一橋大学「連合寄付講座」

2013年度“現代労働組合論I”講義録

第1回(4/5)

開講の辞:連合寄付講座で一橋大学のみなさんに学んでほしいこと

岡部 謙治(教育文化協会理事長)

はじめに

 皆さんこんにちは、教育文化協会の岡部です。連合と教育文化協会が主催する連合寄付講座、「現代労働組合論Ⅰ」を受講いただきありがとうございます。
 はじめに連合や教育文化協会など、私たちの組織について説明したいと思います。
 連合は、正式名称を「日本労働組合総連合会」と言い、労働組合の全国中央組織(ナショナルセンター)です。日本の場合、労働組合の基礎組織は、「単位労働組合(略称は単組)」という企業別の組織であり、単組が労働組合の出発点です。例えば、トヨタ自動車であれば、そこにはトヨタ自動車労働組合があります。そして、その単組が加盟する「産業別労働組合(略称は産別)」があります。トヨタ、日産、ホンダ、三菱などの単組が集まって、「自動車総連」という産別をつくっています。これからの講義では、単組や産別という言葉が出てくると思います。なお、産別は他にもたくさんあり、例えば、パナソニックや東芝などの電機産業には「電機連合」、鉄や金属産業には「基幹労連」などがあります。それらの産別が加盟する全国中央組織、ナショナルセンターが冒頭に紹介した連合です。単組、産別、ナショナルセンターが日本における労働組合の姿であると認識していただければと思います。ちなみに私は、「全日本自治団体労働組合(略称は自治労)」という地方公務員と地域公共サービスの現場、県庁や市役所、公共施設などで働く者が集まっている自治労の出身です。
 連合は3つの関係団体を有しています。1つは、「連合総研(連合総合生活開発研究所)」というシンクタンクです。2つ目は、「国際労働財団」という国際連帯活動を担っているところです。3つ目は、皆さんに連合寄付講座を提供している、「教育文化協会」です。教育文化協会は主に労働教育の企画、立案などを担当しています。

1.連合寄付講座の目的と講義の概要

 この連合寄付講座は、2005年に日本女子大学からはじまり、今では一橋大学、同志社大学、埼玉大学で開講しています。また、連合には各都道府県に地方連合会がありますが、この地方連合会が提供する寄付講座を佐賀大学や山形大学で実施しています。
 さらに2013年秋からは法政大学、地方連合会では三重大学や福井県立大学でもはじまります。大学生の皆さんに労働組合や労働運動の実際について知っていただきたく、積極的に展開しているところです。
 皆さんはやがて大学を卒業し、大半の方は働くことになると思います。私たちが提供する寄付講座では、今後働くことを通じて社会に参画される大学生の皆さんに、労働運動の第一線で活動している単組や産別、連合の役員などから、今働く現場ではなにが起こっているか、それに対して労働組合はどのような取り組みをしているか、ということをお話しします。私たちは、講義を素材に皆さんに現代労働組合論、さらには今の日本社会で働くということについて考察を深めていただきたいと思っています。
 今回の寄付講座は、全15回の講義を大きく3つに分類しています。第1分類、最初の3回では、労働組合とは何かという基本的な知識を提供します。また、連合の労働相談窓口には、労働組合がないところで働く人たちから、現場で抱えている悩みや問題などの相談が寄せられています。こうした相談事例の紹介を通じて、労働現場の問題、とりわけ労働組合がなく、無権利状態に置かれて働く人たちの状況を浮かび上がらせながら、問題提起もしたいと思っています。
 第2分類(第4~10回)では、主に職場の課題とその取り組みについて取り上げます。単組、産別、連合本部の役員から、労働組合をつくる時の苦労話や、雇用を守るための闘い、賃金交渉、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の推進などの取り組みを紹介します。また、非正規労働者の処遇改善の取り組みも紹介します。今や雇用労働者5,500万人のうち、3分の1以上が非正規労働者という現状にあり、この非正規労働者の処遇改善を進めなければ、日本の本格的な経済発展は望めないと思います。
 皆さんには、こうした職場の課題とその取り組みを通じ、労働組合の存在意義について是非考えていただきたいと思っています。
 第3分類(第11~14回)では、連合の制度・政策づくり、男女平等の実現、「働くことを軸とする安心社会」の実現にむけた取り組みを紹介し、連合の組合員だけではなく、すべての働く人たちの、働きがいのある人間らしい仕事、「ディーセントワーク」をいかに実現するかという、ナショナルセンター連合の社会的な役割にふれます。
 皆さんには、私たちがめざす社会のあり方について理解を深めていただきたいと思っています。寄付講座は15回目の教員まとめを含めて、このような組立てになっていますので、どうぞご期待ください。

  日程 講義テーマ ゲストスピーカー
1 4/5 【オリエンテーション】
【開講の辞】連合寄付講座で一橋大生に学んでほしいこと
一橋大学教員
岡部謙治 教育文化協会理事長
2 4/12 今、働く現場で何が起こっているのか-労働相談からみた職場の現状と労働組合の役割 田島恵一 連合中央アドバイザー
3 4/19 「労働運動・労働組合に関する基礎知識」 木村裕士 教育文化協会専務理事・連合副事務局長
4 4/26 【課題と取り組み①】労働組合をつくる 黒川真一 山陽マルナカ労働組合中央執行委員長
水谷雄二 連合副事務局長
5 5/10 【課題と取り組み②】労働時間を中心としたワークルール確立にむけた取り組み 新谷信幸 連合総合労働局長
6 5/17 【課題と取り組み③】ワーク・ライフ・バランスの実現にむけた取り組み 早川順治 生保労連中央書記長
7 5/24 【課題と取り組み④】賃金と処遇改善の取り組み 余田彰 NTT労働組合中央本部交渉政策部長
8 5/31 【課題と取り組み⑤】雇用と生活を守る取り組み~契約社員の正社員化事例を通じて 佐古正明 私鉄中国地方労働組合広島電鉄支部執行委員長
9 6/7 【課題と取り組み⑥】非正規労働者の組合加入・処遇改善の取り組み 簑田欣治 大丸松坂屋百貨店労働組合中央執行委員長
10 6/14 【課題と取り組み⑦】公務労働の現状と良質な公共サービスをめざす取り組み 森美喜子 自治労社会福祉協議会介護部会副部会長
11 6/21 「働くことを軸とする安心社会」の実現にむけて 南雲弘行 連合事務局長
逢見直人 UAゼンセン会長
12 6/28 連合の政策・制度の実現をめざして~雇用・労働政策、特に若年者雇用の課題を中心に 安永貴夫 連合副事務局長
13 7/5 男女平等参画社会の実現をめざして~ジェンダーの視点からみた労働組合の課題を中心に 井上久美枝 国公連合書記次長
14 7/12 「働くということをどうとらえるか」-その現代的意義を考える 高木郁朗 日本女子大学名誉教授(教育文化協会理事)
15 7/19 教員まとめ 一橋大学教員

2.働くということの意味とめざすべき社会像

 (1)国際労働機関(ILO)のフィラデルフィア宣言
 この講義では、「働くことを軸とする安心社会の実現」が、全講義の底を流れる大きなテーマとなっています。また、このテーマは連合運動の一番基本となる理念ですが、こうした運動の理念は一朝一夕につくられたものではなく、長年にわたる国内外の労働運動の中から積み上がってきたものです。
 労働運動の大切な理念を表しているものに、ILOの「フィラデルフィア宣言」があります。ILOは第一次世界大戦後の1919年に設立された国連の専門機関の1つで、政(政府側)・労(労働者側)・使(使用者側)の3者で構成され、国際労働基準となる条約づくりなどを行っています。
 ILOが1944年にフィラデルフィアで開催した総会で確認した宣言の中に、「労働は商品ではない」、「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」という言葉が入っています。この2つの理念は、今も変わらず労働運動の行方を示しており、今日的な問題でもある非人間的な労働条件に対しては、「労働は商品ではない」という原点に返った取り組みが必要です。また、例えば、非正規労働者の劣悪な労働条件をそのまま放置すれば、やがて働くすべての人の労働条件の劣化につながりかねず、「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」という原点に返った取り組みが必要です。
 第二次世界大戦は、1945年にドイツ、日本が降伏して終わりますが、その前年の1944年にILO総会は「フィラデルフィア宣言」を採択しています。なお、これは平和を守る宣言でもあります。劣悪な労働条件が社会不安を呼び起こし、戦争につながったということが20世紀の教訓であり、二度と戦争を起こさせないためには労働運動が必要と考えたわけです。「労働は商品ではない」、「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」という理念は、労働運動の原点と言えます。

 (2)日本における生産性3原則(1955年5月 第1回生産性連絡会議)
 このような国際労働運動の考えについて、1945年の敗戦から再出発した日本では、労働者の権利、社会の発展について、労働組合、使用者、政府が話し合い、「生産性3原則」を確認しました。
 そこで、めざすべき社会に関わって、日本の生産性三原則についてふれたいと思います。これは日本的な労使慣行の中でつくりあげられた、非常に素晴らしい労使共通の認識となっているものです。原則の3つ目に、「生産性向上の諸成果は経営者、労働者および消費者に国民経済の実情に応じて公正に配分されるものとする」とあります。労働者が一生懸命働いた結果生産性が上がり、会社は利益を上げ付加価値が増大した。その利益は会社や株主だけのものではなく、労働者にも適正に配分されるべきだ、ということです。また、消費者、国民に対しても配分されるべきだ、ということです。
 この原則は、労働によって得た富、付加価値については、公正に社会に還元していこうという考え方にたっていますが、私は、残念ながら今の経営者にはこの視点が弱いのではないかと思っています。会社は資金を相当貯めこんでいますが、労働者に対する配分、つまり賃金の引き上げや労働条件の改善には非常に消極的です。
 生産性三原則をもとに、社会を良くしていこうという考え方からすると、今の経営者には少し反省をしてもらわなければいけないと思っています。

3.連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」とは

 連合がめざす「働くことを軸とする安心社会」については、講義の中で具体的なお話しがありますので、本日はごくごく簡単にお話しします。
 なぜ連合は「働くことを軸とする安心社会の実現」を提起したのかというと、今の日本が非常に不安な社会であるという認識に立っているからです。例えば今の若者は、安定した収入を得て将来家族を持てるかどうか、不安を抱えています。働く母親は、育児と仕事の両立に疲労困憊しています。適当な保育所がない場合、待機を余儀なくされるため仕事を辞めなければならない、あるいは仕事に就きたくても就けない状況もあります。また、病気になった場合、仕事を続けられるかどうかなど、働くことに関わる様々な不安があります。連合は、そういった不安を取り除くため、「雇用につながる『安心の橋』を架けて、『働くことを軸とする安心社会』をつくろう」という提案を行いました。
 人は働くことによって経済的に自立することが可能になります。そして仕事を通じて社会に参画することで自己実現にもつながります。さらには、仕事をする、収入を得ることによって、社会保険料や税を納め、それが社会制度を支えていくことにつながります。
 誰もが就業に挑戦でき、それを保障する社会づくりでは、例えば、育児の問題で仕事に就けないことがあったとき、適切な保育所などが必要です。教育が十分受けられなかったため、きちんとした仕事に就けない若者も少なくありません。したがって、教育の機会を平等に保障していくことが必要です。病気になって会社を辞めなければならなくなったとき、もう一度働くための職業訓練が受けられる、あるいは病気を治して復帰できることが必要です。こうしたニーズに応えるには、雇用につながる「安心の橋」づくりが必要です。
 他方、この安心社会は、困難にある人に保護や恩恵を与えればよし、とするものではありません。それでは一生懸命働いている、あるいは自己実現しようとしている人たちの妨げになるかもしれません。そうではなく、それぞれの人が持っている困難を取り除くことによって、いつでも就業に挑戦できる環境を整えておく、これが私たちのめざす、「働くことを軸とする安心社会」です。

おわりに

 労働組合は働く者にとって本当に不可欠な組織です。しかし、労働組合の組合員である人たちの方が少なく、労働組合の組織率は大変低いというのが現状です。
 私たちは、連合が自らの運動を検証するため2002年に設置した、連合評価委員会(連合運動への提言を行う目的で設置された外部委員による委員会)報告にあった、「労働組合員が働く人々全体のなかでは『恵まれている層』であるという自覚のもと、労働組合員が自分たちのために連帯するだけでなく社会の不条理に立ち向かい自分よりも弱い立場にある人々とともに闘うことが要請されているのである。」という指摘を忘れてはいけない、そう思っていることを申し上げ、開講のご挨拶とさせていただきます。

[補足説明:ユニオンショップ制について]
 ここで、今後の講義に関わって、大学よりご要望があった、「ユニオンショップ制」についてご紹介します。労働組合法の第7条1項には、「労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない」とあります。具体的には、この協定がある会社に採用された人には、労働組合加入が義務づけられ、採用後に加入しない、あるいは組合から脱退もしくは除名された場合、使用者はその労働者を解雇する義務を負うことを労働協約として締結することができるというものです。
 こうしたユニオンショップ制について、皆さんは驚かれるかもしれません。しかし、実はこれは積極的団結権として認められているものです。非常に長い間労働組合は労働組合員であることを理由に解雇されたり、弾圧や迫害を受けてきました。このユニオンショップ制は、そうした歴史の中で労働組合が勝ち取ってきた、働く人の権利を守るための制度です。なお、日本の大企業の多くは、このユニオンショップ制を採用しています。

以 上

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