同志社大学「連合寄付講座」

2007年度“働くということ―現代の労働組合”講義要録

第2回(4/20)

労働組合とは何か~組織・運営・活動の原点

ゲストスピーカー: 高橋 均 連合副事務局長

1.自己紹介-労働組合に関わるきっかけはみんなのボーナスが一緒だったこと

 1970年、私は中堅の旅行会社に就職しました。当時、私の給料は手取り4万3000円、家賃が1万6500円、結婚して子供が1人いて、食べていくのも苦しい状況でした。それでも一所懸命頑張っていたら、年末に専務が「高橋君、頑張ってるね。今度のボーナス、君には“色”を付けておいたからね」と言われ、私は大変うれしく思いました。ボーナスは9万9000円。その後、同期がわが家に集まりまして、「お前、いくら貰った?」「9万9000円だった」「お前は?」「俺も9万9000円」「何だ、みんな一緒じゃねーか」-「これではどうしようもない」ということで、1974年1月に労働組合を結成し、私はその中心メンバーになりました。その年の春の賃金交渉で3万円上がって、私の給料は7万円になりました。そのとき、「あぁ、労働組合っていいな」と実感しました。

2.“労働者になる”ということ

(1)「労働者」とは誰のことか?-イメージと実際

 皆さんはまだ就職していないので、「労働者」と言われても、あまりピンと来ないと思います。特に、ホワイトカラーには「労働者」というイメージは湧かないでしょう。けれども、工場で働いている人たちも、ホワイトカラーの人たちも、公務員も、みんな賃金を貰って生活しているという点で共通しています。労働組合法には、「労働者とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」と定義されています。つまり、皆さんも学校を卒業し、どこかの企業に就職すれば「労働者」になるのです。 

(2)会社と個人の間での契約-就業規則

 
会社と個人の関係
 

 物を売ったり買ったりする時には契約を交わします。例えばデジカメを買う時に値段を交渉して3万円で買うことにしたら、デジカメと引き換えに代金3万円を支払うことになります。労働力はいってみればデジカメと同じです。労働力を商品として会社に売って、会社は賃金という形でその労働力を買うのです。ただし、労働力だけを切り離すわけにはいきませんから、身体ごと毎日会社に行くことになります。その際、どんな条件で働くかを具体的に定めるために、会社との間で労働契約を結びます。「週に5日働いて土日は休み」「勤務地はどこ」「給料はいくら」ということを会社が決めます。これらの契約内容を具体的に定めたものが「就業規則」です。不満足な契約内容が提示されても「就職したい、入社したい」と思ったら、目をつぶらないと会社には入れません。社員になると、会社が決めた不満足な契約内容でも、労働力をやむなく売り続けなければならないという立場になるわけです。ただし、会社が定める「就業規則」はどんな内容でもよいということではありません。労働基準法に定める基準が最低基準として保障されていていますので、労働基準法の基準を下回ることは許されません。けれども、その基準以上であれば企業は「就業規則」を自由に規定することができるのです。

3.なぜ労働組合が必要か

(1)職場に不満はあるけれど-言いたいことが言えますか?

 毎日仕事をしていると職場への不満がいっぱい出てきます。でも、仕事上で意地悪されるとか、出世できないとか、解雇されるとかが怖くて、みんな何も言えないのです。こんなとき、皆さんが選択できるのは、次の3つの方法、つまり、「その1:我慢して働く」「その2:会社を辞める」「その3:労働組合をつくってみんなで交渉する」という3つの方法しかないのです。

(2)労働組合をつくってからは?-団結することの長所と短所

 労働組合をつくったら、社長に「賃金を上げてほしい」「労働時間を短くしてほしい」と交渉を申し入れます。そして、交渉の結果、合意できれば労働組合と会社で契約を結びます。この契約を「労働協約」といいます。「労働協約」には、会社が定めた「就業規則」の労働条件を置き換える効力があります。場合によっては労働力を売らない(ストライキ)という選択も含めて会社と交渉して、有利な労働条件を獲得していくのが労働組合の主な役割です。

 労働者は1人だと弱いけれど、大勢集まると強いのです。社長が会社にいなくても仕事は回りますが、第一線で仕事をしている労働者がいなくなれば、会社の業務は正常に回らないからです。実際の生産とサービス提供の手段を握っていることが労働者の強みです。しかし、大勢で集まって同一の行動をするのは大変です。それはまとまりにくいからです。人数が多くなるほど、まとまるのは難しくなります。団結し続ける努力が労働組合には不可欠です。

 また、労働組合の役割として労働条件を引き上げることは重要な役割ですが、労働組合がある会社とない会社の一番の違いは、職場で自由にモノが言えるかどうかということです。労働組合に入るメリットとして「職場で自由にモノが言えて、いきいきと働ける」ということが挙げられます。
会社と個人と労働組合の関係

4.日本の労働組合の現状

(1)組合員の推移-雇用者総数と組合員数

雇用者総数に占める労働組合員数および指定組織率

 上の棒グラフを見てください。黒い棒グラフが組合員数、薄い棒グラフが雇用者数です。1994年は最も組合員が多かった年で1270万人いました。しかし、1990年以降は雇用者数が増える一方で、組合員数が減少しています。2006年度の組織率は18.2%ですから、組合員は雇用者のうち5人に1人にも満たない状況になっています。

雇用労働者、労働組合、労働組合員に関するデータ

 上の円グラフの左横に「雇用者総数」5517万人、その横にカッコして「+238万人」と書いてあります。5517万人は2006年6月現在での日本の雇用者数で、1994年に比べて238万人増ということです。その5つ下に、組合員の合計1004万人、カッコして「-266万人」になっています。労働組合の組織率は、組合員数1004万人を雇用者数5517万人で割り算して18.2%になるわけです。

 真ん中の円グラフの黒い部分が労働組合に入ってない人で81.8%を占めています。連合に加盟する組合員は12.1%です。100人の職場で連合の組合員は12名しかいないということです。ILO(国際労働機関)でも、労働組合の代表性が問題になってきています。まさに、労働組合は崖っぷちに立たされているのです。そこで、私たちは「組織率を20%に回復させよう。組合員を100万人増やそう」と考えています。

 円グラフの左真ん中を見て下さい。女性がどんどん職場に進出して雇用者の4割以上を占めるようになりました。しかし女性の組織率は12.4%で、男性のそれは22.4%です。なぜ女性の組織率が低いのかといえば、パート労働者は1187万人でその4分の3が女性だからです。過去10年間でパートタイマーは350万人増えました。雇用者が238万人増えたといいましたが、女性が圧倒的に増えているのです。そのパートの組織率はわずか4.3%ですから、女性の組織率が低くなっていると言えるわけです。円グラフの右上にフルタイム労働者の数が出ています。フルタイムで働いている人が4330万人で、過去10年間で112万人減りました。1994年からの11年間を見ると、パートタイムで働く女性が圧倒的に増えているので、フルタイム労働者のパート化がどんどん進んでいると言えます。また、従業員1000人以上の会社では、雇用者数の46.7%が労働組合に入っていますが、99人以下の中小・地場企業の雇用者数は2584万人と雇用者全部の約半分を占めていながら、組織率はわずか1.1%でほとんど組合に入っていないのが実状です。

雇用形態別構成比

 「平成14年就業構造基本調査」によれば、1992年の正社員は72.4%でしたが、2002年には63.1%になっています。パートやアルバイト、派遣といった労働者が急激に増加していると考えらます。近い将来、正社員の方が少なくなるという事態になる可能性があります。

(3)所得の推移-「格差社会」と連合の対応

 組合員数が増えない中で、勤労者の所得はどのように推移したのでしょうか。国税庁「民間給与実態統計調査」をご覧いただくと、年収200万円以下の人が約1000万人となっており、1994年に比べて206万人増えています。年収200万円以下が21.8%、400万円以下が33%、600万円以下が24.3%ですから、年収600万円以下の人が全体の8割です。10年前に比べて労働条件がどんどん下ってきており、全体的に日本の雇用労働者の賃金水準が下っているといえます。1000万円以上給料をもらっている人は1994年には5.5%でしたが、それも4.8%に落ち込んでいます。組織率が低くなる、つまり労働組合に結集する人が少なくなると、会社の都合だけで決めることができる「就業規則」で働く人が増えます。その結果、賃金がどんどん下ってきているということがこの数字で明らかになっているのです。

1年を通じて勤務した給与所得者 国税庁「民間給与実態統計調査」より

 いわゆる「ワーキング・プア」が増えてきている中で、パートタイマーや中小・地場で働いている人々にしわ寄せがいっています。今年、「連合」ははじめて、「最低賃金を時間あたり1000円にしよう」と提起しました。「これ未満の賃金で働かせてはならない」というのが最低賃金です。都道府県によって金額は違いますが、時間当たりの平均額は673円です。これで1年間2000時間働くとして、月に換算すると11万2000円です。これでは生活していけません。こういう「ワーキング・プア」がものすごく増えてきているのです。

 「この実態をどう反転させていくのか」がこれからの労働組合の重要な課題です。今、「連合」は、フリーダイヤル(0120-154-052)を設けて労働相談や組合づくりの支援を行うなど、労働組合員を増やすために様々な取り組みを展開しています。

(4)これからの活動-「かわいそうだから」ではありません

 組合員になると、平均して1人毎月5000円の組合費を払っています。この5000円の組合費で、もちろん組合員のために色々な活動をしますが、同時に組合に入っていない人々のためにアプローチをしています。組合に入ってない人に「労働組合に入りましょう」「団体交渉を通じて、一緒に労働条件を改善していきましょう」と呼びかけています。何も、「無権利・低労働条件で働いている方がかわいそうだから」組合づくりを手伝うのではありません。こうした活動は、組合員のためでもあるのです。同じ年齢で同じ仕事をしているのに、労働組合がなくて安い給料で働いている人が多くなればなるほど組合員の賃金も下っていきます。社長の立場になれば、「同じ仕事をする人で安い賃金の人か高い賃金の人か、どちらを選ぶか?」と問われれば安い方を選びます。労働条件は残念ながら低い方に流れていきます。組合をつくって一緒に活動していくことを通じて全体の賃金水準の底上げを図るとともに、職場で自由にモノが言えるようにしていかなければなりません。そのためには労働組合が必要なのです。

5.労働組合の種類と役割

(1)労働組合の組織図-個人から世界まで

 日本にはいろんな種類の労働組合があります。例えばある人が労働組合のある会社に入って組合員になりました。この会社単位の労働組合を「単組(たんそ)」と呼びます。そして、単組が集まって産業単位にできた組合を「産業別労働組合」もしくは「産別」と呼びます。日本には産業別組合がたくさんあり、これらが集まった組織をナショナル・センターといいます。このナショナル・センターが「連合」です。そして、それぞれの国々のナショナル・センターが集まって世界で「ITUC」という労働組合をつくっています。「個人が会社に入って労働組合に所属する」あるいは「新しく組合をつくる」ということは、どこかの産業別労働組合に所属して、「連合」に入って世界ともつながる-こういう格好になっているのです。

個人と各レベルの労働組合

(2)他にもある労働組合-1人でもOKな組合、産業横断的な組合

 1人でも入れる労働組合もあります。「地域ユニオン」や「コミュニティ・ユニオン」がそれです。また、会社横断的に組織化している労働組合もあります。これを「クラフト・ユニオン」といいます。それから「労働者供給事業労働組合」というのもあります。派遣会社を想像してもらったらいいと思いますが、労働組合が派遣元になったような組合です。

(3)産業別労働組合の役割-商売敵と一緒に活動することの意味は?

 では、なぜ商売敵が一緒に産業別労働組合に入るのでしょうか。それは、会社同士の競争は商品の価格をめぐる競争だからです。企業間の競争は商品の価格をめぐる競争ですが、実際はそこで働いている人達の労働条件の安売り競争になってしまうわけです。だから商売敵が一緒に運動を進めて、労働条件のカルテルを作る。会社が商品の価格を決めるのは談合ですけれども、労働組合が労働条件のカルテルを結ぶというのが産業別労働組合に重要な役割です。

(4)「連合」の役割-もっと大きな問題に

 パート労働法などの日本の労働法制をめぐる問題は、産業別労働組合や単組だけではどうしようもありません。だからナショナルセンターである「連合」が政府や厚生労働省と議論するという役割を担っているのです。税制や年金、社会保障についても連合は国会へ問題を提起しています。さらに組合員以外の方々に対する地域単位でのサービスのため、今年に入ってから全国106ヵ所に事務所をつくりました。その他、労働金庫や全労済などを労働組合に入ってない方にも利用してもらい、少しでも有利な生活条件を確保してもらおうと考えています。「ソーシャル・ユニオニズム」-極論すると、「組合員から貰っている組合費を81.8%の組合に入ってない方々のために使いましょう」「社会的な労働運動をしていこう」-これが、今「連合」が取り組んでいる「ソーシャル・ユニオニズム」です。

(5)世界の動き-どのようなことが言われているのか?

 グローバル経済の中で多国籍企業が大変増えています。その中にはノン・ユニオン・ポリシーの企業もあります。こういう企業に組合をつくって、一緒に国際労働基準をつくっていこうとしています。「GUF(国際産業別労働組合)」との連携や、「OECD-TUAC(経済協力開発機構・労働組合諮問委員会)」への人材の派遣などです。ILOの「ディーセント・ワーク」という言葉がありますが、実はこの言葉の歴史は長いです。ILOは、第二次世界大戦が終わる前の1944年に「フィラデルフィア宣言」を出しています。「20世紀に2度にわたる戦争が起きた。その根っこは貧困、格差である。経済格差が広がり貧困が起きたことが、2度の世界戦争につながった。だから国際的な労働基準を均衡にしていこう」という内容です。その後、1990年代に入って、「グローバリゼーションの中で、ホット・ウォーではないが新たな貧困が起きてきている」「あらためて、世界共通の労働基準をつくろう」「最低限、人間らしい労働条件を確立していこう」ということで「ディーセント・ワーク」という言葉が生まれました。ILOは、1999年に「ディーセント・ワーク」を高らかに宣言し、私たちも国際的な労働基準を守って公正な社会を作っていくことを目指しているわけです。

6.最後に

 最後になりましたが、皆さん、既に就職活動をされている方もおられると思います。来年就職活動をするという方もおられると思いますが、どういう仕事をしたいかということが一番重要だと思いますが、同時に行きたい企業に労働組合があるかどうかも判断基準にしてもらいたいと思います。内定をもらうんだったら労働組合がある企業の方がいいと思います。もし就職した企業に労働組合がなければ、自分で労働組合をつくることも考えてみてください。2人集まれば組合はつくれます。「連合」には、組合づくりのアドバイザーもたくさんいます。皆さんがこれから就職されるにあたって、ぜひ労働組合というものも頭の片隅において、就職活動をしていただきたいということを最後に申し上げ、私の報告を終わります。ご清聴ありがとうございました。

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