一橋大学「連合寄付講座」

2014年度“現代労働組合論I”講義録

第2回(4/18)

【開講の辞】連合寄付講座で一橋大生に学んでほしいこと
労働運動・労働組合に関する基礎知識

南雲弘行(教育文化協会理事長)

はじめに

 こんにちは。今日はこれからの講義を聴く上で、みなさんに知っておいていただきたい労働運動・労働組合に関する基礎知識についてお話しします。
 みなさんは、働くことについてどのように考えていますか?福沢諭吉の言葉に、「世の中で一番楽しく立派な仕事は、一生涯を貫く仕事を持つということです」「世の中で一番さびしいことは、する仕事のないことです」というものがあります。働くということの意義を説いた名言といえます。これから数年後に、社会に出るみなさんにも知っておいていただきたい言葉です。

1.連合寄付講座の概要

(1)連合寄付講座とは
 「連合寄付講座」は、大学の単位認定科目という位置づけで開設され、プログラムの作成や講師の配置など、企画・運営に労働組合が主体的にかかわる他に例をみない講座です。2005年4月から、日本女子大学を皮切りに着実に広がりをみせ、今年度は、連合の関係団体である教育文化協会が主体となって運営している4大学(同志社大、一橋大、埼玉大、法政大)のほか、地方の7大学(山形大、三重大、滋賀大、福井県立大、佐賀大、長崎大、大分大)でも開講しています。地方の場合は、連合の地方組織である地方連合会が主体となって運営しています。これまで延べ5,000名を超える大学生に受講いただきました。

(2)開設にあたっての課題認識とその目的
 連合は足下の課題に取り組むことはもちろん、中長期的な視点から、これから社会へ出る学生に、労働組合の存在とその役割、労働運動の意義等について正しい理解をしてもらうことが極めて重要だと考えています。
 そこで、大学生のみなさんに、働くうえでの問題を理解し、将来にむかって、それぞれの立場で考え、日本を良くしたいという思いを持っていただきたいと、連合は寄付講座を開設しています。
 本講座の大きな特徴は、現場第一線にいる労働組合役員が講師を務めることです。労働組合や労働現場が直面する課題等について生の声をお伝えすることで、労働組合や労働運動に対する正しい理解が得られるものと期待しています。

2.労働組合が抱える問題意識と連合がめざす姿

(1)非正規労働者の増加
 今、労働組合が危機感を持っているのは、正規労働者が減る一方、非正規で雇用される人が大変増えてきていることです。年収でいうと、200万円、300万円の人が増えてきています。年収200万円というと、家を借り光熱費を払うとお金が残らず貯蓄もできない額です。そのため非正規労働者は、結婚することも子どもを産み育てることも難しい状況です。
 非正規という働き方は、30~40年くらい前は家計補助的な働き方でした。具体的には、パート、アルバイト、派遣、契約などです。とくにパートについては、社会保険の扶養範囲の関係上、年収130万円以下に抑えて働いている主婦が大半を占めています。しかし、いまや被扶養者だけではなく、世帯の主たる生計者が非正規で働くケースが増え、苦しい財政状況の家庭が増えています。

(2)人口構成の変化
 日本の人口ピラミッドが大きく変化しています。少子高齢化が進み、2000年代は現役世代10人で65歳以上の高齢者ひとりを支えればよかったのが、今は、3人でひとりを支えなければいけない騎馬戦型になっています。2050年ごろには、1人がひとりの面倒をみなければならない肩車型になる見込みです。社会保障のあり方について考えていなければなりません。
 労働者不足にどう対応するかも問われています。現在、多くの女性は、結婚して子どもを産み育てるときに、仕事を辞めざるをえず、さらに、子育てが終わった段階での再就職はなかなか厳しいのが実態です。女性労働者の働く環境を改善する必要があります。

(3)若者および高齢者を取り巻く雇用
 大学を卒業しても就職できない若者が今、増えています。来春の新卒採用者数が増えてきているようですが、まだまだ若者の雇用は厳しい状況です。
 また、高齢者について今までは60歳定年でしたが、年金の支給年齢が段階的に65歳に引き上げられており、定年後、年金が支給されるまでの期間、何をして収入を得るかという問題にも直面しています。連合は、職場での再雇用や地域での雇用を含めて、希望者全員が65歳まで働けるよう求めています。

(4)連合の政策提言
 2010年に連合は、働く者の立場から、それぞれの世代においてどういう政策が必要なのかを、「働くことを軸とする安心社会」という提言にまとめました。後ほど中身について触れます。
 政策の実現を後回しにしていたら取り返しがつかなくなります。この4月から消費税が8%になり、さらに来年10月から10%にするかどうか、今年の秋に判断することになっています。連合は、2011年に「新21世紀社会保障ビジョン」を打ち出し、2020年までに消費税を15%に上げるべきだと提言しました。働く側がこういう提言を出したのは初めてのことです。少子高齢化が進む中で若い人たちだけにしわ寄せがいかないように、消費税を社会保障目的税と位置づけ、子どもからお年寄りまでが安心して社会保障を受けられるようにしようという提言です。

3.労働に関する法律と仕組み

(1)日本国憲法に定められた労働者の権利
 日本国憲法に、働くことに関する条文があります。憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、第27条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」、第28条は「勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動する権利を保障する」とあります。これらの条文から、労働三法ができました。

(2)労働三法
 労働三法とは、労働組合法、労働関係調整法、労働基準法を指します。
 労働組合法では、労働者の団結権、団体交渉権、争議権が定められています。この法律のもと、労働組合をつくることができます。交通費をどう払うのか、賃金をどういう制度にするのか、企業がやろうとする仕事のやり方がいいのかどうか。そういうことを、労働者は経営者と団体交渉することができます。そして、自分たちの要求する内容について、どうしても会社がうんと言わないときには、ストライキを起こすこともできるというのが、労働組合法の大きな特徴です。
 労働関係調整法は、労働争議の予防や解決法を定めるものです。
 労働基準法は労働条件の最低基準を示したもので、働くときに一番関係してくるものです。
 労働基準法第32条で労働時間については、一日8時間を超えてはならないとあります。これはあくまでも最長時間です。会社によっては、就業時間を7時間50分にする、あるいは7時間にするということも労使交渉で可能です。
 第2条には、労使は対等に協議して労働条件を決めるべきであると書かれています。
 その他の労働条件について国籍、信条、または社会的身分を理由に差別的に取り扱ってはならないこと、賃金については、女性であることを理由に、男性と差別的な取り扱いをしてはならないことなどが労働基準法に書かれています。

4.労働者とは

 憲法の条文では「勤労者」と書かれていますが、一般的には「労働者」という言葉を使っています。労働組合法の第3条において、「労働者」とは、「職業の選択を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と規定されています。雇用形態にかかわらず、働く対価として賃金を得て生活している人を指します。一方、労働基準法の第9条では、「労働者とは、職業の選択を問わず、事業または事務所に使用されているもので、賃金を支払われる者」と規定されています。つまり、雇用されて賃金をもらう人のことです。

5.日本型雇用システムの歴史と変化

(1)日本型雇用システムの歴史と特徴
 戦後、経済を強くし、日本の技術力を世界ブランドに押し上げた要因の一つに、日本型雇用システムがあります。「終身雇用制」と「年功序列制」の二つが歯車のようにかみ合って、企業と経済を発展させ、そして労働者の暮らしを向上させてきました。つまり、終身雇用制と年功序列制があることで、労働者は安心して60歳や65歳まで働けるようになり、日本の発展を支えてきたといわれています。
 終身雇用制は、新卒者の定期採用と定年制が特徴です。
 年功序列制は、勤続年数に応じて賃金が上がり、昇進、昇格していく制度です。4月に入社し働き始めた場合、1年後には入社時よりも経験や技術や知識が向上していますので、そのぶん翌4月から賃金が上がります。これを定期昇給制度といいます。大手の企業には定期昇給制度がありますが、中小企業ではこういう制度を持っているところはあまりありません。
 各企業では、毎年2月中旬頃から春季生活闘争を進め、4月からの賃金をいくらにすべきかを労使が交渉して、賃金を決定します。今年3月12日のニュースで、「自動車や電機を中心に2,000円のベースアップ」という報道をみなさんもお聞きになったかと思います。ベースアップとはベース賃金を上げるという意味です。年齢や勤続年数に応じて段階的に上がっていく定期昇給制度と違い、ベースとなる賃金を底上げするしくみです。昇給には、定期昇給制度とベースアップの二通りがあるということを覚えておいてください。

(2)労働環境の変化
 グローバル化の進展によって、国際市場で世界の企業と競争しなくてはならない時代になりました。自民党の小泉政権下では、市場万能主義が台頭して、人事処遇制度に成果主義が次々と導入されました。それまでは、定期昇給制度のもとで毎年自動的に賃金が上がっていましたが、成果主義は、1年間働いて成果が上がっていないと評価された人については賃金を上げないことが可能な制度です。これによって、賃金が上がらない人も出てくる。人件費は削減ができるということになったわけです。こうした成果主義の導入のほか、競争社会のなかで、技術の高度化、生産の海外化、企業の吸収合併などが進み、人件費がどんどん削減されるようになりました。その結果、新規採用の減少、希望退職、役職定年、整理解雇、非正社員化という問題が出てきました。
 企業は経営環境が厳しくなったからといって、簡単に従業員を辞めさせることはできません。整理解雇する場合は、[1]人員整理の必要性があるか、[2]解雇しないための努力をしたか、[3]解雇者の選定に合理性があるか、[4]手続きは妥当かという四つの要件が満たされたか否かをみる必要があるという裁判例が確立しています。これは「整理解雇の四要件」と呼ばれています。

(3)非正規労働者の急増
 1995年に日経連(現在の日本経団連)が『新時代の「日本的経営」』を発表しました。このなかで、労働者を長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型の3つに分類し、正規労働者から賃金の安い柔軟型、つまり非正規へ転換して、総額人件費の抑制を狙うという考え方を打ち出しました。これによって、新規に正規で採用する人を減らし、一定の期間で安く契約する人たちを増やしたのです。その結果、先ほど言った年収200~300万円の労働者が増えてきているという状況です。そして、リーマンショックが起きた2008年暮れに、日比谷公園に年越し派遣村ができました。「もう契約更新しない」と言われた人たちが日比谷公園に集まり、社会問題化したことを覚えていらっしゃる方もいると思います。
 一方、非正規労働者を増やすための法律改正もかなり行われ、使用者にとって使い勝手の良い働かせ方ができるようになりました。役員を除く雇用労働者の数は1985年の約4,000万人から2012年には5,154万人と増えていますが、正規労働者の数は2012年で3,340万人まで減少しています。その一方で、非正規労働者は、1985年に655万人で雇用労働者全体の16.4%でしたが、2012年には1,813万人、35.2%にまで増えています。これは今も増えつづけていて、働く人の3人に1人は非正規という現状です。
 非正規労働者の急増にともない、低所得者が増加しています。年収200万円以下の人は1,100万人、年収300万円以下では1,700万人にも及び、いまや全雇用労働者の3割以上を占めています。
 さらに、貯蓄ゼロ世帯はこの30年で3%から29%まで増え、生活保護世帯についてもこの20年間で60万世帯から159万世帯216万人まで増加しています。国民健康保険の保険料を払えない滞納世帯は、全国で414万世帯にも上り、苦しい生活実態がうかがえます。

6.労働相談事例の紹介 ~知って得する労働法~

 連合は働いている仲間、これから働こうとしている人たちから労働相談を受けています。そこに寄せられた相談内容を、二つご紹介します。

(1)求人広告・求人票に関する相談事例

【相談】社会人1年目です。就活中に提示されていた内容(求人サイトに掲載されていた内容や大学の就職説明会で聞いていた内容)と、入社後に会社から渡された労働契約書の中身が違います。説明会では、基本給が25万円だと聞いていましたが、実際は25万円に60時間分の時間外労働手当が含まれていました。初めて就いた仕事なので、すぐに辞めるわけにはいかないと考えていますが、我慢するしかないのでしょうか。

 この相談に対して、次のように回答しました。

 

【回答】「労働条件の説明が口頭でよくわからなかった」「契約書の提示を断られた」など、求人票や求人広告に書かれている内容と実際の労働条件が違っているというトラブルは数多く寄せられています。
 現行の法律では、求人票はあくまでも広告にすぎず、就職した際に労働者と会社の間で交わされる労働契約の内容をきちんと確認することが必要です。もし労働組合がない会社に就職した場合は、どういう労働条件で働くのか、賃金はいくらか、交通費はいくら支給されるのかなど、問題があったときには個人で交渉しなくてはなりません。労働組合があれば、みなさんの労働契約について労働組合がサポートできます。働く対価として賃金を受けるためには、労働契約を締結する際、その契約内容をきちんと確認することが必要です。また労働契約書などが書面で交付されない場合に備えて、求人広告や求人票のコピーを保管しておくことも大切です。
 基本給の中に時間外労働手当が含まれていることに関して、時間外労働や深夜労働に対する割増賃金を、あらかじめ定額の手当や基本給の一部として支給する制度は、みなし割増賃金(固定残業代)制と呼ばれています。これについて、裁判例では、[1]通常の賃金と時間外割増賃金が明確に区分できること、[2]労働基準法の計算方法による額が上回るときはその差額を支払うことが求められています。ご相談にある残業60時間分を含めたケースは問題です。これはあなたひとりの問題ではなく、職場全体にかかわります。労働者ひとりでは弱い立場にありますので、ぜひ連合にご相談いただき、弁護士などの専門家にも加わってもらいながら、労働条件、労働環境を改善してほしいと思います。

(2)ブラック企業に関する相談事例

【相談】大学生で、現在就活中です。親から「ブラック企業に気をつけなさい」と言われたのですが、「ブラック企業」とはどういう企業なのでしょうか。そして、「ブラック企業」に入らないように、良い企業と悪い企業を見分ける方法があれば教えてください。

 この相談には、次のように回答しました。

【回答】日本では、労働基準法など労働法が整備され、労働者保護のために賃金や労働条件の最低基準を設けています。この最低基準はすべての企業が守らなければならないものです。
 ブラック企業については公式な定義はありませんが、賃金や労働条件の最低基準を守らず、労働者を使い捨てにする企業、労働者側からいえば、働きつづけることのできない企業です。労働時間管理を行わないで長時間労働をさせ、1カ月に100時間を超すような残業を強いる。有給休暇を自主的に取得させない。辞めたくても辞めさせないなどの事例が報告されています。
 ブラック企業を見分けるためには、働くことについての労働者の権利を知ることが最も重要といえます。就職活動にあたり、東京都産業労働局作成の『ポケット労働法』を読んでおくことをお勧めします。また、OB・OG訪問をして、実際に働いている先輩の声を聞いてみましょう。
 加えて、企業規模に比べて募集人員が過大であることや、離職率が高い企業も問題があるといえます。『就職四季報』(東洋経済新報社)には企業の離職率や有給休暇消化率などが記載されているので、参考にしてみてください。
 労働組合は法令を守ることはもちろん、働きつづけられる職場環境づくりに取り組んでいますので、職場に労働組合があるか否かも安心感を得るポイントです。もし職場に組合がなくても、採用時や働く中で「おかしいな」と感じたら連合に相談できることを知っておいてください。

 今、若者を大量に採用し、使うだけ使って退職させるという、いわゆるブラック企業が話題になっています。インターネットで検索すると、よく名前を聞くような企業が名指しで出てきます。過酷な労働環境で働かされ、数か月で辞める社員が後を絶ちません。
 就職活動にあたっては、さまざまな情報を集めて、その企業がどういう状況にあるかということを調べたうえで始めることがまず重要だと思います。就職先選びの一つの指標として、労働組合があるかないかということも頭の隅に入れておいていただけるとありがたいです。

7.労働基準と最低賃金

(1)日本における最低賃金の設定
 日本は、労働基準法で最低基準が決められています。労働時間については、先ほどご説明のとおり、労働基準法第32条で一日8時間を超えてはならないこと定められていますが、最低賃金はというと、毎年、最低賃金をいくらにするかという審議が行われます。審議会は、労働組合、経営者、そして大学教授や弁護士などの有識者、つまり公労使の三者で構成されています。これは、国際労働機関(ILO)が、働くことに関するルールは政労使三者で審議をして決めなさいとした三者構成主義に則っています。日本をはじめ多くの国がこれを採用しています。
 中央での最低賃金審議会は毎年夏に、「この10月から各都道府県の最低賃金はこうあるべき」という目安を出します。これを受け、各都道府県の中に設置された最低賃金審議会(これも三者で構成される)が審議を行い、それぞれの地域の状況に応じた最低賃金(時間額)を示します。連合はかなり以前から最低賃金1,000円という目標を掲げ、最低でも800円の最低賃金をめざしています。現在、東京は最も高い869円で、沖縄は最も低い664円です。この最低賃金より低い賃金で雇ってはいけませんが、最低賃金すら知らない経営者が大勢います。昨年、連合は全国キャンペーンを行い、「最低賃金より低い賃金で働いている人は企業と話し合ってください。ダメであれば労働基準監督署に行ってください」と呼びかける運動をしました。そのなかで、最低賃金以下で働いているという人が、実際にいました。みなさんもアルバイトをしていましたら、職場の都道府県の最低賃金はいくらなのか調べてみてください。もしそれ以下の時給で働いていたら、すぐ労働基準監督署に申し出てください。
 まだまだ法整備が必要なところはありますが、労働者の権利を守って働くということが大変重要です。これからみなさん、就職されると思います。就職先に労働組合があれば加入して、働きやすい労働条件はどうあるべきかを一緒に考えていただければと思います。

(2)アジア諸国の現状
 アジア諸国の最低労働基準についても少しご紹介します。先日私は、連合の関係団体である国際労働財団(JILAF)の現地事業を視察するため、1週間ほどタイとネパールに行ってきました。タイもネパールも、自転車タクシーや屋台が路上にあふれています。こうしたインフォーマル・セクターにおける経済活動は公式な統計に含まれず、そこで働く人たち(インフォーマル・ワーカー)には労働法が適用されません。最低の労働基準が守られない働き方をしているのです。
 ネパールでは、インフォーマル・ワーカーが全労働者の約8~9割を占めています。ネパールはレンガづくりが盛んなため、家族でレンガをつくって生計を立てている人が大勢いるのですが、こうした一家の子どもたちは、3歳を過ぎると朝6時に起きて仕事を手伝い始め、6歳になると夜中の2時に起きて12時までレンガ運びの仕事を手伝わなくてはなりません。ですから学校に行くこともできません。JILAFは厚生労働省からの委託を受け、こうした子どもたちへの教育支援や、インフォーマル・ワーカーに手に技術をつけさせる事業を行っています。そして労働組合をつくって、企業と話し合いをし、最低の労働基準を守ってもらう運動をこの十数年つづけています。
 ミャンマーへも、昨年2回訪問しました。ミャンマーでは、サンダル履きのまま道路工事をしている人たちがたくさんいます。足が保護されていませんので、何かを落としたり、どこかにぶつけたりといった災害が数知れず起きます。そこで、JILAFはミャンマーの労働組合のナショナルセンターと連携し、労働安全衛生も含めて職場の環境改善運動を進めています。

8.労働組合の概要と求められる役割

(1)労働者数と組織率
 図表1は、会社の規模別の労働者数と労働組合組織率を示しています。従業員が1,000人以上の企業で働く人は約1,100万人で、組織率は45.8%です。従業員100人以下の事業所で働く人は2,500万人いますが、組合があるのはわずか1%です。中小企業で働く9割の労働者が労働組合に入っておらず、最低基準が守られた働き方をしているのかわかりません。このため、連合では組織化を推進する運動を進めています。

図表1 会社規模と労働者数と組織率

会社規模 全労働者数 組織率
従業員数1000人以上 1,135万人 45.8%
従業員数101人~1000人未満 1,389万人 13.3%
従業員数100人以下 2,584万人 1.0%
(2012年厚労省調査)

(2)労働組合の組織形態
 労働組合の組織形態について少しご紹介します。まず、単組(単位組合)と呼ばれる「企業別労働組合」です。トヨタ、日立など、企業ごとに組織されています。企業によっては、関連するグループ企業が集まって企業連合をつくっているところがあります。「企業連合(企連)」と呼ばれています。
 「産業別労働組合(産別)」とは、同じ業種の単組が集まって構成された組織のことです。具体的には、トヨタ、日産など自動車産業の労働組合が集まった自動車総連、日立、東芝、三菱電機など電機産業の労働組合が集まった電機連合などです。
 労働組合の組織は、企業や業種ごとにまとまっているほか、地域ごとにまとまっています。連合は47都道府県に「地方連合会」を構え、地方にある労働組合は地元の「地方連合会」に加盟しています。
 また、組合のない職場で働く方々のトラブル解決にむけて、地方連合会では、ひとりでも入れる「地域ユニオン」を結成し、地方連合会の役員が加入者の企業経営者と交渉をしています。

(3)組合活動
 組合員は原則、単位組合(単組)に加盟します。組合の構造として、単組は産業別組織(産別)に、産別はナショナルセンターである連合に、連合は各国のナショナルセンターで構成されるITUC(国際労働組合総連合)に加盟する形をとっています。組合費は単組から産別、連合、ITUCと各組織人員に応じて納められます。
 活動の基本は単組です。単組が交渉を積み上げ、労働条件を整備してきました。従業員は、そこに入ってすぐその制度を利用できるという会費(会員権)を組合費として支払い、組合員になれば即、その権利を行使できます。
 労働組合は、企業が生産性を上げることに協力をしてきました。生産性向上運動といわれる運動です。生産性三原則といわれる3つの原則があります。[1]雇用の維持拡大を行うこと、[2]労使の協力と協議をすること、そして、[3]成果が出た場合はそれを正当に公正に配分することです。しかし、グローバル化のなかで今、忘れられつつあります。

(4)ショップ制
 組合員資格については、主にユニオンショップ制とオープンショップ制の二つがあります。ユニオンショップ制は、採用時に労働組合の加入が義務づけられ、採用後に加入しない、あるいは組合から脱退もしくは除名されたら、使用者は当該労働者を解雇する義務を負うという制度です。つまり、ユニオンショップ制のある企業に入ったら、必ず労働組合に加入しなくてはなりません。もし就職先に複数の労働組合があった場合、そのうちのどこかに入らないといけません。また、管理職の人は経営権の範疇とみなされますので、組合員にはなれません。
 一方、オープンショップ制の場合、労働組合に入るかどうかは、労働者の自由です。

(5)労働協約と労働組合
 「労働協約」とは、団体交渉などで労働組合と会社が労働条件や組合活動について合意し、その内容を書面にしたものです。使用者が作成する「就業規則」や労働者個人が使用者と結ぶ「労働契約」よりも強い効力を持ちます。2013年における日本の労働組合組織率は17.7%で、労働協約の拡張適用を受けている人は20%前後です。労働組合のあるところには労働協約があることになります。一方、フランスの場合、組織率は7.7%ですが、労働協約の適用率は90%を超えています。労働組合をつくらなくても、労働協約の拡張適用が受けられることになっています。
 国によって制度が違うため一概にいえませんが、日本では、労働条件の最低基準は法律で決められ、それを上回る労働協約をつくる場合には、労働組合をつくって企業と交渉しなければなりません。言い換えれば、日本では労働組合がないと労働協約が活かされないということになります。

9.「働くことを軸とする安心社会」に向けて

 連合は「働くことを軸とする安心社会」に向けて目指すべき社会像を提起し、「働くこと」を軸に5つの橋をかけたいと考えています(図表2)。1つめの橋は、「教育と雇用」をつなぐ橋です。働くとはどういうことなのか、働くために何を知っておくべきなのか、高校・大学のときから考えてもらいたいのです。2つめの橋は、「家族と雇用」をつなぐ橋です。介護や育児のために仕事を辞めざるをえなくても、それが終わったら、正規であれ非正規であれ、また職場に戻ってこられるようにしたいと考えています。3つめの橋は、「雇用と雇用」をつなぐ橋です。正規から非正規へ、または非正規から正規へ、雇用を往き来できる橋をかけたいと考えています。もし非正規になっても、経験を活かしながらまたもう一度、正規にチャレンジできる制度をつくりたいのです。4つめの橋は、「失業と雇用」をつなぐ橋です。企業もずっと良いわけではありません。倒産してしまった場合に、スキルアップのための職業訓練を受け、次の雇用につなげることが必要です。5つめの橋は、「退職と雇用」をつなぐ橋です。定年退職を迎えた時、地域社会で何かできることがあるのではないか。地域と働くことを結びつけ、生涯現役社会をつくりたいと考えています。このように、「働くこと」を中心に5つの橋をかけたいと連合は提起しています。

図表2 「働くことを軸とする安心社会」イメージ

10.これから社会へ出るみなさんへのメッセージ

 1944年、ILOは米国ペンシルバニア州でフィラデルフィア宣言を出しました。「労働は商品ではない、労働はモノやロボットのように使い捨てるものではなく、血の通った人間の尊い行為である」という宣言です。現在でも、日本を含め世界中に、法律違反の労働条件で働かされ、公正・公平な処遇を受けていない労働者が多くいます。
 みなさんが卒業後に就職するときに、社会に出て自分は何がしたいのか、何をするためにそこに就職するのか、どういう技術を身につけたいのか、自分がやりたいと思う仕事は何なのかということをまず決めないといけません。大変厳しい時代ですので、自分がどういう企業に勤めたいのか、何をしたいのかということを決めておくことが重要だろうと思います。ぜひそのことを心に留めながら、これから就職活動をしていただきたいと思います。

おわりに

 パナソニックの創業者である松下幸之助さんは、「松下はどのような会社ですか」と問われた時、「人をつくる会社で、あわせて家電をつくる」と答えたそうです。そういう企業に、ぜひ多くの方が就職でき、次の日本を築いていっていただきたいと思います。そのためにも、これから様々な経験をし、素晴らしい学生生活、そして社会人としての生活をしていいただきたいと願っています。
 今、安倍政権は、成長戦略の柱として雇用特区を設け、労働法の適用を受けない労働者をつくろうとしています。非正規労働の問題が深刻化しているなかで、さらにこんな自由な働かせ方をさせてもいいのか、連合はずいぶん危惧をしています。日本を良くするための働き方とはどんなものか、力の弱い労働者をどう守るべきか、働く意義とは何か、労働組合は何ができるのか等、世論を巻き込んでみんなに考えてもらいながら、連合は運動を進めていきたいと思っています。これからの講義は、いろんな視点からお話をすることになりますので、そのなかの一つでも二つでも覚えておいていただければ、将来社会に出たときに役に立つのではないかと思います。

以 上

ページトップへ

戻る