埼玉大学「連合寄付講座」

2008年度前期「ジェンダー・働き方・労働組合」講義要録

第2回(4/23)

ジェンダーと労働組合
~労働組合は“ジェンダー”をどう捉えているのか~

ゲストスピーカー:片岡 千鶴子 連合男女平等局長

1.はじめに

(1)講義にあたって
 はじめまして、片岡と申します。本日は、「ジェンダーと労働組合」について講義をさせていただきます。労働組合の話を聞くのは初めてという方が多いのではないかと思いますが、大学卒業後、社会に出たあかつきには、ぜひ、労働組合に興味を持っていただきたい。そして、自分の働き甲斐、あるいは自分自身の仕事の質を高めていく上で、労働組合と関わってみようと思っていただければ、今日の講義の成果になるのではないか、そんな期待をこめて、お話をさせていただきます。

(2)労働組合を通して得たもの~自己紹介
 私は、オイル・ショックという社会現象が起きた1973年に、当時の会社名は日本交通公社、現在のJTBに入社しました。私が入社した年は、1500人という採用規模で、厳しい就職状況の今日からみれば、隔世の感があります。ただ、現在も残っている女性の同期は、実は大変少なくて、近いところにいるだけでも、ほんの数人です。女性も多く入りましたが、辞めていく人も多いという状況です。実は私もそのひとりです。JTBを辞めて、連合の仕事に就き、現在に至っています。
 改めて、労働組合に関わる部分の自己紹介をします。入社当時JTBの本社は丸の内にあり、そこで2年弱仕事をしました。配属は人事部で、労働組合の「ろ」の字も実感することはありませんでした。当時、世の中は、ストライキが盛んに行われていました。皆さんのご両親や年配の方々は、労働組合といえば、昔はよくストライキをやっていたという印象があるかもしれません。今はJRですが、国鉄という時代に、鉄道がストライキでストップして会社に行けない時、会社がバスを仕立てて、社員を会社に通わせていました。今では考えられないほど、ストライキが大変多くあった時代でした。
 しかし、私は労働組合とストライキの関係もわからないまま、有楽町支店に転勤しました。有楽町支店は、100人以上の人が働く、当時ではトップクラスの支店で、そこで労働組合に出会いました。組合もさまざまな段階があり、私は、今は連合というナショナルセンターにいますが、もともとのスタートはJTBの分会、つまり職場の労働組合でした。その分会で、組合役員をやってみないかという誘いがあったのです。
 会社に入りますと、会社と雇用契約を結んだとはいえ、一社員ですから、社長と直接自分の労働条件について話すことは、まずありえません。しかし、組合活動となると変わってきます。たとえば、女性のユニホームの改善について、支店長に話ができます。組合役員という立場になることで、支店長に「冷房の関係から、ユニフォームにカーディガンの着用を認めてください」、「わかった」という関係になれるのです。
 また、労働組合は、男女関係なく組合員になれますが、男性の数が圧倒的に多く、どうしても少数派の女性の意見が吸い上げにくくなります。そこで、婦人部あるいは女性部という専門的な組織を作り、職場での悩みを女性という塊の中で吸い上げ、それを労働条件の改善につなげるというやり方をします。その女性部の活動で、「こういう人になりたい」と思う女性役員との出会いがありました。その出会いが、今まで労働組合の役員を続けてきた支えになっていると思います。
 つまり、「出会い」が、私にとって労働組合の魅力のキーワードになっています。今日こうして、私がここに来ていますのも、労働組合の活動を続けてきたおかげであり、みなさんとのこうした出会いは、通常仕事をしているだけでは得られない、大変貴重なものだと実感しています。労働組合の活動を続けてきた背景には、いろいろな人と出会える、自分の力だけでは解決できないことも人の力を借りれば解決につながる。それが労働組合を通じてできる、という魅力や実感があったからこそ、30年近く、労働組合の仕事を続けてこられたのではないかと考えています。

2.ジェンダーとは何か

(1)ジェンダーチェック
 「労働組合はジェンダーをどう捉えているのか」というテーマを与えていただきましたので、その問いかけについて、労働組合における男女平等の参画、というテーマでお話したいと思います。
 「ジェンダー」は、後ほど、定義について紹介しますが、言葉で説明するだけでは少々わかりにくいと思います。男性の同僚の中には、女性に対して非常に偏見を持っている人がいます。「女はやっぱり使えないよなあ」とか、「この仕事を任せたら、責任の重さに耐え兼ねて泣いちゃうだろうなあ」などという男性も結構います。また、職場の中では、男性に限らず、〈女はこういうことをすべきだ〉、〈男はこういうことをすべきだ〉と、性別にこだわって考えている人が結構います。男女ともに「ジェンダー」ということがよくわからないがために、言葉で言っている男女平等と、現実は違っていて、そこにはジェンダーにもとづく偏見があると思える事象が、たくさんあります。
 それで連合は、ホームページに男性に向けたジェンダーチェックを掲載しています。ぜひ連合のホームページにアクセスして、ジェンダーチェックの実物を見てください。企業などからも、連合のこのジェンダーチェック表を使わせてほしいという、問い合わせがきています。
 ジェンダーチェックの具体的な中身を、いくつかご紹介します。皆さんは大学生ですが、場面を会社にいる、と仮定していただき、自分はどう思うか考えてみてください。①仕事には男性向きの仕事、女性向の仕事があると思う、②職場でお茶を出してもらうとしたら、女性に出してもらった方がおいしいと思う、③性的な話、卑猥な話というのはコミュニケーションの手段だから実は女性だって喜んでいると思う、④できれば女性の上司はもちたくないと思う、⑤自分の意見をはっきり言う女性はつい敬遠してしまう、⑥女性は仕事の疲れを癒してくれるような存在であってほしいと思う、⑦女性を容姿などで判断することがある、等です。
 ジェンダーチェックでは、正解を知るというよりも、偏見やそうした意識が与える影響に気付くということが大切です。⑦の外見で判断する、については、採用の面接官が、最終面接まできて、誰を最後に採りましょうかという時にあった事例です。以前、男女雇用機会均等法の審議の場にいた時に、学生の方から、一次、二次、三次面接とがんばってきたのに最後は容姿で決めるなんて、あんまりではないですか、といった訴えが出されました。こうした判断は、「仕方ない」とその結果を受け止めるふしも一方ではありますが、ジェンダー偏見にもとづく女性への差別です。
 ①は、私が入った旅行業でも以前はありました。外に出て大企業のお客様相手に仕事を契約し、海外出張でお客様に同行する添乗の仕事など、いわゆる営業の仕事は、1970年代頃はほとんど男性の仕事でした。ところが現在、女性の営業担当者が結構増えています。私が入社した頃は、1億2億稼ぐ営業の仕事は男の仕事だと言われ、女性は店頭業務にずっと置かれてきたのですが、仕事のニーズから、あるいは女性達の働き続けたいという気持ちの高まりが、そういう仕事のあり方を変えたのだといえます。
 ②について、お茶は女性が淹れたほうがおいしいかどうかは、さまざまです。現在では、ほとんどの会社で、自動的にお茶を出す装置があります。私が会社にいた頃は、本社では、お客様がくると女性が自分の仕事を中断して、お茶を出していました。しかも、お茶を出す仕事は評価されてはいませんでした。これもやはりおかしいということから、先輩達が、組合を通じてコーヒーメーカーの設置を提案し、なくしてきました。③、性的な話題あるいはジョークはNOです。これは皆さん同じだと思います。④、これは逆もありますね。男性の上司の中でも、この人とは二度と一緒に仕事はしたくない、早く変わってくれないか、ただただ我慢する、そういう状況は職場にはよくあります。ただ、これでは問題は解決しないので、労働組合で課題に挙げる場合があります。何が問題なのか、労務管理ができないのか、人事管理ができないのか、評価ができないのか。属人的な問題ではなく、管理職の仕事として問題化することが必要です。
 男性の上司にもあることなのに、女性が敬遠されるのは、女性の上司の数が少ないことが原因だといえます。女性の上司の数を増やしていくことで、この問題も解決されるのだろうと思います。

(2)ジェンダーとは何か
  改めて、ジェンダーとは何かということですが、次の二つの定義を紹介します。

○生物学的な性別を示す「セックス」に対して、「社会的、文化的に形成された性別」と言う概念として国際的に定着している言葉。
○日本で1999年に成立した男女共同参画社会基本法の中の説明として使われているもの。
「社会的性別」(ジェンダー)の視点:人間には生まれついての生物学的性別(セックス/sex)がある。一方、社会通念や慣習の中には、社会によって作り上げられた「男性像」、「女性像」があり、このような男性、女性の別を「社会的性別」(ジェンダー/gender)という。「社会的性別」は、それ自体に良い、悪いの価値を含むものではなく、国際的にも使われている。「社会的性別の視点」とは、「社会的性別」が性差別、性別による固定的役割分担、偏見等につながっている場合もあり、これらが社会的に作られたものであることを意識していこうとするものである。

 これらは、わかりにくいかもしれませんが、ジェンダーとは何かを説明したものです。最初に、ジェンダーチェックをしたのは、〈男とはこう〉〈女とはこう〉という考えは、社会が作った側面もあるので、社会が変わることによって変わるという、ジェンダーとは変化をともなう性別だということを皆さんと共有化しておきたかったからです。
 そして、日本の社会はジェンダーというものを、男性中心社会の中で作ってきたのです。それによって男性から見た女性というものが多く語られ、そうしたことが女性自身の仕事への意欲や働き続けることの意欲をそぐことがあるのです。その一方で男性にも男性が作ったジェンダーがあるために、「男とは家族を養わなければいけないものだから、がむしゃらに働かなければならない。残業も厭わず、転勤も厭わないような働き方をするのが男だ」ということに縛られているのです。
 その結果、現状はどうでしょうか。過労死、過労自殺、メンタルヘルスの問題は、労働組合の重いテーマです。男性中心の社会が作ってきた〈男とはこう〉〈女とはこう〉ということが、男性も女性も生きづらくさせています。それ自体を変えるということ、あるいは変えることができるということがジェンダーなのだということを、ここではまとめたいと思います。

3.労働組合活動における男女平等参画へ向けた取り組み

■働く女性を取り巻く現状と課題
 「労働組合はなぜ男女平等参画に取り組むのか」、という質問には、「働く女性が抱える問題はとても多く、それを変えるために当事者の労働組合への参加をもっと促す、そのために労働組合における男女平等参画に取り組む」と答えたいと思います。その働く女性が抱える問題とは何か、を次に説明したいと思います。

(1)雇用形態の多様化
 雇用形態が多様化しているということについて、これがなぜ問題なのでしょうか。パート、契約社員、派遣社員、正社員として働く、あるいは会社を興して自分で個人事業主になるというように、さまざまな働き方があります。ですが、日本では、雇われて働く人、雇用労働者が圧倒的に多く、メニューとしては様々な働き方がありますが、自分から選んで働きたい働き方かどうかということでいえば、そうはなっていないというのが問題点です。
 雇われて働く女性の割合は、85年の均等法成立時、全体の雇用労働者の35.9%でしたが、今は4割を超えていて、その割合は緩やかに増えています。そのうち、正社員で働く女性の割合は、85年には約7割でした。どこの会社に入っても正社員という雇用形態以外はなかった時代が、ずっと続きましが、現在正社員で働く女性は半分以下です。男性では、正社員が8~9割と圧倒的に多い状況です。
 私も職場で経験がありますが、正社員である私と契約社員である女性が一緒に働くというのは、これはなかなか働きにくいものです。まず、労働条件が違います。一番端的に違うのは賃金です。仮に私が月給35万円もらっているとしたら、契約社員の人は多くもらって20万円です。あるいは、私がボーナスを1年間で4か月分もらうとしたら、契約社員の人は下手をすれば1ヶ月あればいいほうです。しかし仕事はほとんど同じです。
 そういう女性同士が働く職場では、あの人は労働条件が高いからいいよね、とか、同じように働いているのにどうして自分の賃金は低いのか、とか不満や不安がお互いに生まれ、いい仕事が出来ない関係になりがちです。多くの職場は、パートで働く女性、契約社員の女性、派遣の女性、そこに正社員で働く女性が少しだけいる、という構図になっています。正社員で働く女性の悲鳴が職場から聞こえてきます。「これでは働き続けられない」「育児休業制度はあるけれど、契約社員で働く彼女はとれないのに私だけとるわけにはいかない」このような状況が、今職場では起きています。
 パートでは、その7割は女性です。この4月1日に改正パートタイム労働法がスタートしました。その中で、対象となるパート労働者は極めて限定的ではありますが、正社員との差別的取り扱いを禁止する規定が、初めて盛り込まれました。また、パート労働者の正社員への転換を推進したり、労働条件を文書で交付することが事業主に義務づけられました。この法律改正によりパートで働く人の条件が変わってくるという期待があります。最近では、連合が関わってマクドナルドも労働組合を結成しましたが、アルバイトの時給は、大変低いのが実情です。日本では都道府県別にこの金額以下では働かせてはいけないという最低賃金の時給が決まっています。しかし、パートなどでは、法律よりももっと低い時給で働かされている実態があります。
 また、スーパーをはじめとする流通業など、比較的パートタイム労働者が中心という産業がいくつかあります。そこでは、パートの人も勤続年数が長くなっており、勤続10年というパートの方が職場には出てきています。そのため、新入社員の研修指導をパートがするときがあります。そのパートの方が、「私はこの新入社員を教えているのに、私の時給は800円で、この新入社員は1200円なのよね」と、皮肉を込めて言うときがあります。これはやはり納得がいかない、というパートの方の声が多くよせられて、パート労働法が少し変わったという経過があります。
 ここでは、女性を中心に非正社員化が進み、雇用形態の多様化が女性の働き方に与えている状況を説明しました。

(2)労働時間の二極化
 労働時間は、法律で週40時間と決まっています。パートで働く人の労働時間は、週30時間、35時間と比較的短くなっています。全体を見た場合、日本人の労働時間は、二極化しています。週60時間以上働く人が増える一方、35時間以下で働く人も増えており、その中間で働く人が減っている。つまり、非正社員の増加傾向を、労働時間の二極化も証明しています。
 法律で決められた労働時間は週40時間ですが、労働組合が会社と協議し、合意すれば、残業ができます。残業時間を含めた時間が総労働時間です。いわゆる正規労働者では、今1年間の総労働時間は、2000時間を超えています。一方、パートタイム労働者では1176時間です。このように、日本では、労働時間が非常に長い人と非常に短い人と極端になってしまっています。
 諸外国では、こういうことはあまり起きていません。諸外国では労働時間のベース自体がもっと短いのです。それに比べ、日本の長さは異常です。女性が正社員で働き続ける上で、労働時間の長さが壁になっています。また、一旦やめてしまうと、再就職する場合、パート、派遣、あるいは契約社員の口しかないという実情があり、労働時間の現状は、女性の働き方の二極化につながっています。

(3)就業継続への希望と現実のギャップ(少子化問題)
 もう一つご紹介したいのは、働く女性の7割が、妊娠・出産で会社をやめているという事実です。辞めた理由の半分は、自発的に辞めたということになってはいますが、実は今の職場で働き続けたいけれど、子どもを生んで続けるのは厳しそうだと思い、やむを得ず会社を辞めている。あるいは、育児休業制度はあるけれど、多分使えないだろう、また、子どもが病気になって、たびたび会社を休めば迷惑をかけるだろう。このようなさまざまな理由から、働く女性の7割が妊娠・出産を期に会社をやめているのです。
 育児休業制度自体は、今とても充実しています。しかし、制度があっても使えない、使いにくいというのが現状です。現在、日本は少子高齢社会で、女性が生涯に子どもを生む数は、約1.3人です。実は、多くの女性は子どもを2人以上ほしいという希望を持っているのですが、実際には1人にいうのが現状です。
 もう1人子どもがほしいと思っている人が、何を理由に躊躇しているのか。1人目の子どもを生む時躊躇する1番の理由は、子どもを生んだ後、仕事が続けられるかどうか見通しが立たない、ということです。長時間労働もその理由に関連しています。そして、多くの女性が2人目、3人目を躊躇する理由は、女性に偏った家事や育児の負担を考えると、1人目は何とかなったけれど2人目は無理、と考えていることです。
 子どもが生まれた後、育てるのは女性だけではないのですから、この裏側に男性の働き方の問題があります。男性が育児に関わることで、女性の就業率が高くなるという研究・調査結果もあります。このように、子どもを2人以上持ちたいと思いながら、その前段で、女性は妊娠・出産で仕事をやめるか、やめないかという選択を迫られ、また、今の仕事をもう少しやり遂げたいと思えば、子どもを生む時期をずらすというのが、今の日本の状況です。

■なぜ、男女平等参画が必要なのか
 これまで申し上げた課題を解決するためには、男女が共に責任を担い、共に利益を享受し、一人ひとりがやりがいのある仕事をし、安心して続けられる働き方、つまり仕事と生活の調和がとれた働き方が可能な職場にしていくことが、どうしても必要です。そのためには、労働組合の活動に、女性が当事者としてもっと参画することが必要なのです。
 週60時間以上働く男性は、30歳代~40歳代に集中しています。そして、その人たちが一番子育てにも関わりたいという希望も持っている人たちです。残業が当たり前となっている結果として、家事もできない、育児も参加できない、あるいは地域の活動にもたずさわれない男性が多く、そういう男性正社員の働き方を見直す、牽引役としての女性役員をふやすためにも、男女平等参画が必要です。
 また、労働組合の活動を活発にし、あるいは組合員を増やすためにも、労働組合における男女平等参画は必要です。今、労働組合の組織率は2割をきっています。連合に加盟する組合員は約12%です。圧倒的な人々が労働組合のないところで働かざるを得ない、あるいは労働組合がある職場で組合員でない立場におかれています。たとえばパートタイムで働く人、契約社員で働く人たちです。
 これについて会社はこう言います。「正社員の労働条件を維持するために、パートタイムや契約社員の方に、コストパフォーマンスの役割を担っていただいて、その人達が生み出す収益を正社員の労働条件に当てるからいいですよね」と言われれば、正社員の労働組合は、自分達の労働条件がよくなるならいいという考えから、パートや契約で働く人のことを、今まで見て見ぬふりをしてきたのです。
 しかし、もはやそういってはいられません。何といっても連合は、12%しか組織していません。連合には大きな組合がたくさん加盟していますが、その職場に組合員でなく働いている人、労働条件が十分整っていない人たちがいる、その人たちに目線を合わせる運動をすすめなければいけません。
 今連合は、組織拡大に取り組んでいますが、その対象は大方が女性なのです。であるならば、女性が女性を誘って組合に入り、パートの間でいろいろ不満となっている問題を、組合と一緒に掛け合うことが必要です。そして、できるなら一緒に組合の役員になって、パートで働く人については、パートの組合役員が、会社に直接ものを言うことが大変重要なのです。

■労働組合活動における女性参画は遅れている!
 連合自身の男女平等参画はどうなっているのか、ご紹介します。残念ながら、連合の男女平等参画は、大変お粗末です。さきほど、1999年に男女共同参画社会基本法が制定されたと、ご紹介しました。この法律の目的は、もっとさまざまな分野に女性の参画をすすめようということです。国はそのために2020年までに国会議員、法律家、企業家、あるいは農業に携わる人たちなど、さまざまな分野で、意思決定に関わる女性を30%まで増やそうと目標を持っています。
 連合は、それがまだ達成できておりません。現在、連合の場合は、連合に加盟する産業別組織、たとえば自動車総連、UIゼンセン同盟、航空連合、公務員の組合なら自治労、学校の先生の組合なら日教組など、こうした産業別組織が50強集まっています。この中で、女性組合員比率にふさわしい、女性組合役員の選出を目指そうというのが共通の目標ですが、実は大変遅れています。女性組合員の割合は約3割を占めるのに、産業別組織の女性の役員比率は約7%という状況です。
 連合本部は、連合トップの高木会長から始まって中央執行委員までの役員総数の中で、女性が占める割合は25%です。なんとか30%に近づいていますが、25%を達成できているのは、ポジティブ・アクションという積極的な改善策がとられているためです。数が達成すればいいというだけの話ではありませんが、産業別組織や企業単位の労働組合などは、連合全体の目標値に対しては、現状はまだまだ目標に程遠いという状況です。

4.男女平等参画に向けた課題は何か

 最後に、連合の男女平等参画に向けた課題をお話しします。

 ①差別の解消に向けた実効性のある法整備をすすめること。
 なんといっても職場に差別があってはいけません。差別を解消する手立てとなる労働組合に入る以前に、職場に差別があるために仕事がなかなか続けられず、諦めてしまう女性が多くいます。あるいは労働組合のないところが多い中では、職場における差別をなくすための実効性のある法律の整備が必要です。つまり、均等法はまだ十分ではないのです。均等法は、募集から退職までの雇用ステージごとに男女の差別的な取り扱いをしてはならないという法律ですが、まだまだ男女が職場で平等に働くには不十分だということが、課題です。

 ②多様な雇用形態間の公正処遇・均等待遇を確立すること。
 どんな働き方でも、その人が納得の行く処遇を受けられるために必要なことがあります。均等待遇原則といいますが、日本にはまだそのルールが確立されていません。多様な雇用形態間の公正な処遇、均等待遇原則を確立することが必要です。パートの仕事で、自分の成果が正しく評価され、納得のいく評価が得られるなら、ずっとパートで働くことを選びたいと言う人がいます。あるいは、いろんな会社で働けるから派遣社員で働きたいという方もいるかもしれません。でも、今の派遣労働者は大変悲惨な状況におかれています。このため、派遣法を改正しようという動きがあります。さらに、契約社員で働く人も、その労働条件は働き方に応じた処遇ということにしていかないと、日本の場合、今後労働力は増えても、労働の質はどんどん落ちていくという問題を抱えています。働く人が意欲を示せなかったら、労働の質は高まりません。いい製品は生まれません。いいサービスも提供できません。非正規社員も正規社員の人もいい仕事をする上で、どんな働き方にも共通の均等待遇ルールの確立が大切です。

 ③社会における制度や慣行を性に中立なものとすること。
 これは、連合だからこそやらなければいけない課題です。ジェンダーの視点から、税制や社会保障制度がどうなっているのかについて、簡単に説明しますと、今の日本の税の仕組みや、社会保障、たとえば年金や健康保険の仕組みは、男性が片働きで働くというモデルで組み立てられています。つまり世帯を一つの単位として、働かない妻と働く男性というモデルでできあがっています。でも、今は共働きが片働きより増えていますので、お互いに一人前の労働者として社会保険料を払い、年金を受給するというふうにしくみを変えなければいけないわけです。一人ひとりが安心して医療を受けられ、年金も受け取れるというためには、税金や社会保障制度を、個人を単位とする制度にしていくことが課題になっています。

 ④ポジティブ・アクションを積極的に進めること。
 ポジティブ・アクションとは「積極的改善措置」です。たとえば、私が勤めていたJTBでは、女性の管理職は課長までは比較的多いのですが、部長になっている女性の比率は大変少ないです。男性100に対して、2とか3です。もっと女性に活躍してもらいたいし、潜在能力をもっている役職予備軍は、たくさんいるわけです。この100:2という状況を改善し、これらの人たちから役職者を登用したいと考えたら、このポジティブ・アクションが有効です。
 例えば、女性の部長をふやすため、女性の課長を対象に研修を3年間やります。その3年間で部長にチャレンジできる人が30%程度になったら、その研修は目的を終えます。そうやって、部長にチャレンジできる人を増やしていきます。そのように、今まで少し遅れていた分を取り戻すために、ポジティブ・アクションという積極的な措置を女性を対象にやります。その措置は、男性に対する差別と看做さないというのが国際条約のルールとなっています。
 連合本部では、女性の役員を増やすために、このポジティブ・アクションを使っています。労働組合で、積極的にポジティブ・アクションを採用するところはまだ少ないのですが、男女平等参画の推進においては、労働組合がこのポジティブ・アクションを使うことが、重要だと思います。

 ⑤リーダーが率先して労働組合の意思決定の場に女性の参画を促進すること。
 いくら誘っても、女性は組合の役員をやりたがらないと言う男性がいます。そういう女性に対して、主体性を引き出すために、連合では、エンパワーメントという潜在的な力を引き出すための研修を行っています。一方、男性役員が持っている女性に対する女性観が、女性役員を増やす上で壁になることがあります。女性に組合役員をやってほしいという時には、男性のリーダーには、自分の女性観で判断せず、あなただったらできる、その可能性がある、こういう仕事をしてほしいというアプローチをしてもらいたいと考えています。連合では、男性役員を対象にジェンダーに敏感になるための、男女平等講座もやっています。

5.男女平等参画社会の実現をめざして

■労働組合だからこそできることがある
 最後に、ある先輩から受け取ったメッセージを、皆さんにご紹介をします。 「労働組合における男女平等参画の取り組みは、女性のためだけの取り組みではありません。労働組合への女性の参画は、労働組合の公平、公正、健全性に必要な条件です。だから、女性の皆さん、労働組合の役員をぜひ受けてください。そういう女性たちを応援します。」 労働組合における女性役員の存在は、労働組合が社会正義を貫くのに欠かせない存在です。ですから、女性の皆さん、もちろん男性の皆さんもですが、労働組合の役員をやってみないかという声をかけられたら、ぜひ挑戦してください。公平、公正、社会正義が今の時代ほど問われている時はありません。労働組合がチェック機能をもっと発揮していたら、こんな不祥事は起こらなかっただろうということが、今社会ではたくさん起こっています。女性がもっと多く意志決定の場にいれば、おかしいと思うことを率直に投げかけることができます。そして、それをそうだと受け止める男性が増える、といった男女平等参画による労働組合の活動が、今こそ求められています。
 労働組合は、ジェンダーに関わる課題では、まだまだ遅れているのが現状です。しかし、このテーマを含め労働組合だからこそできることがある、ということを最後に申し上げ、講義を締めくくりたいと思います。
 ご清聴、ありがとうございました。

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