一橋大学「連合寄付講座」

2015年度“現代労働組合論”講義録

第6回(5/18)

職場の課題とその取り組み
労働時間の短縮に向けた取り組み

石井隆之(NECグループ連合・日本電気労働組合中央執行委員長)

1.NEC・日本電気株式会社とは

 みなさんこんにちは。本日は「労働時間の短縮に向けた取り組み」についてお話しします。
 まず、NEC・日本電気株式会社を紹介いたします。会社の設立は1899年で、2015年3月期の売上高は2兆9355億円、当期純利益は573億円です。NEC単体で2万3982人、連結グループをあわせると9万8982人の従業員がいます。グループ会社は232社あります。大きな会社と言えると思います。
 私はNECに入社後、長野県の諏訪市で営業をしたあと、長野市で販売促進をして、その後関西支社に転勤するなど、地方の拠点の勤務を経て、現在、労働組合の仕事に従事しています。ちょうど職場での勤務年数と労働組合での勤務年数が半々ぐらいになりました。私は1991年入社ですので、学生の皆さんからすると、ずいぶんと長く働いていると感じると思います。
 今、NECは「Orchestrating a brighter world 世界の想いを、未来につなげる。」をブランドメッセージとして掲げています。みなさんはNECに色々なイメージをお持ちだと思います。たぶんみなさんのイメージでは、パソコンや携帯電話などが主流なのかなと思いますが、端末、通信機器、コンピューター機器、ソフトウエア製品、サービス基盤などを組み合わせ、「セーフティ」「スマートエネルギー」「ビッグデータ」「クラウド」「SDN」「海底ケーブル」「宇宙」「カーボンナノチューブ」といった領域で事業を展開しています。例えば、「海底ケーブル」では、ケーブルとケーブルをつなぐ「中継器」という光ケーブルで減衰したパワーを増幅させるための機器や、「セーフティ」では、「指紋認証」や「顔認証」なども手掛けています。さらに宇宙事業なども手掛けており、先般地球に戻ってきた「はやぶさ」にもNECの技術や製品が使われています。このように、宇宙から海底まで幅広く事業を展開しています。
 NECは、日本初の外資系会社です。アメリカのウエスタン・エレクトリック社という会社との合弁会社として1899年にスタートしています。そして、NECは住友グループに属しています。元々日本電気でスタートしましたが、戦後の一時期、住友通信工業という社名だった時代がありました。また、NECはダイヤル式の黒電話を作っていたことから、NTTファミリーとも言われてきました。日立製作所、富士通、沖電気、NECの4社が中心となって黒電話や交換機を作りしながらNTTと一緒に大きくなってきた歴史があります。ところで、皆さんは写真電送装置というものをご存知ですか?昭和天皇が即位された際に、そのニュースをいち早く全国に写真で伝えるべく、作り上げたのもので、これはFAXの国産1号機となりました。さらに、NECはスポーツにも力を入れており、現在はラグビーとバレーボールのチームがあります。ラグビーは「NEC Green Rockets」、女子バレーは「NEC Red Rockets」です。なぜ「Rockets」なのか。本社ビルのかたちがロケットに似ていることから、この名前を付けたと言われています。特に女子バレーは10年ぶりにVリーグで優勝しました。皆さんにもNECのスポーツチームを応援頂ければと思います。

2.日本電気労働組合とは

 1945年にNECの各工場で労働組合が結成され1946年に日本電気労働組合が結成されます。戦後、日本の民主化を進めていく中で、GHQが各企業に労働組合の結成を促したことが背景にあります。現在の組合員数は1万4000人で、その中で執行委員が66人、執行委員のうち組合の仕事だけをしている専従執行委員と言われる人が33人、職場と兼務している人が33人おります。私は専従執行委員ですので、給料は日本電気労働組合からもらっています。
 組織としては、東京都港区に「本部」と「本社支部」、東京都府中市に「府中支部」、神奈川県川崎市に「中研・神奈川支部」、千葉県我孫子市に「我孫子支部」があります。特徴としては、相対的に女性執行委員が多いことが挙げられます。執行委員66人中9人が女性です。専従執行委員でいうと、33人中7人が女性です。今度どこかの労働組合の人に質問する機会があれば、「女性執行委員は何名いますか?」「女性の専従執行委員はどのぐらいいますか?」と聞いてみてください。労働組合の専従執行委員でこれだけの比率の女性がいるところは珍しいと思っています。
 会社は社長を筆頭に、役職のない担当まで、色々な立場の人が働いていますが、組合員の範囲は担当から主任までです。マネージャー以上は管理職と呼ばれています。1万4000人の組合員の職種は、営業、SE(システムエンジニア)、開発、製造検査、企画事務、研究など様々です。

3.労働時間の法的背景

 さて、これから「労働時間短縮」の話をします。その前に労働時間について、法律ではどのように定められているのかについて、2つのことをお話しします。
 1つめは「法定労働時間と36協定」についてです。労働時間については、労働基準法の第32条で「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」と定められています。実際には1日8時間以上働いている人もいるではないかと思うかもしれません。時間外および休日の労働については、労働基準法の第36条に「時間外労働を行うためには、労使で時間外労働協定『36協定』を締結する必要がある」という主旨の記載があります。したがって、残業というのは「36協定」を労使で締結していないとできません。この「36協定」という言葉を覚えておいてください。残業時間の限度については、例えば1年間で360時間、さらに3ヶ月で120時間という規定があります。しかしながら、「臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わざるを得ない特別の事情が生じた場合に限り、『特別条項付き36協定』を労使で締結することによって限度時間を超えて時間外労働を行うことができる」のです。この「特別条項付き36協定」には法律上で時間の上限が規定されておらず、労働組合としては、過重労働とならないよう上限の時間を会社と協議の上で設定します。そこで取り決めた条項が協定となり、それが法律になるというイメージで捉えていただくとよいのかと思います。
 2つめは「時間外賃金(残業代)」についてです。毎月の賃金を1ヵ月の労働時間で割ると時給が算出できます。法定では残業をすると時給の125%の賃金が支払われます。深夜残業をすると150%です。休日出勤をすると135%になります。また、月間60時間以上の残業をすると150%になります。この月間60時間以上で割増になる仕組みは企業に残業をできるだけさせないようにとの思いで最近作られた法律なのですが、それでも月60時間以上の残業をせざるを得ない働き方をしている人たちも決して少なくありません。今申し上げたのはあくまで法律に定められた最低ラインですので、労使の交渉や協議によって、これ以上の割増率を労働条件としている会社はたくさんあります。ちなみにNECは、労使で協議をして法定以上の割増率を設定しており、例えば、休日出勤すると145%になります。
 昔、「生活残業」という言葉がありました。残業をすれば時間外賃金がもらえるので、生活のために残業をしてしまうことを生活残業と呼んでいたわけですが、近年ではあまりそういう言葉は聞かなくなりました。私が労働組合の活動をしていても、生活残業をしている人はあまり見かけません。ここでは、所定労働時間以上働くと、割増賃金が支払われるということを覚えておいて頂ければと思います。

4.労働時間短縮の目的

 なぜ労働時間を短縮しなければいけないのか。目的を4つ挙げます。
 1つめは「生産性の向上」です。短い労働時間でたくさんの結果を出すというのは働く上で当然望まれることです。
 2つめは「労務リスクの削減」です。働きすぎによって心身の健康を損ねてしまう可能性があります。心身の健康を害し、働く人が離脱してしまえば、さまざまな問題が発生します。心身の健康を維持するために、労働時間を短くするということです。
 3つめは「残業コストの抑制」です。リーマンショック以降、会社の業績が非常に悪くなりました。そうすると、会社は残業代を削りたいと考えます。高度成長時代、ものを作れば売れた時代には、どんどんものを作って、どんどん売るために、できるだけ長い時間働いていました。ところが、グローバル競争が激化し、単に作るだけでは他社に勝てない時代が訪れると、生産性の向上とともに、コスト削減のため「残業は極力少なく」という発想になるのです。
 4つめは「ワーク・ライフ・バランス」です。この言葉は「仕事と生活の調和」という意味で、昨今良く言われるようになりました。仕事と自分の生活とのバランスをきちんと取っていくことが、働く人のモチベーション向上にも繋がるし、様々な良い状況をうむ。だからこそ、働きすぎずに生活とのバランスを保つことが重要であるという考え方が出てきました。

5.総実労働時間とは

 私たちが働いた時間の合計を「総実労働時間」と言います。「総実労働時間」は「所定内労働時間」と「所定外労働時間」を合計し、そこから休暇取得の時間を引いたものです。「所定内労働時間」とは、就業規則で決められた労働時間のことです。具体的には、始業時間と終業時間から休憩時間を除いた時間です。「所定外労働時間」とは、残業したり、休日出勤をした時間のことです。ここから、有給休暇の取得などによって、働かなかった時間を引くことで「総実労働時間」が算出できます。日本の一般労働者(パートタイム労働者以外の者)の「年間総実労働時間」を見ると、2008年の2032時間に対し、「リーマンショック」の影響もあり2009年は1976時間と一時的に減少しましたが、最近はまた増加傾向にあります。

6.労働時間削減に向けた取り組み

 労働時間を下げるにはどうしたらいいのかについて、これからいくつかの取り組みをご紹介します。

(1)所定内労働時間の短縮

 これは就業規則で決められた労働時間を短くしていこうということです。そのための方法として2つの例を挙げます。
 1つめは1日の所定内労働時間を短縮することです。我々電機産業で働く仲間の1日の所定内労働時間は、64%の人が7時間45分、19%の人が8時間なので、80%を超える人が7時間45分から8時間の間で働いています。他の業種では異なっているかもしれません。
 NECでは1995年に所定内労働時間を8時間から7時間45分に短縮しましたが、その際「始業と終業のどちらを15分短くしたら良いと思うか」というアンケートを労働組合が行ったことを覚えています。8時半から17時半まで働いていて、どちらを削るのが良いと思いますか?まだ働いたことがないから分からないかもしれませんが、朝の通勤ラッシュなどを考えると、始業時刻を遅らせたいという意見がありますね。一方、育児などをしていると、終業時刻を早めたいという意見もあります。結果的にどちらを選択したかというと、終業時刻を15分早めて、17時15分までにしました。このように所定内労働時間を短縮するというやり方があります。
 このような話をすると、もっと短くすればよいのではないかと思う人もいらっしゃると思いますが、所定内労働時間の短縮は大変なことなのです。なぜかというと、決められた賃金で労働時間を短縮するということは時給のアップにつながります。残業コストなどにも影響を及ぼしますし、競合他社が働いているのに、自社の働く時間が短くなるというわけですから、このような時間短縮を会社は簡単には良しとはせず、1995年以降は短くなっていません。
 2つめは年間所定労働日数を削減することです。年間の所定労働日数に1日の所定内労働時間を掛けると年間所定内労働時間が出てきます。よって掛ける日数を減らせばよいということになります。NECでは1984年に完全週休2日制を導入しましたので、ここで一気に労働時間が短くなりました。土曜日に働かなくなったからです。さらにNECでは、労働組合が会社と交渉して2日間の「特別休日」を得ています。毎年NECの勤務カレンダーを決める際に、特別休日をどこに設定するのかを協議しています。ゴールデンウイークに1日、年末に1日というのが定番ですが、ゴールデンウイークが長い場合や、年末の休みが長い場合には変更する時もあります。
 また、国では様々な日を祝日にしています。現在も国は8月11日を「山の日」として祝日にしようとしていますが、「労働協約」という組合と会社の約束の中に、「山の日を休みにする」という文言を入れなければ、いくら祝日になっても会社は休みとなりません。というわけで、現在山の日を休日にするという協議を会社としています。特別休日の設定や休祝日の増加により労働日数が減りますので、時間短縮につながっていきます。

(2)所定外労働時間の短縮

 所定内労働時間を短縮するための2つの例を挙げましたが、これらは会社との交渉事であり、なかなか前進するのが難しいと労働組合で活動していて実感します。では他にどのようにすればよいかというと、所定外労働時間、いわゆる残業時間を少なくしていく方法があります。

[1] 超長時間労働の削減
 NECにはSEという職種の人たちが多くいます。SEとは、コンピューターのソフトを作ったり、システムを構築したりする人たちのことです。止まってはいけないシステムってたくさんありますよね。そういったシステムにトラブルが起きた場合は、それが休日であろうが深夜であろうがすぐに復旧作業をしなければなりません。それだけではなく、お客さんに納入するコンピューターを納期までにシステムとして完成させなくてはならない中で、約束した処理スピードやアウトプットが出ない場合もあります。これではお客さんに納入できないので何度もチェック、改善することとなり、また残業が増えていくということもあります。昔に比べればだいぶ良くなったと思いますが、SEは残業時間が多いと言われています。こうした「超長時間労働の削減」のために、労働組合としても2つの取り組みを行っています。
 1つめは「特別限度時間の設定と引き下げ」です。先ほど36協定の話をいたしましたが、労働組合が36協定を結ぶと、3ヶ月で120時間、年間で360時間まで残業ができます。問題は、特別条項付き36協定ですが、この協定が法律となる中では、万が一のことも踏まえ、水準の引き下げについて会社は消極的です。そこで、会社と協議の上、「特別限度時間」という労使の約束の限度時間を設け、運用において労使で働き過ぎていないかチェックを行っています。現在、NECでは「特別限度時間」を3ヶ月で180時間、年間で700時間にしています。以前は3ヶ月で210時間、年間で800時間に設定していました。労働組合としては、この特別限度時間の引き下げに注力して取り組んでいます。
 また、特別限度時間を超える可能性がある場合は、その事業の責任を持っている会社の役員が、労働組合に対し、対象組合員が長時間労働になってしまった理由やその対策を労働組合に説明するといったスキームをもって残業管理しています。超長時間労働は、トラブルが発生したり、人の手が足りなかったり、組合員一人ひとりではどうにもならない状況の中で発生することが多くあります。そこで、事業の責任者である役員に対し、「このプロジェクトには人が足りないから増やしてほしい」、「このトラブルを早く解決するために、人の投入やマネジメントの強化が必須」など直接改善の申し入れを行なっています。特別限度時間を超えると、役員が労働組合に説明しなければいけないということをきっかけに、できるだけ長時間労働を避けようという意識も少しずつですが組織の中に根付いてきています。昨年は年間700時間を超える人は1人もいませんでした。
 労働組合としては、今後この特別限度時間をさらに引き下げていきたいと考えています。
 2つめは「勤務管理システムの導入と入退場ゲートデータの活用」です。NECではオフィスに入る際、セキュリティの観点で社員証をかざさないと出入口のゲートが開かない仕組みになっていますが、その入退場データを管理しています。この仕組みを活用したことで、労働時間管理に非常に大きな影響がありました。
 NECには「勤務管理システム」というものがあります。このシステムは、残業の申告や休暇の申請、承認を行ったりするWeb上の仕組みです。今月はこれだけ休みを取って、これだけ残業をしたということを各人が勤務管理システムに登録し、上司が承認をします。実はこの勤務管理システムは入退場ゲートデータとリンクしていて、どのゲートを何時に通過したかというデータが取り込まれています。例えば、出社時は組合事務所の入口を8時21分に通過して、帰る時には18時に通過したというようなデータです。
 このシステムを超長時間残業の削減に活用しています。例えば、1時間しか残業の申告をしていないのに、深夜にゲートを通過している人がいたとします。この差は何なのか。サークル活動なのか、労働組合のセミナー参加なのか、仕事をしていたのか。皆さんは「残って仕事やってほしい」と上司に言われたら「いいですよ」と言って残業を行うと思いますが、会社の中にはいろいろな人がいます。「あー、やりたくない。帰りたい」と思いながら残業をしている人もいれば、「なんとしてもこの仕事を仕上げてやる!」と自ら進んで残業する人もいます。さらには良いことではありませんが、残業代が出なくてもいいから仕事をしたいという人もいます。そこで、この入退場データを見てチェックをしているのです。これは組合員本人だけではなく、上司もすぐに見ることができるので、「あれ?昨日はなぜこんなに遅くに退社したのだろう」ということがすぐに分かるのです。ですから、上司が「残業した分はちゃんと申請しなさい」と言ってサービス残業を防ぐこともできますし、指導として「こういう仕事の仕方ではダメ」と言うこともできます。これは超長時間労働を削減する効果があります。

[2] 時間外労働の削減
 超長時間労働者以外の人たちには、どのように「時間外労働の削減」をしてもらうのか。3つの取り組みをお話しします。
 1つめは「定時退社日の設定」です。これは労働組合と会社が協力して実施しています。毎週水曜日と給与や賞与(一時金)の支給日は、朝出社すると「本日は定時退社日です」と放送があります。お昼にも「本日は定時退社日です。計画的に仕事を終わらせて帰りましょう」と放送があります。夕方17時15分にも放送があり、それと同時に労働組合と会社が一緒になって、「定時退社パトロール」を行っています。メガホンを持って「早く帰ってください」と言って社内を回っています。残業をしていると、仕事をやっているように思われるから、評価が良くなるのではないかと考えて、上司より先に帰りたくないという人たちがいます。逆に、早く帰りたいけれど、上司が帰らないのでなかなか帰りづらいという人もいるのです。一部には、帰る間際に「これお願い」と部下に仕事を指示するような上司もいます。こういう人たちをなくすことも含めて、「帰ってください」と言うことで帰りやすくする。非常に原始的なやり方ですが、比較的効果はあります。また、勤務管理システムを使って、職場単位で定時退社率を出すことも可能になりました。何%が定時で帰り、何%が残っているというデータを取っています。前述したように勤務管理・入退場のシステム化の成果と言えると思います。
 2つめは「フレックスタイム制度の活用」です。「フレックスタイム制度」はみなさんご存じですか。「コアタイム(一斉就業時間)以外において始終業時間を個々人が選択できる」という制度で、1ヶ月以内であれば労働時間の清算が可能となるものです。この制度を使えば、「昨日は遅くまで残業せざるを得なかった代わりに、来週のこの日は比較的仕事が少ないので、早く帰ろう」ということが可能になります。残業した1時間と遅く来た1時間が相殺されて、清算ができるということになります。
 ところが、このフレックスタイム制度を廃止したり、コアタイムを見直したりしている会社が、最近増えています。実は過去NECでも一時制度を休止したことがあります。皆がフレックスタイム制度を使うことで、職場の全員が揃う時間が限られてしまうためです。その後、労使で働き方を改めて見直していくなかで、現在NECの「コアタイム」は8時半から15時までとなりました。NEC同様、フレックス制度を見直した会社も出てきていると聞いています。業務の繁閑時期に応じてうまく制度を利用することで、従業員もメリハリが付けられ、時間外労働を削減することができます。
 3つめは「代休の取得」です。代休とは、休日出勤した場合に代わりに取得できる休暇のことで、働く者の権利です。NECでは、休日に4時間以上の勤務を行った場合は、代休を取得できることになっています。しかし、組合員はこの仕組みをなかなか使いたがりません。仕事が溜まるので休まないという人もいますし、代休を取るくらいなら消化しきれていない有給休暇を取りたいという人もいるためです。代休というのは、休日に働いた代わりに平日に休みを取るということですから、休んだ平日の賃金は差し引かれます。ところが有給休暇というのは、賃金が100%支給される休みなのです。本来、有給休暇はいつ使ってもいいものなので、この場合、休日出勤の代わりの休暇ということではなく、単純に休暇を取得しているという考え方になります。ですから、代休の代わりに有給休暇を取るというのは本来あり得ない話です。そのことをなかなか理解できずに休日出勤の代わりに有給休暇を使っているというケースが多く見受けられます。
 本来、通常のマネジメントの中で「来週の日曜日に出社してほしい。代休はいつにしようか?」「分かりました。代休は火曜日にします」というように、休日出勤と代休がセットになった上司部下の会話ができていればいいのですが、残念なことにそれができていない場合も少なくありません。今では、休日出勤したらいつ代休を取るのかを同時にマネジメントできるように変えていこうと会社も努力をしています。休むべき休日に出勤したのだから、しっかりとその分を別の平日に休むことができれば労働時間を削減することができます。

(3)休暇取得など

 時間外労働を削減するだけでなく、有給休暇を取得してもらうための取り組みも必要です。ここでは4つの取り組み例をお話しします。
 1つめは「労使によるイエローカードの送付」です。これは、例えば8月末時点で4月から5日間しか有給休暇を取得していない人に、労働組合から「有給休暇をもっと取得しましょう」というメールを送るものです。さらに、会社からその対象者の上司に向けて「この人はこれだけしか休んでいません」というメールを送ります。現在、設定している条件は、8月末時点で6日未満、11月末時点で8日未満です。有給休暇の取得が増えれば、労働時間は減ります。しかしながら、休んでしまうと仕事が溜まるので、特別な用事がなければ取得したくないと思う人もいるのが実情です。また、寂しい話ですが、休んでもやることがないという人もいます。
 2つめは「休暇ビラやワーク・ライフ・バランスカレンダーの配布」です。いまだにこんなことをやっているのかと思われるかもしれませんが、「休暇を取りましょう。今のNECの有給休暇取得日数の平均はこうなっています」というビラを会社の入口で配布しています。自分が平均以下だと思っている人は少ないからです。また、前述した特別休日や定時退社日(給与支給日、賞与支給日)なども表記したNECオリジナルのカレンダーを労働組合が作成し組合員へ配布しています。
 なぜこのようなことを行っているのかというと、私たちは「有給休暇切り捨てゼロ」を目指しているからです。「毎年もらえる有給休暇を捨てない。切り捨てゼロ」にするべく、組合員の皆さんにビラやカレンダーを配布し、意識の醸成を図っています。
 ちなみにNECのルールでは、勤続5年未満の人は年間20日、勤続5年から15年の人は年間21日、勤続15年以上の人は年間22日の有給休暇が毎年もらえます。また、それぞれ未使用分は最大40日、42日、44日まで積立が可能です。これだけの有給休暇がもらえるのです。NECの平均休暇取得日数は2014年度15.84日となっています。これは多いと思いますか?少ないと思いますか?日本の有給休暇取得日数の平均は9日ぐらいですから、この結果は上位の方だと思います。電機業界は比較的休みやすいと言えます。金融業界は一般的に有給休暇取得率が低いと言われています。有給休暇の取得率なども、就職の際には見て頂ければと思います。
 3つめは「ファミリーフレンドリー休暇」と「リフレッシュ休暇」の取得です。「ファミリーフレンドリー休暇」は、例えば「学校行事等への参加」を理由に使用することができます。年次有給休暇とは別に毎年5日間付与されていて、学校の送り迎えや運動会などの際に使用できます。雨で日曜日の予定だった運動会が火曜日に変更になってしまった場合にも使用することができます。また「ボランティアへの参加」でも使用可能です。
 「リフレッシュ休暇」はご褒美的な要素もありますが、30代、40代、50代、それぞれの年代になった時、今後どのようにキャリアを描いていくかを考えるための休暇という位置づけです。30歳の翌年に5日間、40歳の翌年に7日間、50歳の翌年に10日間、有給での休みがプラスしてもらえます。こうした休暇を増やしていくことが、総実労働時間を下げることにつながります。
 4つめは「外部講師によるセミナーの開催」です。もっと休みを取ってほしい、残業を減らしてほしいと思っても、どうしても働いてしまう人がいます。そういう人たちの意識改革やきっかけづくりのためのセミナーを開いています。今まで、東レ経営研究所の佐々木常夫さん、トリンプ・インターナショナル・ジャパン(株)元社長の吉越浩一郎さん、(株)ワーク・ライフ・バランス社長の小室淑恵さんなどをお呼びしました。セミナーを通じて、「私もワーク・ライフ・バランスを考えてみようかな?もっと休んでみようかな?」と考えるきっかけになればという思いで開催しています。

7.裁量労働と健康確保措置

 NECでは、多くの主任は「裁量労働制」にもとづき、一定の手当をもらった上で「実労働時間」ではなく、いわゆる「みなし労働時間」で働いています。残業代の計算が不要なので労働時間は関係がないということではなく、健康確保のために労働時間の管理を行う必要があります。会社は裁量労働制を入れても、従業員の健康管理はやらなくてはなりません。入退場データを活用して、毎日遅い時間まで働いていないか在社時間をチェックしています。

さいごに

 これから、なぜ労働時間の短縮をしていかなければならないのか。それを説明して終わりにしたいと思います。先ほどお話しした通り、目的としては、「生産性の向上」「労務リスクの削減」「残業コストの抑制」「ワーク・ライフ・バランス」の4つがあります。その背景について4つのことを指摘しておきたいと思います。
 1つめは「イノベーションの創出」が必要ということです。イノベーションとは「新しいアイデアで新しい価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす」ということだと思います。私は若い頃、携帯電話にカメラや定期券の機能が付くとは思っていませんでした。また、インターネット上に本屋ができるなんてことも思っていませんでした。このような新たなビジネスモデル、イノベーションを生み出していかないと、今後グローバル競争の中で勝ち残っていくことはできないと感じています。労働時間の削減で、会社と自宅の往復以外に色々な人との繋がりを持つことで、イノベーションを創出する環境を作っていかなければならないと考えています。イノベーションを生み出すためにも、総実労働時間を下げることが必要なのです。
 2つめは「ダイバーシティの推進」が必要ということです。これは多様性を認め合うということです。これからは女性にもっと活躍してもらわなくてはいけないし、外国人や障がいがある人たちやいわゆる「LGBT」の人たちとも一緒に働いていく時代です。同時に、その人たちが求めるものを発掘しなければダメだということです。
 インドではクーラーにリモコンはいらないのだそうです。なぜだか分かりますか。クーラーを1回つけたら消さないからだそうです。ずっとクーラーが回っているので、クーラーの耐久性が強い製品が良いというのです。それが、インドのマーケットのニーズなのです。ニーズを把握するためには、インドの人たちと話さなければいけません。
 多様性を認め合うためにも、その時間と環境をつくりださなければなりません。そのためにはなんとしても残業時間等を削らないといけない。すなわち所定外労働時間を削らないといけないのです。
 3つめは「直面する介護」についてです。高齢化社会が来ているのはみなさん分かりますよね。育児は計画ができますが、介護は、いつ、どこで始まりどこで終わるのか予想ができません。残業を前提とする働き方では、いざ介護に直面した時に、求められる仕事が終わらず介護と仕事の両立ができないということとなってしまいます。普段から、残業を前提とせず、時間内で終わらせるようにしておかないと、この時代を乗り切れないのだということだと思っています。
 4つめは「長生き時代」についてです。昔よりも長生きする時代が来たのです。このような時代の中で、仕事、そして残業をといった会社と自宅の往復しかしないような生活を送ってしまっては、60歳や65歳で定年を迎えてから亡くなるまでの約20年、何もすることがないということになってしまいます。老後を豊かに送るためには、今のうちからマンションの自治会でもいいし、地元の祭りでもかまいませんので、地域社会への参画などさまざまななつながりを作っていく必要性があると感じています。会社人間、仕事人間のみでは定年を迎えた時に寂しい人生を送ることになってしまいます。
 これらのような背景も踏まえ、労働時間の短縮に取り組むことがとても重要だということを皆さんに理解して頂きたいというのが私の思いです。
 最後に「労働時間の短縮・適正化に向けて」ということで、ワーク・ライフ・バランスの実現を企業・社会の価値として発展させないといけないと考えています。ワーク・ライフ・バランスが実現できて、残業が少なく、女性が働きやすい会社こそ良い会社だという認識を社会全体で共有するべきだと思います。そのためには、働く人たちのさらなる意識改革を進めなければなりません。
 これから皆さんが社会に出て働いていく上で、何が重要なのかしっかりと考えて働いてほしいということを私から皆さんへのメッセージとして送りたいと思います。

以 上

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