埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第4回(5/7)

働く女性をめぐる法律・社会制度の課題

ゲストスピーカー:花井 圭子 連合 雇用法制対策局長

Ⅰ.はじめに~労働組合との関わりについて
 私は、1978年に大学を卒業しましたが、なかなか就職ができませんでした。就職活動を進めるうちに、当時の企業は、四大卒で地方出身かつ下宿の女性を採用しないという不文律があることに気付き始めました。
 同じ頃、国連では75年を国際婦人年と決め、1976~85年を「国連婦人の10年」とし、男女差別の解消に向けた世界的な大きな運動が起こっていました。1979年には国連において「女性差別撤廃条約」が採択されました。日本では、同条約を批准するにあたり、ネックとなった一つとして、雇用における男女差別を禁止する法律がないということがありました。「男女雇用平等法」制定を求める大きな運動が起こっていました。
 このような社会の動きの中で、私は、下宿していることや四大卒であることを理由に女性を採用しないのは差別なのだ、と気づきました。それに気づいた時から、社会に対する見方や考え方、制度などについて、学びました。
 ようやく建築会社に就職しましたが、そこは労働条件等に問題の多い会社でした。同僚4人で労働組合を作ろうということになり、いろいろな人に相談したり、労働法を勉強しました。残念ながら労働組合の結成には至りませんでした。79年に当時のナショナルセンター総評に入ることになりました。1985年の男女雇用機会均等法成立の後、婦人局に配属となり、連合の結成とともに連合へ移り、育児休業法や介護休業法、医療、介護、環境問題などの担当をしてきました。

Ⅱ.働く女性と労働法
1.「契約」についての基本的考え方
 まず、労働法とは何かを考える上で、契約についての基本的考え方をおさえておく必要があります。
 民法には、「契約自由の原則」があります。これは、①契約締結の自由、②相手方選択の自由、③契約内容の自由、④契約方式(あるいは形式)の自由、というものです。

Aさん

対等な交渉

Bさん

合意=契約内容

※合意した内容はお互いに守らなければならない
※合意したくないことは合意する必要はない
※交渉力を高めればよりよい契約内容を得ることができる

2.「法律を学ぶ」ということの意味
 次に、法律を学ぶことの意味です。1点目は、身の回りのトラブル発生を回避でき、トラブルが起こった場合は、悪化の防止や解決をはかることができます。2点目は、社会のしくみやルールを知ることができます。私自身の経験からも言えることですが、法律は、私たちの生活に非常に密着しているものです。
 たとえば、皆さんはアルバイトをする際、アルバイト先を自分で選び、店長と面接をして、合意して、契約を結んで働いていると思います。その時のしくみ、法律はどうなっているのか、法律を学ぶということは、単にトラブルを避けるためというだけでなく、生きていく上でとても大切なことです。

3.労働法とは何か
3-1.労働法の全体
 「契約自由の原則」を「会社」と「労働者」の間に当てはめると、どうなるでしょうか。この原則は、契約当事者双方が完全に対等な立場にあることが前提条件ですが、実際には「会社」と「労働者」は、対等な立場にあるとはいえません。「会社」と「労働者」の「契約自由の原則」を成立させるには、法律で両者を対等な立場に立たせる必要があり、そのために労働法があるのです。
 労働法には、最も基本となる法律として、契約内容や労働条件の最低基準を定める「労働基準法」と、交渉力を高めて労働条件の維持・向上を図るための「労働組合法」があります。賃金が低い、労働時間が長い、残業手当が払われないなど、働く上で様々な問題があります。一人で会社と交渉すると、「それならやめて結構です」と言われてしまいます。そこで、労働組合を結成して交渉することが大きな力になっていくのです。
 労働法を大きく2つに分類すると、雇用契約が成立していない時に関係する「労働市場法」と、職場での働き方の規制に関わる「労働関係法」に分けられます。「労働市場法」には、職業安定法、失業給付に関連する雇用保険法、雇用対策法などがあります。
 「労働関係法」には、一般規制として労働基準法があります。また、労働者個人と会社の自由な契約では、労働者側が弱いのは当然ですから、それを修正するために基本的なルールを定めた労働契約法があります。さらに、賃金の最低水準を決めているのが最低賃金法です。この法律では、都道府県ごとに、労働者をこれ以下の賃金で雇ってはいけないという「最低賃金」について定めています。最低賃金は、都道府県ごとに公労使の代表によって毎年、見直されています。昨年は、全国平均で14.4円上がりました。他に、労働安全衛生法等があります。

3-2.労働法の現状
 次に、労働法が戦後どのように成立・改正され、今どのような現状にあるかを見てみます。個別的労働関係法として労働基準法、労災保険法、最低賃金法は、成立後もずっと改正が続いています。労働市場法として、職業安定法等がありこれらも改正が続いています。集団的労働関係法として労働組合法がありますが、あまり改正されていません。あと、公務員に関わるものとしては国家公務員法などがありますが、最近相次いで改正されています。労働法とは、会社と労働者の契約の自由を修正し、会社と労働者が対等な立場に立たせるものであるということをぜひ認識していただきたいと思います。

4.身近な問題を労働法の視点から考える
4-1.女性をめぐる雇用状況
 最初に、雇用者数の推移を見てみます。雇用者とは、雇用されて働く人、パート、アルバイト等も含まれます。2007(平成19)年の雇用者総数は5,523万人、うち2,297万人が女性で、全体の41.6%となっています。
 各年代別にどのくらいの人が働いているのかを示す、年齢階級別労働力率の推移のグラフを見ると、女性では2007年は30~34歳のところで下がり、35~39歳でも数が少なくなっています。妊娠・出産、子育て期にあたる年代のためです。これをM字型カーブといいます。男性のこの年代ではへこみがなく、台形に近い形になっています。
 諸外国と比較すると、例えばスウェーデンでは、子育て期の年齢に関わらず働いています。女性の就業率が高い北欧の場合は、育児休暇や保育所をはじめ男女平等に関わる制度が大変充実しています。
 次に、男女の賃金比較を見てみます。大卒では、男女の賃金にそれほど大きな違いはありませんが、高卒では、55~59歳で男性が476.9万円、女性が339.5万円と100万円以上差があります。男女の賃金格差が非常に大きいのが、今の日本社会の現実です。
 第三に、就業と結婚・出産・子育てのどちらかという「二者択一」の問題です。第一子出産前後の、女性の就業状況の変化を見てみると、出産1年前は、無職が25.6%、常勤が47.2%、パート・アルバイトが22.5%、自営業等が3.8%ですが、出産半年後は、無職が67.4%に増加しています。女性が出産して子育てをしながら仕事を続けるには、困難が伴うのが、今の日本の現状です。

4-2.働きながら子どもを産んで育てる
○ 【出産する時】産前産後休業(労働基準法第65条)
 産前産後休業については、労働基準法で定められており、権利として保障されています。産前休業が出産予定日前6週間、産後休業が8週間です(双子以上の場合は産前14週間)。しかし、先ほども述べたように、法律で定められていても、なかなか産休をとる人、つまり第一子を産んだ後も仕事を続ける人が少ない、というのが現実です。

○【育てる時】育児休業(育児介護休業法第5条)
 育児休業も法律で定められています。産後8週間の休業に続き、子どもが満一歳になるまで育児休業を取ることができます(2004年の法改正で、保育所の4月入所を考慮して1年6ヵ月まで延長可)。
 産休は女性だけの権利ですが、育児休業は、基本的に男女とも取得する権利があります。育児休業の取得率は、女性では2006年は9割弱で、年々取得率が上がってきています。しかし、男性では約0.6%でしかありません。
 休業中の賃金について会社の支払は義務付けられていませんが、産前産後休業中は、加入する健康保険から出産手当金として賃金日額(正確には標準報酬日額)の3分の2が支給されます。また、出産時には、出産育児一時金として35万円が支給されます。育児休業期間中は、雇用保険から育児休業給付金が賃金の40%相当分支給されます。育児休業期間中は、健康保険料と年金保険料、雇用保険料は支払いが免除されます。

4-3.ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)
○労働時間を法律で規制する理由
 第一に、国際市場における公正競争の確保があげられます。1919年、第一次大戦終了後のベルサイユ条約によって、労働条件を世界的に統一しようという目的から国際労働機関ILOが創設されました。その第1号条約が労働時間を制限する条約で、一日8時間、週48時間労働を定めました。ところが当時の日本では、とくに繊維産業で働く女性(年少者)たちは、1日15~16時間ぐらいは当然とされていました。しかし、日本は未だに批准しておりません。
 労働時間を法で規制する理由としては、第二に労働者の休息の確保と、第三に労働者の余暇時間の確保です。

○労働時間の原則と現状
 ILOでは、文化的な生活を送るために、一日24時間を、労働8時間、余暇8時間、休息8時間としています。日本の労働時間も、法的には労働基準法第32条で1週40時間、1日8時間と決められています。6時間以上働く場合には45分以上の休憩、8時間の場合には少なくとも1時間の休憩を与えなければいけません。
 時間外労働をさせた場合は、残業代として、通常の時間外労働では25%、休日としている日に働いた場合は35%、夜の10時から朝5時まで働いた場合(23時から6時までとしても可)は、深夜労働として50%割増賃金を支払わなければなりません。
 労働時間は法律できちんと決まっていますが、日本の年間総実労働時間は、2006年度には正規労働者の場合2,024時間、依然高い水準となっています。国際的にも日本は長時間労働で、世界中で一番働いているといえます。
 年次有給休暇は、勤続半年で10日有給休暇が付与されます。日本の場合は1人あたり平均17日の年次有給休暇があっても、8日しか取得していません。
 週あたり労働時間では、1993~2004年の間に、週60時間以上働く人が約47万人増えています。中には、過労死の危険性があるとされる100時間超の人もいる状況です。
 このような長時間労働を余儀なくされているのは、正規労働者で特に30歳台の男性が中心です。一方、女性を中心に週労働時間が35時間未満のパート労働者等が増えていることから、労働時間の二極化が進んでいます。
 また、日本人男性の家事・育児時間は、6歳未満児のいる家庭で一日33分というデータがあり、これは諸外国に比べて大変短い時間です。裏を返せば、圧倒的に女性が家事・育児を担っているということです。
 このような現状を改善するため、政府と連合の髙木会長、経団連会長が参加する「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」において、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を10年後には半減させるなどの数値目標に合意されました。今、連合でも具体的な数値目標を掲げて取り組み始めています。

○労働時間の規制をなくすことの是非
 日本の場合、労働時間規制が効かない現状にあります。労働時間規制をなくすことの是非について、昨年、「ホワイトカラー・イグゼンプション」が大きな話題となりました。これは、一定の年収以上の人には何時間働いても時間外手当を支給しない、「残業代ゼロ法案」といわれるものでした。当初、年収700万円以上の労働者を対象としていましたが、途中で、経済界が年収400万円以上を対象にすると言い出したため、それでは大多数の労働者が該当することになると大反対運動が起こり、結局政府は、その部分についての法改正を断念しました。
 最近、働く現場で大きな問題となっているのが、いわゆる「名ばかり管理職」の問題です。最近、マクドナルドの店長が管理監督者であるのかどうか裁判で争われ、店長は事実上ほとんど権限がない状況の中で働かされていたということで、管理監督者ではないという判決が出されました。

4-4.いろいろな働き方
○働き方の多様化の進行 
 以前は、労働者が朝の8時に出勤し、昼1時間休憩をとり、夜の6時まで働くというのが一般的な姿でした。現在では、パート、派遣、契約社員といった様々な雇用形態が出てきています。一番良い働き方とは何だろうということを考えてみたいと思います。

○「良い働き方」はあるのか
 良い働き方とは、不当な差別や格差がないことと、雇用が安定していることです。
 先ほども話したように、日本は、男女間の賃金格差が大きい国です。
 また、年齢を理由に差別する場合があります。募集採用で、30歳以下に限る、と年齢制限を設けるケースのように、年齢で切り分け、採用試験の機会も与えないことです。今後、高齢社会にあって大きな課題になると思います。
 働き方の違いによる、不当な差別や格差をなくすルールも必要になってきます。たとえば、スーパーなどで正規労働者と同様の働き方をしているパートは、正規労働者と均等待遇で扱わなければいけないと、パート労働法が改正されました。しかし、まだまだ不十分な状況です。
 雇用が安定しているとは、どういうことなのでしょうか。雇用契約には、期間の定めのない雇用と、期間が定められている雇用の二つの型があります。いわゆる正規労働者と非正規労働者です。下記枠囲みの例を参照にすると、期間の定めのない雇用では、入社から退職までずっと雇用されることが前提です。一方で契約労働者(有期契約といわれているもの)では、1年ごとに契約更新があり、2年目に更新されるかどうかわかりません。パートや派遣労働でも、1年契約など契約期間を限定した雇用が最近増えていますが、それは正規労働者に比べると、安定した雇用とはいえません。

【期間の定めのない雇用の例】
▽いわゆる正規労働者

▲解雇権濫用法理(労働基準法第18条の2→労働契約法第16条へ):解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

▲整理解雇の4要件(判例):

  1. ①会社の存続を図るため、人員整理が必要であること
  2. ②一時帰休・希望退職の募集等、解雇回避の努力をしたこと
  3. ③被解雇者選定に合理性があること
  4. ④労働者側に対する、十分な説明・協議がなされたこと

【有期の雇用の例】
▽いわゆる契約労働者

▲契約を反復更新すること=次の契約を会社に更新してもらえなければ働き続けられないということ

 特殊技能を持った人――たとえば、一部のプロスポーツ選手などは、有期契約でも何千万円、何億円を稼ぐことができます。しかし、働く人たちの大多数はそうではありません。働き方が多様化している現状においては、有期雇用労働者の働き方とルールを見直すことが、今後の重要な課題です。

Ⅲ.働く女性と社会保障・税制
1.社会保障制度の定義と概要
 社会保障制度とはどういうものか、社会保障の定義は以下の通りです。

「社会保障制度に関する勧告」(1950(S25)年 社会保障制度審議会)
● 社会保障制度とは、○疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、○生活困窮に陥った者に対しては国家扶助によって最低限度を保障するとともに、公衆衛生および社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいう。
● このような生活保障の責任は国家にある。国家はこれに対する綜合的企画をたて、これを政府及び公共団体を通じて民主的能率的に実施しなければならない。この制度は、もちろん、すべての国民を対象とし、公平と機会均等とを原則としなくてはならぬ。またこれは健康と文化的な生活水準を維持する程度のものたらしめなければならない。そうして一方国家がこういう責任をとる以上は、他方国民もまたこれに応じ、社会連帯の精神に立って、それぞれその能力に応じてこの制度の維持と運用に必要な社会的義務を果たさなければならない。

今の日本の社会保障制度は、この定義に基づいて制度設計されてきました。
 社会保障制度の概要を、いくつかあげてみました。

○所得保障(失業給付・年金):万が一、解雇された、企業が倒産したなどで失業した 時には、雇用保険から失業給付が受けられます。
 さらに、老齢や障害によって所得確保が難しくなった時には、年金給付があります。

○医療保険制度:病気や怪我をした時に医療サービスが受けられる、保険制度です。
○介護保険制度:高齢で介護が必要な時、介護サービスが受けられる保険制度です。

○子育て支援サービス:一般的に保育所のことですが、ほかにも学童保育等があります。 また、児童手当として、小学校卒業前まで手当を受けることができ、特に3歳未満で は月額1万円の給付が受けられます。

○生活保護制度:これは憲法25条に根拠を持つ、セーフティネットです。ただし、現 在はこの給付を受ける要件は非常に厳しくなっています。

2.女性と年金
○少子高齢社会の進展
 日本人の平均寿命は、男性が79歳、女性が85.8歳となっています。1955年の平均寿命は、男性が63.6歳、女性が67.7歳でした。寿命が短かったため、当時の定年は55歳でしたが引退してから10年前後で亡くなっていたことになります。今は退職後はその倍以上の年数があります。一方、1人の女性が平均して一生の間に何人の子供を産むかを表す、合計特殊出生率は、現在1.32です。人口の維持には出生率2.18が必要だといわれていますが、はるかに下回っています。
 少子化と高齢化の進展で人口構造が変化し、2007年は、全人口の21.5%が65歳以上となっています。日本は世界で一番の超高齢社会に入っています。長生き自体はいいことですが、制度が対応しきれていないことが問題です。

○家族から社会的な支え合いへ
 象徴的なのは、2000年4月に介護保険制度がスタートしたことです。これまで、高齢者の介護は、妻と娘と嫁がするのが当然とされていましたが、支えきれず、次第に、老親の介護のために男性が仕事をやめざるを得なくなる状況がでてきました。
 そのため、介護を社会的に支えようということで介護保険制度ができたのです。

○年金の第3号問題とは
 年金制度では、自営業者等が第1号被保険者、民間サラリーマン・公務員が第2号被保険者です。2号の妻で専業主婦あるいは年収130万円以下であれば、第3号被保険者となり、保険料を自ら払う必要がないため、女性の間で問題となってきました。
 夫婦でお店を経営している自営業者の場合は、第1号被保険者ですから、夫婦それぞれが保険料を支払わなければなりません。それに対して、サラリーマンの妻が保険料を払わなくていいのは、不公平ではないか、ということです。
 妻の年収が130万円以上になると、第3号被保険者ではなくなり、保険料を支払う必要が出てきます。「これを130万円の壁」と言います。また、パート労働者の場合、1週間の労働時間、あるいは1ヵ月の勤務日数が正規労働者の4分の3以下であれば、第3号被保険者として扱われます。このため、パート労働者は就労を調整するということで、労働意欲を阻害するものとして、批判的に指摘がされています。

○老後の所得保障の重要性
 現役時代の賃金格差は、そのまま年金額に反映されます。若年者(15~34歳)の就業形態と収入の関係をデータで見てみます。たとえば、男性でフリーターの場合、年間収入は143.6万円、女性では122.5万円です。正規労働者の場合は、男性が346.5万円、女性が268.9万円です。このように、同じ年代でも就業形態や性別によって年収に差が生じています。就業形態等ライフコースの違いは、生涯賃金にもっと大きく反映されます。2008年1月に政府が設置した「社会保障国民会議」で出された資料によれば、男性が一生涯正規労働者でいた場合、その生涯賃金は3億1,080万円で、女性では2億6,129万円となっています。一方、厚生年金加入のパートの女性の場合は、5,023万円にすぎません。この生涯賃金は年金にも反映し、男性正規労働者では年金月額が205,158円、女性正規労働者では183,993円、そして、厚生年金加入のパートの女性では88,495円、国民年金で未納なしが66,008円です。
 雇用形態の推移を見ると、2007年には5,523万人の雇用労働者の33.5%、1,732万人がパート、派遣、契約社員等の非正規労働者で、全体の3分の1を越えています。バブル崩壊後の就職氷河期と言われた時代に就職できなかった人たちが非正規労働者となったため、一気に3割を超えてしまいました。
 結婚も出産も出来ない、将来生活の見通しが立たないといった人たちがこれほどいる社会がいい社会なのか。非正規労働者を正規に戻すことが、重要な課題です。

3.女性と税金
○配偶者控除と配偶者特別控除とは
 税制には、配偶者控除と配偶者特別控除があります。妻が夫の被扶養者であれば、夫の税金を計算する時、配偶者控除として38万円が所得控除されます。
 これに加えて配偶者特別控除というものがあります。妻の所得が103万円を超えると夫の配偶者控除が0になります。そして、0になった瞬間から今度は配偶者特別控除が適用になります。配偶者特別控除は、妻の所得が141万円未満までであれば、控除額が段階的に38万~3万円まで逓減されていく制度です。このため、パートであれば、年収が141万円以上を超えたら税金を払わなくてはいけないということで、年金の「130万円の壁」と同様に、就労調整の原因となっている例がたくさんあります。例えば、年末の忙しい時に「これ以上働けません」と休むことから、経営者も非常に困るわけです。
 女性と社会制度の問題としては、象徴的なものは、年金の「第3号問題」と税制の「103万円の壁」、あるいは「141万円の壁」というところにあらわれているといえます。

4.働き方と社会保障・税制
 働き続けるのか、専業主婦となるかなどが本人や家族の選択であるならば、様々な制度もその選択に対して中立であるべきとの意見があります。
 年金における第3号問題の解消や、税制における配偶者特別控除の廃止についても、男女平等を進める上で大きな社会制度の課題として、議論がされていますが、具体的な制度改革に向けた合意形成がなされていないのが現状です。

 今日は、労働法がどういう役割を果たしているのか、そして、女性が今社会の中でおかれている状況はどうなのかということをお話してきました。これで私の話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
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