同志社大学「連合寄付講座」

2007年度“働くということ―現代の労働組合”講義要録

第13回(7/13)「パネルディスカッション」

「働くということ」
~若手組合リーダーからのメッセージ

パネリスト: 高木 剛 連合 会長
  山本 敏明 日新電機労働組合 中央執行委員長
  浦野 英子 電力総連 労働福祉部長
  松井 千穂 連合大阪 男女平等推進部長
コーディネーター: 冨田 安信 同志社大学 社会学部 教授

【はじめに】

冨田

 今日は今年度の連合寄付講座の最終回となります。学生の皆さんは、これまで計11回の講義を受講し、また先週の石田先生による「論点整理」を通じて、本講座のテーマである「働くということ」について、どのように考え、これからの社会人生活をどのように思い描いたでしょうか。また、これまで皆さんにはなじみが薄かったと思われる「労働組合」というものに対しては、どのような印象を持たれたでしょうか。

 本日は、今年度の講座を締めくくるパネルディスカッションを行います。パネリストには、連合のトップリーダーである高木連合会長、連合の地方組織である地方連合会や産業別組織、企業別労働組合といった、労働運動それぞれの立場で活躍する男女若手組合リーダーをお招きしています。パネリストの皆さんには、「学生時代を経て社会人となり、また、労働運動に携わることとなって、“働くということ”に対して、どのような考え方や見方の変化があったのか」「自分はなぜ労働組合に飛び込んだのか」「労働組合に求められている役割は何か」等々について率直に語ってもらいたいと思いますし、可能な限りフロアとの意見交換の時間も設けたいと思いますので、学生の皆さんも積極的な参加を通じて、いま一度「働くということ」の意味を見つめ直す機会としてもらいたいと思います。

【「働くということ」をどう捉えるか~自身の社会人生活、組合活動の経験を振り返って】

冨田

 それではまずはじめに、本日のパネリストの皆さんに、ご自身の社会人生活、職業生活を振り返っていただき、労働運動に飛び込んだきっかけや、仕事の面白さややり甲斐などについてお話いただきたいと思います。

山本

 皆さん、こんにちは。日新電機労働組合・中央執行委員長の山本と申します。私が働く日新電機は、電力用の大きなコンデンサや変圧器、配電盤といった受電設備・変電設備等を製造・販売している会社です。本社は、ここ京都にありまして、全国各地に工場や支店・支社・営業所を抱えるとともに、近年は、中国や東南アジアにも現地法人を設立して積極的に事業を展開しているところです。ちなみに、現在の組合員数は約1900名です。
  まず、私が組合役員になったきっかけをお話します。入社して5年が経過したある日、当時の組合の執行委員長から「○○○○やってみぃへんか」と言われました。私は、「○○○○」のところについて、執行委員長が何を言っているのか今ひとつ理解できなかったのですが、「まぁ、どうせいつものように、何か組合の関係の仕事のお手伝いだろう」と高をくくって、「はい、やります」と答えてしまいました。しかし、何と「○○○○」のところは「組合役員」でありまして、それは「組合役員やってみぃへんか」という誘いだったのです。何もわからずに「はい」と答えてしまった瞬間に、目の前に何かよくわからない紙が出され、そこにサインをさせられ、写真も撮影されました。もちろん、それは組合役員への立候補届でした。翌週には労組の機関紙に、顔写真つきで次期執行委員選挙への立候補者という形で紹介されてしまいました。もともと私は、「ものづくり」現場の出身でして、81年に入社し約1年間の職業訓練を経て、配電盤内部の配線・組立作業や設計など、一貫して配電盤づくりに携わってきました。そうした仕事を行う傍ら、先輩の誘いを受けながら、青年層組合員のリーダー役をつとめるなど、まがりなりにも労組の活動には参加していたのですが、とうとう先輩の誘いを断り切れず、何もわからないまま労組の役員に就任することになったわけです。
  その後、90年に、労組の専従役員をやってみないかと持ちかけられました。労組の専従役員とは即ち、会社の仕事を続けながら組合活動を行う非専従の役員とは違って、専ら労働組合の仕事だけをやるということです。それまで組合活動と両立しながら、先ほどお話ししたように「ものづくり」の仕事を続けてきましたし、自分の職業生活を思い描いたとき、やはり「最後までものづくりに携わっていきたい」と思っていましたので、さすがに困り果てました。しかし、「ものづくり」現場の仕事は大変辛い仕事であって、「だからこそ、その辛さをわかっている人間が組合にいなければならないんだ」と自分なりの答えを見つけ出し、悩みに悩んだ末に、専従役員就任を決断しました。
  それ以来、私は約20年間、労組の専従役員をつとめてきました。この間、会社から提案を受けた早期退職優遇制度や人事諸制度改革への対応をはじめ、ようやく会社業績が上向きはじめた際は、業績不振時に後退した労働条件の回復にも取り組んできました。昨年(2006年)からは中央執行委員長に就任し、日々、職場組合員の皆さんからの相談対応に追われる日々を過ごしています。職場からは、本当に色々な相談が寄せられます。昨年は約2,500件の相談を受けました。そうした中で、最近少し気がかりなことがあります。それは、職場におけるコミュニケーション不足から色々な問題が発生しているということです。例えば、近頃は上司と対話をしない方が増えています。そんな中、いきなり上司から転勤を告げられた組合員の方が、「最近、家を買ったばっかりやのに・・・」と組合事務所に駆け込んできます。さらに、会社の仕事の忙しさが増すとともに、職場の人間関係も複雑化しています。そうした中、最近は何処の会社・職場にも起こっている問題だと思いますが、私たちの職場でも、大変残念なことに、心の病を患って会社を休んでしまう方も増えています。「普段から職場で会話を交わし、どんな小さなことでもいいから、悩み事を打ち明けてくれていれば・・・」と思えてなりません。そんな職場におけるコミュニケーション不足から発生するトラブルが少なくないのが最近の大きな悩みの1つです。さらに、実は、私たち労働組合の執行部と組合員の皆さんとの関係においてもコミュニケーション不足があるんじゃないかとも心配しています。「労働運動の原点は職場」と言われるように、職場との対話というものは労働運動の“基本中の基本”であるわけですが、今さらながら、毎年度の自分たちの運動方針に、「組合員との対話活動」というものを書き込まなければならない状況であるということも悩みの1つです。

浦野

 電力総連・労働福祉部長の浦野と申します。私が働いている電力総連は、10の地域別組織と2つの職域組織で構成されており、約230の単組が加盟しています。例えば、ここ京都をはじめ近畿地方の電力供給を担う「関西電力」、電気工事を行っている「きんでん」や情報通信の「ケイ・オプティコム」、また皆さんには一風変わったテレビCMでお馴染みの「関西電気保安協会」など、発電、電気設備の工事・保守のほか、交通、情報通信、サービスなど多彩な業種を、北海道から沖縄まで全国大でネットワークする日本の電力関連産業における唯一の産業別労働組合です。
  山本委員長と同様に、まず私が組合役員になったきっかけをお話しします。83年に東京電力に入社した私がはじめて担当した仕事は、コンピュータ処理が不可能な複雑な電気料金の計算を手作業で行うという大変地味なものでした。2年目からは、電気料金の支払いが滞っているお客さまに対する債権確保業務という大変厳しい仕事を担当することとなり、「破産」「倒産」や「不渡り」、ひいては「夜逃げ」などといった言葉を当たり前のように口にしなければならない毎日を過ごしていました。まさに、「人間の生活の底辺」を否応なく垣間見さされる経験でありましたし、今から思い起こせば、現在の私の仕事である人々の暮らしの格差や福祉といったものへの関心がこのときに培われたような気がしています。その後、入社10年を経て、かねてからの希望でもありました技術系職場に配置転換し、お客さまに電気を送る配電線設備の移設交渉や設計業務に携わりながら、電力の安定供給に使命感を燃やす日々を送っていたことを記憶しています。
  そんなある時です。突然、職場の先輩から「労働組合の役員をやってくれ」と持ちかけられました。こんな時、当時の私にとって、労働組合が必要か必要でないかは全く関係ありません。とにかく、先輩に言われたらやるのです。さらに当時は、「女性組合員には労働組合役員はまわってこない」と高をくくっていましたので、自分としても、先輩の誘いを断る言い訳を準備できていませんでした。そんな経緯で、99年、全くの組合経験ゼロのまま、非専従役員として職場支部の副執行委員長に就任しました。折りしもこの年の4月に労働基準法の女性保護規定が撤廃され、女性も男性と同じく深夜勤務、当直勤務が可能となりました。申し上げるまでもなく、電力会社は24時間365日の体制ですので、「法改正後は、女性も当直勤務に入ってください」ということになったのです。その時、組合役員就任間もない私は、「じゃあ、女性の当直室はどこにするか」という労使交渉を担当しました。交渉に臨むにあたり職場意見を取りまとめるため職場の女性の意見を聞きましたところ、やはり心細いのか、「男性と同じフロアにしてほしい」という比較的若い女性の意見と、職場の男性にはスッピンを見られたくないのか(笑)、「男性と同じフロアにはしてくれるな」というやや年配の女性の意見とに真っ二つに分かれました。そこで私は、会社との折衝と並行して、こっちに行っては説得し、あっちに行っては説得し、長い時間をかけて女性組合員に対する理解活動に走り回り、ようやく女性の当直室の設置にこぎつけました。この過程で、職場で働く仲間の皆さんと腹を割って話すこと、そこでつかんだ職場の声を会社にぶつけて交渉することの魅力に触れ、「労働組合って何て面白いところなんだろう」という大きな錯覚に陥ってしまいまして(笑)、現在、8年目を迎えているわけです。本当に色々と辛いことや大変な仕事も沢山ありますが、今は苦労をしながらも、楽しくやらせていただいています。

松井

 連合大阪・男女平等推進部長の松井と申します。先ほどの山本さん、浦野さんと少し違いまして、私は現在の連合大阪という職場に行き着くまでに、仕事を計4回変えています。民間企業に勤めていたこともありますし、市民活動団体で活動していたこともあります。また、学生時代からの念願でもあった海外留学も経験してきました。海外留学をしようと思ったきっかけは中学時代にさかのぼります。当時、アフリカ大陸で大規模な飢饉が発生し、世界中でアフリカを支援するための活動が行われました。当時の私も、テレビから伝えられるアフリカの飢饉の現状を見て、非常にショックを受けました。自分は何の苦労も心配もなく、食べ物を食べられるのに、アフリカでは食べられずに飢餓に苦しんでいる人がいる。世界の大きなシステムの中で、なぜそんなことが起こるのかということは後にいろんな形で学んでいくわけですが、中学生の私はその時に「この状況を変えるために何かをしなければならない」と感じたんです。そのときの感情の小さな芽が、国際協力活動に携わりたいという思いに変っていきました。それが留学につながるわけですが、留学の経験を通じて、様々な文化を持つ多くの人に触れることができ、社会的関心も大きく高まりましたし、その後の私の人生にも大いに影響を与えることとなりました。このように、数々の仕事を経験してきたわけですが、「むやみやたらに何でもいい」と仕事を選んできたわけではありません。国際協力活動や社会を変える取り組みに関わることで、「基本的人権が守られ、平和に暮らすことができる社会の実現に少しでもプラスになる仕事であれば、やってみよう」という自分なりのモノサシができていました。その視点をもって仕事をしてきたつもりです。
   そんな中、99年のことですが、当時、連合大阪も運営に関わっていた「大阪障害者緊急雇用支援センター」で障害者の就労支援活動に携わっていた私は、連合大阪で働くある方から、「ちょうど今、連合大阪で欠員が出ているから、もしよかったら連合大阪で仕事をしてみないか」と声をかけられました。それが私が連合大阪に入るきっかけとなりました。私は、声をかけてくれた方に対して「連合大阪って何をしているところですか?」と一生懸命尋ねました。そして、連合大阪の仕事は、労働者の権利を守っていくことだと知り、「私が目指しているところとそう遠くないな」と感じた私は、思い切って、連合大阪で働くことを決断したのです。
 そして今、連合大阪におきまして、男女平等推進や国際・政策・広報等を担当し、現在に至っています。実際に連合大阪で仕事してみますと、自分のやったことが誰かの役に立っていたり、社会に対して何らかの影響を与えているということが実感できて、大変やり甲斐を感じています。しかしその一方で悩みもあります。それは、長時間労働がザラにあるということです。連合は、労働団体として「長時間労働をなくそう」「サービス残業をやめよう」「ワーク・ライフ・バランスを実現しよう」と世間に訴えているにも関わらず、肝心の連合自身が一番できていません。だから、連合が行う運動に説得力を持たせるためにも、これを何とかしなければいけないと考えていますし、労働組合自身が変わらなければならないと感じているところです。

高木

 皆さんこんにちは。連合会長の高木です。今日はこんなに沢山の学生の皆さんにお集まりいただき、嬉しい気持ちで一杯です。本当にありがとうございます。

 さて、大学を卒業し、ある民間企業で働いていた私は、25歳のときに、大好きな尊敬する先輩から「組合に来て一緒にやらんか」と声をかけられました。「組合ってどんな仕事をするんですか」と尋ねたところ、「みんなのためにやる仕事なんだよ。だから仕事は色々だ」という答えが返ってきました。当時流行していた歌謡曲に、北島三郎の「兄弟仁義」という歌がありました。その歌詞の中に、「1人ぐらいはこういう馬鹿がいなきゃ世間の目は覚めぬ」というフレーズがありましたが、その先輩からは、「『1人ぐらいはこういう馬鹿がいなきゃ世間の目は覚めぬ』の『こういう馬鹿』になれ」と言われたのを記憶しています。そのときは、「そんな口説き方あるか」と思いましたけれども、その先輩のことが大好きだったものですから「まぁ、いいや」と、労働組合役員への就任を引き受けることにしました。

 それから30年あまり、労働運動一筋の道を歩んでまいりました。そこで皆さんにぜひ知ってもらいたいことは、労働組合といっても色々な仕事があるということです。私自身も、たとえば、在外大使館で働く機会にも恵まれましたし、この30年間、本当に多くの方にお世話になりながら、色々な仕事に携わってきました。ただ、色々あると申し上げた労働組合の仕事の中でも大切なのは、やはり労働組合員の生活と権利の改善を図ることです。ただ、一方で労働組合がない職場で働いている人たちが8割以上もおられるわけですから、労働組合がないところで働いている人たちにも、いい意味で波及効果を与えていきたいと考えながら運動を進めているところです。

 さらに、労働組合のもう1つ大きな仕事は、日本社会が健全でかつ民主的に発展していくために取り組むことです。もし、日本がそのような国に向かっていないような兆候を見つけたときは、「『そんな国は嫌だ』と皆で意思表示をしようじゃないか」という役割もあるわけです。いずれにしましても、30年以上の労働運動を通じて、いつも心がけていることは「モノを見るときの目線は、上から見るんじゃなくて、できる限り下から見ていきたい」ということです。不公正や不平等あるいは社会正義に反することがあるときに、「おかしいじゃないか」と声をあげる。おかしいことをする奴がいるなら、「お前ら、何をしよるんじゃ」「お前らのやっていることはおかしいじゃないか」と声をあげて、そういう人たちと闘っていくということも労働組合の大きな役割なのです。

【若手組合リーダーは現場で今どのような課題に直面しているか】

冨田

 ありがとうございます。次に、近年の社会経済情勢の変化とともに、職場環境や労働者の働き方なども大きく変化してきていると思いますが、そうした中で、各パネリストの皆さんが、日頃、地方連合会・産業別組織・企業別労組それぞれの持ち場で運動を進める上で、どういう課題を抱えているのか、お話いただければと思います。先ほども、今の仕事における悩みなどにも触れてもらいましたが、そうした観点から、例えば、これからの労働運動に対する提言や注文などもあれば触れていただきたいと思います。

浦野

 今、私が一番感じていることは、労働組合の存在意義が曖昧になってきているのではないかということです。労働運動の焦点が絞りきれていないという気がしてなりません。現在、組合員のニーズは非常に多様化しています。高度経済成長の時代は、「労働組合よ、賃上げ頑張れ」「今年、1万円上げてもらわないと食っていけないんだ」と、組合員みんなが同じ方向を向いてくれていました。ところが現在は、例えば、春闘で会社と賃上げ交渉をしていても、毎月何時間も時間外労働をしている人は、「早く帰りたいのに忙しすぎる。何とかしてほしい」「賃上げなんかいいから、会社と交渉して人を増やしてくれ」と春闘交渉のことなど見向きもしてくれません。その一方で、組合が「時間外労働を削減しよう」と言っても、時給・日給制で働いている非正規労働者の皆さんたちからは「余計なことを言ってくれるな。労働時間を減らされると困るんだ」と訴えられます。このように、今は働く人一人ひとりのニーズが多様化し、労働運動の焦点が絞りにくい状況にあります。

 それでは、こうしたニーズの多様化にどう対処するかということですが、やはり、私自身は、徹底的に労働組合が職場に入り込んで、そこで働く皆さんの生の声に直接耳を傾け、「何に困っているのか」「何をしてもらいたいのか」「何が起きていて、問題にすべきことは何なのか」といったことに細かく対応していくしかないのかなと感じています。地道な取り組みかも知れませんが、労働運動に近道はないと思っていますし、そうした取り組みを通じて、多様な働き方をしている人たちにマッチした運動を展開していくことが今後の課題だと考えています。
高木

 浦野さんのお話はまさにその通りで、職場で働く人たちのニーズが多様化しているため、労働組合にとりましても、共通の目標に向かって運動を進めていく上でターゲットが非常に絞りにくい状況になっていることは確かです。そこでのアプローチの仕方は色々あると思いますが、例えば、「働く時間をもうちょっと短くしたいね」ということは、多くの働く人たちにとっての共通の運動のターゲットの1つになりうると思っています。何も運動のターゲットは単一である必要はなく、そのようなターゲットが2つ3つあったり、そして、アプローチの仕方も多様であっていいんじゃないかと考えています。つまり、色々な運動を組み立てながらやっていくしかないんじゃないかなと思っているところです。

松井

 少し切り口を変えて、労働組合自身に視点を当てさせていただきたいと思います。現在、一般的に、「労働組合・労働団体は保守的である」と評価されることが多いです。労働組合自身も、「変わらなければならない」「変わりたい」と考えているのでしょうが、組織の体質やこれまでの慣習で「変われずにいる」のではないかと感じています。そのことが、外から労働組合を見る人たちにとっては、「労働組合は保守的である」と映っているのでしょう。つまり、私が感じている現在の労働組合が抱えている課題は、「変わりたいけど変われない」という問題だと思っています。

 私が連合大阪で働き始めた頃、ある職場の方に、「NPOやNGOには若い人たちが沢山参加するのに、どうして労働運動には若い人が参加してくれへんのや」と尋ねられたことがあります。しかし、私が思うに、それは当然のことだと思います。なぜなら、現在の労働組合は、社会の流れに鈍感だからです。その鈍感さの克服のためには、労働組合に加入する組合員のために運動するだけでなく、それ以上に、もっと社会全体にアピールしていかないといけないのです。しかし、一部の連合大阪に役員として関わっておられる加盟組合役員の方は、自分の組織の中だけを見てしまっています。確かに、労働組合の活動が組合員から集められた組合費で運営されているだけに、「お金を出してくださる組合や組合員に対しては強いことを言えない」という役員の方も多くおられます。しかし、私たち労働団体である連合の役割は、お金を出してくださる組合員の方だけではなくて、働く人々全体の暮らしを改善していくことです。とはいえ、現実的には、組合員以外の人たちに向けた運動をやりすぎると、「組合費を払ってない人のために、何でお金を使うんや」と言う方が一部におられます。「連合の役割は、すべての働く人にとってプラスになるように社会全体を変えていくことなんだ」ということを、そうした役員の方々に理解してもらわなければ、私たちも動くことはできません。それが私自身が感じ、今直面している課題です。
高木

 松井さんが指摘されたように、現在、労働組合自身が、「変わりたいけど変われない」という状態であることは偽らざる現実でしょう。これまでも労働組合自身は、決して社会の変化に鈍感であり続けたわけではないのでしょうが、労働組合が常に社会の変化に敏感であり、そうした変化に対応し、変えるべきは変えていかなければならないことは言うまでもありません。ただ、社会変化に対応するためといって、それまでのやり方を遮二無二すべて変えてしまうのか、その手法と申しますか、バランスも重要であると思います。

 その上で、今、ワーキング・プアと呼ばれる人たちが増加の一途を辿る中、このまま拡大する格差が固定化されてしまうことは日本社会にとって大きな問題だという議論が多く出されており、私たちとしても、パート・派遣社員といった非正規労働者として働く皆さんの労働条件を改善していくために全力で取り組んでいるところです。そうした中で、「定期昇給があるんだから、正社員のベースアップは控えてもいいんじゃないか」「それよりも、正社員のベースアップを行う原資があるのなら、その分はパートタイム労働者の皆さんに回そうじゃないか」という議論もなされます。とはいえ、一方では「パートタイム労働者に回す原資があるんなら、正社員の方に回してほしいよ」という議論も当然あるわけです。ヨーロッパでは、その辺の議論を平気でいたしますが、日本はそういう議論が苦手なんですね。ただ、日本でも、そうした議論が盛り上がってきていることは確かであり、正社員だけでなく、パートや派遣の方々も含め、すべての労働者の生活改善に向けて、懸命に取り組んでいるところです。

 それからもう1つ、松井さんから指摘があった若者の参加についてですが、組合活動への若者の参加を促すカギは、これは山本さんや浦野さんからも発言のあった、職場におけるコミュニケーションの活性化だと思います。働く者一人ひとりの繁忙感が高まっていることの影響もあると思いますが、職場における対話が非常に少なくなっており、コミュニケーションの希薄化が懸念されています。ましてや、成果主義の導入等とも相俟って、職場が何となくギスギスしているのではないかと感じています。経営側はとにかく「儲けろ、儲けろ」です。もちろん、会社が儲からないと働く側にとっても困るわけですから、儲けないとなりません。ただ、「どれだけ儲けるか」という話ばかりではなく、様々な職場の問題解決のために話し合う機会も必要です。そういう意味で、労働組合の中だけではなくて、会社においてもコミュニケーションが少なくなっているのではないかと心配しています。
山本

 先ほどの松井さんのご意見に反論するようですが、労働組合はあくまで会費組織ですから、組合員の生活向上に向けて力を注ぐという責任を負っているわけですし、私たち企業別労組は、「組合費を納めてくれている方々にきちんとお返しをしなければならない」という付託を受けているわけです。私たち、現場を預かる組合役員としては、こうした労働組合の存立基盤を視野の外において考えることは全くできません。誤解を恐れず申し上げれば、地方連合会や産業別組織の方は現場で働く末端の組合員の皆さんとお話しする機会はあまりないと思いますが、企業別労組の執行部は、自組織の運動はもちろん、ナショナルセンターの運動の組織運営や財政基盤を支えてくれている組合員の皆さんと、毎日顔を合わせ、その方々から直接組合費をいただかなければならない立場にあるのです。そんな中、例えば、私たち企業別労組の執行部の面々が、組織の外に向けた活動ばかりに熱中していると、「わしらの組合費で何しとんねん」「政治活動ばっかりやっているな」「まずは、毎月、組合費納めてるわしらの給料を上げるんが筋やろ」と言われるのは当然です。それが毎月組合費を納めてくれている組合員の皆さんの正直な気持ちですし、それを責められる人はいないはずです。ただ、私たち企業別労組で活動している立場としても、組合員のためだけでなく、すべての働く者の生活を改善していくという使命を負っていることは言うまでもありませんし、そのためにも、われわれとしても各地域レベル等において連合運動にも積極的に参画してきているところです。ただ、組合費を払ってくれている方々のことを視野の外においてしまうと、労働組合はその存立基盤が根底から崩れてしまうと思のです。

 また、つい最近でも、例えば、連合や上位団体の方針に則って、私たちとしても「ワーク・ライフ・バランスの実現」に向けて取り組んでいますが、そのための組合の方針を組合員に示し、意見を募ると、「本当に現実的なの?」「ただでさえ会社経営が厳しいのに、こんなことをやっていて会社は大丈夫なのか?」「組合員の賛同は得られるのか?」といった議論が噴出するわけです。この場合、職場の組合員としても、「ワーク・ライフ・バランスの実現」に向けた方針の主旨は理解できる-しかし、現実に取り組むとなると非常に難しいということです。それが労働運動の現場の実情ですし、今の私の悩みの種の一つでもあります。

 さらに申し上げると、例えば、春闘を例に挙げると、上位団体から獲得すべき水準が目標として示されて、その目標に向かって私たち加盟組織が経営側との交渉に臨むわけですが、示された目標水準を何が何でもクリアするために、会社の経営状態を度外視し、無理矢理、会社に賃上げさせてしまい、その結果、会社が傾いてしまったとしても、その責任を負うのは連合でも上位団体でもなく、当該企業の労使です。自分たちの手で雇用を守り職場を守らなければならないのであって、結局のところ、企業別労組にとっては、上位団体に頼るのではなく、自力でやるしかないと思っております。だからこそ、企業別労組で活動する私たちとしても、自分たちで勉強し、経営側と対峙するための理論を組み立てながら会社と交渉を行うわけです。そんな中、「1対1の真剣勝負」で会社とせめぎ合っているということを、職場の組合員に感じてもらい、それによって、労働組合に対する求心力が高まればいいなとは思っているのですが、なかなかこれも思い通りにはいきません。これも悩みの一つです。

 最後に、いい働き方というのは、人員も適正で、多様な働き方に応じたメニューが用意されていて、賃金やボーナスも安定的で、労働時間も生活時間も両方大切にできるということだろうと思います。私たちも、これらを実現するために日々労使交渉を行っているわけですが、その成果については、どうしても企業の体力によって格差が生まれてしまいます。例えば、連合が掛け声をかけ、さらに上位団体が掛け声をかけたとしても、これに呼応できるのが大手企業の労組だけというのでは、中小企業の労働者は困るわけです。やはり、法制化を通じてはじめて解決される問題など、政治の場で決着すべき課題が多いなと痛感しています。その意味で、ナショナルセンター・連合や産業別組織には、もっと広く社会全般に対しメッセージを発信しながら、ぜひ政治に対する影響力をさらに強めていってもらいたいと期待しています。

高木

 山本さんが言われたように、労働運動は、組合費を納めている労働組合員による運動であるというのは第一義的にはその通りです。組合員は組合費を払うという義務を果たして、運動に参加するという権利が保障されるわけですし、労働運動は、組合員から寄せられた組合費を基盤に活動し、成果をあげていくわけです。そんな中、“ただ乗り”と申しますか、組合費を払わずに、「お金は払わないけど運動の成果だけちょうだい」というのは如何なものか、という議論はもちろんあるわけです。その意味で、労働組合の第一義的な役割は、組合費を払ってくれている組合員のための運動を進めることにあります。ただ、その一方で、労働組合がない職場で働いている人たちなど組合員でない人たちが大勢いらっしゃるわけですから、先ほどもお話しましたが、私たち労働組合も、そういう第一義的な運動を展開しながら、組合員でない人たちの生活改善にまで波及効果を及ぼしていくことが求められているということだと思います。

 さらに、私たちの日々の生活は、会社という塀の中だけで成立しているわけではありません。労働組合にとって、一人ひとりの生活を改善・向上させていくことこそが大きな目標ですが、そのためには、会社と交渉して労働条件を向上させていく取り組みだけでは不十分です。つまり、働く者一人ひとりの日常生活に影響を与える税金、あるいは年金・医療・介護など社会保障制度などは、会社との団体交渉だけではなく、やはり政治の場で議論されるものです。だからこそ、私たち労働組合は政治とも大きく関わっていく必要があるのであって、そういう意味も含めて、会社という塀の外のことにも気配りをしながら運動を進めているということです。

 また、先ほど山本さんから、「雇用を守り職場を守っていくための最終的な責任を負うのは当該企業の労使であって、結局のところ企業別労組は、上位団体に頼るのではなく、自分たちでやるしかない」というお話がありました。私は、そういう意味で、現在、その上位団体で仕事をしているわけですが、やはり基本的には、それぞれの労働組合が自立して活動していくことが重要であると考えています。また、そうした中で、そうした労働組合が自立して活動できるようにサポートするのが上位団体の大切な仕事であって、上位団体は、いわば加盟組合に対するサービス機関だと考えています。これは、ナショナルセンターなり、産業別組織なり、企業別労組それぞれの役割の話であると思います。

 最後に、パネリストの皆さんのお話の中で共通していた点は、「今の労働組合は色々な課題を抱え込みすぎているのではないか」ということであったと思います。確かに、働く皆さんが労働組合に求めるものも多様化していますし、求められる労働組合としても、当然あれにもこれにも答えていこうとして大変な重荷になっているのだと思います。反面、あっちこっちに手をつけ過ぎるのも「全部、中途半端じゃないか」ということにもなりかねません。取り巻く情勢が厳しい中で大変課題も多いわけですが、そうは言っても、現実問題として目の前に多様な要求があるわけですから、少なくとも、職場との対話を通じて抽出された課題については、それぞれの機関のレベルできちんと対応していくしかないと思っています。
松井

 1つだけよろしいでしょうか。先ほどの山本さんのご意見と私の発言が食い違っている部分がありました。しかし、それは、立ち位置が違うので当たり前だと思っています。もし、私も企業別労組の中にいれば、山本さんと同じ意見を持っていたかも知れません。ただ、そうした立ち位置の違いに基づく意見の違いを乗り越えて、お互いに理解し合わなければならないと思います。そして考えていただきたいのは、例えば世界的にも有名なNGOやNPO団体があります。これらの組織も基本的には会員制度をとっているところが多く、会員は会費を払っています。でも会員の方々はこの団体に自分のために何かをしてもらおうと思って会費を払っているわけではありません。もちろん、活動に関わる情報が欲しいというようなことはあると思います。ですが、会員の人たちが会費を払うのは、その団体が行っている活動に賛同しているからです。その団体が目指す社会のあり方に共感し、支援をしたいから会費を払うわけです。労働という視点から社会を変える取り組みをする連合としても、多くの人に賛同をしてもらい、支援をしてもらえる団体にならないといけないと思っています。

【質疑応答】

冨田

 それではここでフロアの皆さんからの質問を受けたいと思います。本日のこれまでのディスカッションを聞いていて感じたこと、疑問に思ったことなど何でも結構ですので発言願います。

質問者A

 先ほど、労働組合は第一義的には組合員の労働環境を改善する役割を負っているけれども、その一方で、その活動は、社会全体からの賛同を得られなければならないといった主旨のお話がありました。例えば、最近話題になっているミートホープやコムスン等の問題をきっかけに、「労働組合は、もっと企業のコンプライアンス活動に関与するべきだ」という意見があります。そうしたことも踏まえて、今後、労働組合は、いかに社会から賛同が得られるような運動を進めていかれる考えか聞かせて下さい。

浦野

 私が代表してお答えしていいのかどうかわかりませんが、今、質問者の方から、コンプライアンスの問題が出ましたので、最近の私の職場における経験にも触れさせていただきお答えとしたいと思います。ご存じの通り、私たちの職場である電力関連産業では、昨年来、発電設備に係るデータ改ざん等が明らかとなり、皆さんには大変なご心配をおかけいたしました。私たち電力関連作業に働く労働組合としても、電気をお使いいただいているお客さまや地元の皆様など社会からの信頼を大きく損なったことを重く受け止めるとともに、あらためて法令遵守意識やルールの徹底の必要性を痛感させられました。現在、徹底した労使協議はもちろん、立地地域の皆さん、あるいは関係省庁などとも時間をかけてやり取りさせていただきながら、労使一丸なって原因究明と万全の再発防止対策の確立に向けて取り組んでいます。

 その上で、社会からの信頼回復に向けて、労働組合にとって極めて重要な取り組みは、何と言っても、労働組合のチェック機能の維持・強化だと思います。働く者の雇用と労働条件を守っていくこととともに、社会の構成員として、自分たちが働く企業が適切な経営行動をしているか、社会からの信頼を得るための企業倫理が確立されているかチェックすることを通じて社会的責任を果たすことが労働組合に求められています。そのためにも、労働組合は、労使協議など日頃の労使間対応を通じて、企業の事業運営が法令遵守・社会的信頼の観点で妥当なものかどうかを問うていかなければなりませんが、その裏付けとなるべきは、やはり、組合執行部と職場とのコミュニケーションの中で吸収される意見や職場の実態です。つまり、そこの職場の労働組合が会社に対するチェック機能をきちんと果たしていけるかどうかは、その労働組合自身が日頃から職場の声なき声を受け止め吸収できる組織であるか否かにかかっているのです。要は、労働組合は、労働組合内部だけで活動していてはいけないということであって、これからの労働組合にとっては、企業の中だけ、あるいは労組内部だけの論理ではなく、組織外、あるいは地域や政治への積極的な関わり等を通じて、「社会は私たちをどう見ているか」という視点をこれまで以上に重視した運動を進めていかなければならないと思っていますし、そういう視点がなければ、質問者の方が仰るように、労働運動に対する社会からの賛同は得られないと考えています。
質問者B

 本日の皆さんのお話を聞いていまして、現代の労働組合にとって、「対話」ということがキーワードになっていると感じました。では、実際の労働運動の現場では、具体的にどのような対話活動をされているのでしょうか。

山本

 「対話」というテーマでのご質問ですので、企業別労組の役員として、日頃、職場で組合員の皆さんと直接接している私からお答えしたいと思います。まず、労働組合にとって最も重要なことは、「しっかりと職場を回る」ということです。今、組合員の皆さんが、どのようなことで困っていて、どれほど仕事が忙しいかは、われわれ執行部がしっかりと職場に入り込んで、そこで働く皆さんと対話しなければわかりません。とにかく、実際に現場に行って直接お話しをすることが非常に大切です。現在、私たちの労組でも、全国各地に存在する拠点に組合役員を派遣して、そこで働いている組合員の皆さんと顔を合わせながら、「いったい何に困っているんや?」「通勤で困ってへんか?」「夜遅うまで働き過ぎてへんか? 体大丈夫か?」「ちゃんとご飯食べてるか?」といった、ありとあらゆる話をし、その場で寄せられた皆さんの意見や要望、現地で掴んだ職場の実態や情報を組合事務所に持ち帰ってきます。そして、それらを踏まえて、会社と交渉をするのです。時間と手間がかかる大変地道な取り組みかも知れませんが、やはり、われわれ執行部から積極的に足を運んでアプローチしていかないと、組合員の側からは、なかなか話をしてくれないですね。でも、こちらが現地に行って話しかければ何か言ってくれるんですよ。組合事務所の中でじっと待っていてはダメです。現場にいかないと、職場の状況は把握できませんし、組合事務所に誰も何も言ってこないからといって、「平穏無事だ」と思っていたら大間違いであって、実は影で大きな問題が持ち上がっていることだってあり得るのです。繰り返しになりますが、とにかく現場に足を運ぶことです。そしてもう1つ大事なことは、職場の中に、しっかりとアンテナを高く張ってくれていて、何かあったらすぐさま連絡をしてくれるキーマンを見つけ出していくことですし、そのためのネットワークづくりも極めて重要です。こういう方々がいて下さると、何か職場で問題があればわれわれ執行部がすぐに現場に駆けつけて迅速に対応できますし、労働組合にとって大変心強い存在となるのです。

【同志社大学の皆さんへのメッセージ】

冨田

 本日はありがとうございました。それでは、残された時間も僅かとなりましたが、最後にパネリストの皆さんお一人おひとりから、これから間もなく社会人になる同志社大学の学生に対して是非伝えたいこと、考えてもらいたいことなどメッセージをお願いします。

松井

 あまり時間がないということですので、私が日頃心がけていることを1つだけお伝えしたいと思います。それは「想像力を働かせる」ということです。想像力を働かせることは、友だちとの人間関係においても、働くうえでも、社会生活を送っていくうえでも、大変重要なことだと思っています。特に、運動を担うリーダーや人の上に立つ人間には、この力が必要であると思っています。これから社会に出ていかれる皆さんには、どうか、自分のことだけを考えるというのではなく、「この人は今どういう状況にあるんやろう」「どんなことを考えてんのやろう」「この問題の裏側には何があるんやろう」などと想像力を働かせていただけたらと思います。

浦野

 私からは、皆さんに1点だけお願いがあります。異種交流をして下さい。人種、出身地、ものの考え方、宗教、何でもいいです。いつも同じ人と一緒にいないで、色んな人と付き合って下さい。皆さんがこれから社会に出たら、本当に色んな人がいます。びっくりしますよ(笑)。例えば、今、彼氏や彼女がいるといったって、「すぐさま結婚する」なんて考えないで、色んな人と付き合った方がいいです(笑)。とにかく、色々な人と接し、色々な考え方に触れて下さい。そこから皆さんが学ぶことは、これからの社会人生活、ひいては長い人生を歩んでいく上で、貴重な財産になると思います。これが社会人の先輩としての私からのメッセージです。

山本

 労働組合で活動しておりますと、例えば、日頃から会社の経営幹部と話をする機会がありますし、自分が働いている会社の状況やこれからの進路など、職場の一従業員として過ごしているとなかなか触れることのできない情報に接することができます。勿論、労働組合に携わる者にとって、こうした情報をつかんでおくことは、雇用・職場を守っていくために当然必要なわけですが、見方を変えると、一つの職場で一つの仕事をしているよりも、幅広く色んな活動ができるという意味では、労働運動に携わるというのは、社会人としてのキャリアを築き上げていく魅力的な機会でもあると思っています。「会社のなかで自分の輪を広げよう」「人間を大きくしよう」と思ったら、労働運動に飛び込むのが一番手っ取り早いです。これから会社に入られて、その職場に労働組合があるのであれば、ぜひとも労働組合の仕事に興味を持って参加していただきたいと思います。

冨田

 最後に、本年度の連合寄付講座を締め括るにあたり、連合を代表して、高木会長からメッセージをお願いします。

高木

 本日の講義が今年度の連合寄付講座の最終回ということで、石田先生はじめ同志社大学の先生方、そして毎回積極的に講義に参加してくれた学生の皆さん方に心から御礼申し上げます。

 ところで、4回生の方々の多くは既にご就職先が決まっているのではないかと思いますし、これから社会に出られて色々なお仕事をされるだろうと思います。そして、最初は先輩に教えられながらOJTで仕事を身につけていかれることになるでしょう。その際、皆さんからすれば、仕事を教わる先輩にも、好きになれる人とそうでない人がいるでしょう。ただ、最初のうちは「この野郎」などとあまり思わないで、謙虚に受け止めてほしいと思います。そうすると、色んなことが皆さんの眼に映ってくるはずですし、そういうものが見えてきたら、見えてきたことに対して、きちんと発言をしていただきたいと思います。さらに申し上げれば、仕事をはじめてから最初の何年間は、自分がきちんと発言した時にみんなが受け止めてくれる、そんな職場の信頼関係をつくることを心掛けられたらどうかなと思います。

 さらにもう1点、その職場に労働組合があるなら、ぜひ労働組合の活動にも関心を持って下さい。できれば、「1人くらいはこういう馬鹿が」という馬鹿になって、組合の役員になっていただけたらと思います。

 そして、最後になりますが、若い皆さん方には、どうか「おかしいことはおかしい」という感度を大切にしていただきたいと思います。

 皆さんの今後のご活躍を心からお祈りしています。どうか元気に頑張って下さい。半年間、本当にありがとうございました。
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