一橋大学「連合寄付講座」

2010年度“現代労働組合論I”講義録

第5回(5/7)

課題と取り組み①  賃金-労働条件の底上げ、下支え

ゲストスピーカー:濱口誠(自動車総連事務局次長)

 皆さんこんにちは。今日は私の所属する自動車総連について説明した上で、賃金の基礎知識と今年(2010年)の春闘の取り組み、とりわけ自動車総連での春闘の状況について話し、最後に具体的事例としてトヨタでどんな春闘の取り組みをしているのかをお話しします。

1.自動車総連について

 自動車総連は、「全日本自動車産業労働組合総連合」の略称で、トヨタ、日産、ホンダをはじめとする日本の自動車産業の労働組合の産業別組織です。
非常に広い業種をカバーしており、完成車メーカーに加えて、車体や部品メーカー、販売店や輸送会社も組織しています。一般に分類される、研究開発や技術開発、あるいは日産労連のなかにはパン屋さんなども入っています。このように、非常に幅広い労働組合が自動車総連には入っています。
組織人員は全体で74万7千人ぐらいです。完成車メーカーを中心に構成される12の労連が加盟しています。一番大きな全トヨタ労連は30万人を超える組織です。もう1つの特徴は、大手の完成車メーカーは13しかありません。総連全体では1100をこえる労働組合が加盟していますけども、大部分は車体部品や販売などの組合が非常に多いです。自動車総連というと大きい組合が多いという印象があるかもしれません。実は大きい組合は非常に少なくて、300人以下の中小企業の組合が圧倒的に多いというのがもう1つの特徴です。500人以下の組合が全体の組合数の80%を占めています。業種別に見ても車体部品、販売を中心に中小企業が多いです。

2.賃金の基礎知識

(1)賃金の位置づけ
まず賃金の位置づけです。賃金とはなんでしょうか。我々労働者からすると賃金の位置づけというのは大きく2つあります。
1つは労働の対価。働いたことに対してちゃんとその対価をもらう、それが賃金だということです。労働者は働くことによって賃金、給料をもらいます。働く者の立場から言うと賃金は公平、公正、納得性のあるものでなければなりません。賃金をもらうことによって、働く者は意欲、活力、明日も頑張ろうと、仕事をしっかりやろうというやりがい、意欲ができるので、納得性のあるものでないといけません。
もう1つは、生活の原資です。つまり労働者は賃金をもらうことではじめて生活が成り立ちます。したがって、賃金の安定感、安心感が大事です。先月30万円もらっていたけれど今月10万円というような賃金のしくみだと、働く者からすると生活の安心が確保できません。こういう、2つの側面があります。
賃上げを考える時は、賃金は労働の対価や生活の原資であることをしっかりと認識をした上で取り組みを進める必要があります。そのために安定的に維持・向上をはかることが非常に重要です。
他方、一時金(ボーナス)は一般に業績に連動するものですから、業績がいいときは増えるし、業績が悪くなると減ってしまいます。一時金の方が上下動する要素が強いです。賃金と一時金にはそのような性格の違いがあります。

(2)賃金の社会性
次に賃金の社会性です。よく「自動車、電機、あるいは鉄鋼の大手の賃金が決まらないと他の産業の賃金が決まらない」と言われることがあります。これは賃金には社会性があって、企業や産業を越えた波及効果が大きいという特徴があるためです。自動車でいうと、トヨタ、日産、ホンダだとか、大手のメーカーの賃上げ結果は、ほかの組合の賃上げに大きく影響します。これらが賃金の社会性、波及性を表しています。賃金の波及効果を意識して労働組合は取り組んでいますし、会社のほうも自分のところだけではなくて、ほかの賃上げの状況はどうなのかも非常に意識をして賃金を決めていきます。
他方で一時金は個々の企業の業績や実績を踏まえて決まっていくものですから、外に対する波及性は賃金ほどではなく、個別企業労使の交渉の中で決まっていく要素が強いです。社会性の観点から言うと、賃金のほうが非常に大きいです。

(3)賃金カーブ維持分と改善分

 つづいて、賃金カーブ維持分と賃金改善分です(スライド12)。いわゆる賃金カーブ維持分というのは定期昇給です。賃金改善分というのはいわゆるベア、ベースアップといわれるものです。
たとえば年齢、あるいは勤続が高くなると賃金が上がっていく、こういうカーブは賃金カーブと言われます。これに対して、定期昇給やカーブ維持分というのはN歳からN+1歳になったときに賃金が上がりますが、現状の賃金水準を維持するのに必要となる原資を、賃金カーブ維持分(定期昇給)といいます。すでにある賃金体系、賃金カーブに沿って、年齢や勤続、能力の向上によって賃金が上がっていくのに必要となる金額がカーブ維持分(定期昇給)といわれます。
一方で、ベア、ベースアップはこのカーブ自体が全体的に上がっていく、カーブ全体を持ち上げることをベースアップと呼びます。今はベースアップよりももっと幅広い意味で賃金改善分という言い方をしています。
スライドのように今あるカーブの上に乗っていくのが定期昇給、カーブ維持分です。カーブ自体を一段上に全体的に持ち上げるのがベースアップ、賃金改善分です。

(4)平均賃金と個別賃金

 もう1つ、平均賃金と個別賃金があります(スライド13)。このA社とB社、見たときにどっちの賃金がいいと思いますか。A社の平均賃金32.2万円、B社は31万円と、平均賃金で見るとこのような見え方をします。これを個別賃金でそれぞれ見たときにどうですか。実は個々人で見ればA社のほうが高い賃金です。ただ、平均賃金で表すと、B社のほうが高くみえます。賃金は平均賃金だけを見ていてもその会社の賃金の実態がよくわかりません。個別賃金で見たときにどういう賃金実態になっているかをみていかないと賃金の実態はわかりません。

(4)賃上げ検討のポイント
賃上げを検討する際に、どんなポイントを労働組合は検討して賃上げ要求額を決めているのか(スライド14)。まずはマクロ経済です。経済環境、物価、日本全体のGDP、経済成長、雇用・失業率、有効求人倍率はどういう状況なのか。経済環境が今どういう状況にあるか、マクロ経済の観点を見ます。

 次に、企業の実態、収益、国際競争力、生産性は去年と今年を見たときに高くなっているのか、低くなっているのかを見ます。
もう1つは賃金水準です。それぞれの企業の現在の賃金水準はどのポジションにあるのか。今の賃金水準が働いている人たちのやりがいや意欲・活力につながっているのかどうか。あるいは今の賃金水準で優秀な人材にわが社に来てもらえるのか。こういう賃金水準の相対的な位置づけ、ポジションも非常に重要になってきます。
もっとミクロの状況では、働き方の向上ということで、職場で働いている皆さんの働き方のレベルはどうなっているのかです。たとえば、かつては海外の工場への立ち上げ支援は管理・監督者クラスが中心でしたが、今はもう組合員の中堅クラスの人たちが海外に出て行って、立ち上げに関わっています。組合員の働き方のレベルが上がっているわけです。働き方のレベルアップは、組合員のなかでもあるのだということを会社に対してしっかり主張できます。そういった働き方のレベルアップをミクロの視点ではみていかなければいけません。
労働組合として、こういういろいろな要素を総合的に見ながら、本当に賃上げをいくら要求していくのかを議論しています。
他方、次の表は会社が賃金を考えるのにどのようなところを重視しているのかについてアンケート調査した結果です(スライド15)。会社は、企業業績、支払い能力があるのかどうかを重視しているという回答が圧倒的に多いです。しかし、世間相場だとか、雇用の観点、労働力の確保、より良い人材を採用できるのかどうか。あるいは物価の動向もあります。いろんな要素を見ながら賃金の改定を判断しています。

(5)最低賃金
最低賃金法の定める最低賃金(最賃)も知っておいてほしいと思います。最低賃金は働いている労働者がどこで働こうが、少なくとも最低賃金を支払わないといけないというものです。地域別最賃と特定最賃の2つの種類があります。
地域別最賃はそれぞれの地域、たとえば東京都で働く人たちの最低賃金はいくら、愛知県ではいくら、静岡県ではいくらと、地域ごとに決められています。その地域で働いているすべての労働者に適用されます。したがって、東京でアルバイトをしているのであれば、東京の地域別最低賃金を上回る賃金をもらわないとこれは法律違反となります。
もう1つの特定最賃は産業別最低賃金のことです。たとえば自動車産業の場合は、自動車製造業や自動車小売業など産業別に決まっていく最低賃金のことをいいます。したがって、この特定最賃は地域最賃よりも高い額で設定をされます。
この産業別最賃を決めるにあたって、企業内の最低賃金協定が非常に重要な役割を果たします。労働組合としては、企業内最賃協定を結んでこの特定最賃の底上げをはかる取り組みを行っています。
地域別最賃の最近の動向に少しふれたいと思います。地域別最賃については2008年の最低賃金法の改正によって、それぞれの地域の生活保護水準を下回ってはいけないこととなりました。とりわけ東京都や神奈川県などは生活保護の水準よりも地域別最賃が低いので、3年ぐらいかけて生活保護水準に近づけようと、最低賃金を引き上げています。2009年に東京では、時給ベースで25円の大幅な最低賃金のアップ(2009年10月1日から791円)が図られています。他の生活保護とのかい離が大きい県については地域最賃の大幅な引き上げが行われています。

(6)春闘の歴史
次は春闘の歴史です。春闘は1955年頃から始まりました。1965年ぐらいから賃上げ率が大幅に上がりました。1974年には30パーセントをこえる賃上げがありました。ただその時代は、賃金は上がるけれど、それ以上に物価が上昇して実質的な賃金が下がりました。働く人からすると生活の改善が図られた実感がない、逆に物価のほうが上がりすぎて生活が圧迫されるという時期が1965年以降に生じました。
そこで、経済との整合性を反映した賃上げにすべきであるという議論が起こってきました。1975年から賃上げを生産性の上昇率に合わせる、生産性を超えるような賃上げをしても物価が上がるだけなので、賃上げを自制するような動きが出てきました。その結果、経済の成長と賃金の安定的な向上を両立させて、実質賃金を上昇させていくようになりました。
ただ近年は、非常に経済環境が厳しいということもあり、賃金をとりまく環境が非常に厳しくなっていますが、自動車や電機連合などの金属産業の大手組合が、日本の賃上げ全体を牽引していると言われています。
表(スライド20)は賃金水準と、賃上げ額の推移です。1965年は、まだ全体の主要企業の賃金といっても3万円程度の水準です。それから賃上げによって、賃金水準が上がってきました。今は30万円をこえるぐらいにまであがってきています。最近の賃上げ交渉の環境は、日本の経済状況、あるいはグローバル競争の波の中で非常に厳しく、2パーセント前後の賃上げ率になってきています。

3.2010年春闘の取り組み

 2010年の自動車総連の取り組みを振り返ります。

(1)マクロ経済の状況
まず、マクロ経済の状況です。GDPは2008年にマイナス成長で、日本の経済全体が2008年の秋のリーマンショック以降非常に厳しい状況が続いて、まだまだ本格的な経済回復には至っていませんでした。2010年度の日銀の見通しだと若干プラスには転じますけれども、勢いの良い状況にはありません。
2008年までは物価も上昇傾向にありました。しかし、リーマンショック以降、物価は下落して、2009年11月には政府からデフレ宣言がありました。家計の状況ですが、エコポイントや自動車のエコカー減税や補助金があって、消費支出は0パーセントを若干こえるプラスの方向になっています。しかし、実際の収入面や可処分所得はマイナスで、働く人たちの厳しさは続いています。
日銀の業況判断は、景気が良くなっているのか悪くなっているのかを各企業に聞いた結果です。リーマンショックがあった一時期の最悪の状況から少し安定しています。良くなりつつありますが、まだ景気の先行きは悪いと感じている企業が圧倒的に多いです。
次に、雇用情勢です。失業率は5パーセント台に高止まりしていますし、有効求人倍率も最悪の時には0.45で、非常に低いです。雇用状況は非常に厳しく、人員の余剰が出ています。生産や販売が落ち込むなかで、余剰人員を抱えて企業が踏ん張っているのが見て取れます。2010年春闘は中小企業も大企業も人が余剰というなかで交渉をしました。
企業としてもなんとか雇用を守りたいというときに、雇用調整助成金という制度があります。申請した件数や人数ですが、2009年の10月時点で248万人分の雇用調整助成金が申請されています。9万8千事業所で申請がありました。不況のなかで雇用を守りつつなんとか踏ん張っていこうと、補助金に頼らざるをえない企業が非常に沢山あります。
非正規労働者の全労働者に占める割合はここ数年非常に上がってきました。その割合は2000年と比べると2008年で約10パーセント以上増えてきています。日本全体として非正規労働者が増える雇用環境になっています。しかし、リーマンショック以降、非正規労働者は派遣社員の方を中心に雇用は大きな影響を受けました。2割ぐらい派遣労働者は解雇されました。他方で正社員の方は若干減っていますけれども、大きな減少にはなっていません。

(2)自動車産業の情勢
自動車の生産台数は、2008年までは国内の生産ラインだけで1000万台をこえていました。日本の自動車産業において、日本で雇用を維持するための目安としての国内生産台数は1000万台です。これを確保できていれば雇用には影響はでないだろうと言われています。しかしながら、2009年は793万台で、1000万台を大きく下回る台数になりました。それだけ生産は落ちて、自動車産業全体としても危機的な状況でした。販売も国内販売がここ数年非常に落ちてきています。昨年は461万台で、前年比9.3パーセントのマイナスです。非常に景気が悪く、販売台数も大きく落ち込んだ状況です。とりわけ、登録車、軽自動車の両方で販売台数が減少しています。
販売としては登録車を300万台ぐらいの台数でキープしたいのが本音です。エコカー減税等で最近は台数が持ち直していますけれども、昨年の前半、1-3月あたりを中心に非常に台数が落ちこんで、全体としては前年を一割近く下回る台数になってしまいました。これが2009年の特徴です。昨年の1-3月は生産が半分になって、輸出は6割以上減り、自動車産業全体として大きく影響を受けました。そのあと4-6月、7-9月も徐々に回復してきていますが、対前年で見るとマイナスです。エコカー減税がようやく効きだしてきたのは2009年の夏以降です。なんとか国内の販売のほうも持ち直してきました。
次は設備投資額の状況です。それぞれの完成車メーカー、部品メーカー、車体メーカーの設備投資の状況は、2008年と2009年を比べても全体で3割近く投資額が減っていて、とりわけ部品メーカーでは約半分になっています。台数が増えない中で設備投資をやるような環境になく、企業としても先が見えない中で設備投資にお金を使うことはなかなか難しい環境にありました。
次は自動車メーカー11社の収益の見通しです。今、若干台数が海外を中心に増えてきて、収益的には盛りかえしてきていますけれども、産業全体としては厳しい状況にあります。他方で部品メーカー、車体部品はどうかということですが、完成車メーカーと同じように収益が一気に悪化しました。産業全体としても今回のリーマンショック以降の影響が、収益面でも非常に大きかったということです。
自動車産業における雇用で、一番影響が大きかったのは派遣労働者です。派遣の方は2008年と2009年、1年の違いなのですけれども、66パーセントの減少となりました。3分の1ぐらいの派遣労働者が減りました。自動車産業全体としては非正規労働者数が約半減しました。この時、「自動車産業が非正規の雇用に対して一番大きな影響を与えた」と言われました。自動車産業に働く者としても、この実態は非常に重く受け止めて今後の活動に生かしていかなければいけません。労使ともにそういう思いを強くしています。

(3)組合員の意識
次に組合員の意識について見ます。2009年7月に「自動車総連生活実態アンケート」(7236件)を実施しました。これは賃金、一時金についてどう感じているかを実際に自動車会社で働いている組合員にアンケートしたものです。
賃金一時金の水準について「不満がある」「やや不満がある」と、賃金について不満を感じている人が7割近くいます。2007年と比較して2009年のほうが不満を感じている人の割合が増えてきています。
生活の状況はどうか。「やや苦しくなった」「非常に苦しくなった」という生活面で苦しいという実感を抱いている方が2007年の調査と比べると大幅に増えました。一時金が2008年に自動車産業全体として大きく落ち込みました。一時金はレジャーなどに使うだけではなくて、普段の月々の生活の原資になっています。一時金の大幅な減少が組合員の生活に影響を与えていると思います。
今後の生活見通しは、先々悪くなるのではないかという見通しを立てている人が増えてきています。

(4)自動車総連における労働条件の現状
2009年の春闘の取り組みの結果を表(スライド48)にまとめてみました。リーマンショックの影響があり、回答の結果が非常に厳しくなりました。賃金改善分は、2008年に比べると10分の1、さらに賃金カーブ維持分が確保できなかった、割れてしまった組合も、2008年は97しかありませんでしたが、2009年は220になり、2009年は非常に厳しい結果です。

 自動車産業は全産業に比べて生産性が高いです(スライド49)。全産業を100とした時に、輸送用機械器具製造業の生産性が非常に高いのです。しかし、賃金は全産業とあまり変わりません。自動車は賃金水準が生産性の高さにみあったものになっていません。これが大きな課題です。

 表(スライド51)は2006年から2008年の35歳標準労働者の賃金水準です。トップ3というのは、これはトヨタ、日産、ホンダの大手の3社です。この大手の3社ですら製造業の第3四分位、まん中よりちょっと上のところよりは多少いいぐらいです。第9十分位の製造業の1000人以上の企業の賃金水準と比べると自動車のトップ3の賃金水準は下回っています。産業間の賃金水準の格差の是正をめざしてやっていかないといけません。
この表(スライド52)から同じ自動車産業のなかでの賃金格差がわかります。メーカーは上のほうにありますが、車体部品はその下、販売はさらにそれよりも下です。同じ自動車産業でも大きな賃金格差があります。同じ車体部品のなかでも上位の組合と下位の組合でひらきがあります。こういう実態に対して自動車総連として問題意識をもって取り組んでいます。
35歳標準労働者で見たときにも、メーカーの賃金水準は高く、30万円前後です。販売では25万円前後で推移しています。
2009年の一時金交渉の結果は前年の実績を下回ったところが、95パーセントです。年間回答月数が3.54ヶ月で、前年より0.85ヶ月マイナスとなっています。
一時金回答に際して、秋にもう一回交渉して、水準を見直すかもしれませんよという付帯事項を付けられた回答が、2009年に一気に増えて391組合になり、大変多くなりました。

(5)2010年春闘方針
ここからは2010年の春闘方針です。自動車総連の加盟する金属労協(IMF-JC)は賃金カーブを維持し、その上で賃金改善に取り組む、一時金については5か月の基準をしっかり守るという方針です。5か月基準は一時金の方針として長年大事にしてきています。これは生活を守るという観点からも5か月というのが必要な水準だということです。
自動車総連として重視すべき観点は4つ。第1点目は、生活の基盤である雇用をしっかり守ることです。雇用が守られなければ組合員の生活の安定は確保できないということです。
2点目としては、日本経済が非常に厳しい中でさらに賃金が下がると内需が底割れしてしまう、これをなんとしても防がなくてはいけないということです。
3点目としては、働く者の生活を維持向上させるために、賃金水準の格差、あるいは賃金カーブのゆがみを是正して、賃金水準の改善をはかるということです。
4点目としては、こういう厳しい中でも組合員の皆さんは、会社のために頑張らなければいけないということで、非常に頑張っておられます。こういう組合員の皆さんの頑張り、生産性の向上への努力、あるいは働き方のレベルアップにしっかり報いようということです。こうした点を自動車総連として大事にして、2010年春闘方針の議論を行いました。
具体的要求基準は、すべての組合は賃金カーブ維持分を確保しよう、その上で賃金改善分については明確な額で要求していきましょうという方針のもとに自動車総連として取り組みました。
賃金については、交渉前の取り組みを強化としていますが、2009年を振り返ったときに220組合が賃金カーブ割れをしました。この220組合をみると、賃金カーブの水準を労使で確認できていない組合が半数以上含まれていました。賃金カーブ維持分はいくらなのかを労使で確認しているところは賃金カーブ維持分を確保することができる確率が高いです。しかし、賃金カーブ維持分を労使で確認できていないまま交渉を行っているところは、最終的に賃金カーブ維持分割れという組合が多く出ました。自動車総連としては事前に賃金カーブ維持分の水準について労使でしっかり確認していきましょうと、前段階の取り組みを行いました。
もう1つは、企業内最賃協定が産別最賃、特定最賃に取り組む上で非常に重要な要素だとして、今年は従来以上に力をいれて企業内最賃協定締結の拡大を取り組みました。自動車総連の場合は2009年時点で企業内最賃協定の締結率は52パーセントでした。この数を増やしていこうと取り組みを強化しました。
企業内最賃協定の締結は、そこで働くすべての労働者に波及して、下支えになります。正規だけでなく、非正規の方も含めた、同じ働く労働者の賃金の下支えにつながるというのが1つの大きなポイントとしてあります。
企業内最賃協定を結ぶ企業が増えると、社会全体の労働者の賃金水準の下支えにもつながります。今の最低賃金制度は、地域別最賃があってその上に産業別最賃、その上にさらに企業内最賃があります。この企業内最賃協定にしっかり取り組むことによって産別最賃等に波及をさせていくことができます。企業内最賃協定というのは非常に重要です(スライド65)。

 最近の地域別最賃と産業別最賃の特徴をみると、東京都の場合は、地域別最賃と生活保護水準とにかい離があるため地域別最賃はどんどん上がってきています。一方で、東京での自動車、製造業の産別最賃は今824円です。今後東京の地域別最賃がどんどんあがっていく見込みになっていますので、地域別最賃が産業別最賃の824円まで上がると産業別最賃としての意味合いがなくなります。従って、労働組合としては、産業別最賃の優位性を確保していくためには今後も産業別最賃の水準を引き上げていかないといけません。
次に一時金ですが、一時金の水準は組合員の生活に非常に影響を与えます。昨年、一時金の水準が大幅に低下をしたために労働組合として急きょ組合員に臨時の貸し付けを行った組合もあります。組合員の生活を考える時には2009年よりも一時金の水準をなんとしても回復させる取り組みをしっかりやらないといけません。そういう観点から2010年も環境は厳しいのですが、5か月要求基準を打ち出しました。

(6)2010年春闘の回答状況
2010年の春闘の解決率は4月26日現在、賃金についてはまだ5割をちょっとこえたぐらいです。非常に厳しい解決率になっています。まだ半数の組合が賃上げ交渉の決着がついていません。
平均の回答額は3806円で、去年よりは413円程度上がっています。水準は底上げができています。改善分が確保できたのは51組合で、厳しい中でも改善分まで確保できている組合があります。他方、賃金カーブ維持分(定期昇給)を確保できなかった組合が48組合あります。2009年は220組合でしたので、カーブ維持分の確保できなかった組合を減らすことができました。賃金水準の低下を阻止しようと取り組みましたが、その目的をほぼ達成できたのではないかと思います。
一時金の平均回答月数は4か月です。去年より0.33か月プラスです。自動車総連全体としては水準の回復を図ることができたと考えています。昨年水準を超えた組合が345組合です。頑張った結果だと思います。
企業内最賃協定は、すでに52パーセントの組合が締結していますが、この春闘で新規締結に取り組んでいる組合が254組合です。さらに水準の引き上げ、適用対象者の拡大に取り組んでいる組合は156組合あります。
今後は、賃金・一時金ともにまだ半分しか解決していないので、引き続き未解決組合をしっかりフォローし、サポートしていきます。すべての組合で解決できるのは、例年7月末ぐらいです。
今後9月の自動車総連の大会で、2010年の春闘の総括をとりまとめて報告をしたいと考えています。

4.事例紹介

 最後に春闘の取り組み事例としてトヨタ労組を紹介します。例年12月から職場研修を行います。1月に要求案を提案して、職場討議をして、要求を決めていきます。2月に入って要求を会社に提出して交渉に入り、3月中旬に回答を受け、職場にはかって最終決着を迎えるという流れになります。
12月に職場研修を行います。対象は職場委員です。職場委員は約5000人います。10人か15人に1人の割合で職場委員がいますので、1か月ぐらいかけて、土日や仕事がないときに集まっていただき、1日研修をやります。その中で、経済の状況や企業の状況についてみんなで認識を深めます。賃金や一時金、働き方など要求項目についての議論をやります。一時金を何か月要求したらいいのかをテーマに、10人から15人ぐらいのグループに分かれて意見を出し合います。春闘に向けてどのような職場活動をやっていくのかも議論します。
要求案の提案採決は、1月から2月です。職場研修のなかでしっかり議論をして、認識を深め、執行部から、賃金、一時金、あるいは働き方などの要求案を評議会という決議機
関に提案します。それぞれの要求案について各職場で議論をして、評議会で採決をして要求を決めます。

 写真(スライド77)は職場の代表が700人ぐらい集まって、要求を決め、これから春闘に向けて「頑張ろう」をやっている写真です。要求を決めて、これから2月、3月の交渉に向けてみんなで力を合わせて頑張っていこうと気持ちを合わせて春闘に入っていきます。
これ(スライド78)は申し入れの時の写真です。要求が決まれば執行部が職場の代表という形で会社に申し入れを行います。労務担当の副社長が会社を代表して執行委員長から要求書を受け取るところから交渉が始まります。このときは組合執行部だけでも60人、会社のほうも20人ぐらい参加しました。
次は団体交渉です(スライド79)。トヨタの場合は労使協議会といいます。2月から3月にかけて労使交渉を行います。だいたい1回の労使の交渉の時間は90分ぐらいが通常です。4回ぐらい交渉を行います。組合側は200人以上います。会社は100人ぐらいです。あわせて300人ぐらいの団体交渉をやります。組合は専従の執行委員もいますが、後ろにいるのは非専従の職場の代表です。職場を離業して、交渉に参加します。賃金、一時金、各要求項目に対する組合の考え方、あるいは会社の考え方をそれぞれの回ごとに主張し合うというかたちになります。

 これ(スライド80)は職場活動の風景です。会社との交渉をするにあたっては執行部だけでは力になりません。職場のみんなが要求にかける強い思いを会社にしっかり示していくのが会社を動かす非常に大きな力になります。それぞれの職場で職場集会を開いて、交渉状況を報告します。最後に気持ち合わせの「頑張ろう」をやったり、職場で寄せ書もします。職場ごとに今回の春闘にかける決意をみんなに書いてもらい、職場の思いを執行部の事務所に掲示したり、あるいは写しを各職場の部長や役員のところに持って行きます。多くの組合員がこういう思いのもとに春闘に取り組んでいますと職場の気持ちをしっかり表わすのが春闘を行うにあたって非常に重要なポイントになります。こういう活動をそれぞれの組合で工夫をこらしながらやっています。
回答指定日を自動車総連全体で設けます。2010年は3月17日に回答指定日を設けて、その日に会社から回答を受けました。組合の要求どおりだったら職場に報告するだけで解決です。
会社回答が組合の要求通りでない場合があります。トヨタの場合でいうと、今年は賃金の回答は要求通りでしたが、一時金は要求通りにはなりませんでした。5か月プラス10万円の要求をしたのですが、実際は180万円(5か月プラス6万円)の回答でした。そういった場合は「180万円の回答ですが、組合として妥結したい」と職場に提案して、職場ごとに議論をします。その上で受け入れるかどうかの採決を組合の機関ではかり、組合全体として受けるとなれば春闘が終わります。こういう流れになっています。
ご静聴ありがとうございました。

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