一橋大学「連合寄付講座」

2015年度“現代労働組合論”講義録

第7回(5/25)

仕事と生活の両立に向けた取り組み

大長俊介(生保労連中央書記長)

はじめに

 みなさんこんにちは。生保労連で書記長をしている大長と申します。生保労連は「全国生命保険労働組合連合会」の略称です。本日は「仕事と生活の両立に向けた取り組み」についてお話しします。
 まず、自己紹介をいたします。私は1999年に日本生命に入社しました。会社では12年ほど営業推進関係のセクションで働いて、2011年から日本生命労働組合の専従役員を1年やりました。それから生保労連に派遣されて、専従3年目を迎えているところです。家族構成は妻と娘が1人です。娘は先週の月曜日に2歳を迎えました。実は今朝も娘を保育園に送ってから事務所に出ました。妻も日本生命で総合職として働いています。同期入社です。
 今日は労働組合の取り組み、生保労連の取り組みに加えて、会社の視点、また個人の視点も盛り込んで話を進めます。

1.「仕事と生活の両立」とは?

 まず「仕事と生活の両立」とはどんなことなのかを考えてみましょう。両立とは「二つの物事が同時に支障なく成り立つこと」です。「仕事だけ」でもダメ、「生活だけ」でもダメで、両者のバランスが大切ということです。今は「ブラックバイト」という言葉もありますから、皆さんの中にも、アルバイトに比重を置きすぎて学業がままならない、アンバランスな状態の方がいるかもしれません。そうではなくて、仕事と生活のバランスを取って、働きがい、生きがいを向上させていく、それが「ワーク・ライフ・バランス」です。

 生保労連のワーク・ライフ・バランスについての考え方についてお話しします。生保労連では、10年ほど前からワーク・ライフ・バランスの実現を運動の大きな柱と位置づけて取り組みを進めてきました。ワーク・ライフ・バランスは、働きがい、生きがいに欠かせないのはもちろん、多様な人材が活躍できる環境整備などの社会的視点からも、その重要性はますます高まっていると思います。また、会社・職場・職種によって、取り組みの進捗度合が異なっている中で、これまでの歩みを止めることなく、ワーク・ライフ・バランスを実現していこうと積極的に活動しています。2014年8月に、これから6年間の中期方針を決定しました。

 生保労連が考えるワーク・ライフ・バランスとは、単に早帰りをしたり、休暇を取ったりということではありません。「メリハリある仕事で充実した生活時間を確保し、意欲や創造性を高めてさらなる仕事の充実につなげる『仕事と生活の好循環』」。これを実現していくことが、私たちの働きがい、生きがいにとって欠かせないものだと認識しています。仕事と生活を両立することで、「創造性」に好影響を与えていくということを、私たちはめざしています。
 働く者だけではなく、会社や経営者にとっても、人材の確保や定着、働く意欲の高まりによる生産性の向上など、ワーク・ライフ・バランスの実現は大きな意味を持つものだと考えています。では、実現するためにはどうしたら良いのでしょうか。
 生保労連では、まずは取り組みの基盤づくりをすることが重要だと考えています。そのために2つの視点を掲げています。
 1つめの視点は、「推進体制の強化」です。「本部レベル・職場レベルの労使協議体制の強化」「経営トップの方針の明確化と周知徹底」などを掲げています。
 2つめの視点は、「重要性の理解促進・共有化」です。「管理職・組合員の意識改革に向けた取り組みの推進」を掲げています。
 いずれにしても、まずはワーク・ライフ・バランスを実現する意味合いを労使で共有していくことが重要です。これは会社や組合の役員だけということではなく、全ての生命保険業界で働く者が、理念や重要性を共有・共感する取り組みが必要だと認識しています。

 次に、具体的にどのようなことをしていけばいいのかについてお話しします。今「ブラック企業」や「長時間労働」、また「親の介護」など、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて、障害となる事象はたくさんあります。経営者は、売上を伸ばすにはどうしたらいいかという方に視点が行きがちですが、労働組合としては、働く人の視点の取り組みを進めていく必要があります。

 ここで、「めざす姿」をもう一度ご覧ください。中期方針の「めざす姿」では、「全ての働く者が健康で豊かに生活するための時間が確保できる」「全ての働く者がライフサイクル・ライフスタイルに応じて、多様な働き方を選択できる」という方針を掲げています。
 また、実際にどのような姿勢で取り組めば良いのかということを、「取組みの柱」に記載しています。具体的には、「総労働時間の短縮に向けて」「両立支援制度の拡充・活用促進に向けて」「健康増進・職場環境の改善に向けて」という3つの方向性を定めています。加えて、各加盟組合が取り組みやすいように、生保労連で具体策を例示した取り組みメニューを設定し、各組合がそれを参考にして会社との協議を進めているところです。
 取り組みの進捗については、「到達ガイドライン」を設定しています。こちらは、政府・労働者・使用者の「政労使」で合意した行動指針の数値目標を目安としています。

2.生保労連の概要

 これから生保労連の組織や活動について紹介した後、仕事と生活の両立に向けて、組合や会社は何をしているのかについて、具体的な事例を挙げて説明していきます。
 まず生保労連の概要について説明します。1969年に生保労連が結成されるまでは、内勤職員、事務職員などで構成されていた「全生保」と、現場で働く営業職員で構成されていた「全外連」がありました。「同じ産業で働く者どうし、力を結集した方が、自分たちの労働条件の改善や生保産業の発展に繋がる」という観点から合同して今に至っています。組合員数は約25万人で、全体の8割が営業職員、残りの2割が内勤職員という構成になっています。また、組合員の8割が女性です。他の産業に比べ、女性が働いている割合が圧倒的に高いというのが1つの特徴になっています。連合にも加盟しており、8番目に大きな組織となります。加盟組合はオブザーバー1組合含む19組合です。日本生命や第一生命といった国内生命保険会社の組合だけでなく、外資系生命保険会社の組合も加盟しています。販売現場では会社間で凌ぎを削っていますが、同じ生保産業で働く仲間として、労働組合ではともに産業の発展に力をあわせています。

 下のスライドは生保労連・各組合・組合員と関係団体との連携図です。
 生保労連の活動の接点は、各組合員をはじめとした産業の内側との接点と、国政・行政をはじめとした産業の外側との接点の大きく2つに分けることができます。

 まずは産業の内側との接点についてお話しします。生保労連の役割の1つは、加盟する単位組合の活動支援があります。各組合は、組合員の声を集約して、労働組合としての見解を決定し、経営側に制度の拡充や実態改善の申し入れを行ったり、会社から提出される様々な提案事項を組合員に説明し、必要に応じて修正提案を行ったりしています。生保労連はこうした活動を支援するために、大きな課題については生保労連としての方向性を示したり、加盟組合の取り組み状況の情報共有、他の産業別労働組合の先行事例や国で論議されていることの情報提供を行ったりしています。また、産業レベルの活動として、業界団体である生命保険協会と定期的に労使協議を行っています。

 次に産業の外側の接点についてお話しします。たとえば、産業に関係する国の政策・制度については、国政・行政への意見反映が必要となるため、組合員や企業別の組合で対応するのは困難です。生保労連では、金融庁や厚生労働省などの行政への直接的な働きかけに加えて、生保産業に理解のある国会議員と連携して、国政への意見反映に努めています。また、連合の活動への参画を通じて、意見発信や情報収集に努めています。加えて、生保産業の社会的理解の拡大に向けた取り組みとして、消費者団体・有識者・マスコミの方々との情報・意見交換を行っています。

3.生保労連によるワーク・ライフ・バランスの取り組み

 生保労連によるワーク・ライフ・バランスの取り組みについてご紹介します。まず、加盟組合と連携した取り組みについてご紹介します。生保労連では、「ワーク・ライフ・バランス推進担当者会議」を実施し、課題認識や情報の共有を行っています。また、「労働条件総合調査」を行い、その結果を加盟組合間で共有しています。各加盟組合では、これらを参考に実態の改善に向けて労使協議を行い、制度の充実や運営の実行性確保を行っていくとともに、組合員への情報提供を行っています。
 また、「ワーク・ライフ・バランス推進ポスター」を作製して職場に掲示したり、「標語コンクール」を実施したりしています。組合員が「ワーク・ライフ・バランス」を日常的に意識する機会が少ないため、標語を考えることで重要性を認識してもらうという狙いもあります。
 加えて「ワーク・ライフ・バランス労使フォーラム」を開催し、労使で課題認識の共有化を計っています。2015年4月に開催した労使フォーラムは、「基調講演」と「パネルディスカッション」の2部構成でした。「基調講演」では、制度整備に加えて企業文化や風土を変革していくことが重要と示されました。また、「パネルディスカッション」では、労使の代表者が、具体的な取り組みを紹介した上で、今後の取り組みに必要な視点を提起しました。以下で、労使フォーラムで発表された労使の取り組み事例を紹介いたします。

4.労働組合によるワーク・ライフ・バランスの取り組み

 まずは労働組合の取り組み事例についてお話しします。この組合では「働き方の革新の取り組み」と銘打った活動をしており、具体的には、「私たち自身が与えられた時間で、最良のお客さまサービス・営業サポートを行っていくにはどうすれば良いか」「今の仕事の中で思い切ってやめたり効率化できたりするものはないか、本当に効果が上がっているのか」について考え、実行していくことによって、毎日の仕事を創造性のあるもの、そして自分自身にとってもやりがいあるものにしていく取り組みです。
 取り組むにあたっては、組合本部でテーマを定めています。今年度は「メリハリ勤務の推進を通じて、働きがい・やりがいの更なる向上を図る」をテーマに、「適正な勤務管理の完全実施」「業務の削減・効率化の更なる推進」「休日・休暇取得の更なる推進」の主に3つの視点から取り組んでいます。

 次に組合内の各組織段階での取り組みをご紹介します。下のスライドをご覧ください。これはこの組合の取り組みを組織段階ごとにまとめたものです。

 まずスライドのいちばん上にある「分会」です。分会は全国の営業拠点単位で構成されていて、全部で約1670分会、1つの分会で20人ぐらいです。20人の単位が1670個あると思ってください。
 分会では毎月1回以上「分会集会」を開催して、本部交渉の状況報告や、機関紙などによる情報伝達、分会での課題やその解決に向けての意見交換を行っています。「働き方の革新の取り組み」についても、分会集会の中で周知するとともに、どうすれば業務の効率化ができるのか、継続的に休暇を取得するにはどうすればいいかなどを話し合っています。分会集会では、リーダーが話を進めますが、組合本部では「分会集会リーフレット」を作成し、スムーズな話し合いができるようにサポートをしています。

 次に「支部」です。支部は全国の支社単位で構成されていて、全部で100弱あります。各支部に委員長以下役員が7名いて、分会から出された意見や要望の取りまとめ、現状の分析、課題の解決策を議論しています。支部の役員は組合の仕事だけをしているわけではなく、職場で働きながら労働組合の仕事に従事しています。また、支部の課題解決に向けた取り組みとして、支部役員と支社長とのあいだで支社懇談会という労使協議を開催しています。

 次に「地区」です。この組合では全国を8つに分けて、各地区の支部委員長と担当の本部役員が一堂に会する、地区委員会を毎月開催しています。地区委員会では、各種データを活用して、各支部の課題・取り組み・推進状況を共有するとともに、課題・解決策について議論を行います。

 最後は「本部」です。本部では、分会、支部、地区から収集した意見を取りまとめ、課題の解決に向けた検討や、現状や課題を組合員に知らせるための教宣物(チラシやポスターなど)の作成、会社側への具体的な提案・要望の実施などを行っています。また、本部として、年に2回インターネットアンケートで組合員の実態や意識の調査を行っており、これらも活用して、組合組織を通して集約した意見と本部が直接収集したデータをもとに、会社と意見交換・協議を行っています。

 それぞれの会議、労使交渉の場で、組合として提言・要望を行っていくには、いかに組合員の声を聞くか、実態を把握するかが大変重要です。これは組合活動の本質ともいえると思います。組合員に声をあげてもらうためには、日頃から本部として課題認識を伝えることはもちろん、会社と議論した内容を迅速にフィードバックすることが大切です。組合では機関誌、広報物なども積極的に発行しています。こうした活動の積み重ねが組合員の組合活動全般に対する理解を得ることに繋がっていくと認識しています。
 こういう話をすると、本部が会社のトップと交渉することだけが協議なのではないかと思われるかもしれません。しかし、先ほどお話ししたとおり、分会や支部でそれぞれの組織が責任を持って仲間と話し合い、その場で解決できることはしていくということが必要です。分会や支部では、上司が交渉相手になっていますが、組合側と使用者側という関係では対等となりますので、通常の業務では上司になっている人とも交渉をして、より良い職場づくりに取り組んでいくことが労働組合の活動です。それぞれの立場で、できることをやっていくことが必要というわけです。

5.会社によるワーク・ライフ・バランスの取り組み

 次に会社の取り組みについてお話しします。下のスライドをご覧ください。これはある生命保険会社が男性育休100%を目指して取り組みを進め、達成した道筋を示したものです。

 生保産業では働く女性が多く、この会社においても女性活躍推進に取り組む組織が2008年に設立されました。当初は女性のみを対象として活動していましたが、女性だけがんばれと言われても、精神的負担だけが増すだけで、女性のモチベーションは上がるどころか下がるような状況だったと聞いています。そこで、真の女性活躍を進めるためには、女性が活躍できる環境を整えること、つまり上司や同僚が、女性の働き方を理解して職場全体の意識・行動を変えることが重要であるという認識に立って、取り組みを進めてきました。
 組織の担当者は取り組みの一環として、「男性育休取得推進」を掲げ、徐々に浸透させていこうとしていたところ、「こんな状況ではダメだ。やるなら100%をめざす」という担当役員の鶴の一声で大きな運動となりました。スライドに記載しているように、男女共同参画社会基本法では、男性育休取得率について、2020年に13%を目標としています。これは非常に取り組みづらい数字です。個々の業務の事情や、家庭の事情を加味して、「あなたは取っていいですよ」「あなたは取らなくていいですよ」と会社は判断できません。そもそも男性育休取得推進に取り組む目的は、単に男性が育休を取ることに留まらず、男性の育児参画を通じて効率的な働き方を促し、女性の働き方への理解を深め、女性の活躍推進を進める風土を醸成することにあります。当時、育休が必要な男性は500人いました。1割の50人が育休を取ったところで会社の風土を変えていく力にはなりません。風土を変えていくためにも、より多くの人が取得するべきだということで、100%という目標になったと聞いています。

 具体的な取り組みを大きく3つのポイントに分けてご紹介します。
 1つめは「経営層から継続的なメッセージ発信」です。管理職が集まる会議で、事あるごとに担当役員や人事部が発信し続けました。そして、育休を取りやすいように1週間という目安を設けました。この会社の育児休業制度は、最初の7日間は有給休暇扱いですので、まずはこれを活用して1週間取ってみましょうということになったわけです。

 2つめは「人事部による取得計画の徹底フォロー」です。年度のはじめに各所属長が、取得期限を迎えている職員と相談して取得計画を立てて、人事部に提出するとともに、取得の結果を報告してもらうことにしました。報告がこないと予定どおり取得できなかったということになります。そうした場合は再度計画を立てて提出してもらうということを、人事部の担当者と所属長がやりとりしました。
 ここでのポイントは、取得者本人ではなく、上司である所属長とやりとりしたことにあります。育児休業を本人が取りたくても、仕事の状況が許さなかったという方も今までいらっしゃいました。休んだ人をカバーする環境を整え、上司が取っても大丈夫だという状況でなければ、なかなか取れません。ある程度社歴を積んだ人間であれば、業務のコントロールができるかもしれませんが、比較的若手の社員が対象ですので、こうした視点での取り組みがよかったのではないかと思っています。加えて、育休取得申請の手続きを簡素化しました。今までは、たとえば出生届を出すとか、印鑑を押す必要がありましたが、1週間程度であれば、社内イントラ報告だけでOKということにしたのです。

 3つめは「育休取得を推進する各種情報提供」です。
 例えば、「男性の育児参加に関して、本人や会社にとって育児をするメリット、育児に携わる環境を整える工夫、男性の妊娠・出産・育児への関わり方が具体的な事例を交えて紹介した、イクメンハンドブック」を配布しています。育休を取ることにどういう意味があるのか。自分だけでなく、職場の仲間や家族にどういう効果をもたらすのか。仕事の段取りはどうすればいいのか。短い期間での育休をどのように過ごすのか。こういったことを具体的にイメージして有意義に過ごすこと、男性はこんなふうに関わってみましょうということ、直接的に子どもに関わる育児だけでなく家事を担いで女性の負担を減らすことも重要だということ、そういった内容が盛り込まれています。さらにどういったタイミングで取るのがありがたいか、こういう時期に育休を取ってこんなことをぜひ行ってくださいという具体例が挙げられています。
 また、育休を取得した人の体験談を「イクメンの星」として社内ホームページで発信しています。情報提供の中でこれがいちばん効果的です。本人の体験談ということももちろんありますが、ここには、上司や部下からのコメントもあります。上司はイクメンを応援する「イクボス」としてコメントをし、組織の活性化に繋がったという声が寄せられています。部下からは、仕事を任されモチベーションが上がったという声が寄せられています。こうした情報提供というのは、本人・管理職のモチベーション向上や職場全体でのサポート促進に非常に効果的だと思います。

 これら取り組みの結果、対象者の100%が育休を取得しました。その効果ですが、取得者本人にとっては、自分がいずれ管理職になった時に、この経験が、部下の出産・育児の場面において、心から理解し、上司として適切な対応を取ることにつながります。また、職場にとっては、心配された業績へのマイナス影響はほとんどありませんでした。周りがしっかりした応援体制を取り、残ったメンバーが協力して、業績に影響を出さずに乗り切ることを目標にして取り組んだことで、ほぼ変わらない業績になったのです。
 目標100%に設定したため、大部分の職場で対象者がいることになり、全社的な運動になりました。このことが、女性の育児休業の際にも前向きな効果があったということです。育休を取るまでは紆余曲折ありましたが、取ったことによって、本人、職場、家族、お客様まで、幅広く良い影響を与えたと聞いています。

6.自身の育休体験

 みなさんに身近に感じてもらうために、私自身の体験をお話しします。自己紹介でお話したとおり、私は同期の総合職の女性と結婚しました。妻は今でも働き続けています。会社の中では、都市伝説的に、結婚したら同じビルで働けないとか、同じ地域にはいられずどちらかが地方に転勤になるとか、そういう話がありました。私たちは、「お互い総合職として入社したのだから、それで離ればなれになったとしても、すぐにどちらかが退職するのではなく、一旦離れて、それを受け入れられるかどうか判断してから考えよう」と話し合いました。幸いなことに、私が労働組合の専従になったことなどもあって、今でも2人とも東京で働いています。ただ、私がいずれ会社に戻ったらどうなるのかなということは、心配ではあります。
 共働きをする上で、特に男性の方に重要なポイントがあります。「家事を『手伝う』と絶対に言うな」、これは先輩に言われました。共働きにおいて、家事は男性だけがやるものでも、女性だけがやるものでもありません。手伝うという表現を男性がしたら、家事は女性がやるものだという深層心理が出てしまっているのだと先輩は言いました。結婚して4年になりますが、先輩からの助言にしたがって、家事を手伝うと言ったことは一度もありません。
 また、家事を効率的にやるため、お掃除ロボット「ルンバ」を買いました。土日にやりたいことがたくさんあって、掃除の時間はなるべく節約したかったのです。こういった視点も共働きには非常に重要だと思っています。私は家事では、食器洗い、風呂掃除、洗濯、トイレや洗面所の掃除、「ルンバ」の手入れなどをやっています。
 結婚3年目に子どもが産まれました。この時も妻は働き続けようか迷いましたが、結婚した時と同じ結論で、「まずは育児休業を取って、専業主婦になりたいと思ったら、そこでもう一度考えよう」ということにしました。妻が里帰り出産から戻ってきたときに、私は、妻は育児休業で会社に行っていないのだから、育児や家事を全部妻がやってもいいんじゃないかと思っていました。結果的には私もできる限りのことをやったのですが、妻が育休明けで会社に復帰しているのを見ると、お互いのためにも家事・育児に携わっていて良かったと考えています。最近では「産後クライシス」という言葉が聞かれます。育児がはじまり、女性の生活が一変した際に、男性がそれまでの生活と何も変わらないと、女性のストレスが大変大きくなるというものです。育児がはじまったときに、男性がどういう行動を取るかが、夫婦関係に大きく影響するということです。絶対的な量としては不十分かもしれませんが、夫として精一杯やることが必要なようです。ちなみに当時の私の日課は、娘の熱を計り、おむつを替え、着替えをさせ、その合間に自分たちが飲むスムージーの準備をしていました。朝食を妻と娘と食べ、土日はこれまでどおりの家事をこなした上で、できる限りおむつを替えたり、一緒に風呂に入ったりしていました。娘を寝かしつけていた妻が一緒に寝てしまい、夕飯の食器や洗濯物がそのままだった時には、その片づけをしたりしました。妻が仕事で、私が家事・育児ということも考えられたのですが、子どもが生まれた時には、生保労連の専従になっていましたし、妻としても自分で育てたいという思いがあったので、お互い納得して、妻が育児休業を取る、私が仕事をするという状況になりました。これは夫婦それぞれで考えればいいと思います。実際、同期の総合職の女性には、産休後すぐ仕事に復帰し、別の会社にいる夫が育休を取るという選択をした夫婦もいます。

 次に、妻の育休が明けて職場に復帰した時のことをお話しします。昨年10月に復帰したのですが、まず、どちらが娘を保育園に連れていくかということがありました。妻の職場は丸の内で、たまたま娘の保育所も丸の内になりましたので、妻が送り迎えすることになりました。それによって、朝食の食器洗いと洗濯干しは私の役割になりました。一緒にご飯を食べ、2人を見送ってから、食器を洗い、洗濯を干すという生活です。やはり働きながらの育児は大変です。夜帰って、食器や洗濯物が残っていることが増えました。この4月からは、娘が別の保育所に移ったので、私が送ることになりました。これが共働きの子育ての実態です。妻が専業主婦であれば楽ができるのにと思うこともありますが、それはそれで楽しんでもいて、女性が育児と仕事を両立させるためには、本人の努力もさることながら、夫の協力も必要だと思っています。

 ただ、この課題を解決するためには、長時間労働を男女問わず無くしていくことが必要で、その中で夫と妻のそれぞれが柔軟に対応していくことも必要だと思います。巷では「朝型の働き方の推進」が言われています。これが進みすぎると、「じゃあ娘は誰が送るんだ」ということが起きて、困ってしまいます。すべてはバランスが重要です。家庭と仕事のバランスをどう取るか、夫婦がそれぞれどういう分担をしていくか、それぞれの夫婦で考えていく必要があると思います。また、その状況を職場の仲間に理解してもらい、協力してもらうことが必要不可欠です。女性の職場だけがその負担をすることが多いですが、本来は、男女どちらの職場も負担をする必要があるのです。

 自分の体験談をもう1つお話しします。男性の育休は、私も対象でしたので1週間取得しました。正直な話、男性の育休取得を推進しようという目標がなければ、育休は取得しなかったと思います。かなり後ろ向きな理由ですが、実際はまだまだこんな感じというのが現実です。しかしながら、せっかくの機会ですので、送り迎えや夕食の準備、お風呂、寝かしつけ、そんなことを一通りやってみました。その時は、娘が体調を崩して保育園を休むなど、予定通りにはいかなかったのですが、一緒にいたことで、娘との絆が深まったのではないかと思います。娘と接しながら家のことをやっていると、あっという間に1日が終わってしまい、「あれ、今日は何をやったんだろう」という気持ちになります。これは、妻が職場に復帰する前によく言っていたことでもあり、その感覚を体験することもできました。やってみなければ分からないこともありましたし、それまで思っていたことの再確認をするという意味合いでも、非常に良い経験ができたと思っています。子育ての様子については、生保労連のブログでも紹介していますので、もし興味があればホームページを見てみてください。

7.今後、取り組むこと

 「今後、取り組むこと」として、私見を述べたいと思います。
 まずは「労働組合として」です。これはやはり、組合員の実態を把握していくこと、つまり、組合員の声に耳を傾けていくこと、そしてそれを、職場レベル、会社全体のレベルで、それぞれが課題の解決に向けた活動を地道に行っていくことだと思います。また、ワーク・ライフ・バランスの趣旨を理解することも重要です。単に早く帰る、休みを取るということではダメで、それを生活の充実や仕事の充実につなげていくことが必要なのです。それを組合員自身も理解しなければいけません。

 次に「企業として」です。企業はワーク・ライフ・バランスの取り組みについて、覚悟を持って進めていくことが必要だと認識しています。長時間労働を是正すれば売上が落ちると考えている経営者もいると思います。しかし、生活を充実させることで、仕事への意欲も高まる、それが業績の向上にもつながるという好循環を実現させなければならない世の中になっています。また、少し後ろ向きな話ですが、過労死、働きすぎによる自死が増えている昨今の状況においては、そういったことが起きれば、社会から糾弾され、会社の存続自体が危ぶまれる時代になっています。経営者はよく「お客様のために」と言いますが、それを実践するためには、まずは「従業員のために」ということを考えなければいけないと思います。労働組合としても、現場の実態をしっかり把握して、必要に応じて経営に伝えていかなければいけないと考えます。

 最後は「個人として」です。働く者1人ひとりが真剣に考え、小さなことから実現していかなければワーク・ライフ・バランスの実現はないと認識しています。それには「お互いさま」という精神が何事にも重要であると考えます。共働き育児、介護などの家庭の事情、健康の問題があって、ある程度仕事をセーブしなければならない方もいます。それが、いつ、誰の身に起こるか分かりませんし、好むと好まざるとに関わらず降りかかる可能性だってあるのです。また、働くことに対する意識はそれぞれ異なります。バリバリ働くことを厭わない人もいれば、仕事と私生活のバランスを大事にしたい人もいます。働く者同士、あるいは職場全体として、そういったことを理解し合って、協力していくことが、気持ち良く働くためには重要なことなのです。仕事と生活の両立は、どちらかを選択するという二者択一のものではありませんし、仕事を楽しようというものでもありません。むしろ仕事のやり方は、これまで以上に追い込まれると考えた方がいいでしょう。与えられた仕事を時間制限なく自分のペースでのんびりやるより、決められた時間内で水準以上のパフォーマンスを発揮することの方が仕事としては間違いなく厳しいはずです。しかし、厳しさにチャレンジすることで自分の能力も上がりますし、仕事以外に費やす時間が増えることで、結果として視野が広がり、自分の人間の幅を広げることにもつながるのです。そしてそれが更なる仕事の成果に繋がっていく。生保労連の中期方針で掲げている「仕事と生活の好循環」、これが社会に与える好影響は計り知れません。そして、旧態依然とした男と女の役割分担意識を取り払う必要があると思います。それぞれがお互いどう役割分担して、仕事、家事、育児をやっていくかを考え、実行しなければなりません。まずは男性本人が育児や家事を、覚悟を持ってやることが必要です。これは専業主婦の家庭でも重要なことだと思います。また、女性は仕事にも積極的にチャレンジすることが大切です。女性として自立するために働き続けることが必要になってきます。繰り返しになりますが、そのためには長時間労働の是正が不可欠です。毎日定時に帰る世の中が実現するのかという不安はありますが、そうしなければ現状では男女どちらかが仕事を辞めたり、思ったように働けなかったりと、犠牲にならざるを得ません。

おわりに

 みなさんに2つお伝えしたいことがあります。
 1つめは、ライフ・ワーク・バランスをしっかり考えてほしいということです。バランスは50:50ではなく、人それぞれ、また同じ人でも、年齢、環境によって違うものです。例えば、若い時はワークが多くてもいいと思います。将来的には、家事、育児、親の介護など、ライフに割かなければいけない時間が多くなってきます。そうなったときワークはより効率的に進めなければなりません。いつまでも自分の思いどおりに仕事に関われる保証はどこにもありません。やれる時にとことんのめり込むのも良いと思っています。
2つめは、職場は自分たちで良くするものだという認識を持ってほしいということです。人任せではいけません。日々の仕事においては、集団を構成する一員としての自覚・責任、また参画意識を持つことが大事であり、ぜひそういう意識で仕事に取り組んでほしいと思っています。

 私は4年間労働組合の役員をしています。労働組合の活動は大変勉強になります。みなさんも社会に出て機会があれば、ぜひ労働組合の活動に関わってほしいと思います。日頃は目の前の業務にかかりきりになってしまいます。しかし、労働組合の活動は会社全体を見つめ、組合員の意見を聞いて、どういうものが会社全体に必要なのかを考える良い機会になります。労働組合の活動で様々な意見を聞き、まとめあげていくことは、社会人としても人間としても得るところが大きいと思いますので、機会があったらぜひ、労働組合の役員もやってみてください。

以 上

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