同志社大学「連合寄付講座」

2009年度「働くということ-現代の労働組合」

第7回(5/29

小まとめ―講義に寄せられた学生からの質問を中心に

パネリスト: 神津 里季生(基幹労連 事務局長)
小川 裕康(サービス・流通連合 事務局次長)
斉藤 千秋(電機連合 中央執行委員)
       コーディネーター:寺井 基博(同志社大学 社会学部 准教授)

当日配布資料

はじめに

寺井先生
  まず、前回お話をしていただく予定でした電機連合の斉藤さんに、ワーク・ライフ・バランスの取り組みについて、お話をしていただきます。本日は、時間の都合上、コンパクトにお話いただくことになります。その後、学生からの質問に対して、基幹労連の神津さん、サービス・流通連合の小川さん、電機連合の斉藤さんからお答えをいただきたいと思います。

1.電機連合のワーク・ライフ・バランスの取り組み

斉藤中央執行委員
  電機連合では、ワーク・ライフ・バランスの実現にむけて、「ワーク・ライフ・バランス5ヵ年プログラム(2007年度~2011年度)」を策定し、取り組みを進めております。これは、「ワーク・ライフ・バランスを実現するために、5年かけて職場の体質改善をしていきましょう」という趣旨のプログラムです。現在、2年目が終了しました。実際のところは、昨年の秋までは、景気が良かったために時間外労働を減らすことは難しかったです。しかし、幸か不幸か、昨年の秋以降、景気の悪化に伴って時間外労働が減少し、3年目の数値は、めざしている数値目標に近付くのではないかと思います。
 なお、電機連合のワーク・ライフ・バランスの実現項目のなかには、「キャリア開発支援」と「社会・地域貢献」も入っています。これは、育児・介護をおこなっている組合員のみを対象とするのではなく、電機連合のすべての組合員を対象とする意味からです。
 まず、「キャリア開発支援」ですが、例えば、社会に出てからも大学で学びたい人のための休職制度や再雇用制度を整備していく、というものです。
 次に、「社会・地域貢献」ですが、現在、働く者と地域社会との繋がりが希薄になっていると思います。そこで、企業の社会的責任という観点から、「従業員に地域の中で役に立つ人材になってもらおう」という取り組みも進めております。

2.学生からの質問に対するパネリストの回答

(1)正社員の雇用・労働条件を維持するために、非正規労働者を調整弁としているように思われるが、正社員で組織される労働組合はこの現実をどう考えるのか?

神津事務局長
  まず、「正社員の雇用・労働条件を維持するために、非正規労働者を調整弁としている」とのご指摘ですが、労働組合の側にはこのようなことを是とする意識はまったくありません。一方で、経営側についても、こういうことを是とする意識を持っている方は一部の経営者だけだと思いたいところです。
 日本の経営のいいところは、中長期的な視野を持って、従業員を大切にするところです。しかし、株主に対していい顔を見せるために、短期的な業績主義に陥り、正社員に比べてコストがかからない非正規労働者を雇う傾向が強まっています。それが今回問題となっている「派遣切り」の問題にも結び付いたのだと思います。
 労働組合の考え方は、「自分たちだけが良ければいいのだ」というものではありません。例えば、派遣村の問題にしても、連合は派遣切りに遭った方々に個別相談をおこないました。くわえて、各都道府県に地域組織を持っていて、「雇用や労働条件等について困っている方は相談に来てください」と呼びかけています。今後もその取り組みは続けます。
 しかし、根本的なことは、労働協約という労使間のルールを守る、ということです。そういう関係を作らなければ、派遣切りのような問題は何度でも繰り返されると思います。ですから、会社に労働組合があって、労働協約という労使間のルールが存在しないとダメだ、ということが最後に問われるのだと思います。

(2)従業員を大切にする経営をしていたら、1990年代のように企業が余剰人員を抱え込み、コスト面から経営が立ち行かなくなるのではないか?

小川事務局次長
  企業経営は、まず人件費の削減ありき、だとは思いません。まずは、総額人件費の適正な値がどれ位なのかを考えるべきです。そして、総額人件費のうち、正社員でいくら使うか、非正社員でいくら使うかを考える、というのが筋だと思います。
  例えば私の出身会社である伊勢丹の場合、正社員・非正社員の処遇について、次のように整理しました。まず、正社員、パート労働者、契約社員には、期待される役割が違います。キャリア管理の仕組みも違います。くわえて、本人の希望や家庭の事情等による選択の幅がどれくらい認められているのかも違います。パートや契約社員の方なら比較的選択の幅が広いです。しかし、正社員であれば「中国の店で勤務せよ」という辞令が出たら中国にいかなければなりません。これが選択の幅です。そういう合理的な理由に則って処遇の差がある、ということを整理しました。また、人件費だけが問題なのではなく、会社の生産性をいかに高めていくのか、それによって売り上げという全体のパイをどう増やすかということも大切です。

(3)組合内での意見や要求の違いをどのように調整しているのか?

斉藤中央執行委員
 電機連合は2年に一度、労働協約の改定に取り組んでおります。その年の秋に、来年の春季交渉で何を要求するかを決めます。要求を決めるにあたって、職場の皆さんに、困っていることを挙げてもらいます。「労働時間をもっと短くしてほしい」「子育てと仕事との両立に悩んでいる」といった声が上がってきます。それを組合の中で、「どれを要求していこうか」と順番をつけていきます。
  例えば、育児休業期間の延長は、その対象者が非常に少ないです。その対象でない人は、「育児休業期間の延長を要求した方が良い」とは普通は思いません。ですから、少数の声は拾い上げてもらえない、ということになってしまいます。そこで大切なのは、声をあげる人が少ないため、自分の所属している組合(単位組合)では会社に要求をしてもらえないが、社会的に重要と考えられる要望を拾い上げ、産別の統一要求項目とする、ということです。
  つまり、「組合員の要望の多いものは何か」ということで順番をつけて要求項目を決めますが、少数意見でも社会的に重要なものは産別の要求としてとりあげ取り組んでいる、ということです。

3.おわりに

寺井先生
  今回の質疑応答の内容は難しい、と思われた方も多いと思います。しかし、少し背伸びをして理解できるよう自分で努力して下さい。理解できませんでした、では先に進みません。理解できなければ各自で勉強してみて下さい。そういう形で引き続きこの授業を受けていただきたいと思います。

以上

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