同志社大学「連合寄付講座」

2015年度「働くということ-現代の労働組合」

第6回(5/22

公務労働の現状と公共サービスの役割
~ 公務関係労組の取り組み ~

ゲストスピーカー:青木 真理子 自治労 総合企画総務局長

 みなさん、こんにちは。自治労の青木と申します。今日は「公務労働の現状と公共サービスの役割」をテーマに話をさせていただきます。

1.自治労について

(1)自治労とは
 今から約60年前に結成された全日本自治団体労働組合(自治労)は、現在、組合員が約85万人おり、上部団体である連合にも加盟しています。組合員は、主に県庁、市役所、町村役場、一部事務組合、公社・事業団の職員、福祉や医療に関わる民間労働者、そして公営競技関係労働者、中小企業労働者、公営交通労働者、臨時・非常勤等職員などです。地方公務員を中心とする労働組合である自治労は、一般的な民間企業の労働組合と違い、地方公務員法によって公務員の団結権・労働協約締結権・争議権といった労働基本権が制約されているため、労働組合活動に限界があります。

(2)自治労の4つのサポート
 自治労は主な活動として「4つのサポート」に取り組んでいます。最初の「『働く』をサポート」は、具体的に言うと「賃金・労働条件の改善」と「働きやすい職場づくり」です。組合員の賃金から組合費をいただいて、組織を運営しているため、当然、組合員の福利厚生を充実させなければなりません。ただし、単純に賃金が上がれば良い、休暇が増えれば良いというだけではなく、労働者にとって働きやすい職場をいかに作るかが大事だと思います。また、市民に質の高い公共サービスを提供するためにも、公務員の労働条件を向上させなければなりません。
 2つめの「『暮らす』をサポート」は、組合員が比較的安い掛け金で生命保険や火災保険に加入できる共済制度のことです。
 3つめの「『仲間づくり』をサポート」は、集会・文化・スポーツ・レクリエーションなどを通じ、仲間づくりの場を組合員に提供することです。自治労には多岐にわたる職場があり、年齢も幅広く様々な働き方の人が加入しており、属性の違いによって主張も違ってきます。そうした声を汲み上げるために、職種別に「評議会」や「部」を作り、活動を行っています。
 最後の「『社会活動』のサポート」は、労働組合は自分のことだけを考えれば良いのではなく、社会問題に関する取り組みや国際的な課題の取り組みを進めていく必要があります。自治労は、加盟する国際公務労連(PSI)の仲間を助けたり、カンパ活動を行ったりしています。また、東南アジアの子どもたちへの教育支援事業をNPO法人と協力しながら進めています。

(3)第7回自治労組合員意識調査の実施
 組合員の関心ごとを把握するために、昨年、第7回自治労組合員意識調査を実施しました(資料[1])。調査結果をみると、賃金・一時金・諸手当の改善については、組合に対する「期待」も「評価」も高くなっています。次に、適正な人員配置については、期待が高い割に評価は比較的低くなっています。また、「期待」はさほど高くありませんが、「ワンマン首長への歯止め」や「環境問題」なども組合員の関心事になっています。こうした調査から自治労は組合員の意識を浮き彫りにし、活動方針を修正しています。

【資料[1]】

(4)公共サービスについて
 次に、先ほど少しふれた「公共サービスとは何か」を皆さんと一緒に確かめたいと思います。「公共サービス」については、辞書(大辞林)に「広く一般の人々の福利のために公的機関が供する業務」と記載されています。具体的には、私たちの日々の生活に関わる、教育、医療、水道、道路、公共交通、司法、警察、消防などです。こうした私たちにとって切っても切り離せない存在である公共サービスを必要とする人々にきちんと行き届かせること、かつ、それが良質なサービスであり続けることは極めて重要な課題です。

2.公務職場の現状

(1)減り続けている地方公務員
 公共サービスを提供している職場の現状をみると、現在、財政悪化により公務員数は大幅に減少しています。地方公務員数の推移をみると、1994年(平成6年)には約328万人の地方公務員がいましたが、減り続けて現在、約274万人となりました(資料[2])。しかし、警察官と消防士は増えているので、一般行政職が激減しているといえます。

【資料[2]】

(2)国の行政機関の定員の推移
 1980年代半ば(昭和50年代)ごろまで、国の行政機関で働く者は約90万人いましたが、2002年度(平成14年度)には80万人までに減り、2004年度(平成16年度)には30万人強まで一気に減少しました。2015年度(平成27年度)に30万人を下回る恐れもあります。(資料[3])
 2002年度(平成14年度)から2004年度(平成16年度)の間に、国の行政機関で働く者が50万人超も減少した理由として、郵政の公社化や、国立大学の独立行政法人への移行があります。こうした状況にも関わらず、さらに昨年6月に安倍総理は国家公務員の定員を2015年からの5年間でさらに10パーセント削減していくこととしました。

【資料[3]】

 このように減らされ続けている日本の公務員数は本当に多いのでしょうか。国際的にみると、人口1,000人当たりの公的部門における職員数は、日本で36.4人、フランスで88.7人、イギリスで74.8人、アメリカで65.5人、ドイツで59.1人と、日本は他の先進諸国の水準を大きく下回っています。日本の公務員数が人口に対して少ないことは一目瞭然です。さらに、2008年のOECD諸国における労働力人口に占める一般政府の雇用者の比率を示した統計をみると、日本はOECD32か国中2番目に低い水準で、その平均値の半分以下です。つまり、日本の公務員は減らすべきどころか、足りない状況になっているといえます。

(3)国・地方自治体の財政状況
 公務員が減らされ続けてきた理由を一言でいうと財政悪化です。国と地方自治体のプライマリー・バランスの対GDP比の推移を見たいと思います。プライマリー・バランスとは、財政収支の状況を表す1つの指標で、財政収支における借入金を除く税収などの歳入と過去の借入に対する元利払いを除いた歳出の差のことです。下記の表のピンク色の線が地方財政、薄い青色の線が国の財政、両者を合わせたのが濃い青色の線になります。この表によると、1991年度(平成3年度)以降、国の財政が赤字だったのに対して、地方の財政については、1991年度(平成3年度)~1999年度(平成11年度)は赤字基調だったものの、その後は、ほぼプラスを維持しています。濃い青色の線からは、国全体の財政危機の状況が読み取れます。(資料[4])

【資料[4]】

 次に、国の予算配分の具体的な構成は、国債費、地方交付税等、社会保障関係費、その他(文教及び科学振興費、防衛関係費等)、公共事業関係費です。その中で、国債の元利払いに充てられる国債費は50年間で15倍以上に増えました。そのほか、少子高齢化の影響をうけ、年金や医療、介護といった社会保障関係費も著しく増えてきました。一方で、公共事業関係費と地方交付税はかなり削減されて、特に地方自治体の生命線である地方交付税はこれ以上減らせない状況になっています。このように、国債費と社会保障関係費が激増したため、地方交付税やその他の予算を増やせる余地がなく、財政が硬直化していることが分かります。(資料[5])

【資料[5]】

3.行政改革

(1)三位一体改革
 財政問題に対応するため、赤字からの脱却をめざした行政改革が行われてきました。その中で、特に有名なのは2001年からの小泉構造改革、です。この改革の方針は、「官から民へ」というキャッチフレーズのもと、大企業や富裕層を優遇することで経済を活性化させ、公共部門を徹底的に縮小することでした。具体的には、郵政民営化と道路公団などの特殊法人の民営化、市場化テストや指定管理者制度の導入、医療制度改革、そして、いわゆる「三位一体改革」として国税から地方税への税源移譲と自治体への補助金や交付税の大幅削減がなされました。さらに、社会保障費を2002年度から7年間で1兆6,200億円も削減した結果、社会的格差が増大し、加えて社会的セーフティネットの機能も低下しました。

(2)三位一体改革の地方への影響
 この三位一体改革で、地方財政の18%を占める国庫補助金と地方交付税が6.8兆円も削減されたことが、地方に最も大きな影響を与えました。国が財政危機を地方に転嫁したといっても過言ではありません。この影響を受けて、ずっと黒字だった地方財政も一時的に赤字になり、地方自治体も行政改革を実施せざるを得なくなりました。こうした中、地方自治体は行政改革に関する具体的な5ヶ年計画(2005~2009年)である集中改革プランの実施を国から要請され、それに基づいて事務事業の再編・整理、廃止・統合、民間委託等の推進、定員削減と賃金カットなどを行いました。

(3)市町村合併
 もう1つの行政改革は、平成の大合併と呼ばれる市町村合併です。1999年に3,232あった自治体は2006年に1,821になり、2014年にはさらに1,718まで減りました。合併を進めていくために市町村合併の特例に関する法律が次々と制定され、また各種支援制度と手厚い財政の優遇措置が自治体の合併を後押ししました。その結果どんどん進められてきた町村合併は本当に公共サービスの向上につながったのでしょうか。わたしの見解ですが、例えば合併の中心になった市はこれまでとそんなに変わりませんが、周辺の町や村の人は庁舎が遠くなり、日常生活が不便になった面があります。また、地方によっては合併特例債(合併のとき国からの借金)に悩まされる可能性が大いにある一方で、合併算定替の特例の修了によって交付税減となり、財政が一層圧迫される状況が生まれました。

4.地方自治体の財政状況

 こうした一連の行政改革が行われた地方自治体の財政状況について、私が所属していた島根県出雲市のデータを例にみていきたいと思います。

(1)地方自治体の歳入
 出雲市の歳入の推移をみると、地方自治体の生命線である地方交付税は2006年度(平成18年度)に「三位一体改革」により一度減少しましたが、その後、増加に転じ、2011年度(平成23年度)は252億円となりました(資料[6])。2度の市町村合併により国の合併支援措置である合併算定替の特例加算措置として、本来交付される額より多い金額が交付されています。

【資料[6]】

(2)地方自治体の歳出
 出雲市の歳出の推移をみると、下から2番目の社会保障関係費である「扶助費」が増加しており、国の歳出とほぼ同じ動きをしています。この扶助費が増加した代わりに、建設事業費がどんどん削減されました。そのほか、人件費の削減も引き続き行われています。(資料[7])

【資料[7]】

5.東日本大震災によって明らかになった自治体・公共サービスの危機

 市町村合併により他自治体に組み込まれた自治体では、十分な公共サービスや情報が提供されないという事態が起こりました。そして公務員を取り巻く環境がただでさえ厳しい中、東日本大震災が発生したことによって自治体・公共サービスの危機がいくつもさらに明らかになりました。

(1)東日本大震災で明らかになった「構造改革」路線の歪み
 東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の沿岸部は、医療制度改革によって震災前から深刻な医師・看護師不足に悩まされていたにもかかわらず、震災によって300を超える病院・診療所が休・廃止状態になりました。
 また、2009年4月から小規模水道事業体として初めて包括的民間委託を行った南三陸町では、震災から約3ヶ月経過した2011年6月初めの時点で水道水の供給率がわずか7%と、他の自治体に比べて、復旧が極端に遅れました。

(2)東日本大震災における自治労の支援活動
 自治労は、東日本大震災への対応として「被災者の支援・救援を行っている自治体職員・組合員の業務を支援すること」を中心課題に、2011年4月~7月まで、岩手・宮城・福島の3県で、全国の延べ2万人を超える組合員による人的支援活動を行いました。また、組合員カンパを基本に、総額6億円におよぶ被災自治体・被災組合への義援金・見舞金の交付、救援物資の現地への随時発送なども実行しました。

(3)東日本大震災による慢性的人員不足と取得しにくくなる休暇
 2014年6月に被災3県を対象とした自治労調査を行った結果、「慢性的な人員不足により休暇が取得しにくい」「定年まで働き続けることに不安がある」ということがわかりました。
 特に、福島県では、回答者の約半数が2つとも「当てはまる」と回答しました。

(4)被災自治体の職員のストレス状況について
 同調査で被災地自治体職員のストレス状況についても調べた結果、被災自治体の職員のストレス反応得点は、2011年調査では24.5、2012年調査では20.4と改善傾向にあるものの、いわゆる一般的な労働者の17.8に比べて、依然高い状況にあります。自治労は、電話相談、心の相談室、セミナーを開催するなど対策を行っています。

6.進む職場の非正規化

 2012年に自治労が実施した臨時・非常勤等職員の実態調査によると、臨時・非常勤等職員の占有率が、一般市で36.9%、町村で38.0%と自治体職員の約3人に1人が非正規職員で、全国に70万人いると推定され、全国の自治体で非正規化が進んでいることがわかりました。
 また、同調査における賃金分布をみると、最多層は時給で800円台、月給で14万~16万円未満であることが明らかになりました。多くの臨時・非常勤等職員が年間賃金200万円以下という厳しい状況におかれています。加えて、非正規労働者には、休暇制度が不十分である、雇用が不安定であるといった問題もあります。
 こうした問題を解決するため、自治労は臨時・非常勤等職員の処遇改善の取り組みを重点課題と位置づけ、組織化を推進し、同じ組合の仲間として取り組みを推進していくとともに、法律の整備を求めています。

7.良質な公共サービスの提供にむけて

 最初に申し上げたように、良質な公共サービスの提供は非常に重要な課題です。そうしたサービスを引き続き提供できるように自治労は以下のような活動を行っています。
 市民生活をより安全で豊かにするため、自治研究活動として、住民との協働に関する調査研究と実践活動や住民との意見交換を2年に1回全国で行っています。
 また、自治体と契約する事業者に一定額以上の賃金の支払いを求める公契約条例の制定を進めています。公契約条例の制定の動きは、2009年に千葉県野田市が制定して以来、全国の自治体に広がっています。また、公共サービスを国民の権利とし、国、自治体の責任を明らかにした上で、その従事者の労働条件の確保を求め、公共サービス基本法の制定に取り組んでいます。加えて、快適で働きやすい職場を実現するために、職場の人員の確保、職場・地域・労働組合での男女平等の実現、メンタルヘルス対策とハラスメント防止も進めています。

8.最後に

 住民の生活に直結する大切な公共サービスの提供に従事する人々の労働条件が確保されて初めて、公共サービスの向上が図られるのではないかと思っています。自治労の活動内容として、社会運動も含まれていますが、やはり公共サービスの質を高めていくことは最も重要な役目だと理解していただければありがたいと思います。
 わたしの話は以上です。ご清聴どうもありがとうございました。

以 上

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