同志社大学「連合寄付講座」

2009年度「働くということ-現代の労働組合」

第10回(6/19

すべての働く者の連帯をめざして~組織強化・拡大に関する取り組み

一條 茂(連合組織拡大・組織対策局長)

当日配布資料

はじめに
  私は、28歳の時に労働組合の役員になりました。組合役員になった経緯を説明しますと、入社2年目のときに、労働組合の会議があり、そこで発言しました。そうしたら、翌日に組合の事務所に呼ばれ、職場委員になることを要請されたのです。今では会社を離れて、連合で組織化の活動を行っております。本日は、「すべての者の連帯をめざして」というテーマで、これまでの連合の取り組みの反省点や、その反省の上に立った今後の活動などについてお話しができればと思っております。

1.連合はどう見られているか
  連合は、組合員数675万名の巨大組織です。連合は、世間からどのように見られているのでしょうか。2002年に連合評価委員会というものを立ち上げまして、同委員会のメンバーに連合のあり方について検討していただき、2003年に最終報告をまとめました。そこで指摘されたことは、「連合は比較的恵まれた労働者、つまり、大企業の男性正規社員のための組織になっているのではないか」ということでした。連合にとっては非常に厳しい指摘を頂いたといえます。
  こうした指摘を受けまして、連合は活動方針を転換しました。具体的には、(ア)組合員数675万名からなる巨大組織だということを自覚し、その責務を果たすために社会に対してもっとメッセージを発していくこと、(イ)組織化されていない労働者にもっと目を向け、彼らのために連合ができることを積極的に行っていくこと、です。この2点を軸に、活動していかなければならないと思っております。

2.組織率の低下と非正規労働者増加の要因、および非正規労働者の増加が社会に与えた影響
(1)組織率低下と非正規労働者増加の要因
  1990年代以降、雇用労働者は増加したにもかかわらず、労働組合の組織率は減少しました。その主な要因は、雇用労働者において非正規労働者が増加してきたなかで、非正規労働者を組織化してこなかったことです。
  非正規労働者の増加の要因を特定することは難しいことですが、個人的には、1995年に当時の日経連が提唱した雇用のポートフォリオ論を労働組合が受け入れてしまったこと、そして、労働者派遣法の改正(適用対象業務を拡大)、この2つが大きな要因だと思っております。
  雇用ポートフォリオ論を受け入れてしまったことは、われわれも大いに反省している点です。当時は、この考え方を受け入れないと会社がつぶれてしまうかもしれないという不安から、労働組合はこの考え方を受け入れてしまいました。労働組合は、過去のあやまちを反省し、これからどうするのかを考えていかなければなりません。
  また、労働者派遣法については、「高度の専門知識を持った16業種のみ派遣を認める」という1985年当時のものに戻すことを連合は主張しております。

(2)非正規労働者の増加が社会に与えた影響
  国民の年間所得は、非正規労働者の増加という変化を反映してか、大きく下がっています。国税庁の出している統計を見てみますと、年収200万円未満の方が、1020万人程度おりまして、比率で言いますと、1994年と比べ5%ほど増えています。年収200万円未満の方を通称ワーキングプアーと言いますが、近年この層が増加しています。
  派遣労働者と全労働者の年間所得を比べてみると、その差は倍近くになります。雇用形態の変化と、最近よくいわれているワーキングプアーの増加、それに伴う格差の拡大には少なからず関係があるのではないでしょうか。
  また、近年の非正規労働者の増加に伴って、業界によっては非正規労働者の方が主戦力になっているようなケースが増えてきています。この傾向は、特に流通業界や外食産業で顕著に表れていると思われます。例えばマクドナルドでは、パート労働者が主戦力となっています。彼ら・彼女らなしでは、仕事は回りません。

(3)連合の組織化、格差是正の取り組み
  連合は、労働組合の組織率が低下しているなかで、組織化に取り組んでいます。なお、私の所属している組織拡大・組織対策局では、現在、マクドナルドユニオンでの組織拡大、メガネスーパーでの組合づくり等を支援しています。
 あわせて、連合は、非正規労働者が増加していることをふまえ、格差是正に取り組んでいます。非正規労働者が、安定して働くことができ、安心して生活できるような環境を作るということは、今後の連合にとって極めて重要な運動の一つであります。
 
3.連合はこれから何をするのか?
  連合は、真に労働者の代表とならなければならないと考えています。そのためにも、組織化と非正規労働者の処遇改善をさらに進めていく必要がありますが、取り組み内容は大きく2点あります。1点目は、組織の拡大のための地域活動の重視で、もう1点目はパート労働者の時給を1000円に引き上げるという取り組みです。

(1)組織化にむけて
  低下する労働組合の組織率をあげていくために、連合は、いま必死になって取り組んでいます。その一環として、非正規労働者、中小・地場企業労働者の組織化に取り組んでいます。そのため、地域において積極的に活動し、連合という存在を知ってもらおうという活動を行っています。具体的には、地方連合会という地域単位の連合で、労働や生活に関する相談を受け、解決の手助けをしています。こうした取り組みを通じて、連合を身近に感じてもらい、連合の活動に共感していただくことで、組織化につなげていきたいと思っております。

(2)パート労働者の時給1000円は高いですか?
  連合は昨年からパート労働者の時給を1000円に引き上げることに取り組んでいます。確かにパートの募集欄を見て、時給1000円と書いてあれば高いと思われるかもしれません。しかし、1000円というのは、2000時間働いて200万円という水準、つまりワーキングプアーと呼ばれる年収と同じ水準なのです。ですから、1000円と言うのは決して高い水準ではないのです。このような考えの下、連合は時給1000円の実現のために活動しております。
  ただ、賃金の問題は、家計の支出構造と合わせて考えなければならない問題でもあります。家計の支出が多ければ、多少賃金があがっても追いつきません。したがって、たとえば、国民の税負担を増やすことによって、医療、教育費などの負担を減らし、トータルで支出を減らしていく等々の議論を政治の場でやって頂きたいと思っております。
 
おわりに
  私の先輩で「雇用は最大の社会福祉である」ということを教えてくれた人がいます。識者の中には、ワーキングプアーになり苦しんでいる人たちを、「本人が努力しなかったからそうなったのだ」とおっしゃられる方もいます。しかし、本人の努力だけの問題では決してないと思います。また、一度そういう境遇に陥ってしまうと、そこから這い上がるためのセーフティーネットが日本にない、というところに大きな問題があると思います。こうした問題を、連合がなんとかしたいという思いで、日々努力をしているところであります。世の中の不条理を、労働組合が正していくことは、大変重要なことであります。そして、労働組合の持つ可能性をより多くの人に知ってもらいたいと思っています。こうした思いをもって、今後も活動していきたいと思っております。

以上

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