一橋大学「連合寄付講座」

2017年度“現代労働組合論”講義録

第5回(5/15)

「中小企業における取り組み―魅力ある職場づくりと経営危機への対応」

津田智紀(JAM東京千葉政治担当)、南昭司(JAM奈良機械製作所労働組合執行委員長)

1.津田智紀JAM東京千葉政治担当

 皆さんこんにちは。ただいまご紹介いただきました、JAM東京千葉の津田と申します。私はいま、JAM東京千葉で書記局員として活動をしていますが、その前はゲームメーカーのSEGAで働いていました。皆さんの世代ですと、もしかしたらスマホの中のゲームしか知らない人も多いかも知れませんが、SEGAも昔は、任天堂さんやソニーさんと対抗して、家庭用ゲーム機も作っていました。私はその中で、ゲームセンターの運営をしている部署にいました。そして、そこの労働組合の委員長を務め、その後はJAMの組織内議員として東京都大田区の区議会議員を1期務めさせていただきました。
 今日は、「中小企業における取り組み―魅力ある職場づくりと経営危機への対応」というテーマで、お話をさせていただきます。半分ぐらいは労働組合の基礎知識に係わるお話をし、その後、労働組合や企業の生の声をお伝えしたいと思います。

中小企業とは

 まず、中小企業についてです。中小企業というものは、日本では、中小企業基本法という法律で、製造業、建設業、卸売、サービス、小売りなどの業種の区分ごとに、資本金や、常時使用する従業員の数などで決められています。

 次に、日本の中小企業の現状です。日本の労働者の7割が、中小企業で働いています。具体的には、中小企業で3300万人以上の方が働いています。下の図の右上にある事業者数を見ていただくとわかりますが、日本の企業の99%が、実は中小企業です。TVやインターネットを見ていても、大企業の宣伝が多いですよね。中小企業の現状というものが、メディアなどではなかなか出てこないのですが、日本の経済の主体として、付加価値やイノベーションの多くの部分を中小企業が担っていることが分かると思います。

 ちなみに、世界の中で100年以上続いている会社が4万社あるそうです。その内、日本の企業は、どれくらいあると思いますか。例えば、建設系の会社などが大変多いようですが、4万社のうち日本の企業が2万7千社もあるそうです。さらに、200年以上続いている会社は世界で5000社あると言われています。そのうち日本の会社が3000社。このように数字で見ても、日本の経済や、企業の存続というものが、中小企業が続くことで支えられてきたと言っても過言ではないということです。
 次に中小企業のメリットです。中小企業は大企業に比べて、人数が少なかったり、お金が足りなかったり、資本規模や経営基盤が、やはり弱いです。取引条件では、大企業から色々なことを注文されます。例えば、納期や支払いの期限など大企業から厳しい条件を突きつけられるということがあります。このように中小企業は厳しい立場におかれているため、国や地方自治体でも、税制などで中小企業を少し優遇しなければならないという考えがあります。したがって、税制の優遇や、公的な補助金というものの中には、中小企業であることが条件であるものもあります。
 逆に中小企業としてのデメリットと思われるものもあります。時間外労働を月60時間以上した場合の割増賃金率の適用除外、メンタルヘルスチェック実施の適用除外などです。少し難しい言葉ですが、みなさんもアルバイトをしている中で、1日8時間以上働くと残業になることがあると思います。残業になると、労働基準法では25%の割増賃金を払わなくてはいけないんですね。かつ、時間外労働が月間60時間を超えると、超えた分の割増率を50%にしなければならないという法律があるのですが、中小企業にはこれが今、適用されていません。本来であれば、企業規模に関係なく、長い時間働いたら働く人は割増賃金を貰うべきところです。しかし、中小企業にはなぜ適用されていないかというと、経営者の負担が大きいという理由からです。
 もう一つ、メンタルヘルスチェック。今、仕事をする中で心の病を発症してしまう人が残念ながら多くいます。そこで、1年に1回、ストレスのセルフチェックをして、それを専門家に判定してもらうしくみがあるのですが、これも今、従業員50人以上の企業でしか義務付けられていない。皆さんがもし中小企業に入った場合、もちろん任意に企業がこれは必要だからやると言ったら受けられるのですが、企業がそれをやらない、中小企業だからやらなくていいと言うのであれば、受けることができないことになっています。
 その他にも、障がいをもっている方の雇用にも違いがあります。100人超の企業の場合、法律で定められた割合以上の障がい者を雇用していない場合、国に納付金を払わなければいけないという制度があります。これは中小企業基本法で定義される中小企業以外の企業が該当する場合もありますが、これも100人以下であれば、その雇用率を満たしていなくても、払わなくてもいい。中小企業は大企業と比べて、このように色々と制度的な面で違いがあります。
 労働組合の組織率の話に移りたいと思います。今、日本では、約17%の方が労働組合に加盟しているということですが、実際には、やはり大企業の方が多いというのが現状です。大企業ですと半数近くの方が組合に入っている。従業員数100人から1000人の中堅規模の企業で13%、100人未満の中小企業では1%ほどであると言われています。組合に入っていない場合にどういうことになるかというと、不払い残業、働かせてもお金を払わない、もしくは有給休暇が権利として付与されるけれど取得できない、こういったことが増えると言われています。労組がある企業でのこういった違反は24.3%くらい、労組がないところでは35%ほどといわれています。労働組合の役割として、当然賃上げですとか、労働条件の向上というのがあるのですが、日本の経済を中小企業が支えているということを考えると、いかに中小企業で働く人の労働条件をよくしていけるかということが、これからの日本経済の課題ではないかと言われています。

労働組合の意義・役割について

 労働組合の意義や役割について、以前の授業でもお話があったと思います。働く者、皆さん一人ひとりが会社の待遇だとかいろんなことに意見をしようと思っても、やはり、なかなか1人では言いづらいと思います。
 私がSEGAにいた頃は、従業員が約2400人で、組合員が900人くらいいました。そこの委員長として、当時いろいろ取り組みましたが、やはり労働組合は組合員の数が重要になります。例えば、家族手当という制度の変更のときも、後ほど説明しますが、オープン・ショップの組合でしたので、使用者側から、そうは言っても、君の組合は従業員全員の組合じゃないじゃないか、従業員の一部じゃないか、全員の意見じゃない、と言われると若干弱いところもあります。
 本来であれば、企業と労働者・労働組合は対等に労働条件を交渉できるのですが、やはり現実的には対等であるとは言えないと、残念ながら私は考えています。とりわけ、中小企業は、風通しがいい、人数が少ないので意見が伝わりやすいというところはあるんですが、それでも対等に交渉するのはなかなか現実的には難しいと思っています。
 それは、いろんな要因があると思っています。日本の労働組合の場合は、入社後の説明会や個別に組合員を勧誘します。こういうことを会社と交渉して、組合員の生活をよくするから組合に入ってほしい、と勧誘するのですが、訳の分からないうちに組合に入っていて、組合費を払ってサービスを受ければいいやという考えの人もいらっしゃるんですね。海外では、どちらかと言うと、自分たちの意思で組合に入らせる。そうすることで参画意識を高める、ということです。特にドイツなどは職工単位の労働組合が大変強くて、労働協約でいろいろと労働条件を決めるということでございます。
 これは私の体験談ですが、アメリカの労働組合の代表の方が来たことがあります。JAMの工場を見学した後で、経営者の方も一緒に懇親会に参加しました。アメリカの方はびっくりされました。なぜかというと、アメリカでは、やはり経営者層と労働者層というのは、明確に分かれている。ヒエラルキーがしっかりある。アメリカの労働者の感覚では、経営者の方と仲良くお酒を飲むというのはちょっと信じられないというお話がありました。
 一方、日本の企業の中では、労働組合の委員長や書記長を経験した人が会社の管理職、経営者になるというケースも沢山あります。なぜかといえば、日本の労働組合では、人をまとめる力が鍛えられると言われています。そういう意味では労働組合の活動を通じて、いろんな人脈ができるという特徴があります。

労使関係の大切さ

 この授業を通して、労働組合が会社とどういうふうに関わっているのかを聞かれていると思うのですが、ここに有名な言葉を2つあげました。

 参画意識がなければ労働組合としてはダメだみたいな話もさせていただいたのですが、会社の方も、やはり働かない人の意見や要望は聞きたくないわけです。やっぱり会社のために真面目に働くから、あなたたちの待遇もよくしなければならないという、お互いのいい関係の連続でなければ労使関係はないというなかでは、やはり経営者の皆さんにも労働組合に対して聞く耳を持ってもらうというのはとても大切だと思います。
 ヤマト運輸の元社長である小倉昌男さんは、「管理職は絶対といっていいほど悪い情報をトップに上げてこない」と言っています。私も労使交渉の中で、会社の業績を上げるために、この業務はこうした方がいいんじゃないか、という提案を労働組合として何回もしたことがあります。給料を上げろとか、ボーナスを上げてくれ、というだけじゃなくて、会社の生産性がよくなるために、この業務はこう改善した方がいいんじゃないかとか。例えば、私がやっていたゲームセンターの仕事で、従業員が怪我をしてしまう可能性がある作業を指摘するのですが、これを直接トップの方に1人で言うのは難しいです。こうした方がいいんじゃないかと提案しても、それを改善の方法ではなく、自分のやり方に文句を付けられたって捉えられがちなんです。組織の中で自分の意見を通していくというのは大変難しい。けれども、これを労働組合であれば、いやみんなが言っているんだ、自分だけじゃなくてみんなで話し合って出した意見なんだ、とそれを補強して出せるんです。
 もう一つ、会社の規模によりますが、トップは、誰がどういう業務に精通しているかを本当に分かってないです。もしくは、運用でルールが捻じ曲げられることもあります。
 2つ、例で話をしたいと思います。昔、SEGAでは、転勤するときに引越しを社員が手伝っていました。社員が会社のトラックを使って、寮に行って、荷物を積んで、仲間の社員が荷物を運ぶ。そのときに問題になったのは、女性の社員も含めて、プライベートをなんで同僚に見せなきゃいけないんだっていうことと、費用対効果。費用対効果というのは、引っ越し業者に依頼していないので、経費として引越し代がかかってないように見えるけれど、その分、社員が通常業務に従事できない時間が発生しているので、実は社員を使うより引越し業者のほうが安いのではないか、という問題です。これは私の引越しのときですが、雨が降ってテレビが壊れちゃったんですね。テレビが壊れたのは誰のせいなのってなったときに、もしこれが引越し業者だったら引越し業者に請求できると思うのですが、会社ではそんなルールがなかったんです。これも組合として会社に話をして、そういうことはやめてもらいました。
 もう一つは、LGBT。別の会社の話ですが、ある社員が、私は実はLGBTですと打ち明けたんですね。そのときに役員会議で、その人の扱い、例えば、ロッカー、更衣室、トイレなどをどう対応するか議論したのですが、役員会議では何の意見も出なかったそうです。不用意な発言をして角が立ったりするのが怖かったのかもしれません。なかなか難しい微妙な問題ですので、その問題を組合にも相談したんですね。組合はその社員のことをよく知っていて、組合が、こうしたらいいんじゃないかと案を出したら、会社はその案をそのまま採用した。
 先程のゲームセンターの危険作業の話もそうですが、会社の悪い点を会社側の人間が自ら明らかにするのは、なかなか難しいというなかで、労働組合の活動は会社の改善にも繋がっています。

産業別労働組合・中小企業で働く者の代表として

 私たちの所属するJAMは、機械金属系の労働組合が集まる産業別労働組合です。皆さんのご存知そうな会社名をあげると、クボタ、KOMATSU、ダイキン、SEIKO、CITIZENなどがあります。
 JAMには全部で約2000組合が加盟しています。連合全体で組合員は682万人、JAMは35万人です。JAMは、主に機械金属のメーカーの中小企業で構成されています。100人以下の組合が6割です。そして、多くの組合が同じような問題を抱えています。経営が景気に左右されやすかったりだとか、仕事量が増えたり減ったりだとか。組合員の待遇でも、海外赴任の際に、大企業であれば本当に恵まれているんですけど、ぎりぎりの経費でやっている中小企業ですと、現地に行ってみたら全然話が違うということもあるんです。急に赴任期間が長くなったとか、実際に行ってみたら相部屋に住まないといけないとか。JAMに加盟していると、こうした課題について、他の会社はこうですよっていうことを、組合同士で正式に聞くことができる。こういった情報交換の場という役割も、JAMという産業別労働組合が果たしています。
 最後に、今日はテーマである「魅力ある職場作りと経営危機への対応」について話したいと思います。先ほども、中小企業は取引条件などが厳しいという話をしました。突然取引が中止になったり、納期を早めることを要求されたりします。「下請けいじめ」という言葉を聞いたことがあると思いますが、やはり中小企業は大企業から仕事を受注している中では、そういったことがあるのも事実です。そのような問題に対してJAMでは、JAMに加盟する大企業に対して、下請けいじめをしないで、価格の安定を図ってくださいという申し入れも行っています。
 もう一つは、日本のものづくりが衰退してきているなかで、行政と協力して、ものづくりの技術を伝承していこうという事業も行っています。各企業のOBの方で、例えば、旋盤の技術を持っている方を、地域の技術学校・工業学校に派遣して、後継者育成などをしている。こういったことも、労働組合として取り組んでいます。
 他にも、最低賃金という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは都道府県ごとに決められています。その額を決める審議会に労働者代表としてJAMの役職員が参加しており、JAMに加盟する組織や地域の代表としての立場で、この地域の最低賃金をこうしてくださいという意見を述べています。
 次に経営危機について。経営危機というのは、大きく考えて2つぐらいあります。一つは、会社の業績が悪化してしまって、リストラをしなければならないという経営危機。これは、私も組合の委員長だった頃、2年連続でリストラをせざる得ない状況がありました。昔、「ムシキング」というゲームが流行ったのを知っていますか。その時に、SEGAは売り上げがバーンと上がりました。そして、ちょっと調子にのって、「恐竜キング」とか似たようなゲームを出したんですけど、全然売れなくて、売り上げが下がっちゃったんですね。そこで事業を縮小しなければならなくなり、リストラもせざるを得なくなりました。そのときに、退職条件が問題になります。次の就職先を紹介してもらえるかどうか、退職金を割増でもらえるかどうか、といったことも労働組合として交渉しました。前向きな交渉ではありませんが、それも従業員、組合員と会社の関係や、会社の運営そのものを円滑にするのための活動の一つだと思っています。
 もう一つの経営危機。最近、JAMに加盟する企業の中で頻繁に起きているのが、ヘッジファンドなどによる株の敵対的な買収です。企業の株を買収し、そこで働く人の労働条件を下げて、そのことによって利益を出すという手法が出てきています。株を買って経営権を持てば、従業員の労働条件の変更も、経営を盾にして発言することができます。そのため、そういった企業は、労働条件の引き下げによって企業が利益を上げて、株価が上がったときにその株を売るという、買収グループによる経営危機もあります。
 このようなことに対して、JAMでは、同じような危機にある企業の組合が集まって対抗策を練ったりします。具体的には、GCSホールディングスという企業が、株を買収して、従業員の労働条件を下げたり、新卒採用者を解雇したりしています。皆さんも、賃金制度もなく、労働組合が交渉などもしないと、賃金が上がらないという話を聞いたかもしれません。そのときに、毎年ちょっとずつ積み上げてきた給料が、例えば、2割も下げられてしまう。月給30万円の人が、次の月から25万円、下手したら20万円になってしまうというようなことが現実で起きている。そういうことをさせないように、企業別組合の上部団体として法的な観点からも援助を行っています。

おわりに

 皆さんが企業に就職するときに、労働組合があるかないかということは、こういった授業を受けられているので関心があるところだと思いますが、連合のホームページにどの企業に組合があるかが検索可能なので、参考にしていただければと思います。ちなみに、私が就職活動をしたときは、そうしたものも、インターネット自体もほとんどなかったので、会社四季報とかOB訪問とかをして聞いたのですが、なかなか今はいい時代になったなと思います。
 そして、これから働くということに意識を向けるのであれば、労働組合の活動にも、できれば参画をしていただきたい。そうすることで、当事者意識も高まると思います。先ほど申し上げましたが、会社に対して、給料を上げろだとか、一時金を上げろだとか、そういう一方的なことを言うのではなくて、会社をよくしていくという観点で言いにくいことや、前向きに経営的な指摘を行うのも労働組合の役割です。最後に申しました経営危機に関しても、なかなか会社の経営者層も買収された場合はものが言えなくなってしまう中では、労働組合がしっかりと会社に対して意見を言うことが大変に重要だと思います。是非この講座を通して、皆さんがこれから社会に出ても、労働組合に興味を持っていただきたい、と最後にお願いさせていただきまして、私の講義とさせていただきます。ありがとうございました。

2.南昭司JAM奈良機械製作所労働組合執行委員長

 改めまして皆さんこんにちは。皆さんは、2年ほど前に、日曜日の夜に放映されていた「下町ロケット」というドラマを知っていますか。ご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、このドラマが始まった時に、あれはウチの会社じゃないか、と思うぐらい、似ている部分が多くありました。大田区の社員数200人に満たない中小企業であること。社長が2代目の社長ということ。さらには、技術開発力で勝負している会社であるという点も、このドラマと似ているな、と私は勝手に思い込みました。ドラマでは、ロケットのバルブエンジンという部品を作る会社がモデルになっていましたが、奈良機械製作所は、粉を処理する『機械』を作って、販売することを生業にしている会社です。他にも、中小企業ならではの会社としての団結力であったり、大手企業に屈しない、おもねることのない考え方であったり、技術力へのプライドなど、そういった多くの点で、ドラマの会社と奈良機械の共通点が見られました。
 今日は奈良機械という会社を通じて、中小企業における労働組合の取り組みについてお話をさせていただきます。簡単ですが、改めて私の自己紹介をさせていただきます。私は1999年に奈良機械製作所に入社しました。入社以来、一貫して、営業職をしています。日本全国に取引先があり、また韓国や中国など海外の取引先も多いので、世界の技術者と対等に話が出来る機会も多く、とても忙しいのですが楽しく充実した仕事をしています。
 労働組合の活動としては、2009年に執行部に入りました。2009年に調査部長、2010年から3年間書記長を経験しました。委員長になって今は2年目となります。労働組合の委員長としてこの場でお話させていただいていますが、機械メーカーの営業が本職になりますので、営業の仕事が終わったあとや、昼休みの時間を使って組合の仕事を行っています。
 今日は、中小企業である奈良機械製作所の労働組合がどんな活動をしているのかということを通じて、中小企業の労働組合の実態を皆さんに紹介し、皆さんの視野を広げるためのお役に立てればと思います。具体的には、「中小企業とは・奈良機械製作所とは」、「奈良機械製作所労働組合とは」、「組合の抱える問題・課題」、「労使交渉」、「労働組合の今後」の5つのテーマで話をさせて頂きます。

中小企業とは、奈良機械製作所労働組合とは

 まず、中小企業の定義を改めて確認すると、製造業では『資本金3億円以下』または『従業員数が300名以下』と中小企業基本法という法律で定義されています。大企業というのは、法律で定められているわけではなくて、中小企業基本法に該当しない企業を大企業とみなすのが一般的だということです。先ほど津田さんのお話にもありましたが、日本の中小企業の数は約381万社。全部の会社の数が日本で382万社ですので、その内の99.7%が中小企業ということになります。さらには、従業員の数でいうと全体の2/3以上、4700万人のうち約3346万人、71%が中小企業の従業員となります。
 奈良機械製作所は、1924年(大正13年)に創業しました。今年で93周年をむかえる非常に歴史の長い会社です。先ほども津田さんのお話にありましたが、会社は何年ぐらい続くのか。会社の平均寿命を私も調べました。会社の平均寿命は大体30年のようです。10年以上続く会社は全体の10%にも満たないという事です。多くの会社は、設立から10年以内に、ヒトの問題や資金の問題などが原因で倒産してしまいます。そのような中で、日本は10年以上続いている会社が一番多い国です。アメリカでもドイツでもイギリスでもありません。一橋大学も非常に長い歴史を持っていると伺っていますが、日本人は、伝統とか文化とかそういったものを大事にしてきた、ということがありますので、これからも伝統を大切にするということが、日本人にとってとても大事なことだと、最近改めて私は感じています。
 奈良機械製作所という会社名ですが、奈良県には何もありません。「奈良」というのは社長の名前です。現社長の父親である奈良自由造さんという方が創業しました。会社は東京都大田区の城南島というところにあります。
 会社の事業所としては、大田区の本社以外にも、大阪に事業所があり、北海道の千歳に研究所があります。さらに、中小企業ではありますが、韓国に販売会社があり、ドイツ、タイにも事業所がありまして、海外の売り上げ比率が全体の半分近くを占めてきているという状況です。外国人も多く採用しており、今、会社には15名の外国人の方が働いています。
 また、資本金は4千万円で、従業員数は165名となっております。先ほどの中小企業の定義にがっちりと該当する会社ということになります。年間の売上は、約40億円前後です。
 事業内容は、粉粒体処理装置の製造・販売を行っています。粉粒体処理装置について、少し説明します。奈良機械製作所は、粉砕機というものを日本で初めて作りました。これが会社の始まりとなっています。粉砕機というのは、要はハンマーでガツンと叩くということを機械で行うための装置です。どんなものに使われるかと言いますと、例えば、畑に蒔く肥料や農薬を粉砕機で処理をして粉にする。あるいは、スパイスのような香辛料や、ガムなどの人工甘味料も粉砕機で処理します。他にも、お米を粉にして団子にする時に、粉にするところで粉砕機を使っています。せんべいやスナック菓子の多くのものも粉砕機を使って粉にしてから作られています。このように、色々なところで粉砕機を使っています。
 それから、粉粒体処理装置の中には、乾燥機というのもあります。乾燥機というと、コインランドリーや洗濯機の乾燥機などを思い浮かべるかもしれませんが、それとは違います。粉や粒など、ものを砕く前や後には、湿っていたりすると砕きにくいとか扱いにくいという問題があります。そのため、乾燥機というのは、いろんな工場で非常に多く使われています。あるいは、他にも化粧品業界においても使われてれおり、ファンデーションは見るからに粉ですが、この粉も粉砕機を使って作られるものです。さらには、食品関係の小麦粉、砂糖なども粉砕機・乾燥機というものを使って作られています。それから、医薬品の錠剤や粉薬なども全て我々の粉粒体処理装置を使って作っています。
 紙おむつも、この中に高分子吸水性ポリマーの粉が入っており、このポリマーを作る過程でも乾燥機を使っていて、世界中のポリマーのメーカーで奈良機械の乾燥機が使われています。最近はこのポリマーの乾燥機が、私どもの会社の売上のかなり大きな部分を占めています。今の日本では当たり前のように紙おむつがありますし、最近では高齢者の方が、かなり紙おむつを使うようになってきて、紙おむつがどんどん売れています。また発展途上国でも、紙おむつの市場が広がってきています。
 他にも、パソコンの電子部品の中にも粉を使うものがかなりありますし、トナーの粉も、我々の装置を使って作っています。さらに、食品用ラップフィルムのような石油化学製品や、携帯電話のケースのようなプラスチック、あるいは携帯電話の中の電池、こういったものにも奈良機械の装置を使った粉が使われています。
 他にもいろんなところで使われる装置を作っていまして、世の中のものは全て粉から作られると言っても過言ではないほどいろんな場面で使われているのですが、今日は製品の紹介ではなく、労働組合のお話なので、この辺で製品の紹介は止めておきます。
 皆さん大学生ということで、少し採用に関する資料の募集要項を使って説明したいと思います。この中には、例えば休日という項目があります。奈良機械製作所は週休2日制ですが、夏休みの代わりに『自由休暇』といって土日と5日間の休暇を合わせて9連休とする制度もあります。これは昨年度私が委員長になってから会社と一緒に決めたことです。それまでは夏休みはお盆の時期にまとめてとったり、7月、8月、9月の間で好きな5日間を選んで取得したりとしていました。ですが、営業職の人は「7月に夏休みをとってしまうとお客さんから電話がかかってきて、休んだ気にならない」とか、「いつも誰かが夏休みで不在となっているのでこの2、3ヶ月は仕事が進まない」とか、そういった声が組合員や会社の方からかなり多く出まして、会社と組合で知恵を出し合って、みんなの休みがばらけて、仕事が極力滞らないように制度を改善しました。去年から導入した制度ですが、1年中どこでも好きな時に休みをとっていいので、かなり好評です。先々週はゴールデンウィークでしたが、この時期もカレンダーを会社と一緒に考えて、やはり9連休にしました。これは組合があってこそできることだと思います。
 その他には、産休あるいは育児休暇、時間を短縮して勤務する時短制度などもあります。出産しても働き続けたい人がかなり増えていますので、こういった制度も組合と会社で話し合って決めています。最後に、「労働組合有り」ということも新卒を採用するときの求人票に記載しています。やはりこの表現をすることで、我々中小企業にとっては少しでも採用にプラスになるのではないかと考えて、会社の方でも記載しています。皆さんも就職活動の時に労働組合があるのかというところにも注意をして、就職活動をされるといいのではないかと思います。

奈良機械製作所労働組合とは

 奈良機械製作所で労働組合が結成されたのは1947年(昭和22年)で、今年、70周年を迎えます。ちょうど、今週末の金曜日と土曜日に、山梨県の石和温泉に組合員全員で、結成70周年を記念して、10年に1度の組合員旅行に行きます。実はこの準備で今は大変忙しい毎日を送っています。このようなことをやっているのも労働組合です。
 組合員数は115人が労働組合に加盟しています。先ほど、SEGAさんはオープン・ショップという話がありましたが、我々はユニオン・ショップという形をとっています。ユニオン・ショップというのは、正社員として入社したら必ず全員が労働組合に入らないといけないというものです。それに対して、オープン・ショップというのは、労働組合に入るのも入らないのも自由というものです。こんな違いがあります。
 93年前に会社ができたときには、労働組合はありませんでした。これはどこの労働組合も会社も同じだと思います。ここで奈良機械製作所労働組合の歴史を少し紹介しますが、何せ70年前のことなので、当時組合員だった人は今はいませんので、書物とか記憶とか又聞きなどで調べたことを紹介します。会社が1924年にできて、1933年(昭和8年)に株式会社になりました。その後、昭和22年、終戦から2年後に奈良機械製作所の労働組合は結成された。戦後の混乱期ということで、激しいインフレが起き、そのあとデフレ政策がとられ、経済的にも混乱を極めた時代だったそうです。労働者の生活は非常に厳しく、この時期に労働組合もかなりできたらしいのですが、大変な苦労があったことと思います。その後、昭和23年、1948年に総同盟東京金属という上部団体、今のJAMに加盟しました。

 その後、昭和28年5月、賞与のことで当時の会社の経営者と労働組合が非常に揉めたそうです。この時は、組合がストライキを起こすぞと会社に言いました。ストライキって皆さん聞いたことありますか?ストライキというのは、働く人たちが、自らの要求を実現するために、集団的に仕事を放棄する、要は働かないという行動に出ることです。この時、組合が、会社に要求を認めさせるために、会社に天皇陛下ら皇族が来るというイベントがある日にストライキを行うということを考えたそうです。そうすれば会社も組合の要求を飲むんじゃないかと。会社も困ってしまいました。組合は、当時の上部団体の全金同盟(今のJAM。以下『JAM』と表記します。)の方に相談をしました。するとJAMの方は、皇族が来るという大事な日にストライキをやるべきではないと組合の幹部に助言したそうです。ストライキをやるのであれば、違う日に堂々とやるべきだ、と注意したそうです。そういったアドバイスを聞いて、組合も、会社と交渉を続けたのですが、その後、JAMの方と、社長が会うことになりました。その時、社長はこのストライキはJAMが指導してるんじゃないかと誤解していたそうです。それが、そうではない。JAMは労働組合に対してむしろ、そういうストライキは民主的じゃないと、民主的な労働組合としてはやるべきではないと、もっと正々堂々とやるべきだと伝えていることを聞きました。社長はこれに理解を示し、JAMの方に「賞与をお前が決めてくれ」と白紙委任したそうです。それで、この年の賞与をJAMが決めるのですが、JAMの方も、100%労働組合の要求を認めるように勧告するのではなくて、苦労して斡旋案を作って、社長も何一つ文句を言わずこれを実施したと聞いています。こういったこともあって、それ以来ストライキは一切なく、労使ともに発展してきました。揉めて、互いの主張がぶつかり合い、雨降って地固まるというように色々なことがあったうえで、労使の信頼関係が築かれてきました。大企業以上に中小企業では特にこの「信頼関係」が大事なのではないかと思います。
 こうして培われた信頼関係のお陰もあって、今、組合は会社から組合事務所として部屋を1つ借りて活動しています。今、奈良機械製作所労働組合の執行部には、私を含め8人います。私が委員長を務めていますが、他にも、副委員長、書記長、調査部長、会計、厚生、青年部長、職場委員長といった役職の方々が、みんな仕事をしながら組合活動もしています。このように、会社の仕事をしながら組合活動をする組合の執行部員ことを、「非専従」と言います。昼休みなどにこの組合事務所に集まって会議をするなどして、活動をしています。大企業の労働組合では、「専従」といいまして、会社を休職・退職するなどして、本来の仕事を離れて、組合の仕事だけを行うという方もいます。「専従」の役職員は、会社から給料を貰うのではなく、組合員から徴収した組合費から給料を貰って、組合の活動のみを行います。しかし、我々のような中小企業では、組合員から徴収した組合費で組合役員の給料をまかなえるほど組合員の人数がいません。そのため、昼休み、仕事終わり、あるいは有給休暇などを使って、組合の仕事をしています。実は今日、私は有給休暇をとってこちらに来ています。このような両立を強いられるなかでは、どうしても執行部はいつも同じ人になりがちという傾向があります。

組合の抱える問題・課題

 続いて、労働組合の抱えている課題について少し触れてみたいと思います。一つは、組合員の組合活動への関心の薄れということが挙げられます。それから、執行部の後継者不足、執行部をやりたい人がいないという問題もあります。これが私の感じている労働組合が抱える一番の問題だと思います。

 組合員数115人、社員数165人という規模ですと、我々はよく「少数精鋭」という言葉を使います。「少数精鋭」は奈良機械の経営方針にもなっています。「少数精鋭」とは、少数の優れた社員で事業をやるということではなく、「少数の凡人」が事業でやっていくなかで「優れた人員」になっていくことだと私たちの会社では考えています。労働組合も同じように考えています。

 さらには、この規模なので全員の顔が見える。全員の顔と名前を覚えることができます。全員と話をしたことがあるという状況です。もっと人数が増えて200人以上になってくると、もしかしたら埋もれてしまう人も出てくるのかもしれません。さらには、少ないので全員の意見を聞くことができる、全員が意見を言えるということも、中小企業の労働組合の特徴かなと思います。
 労働組合とはあまり関わりたくないな、という人もいます。労働組合があるから意見は言えるけど、自分ではやりたくないといった人も出てきます。こういった関心の薄い組合員に対して、その関心を高めるためにはどうしたらいいのかを私も考えています。労働組合の言い分だけ通していると、当然会社が続かなくなってきます。逆に、会社の言い分ばかりを聞いていると労働条件が向上しないので、組合員は冷めてしまう。いかに組合員からの意見を出させるか、吸い上げていけるか、そしてバランスをとるかが、中小企業の労働組合の課題であり問題点であり、一方で存在意義でもあるのかなと感じています。
 私が労働組合の委員長をしていて感じている、中小企業の労働組合に必要なことというのは、同じ結果であっても、そのプロセスを組合の執行部だけで決めないことだと思います。みんなの意見を聞くということが大事だということです。この写真は、私どもの会社の食堂でやってる、年に一度の『定期組合大会』の写真です。この『定期組合大会』の他に、『臨時組合大会』として、春闘ですとか、労働規約の改定などの問題が挙がった時に、おおよそ二・三カ月に一度、昼休みや仕事が終わった後に、全組合員が参加して、必ず大会を行います。何かを決める際には、執行部だけでは決めない、必ず『組合大会』で組合員の意見を聞く機会を設けるということが大事だと思います。

 富士山の絵を映しましたけど、富士山を登る方法としては、普通はバスか車で5合目までいって、頂上まで歩いて登っていくという方法があります。あるいはヘリコプターで一気に頂上に行ってしまうようなやり方とか、1合目から歩いて行くという登り方もあります。様々な方法がありますが、全ての組合員が組合活動に参加して、民主的なプロセスで方針や考えをまとめて活動する。この進め方、プロセスが大事であり、この進め方ができるというのが労働組合のある中小企業のメリットだと、改めて感じています。
 労働組合を長く継続させるために、我々の組合では、ここ10年ぐらいの間に、3つの組合規約の改定を行いました。一つは、執行部の手当をアップさせました。私自身、月に1万5千円だった手当を2万円にしてもらいました。これによって、少しでも執行部をする方を増やしたいと考えています。さらには、同じ役職は3年までしか連続で務められないという規定もつくりました。加えて、執行部を通算6年経験した方は、その次の選挙からは、被選挙人名簿から外れる権利を得ることにもしました。このように、後継者育成のため、多くの方に執行部を経験してもらうための規約の改定を行っています。
 ただ、全ての組合員がこういった労働組合の仕事をできるわけではありませんし、選挙で選ばれてもしっかりと活動できないといった方が出てきているのも確かです。6年間執行部を経験すると、翌年以降の選挙で、被選挙人名簿から除外される権利を得るという制度を定めたと説明しましたが、この制度、実は7年前に作りました。できるだけ多くの方に組合活動に参加してもらえるようにと。傍観者ではいられない。半ば強制的に、組合活動に引きずりこむような制度です。組合役員は選挙で選びますが、現状は残念ながら立候補する人はほとんどいません。ただ、選挙の前には、私みたいな委員長だとか、執行部の者が、この人に執行部になってもらいたいという人に声をかけます。そして、選挙の名簿に、「執行部推薦」と書いて、選挙を行うという形にしています。
 この制度のデメリットとして、組合活動に消極的な人が執行部に選ばれてしまうという可能性もあります。あるいは、組合としての能力やスキルが継続されないために、組合自体の力が落ちてしまうといった問題も出てきてます。ただ、私も8月までの任期で執行部、丸6年になります。この制度で、一旦執行部の仕事からは離れようと考えていますが、今後この制度が良からぬ方向に向かうのであれば、そのときには、この制度の見直しを図る議論も出てくるかもしれません。この制度自体も、組合大会で決議したことでありまして、大企業の組合ではなかなかできないことかもしれません。
 このように、労働組合に入ってはいるけれど、いつの間にか関心が薄れ、自分が参画しているという意識が低くなってしまう組合員が増えています。労働組合との関わり方というのは人それぞれだと思いますし、強制できるものでもありません。我々も、週末に70周年の旅行に行きますが、「いまどき社員旅行かよ」などの様々な意見を耳にする事もありました。しかし、こういった機会を通じて、労働組合というものを、もう一回考えるきっかけになればいいなと今は思っています。

労使交渉

 ここからは、中小企業の労使交渉についてお話させていただきます。もしかしたら、皆さんの中には給料は自然に上がっていくものだろうと考えている方もいるかもしれません。初任給は20何万、30歳で30何万、40歳・50歳でいくらと、右肩上がりで上がっていくと。多くの大企業には賃金表というものがあり、制度として給料が年齢や勤続年数などで大体決まっています。奈良機械にも賃金表はあります。ところが、中小企業の中には、賃金表・賃金制度というものがない会社も多くあります。極端に言うと、会社のいいなりになってしまう。「今年は業績悪いから給料は去年と一緒で我慢してよ」と一方的に決められてしまう会社もある。皆さんも小さい頃は親からお小遣いを貰っていたんじゃないかなと思います。そして、小学生、中学生、高校生と年を重ねるごとに欲しいものや必要なものも増えて、金額をもっと増やしてよとお願いしたんじゃないかと。給料もこれと同じことですね。この交渉を春先の2月から3月ぐらいに行っており、春に交渉するので「春闘」と呼んでいます。労働組合はこの交渉をそれぞれの会社ごとにバラバラに行うのではなく、同じ時期にまとまって行っています。そうすることで、経営者側、会社側にプレッシャーをかけていける。「統一要求日」といって、今年は2月21日が統一要求日で、私たちの組合もこの日に要求書を会社側に出しました。会社側からの回答は3月14、15日としていましたが、今年に限ってはなかなか回答が得られなくて、最終的には4月下旬にようやく妥結したという状況です。組合員の要求と、会社の思いの間で、この時期の労働組合というのはいつも大変な思いをして活動をしています。
 春闘以外にも、労働組合は会社と様々な交渉をしています。会社対組合の交渉ですが、実は交渉相手の会社側には元執行部の方もいます。交渉相手に組合の委員長や書記長の経験者がいるという点は、日本企業独特の傾向なのではないかと思いますし、日本の会社は『家族的経営』といわれることもあります。しかしながら、最近はアメリカのように、株主の利益を優先し、株主の利益を最大にするめに、会社が一方的に採用や雇用・労働条件を自由に決めることができるようにすべきだ、といった考え方をする会社も、出てきていると聞きます。ここは労働組合の意味を考えるうえでは、重要だと思います。奈良機械でも、毎月1回、会社と組合が話し合う、「経営協議会」という会議を開いています。これは組合側からは執行部8人全員が参加しまして、会社側からも役員・部長クラスが8名、同じ人数が出席して開かれます。今の会社側の8名の出席者のうち、5人が組合の執行部の経験者です。このうち、会社側のナンバー2の常務は、以前、組合の書記長をしていました。この会議では、毎月会社側から、その年の利益予測について開示を受けまして、加えて、前月の残業時間や、今後の仕事量の見込み、他にも労働協約に関わる様々な案件について会議を行っています。これは、労使は運命共同体という私たちの会社の経営方針があり、会社の発展のために経営者と労働者が一緒に運営をしていくという考え方に基づいたものです。

労働組合の今後

 最後になりますが、私が委員長になった経緯にも触れながら労働組合の今後についてお話させていただきます。先ほど組合役員は選挙で決めると言いましたが、立候補してくれる人はいませんし、私も役員になるときは立候補はしていません。さきほども申し上げましたが、毎年7月に選挙を行うときに、ちょっとやってくれないかとヒソヒソとお願いをして、執行部推薦という形にして、役員を決めることが多いのです。私は、入社から10年ぐらいたった2009年に組合の調査部長になったのですが、当時の委員長から組合執行部の仕事やってくれないかと言っていただいたのがきっかけです。その前にも何度か声をかけていただいたのですが、子どもが小さかったりとか、色々な事情から断り続けてきました。組合の活動をしようと思って会社に入ってきたわけではなくて、「できれば関わりたくないな」という思いも少なからずありました。しかし、引き受けてくれる人も他におらず、私に声をかけてくれた事情も理解できたので、「執行部でちょっと勉強してみるか」「会社と組合の関係を覗いてみようか」と軽いノリで引き受けました。我々中小企業の人数は限られていますし、仕事はとても忙しいです。正直、我々の会社にも、組合の仕事をやりたいという人はほぼいません。でも、誰かがやらなくてはいけない仕事ですし、2009年に調査部長、その後、書記長を3年間やりまして、想定以上に会社のことや、外部団体との関わりもできて、面白さも感じることができました。書記長を3年間やったので、一旦、組合の仕事から離れて、その後、一般の組合員として働いていましたが、その間に仕事の方も結構忙しくなっていて、もう執行部から推薦したいと言われても絶対断ろうと実は思っていました。ですが、2年前の選挙で誰も委員長を引き受ける人がおらず、仕方なくと言いますか、推薦無しの選挙で委員長になってしまって、現在に至っています。委員長だけではなく、書記長もなかなか受けてくれる人がいなくて、8年間執行部から離れていた方が、今、書記長をしています。なかなか次の人が出てこないというのが現状です。
 私はこれまで、委員長2年間、調査部長と書記長も合わせると6年間、組合の仕事に携わらせていただいて、本業の営業よりもずっと大きく広い責任があることを感じ、また、社内外の方と知り合いになれたり視野が広がったりということで、もう少し続けたいなという思いもあります。ただ、組合執行部にも限られたポストしかありませんので、長くやりたいという人をそのまま残しておくと、ポスト不足になりますし、あるいは長期政権になって、活動自体がマンネリ化するといったデメリットも考えられます。どの労働組合も同じ悩みや問題を抱えていると思いますが、労働組合の人事というのは、長くやるべき人を選別して、独裁や停滞を招かないように、的確に人事を交代させていく必要があると思います。
 我々の組合では、毎年、年度ごとにスローガンを決めて活動しています。今年度の奈良機械製作所労働組合は『継承と展開、そして発展へ』というスローガンのもとで、活動をしています。今後の奈良機械製作所の労働組合は、長年にわたって築いてきた、労使の信頼関係を維持して次の執行部へと繋いでいくということがもっとも重要かと思います。
 最後に、こういう場で、大学生の前でこうやって1時間もお話をさせて頂くという機会も、委員長になっていなければなかったことですし、こういった機会をいただけたことに感謝します。中小企業の労働組合というものがどんなものかという実態が少しでも伝われば幸いだなと思います。本日はご清聴ありがとうございました。

以 上

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