一橋大学「連合寄付講座」

2014年度“現代労働組合論I”講義録

第8回(5/30)

職場の課題とその取り組み
非正規労働者の組合加入にむけた取り組み~日本ハムユニオン事例紹介~

白神直大(日本ハムユニオン中央執行委員長)

はじめに-自己紹介

 みなさん、こんにちは。日本ハムユニオンで中央執行委員長している、白神と申します。私は日本ハムに1998年に入社しました。最初に配属されたのは経理部ですが、現在、会社は休職扱いで、労働組合の仕事をしています。

1.日本ハムグループとは

 日本ハムグループはグループ会社90社、従業員総数2万9,000人を有する組織です。日本ハムというとハムやソーセージを作っているイメージが強いと思いますが、グループでみると、食肉が売上げの半分を超えます。次に、ピザ、パンケーキ、冷凍食品などの加工食品が20%を占め、ハム・ソーセージ製品は全体の14%弱しかありません。その他に、水産物や乳製品も扱っています。
 2014年3月末決算で、売上高は1兆1,220億円です。スーダンの国家予算とほぼ同じ規模です。営業利益は357億円です。世界17の国と地域で事業を展開しており、従業員2万9,000人のうち6,800人が海外で働く仲間です。
 日本ハムグループはモノづくりだけではなく、バーティカル・インテグレーションというシステムを構築して、牛や豚を育てるところからお客様に届けるところまで、一貫して自社グループで行う体制をとっています。生産飼育は、国内で育てる場合もあれば、海外で育てる場合もあります。一例を挙げると、オーストラリアにオーキーホールディングスというグループ会社があり、山手線の内側と同じくらいの広大な農場で牛を育てています。加工工場は国内に数ヵ所あり、お得意先まで届けるための物流網も持っています。このように生産飼育から処理・加工、物流、販売まで一貫した体制をとっている企業は、国内には日本ハムグループしかありません。
 その他の事業として、プロ野球球団「日本ハムファイターズ」や、Jリーグのサッカークラブ「セレッソ大阪」の運営も行っています。

2.日本ハムユニオンとは

(1)組織人員
 労働組合の話に入りましょう。日本ハムには日本ハムユニオンという組合があり、日本ハムグループの各社にもそれぞれ労働組合があります。日本ハムユニオンは組合員数3,100人のうち、正社員が1,500人、非正規社員が1,600人という構成です。正社員の内訳は、男性が1,200人、女性は300人で、大半を男性が占めています。最近は女性の採用を増やしていますが、まだまだ男社会といえます。一方、非正規社員の内訳は男性が700人、女性が900人で女性の方が多いです。労働組合の中央役員は22人いますが、職場の執行委員には、私のように組合の仕事だけに従事している人(いわゆる専従役員)だけではなく、会社の仕事をしながら、終業後もしくは休日に組合活動をする、という二足の草鞋を履いている人もいます。

図表1 人員構成

 皆さんも将来、何らかの形で労働組合に関わる可能性があります。というのも、多くの大手の企業に労働組合があり、しかも中堅以上の企業ではユニオン・ショップ制をとっているところが多いからです。ユニオン・ショップ制では、組合を辞めると、会社はその人を即座に解雇しなければならないという協定が会社と労働組合で結ばれているため、正社員として入社したら必ず労働組合に入ることになります。ちなみに、日本ハムユニオンもユニオン・ショップ制をとっています。

(2)組合役員を続けてきた理由
 組合の組織体制は、中央本部のほか、工場や営業所など職場ごとに10の支部で構成されています。私は2001年から組合の仕事に関わるようになりました。当時、名古屋支社に勤務しており、中央で組合役員をしていた先輩が私の上司に「白神君を後任にしたい」と相談し、勝手に決められてしまったのです。私は何がなんだかよく分からないままとりあえず引き受け、現在に至ります。
 組合役員を辞めようと思えばいつでも辞めることはできましたが、最終的になぜ委員長にまでなったのか。会社で働く中で、自分が見えている範囲は、せいぜい半径数メートルです。経理部の場合、牛や豚を育てる現場を見に行くことはないですし、配送する人たちと話すこともありません。日本ハムの規模でいうと、定年までに知ることがない業務はとても多いんです。しかし、組合の仕事に携わると、グループ全体でどのようなことが行われ、経営者はどういうビジョンを持っているかということが見えてきます。そうなると会社の事が好きになってくるのです。
 経営者というのは従業員にとって遠い存在ですが、従業員のことをよく考えてくれています。しかし、その思いに反して、現場では利益が優先視され、経営者が考えていることと、職場の上司が考えていることとの間にかなりのギャップが生じています。その結果、従業員のモチベーションは下がってしまうという状況があります。そのギャップを経営者に伝えるのは労働組合しかありません。労働組合に入れば、会社の全体像を知ることができるし、多くの仲間と関わりを持てて視野が広がります。これが私が組合の仕事を続けてきた理由です。
 会社は経営者が優秀でなければなりません。あわせて、従業員自身のやる気や「良いモノを作ろう」という気持ちがなければダメだと思っています。経営者が「美味しいものを届けたい」というコンセプトを持っていても、従業員がその思いを共有していなければ、達成できないし、売れません。会社も存続しないと考えます。いかに従業員がやる気を持って働けるかを目指して、労働組合は活動をしているのです。

(3)組織人員の推移
 図表1は、2002年と2013年における正社員と非正規社員の推移を示しています。2002年は正社員が2,900人、非正規社員が2,000人でした。ところが2013年になると、正社員と非正規社員の数が逆転しました。これは、2002年に会社が不祥事を起こしたことが原因です。そこから、コスト削減のため、正社員を減らして非正規社員を増やそうという動きになり、人員の構成が大きく変わっていきました。それまでは、組合員イコール正社員でした。しかし、2013年には正社員が非正規社員の数を下回り、正社員だけでは組合が従業員代表になり得なくなりました。そこで、非正規社員を労働組合に組み入れることにしたのです。もしそこで方針を転換していなければ、今ごろ組合員は半減していたでしょう。

3.非正規労働者とは

(1)非正規労働者とは
 非正規労働者とはどういう人たちを指すでしょうか。契約期間が限られている、労働時間が正規労働者より短いなど、いろいろな定義があります。一般的に、正規と非正規労働者の間に、賃金や福利厚生での処遇面に差があり、今問題となっています。
 非正規労働者を安い賃金でたくさん働かせ、契約は1年更新と言いながら何年も雇い続けるということがまかり通ってきました。しかし、2008年にリーマンショックが起きた時、簡単にクビを切ったため、日比谷公園に「年越し派遣村」が開設され、大きな社会問題になったのです。正社員は法律で守られているので、なかなか解雇できませんが、非正規の人たちは契約期間が短いので数ヶ月、数年で契約を終了させることができます。ですから、非正規労働者には、いつ契約が打ち切られるか分からないという雇用不安と、結婚、子育て、住宅ローンなど将来に対する生活不安が常につきまとっています。

(2)非正規労働者の現状
 みなさんは、非正規労働者は自分とは関係がないと思われるかもしれません。ですが、今の時代は何があるか分かりません。もしかしたら非正規労働者という働き方を選ばざるを得ないことがあるかもしれません。正社員として就職したとしても、周りには非正規労働者がたくさんいる可能性だってあります。
 一橋大学における2011年度の就職先情報をホームページで調べてみました。社会学部にだけ絞ってみると、製造業がダントツで多く、2番目が金融、3番目は建設・不動産・官公庁となっています。
 日本ハムを含め、製造業には非正規労働者がたくさんいます。保険業界では、非正規雇用の形態で、保険の契約数に応じた報酬を得るという働き方をしている人が多いようです。大手保険会社で働く知人は、自分の売り上げが伸びなければ突然雇用を切られてしまう可能性もあり、生活に大きな不安を感じていると言っていました。
 一橋大社会学部の就職先として、マスコミも人気があることが分かりました。春闘の取材を通して知り合ったテレビ局の記者に、「あなたの会社に非正規労働者はどのくらいいますか」と質問したところ、「大半がそうです」という答えが返ってきました。番組制作に至っては、テレビ局ではなく下請けの制作会社に作らせており、現場では多忙のあまり10年ぐらい家に帰れない生活を続けている人も多いのだそうです。
 総務省統計局の「労働力調査」によると、正規労働者は3,233万人で、昨年から比べると22万人減少しています。一方、非正規社員は1,964万人で、昨年より77万人増えています。実態として、非正規で働いている人の方が世の中にはたくさんいることが窺えます。

(3)非正規労働者の増加と賃金の減少
 なぜ非正規労働者は増えているのでしょうか。日本ハムの場合、主にコストの問題でした。これは、スーパーのピザ売り場に行くと分かりやすいです。ピザのパッケージはどれも似通っていて、パッと見ではどこの会社の商品か判別できません。その時にピザを選ぶ基準は何になるかというと、値段です。日本ハムの商品が他社より高ければ買ってもらえないです。しかし、値段を安くするのは簡単ではありません。モノを作るには手間もお金もかかります。できるだけ製造原価を下げようとしますが、仕入原価を下げるには限界があり、コストをどんどん切り詰めていった結果、辿り着くのが人件費なのです。
 では、なぜ非正規労働者の賃金なのでしょうか。例えば、みなさんが時給1,000円のアルバイトをしているとして、急に「経営が厳しいから900円で働いてほしい」と言われたら納得いかないでしょう。つまり、今働いている人たちの給料は下げにくい。これと同じことで、正社員の賃金は下げにくいので、新しく入ってくる非正規社員たちの賃金を下げるのです。例えばこれまで時給1,000円だったのを800円にして募集するわけですが、それでも働きたい人は来ます。これを繰り返していくうちに、正社員の数は抑制され、賃金の低い非正規社員がどんどん増えていきます。こういうわけで、日本ハムも非正規社員が増えていきました。ここでやっと労働組合の登場です。

4.非正規労働者の組織化を進めた背景

(1)きっかけ
 日本ハムで、2002年8月6日に不祥事が発生しました。奇しくもハムの日(8月6日)です。当時、BSE対策として国による国産牛肉の買取制度があり、買取申請した内容に対して補助金でバックしてもらう仕組みがありました。しかし、日本ハムは買取対象外の輸入牛肉を混入して無断で焼却し、不正に補助金を受け取るという不祥事を起こしてしまったのです。会社としてやってはいけないことですので、当然、日本ハムは大バッシングを受けました。実はこれは、日本ハム本体ではなく、グループ会社が起こした事件だったのです。しかし、日本ハムグループの問題だから、日本ハムが責任を取ることになり、日本ハムのすべての商品が売り場から消えました。回収された商品は工場に送り返され、工場に勤務する人たちは、自分たちが作った商品を焼却するのが毎日の仕事になりました。もちろん商品を置いてくれるお店などありませんから、新しく作ることもできません。
 この時に問われたのは、コンプライアンス(法令順守)経営の必要性です。法律で定められた当たり前のことを守るということです。悪いことをして儲けることは世の中から認められないし、市場から爪はじきにされます。つまり、正しいことをやりながら利益を出し、会社を成長させましょうという考え方です。改めてグループ全体でコンプライアンス経営を行うことになりました。
 実際にモノを作ったり売ったりしているのは現場の社員です。悪いことを発見できるのも社員、つまり組合員なのです。となれば、組合員がコンプライアンス経営の意識を持ち、経営側が悪いことをやっていたら「おかしい」と経営側にしっかりと伝える必要性を感じたのです。それをやらなければ会社自体がなくなってしまいます。日本ハムの前に不祥事を起こしたのが雪印食品です。当時の雪印食品はあとかたもなく消えました。一つの不祥事で会社自体が脆くも消え去る時代です。グループ全体3万人の生活を守るためにも、しっかりと経営をやっていく必要があると思いました。

(2)労働組合の取り組み
 では、労働組合はどうしていったらいいか。さまざまな課題に直面し、会社の絶体絶命の危機、我々労働者、労働組合における危機が相まって、非正規社員の組織化をやらねばならないと痛感しました。
 ここで、『壁を壊す』(第一書林、2009年)にまとめられている「代表性の危機」「集団的発言メカニズムの危機」「社会性の危機」という3つの観点からご説明したいと思います。

[1]代表性の危機
 まず「代表性の危機」で、労働組合としてのコンプライアンスに関わるものです。1999年の労働基準法改正により、労使協定を結ぶ労働者の過半数代表者についての資格や選出方法が明確になりました。そもそも労働組合は従業員の代表として経営に対して声を上げていくものです。会社は、3,000人いる従業員のうちわずか10人が声を上げたとしても聞いてはくれません。しかし、従業員の大半がそう思っていることになら耳を傾けますから、やはり労働者にとっては代表権を取りたいところです。
 2002年の日本ハムユニオン支部別非正規労働者比率をご覧ください(図表2)。拠点ごとに見ると、工場部門の多くは非正規労働者が多数を占めています。2002年時点では組合員は正社員だけでしたから、全従業員のうち組合員は40%しかいない状況だったわけです。工場部門だけでいうと、従業員の75%が非正規労働者だったため、組合は従業員代表ではない状況でした。そのため、工場で組合が問題点を指摘しても、「あなたたちは従業員の代表ではないんだから」と一蹴されてしまうんです。これでは、職場で問題が起きても経営側に発言できないし、コンプライアンスについて主張する力も持てない。そこで代表性を意識する必要に迫られました。

図表2 日本ハムユニオン支部別非正規労働者比率(2002年)

[2]集団的発言メカニズムの危機
 「集団的発言メカニズムの危機」とは、そこで働く人たちのニーズが反映できないということです。日本ハムユニオンでいうと、どうしたら美味しいモノが作れるか、どうしたら効率良く働けるかということについて、吸い上げられないという危機です。
 非正規で働いているパートナー社員からアンケートをとったところ(図表3)、意外なことに賃金改善についての意見が少ないことが分かりました。

図表3 パートナー社員の声

 一番多かったのは、「有給休暇が取得できない・取得しにくい・環境整備が必要」という声です。次に多かったのは「整備がなされていない・設備が古い・設備不備のところがある」こと。休みについては理解できますが、次に多いのが設備に対する不満だったのは意外でした。ほかに、働く上での安全性やコミュニケーションを良くしたいという意見がたくさん挙がってきました。我々は勝手な先入観で、非正規の方たちは給料を上げれば満足すると思っていたのは間違いで、実はさまざまな要望があることに気づいたのです。そこで、同じ職場で働いている人たちの声をいかに吸い上げていくかが非常に大事であると自覚しました。

[3]社会性の危機
 3つめは「社会性の危機」です。もともと正社員だけで構成された労働組合だったため、社員の既得権益を守るために正社員だけが活動すれば良いという考え方がありました。しかし、正社員は少数派となる一方で、勤続年数が5年を超えるパートナー社員は1,000人以上に達しました(図表4)。中には10年、20年働いている人もいます。長年にわたって社員同様に働いているのに、雇用身分としては非正規のままです。

図表4 パートナー社員勤続年数別人数(2011年12月16日付在籍)

 日本の多くの非正規社員は、正社員と同じように働いているのに給料が大きく違う、身内が亡くなった時、正社員には与えられる休暇がもらえない、といった待遇の格差を抱えています。その差がおかしいとなれば、組合は改善に取り組んでいかなければなりません。それが、労働組合の社会的責任でもあり、存在意義でもあるのです。

5.組織化への取り組みの経緯

(1)組織化への反応
 2003年10月に、日本ハムユニオンは非正規労働者を組合に入れるという方針を固め、組織化に動き出しました。2006年11月にはユニオン・ショップ協定を会社と締結しました。締結まで3年もかかったのは、経営側が、非正規の人たちを組合員にするのを嫌がり、非正規社員の中にも組合に入りたくないという人がいたからです。それぞれを説得するのに3年要したわけです。
 ユニオン・ショップ協定では入社した従業員は自動的に労働組合に入ることになります。なぜ双方がこの協定を拒んだのでしょうか。経営側の理由として、激しい価格競争の中、商品のコストを下げなければならないのに、それができなくなると考えたからです。それと労使手続きが面倒だということが挙げられます。例えば、会社の休みをずらしたい場合、1ヶ月前に通知しなければならないなどの決まりがあります。従業員(組合員)の労働条件に関わることは、会社は労働組合の合意なしに勝手に変えることはできないのです。ですから、会社は難色を示したのです。
 一方、非正規社員がなぜNOと言ったかというと、個人の負担が増えるからです。大きく金銭的負担と時間的負担の2つが増えます。金銭的には、組合費が毎月徴収されることになります。また、組合活動はお昼休憩や終業後の時間を使って行われるため、時間的負担が増えるとされます。こうした負担感から、組合に入りたくないと言う人がいたわけです。

(2)組織化のメリット
 組織化を進めるには、双方に組合のメリットを感じてもらわなければなりません。

[1]経営側にとってのメリット
 経営側にとっては次の4つのメリットがあります。1つめは「経営方針・ビジョンの浸透」です。経営者がいかに崇高な理念を持っていたとしても、部長、課長と現場に下りていく間にその原型はなくなってしまうものです。経営者が「美味しいモノをみんなに提供して幸せになってほしい」という理念を掲げていても、現場ではどのくらいの利益が上がるかということしか頭になくなってしまうのです。利益が上がらなければ会社はやっていけませんから、現場に近づくほど経営者の方針・ビジョンは利益追求へと形が変わり、その思いは浸透していきづらくなります。その時、我々労働組合が経営方針を伝え、組合員と共有すれば、経営者の考えは理解されます。
 2つめは、「生産性の向上」です。現場で働く人たちが、常に高品質なモノを効率よく作るためには何が必要かを一生懸命考え、それを経営者に提言しながら改善を進めていかなければ良い商品はできません。従業員の声を聞くことは、生産性の向上に繋がっていくのです。
 3つめは「リスクマネジメントの強化」です。記憶に新しいアクリフーズの農薬混入事件は、処遇に対する不満を持つ非正規雇用の従業員が引き起こしたとされています。労働組合は、そういった従業員の思いを吸い上げて経営者に話をすることができますし、いろいろな問題にも対応できるはずです。そういう意味でリスクマネジメントの強化ができるというメリットがあります。工場で問題が起きた時、自ら足を運ばなくても労働組合が自発的に改善してくれるわけですから、経営者にとっては楽だと思います。労働組合をリスクマネジメント機能の一つとして考えれば、効果的といえます。
 4つめは「人材の育成」です。労働組合は人材育成の場にもなっています。職場で働いているだけでは、自分の周囲半径数メートルの範囲しか見えません。しかし、組合活動をすると、それ以外のところにいる人たちがどういう問題を抱えているのか、その人たちのために自分は何ができるかを考えますし、その人たちと意見交換をすることで自分の視野が大きく広がります。さらに、誰かのために何かをしてあげることに対しての喜びを感じることができるようにもなります。これは人格形成にも役立ちますし、経営者となった時に弱い立場の人を理解できる人になります。そして、長い目で見れば、将来の経営者の育成にも役立つのです。
 これらのメリットを前面に要求をし続けた結果、経営者からの理解を得て、ユニオン・ショップ協定の締結合意に至りました。

[2]従業員にとってのメリット
 従業員にとってはどうでしょうか。組合員になることのメリットを4つ挙げたいと思います。まず1つめが「労働条件の維持・向上」です。人は働いているうちに技術が向上します。例えばアルバイトであっても、働き始めた頃と1年後では、自分のできることや気づきの部分が違うものです。接客や販売の仕事では、次第にお客様の要望が見えるようになってきて、売上に貢献できたりもするでしょう。技術、知識、能力は働いているうちにどんどん上がっていきますが、何も言わなければ給料は上がらない。これでは不公平感を感じませんか。できることが増えているのであれば、それに伴って労働条件も上がらなければ、やる気になれないでしょう。スキルとともに給料も上がっていけば、もっと仕事にやりがいが持てるはずです。
 2つめは「個別問題への対応」です。「明日から来なくていいです」と言われた社員がいたとしたら、組合は「この人の何が問題なのですか。そんなことをする権利があるんですか」と、本人に代わって会社に言うことができます。組合員の問題に個別に対処することができるということです。
 3つめが「自己実現・自己選択の機会」です。これは自分がやりたいことを実現できるということです。正社員はいろいろなキャリアを積むことが可能ですが、非正規として働く場合は、決められた時間で言われたことをやるだけという仕事が多いです。これでは本人のモチベーションは上がりません。「将来は社員になりたい」「日本ハムグループの中で、この業務をやりたい」といった希望が実現するならば、本人はもっと努力するでしょうし、さらにがんばれるはずです。そうした機会を設ければ、メリットがあります。
 4つめは「経営への参画機会」です。現場で「こうした方がもっと良いモノが作れますよ」という自分の提案が聞き入れられ、それが改善に繋がって「おかげですごく良くなったよ」と感謝されたら嬉しいですよね。組合員はどんどん意見を言って業務を改善することができます。そういうふうに組合を通して、自分の意見を経営側に伝え、会社を良くしていく機会を持てるようになるのです。
 
 双方へのアプローチの結果、非正規社員からの合意は早い段階で取れましたが、経営側とは相当時間がかかって、ユニオン・ショップ締結までに3年超の期間を要しました。

6.これまでの取り組みについて

 非正規社員に関するこれまでの取り組みについて4つご紹介します。まず、「賃金・一時金」の要求です。非正規社員は正社員に比べて給料が安く、生活する上で困っている人もいます。そこで、格差を是正し、できるだけ正社員と同じ処遇にするよう求めています。
 2番目に「雇用契約・雇用不安」への取り組みです。非正規社員との契約は、今までは自動更新を繰り返していましたが、その一方で突然雇止めを通告されると、路頭に迷うことになります。そこで、組合ではそうした雇用不安を払拭していこうと取り組んでいます。
 3番目は「人事考課・教育研修」への取り組みです。もともと非正規社員に対して、成長を期待するとか、評価するという考え方はなく、決められた時間の中でできる限りの作業をこなしてくれれば良いと考えていました。しかし、そういう意識では良いモノは作れないため、評価制度を導入することになりました。評価を入れると、今度は「なぜ自分はこういう評価なのか」という疑問が出るようになりました。そこで、評価の理由をきっちり説明し、どうしたら良い評価をもらえるのかをしっかり指導・育成するよう整備しました。そうすると、自分が何を目標にがんばれば良いか認識できますので、モチベーションアップに繋がるわけです。
 最後は「自己実現・自己選択」への取り組みとして、正社員登用制度や社内公募制度を導入しました。

最後に

 非正規労働者への取り組みを通じて、多くのことが得られました。
 1つめは、労働運動の重要性を再認識したことです。労働組合は今まで「正社員にとってどうなのか」ということしか考えませんでしたが、非正規社員の声を吸い上げて経営側に伝えていく中で、非正規社員の労働条件の向上を含め、自分たちは何をしなければいけないかという視点から、活動の重要性、組織の必要性に気づかされました。
 2つめは、人としての成長に繋がったことです。誰が何に困っているのか、自分は何ができるかを考えていくと、心が豊かになるものです。もちろん組合活動にはつらいこともありますが、誰かのために何かできるということは非常に素晴らしいことですし、心が豊かになれると実感しています。
 3つめは、労働組合の組織力が強まったことです。非正規社員の組織化が大きなファクターとなり、経営に対しての影響力が大きく増しました。それまで労働組合は一部の社員だけの構成だったのが、基本的にすべての社員が組合員となったため、会社は組合の意見を無視できなくなりました。交渉の際、全社員が言っているとなれば、影響力は段違いです。数の力を実感しました。
 そして、経営の意識が変わったことも1つです。経営側は、社員が何を考え、どういうことを望んでいるかをしっかり聞こうという姿勢に変わったのです。現場の声をしっかり吸い上げていれば、不祥事は起きなかっただろうという反省の上に成り立っています。
 最後は、社会や他労組への波及効果があったことです。非正規社員の組織化をきっかけに、多くのメディアから取材を受けました。講演会や勉強会に呼ばれる機会も増えました。社会全体でいうと非正規労働者への取り組みはまだ進んでいませんので、日本ハムでの取り組みは今後も波及効果があると考えています。
 みなさんも、社会に出たら労働組合が何のために存在しているかを考え、まずは関わってもらえたらと思います。会社や職場を少しでも良くするには労働組合という組織しかないと思います。是非ともそういう活動に関わってほしいという願いを込めて、この講義を終わりたいと思います。ありがとうございました。

以 上

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