブン&アイ・フードシステムズは成り立たないといっても過言ではありません。会社の中心的存在であるパート社員の処遇改善に取り組む事により、会社全体の活気、お客様へのサービス向上、ひいては業績向上につながるのではないかという考えのもと、労働組合もパート社員の組合加入に取り組みました。
1979年に前身の労働組合設立以降、労働組合は正社員の労働組合でした。ただし、これまでも組合員ではないにしても、会社との間でパート社員に関する問題も取り組んできたのですが、より踏み込んだ活動をしていくために、2006年、会社と協議の末、組合員の範囲を見直し、パート社員でも週20時間以上働いている方を対象に組合員になっていただきました。
  パート社員に、労働組合がどのような活動をしているかを理解してもらい、組合員になっていただくのは簡単なことではありませんでした。労働組合に加入することで「私たちにどのようなプラスになるのですか」という問いに、私たちはパートで働く人はどんなことを考えて、どのような思いで仕事をしているのかを聞くことから始めなくてはいけないと、1年間かけて全国でパート集会を実施しました。
  そこでは、有給休暇がなかなか取得できないとか、もっと身近なことでは、毎日使うストッキングがすぐに破けてしまうので何とかしてほしいとか、正社員からは出てこない内容の意見がたくさん出てきました。今後もこうした声に耳を傾け、働きやすい職場を作っていくために、パートの処遇を向上させていく活動を進めていきたいと思います。
  また、昨年9月に3社が経営統合し、現在の会社の形になりましたが、今現在、パート社員の制度は3社別々のものです。これを一本化するために、現在、労働組合と会社による労使人事制度検討委員会を設け、より働きやすい人事制度の策定を目指し、労使で新しいパート社員の人事制度の検討を重ねています。

5. 今後の課題~新しい人事制度
  セブン&アイ・フードシステムズ労働組合では、統合した新会社の人事制度の作成に関わっています。会社とも話し合いを積み重ね、旧3社間には人事制度に違いがあり、それぞれの歴史をもった会社がひとつになるには検討課題がたくさんありますが、来年までには、新しい人事制度に移行していく予定です。今後の会社発展に寄与できる人事制度ができるあがるものと考えています。
  以上で、私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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