一橋大学「連合寄付講座」

2008年度“現代労働組合論I”講義録

Ⅰ ホワイトカラーの働き方と労働組合

第12回(6/27)

ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて(3):
損害保険産業における労使の協議と交渉

ゲストスピーカー:石川耕治 損保労連中央執行委員長

はじめに
  損保労連の石川といいます。私は1991年に当時の安田火災に入社しました。安田火災に入社して最初に担当したのが八王子地区のリテール営業でした。リテール営業というのは、プロ代理店や街の整備工場や中小企業などを担当します。1996年10月に希望していた企業営業へ異動し、大阪に転勤しました。大阪に本社がある大企業、例えば、帝人やクラレ、カネボウなどを担当しました。企業営業は、地区を担当するのではなく、担当する企業全部を担当します。よって世界中の案件を担当します。当時はビザを取って中国なんかにも出張していました。今よりも中国がずっと遠い時期でした。
  2002年7月に、安田火災と日産火災が合併をして損保ジャパンができました。12月に大成火災も合流します。大成火災は、9.11テロ影響を受けて合流が遅れましたが、3社が一緒になって損保ジャパンができました。
  私は、2007年7月損保ジャパンの発足と共に東京の企業営業へ異動しました。新宿の本社で日立製作所グループを担当しました。日立グループは日本を代表する企業グループです。非常にやりがいをもって仕事をしました。例えば新しい技術で日立が何かをつくりますと、すぐその情報が損保ジャパンに来ます。新しい技術や製品が抱えるリスクを分析して、最適の保険設計を行うのが私の仕事です。企業営業は希望した仕事なので、楽しくやっていました。
  ところが2004年のある日、損保ジャパン労働組合の当時の委員長が職場にやってきまして、専従をやらないかという話でした。実は1年前にも同じように労働組合やらないかという話がありましたが、その時は、企業営業担当者としてさらに勉強・経験したいとの理由で断っていました。しかし、さすがに大の男が2回も頭を下げられれば、断る理由はなくなります。いろいろ考えた末、会社をもっとよくしたい、隣で険しい顔をしている仲間のために何かできるかもしれないと思い、2004年9月に損保ジャパン労働組合の専従になります。専従になった半年後、損保ジャパン労組の執行委員長になり、2007年9月に損保労連の中央執行委員長になりました。ある日、突然決心して、無我夢中でやっていたら損保労連の委員長になった感じです。

1.損保労連について
  損害保険産業には大きく分けて3種類の会社があります。保険会社と損調会社(損害調査)、情報システム会社(保険の情報システム、インフラを支える会社)です。これらの会社の22の労働組合が集まって損保労連を構成しています。世の中のさまざまな環境変化は、職場の組合員に影響を与え、時には問題も発生します。まずは、東京海上日動グループのような企業グループの労働組合が連携しながら、横のつながりで、解決をしていきます。グループで解決できないときは、損保労連が情報を提供したり、シンクタンク機能を果たして、単組を支援します。
  損保労連の組織は全国大会、中央委員会、中央執行委員会があり、その下に事務局を置いています。事務局には産業政策局、労働条件局、職場環境対策局などの専門局があります。たとえば、損保労連は労働組合ですが、産業政策局では産業政策にも積極的に取り組みます。また、単組でも産業政策や経営政策課題に取り組みますが、ここまで取り組む金融産別はめずらしいのではないでしょうか。例えば、損保労連は、業界共通課題を論議していますし、単組はシステム・インフラの整備・運用をどうするかを経営側と協議しています。
  損保労連は1997年3月に連合に加盟しました。2名を連合に派遣しています。
また、百貨店や流通、銀行、証券などの労働組合と「金融商業労組懇談会」を設置して意見交換をしており、生保労連、全信連(信託銀行)、市銀連(都市銀行)と金融四単産会議を構成し、金融業界の他の労働組合とも情報交換をしています。図1
  さらには、損保労連はUNI(Union Network International)という国際産別にも加盟していて、国際労働運動の一翼を担っています。たとえば二週間前にシンガポールで開かれたUNIのワーク/ライフ・バランスに関する会議に参加して来ました。明日からはモンゴルでUNI主催のセミナーがありますので、一週間モンゴルに行ってきます。モンゴルでは、M&Aやグローバル化が進む中での労使交渉の行い方や組合の組織化などを講師として説明してきます。
  損保労連の加盟組合員数は、世の中の流れとは逆に少しずつ増えています。現在の組合員数は約64,497人です。組合は、数こそ力なりというところがありますが、損保労連の場合は、名簿は必ずABC順で並べています。数だけでなく小さくても品質で勝負するという気概がありまして、数の序列で並べないというところが損保労連の特徴です。図2
  損保労連の活動内容は「私たちの活動を支える基本的なコンセプト」として整理しています。「創造性豊かな働き」を重視し、5つのコンセプトを提起しています。矢印部分(左下)にワーク・ライフ・バランスの概念がすでにビルトインされています。そもそも損保労連がワーク/ライフ・バランスを推進しはじめたのは2005年6月と古いのです。当時は、まだ世の中に浸透していなかった。しかし、損保産業を取り巻く環境変化を考えれば、やらない理由はないと確信していました。
他にも、認めあい、支えあい、つながりを感じながら働きたい、多様性の尊重、チーム、コミュニケーションなどは重要な課題です。日本企業だけの課題ではなく、ビジネス第一線では世界共通の課題だと思います。

2.ワーク・ライフ・バランスについて
  損保労連のワーク・ライフ・バランスの定義は、「一人ひとりが互いの多様な価値観を尊重し、『仕事一本やり』ではなく、『仕事も、仕事以外の生活も』の発想で、仕事と充実した私生活とをバランスさせながら、個人の能力を最大限発揮するということ」です。
  ワーク・ライフ・バランスというとよく誤解されがちです。単に働く女性の両立支援だと誤解する人が多いですが、決してそういうことはありません。働く人すべてにかかわるものです。
  現在、ワーク・ライフ・バランスについては国を挙げて取り組みをしています。一般的には仕事と家庭、生活の調和と言いますが、私は「調和」という言葉の使い方に若干違和感があります。調和は少しきれいごと過ぎると思います。「共存」させなければいけないと私は理解しています。
  ワーク・ライフ・バランスに取り組む背景について説明します。5つの環境変化を考える必要があります。1つは、「IT化」です。コンピュータが使えないと仕事ができないくらいIT化が進んでいます。このIT化によって、私たち金融産業は非常に付加価値の高い仕事ができるようになりました。逆に、付加価値の低い仕事にとどまってしまうと、その領域から淘汰されてしまうという状況になっています。IT化によって仕事のスピードが速くなり、高度化しています。これに対応できるようなスキルや知識を身につける必要があります。
  2つ目が「グローバル化」です。現在のグローバル化の一番大きな問題は、処遇の格差です。日本の賃金はたいへん高いです。それに対して、中国やインドは賃金が安いので、そこに仕事が流れつつあります。最近では、中国とインドも付加価値の高い仕事をするようになりました。国を挙げて競争力を強化しているので、そこで働く従業員たちも実際にレベルが上がっています。彼らは自ら勉強しています。日本は彼ら以上に付加価値の高い仕事ができるようにならなければ、仕事がどんどん海外に出て行ってしまいます。その結果、仕事を失うことになりかねません。専門性を高める、知識を高めることがポイントになります。
  3つ目が「少子高齢化社会」です。これも欠かせない視点の1つになります。これからの日本は少子高齢化社会へ、人口減少社会になっていきます。人口が減れば、当たり前ですが経済規模も小さくなっていきます。そうなってしまうと拡大を前提にした日本だけの経営システムはうまく機能しなくなる可能性があります。日本のビッグメーカーはどこで利益を出しているかわかりますか。海外です。国内の売上げは1992~1993年あたりからずっと減っています。国内市場がどんどん小さくなっていくと、拡大を前提としていた社会保障制度は非常に厳しくなってきます。今後は年金受給開始年齢の再引き上げや、年金額の引き下げなどの検討が進んでいく可能性があります。少子高齢化のなかでは、一人ひとりが長く働き続けられる、あるいは高い能力を発揮できることがすごく重要になっていきます。
 4つ目、5つ目が、「女性の社会進出」と「一人ひとりの価値観の多様化」です。今まで仕事だけを一所懸命やってきた方々が多かったですが、価値観が多様化して、仕事だけという生活をやめようという方が増えてきています。仕事と生活のバランスを確保することによって働き方を変えていきたいと考えている方が増えています。

3.日本の現状について
  日本の現状はまずい状況だと思います。日本は残業している人が世界一多いです。ワーク・ライフ・バランスに満足していない人の割合も、日本が世界で一番多いです。仕事しかできないという状態が今の日本になっています。私はこうした状態は、金融ビジネスやホワイトカラーが知識集約型に移行していく今の時代には不適切だと考えています。このままだとグローバル化の中で取り残されてしまうのではないかと思います。同時進行で、仕事と生活を両立させなければいけません。特に自己研鑽が非常に重要になると思います。
  2週間前にシンガポールへ行ってきましたが、シンガポールは日本と同じで資源も食料も少ない国なので、金融産業に優秀な人材を世界中から集めるためにワーク・ライフ・バランスを推進しようと、国も金融産業も労働組合も考えているところがポイントです。
  一方で、日本はワーク・ライフ・バランスが壊れている人が多いです。
私ごとで恐縮ですが、私もワーク・ライフ・バランスをとれていない頃がありました。朝、仕事に行くときに長男が「行ってらっしゃい」と言った後に、「また遊びに来てね」と言われたのです。びっくりして息子の顔を見たら、「また遊びに来てね。今度はいつ来るの」と言われました。まずいなと思いました。これは仕事と家庭責任を両立できない証拠です。これではいけないと私は猛省しました。趣味の時間がない、スポーツもできない、自己研鑽の時間もない、子どもと遊べないのはよくないと思います。仕事もやるし、それ以外もやっていくことが非常に重要だと思います。
  ここで、日本が今どういう状態にあるかデータで確認したいと思います。IMD(国際経営開発研究所)というスイスにあるビジネススクールが「競争力評価」のデータを出しています。OECDの加盟国とアジアでの順位が掲載されています。1992年まではOECDの加盟国の中で1位を占めていました。ジャパンアズナンバーワンの時代です。1993年にアメリカに首位を明け渡してからはずっと落ち込んで、20位台です。去年は24位でした。
  アジアの中でも同じように凋落が止まることがなく、いまはシンガポール、中国、台湾、マレーシアの後塵を拝しています。今日本がこのような状況にあることを認識してください。
  シンガポールに行って、はっきりと言われました、彼らは、アジアでの金融のハブを取りたいのです。実際、すでに彼らは東京に勝っていると思っています。インドや香港、台湾、上海も強烈なライバルです。このように競争力を失っていくのは非常にまずいと思っています。何が問題なのかと言うと、24位がまずいのではなく1992年までは1位だったのが24位まで落ちたところが大きな問題です。IT化、グローバル化で世の中の仕組みが変わったのに、相変わらず長時間労働で仕事をやっていくという日本パターンが変わっていないのです。昔は長時間残業して、大量に同じものをつくりさえすれば、市場が拡大していましたからうまくいきました。現在は、単に長く働いて同じものを大量につくる『昔はうまく行きました方式』は、もはや通用しない。付加価値の高いものをつくって、IT化とグローバル化の意味をしっかり捉えて商売をやっていく、そうしないと国際競争力がますます低下していくことを認識いただければと思います。
  やはり、根本的な日本の問題は仕事しかできない状況にあることです。そもそも、毎日12時間も14時間も机にしがみついていて、自分の付加価値やアイディア力が高まりますか、無理でしょう。なぜかというと、何が起こるか予測できない不確実性の時代は、競争相手は海外だったり、異業種であったりして、今の仕事の延長線上にその解がない時代だからです。そのために、わざわざ時間を取って自己研鑽をしたり、仕事以外のさまざまな経験をしなければならないと考えます。

図3

4.ワーク・ライフ・バランスに取り組む必要性
  IT化やグローバル化などの大きな変化に対して、損保労連は以下の必要性を提起しています。
  知識集約産業である損保産業は、付加価値の高い働きをめざして、まずはキャリア向上(自己研鑽)をしっかりしましょう。だらだら長く会社にいるのではなく、自己研鑽という観点からワーク・ライフ・バランスを進めていきましょうと。そして次がライフ(生活・家庭責任)です。先ほど子どもに「また遊びに来てね」と言われた話をしましたが、そういう親戚のおじさんみたいな状況はよくないと思います。家庭の責任も果たしていくのが非常に重要です。最後は老後(健康維持)です。現在の社会保障制度は拡大経済を前提につくられているので、今後厳しくなっていきます。70歳ぐらいまで働かなければならない時代が来るかも知れません。そのときに、心身ともに健康であることが非常に重要です。キャリア、ライフ、老後、それぞれに自己責任を果たすことができる持続可能な働き方の実践が大切だと考えています。
  ですから、私たち損保労連が考えているワーク・ライフ・バランスは、少し働き過ぎだから余暇を楽しもうとか、家庭を充実させながら仕事の質も高めていきましょう、といったものではありません。これからアジアの中で金融セクターの中心としてやっていくには、キャリア、ライフ、老後に自己責任を果たせるようワーク・ライフ・バランスもやっていかなければならないということです。決して調和とか、そんな悠長な状況ではないということを認識いただければと思います。
  すでに、IT化とグローバル化で世の中の仕組みが大きく変わり、価値観の多様化が進んでいますので、画一的な従来型の働き方が不可能になってきています。従来ベースの価値観を捨てて、変化への対応として、ワーク・ライフ・バランスという概念を使って、働き方自体を変革していこうというのが損保労連の考え方です。このグローバル化で起きている変化に対応しきれないと、日本の金融産業は非常に厳しい状況に追い込まれると思っています。日本経済における金融の役割を考えれば、私たちはしっかりしなければいけないという自負もあります。それ故に敢えてワーク・ライフ・バランスを厳しい概念として捉えています。
  他方、企業がワーク・ライフ・バランスに取り組むメリットは、生産性・競争力を向上させ、男性の長時間働く働き方を変革し、女性の活躍推進をはかり、いろいろな価値観やスキルを持っている人が集まってくる、そういった企業に変革できるということです。特に金融産業は、知識集約型産業なので社員の質がイコール企業の質、力です。社員そのものが会社の競争力を決めます。会社にとってのメリットは大きいです。それを労使が共に認識した上で、お互いに取り組んでいければいいと思います。企業と組合員がWIN-WINの関係であるのが理想です。企業としては、従業員のロイヤリティやモラールが向上すると、柔軟な対応が可能になってきます。また、男女を問わない人材の有効活用ができます。これは間違いなく会社の業績によい影響を与えます。
  一方、私たち従業員側は、心身の健康の確保、自己研鑽を含めたキャリア、働きがい、さらに仕事以外のものにふれあうことで発想や視野が広がります。
これらによって一人ひとりの幸せが実現し、モチベーションも向上するのが理想のワーク・ライフ・バランスの関係だと考えています。
  また、長時間労働でメンタルヘルスに障害を起こす方が非常に増えています。メンタルヘルスに問題が生じると復職が大変です。メンタルヘルスの障害者が出てしまった職場に負担がかかり、雰囲気が悪くなります。出てからどうしようではなく、事前に出さないことが重要だと思います。こういった心身の健康確保ということ面からもワーク・ライフ・バランスは重要だと考えます。

5.ワーク・ライフ・バランス実現のための労使交渉
  今、個人にはいろいろな価値観があり、自分はお金儲けにはあまり関心がないとか、趣味に生きたいとか、あるいは、仕事をしたいとかさまざまですが、共通の価値観は時間です。時間こそが共通の豊かさを生むものだと考えています。まさにワーク・ライフ・バランスの労使交渉というのは豊かさの源泉である「可処分時間」を増やす交渉だと考えています。仕事の進め方の変革、業務の削減・効率化、長時間労働の改善、働く女性のサポート、自律的キャリア形成の支援、職場風土の改善の6つの視点で具体的に交渉しています。

6.ワーク・ライフ・バランス実現に向けた取り組み~損保ジャパンの取り組み例
(1)損保ジャパンの概要
  損保ジャパンは、2002年7月に合併してできた会社です。正社員数は14,921名で男女比は54:46です。支店が105カ所、営業拠点が516カ所、海外拠点が41カ所、保険金を支払うネットワークが233カ所。事業所が細かくあちこちに分散しているのが損保ジャパンの特徴です。 以下、損保ジャパンにおける具体的な取り組みを紹介します。

(2)仕事の進め方の革新・業務の削減効率化=PT-R
  まずは仕事の進め方の革新と業務の削減・効率化の取り組みです。これは「新リテールビジネスモデル革新プロジェクト:略称PT-R」に取り組んでいます。Rはリテールです。リテールビジネスモデルを革新していきましょうというコンセプトです。変革(revolution)にもかけています。同じような取り組みは東京海上日動でも「仕事のやり方の抜本改革」として取り組んでいます。三井住友海上は「業務プロセスイノベーション」として取り組んでいます。
  いずれもコンセプトは同じです。とにかく従来型の仕事を変えていこう、業務の削減・効率化を徹底的にやっていこうというものです。「事業革新」をキーワードにして進めています。ポイントは、改善ではなく革新を行うことです。損保ジャパンの場合は、3年間で300億円のシステム開発コストを投下します。それによって代理店と社員の業務量が5~20%削減され、保険金が支払われるまでの日数が4~6日短縮されます。そしてこの業務削減によって発生した可処分時間を会社は成長分野に投下ができますし、私たち社員は自己研鑽や家族との時間など仕事以外の時間に使えると考えています。これによりWIN―WINの関係が成立します。

(3)労働環境改善~長時間労働の改善
  2つ目が労働環境改善の取り組みです。これは昔からある地味な取り組みです。逆に言うと王道の取り組みです。労働環境改善のポイントは、組合だけとか、会社だけとかではなく、それぞれ役割があるということです。会社がやることは適切な労働時間管理とシステムの確立です。組合がやることはチェック&モニタリング機能です。労使は協力して取り組む体制を整備します。それぞれをしっかりと労使でもれなく分担し合わないと、労働環境改善は進みません。取り組む体制を構築するためには労使協議が重要です。そして、従業員に対する正しい教育です。労使それぞれが正しい情報を組合員に伝えて、意識を変えていくことがポイントになります。
  組合は、職場の状況を的確に把握して、アクションプランをつくります。感覚論でやっても効果はありません。まず職場の現状をしっかりと捉えて、どのような解決の場(労使協議やオルグ・職場会など)を使うのかを決め、行動に落とし込む。これをくり返しやっています。
  余談ですが、職場の状況を的確に把握できるのは労働組合です。会社も職場の状況を把握しようとしていますが、実際に職場の一つひとつで何が起きているかを把握する力は労働組合のほうが上です。労働組合のメリットを生かして、職場の状況を経営に伝えていくのが重要だと思います。よくテレビで、問題を起こした会社の社長が「すいません。私は職場のことを把握していませんでした」と謝るシーンがあるじゃないですか。本当にわからなかったのだろうなと思います。特に労働組合がしっかりしていないところでは、社長に、ネガティブな情報が伝えきれない場合があります。課長、部長、役員、社長とラインを通じて上がっていくうちに、職場の本当の声が届かなくなってしまう。もともとは泥のついたタマネギ(情報)の泥を洗い流されピカピカの状態で届くというのが、会社のラインの特性です。泥のついたタマネギをしっかり社長に渡して、的確な経営判断をしてもらうことが重要だと思います。ひどい会社だと、泥のついたタマネギが洗われてピカピカになり、さらに削られて、らっきょうのような状態になっている場合があります。(笑)これではいくら優秀な社長でも的確な経営判断はできないです。こういうところも組合の大切な役割だと思っています。

(4)女性活動推進の取り組み~働く女性のサポート、キャリア形成の支援、職場風土の改善
  次は女性活躍推進の取り組みです。損保ジャパンの約5,000人のパート・アルバイトを含めた2007年3月末の男女比は4:6です。女性のほうが多いというのが特徴です。損保ジャパンではパート・アルバイトをスタッフといいます。女性職員の多くが業務職員です。少し高度な仕事をしてもらう、あるいは支払いの業務をしてもらうということで業務職という呼び方をします。会社としても6割の女性にいかに活躍してもらうかが非常に重要だという認識のもとに、女性活躍推進に取り組んでいます。
  今年、「全国ウィメンズコミッティ」を「ダイバーシティコミッティ」と一本化しました。ダイバーシティコミッティは女性だけではなく、男女の性差を超えた社員一人ひとりの活躍を推進するためにつくられたものです。このダイバーシティコミッティが中心となって施策を検討して、活動していくのがポイントです。メンバーは全国から選ばれますが、女性だけでなく、はじめから男女でやっているのが特徴です。
損保ジャパンの女性社員に行ったアンケートの結果を4つのセグメントに分けてみました。

図4

 多様性の時代なのでいろいろな人がいます。タイプAはキャリア指向です。職務を拡大したい、どんどんキャリアアップしたい、管理職になりたいという人です。タイプBは仕事充実指向型です。活躍はしたい、責任ある仕事はしたいが、新たな仕事はちょっと勘弁してよという人です。タイプCは家庭重視型です。子育てや仕事以外を充実していきたい、安定性こそを求めたいという方です。タイプDは短期勤務型です。長く勤める気はあまりなく、生活が保障されればやめてもいいなという人です。要はいろいろな方がいます。損保ジャパンは全員にタイプAやBになってくださいというのではなく、CもDもいかに生き生きと働けるかを考えているのが特徴です。また、女性の働き方は出産や結婚などいろいろなライフステージによって変化するので、Aだった人が結婚してCになったり、Dだった人が急にやる気を出してAになるとか、いろいろな環境の変化でセグメントが変わっていきます。そういった個人のセグメントの変更にも対応できるような許容性ある人事制度づくりが重要だと考えています。
  損保ジャパンが進めている女性活躍推進は3つを柱にしています。1つは仕事と家庭の両立支援、2つ目はキャリアアップ支援、3つ目は意識改革です。結果として、女性だけの取り組みではなくて、男女の性差を超えたさまざまな価値観を受け入れ、働き続けられる企業を目指すというのがコンセプトになっています。

○仕事と家庭の両立支援
  まず、仕事と家庭の両立支援について具体的に見ていきます。産前・産後休暇、育児休業中のフォローとして、ネット上に、会社の情報を定期的に掲示するとか、育児に関する質問コーナーを設けて、休職中の方が孤立しないようにするというのが一つのポイントです。育児休業制度は、今までは満1歳まででした。しかし、年度途中で1歳になってしまうと保育園に入るのが非常に厳しいので、1歳になった翌年の4月末までは育休が取れるようにしています。また、育児短時間勤務は今までは小学校入学まででした。しかし、小学校低学年は保育園より早く帰って来てしまうので、小学校3年生まで期間延長しました。
このように利用者の方のいろいろな意見・要望を集めて制度を拡充しています。
  「キャリアトランスファー制度」は、非常に評判のいいものですが、例えば転勤しない条件の職員がやむを得ない理由で転居する時に、会社が認めた場合、転居後の居住地での勤務を可能とする制度です。簡単に言うと、東京で結婚し、夫の転勤で北海道に行く場合は会社を辞めるしかなかったのですが、北海道の損保ジャパンの事業所に勤務可能な枠があれば、そこで引き続き働いてくださいというものです。これは2006年4月に導入しましたが、毎年50人ぐらいの方が使っています。
  「OG制度」はOGの再雇用制度のことです。女性のライフステージは変化しますので、いったん辞めたけれども、もう一度働きたいという方が非常に多くいらっしゃいます。OGのネットワークに登録していただいて、再雇用に関するさまざまな情報を提供しています。
  こういった女性活躍への取り組みの結果、2002年以降、育休が184名、産休が140名と少しずつですが増えてきています。

○キャリアアップ支援
  代表例は「業務リーダー」というポジションをつくって、女性のキャリアアップ指向に対応しようとしているところです。さらに、2007年には人事評価や労務管理などマネジメント業務を行う業務リーダー(課長)という役職を新設しました。業務リーダー(課長)や業務リーダーの創設により、業務職員の働く選択肢を増やすことで多様なニーズに対応します。また、興味深いのは「ジョブチャレンジ制度」です。自ら主体的にやりたい仕事にチャレンジできる社内公募制度です。例えば、鹿児島にいる方が広報部で働きたいと思っても、鹿児島には広報部はありません。ジョブチャレンジという公募をして、面接や試験に合格すれば、鹿児島から新宿の本社に異動して広報部で働ける制度です。この募集ポストは年々拡大しています。

○社員の意識改革
  社員の意識改革は、いろいろな情報の提供や意識調査アンケートを定期的にやったり、勉強会を続けたり、といった地道な活動で意識を変えていく取り組みを行っています。最終的には一人ひとりの意識を変えなければ、何も変わらないと思っています。

(5)その他の取り組み
図5  その他の取り組みとしては、「ライフ&キャリアplus」というページをイントラネット内につくっています。面白いなと思うのが、「早分かり!絵で見る制度一覧」です。そこにはママのメニューとパパのメニューが両方載っていまして、育休は女性だけでなくて男性も取れることを周知しています。出産と育児に関わる休業期間の計算シミュレーションがあります。出産予定日の数値を入れると、いつ始まっていつ終了するかという計算ができるシステムがイントラネットの中に入っています。いろいろな申請の締め切りの期限なども入っています。
  ワーク・ライフ・バランスの理解と意識醸成の一つとして「ファミリーディ」も開催しています。会社に家族に来てもらう企画です。社員がホスト役として家族をもてなして、社員や職場、会社について理解をしてもらうことが主旨です。効果は、ワーク・ライフ・バランスに対する全体の意識が向上したことと、コミュニケーションが非常に活性化したことです。普段、お父さんやお母さんがどんな仕事をしているのかについて家族は気になるところです。こうした仕事をしているのですよと説明をする重要な機会となります。

図6 次は草の根的な運動です。「めんたい」という組合の九州分会福岡部会が発行している情宣紙があります。早帰り応援企画でフラワーアレンジメント教室を開催しましたという報告が掲載されています。内容は、フラワーアレンジメント教室をやるから、ぜひみんな仕事を早く終わりにして、集まってアレンジメントの勉強をしましょうという内容です。同じセミナー系では、ワインセミナーなども人気が高いです。

7.今後の課題について
  ワーク・ライフ・バランス支援制度の構築は損保ジャパンもかなり進んでいます。ただそれを実際にどこまで利用できるかというのが今の課題になっています。「的確に運用できるか」がポイントです。
  「課長、私○○だからこの日休みます」と言ったときに、課長が「それじゃ困るよ」というようなやり取りであってはダメです。やはり「意識改革」が重要です。的確な運用と意識改革がリンクしていかなければならないと思います。
  そして、ここで強調して起きたいのは「ダイバーシティ&インクルージョン」の重要性です。ダイバーシティは最近トレンドになっている概念です。多様性のことです。いろいろなやつがいていいじゃないかという多様性です。しかし、ダイバーシティだけで終わってはダメです。みんな好き勝手にバラバラなことをやっていることになってしまう。つまり、インクルージョンが必要です。許容です。すなわち多様性と許容性です。多様性を認めてそれを受容できる、この状態が組織は一番強い状態です。そんな柔軟な発想の会社になる必要があると思います。「ワーク/ライフ・バランス」の実現と「ダイバーシティ&インクルージョン」これが、損保ジャパンや損保労連、あるいは損保産業が目指す近い未来の姿です。
  最後に 損保労連の取り組みの成果と責任について話します。おかげさまで徐々にですが、損保業界の職場環境も、かなり働きやすい職場になってきつつあります。いろいろな雑誌などでも、就職したいと思う会社にも損保各社の社名が出たりします。しかし、私たちはここで、安心しては駄目だと考えています。今、損保労連が目指しているのは「働きやすい職場」にとどまらず、社会・消費者そして働く者双方から見て「真に魅力ある産業・企業」の構築です。言い方をかえれば、「働く場としての損保産業の魅力の構築」ということになります。そのためには、現状をしっかりと認識し、課題を一つひとつクリアしていく必要があります。これらの取り組みは、今後、損保業界を選ばれるかもしれない後輩の皆さんにとっての「働く場としての魅力」を高めることにもつながると確信しています。
また、私たち労働組合は、人生の先輩、社会の先輩としても、損保産業の魅力を高め後輩のみなさんが充実して幸せに働ける環境をつくる責任があると考えています。
結果、そのことが日本の損保産業・金融産業の持続的成長につながり、そして日本の競争力向上につながるのであれば、一ビジネスマンとしても幸せなことです。
  ご静聴ありがとうございました。

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