同志社大学「連合寄付講座」

2010年度「働くということ-現代の労働組合」

第4回(5/17

労働現場でいま何がおきているのか
―連合の政策と取り組みの全体像について―

新谷信幸(連合総合労働局長)

はじめに

 私は1983年に三菱電機に入社しました。大学で労働法を勉強していたので関係もあるかもしれませんが、最初は人事の仕事配属に携わっていされました。その後、縁があって1986年に三菱電機労働組合の支部の専従執行委員に就任、その後同労組の本部中央執行委員、産別組織である電機連合の書記次長等を経て、現在は連合で総合労働局長を務めています。
  今回は、「労働現場でいま何が起こっているか」というテーマですので、まず雇用・労働に起こっている変化を見てみたいと思います。そしてこれらの変化に対して、連合はどのように対応しているのか、連合の政策、考え方とプロセスを紹介していきたいと思います。最後に、皆さんはこれから就職されて社会人になられると思いますが、その際に労働条件の決定システムを理解しておいた方が良いと思いますので、3つ目の内容としては、労働条件の決定システムをご紹介します。

1.雇用・労働の変化

 日本の労働者人口は2008年では6636万人であり、うち雇用者数は5535万人で、労働者人口の8割以上が雇用者ということになります。すなわち、日本は雇用社会だといえます。ところが近年、雇用に大きな変化が起こっています。
  図1は産業別就業者の割合の推移を表しています。図1から、近年我が国において、製造業や建設業などでは雇用労働者が減少しており、逆にサービス業や小売、飲食店などの第三次産業の就業者数が増えてきていることがはっきりとわかります。
  そして図2は1984年から2009年までの我が国の雇用形態別の雇用状況を表しているグラフです。1984年に非正規雇用者比率が15.3%であったのに対して、2009年は33.7%となっています。つまり、非正規雇用者比率はこの25年間で倍増し、現在は3人に1人が非正規雇用労働者となっているということです。パート、派遣、契約社員等の雇用の動きを年齢別にみると、特に若年者(20~24歳、25~29歳)でパート、派遣、契約社員等の比率の伸びが大きく、1997年の15%前後から、2007年の30%と激増しました。


図1


図2

 雇用の変化に伴い、賃金においても変化が起こっています。図3は年齢別の賃金カーブを表しているグラフです。この図から、非正規雇用者の給与は、ほぼ全ての世代で正社員の給与を下回っており、年齢による変化も少ないことがわかります。すなわち、派遣や契約社員などの非正規雇用労働者の賃金は極めて安く低位でて、彼らの生活は厳しい状況にあります。雇用の質の劣化によって、年収200万円以下の労働者は近年どんどん増加しています。
  図4は国税庁が2009年に実施されした民間給与実態統計調査の結果です。我が国において、年収200万円以下の労働者の割合は、すでに4.4人に1人という高い水準となっており、いわゆる「ワーキングプア」問題となっています。


図3


図4

 図5は、内閣府が今年の4月16日に発表した月例経済報告主要経済指標の一つ、完全失業率と有効求人倍率の推移を表しているグラフです。ここで注目すべきなのは、15歳から24歳の完全失業率です。2000年から現在までずっと高い水準で推移しています。2005年から2007年までの間には若干の改善が見えましたが、2008年から急に高い水準に戻っています。そして社会全体の完全失業率も、2002年と2009年とも高い水準に達していましたが、2002年の上り方は少しずつ悪化したのに対して、15歳から24歳は2009年は急激に悪化しました。
  また、図6は労働時間の状況をあらわしているもの表です。週の労働時間が60時間以上の方の割合は徐々に減少してきているものの、子育て世代である30代男性については、依然として20%以上といった高い水準で推移していることがわかります。要するに現在、我が国では5人に一人が週60時間以上働いているということです。これは過労死の大きな要因であり、「ワーク・ライフ・バランス」を阻害しているといえます。


図5


図6

 以上述べたことを端的にまとめると、近年、特にリーマンショック以降において、我が国の労働現場では非正規雇用労働者が急増しており、雇用労働者の賃金や労働時間、労働条件などにも大きな変化が起こっているということです。雇用の質が劣化しており、労働条件も一層厳しくなってきています。このような状況の中で、我々の労働組合、連合はどのように対応しているのかについてご説明します。

2.連合の政策(雇用・労働政策を中心に)

 連合の政策について、まず、「180万人雇用創出プラン」を紹介します。図7は連合がこれから実現をめざしている「180万人雇用創出プラン」をあらわしている図です。雇用創出とは、雇用を新たに生み出すことであり、この「180万人雇用創出プラン」を通じて、連合は180万の労働者に新たな就業・就職させるの機会を与えようと考えています。例えば医療、介護、福祉分野においては86万人、就労支援・雇用対策関係においては16万人、そして教育分野においては13万人、継続可能な街づくりには10万人、継続可能な農業・森林・水産業には25万人、そして「グリーン・エコノミー」の推進と確立においては30万人、合わせて180万人の雇用を創出したいと考えています。
  そして、連合が今取り組んでいる重点政策をご紹介しますと、①デフレ脱却・消費回復に資する経済対策と雇用創出・人材育成、②ワークルールの確立による「ディーセントワーク」の実現、③社会的セーフティネットの強化、④ワーク・ライフ・バランス社会の実現、⑤公正・公平な社会の実現、⑥くらしの安全・安心の確保、⑦税制の抜本改革と中期的な財政再建への道筋の明示、⑧「新しい公共」と国民本位の行政システムの確立、⑨持続可能で公正なグローバル社会の実現―です。


図7 連合の「180万人雇用創出プラン」

 具体的な取組事例としては、雇用保険の安定的な運営があります。連合は雇用のデーフティネットとしての雇用保険制度の整備を重視しています。雇用保険制度とは、労働者が失業した際の生活の安定と早期再就職の促進を実現するために、労使の保険料と国の負担金によって給付をおこなう制度であり、セーフティネットの機能を持っています。雇用労働者にとって最も大きなリスクは失業です。我が国は雇用社会であるため、雇用保険制度を安定的に運営する必要性が極めて高いのです。図8は雇用保険の国庫負担割合の推移を示した図です。1947~1959年には国庫負担分は3分の1となっていましたが、徐々に減ってきて、現在では国は法律で定められた4分の1を下回る水準しか負担していません。連合としてはなるべく早く43分の1に戻すべきである、という考え方を持っています。民主党政権を通じて早く実現したいと思っていますが、予算との関連で、難航するかもしれません。
  他の事例としては、労働基準法の改正で、ワークルールの再整理の一環です。今回の労働基準法の改正を通じて、時間外労働の割増賃金率は月50時間超については25%から50%へ引き上げられました。この改正労働基準法はすでに4月1日から施行されています(図9)。
  また、もうひとつの事例として、社会的セーフティネットについて説明します。連合は「三層構造による社会的セーフティネット」という構想を持っています(図10)。現行の社会的セーフティネットには、図の中の第1ネット(雇用保険)と第3ネット(生活保護)しかありません。雇用労働者は失業してしまうと、まず、第1ネットの雇用保険によって最低90日間の失業手当の給付がおこなわれます。つまり、社会保険や公的な労働保険による給付があるということです。しかし、この90日間の給付が切れてしまうと、そのまま第3ネットの生活保障給付の対象となってしまうのです。連合が現在考えている社会的セーフティネットは、第1ネットと第3ネットの間に、第2ネットを作ることです。第2ネットとは、職を失った雇用保険が切れた求職者の方に月10~12万円の就労・生活支援給付を支給しながら、教育訓練を受けさせるなどを通じて支援し、なるべく早く再就業・再就職していただくことです。


図8


図9


図10

 連合は当面、雇用・労働に関して次のような基本的な考え方を持っています。それは、①雇用及び労働は経済と社会の発展を支えるための前提であり、国の基本政策の中心に据えるべきものである、②雇用は質の向上と働く意欲のある労働者の完全雇用をはかることによって、企業や地域の安定と成長を支え、労働者の幸福を実現するものである、③労働は生活の手段であるだけではなく、私たち一人ひとりに希望と成長をもたらし、すべての働く者の連帯の基盤となるものである、④こうした認識を踏まえ、労使は相互の信頼と対等の関係の下で、生産性向上に向けた協力と協議をおこない、成果の公正配分と働きがいのある人間らしい労働の実現に努め、良質な雇用の維持・拡大をはかる。そして国及び地方自治体は互いに連携を深め、労使とともに良い雇用・労働の実現をはかる―というものです。

3.労働条件の決定システム

 皆さんが企業に就職されたときは、必ず「労働契約」、「就業規則」、「労働協約」などの言葉に出会うと思います。労働契約とは、労働者が労務の提供をおこなうことを約し、使用者がその対価としての賃金を支払うことを約する契約のことを指します。次に、就業規則とは、労働条件を公平・統一的に設定し、かつ、職場規律を規則として明定するため使用者が定める職場規律や労働条件に関する規則類です。また、労働協約とは、労使が団体交渉によって取り決めた労働条件やその他の事項を書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印したものを指します。


図11 労働協約が守る労働条件決定システム

 図11で示したように、労働基準法のような労働者労働法令はあくまでも最低限の基準です。労働者は労働法令の最低限の保護を受けて働くことになります。そして労働者が就職して使用者(会社)と労働契約を結びますが、労働契約の内容は、実は就業規則と深く関連しています。就業規則は労働者の過半数代表等の意見を聴取するだけで使用者が一方的に作成できるものですが、裁判の積み重ねによって次の2つの拘束力があるといわれてりまいす。それは、①就業規則のその内容が合理的なものである限り、労働者がその内容を現実に知っていると否とにかかわらず、就業規則の内容が労働契約の内容となる効力、②就業規則による労働条件の変更が合理的なものであれば、それに同意しないことを理由として、労働者がその適用を拒否することはできないという効力-です。
  要するに、使用者が就業規則を修正した場合、その修正が合理的であれば、労働者が反対しても実施されかねないるということです。しかし、労働基準法第92条は「就業規則は法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない」と定めています。つまり、労働組合と使用者側の契約である労働協約は「職場の憲法」であり、労働者の労働条件は労働協約で守られているのです。

4.まとめに代えて

 私が好きな箴言に「仕事が人を育て、人が仕事を拓く」という句があるのですが、私はこの句が好きです。仕事に従事することによって、人は自己啓発がで啓発やき、自己実現によって大きく育つともできると同時に、大きくなった人が仕事をしていくうちに、新たな仕事が拓かれるというものです。
  また、皆さんがこれから就職される際には、労働組合がある企業とない企業があった場合、ヒューマンなネットワークである「労働組合」のある企業を選びばれることをお勧めするとともに、労働組合に参加して我々と一緒に頑張っていただくことを期待しています。

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