早稲田大学学生部学生生活課 協力 石田眞・竹内寿 監修
『ブラックバイト対処マニュアル』

連合非正規労働センター
『働くみんなにスターターBOOK』

ブラックバイト対処マニュアル

早稲田大学出版部
500円+税
2016年4月

ブラックバイト対処マニュアル

連合非正規労働センター
2016年3月

評者:遠藤和佳子(連合広報・教育局次長)

 いわゆる「ブラック企業」や「ブラックバイト」という言葉が現れてから、そんなに年月は経っていないはずなのに、今では誰もが知る言葉となっている。それだけ若者や学生を使い捨てにする企業が増えているということなのだろう。ここで紹介する2冊は、どちらも学生や若者のおかれている過酷な状況の対処方法を課題としているが、『ブラックバイト対処マニュアル』は学業に支障をきたすような「ブラックバイト」の問題を大学としても看過できないという問題意識から、『働くみんなにスターターBOOK』は若者が働くことに希望を持ち、安心して働くことができる環境整備の一環として、それぞれ作成された。

 『ブラックバイト対処マニュアル』は、アルバイトをしている学生やこれからアルバイトを始めようとしている学生に向けて作られたもので、早稲田大学の新入生に配布するとともに、販売もされている。学生アルバイトに多いトラブルを8分野(賃金、労働時間、休憩・休暇、弁償・罰金、仕事内容、いじめ・嫌がらせ、労災、辞めるときのトラブル)17項目に分けてチェックシートにし、項目ごとに解説が掲載されている。解説はそれぞれ1~2ページにまとめられており、ポイントも書かれていてとてもわかりやすい。巻末にはアルバイト向けのワークルールや労働条件通知書、相談窓口も掲載されているので、実際にトラブルを抱えている学生の助けになりそうだし、これからアルバイトをはじめる学生には、トラブルから身を守る知恵になるだろう。
 本書には、学生が実際に巻き込まれたアルバイト先でのトラブルがコラムとして書かれている。長時間労働による過労、割増賃金未払い、有給休暇が取れない、セクハラ、退職できない、パワハラ…今の学生アルバイトが置かれている過酷な状況を改めて思い知らされる。救いは最後のコラムで、アルバイト先と交渉して有給休暇が取得できた、という事例だ。正社員でも職場と交渉することは勇気のいることなのに、この学生はどれだけの勇気を振り絞ってアルバイト先と交渉したのだろうか。学生アルバイトとはいえ、労働者である。学生たちが安心して働けるよう、労働組合として何ができるのかを考えさせられる。

 『働くみんなにスターターBOOK』の主な対象はこれから社会に出て働く若者で、働く上で最低限必要なワークルールや相談窓口などをまとめたものである。内容は「Ⅰ 働くって??」「Ⅱ 働くときのルール」「Ⅲ 安心して働くために」「Ⅳ 働く仲間」「Ⅴ 困ったときの相談窓口」にわかれており、『ブラックバイト対処マニュアル』と同様にどの項目も1~2ページにまとめられている。どのページもポイントや図表が書かれていてとてもわかりやすいうえに、イラストも入っているので読みやすい。「Ⅱ 働くときのルール」「Ⅲ 安心して働くために」では、例えば「アルバイトは何時間働いてもいいの?」という問いに対する答えだけでなく、「満18歳未満の者を働かせる時の注意点」や「割増賃金」という関連する情報も記載してある。
 連合が発行している冊子なので、労働組合の項目があることはもちろんだが、冊子冒頭に働くことの意味を問う項目や正社員以外の働き方を紹介しているページもあり、単なるQ&Aになっていない。ぜひ社会に出る前や就職活動をはじめる前の若者に読んでもらい、働くことについて考えてほしい。連合のホームページ(http://www.jtuc-rengo.or.jp/soudan/index.html)から読むことも可能になっており、一人でも多くの若者に届けたいという思いがこもっている。

 どちらの冊子も「就業規則ってなに?」とか「弁償や罰金が強要される」「辞めさせてもらえない」など、ごくごく基本的なことや信じられないようなトラブルが書いてある。しかし実際に若者が職場で困っているからこそ、このような冊子が発行されているのだ。これらの冊子がブラック企業やブラックバイトに悩む人の手に届き、力になってほしいと思う。同時に企業やアルバイトを管理する人にもぜひ読んでもらいたい。
 こういった冊子が必要とされる時だからこそ、労働組合の力が必要とされているのだと思う。若者を取り巻く現実を知る意味で、労働組合役職員にも一読してもらいたい冊子だ。


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