一橋大学「連合寄付講座」

2015年度“現代労働組合論”講義録

第10回(6/15)

グローバル時代における労働CSRの取り組み
〜「グローバル枠組み協定」(GFA)締結を事例に~

新妻健治(イオングループ労働組合連合会 会長)

はじめに

 みなさん、こんにちは。私は、1980年、昔は「ジャスコ」、現在は「イオン」と社名を変えましたが、そこに入社し現在に至っています。35年の勤続になります。私の出身大学は岩手大学農学部で、農学を勉強していました。労働組合の専従役員となって26年になります。大学を出て会社に入ったころは、大変厳しい労働条件の中で、自分自身が埋没してしまうような気持ちでいまして、なんとかその狭い世界から広い世界を見ながら自分自身を保っていこうとして、労働組合の活動に入ったという経緯があります。よく私は組合員のみなさんに、「納得して楽しく働きませんか」と声かけをします。自分自身の職業人生の中でも納得して楽しく働くことを実践してまいりましたし、そこを大事にしたいと思っています。その思いと、そこへ向けての活動は、我が国、または我がグループの働く仲間だけではありません。イオンは現在、ASEAN、そして中国に事業展開をしていますので、海外で働く仲間とも連帯、共同ができればと思っています。
 今日は「イオングループ」の海外進出の進展に伴って、労働組合が労働者の権利をどのように守り、国際社会の一員として労使が共にどのようにその責任を果たすのか、ということを話します。1つは日本の経済発展を支えた協調的な労使関係、こういったものをASEANに普及して、その国の経済発展と働く仲間の労働条件や雇用、そして働きがいの創造につなげようと取り組みをしてきました。特に我々が取り組んだ、カンボジアの事例についてご報告したいと思います。二つ目は、「グローバル枠組み協定」の内容と、その取り組みについて説明したいと思います。

1.イオングループ労連の概要

 「ジャスコ」は1969年に設立されました。70年代にかけて、株式交換という手法を使って、地方の有力小売業を合併につぐ合併で企業規模を拡大してきました。1980年にそういった合従連衡した百貨店も含む総合小売13社に13の組合があり、この組合の1万3000人がいわゆる同じ資本傘下にいるのであれば、同じ労働条件で働きたいということを理念に、「ジャスコ労連」(現在の「イオングループ労連」)を結成しました。2008年に、イオンは「純粋持株会社」という体制に移行しました。現在はその体制にどのように対峙して、従業員の雇用や労働条件を守るかということで労連組織を運営しています。上部団体は「UAゼンセン」で、連合傘下の最大規模の組織です。組合員数は152万人で、会長は、一橋大学のみなさんの先輩にあたる逢見さんがされています。イオングループ労連の組合数は41組合、組合員数は21万8000人で、日本でも最大級のグループ労連です。うち、短期短時間雇用のみなさんが16万5000人で、8割を超えるみなさんが短期短時間雇用の方になります。
 スライド6に組織図を掲載しました。イオンが展開している事業は12あります。それを7つに区分して、「イオン(株)」と労使関係を結んで取り組みを進めています。

 私たちの理念は「働きがいを高めることを基軸とした生きがいの実現、グループ経営の健全な成長発展」です。単に経済的な充足に留まらず、精神的な満足、職業人生の満足を得て、生きがいにつなげていくというものです。2006年にビジョンを出しました。その時、「イオン労連」は「社会の問題を解決する」ことをかかげて、ビジョンの中に組み込みました。これは、私たちの組織規模が日本で有数であるということもあり、その規模に適う社会的責任を果たそうということです。加えて、私たち自身が内向化していくと、どうしても組織が停滞してしまいます。社会に広く目を向けることで、組織自身も成長を果たしていこうと考えました。運動目標は「納得して、楽しく、働きたい!」ということで、働く人の思いを表現し、こうした職場や会社であるために、私たちはどのような取り組みをしていけばいいのか、みなさんと共にやりましょうと働きかけをしています。

2.イオン(株)の概要

 イオン(株)の年商は約7兆円で、2016年度はダイエーも傘下に入りますので、約8兆円規模の年商に達します。連結子会社は284社、事業分野は12あります。事業戦略は、「アジアシフト」、私たちの成長を日本国内からアジアに軸足を移して、アジアの成長を取り込んでいこうというものです。加えて、高齢社会に向けての「シニアシフト」、そして肥沃な市場としての「都市シフト」、販売チャネルの拡大として「デジタルシフト」、この4つの戦略を2011年から中期3ヶ年で実行し、現在第2期目に入っています。従業員数は42万人です。イオンの基本理念は「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」というものです。特に平和についてお話ししますと、私たちの創業者は、第二次世界大戦後初めて焼け野原でお店を再建した時に、お客さまが私たちのお店のチラシを持ってきて、「ようやく平和な時代が来ましたね」と言って頂いた経験をもとに、小売業の発展は平和でなければできないということで、平和を理念の一角に据えています。
 イオンにはあと2つ基本的な精神があります。一つは、「大黒柱に車を付けよ」という家訓です。これは、お客さまの変化にどのように対応していくかということを意図しています。小売業は変化対応産業であり、「革新の精神を大事にしよう」というものです。もう1点は「人間尊重」です。これは、創業者が言い続けてきたことです。「人間の思いを抑制してはダメだ。人間の思いを充分に発揮させて事業発展に貢献してもらいなさい」という含意があります。

3.イオンの海外事業展開の現状

 今日の本題になりますが、イオンの海外事業展開の現状はどうなっているのかを説明します。1984年に、マレーシアのマハティール首相(当時)から、現在、私どもの名誉会長をしています岡田卓也が「マレーシアに近代的な小売業をつくってもらえないか」という要請を受けて、1984年に「ジャヤジャスコストアーズ」という会社を設立しました。以降、タイに「サイアムジャスコ」という会社を設立しました。また、1985年には、「ジャスコストアーズ香港」という会社を設立しました。以来、中国、ASEANを中心に事業展開してまいりました。
 ベトナムには2店舗あり、現在、3店舗目に取り組んでいます。カンボジアは昨年の6月に1号店を出店しています。インドネシアは今年5月末に1号店を開店しました。それから本年、ベトナムのスーパーマーケット2社、ホーチミンとハノイですが、資本業務提携をして、以降ベトナム国内でスーパーマーケットの事業展開を図ろうとしています。
 2011年に「アジアNシフト」という戦略を出して以降、2014年にはASEAN本社、北京本社、日本本社(千葉の幕張)という3本社体制で海外展開を果たそうとしています。
 イオンの海外事業の現状ですが、7兆円の総規模に対して、ASEANの事業は2092億円となっており、まだまだ小さい規模です。タイ、マレーシア、ベトナム、カンボジア、インドネシア、フィリピンに展開しています。営業利益は62億円と、まだ過少です。
 中国は1685億円の売上げですが、営業利益はいまだ赤字です。北京以外に、香港、青島、広州、深圳、天津、武漢などに展開しています。さらに、今年、江蘇州の蘇州に20万㎡のショッピングセンター、それから浙江省の杭州に17万㎡のショッピングセンターを開店しておりまして、さらに2店を加えています。
 海外事業は合計で年商3777億円、営業利益で53億円ということで、まだ全事業規模比の5.3%、利益に至っては3.8%ということで、大変小さい規模です。中期的には1兆円の規模を目指して、今、事業展開を進めているところです。

4.イオン労連の対応

 こういった海外への事業展開にイオン労連はどのように対応するのかについて、これから説明したいと思います。
 1点目は、ここにありますように「民主的労働運動の発展をもって、各国の発展及び働く者の経済的社会的地位の向上に貢献したい」ということです。この「民主的労働運動」というのは、2つの要点があり、1つは「労働組合主義」、政党や政治家から独立をして、労働組合が自立した組織としてモノを考え行動していくことです。2点目はその組織の運営においての「組合民主主義」です。民主的な手続きで合意形成をはかり、労使の対話により協調的な関係を築きながら、自らの条件や雇用、そして社会の利益となるような考え方で社会の発展に貢献していく、または私たちの雇用や労働条件を守っていこうというものです。私たちとしては、海外で働く人たちもイオンで働く仲間ですし、また、海外の事業が不調に陥れば、私たちの労働条件や雇用も危なくなりますので、海外の事業の成長発展も支えていこうというのが考え方です。
 2点目は「中期ビジョンと政策」を掲げて取り組んでいます。ビジョンのスローガンに「Solidarity! We are Aeon!」(我々はイオンだ、連帯しよう!)という働きかけを海外の仲間にしています。
 短期、中期においては、アジア、ASEANに働くイオンの仲間と交流を進めていこうと考えています。アジア、ASEANに事業展開するそれぞれのお店や会社において、従業員が主体的に経営に参加をして、自分たちの意思によって環境を改善したり、営業の方向性をお客さまの満足に向けて職場や働き方を改善したりといった、開かれた、または風通しの良い経営風土や体質をつくっていこうと考えています。私たちの上部団体であるUAゼンセンの国際局、それから労働組合の国際組織とも連携を図りながら、取り組みを進めています。
 中期、長期においては、各国さまざまな事情や法律がありますので、そういったものに則り、労働組合を結成して、労使関係を構築しながら、雇用、労働条件の問題に取り組んでいこうと考えています。各国に労働組合が揃えば、長期的には「イオングループ労組世界協議会(仮称)」を結成して、国際的にイオンの仲間と交流を図って、相互の条件、または社会的地位向上のための取り組みに繋げていきたいと思っています。
 3点目は「グローバル枠組み協定」(GFA)を締結して、イオンの企業姿勢をアジア、ASEANの市場に周知するとともに、グローバルレベルで各国の企業の意思統一を図って、GFAに盛り込まれている基本的人権や環境の問題等、グループ全体で実効性を持って取り組んでいこうと考えてきました。
 スライド18は労働組合の国際組織の図です。右側に「ITUC」と書いてあります。日本のナショナルセンター、連合の上部団体の国際組織に、「ITUC」(国際労働組合総連合)という組織があります。これとは別に「GLOBAL UNION FEDERATION:GUF」(国際産業別組合)という産業別の国際組織が、ITUCと連携を取って取り組みを進めています。その1つである「UNI」(世界組織で本部がスイスのニヨンに所在)は分野としては流通、情報、金融、放送、郵便といった分野をカバーしています。この世界組織の傘下に「アジア・太平洋地域組織」、その傘下に「日本加盟組織・連絡協議会」があります。私どもUAゼンセンは、この傘下にあって活動をしています。私たちは、こういった国際組織、特にUNIのアジア・太平洋地域組織、そして日本の連絡協議会と連携を図りながら取り組みを進めていこうと考えています。

(1)イオンカンボジアで取り組んだ事例

 「短期・中期的取り組み」ですが、アジア、ASEANに働くイオンの仲間との交流、従業員の主体的な経営参加の体制構築への貢献ということで、これからは私どもが具体的に「イオンカンボジア」で取り組んだ事例についてご説明したいと思います。
 2013年5月から2014年1月まで、延べ9回に亘ってワークショップを開催してきました。基本的な理念は、「従業員の働きがいを基軸とした生きがいの実現、イオンカンボジアの健全な成長発展」ということで、イオン労連の理念を焼き直したものです。目的は従業員全員が経営に参加できるための基盤づくりをしていこうというものです。2015年6月に新店が開店する予定でしたので、同時に新店の開店も円滑に進めて成功させていこうということで、開店前に採用されたカンボジアのスタッフ約50名を対象にワークショップを行いました。スライド20は前半の4回です。特徴が3つあります。1つはワークショップを開催する前に、必ず「安全衛生ミーティング」という場を設けて、その都度都度、現場の職場環境や労働条件について気づいたこと、または改善をしてほしいことを提案し、経営と話し合いながら、コメントや回答をもらって、実際に改善するという関係を作ることに腐心しました。それは、これがのちに、経営参加の体制や労働組合ができた時には、労働組合と経営との労使関係に貢献するだろうという考え方からです。2つ目は、私どもは日本語、ないしは英語しか喋れませんので、「ILO」(国際労働機関))という国連の機関で勤務経験がある現地コーディネーターを1人採用して、いわゆるクメール語、現地語でやりとりができるようにしました。さらに、その人から彼らに専門的な知識、労働組合法などの労働法も教えてもらおうとしました。ですから、そのコーディネーターにワークショップに参加して頂きました。3点目に、毎回ですが、日本の組合役員、ないしは日本の組合員にワークショップに同席して頂き、現地の方と交流をしたり、イオンの価値観、企業文化を交流の中で理解してもらおうとしたり、逆に日本の組合役員が、労使関係とはこうやって作っていくものだという、労働組合活動の原点を感じとって、自分たちの組織の活動に活かしたりしてもらえるようにしました。
 スライド21は後半のプログラムです。最終的には「安全衛生委員会」という、いわゆる職場環境改善や労働条件改善の話し合いを自律的に職場でできるように取り組みを進めてきました。特にカンボジアには「ショップスチュアート制度」といって、「従業員代表制」が労働組合以前にありますので、各職場の代表としての従業員代表をどうやって選ぶのか、また、選ばれた人たちがどのように問題を発見し、それを改善提案にまとめて経営に提起するのか、そして、労使の安全衛生委員会はどのように進めるのかといったことについて、実践を通じて経験し、自分たちが自立して取り組めるよう支援してきました。
 スライド22は実際のカンボジアでのワークショップの写真です。左側に元ILO職員のリッティーさんというコーディネーターの方がいます。今、従業員が問題を抽出して集めたものを、どのように整理して改善提案しようかといったことを相談しているところです。トイレが汚いというような、極めて身近な問題からどのようにしていくかを話し合っています。今後は企業内に労働組合を結成し、労使関係を労働協約の下に進められるよう準備しています。本年の2月から5月までは、ショップスチュアート制度を利用しながら安全衛生委員会を継続実施してもらうために支援しています。「ワンデーワークショップ」という形で、定期的に私たちがカンボジアを巡回して、彼らの活動を支援しています。本年6月から9月にかけては、労働組合の結成準備として、ショップスチュアートから組合幹部になって頂けるメンバーを選抜するとともに、勉強をして、組織化の計画を立て、今年の10月までに従業員の100%から組合加入の同意書を取って、組合を結成し、来年2月までには労働協約を締結できる組織にしようと取り組んでいるところです。

(2)ASEAN各国における取り組み状況

 スライド24はカンボジア以外のASEAN各国における取り組み状況です。マレーシアではイオンが買収した「カルフール」(フランスのスーパー)、今は「イオンビッグマレーシア」(ディスカウントストア)の組織化を進めています。労働組合が結成されて、政府に登録されて認められています。50%の組織率を超えると「労働協約締結」の申請ができます。そうすると労働協約に基づいた集団的労使関係がもてるようになります。それを8月に申請し、来年3月までにはさまざまな準備を経て、締結を完了しようと取り組んでいます。「イオンビッグマレーシア」の組織化が終われば、二つ目「イオンマレーシア」(総合小売)の組合結成に向けて取り組みを進めていくことになります。
 ベトナムは社会主義の国ですから、法律に基づいて組合を結成しなければなりません。「ベトナム労働総同盟」というナショナルセンターの傘下に組合が結成されています。「イオンベトナム」と今年資本提携した2社のスーパーマーケットの労組幹部との接触、交流を踏まえて、次の展開を考えていこうとしています。
 インドネシアは、約1年間のワークショップを終了して、5月30日に店がオープンしています。インドネシアにはASPECという商業労組産別や「HERO」というスーパーにも労働組合があります。これらは健全な労使関係を持って活動していますので、この組織と連携を図りながら結成以降の支援を要請しています。これらがASEANでの取り組みになります。

5.グローバル枠組み協定とは

 昨年11月に「グローバル枠組み協定」を締結しました。これは日本で3例目と言われています。日本でこれまでに締結したのは百貨店の「高島屋」、スポーツ用品の「ミズノ」です。イオンの従業員は世界規模で42万人で、世界最大級の締結主体と評価されて、世界中に発信されました。イオンの経営側としては、このグローバル枠組み協定にあっては、イオンの基本理念を実現するために、国内は当たり前ですが、進出国での良好な労使関係が極めて重要だということ、それから、自分たち自身の事業展開が国際的な取り組みに貢献することが企業価値を向上するという動機から、グローバル枠組み協定を締結しました。スライド26に映っていますように、「イオングループ労連」「イオン株式会社」「UAゼンセン」そして「UNI Global Union」の4社で締結しました。

※役職はいずれも2014年11月現在のもの。

 グローバル枠組み協定は、いわゆるグローバル企業と国際産業別労働組合、今回の場合はUNIになりますが、これらが締結した協定です。そして企業の社会的責任(CSR)を一方的に企業が宣言して事業展開をしても、このグローバル時代にグローバル企業がそういう行動規範を守らないということが大変多いことから、労働組合と協定を締結することで、実効性を担保しようという趣旨、いわゆる「共同公約」という形態を取って締結することになっています。これが大変重要な特徴です。1つは、労働組合も協定締結の主体ですので、具体的な活動に対して日常の労使関係の中で、会社に問題提起をしたり、共に改善を進めたりすることができるのです。2つ目に、この締結によって、いわゆる企業の「社会対話」が求められます。何かあった時に、社会に対してオープンにその問題を受け入れ、話し合いで解決しようという姿勢、または態度を求められます。そういうことから実効性を担保しようということにしています。中身ですが、職場における基本的人権や権利尊重、それから環境問題への対応と同時に、「実効性を伴う共同の取り組み」として、モニタリングという仕組みを入れながらお互い1年間やったら、何が良くて何が悪かったかを総括して改善する機会が求められるというのが3つ目の特徴です。
 次はグローバル枠組み協定の具体的な内容です。協定の具体的構成は、国際的に認知された人権尊重、すなわち、世界人権宣言、ILO条約が組み込まれています。対象になるのは、雇用、賃金、労働時間、労働、安全衛生の分野です。加えて事業再編です。海外に進出した企業が勝手に工場を閉めて出ていく時、酷い話ですが、事前協議もなしに労働者を解雇して、失業させてしまうという問題が相次いでいましたので、こういった事業再編についても協定の中に組み込まれています。
 協約対象範囲は、全事業所、下請け、サプライヤー(供給業者)も協約対象範囲としています。締結自体は4者で構成され、モニタリングの仕組みが組み込まれています。

(1)取り組みの背景

 経済が大変グローバル化していまして、多国籍に展開する企業が増大しています。その数は6万5000社~7万社と言われています。こういった多国籍に展開する企業が増えたということが取り組みの背景の一つです。開発途上国自身が自国の経済発展のために投資を呼び込もうと、どちらかというと労働分野の規制を大幅に緩和して、投資を呼び込むことに前のめりになっているという事実があります。その際に、やはり労働者の保護がなおざりにされて、そういった環境が加速しているのが現状です。グローバル企業が社会的に企業行動規範を宣言するわけですが、実効性が一向に担保されません。行った先の国で大変な暴挙に出て、労働者保護をなおざりにするわけですが、規範だけは語っているという問題にどう対処するのか。さらに多国籍企業は大変資本の規模が大きく、影響の及ぶ範囲も広いので、サプライヤー、供給業者や下請け業者との関連も含めて、その影響力の大きさから、そういった実効性のある協約を締結しないと、進出国の労働者が保護されないといった問題が背景にあったのではないかと考えています。

(2)グローバル枠組み協定の中身

 枠組み協定の序文を読み合わせしたいと思います。
 「イオン株式会社とUNIグローバルユニオン、UAゼンセン及びイオングループ労働組合連合会による『グローバル枠組み協定』は、互いを社会的パートナーと認識し、普遍的に認められた『環境』『労働』『人権』に関する原則に基づき行動することに合意し、適切な運用を共に推進する枠組みを定めるものである」「本協定はイオン株式会社がイオンの基本理念に基づき事業成長を果たし持続可能な成長に向けた国際的な取り組みに寄与するため、連携して取り組むことを宣言するものである」と序文に定められています。

[1]職場における基本的人権及び権利の尊重
 協定の内容は大きく3項目に分かれています。1つ目は、「職場における基本的人権及び権利の尊重」です。ここにはILOの「中核的(労働基準)8条約」と「第155号条約」が入っています。
 「第87号」は、労働者は団体を結成して加入する権利を持っていて、これを経営側は制限してはいけないという内容です。「第98号」は、組合への加入や活動に関する経営側の不当な介入は禁止するというもので、組合に加入するしないを条件に格差を設けてはいけないというものです。「第105号」は、強制労働の廃止です。自由な意思に反する労働、たとえば肉体や精神を拘束するもの、こういったものは禁止するというものです。それから「第138号」は、就業が認められる最低年齢を定めています。いかなる労働であっても15歳未満をであってはいけない。しかしながら、途上国では12歳から許容される労働も定められていますが、原則として15歳未満の就業は不可となっているということです。「第100号」は、同一労働であれば男性であろうと女性であろうと賃金報酬の格差をつけてはいけないというものです。「第111号」は人種や宗教、性別、肌の色、社会的出身、出自ですね、これは身分だと思いますが、そういったものに対して待遇の均等を図りなさい、差別をしてはいけないというものです。「第155号」は安全性に関するもので、労働者の参画を得て、意見をもらって改善するというもので、または危険な労働を労働者は拒否する権利があるというものです。これが1つ目の基本的人権、または権利の尊重に関する内容です。
 加えて1つ目の項目には国連の「グローバル・コンパクト」の10原則が掲げられています。これは1999年のダボス会議で、当時、国連のアナン事務総長が提唱したものです。現在145ヵ国、1万を超える団体が宣言に参加しています。イオンは2004年にこの「グローバル・コンパクト」に賛同表明をしました。これは日本で初めて賛同したわけです。それが10項目設定されています。1つは、「人権擁護の支持と尊重」ということで、これはILOの中核的条約と重なる部分も多数ありますが、政府に加えて個人や組織も人権擁護の支持と尊重に重要な役割を担うというものです。会社は事業を発展させながら、同時に人権の享受や促進の機会も提供しなければならない。しっかり人権を守って事業発展させなさいということです。2つ目の「人権侵害への非加担」というのは、どこかが人権侵害をしている場合、不作為にそういった企業と取引をしてしまい、結果的にその企業を支援することも含めて、加担してはいけないというものです。3つ目は、当然、労働組合のような自主的組織の決定と、そこに個人が自由意思で参加することを抑圧してはいけないし、その組織がいろいろな労働条件を求めてくるならば、建設的に交渉を受けて合意へ全力を尽くしなさいというものです。それから「強制労働の排除」はILOの条約にもあったように、あらゆる形態の強制労働の撤廃に向けて取り組むというものです。「児童労働の実効的な排除」については、先ほど説明したとおりです。「雇用と職業の差別撤廃」も同様です。「環境問題の予防的アプローチ」はILOには当然ありませんので説明します。1992年に「環境と開発に関するリオ宣言」がありました。こういった国際的な環境宣言に従って、後戻りのできないような環境問題に費用を理由に取り組まないということはいけない、積極的に環境改善に取り組みなさいということです。「環境に対する責任イニシアティブ」も、必ず環境改善に対して企業は情報開示し、市民や社会と充分な対話をして、事業展開には必ず環境問題を取り込んでやりなさいというものです。「環境にやさしい技術開発と普及」は、環境問題の予防的アプローチとの関連の中で、積極的にそういったものに取り組みなさいというものです。「強要・賄賂等の腐敗防止の取り組み」は、自分たちが受託したいろいろな権利を個人のものにしてはダメだというもので、そういったことを実質化する部署の設置や具体的行動をとる責任が求められているということです。これらが1つ目の項目となります。

[2]地球環境に及ぼす影響への対応
 2つ目は、「地球環境に及ぼす影響への対応」です。主に4つの項目が記載されています。「低炭素社会の実現」「生物多様性の保全」「資源の有効利用」「社会的課題への対応」といったものが定義されていますが、この内容については、イオンは2011年に「サスティナビリティー基本方針」を定義して、グループ全体をこの基本方針で包括して4つの項目に取り組んでいます。その内容そのものが、この「地球環境に及ぼす影響への対応」に組み込まれているのです。

[3]実施
 パワーポイントにはありませんが、3つ目に「実施」という項目がありまして、グループ内にこのグローバル枠組み協定の周知徹底を充分に図りなさいということと、1年に1回、会議を開き、締結4者で取り組みの報告を共有すると同時に、問題についてはお互い協議をして解決する、さらに問題が発生した場合は、主体的に早期に解決する取り組みをするというものです。

(3)具体的な取り組み

 このグローバル枠組み協定をイオンでどのように取り組んでいるかについて説明したいと思います。
 基本的認識ですが、先ほどのグローバル枠組み協定の内容そのもので、すでに、イオングループ全体の法律の対応とか、国際マネジメントや工業製品の規格である「ISO」とかも含めて、ほぼ履行しているというのが基本認識です。あえて、グローバル枠組み協定に付け加えて取り組まなければならないものはそう多くはないと思います。
 取り組み課題の基本ですが、労働組合としては今申し上げた内容について、組合員や従業員への周知レベルの向上を図って、改めて企業がこういった責任を果たしているのだという理解を進めなければならないと考えています。それから取り組みの手段ですが、具体的な問題の把握や課題化、そして改善というのは、労連傘下の労働組合が当該の労使で締結している労働協約に定める各級の労使協議会がありますので、こういったもののなかで日常的に解決していきます。
 イオン傘下には、まだ労働組合がない会社もたくさんありますので、ここにおいては従業員代表を定めて、安全衛生委員会(労働安全衛生法に基づいた、従業員と経営側による労働災害の原因および再発防止対策などを審議するための委員会)で取り組みを進めていこうというものです。
 スライド36は「GFAの具体的な取り組み」です。左側に「周知」「履行」「検証」とあります。基本的にはこの3つを切り口に進めていこうと考えています。1つ目の「周知」は、文字通り知らしめて理解させる取り組みです。「履行」は具体的取り組みの実施です。「検証」は取り組みの結果の総括、そして改善を図るものです。そして労働組合が所在するところは、労使の関係において、この取り組みを共同でやっていこうと考えています。
 「周知」の切り口では、会社は幹部、従業員に、協定の内容そのものと、取り組み内容について説明をして理解をして頂く。イオン労連は加盟組合執行部に対して取り組みの主体として理解を深めるとともに、労使の取り組みが円滑に進むための協議ができるよう、支援、ないし指導して進捗を確認していくことになります。
 「履行」の場面においては、基本的にはイオンのCSRの取り組みは全体をカバーしますので、そういった中でもさらに不足するもの、ないしは水準が充分でないものについて重点課題という設定を労使でして進めていく必要があるのではないかと考えています。1年に1回、中間で1回、活動の総括と反省を締結4者で行って、次年度の重点的な取り組み課題を設定することでさらに進化していこうと考えています。
 スライド37は日本の労使関係の実際です。イオングループ労連、そして加盟組合の2つに分かれています。イオングループ労連とイオン(株)は実際に従業員を雇って、そこに組合があって、労使関係があるのではなく、企業グループ労連と純粋持株会社としての関係ですので、法律で定められた労働協約の締結の主体には、それぞれなっておりません。ですから労使慣行という形で、こうした機会を年間に設けています。グループの労使懇談会を年4回、それから12の事業を7つに分けて、事業別の労使懇談会を年2~4回。人事担当責任者、イオン(株)の執行役クラスの方と、ミーティングを年6~10数回、そして事務方はグループの人事と事務局が30回以上に亘ってさまざまなことを協議しています。特にイオン(株)における共通の取り組み方針や共通政策について、単社単組の労使関係では解決できない問題や、共同して取り組む問題に関してはグループの労使関係の中で取り組みを進めているというわけです。
 スライド37の右側の「加盟組合」は、各社と法律に基づく労働協約を締結していますので、それに基づいて中央の労使協議会、地域の労使協議会、そして事業所別の労使協議会が基本的な器となって、さまざまな日常の問題、あるいはCSRに関する問題などの解決にあたっています。これ以外にも労使慣行で、さまざまな関係を構築しながら問題解決にあたっています。
 スライド38がイオンのCSRとグローバル枠組み協定の関係になります。項目として「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」と大きく分類するとともに、それぞれの項目を小項目に分類して整理しました。イオンのCSRはグループ全体をカバーするものとしてグローバル・コンパクトは「GC」と書いていますが、先ほど説明したものがあります。環境のところに「サスティナビリティー基本方針」とあります。これは2011年に、ここに書いてあります「低炭素社会」「生物多様性」「資源有効利用」そして「社会課題」とは、基本的には「人権」「労働」「腐敗防止」も含めたものですが、この基本方針をもって、グループ全体の取り組みを包括している構造になっています。そして「差別禁止」のところに「DC宣言」とあります。これは「ダイバーシティー宣言」です。アジア、ASEANでいちばん働きやすい会社であると、2014年に宣言して取り組みを進めているのです。それから一部をカバーするものとして「SCC」があります。これは「サプライヤーコードオブコンタクト」と言って、「グローバル・コンパクト」を、いわゆるサプライヤー、供給会社から誓約書を頂き、必ず製造過程でこれを守るというものです。現在800社ほどの「サプライヤーコードオブコンタクト」の参加企業があります。参加企業は誓約書をもらうとともに、年に2~3回のイオンによる監査があり、さらに第三者機関から年1回の監査を受け、この「グローバル・コンパクト」の内容を守っているかどうか検証される取り組みを進めています。これは「トップバリュー」という我々のプライベートブランドの製造過程のサプライヤーに適用しています。「SA8000」というのは、「ソーシャルアカウンタビリティー8000」と言い、いわゆる人権や労働環境などに関する国際基準です。この認証もイオンは受けています。それから「環境」のところに「ISO」が3つ並んでいますが、「ISO9001」というのは、品質に関する国際基準で9社、「ISO14001」は環境に関する国際基準で、これは36社あります。「ISO50001」はエネルギー関係の制御に関する国際基準で、これをイオンは取得しています。こうした主要な3つの国際基準をキャッチアップして取り組んでいるということです。

 スライド39はGFAとイオンのCSRの対比です。イオンの社会的責任の体系は、基本的にGFAに盛り込まれているもの全てを包含、包括して取り組みが進められているということになります。取り組みは、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」と項目ごとに具体化しています。たとえば「人権擁護支持と尊重」「人権侵害への非加担」という項目では、イオンの「行動規範研修」「人権教育の実施」ということで、ハラスメント教育も含めて、1年に1回必ず全従業員が受講することになっています。そういった教育の中で、こうした内容を知らしめ、実効性を担保しているのです。その他は、ここに記載の内容を確認して頂ければと思います。

 こういった形でグローバル枠組み協定の具体的な取り組みを進めています。協定を結んだのが2014年秋ですので、今年1年間は周知活動を徹底することになっています。10月末に検証の機会があり、協定を締結した4者が協議します。そこでは2016年度の活動計画を、こういった体系に基づいて具体的に何を重点的に取り組んでいくのか確認し、活動計画を承認して頂きながら、活動の典型化、または恒常化を図っていくよう考えているところです。

6.今後の課題

 次は私たちのこの取り組みに対する「今後の課題」です。グローバル枠組み協定の取り組みをサイクルにして典型化し、恒常化していきたいと考えています。それから、こういった取り組みに対する実施主体で、労連傘下に41の組合があります。結成してから40年経った組合から、最近できたばかりの組合まで相当の差があります。取り組み水準のレベルを合わせたり、活動の活性化をしたりといった取り組みが2つ目には必要になるだろうと思われます。3つ目ですが、国内にはまだまだ未組織の企業が、特にアパレル専門店等を中心にありますので、こういった企業について、組合がないと充分な情報が開示されないとか、経営の一方的な取り組みで従業員が困っているという事例がありますので、こういった企業への関与を深め、組合結成を進め、共に取り組めるようにしていきたいと思っています。4つ目は、海外の従業員の経営参加への体制、カンボジアの事例で紹介しましたが、これからもそれを進めるとともに、ASEAN各国で労働組合の結成を支援しながら、健全な労使関係を構築できるよう応援していきたいと思っています。
 イオン労連はなかなか財政が厳しいのですが、現在「国際局」を設置して、活動を進めています。さらなる充実が必要です。イオン(株)そのものも海外展開には、それぞれ「3本社体制」で取り組みを進めていますが、それに対峙するにはまだ不十分です。この辺も充実させていきたいと考えています。特に中国、ASEANで労使関係を構築していこうとしています。中国は、1つの省が国のようなものですが、各省で展開している事業所が共通で抱える課題には、中国本社全体で解決する。ASEANの各国を超えるような共通課題は、ASEANの本社と私たち労連が労使関係を結んで解決する。このような体制を設けていきたいと考えています。「産別の国際活動への貢献」ということで、私どものような経験を、各国の労働組合に恵まれていない人たちのところに行って、経験を話し、貢献したいと思っています。今後の課題はこういったところで、まだ着手したばかりですが、これからイオンのアジア展開は本格化していきますので、さらに体制を整備していきたいと考えています。

さいごに

 「閑話休題」ということで、「21世紀日本の労働運動の課題」として、私が思っていることを書きましたので、後ほどご参照ください。

<閑話休題>
21世紀日本の労働運動の課題

○新自由主義の跋扈、労働組合の潜在的必要性の高まり
○内向化し、組織マネジメント不全、組合員の関心との擦れ違い、労組の存在感の希薄化
○産業資本主義の発展段階、社会的運動勢力と連帯し、労働運動の社会化を為した歴史
○蓄積した運動資源を活用し、「結節点」、「触媒」として、「諸運動の運動」、「諸連合の連合」の活性化支援を戦略として、今日的社会の問題を解決する労組としての再生

 私自身は26年間、労働組合の専従の仕事をしてきました。そして会社に入って2年目ぐらいから非専従で活動し始めたので、あわせて35年近く活動していることになります。労働組合の社会的認知はなかなか高まりませんが、社会的意義はあると思っています。ある意味、会社に入ると視野が狭くなりがちですが、労働組合は極めてさまざまな機会に、働く人の視野を広げてくれます。そういう意味で、私は人生の学校だと思いますし、また、さまざまな合意形成を図るには、民主的な手続きを経なければなりません。労働組合は民主主義の学校だとも言えると思っています。そういった社会的意義のある団体だということです。2つに、これは私の運動論ですが、私たちの社会、企業社会、産業社会というものは、私たちの労働そのものが、この社会の現実を作っていると考えています。私たちが日頃、会社に所属して、どのように働いているのかということ、またはその総体が社会の現実なのです。どう働くことが社会にとって良いのかを追求することが、労働運動だと私は考えています。さらに言えば、働くということは、自分の生き方が反映されるものであり、その生き方も含めて労働組合の課題を1人ひとりの生き方に還元して、「どう働くのか」を考えることで、よりよい社会を作るということを運動論として展開すべきだと思っています。
 私どもの創業者である岡田卓也の姉で、小嶋千鶴子という方がいらっしゃいますが、この方はイオンの人事の基盤を作られた大変素晴らしい方です。この方から直接私が薫陶を受けたのですが、会社のことでたくさん文句を言った時、「君はリーダーだろ。まず君が変わりなさい。人の責任にするのではなくて君が変わったところから組織が変わるし、君がこの指とまれで3人集まったら組織は変革できる。だから、まず君が変わりなさい」と言われ、これまで活動を続けてきました。自らが変革の主体となることで、こうしたグローバル時代の労働組合の社会的責任について、私自身がまず行動の先頭にあるのだと考えています。

以 上

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