一橋大学「連合寄付講座」

2013年度“現代労働組合論I”講義録

第6回(5/17)

職場の課題とその取り組み[3]
ワーク・ライフ・バランスの実現にむけた取り組み
~生保労連・朝日生命労働組合の事例を中心に~

ゲストスピーカー:早川 順治 全国生命保険労働組合連合会(生保労連) 中央書記長

はじめに-自己紹介

 私は1993年に朝日生命に入社し、2009年6月に労組役員になりましたが、それまでの間は会社で仕事をしていました。最初の配属は本社の営業教育課という、現場で働く営業職員むけの教育資料の作成をする部署でした。この本社業務を1年間経験した後に、東京都内にある育成センター、ここは入社直後の営業職員を教育する部署ですが、このセンターで講師をやりました。その後は営業担当として、営業職員や事務職のサポート業務を行い、支社で業績管理の事務を担当した後東京を離れ、栃木県で営業を担当し、4年間営業所長を務め、その後人事採用担当を務めました。そして2009年に朝日生命労働組合の中央執行委員になり、2010年からは生保労連の中央副書記長、2012年8月からは中央書記長として活動しています。
 私が学生の時にはこの様な講義はなく、労働組合は縁遠いものでしたが、会社に入ってみると様々な場面で労働組合の活動に触れる機会がありました。私が組合活動に携わるきっかけは、当時の労組役員から、「生保労連の書記長を務める前提で組合の専従役員にならないか」と声をかけられたことに始まります。私自身は、生保労連が組合員の賃金・処遇の向上など労働組合としての役割や、産業全体の発展に向けて重要な役割を果たしていることを知っていました。また、生保労連の活動を通じ、生保産業以外の社会全体の動きにも目を向けられる機会を得られると考え、この話しを引き受け、今に至っています。
 本日の講義では、次の4点についてお話しをさせていただきます。1点目は、今、私が仕事をしている生保労連という組織について、2点目は生保労連のワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みについて、3点目は私の出身元である、朝日生命と朝日生命労組について、4点目は、朝日労組におけるワーク・ライフ・バランス実現に向けた具体的な取り組みについてお話ししたいと思います。

1.生保労連について

(1)組織の概要

 生保労連は、1969年に結成された産業別労働組合(産別)で、正式名称を全国生命保険労働組合連合会といいます。それ以前は、内勤職員と事務職や総合職を組織する、「全生保」と、営業職員を組織する、「全外連」という2つの組織がありましたが、この2つが1969年10月に生保労連を結成し、今年で44年目を迎えています。 
 生保労連の組合員は約25万人で、全体の約8割が営業職員の組合員、残りの2割が内勤職員の組合員です。男女比率は2対8で女性が8割という極めて女性が多い労働組合です。
 生保労連は、ナショナルセンターである連合に加盟しています。連合加盟の産別の中では8番目の規模の組織となっています。なお、産業によっては、複数の産別が存在する業界もありますが、生保産業では生保労連が唯一の産別です。
 次に生保労連の加盟組合についてお話しします。現在、業界団体である生命保険協会に加盟する生命保険会社は全部で43社ありますが、その内16社に生保労連加盟の労働組合があります。ちなみに、残り27社の中には、損害保険会社の子会社である生命保険会社、例えば、東京海上日動あんしん生命のように、損保労連に加盟している労働組合もあります。
 一方で、外資系のがん保険で有名なアメリカンファミリーのように、労働組合がない生命保険会社もあります。また、近年では、ネット生保のライフネット生命等がありますが、こうした会社にも労働組合はありません。ちなみに、2007年10月に民営化されたかんぽ生命は、引き続き日本郵政グループ労働組合(JP労組)に加盟しています。
 生保労連の組合員は、営業の現場では互いにしのぎを削っていますが、労働組合の世界では、同じ生保産業で働く仲間として、生保産業の発展に向けて力を合わせています。

(2)生保労連の活動

 生保労連では、2009年の結成40周年を機に、今後10年間の活動について議論を行い、「NEWチャレンジ宣言」として取りまとめを行いました。現在は、その柱である、「社会から共感・信頼を得られる運動をめざして」を合言葉に日々取り組みを進めています。
 また、2012年度の具体的な活動は、4つの方針にもとづいて展開しています。その1つ目は、生保産業の社会的使命の達成です。万が一の時の経済的困難を少なくするために、広く生命保険を普及させていくこと、困難時に確実に保険金を支払っていくことについて、働く者の立場から取り組もうというものです。一例として、一昨年の東日本大震災では、被災によって保険証券を紛失した人が多く、「生保に入っていたが何に入っていたか分からない」というお客様が多くありました。そこで、生保協会では素早く保険金や給付金を受け取れるように、お客様がどこの会社に保険加入していても応えられる、フリーダイヤルのコールセンターを開設しました。私たち労働組合では、この取り組みを多くの皆さんに知ってもらうため、連合加盟の産別の皆さんに、広報誌への掲載やチラシの配布をお願いする活動を展開しました。他にもこの方針のもとでは産業政策への取組みも進めています。例えば、生命保険は国の社会保障制度を補完する役割を担っていることから、生命保険の加入者に対する税制面での優遇や、税金の一部控除などへの対応を図っていくため、国会議員や金融庁への働きかけや意見発信などの取り組みも行っています。
 方針の2つ目は、総合的な労働条件の改善・向上です。これは、春闘を中心とする取り組みで、組合員の賃金、働く環境、様々な労働条件の改善などをめざす、労働組合の本質的な活動です。本日のテーマであるワーク・ライフ・バランスの実現については、この中で取り組みを進めています。3つ目は労働組合自らの課題である、組織の強化・拡大です。そして4つ目は、生保産業と営業職員の社会的理解の拡大です。これは、私たちの業界を知ってもらうための活動で、最近では社会貢献活動に力を入れています。

2.ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて~生保労連の取り組み

(1)なぜ今、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)なのか

 なぜ今ワーク・ライフ・バランスなのかというと、その背景には、働く人の仕事と家庭の両立、仕事以外の活動への参加、心身の健康保持など、それぞれの希望と働き方のバランスに対するニーズの高まりがあります。一方、日本社会にあっては、少子高齢化による労働力不足への対応が、そして企業にあっては、そのことによる人材獲得競争の激化への対応などのニーズがあります。
 こうした社会情勢から国を挙げての取り組みが始まり、2007年12月には、政・労・使トップの合意による、「ワーク・ライフ・バランス憲章」が策定され、その実現のための数値目標を含む「行動指針」が取りまとめられました。労働組合は、このような動きもふまえ、ワーク・ライフ・バランスの推進に向けた具体的な取り組みを進めています。
 いまやワーク・ライフ・バランスの実現は、社会全体で取り組まなければならない課題となっています。

(2)生保業界の労働実態

 ワーク・ライフ・バランスを進めるにあたり、生保労連では毎年加盟組合を対象に労働時間の実態に関するアンケートを実施し、その実態把握に努めています。現在では、過去に比べて残業時間は減少傾向にあるものの、総合職(本社)では月平均30~45時間の残業がある加盟組合もまだまだあり、課題となっています。
 年次有給休暇の取得状況は、総合職(本社)では、加盟組合の6割で年間10日以上の休暇が取得できています。一方、お客様に一番近い現場の監督者である営業所長は、ほとんどの加盟組合が年間10日未満という取得状況になっており、職場・職種により取得状況に差が生じていることが課題となっています。
 私が入社した20年前は、長時間労働が常態化していて、朝は9時始まりですが、8時前にはだいたいの人が出勤し、夜は早くても10時帰りというような生活でした。こういう生活を続けていると精神的にもきつくなるばかりではなく、会社以外の情報を得ることもできなくなります。その結果、仕事に必要な創造性や前向きな工夫もでてこなくなってしまいます。現在、そのような当時の状況は相当改善され、まだまだ改善の余地は残っていますが、生保業界の状況は、良い方向に向かっていると思っています。

(3)両立支援制度の取得状況

 次に、ワーク・ライフ・バランスを実現するうえで重要な、両立支援制度の取得状況についてふれたいと思います。
 育児休業について、法律では原則1歳までの休業が認められていますが、生保労連では3歳までの休業制度をもっている加盟組合が多くあります。また、育児休業制度の取得状況は、回答組合14組合中13組合に取得者がおり、取得者数が50人以上いる組合が半数を占めています。
 介護休業制度については、14組合中12組合に取得者がおり、その中では、1~5名の取得者がいる組合が半数を占めています。
 3つ目は看護休暇制度です。小学校就学前のお子さんがいる人が、子どもの病気または怪我などのために看護が必要な場合、休暇が取得できる制度です。法律では小学校就学前の子ども1人に対し年に5日、2人以上の場合は年に10日の看護休暇が定められています。生保労連では、お子さんを育てながら働く人が多く、対象年齢を小学校3年生まで引き上げている組合や、年間7日あるいは10日取得できるとしている組合も多くあります。この看護休暇は11組合中7組合に取得者がおり、50人以上の取得者がいる組合も3割強となっています。ちなみに法律は看護休暇の有給・無給を定めていません。有給扱いの組合では看護休暇の取得者が多く、無給扱いの組合では、看護休暇以外の有給休暇が取得されている傾向が見受けられます。
 最後の両立支援策は短時間勤務制度です。この制度は、主に育休を取って職場復帰した人が利用しているものです。短時間勤務制度は12組合中10組合に利用者がおり、そのうち50人以上の利用者がいる組合が4分の1を占めています。育児休業同様、こちらも徐々に制度の利用者が増えてきている状況にあります。近年、出産や育児休業を終えて職場に戻り活躍する人が増えていることが、この短時間勤務制度の利用者増からも見て取れると思います。なお、女性の制度活用は進む一方、最近よく耳にする、「イクメン」、男性の育児制度などの利用はまだあまり進んでおらず、一つの課題となっています。

(4)生保労連の取り組み

 生保労連では、ワーク・ライフ・バランスに関する様々な取り組みを過去から行ってきましたが、現在の様に系統立てた取り組みを始めたのは2008年度からです。
 2008年1月の中央委員会で、「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた宣言」を確認し、2008年度から3年間の「中期方針」を策定し取組みを進めてきました。2011年度からは第2次中期方針を策定し、さらに強力な取組みを進めているところです。
 第2次中期方針では、労働時間問題対策など4本の取組みの柱をたて、「2014年8月までの到達目標」を設定し、めざす姿を示し、その実現に向けた取り組みを進めています。取り組みポイントは2点あり、1つは、出産や育児・介護と仕事の両立、必要に応じて休暇を取れるような、「制度面」を充実させることです。2つ目は、それらの制度を誰もが気兼ねなく活用できるようにする、「運営面」の取り組みを行っていくことです。制度と運営両面からのアプローチは車の両輪の関係と言えます。ワーク・ライフ・バランスは、きちんとした制度を整えないことにはうまく進みません。一方、制度さえ整えればうまくいくかと言えば、そう簡単ではありません。誰もが必要なとき制度を活用できるようにするには、従前からある「当たり前」の意識、例えば、「仕事をするのに時間をどんなに長くかけてもよい」とか、「一日でも休むと周りの人に迷惑をかけるから休まない」等といった意識を変えていく必要があります。実は、その取り組みが、ワーク・ライフ・バランスを実現する中で一番難しいところです。
 なお、実態の改善などは各加盟組合が行うことになりますので、生保労連は、各加盟組合の取り組み促進にむけた環境整備が主な役割となります。また、各社・各労組がどういった取り組みを行っているかという情報の共有化も生保労連の役割となっています。
 業界に対する取り組みでは、生保協会や各生命保険会社の方々に理解と協力を求める申し入れを行っています。そして、「ワーク・ライフ・バランス・シンポジウム」や「ワーク・ライフ・バランス労使フォーラム」を開催し、使用者にも多く参加していただき、労使の課題認識の共有化に努めています。
 加盟組合の取り組み促進に向けた情報提供では、例えば、生保労連のイントラネットに労働条件調査結果や、協議の進め方のマニュアル、加盟組合の先進的取り組み事例などを掲載したり、政府や連合、他産別の取り組みなどを紹介する「ワーク・ライフ・バランス通信」を発行したりしています。これらにより、各加盟組合からは取組みが一段と広く、深く行えるようになったと聞いています。
 そして、組合員に対する取り組みでは、組合員一人ひとりのワーク・ライフ・バランス意識を啓発するための「標語コンクール」の実施やポスター配布などを行っています。また、組合員全員に配布する生保労連機関紙に、組合員からの寄稿やワーク・ライフ・バランスについての記事などを掲載しています。標語コンクールは第3回目を迎え、2012年末には8,504件と非常に多くの応募がありました。開催ごとに応募も増えており、組合員の意識の高まりを感じています。

(5)取り組みの成果と課題

 こうした取り組みの成果として、労働時間と休日・休暇関係では、業務量の削減や業務の効率化、また早帰りの促進など、かなりの改善がみられます。ただし、職場・職種によっては状況が異なり、とくに営業現場においては、依然労働時間関係が改善を図るべき大きな課題となっています。
 育児・看護、介護支援関係では、先進的な取り組み企業に対する国や自治体などによる表彰を生保業界の企業で受賞しているところが数多くあり、他業界と比較しても生保業界の制度面の充実は大いに進んでいるものと思っています。
 今後は、制度の周知、更なる活用促進を図っていくこと、男性の育児休業取得をどうやって広めていくかが課題となっています。また、高齢社会の進行により介護を担う職員も増えていくと考えられ、介護問題への対応も課題になると思っています。

3.ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて~朝日生命労働組合の取組み

(1)朝日生命労働組合がめざすもの

 朝日生命労働組合は、営業職員と内勤職員の組合を統合し2001年に結成され、現在の組合員数は約1万5千人で、生保労連加盟組合の中で5番目に大きな組織となります。
 朝日生命労組では、「組合員の幸せの実現」をスローガンに掲げ、5点の運動方針を柱に取り組みを進めています。その1点目は、総合的な労働条件の維持・向上です。この取り組みでは、春闘交渉時だけではなく、年間を通じ会社との協議会や委員会などを開催しています。労働組合は、こうした場で組合員の意見をふまえた提言を行っています。2点目は、活力ある働きやすい職場づくりです。今日の講義テーマである、ワーク・ライフ・バランスの実現や、女性の活躍推進に向けた取り組みがこれにあたります。3点目は、経営に対するチェック機能の強化です。お客様、そして組合員を守るには、会社の健全性などのチェックが極めて重要になります。労働組合は、毎回の決算情報や会社状況、業績を見ながら、必要に応じて提言を行っています。
 なお、こうした取り組みには、対等な労使関係の構築が不可欠です。労使が対等な存在としてお互いを認めあうこと、誠実に向き合うことが非常に大切です。一方、労働組合は組合員の声をしっかりと代弁し、現場視点の提言を行うことで、経営と現場を繋ぎ、経営から必要とされる存在にならなければいけないと考えています。会社から、労働組合と協議すれば会社全体がうまくいく、という信頼を得ることが労働組合にとって大事だと考えています。また、それ以上に、組合の発言は現場の実態をよく踏まえたものであり無茶な要求ではない、と会社に思われるようでなければなりません。皆さんご存知のテレビドラマ「踊る大捜査線」には、「事件は現場で起こっている」という名台詞がありますが、まさにこの現場感覚は極めて重要です。私は、現場のことを良く知っていることが労働組合の存在意義であると考えています。

(2)朝日生命労組の組織

 朝日生命労組には、会社組織に対応した組織があります。会社機構には、まず営業所があります。保険募集やお客様サービスを行う、まさにお客様との接点の最前線が営業所です。この営業所が全国に約700あり、その営業所を概ね10程度束ねているのが支社で、日本各地に約60あります。支社は、営業所に在籍する200~300名程度の営業職員と、支社自体に30名程度いる内勤職員で構成されています。
 これに対する労働組合の組織には、営業所に対応する「班」があります。この班活動が、現場の組合員に関する情報を集める重要な原点になっています。支社に対しては支部があり、この支部の責任者、支部委員長が支部内の組合活動を取り仕切っています。
 本部では、本社のフロアごとに班を構成し、千代田区にある本社と多摩本社に支部を置いています。そして支部を地域ごとに統括する「地区」を置き、この地区を「関信越地区」や「近畿地区」など8つにまとめています。
 こうした各組織では、毎月会議を行っています。班会議から現場の意見や要望を支部や本部に伝達し、また本部からも会社情報を各支部や班に伝えていく活動を行います。本部中央執行委員18名は各地域から選出された役員で、営業職と内勤職の半々で構成されています。ちなみに朝日生命労組の場合、内勤職の本部役員は全員専従で、会社の仕事は行わず、組合の仕事だけに従事しています。

(3)会社との協議体制

 本部と本社間の経営協議会では、全社レベルの事項について協議を行います。支部と支社間の職場懇談会では、支社の事項について支社長と業務担当と総務関係の各部長の3名と組合役員3名が協議を行っています。
 全社レベルの主な協議には、経営協議会の他に、業務懇談会、事務懇談会、商品懇談会、労働時間等設定改善委員会、人事制度フォローアップ懇談会があります。
 業務懇談会では、営業職員が保険の販売促進にむけて様々な意見をぶつけています。事務懇談会では、内勤職員を中心に業務の効率化や事務システムについて会社と意見交換を行っています。商品懇談会では、現場で販売に携わる者がお客様のニーズをふまえた商品開発等の要望を伝えています。
 労働時間等設定改善委員会は年3回開催し、主に内勤職員の職場環境や勤務実態の改善、よりやりがいを感じる仕事ができるようにするための施策等を議論しています。まさに今日のテーマであるワーク・ライフ・バランスは、この委員会で意見交換を行っています。 
 私たちは、いずれの会議も単なる議論に止めず、会社に対する提言を行うよう努めています。こうした場を通じ労使で課題を共有化することが重要であり、それにより、その後の会社提案内容も組合にとって納得感の高いものになると考えています。

(4)朝日生命労組の「ワーク・ライフ・バランス実現」に向けた取り組み

 ここからは、会社の取り組みも含め、朝日生命労組の取り組みをお話しします。
 朝日生命は、厚生労働省が実施している平成22年度「均等・両立推進企業表彰」の均等推進企業部門で、「厚生労働大臣優良賞」を生命保険業界で初めて受賞しました。これは女性労働者の能力発揮を促進するための積極的な取り組みの模範となる企業を表彰しているものです。朝日生命では、『女性の品格』の著者である昭和女子大学学長の坂東眞理子さんを社外取締役として招き、その監修の下で「朝日生命ポジティブ・アクション」を進めています。そして、社長を委員長とする「女性の活躍推進委員会」が中心となり、女性職員の能力発揮を推進する取り組みを進めてきており、その取り組みが評価されての受賞となりました。
 この朝日生命ポジティブ・アクションは、平成18年から3年ごとに進め、現在は第3期を迎えています。「女性職員の活躍を通じた、お客様サービスの向上・生産性向上による企業価値の増大」を実現していくステージと位置づけた取り組みで、この中には、女性管理職の積極登用や女性総合職の採用数拡大があります。現在、管理職約2000名中、女性管理職は約130名ということで、これを200名にしていくこと、あるいは、総合職の中に占める女性の割合を30パーセント以上にしていくことなどを目標としています。
 また、育児休業期間の延長、育児サービス費用補助、短時間勤務制度などもあります。転勤の多い業種のため、仕事と家庭の両立のための異動への配慮も行っています。最近では総合職同士の結婚もあり、極力お互いが離れることのないよう配慮をする、結婚後の配偶者の転勤にあたっても、仕事が続けられるよう配慮するなどの取り組みも行われています。こうした7年間にわたる取り組みと労使の連携によって、一定の成果が上がってきています。ちなみに、朝日生命は、「くるみん」(次世代認定マークの愛称で、次世代の育成支援に積極的に取り組む企業として国が認定する制度)マークを取得しています。
 朝日生命労組では、活力あふれる働きやすい職場づくりをめざす本部活動計画に、「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組み」と、「福利厚生制度の充実に向けた取り組み」を掲げています。このうちワーク・ライフ・バランスの実現にむけた取り組みでは、平成20年度から残業縮減や休暇取得促進など労働環境の改善と、女性の活躍推進に向けた取り組みを進めてきました。平成22年度はこの2つの取り組みを一本化し、組合員一人ひとりの働きがいや生きがいを持った働き方の実現を目標に、幅広い視点から、ワーク・ライフ・バランス実現の方策を検討しています。
 私たちは、働きがいや生きがいを持った働き方を実現し、組合員の働く意欲を向上させることが、組合員の幸せにつながっていくという考え方を持っています。一方、会社も生産性を維持・向上させながら、少子化対策としての企業の社会的責任の履行、人材の確保・定着、従業員の満足度の向上を図るには、このワーク・ライフ・バランスが重要な課題であると認識しています。

(5)ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた具体的な取り組み

[1]環境・制度面の充実
 ワーク・ライフ・バランスの推進にあたっては、現状把握や課題についての定期的な協議・意見交換を行い、労使が共同で環境面・制度面の整備と意識の醸成を図っていくことが重要です。
 環境・制度面の整備の1つは福利厚生制度等の充実で、原則連続3日休む「チャージ休暇」、年間1日は指定する「記念日休暇」、「サプリメント休暇」などがあります。有給休暇はあっても取りづらいということから、あらかじめ決めた休暇日はしっかり休むよう、これらの休暇を新設することで休暇を取得しやすい環境をつくっています。2つ目は、インフラの整備として、業務で使われる端末に稼働制限を掛けています。夜9時以降は原則使えず、使う場合は申請をすることにしています。9時以降は届け出た人以外は使えない、この9時が早いかどうかということはありますが、こうして早めに帰れるよう取り組んでいます。3つ目は協力体制の構築です。休暇を取得するにあたり、例えば営業現場の事務で自分の仕事が終わらなくて休めないという人もいるため、上部組織である支社等から休暇時の代替要員を派遣するという支援体制を構築しています。この支援体制が機能するよう、職場体験プログラムを実施して自分の担当以外の仕事ができるようにしています。4つ目は、休暇取得支援表、計画表の提供です。この表は上司が配りますが、働く人自身が計画表をつくることで休暇取得の意識を高めようというものです。これは意識の醸成にもつながる取り組みといえます。

[2]意識の醸成
 意識の醸成をはかるうえで大変重要なこととして最初に挙げられるのは経営トップから明確な意思表示がなされるということです。経営のトップからワーク・ライフ・バランスの実現をめざすことが大変重要であるということが明確に発信されることにより、管理職・従業員ともに実現に向けた行動をおこす意識が高まります。次に挙げられるのは、所属長の意識醸成です。組合員・所属員がどんなに意識を高めても、その場を管理・監督する所属長が理解を示していなければ、取り組みは前進しません。朝日生命では、職場の残業の実態等が人事考課に影響するようにもなっており、長時間労働の抑制、休暇取得を図ることを前提とした組織運営をしてもらうなどにより、所属長の意識醸成を図っています。最後は、全社的な意識醸成です。この取り組みの1つに、毎週水曜日を早帰りの日とする、「すぴいDay」の推進があります。水曜日の朝に必ずメール等が発信され、また、本社では昼食休憩時に音楽が鳴り、「今日は、すぴいDay」というメッセージが流れる等、継続的な取り組みが行われています。こうした取組みを長く継続することで、全ての人を対象に意識醸成を図っています。

[3]労働組合・会社独自の取り組み
 労働組合独自の取り組みには、組合アンケートの実施があります。会社実施のアンケートは人事に自分の回答が知られてしまうので、なかなか回答しづらいという声もありますが、組合実施のアンケートでは、本音を聞きだしやすいと感じています。労働組合では、このアンケートの100パーセント回収をめざし、その結果をもとに協議に臨んでいます。
 また、啓発用のポスターも作成しています。このポスターは全体の目標だけでなく、支部ごとの取組み目標を記載できるようにもなっています。ワーク・ライフ・バランスの推進は、どちらかというと内勤職員の取り組みが中心になっていますが、この取り組みは営業職員の協力なしにはできません。そこで、ある支部では、営業職員に対し、内勤職員が早帰りできるような目標を設定し、それをポスターに記載、掲示して協力を仰いでいます。
 会社独自の取り組みでは、先ほどもふれましたが、人事評価にも影響する各年度の目標設定にあたり、その目標の重点推進課題にワーク・ライフ・バランスの実践を入れています。各所属長と個々人が十分に話し合い、その実践に向けた目標を設定するようになっています。また、会社では、ワーク・ライフ・バランスの知識を付与するための研修プログラムの充実等を図っています。

[4]2013春闘での取り組み
 朝日生命労組では、営業職の春闘、内勤職の春闘、全職種共通の春闘というように、春闘の取り組みを3つの職種ごとに分けています。2013春闘では、この全職種共通の春闘要求にワーク・ライフ・バランスの推進を掲げ、具体的な要求項目に「長時間労働の改善」と「休暇の取得促進」を設定しました。私たちは、春闘交渉の場でも、ワーク・ライフ・バランスの実現については職場、職種を超えたお互いの理解が必要であること、それなしにはワーク・ライフ・バランスは実現しないこと、計画的な取り組みが重要であることなどを訴えてきています。そして、それが実現することで組合員一人ひとりの働きがいや生きがいを持った働き方の実現につながるものと考えています。

おわりに

 最後にワーク・ライフ・バランスを推進する上で重要なことをお話ししたいと思います。なにはともあれ、「お互いさま」の精神が非常に重要です。職場にはバリバリ働きたいという人も沢山います。仕事と私生活のバランスをとって働きたいという人も沢山います。また、共働きや介護を担うという事情で仕事をセーブしなければいけないという人も多くいます。こうした事情はいつ誰の身に起こるかわかりません。私は、働く者同士が、あるいは職場全体が、そういったお互いの事情をしっかり理解し合って取り組みを進めることが、極めて重要であると考えています。
 一方、私たちは働く者であると同時に消費者でもあります。ワーク・ライフ・バランスを社会全体で進めていくためには、消費者として求めるサービスの背後にある働き方に配慮することも重要ではないかと思います。例えば、自分の時間の都合で何かを注文すれば、それが遅い時間であればその時間まで提供する側は働かなければなりません。自分の求めるサービスを提供する人の働き方に思いを馳せることも重要だと考えています。
 ワーク・ライフ・バランスは、仕事か生活かの二者択一ではありません。仕事を少なくして「楽をしよう」というものでもありません。また、早く帰らなければいけないからといって、仕事を家に持ち帰るというものではもちろんありません。仕事はしっかりやります。効率的に働き、決められた時間内でしっかりとパフォーマンスを発揮しなければならない点ではより厳しくなると思います。しかし、その厳しさにしっかりチャレンジしていくことが自身の能力・スキルを向上させていくことに繋がり、生活を充実させ、人間としての幅を広げることにも繋がると思っています。
 ワーク・ライフ・バランスの推進は、企業にとっても、また私たちにとっても非常に有用で、その効果は計り知れないと考えています。企業も従業員もハッピーな状態という、「Win-Winの関係」がつくれるよう、今後も更なる取り組みを進めていきたいと思っています。

以 上

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