JIL「労働組合の現状と展望に関する研究」(54)


「成果重視型」人事処遇制度への新たな取り組み


山形 進
富士通労働組合中央副執行委員長
B5判/40頁 2003年7月 (社)教育文化協会発行 無料配布


 日本労働研究機構(JIL)は、1994年1月に「労働組合の現状と展望に関する研究会」(略称:ビジョン町)を設置し、1996年8月以降、順次、その研究成果を刊行してきております。
(社)教育文化協会はこのたび、日本労働研究機構のご厚意によりビジョン研の研究成果を当協会の会員各位に頒布させていただくことになりました。ご尽力を賜りました皆様方には、この場をお借りいたしまして厚く御礼申し上げます。
本書には、ビジョン研の2003年2月7日報告(2003年7月刊行)を収録しました。どうぞご活用ください。


報告概要
1. 「成果重視型」人事処遇制度への取り組み

(1) 「成果重視型」人事処遇制度導入の背景

 「成果重視型」人事処遇制度導入の背景には、バブル経済の崩壊など企業を取り巻く環境の変化や、メインフレームからパソコンへという市場構造の急激な変化によって大人数のチームから個人単位への働き方が変化したこと。1990年に買収したイギリスのコンピューター会社ICLと富士通の人的交流が始まりお互いの働き方を刺激することになったことなどがある。
企業内の状況変化としては労働力と職務のミスマッチと高齢化、システムの構築やソフトウエアの開発といった労働の量と成果の必ずしも相関が比例しない職務が増大し、労働時間で評価することに矛盾が生じてきたことが挙げられる。
従来の評価制度の問題点として、一つ目は、これからも学歴や性別などの属性集団管理でいいのかということ。二つ目は評価内容がオープンにされていないことと評価視点への疑問があった。

(2) 具体的な取り組みの経過

 1992年2月、年2回開かれる中央労働協議会で労働組合から『研究技術者の「快汗」労働を実現する27の提言』を会社に提起し、「従来の人事制度、人事評価に関する組合員の問題意識」のキーワードとして「公平、公正、公開、選択、育成、挑戦」を念頭に置くべきだと申し入れた。具体的には[1]評価基準を労働の量重視から質へシフトする必要がある[2]学歴や性別の一括集団管理から仕事内容を中心とした個人管理にすべきである[3]評価内容、結果のオープン化[4]選別評価(相対評価)から育成評価(絶対評価)に変える[5]配属に対する自己選択制の拡大、社内公募の制度化[6]学歴別、年次別管理の相対評価の持ち点制度である人事評価制度を勤務した時間に関係なく、その時点で出したアウトプットで評価する制度にすべきだ[7]複線型昇進コースの導入[8]評価者訓練の充実[9]裁量労働制の導入[10]退職金の年金化等を提起した。

2. 「成果重視型」人事処遇制度の内容
 
(1) 目標管理評価制度(1994年度)

  評価の基本的内容を成果主義にすることを明確にする目的で目標管理評価制度を入れた。その狙いは[1]コミュニケーションツールとして活用し、トップダウン、ボトムアップ双方向の流れを促進すること[2]評価基準をオープンにして評価内容について納得性を高める[3]業務目標や必要とする能力を明示することにより成果達成と能力開発の方向づけ、動機づけを行うことである。その後時間がたつにつれて[2]でしかなくなってきて大きな課題になった。評価項目は[1]個別業務目標[2]目標外の成果についての評価[3]業務遂行能力の開発[4]行動の規範の四つで、評価の仕組みは成績分布に基づく相対評価で成績分布はSA10%、A20%、B50%、C20%という割合で評価しボーナスに反映する。等級昇級、賃金体系は従来型の学歴別、年次別管理。評価者は1次評価者と2次評価者を設定した。
目標設置、目標管理をするとその目標の仕事しかやらなくなることが考えられたため専門職としての行動の規範を入れたが、それがだんだん希薄になってきたのでその後の変更につながった。

(2) SPIRIT勤務制度(1994年度)

 SPIRIT勤務制度とは、「創造的な業務遂行にふさわしく、投入労働時間ではなく成果に主眼をおいた勤務制度」で成果をボーナスに反映する。対象者の中で、[1]労働時間を報酬の基礎とすることがふさわしくない職務についている[2]所属長による推薦[3]本人同意の三要件を満たした場合に適用する。

(3) 業績を反映した一時金の仕組み(1998年度)

 一時金のベースを4ヶ月に設定し、それを超える分はインセンティブで営業利益をベースに算出する仕組みにした。

(4) Funciton区分/等級制度の導入(1998年度)

 Function区分、等級制度、いわゆる人事処遇制度部分の改訂のねらいは、一点目はそれまでの事務技術職、技能職という系統を廃止し、本人の能力、意欲が十分発揮される仕組みにすること。二点目は資格職能区分を職責に基づく等級制度に改編し、学歴、年齢による管理は行わない。三点目は、際だった成果を達成した者の昇進を早めることで、従来の職能系統、事務技術職と技能職をFunctionグループの営業職、SE職、フィールドサポート職以下、というグループに分けた。
資格職能区分を廃止し、職責に基づく等級制度に変更した。新制度は職級を等級と達成度区分にした。
評価はボーナス、定期昇給と等級昇級にも反映することにした。等級昇級は、等級定義書に照らしてコンピテンシーの保有を判断し一定以上の成果を目安にした。評価者には1次評価者、2次評価者を置いた。
評価項目を難易度から達成度に変更したが、高い目標にチャレンジして達成できなかった人の評価が低く、達成しやすい目標を立てた人がA評価では不公正なため問題になった。

(5) 評価制度の改訂(2001年度)

 達成度による評価の弊害をなくすために評価制度の改訂を行った。従来の制度と変えた点は、[1]チャレンジングな目標を設定する[2]遂行時におけるプロセスも評価する[3]行動様式の評価を行動の規範と能力開発に分ける。[4]個別目標以外の業務がおろそかになるのを防ぐため、「全社共通目標への取り組み」を加えた。評価は一時金と定期昇給に反映し等級昇級は除いた。
評価の仕組みは比較評価とした。1994年度の相対評価は、全社共通の成績分布を人事部門が示したが、2001年度の比較評価で示した分布は1998年度以降の絶対評価の結果をビジネスユニット単位にするという意味。コンピテンシー・レビューを新設し、十分な成果が出なかった場合も高い目標にチャレンジした部分を考慮し等級昇級する。評価者は透明度を高めるために1次評価者、2次評価者の上に評価委員会を置き最終的な判断を下す。

(6) 退職金制度と年金制度の改革
   退職金制度は大きな制度改訂を2回行った。1994年には長期勤続インセンティブを低減し成果重視型にした。1999年には国際会計基準への対応として定年退職金の年金化、ニューベネフィットプランを設定した。新しい制度では各個人が退職金前払い制度であるキャッシュプランか従来の退職金制度のペンションプランのいずれかを選択する。
年金制度は大きな改訂を2回行った。1997年に支給額の算定を退職時賃金から加入期間中の累計賃金額に変更した。富士通の企業年金は退職金を取り崩した制度ではなく55%を会社が拠出し、個人が45%をそれぞれ拠出して加算部分を形成している。それを1999年に国際会計基準への対応から会社拠出部分を第1加算、本人拠出部分を第3加算として設定した。従来は年5.5%で60歳からの終身年金だったが、会社拠出分55%は従来どおり年率5.5%を約束し、本人拠出分45%は、今まで払い込んだ部分には5.5%付利し、改訂以後は資産運用実績の利率を反映する。会社には本人拠出分が退職給付債務から外れるメリットがある。
厚生年金基金の代行返上は、今の状態で返上しても政府が5.5%で運用できるとは思えないので、協議はしているが同意には至っていない。


目 次

報告概要

1. 「成果重視型」人事処遇制度への取り組み
2. 「成果重視型」人事処遇制度の内容



報 告

1. 富士通の概要
2. 富士通労働組合の概要
3. 「成果重視型」人事処遇制度への取り組み
4. 「成果重視型」人事処遇制度の内容
5. 評価制度の改訂



討議概要

1. 評価のオープン化の手順と評価に対する苦情の処理について
2. SPIRIT勤務制度の適用状況について
3. 富士通の労務構成について
4. 目標管理評価制度の反映部分から等級昇級を外しているのはなぜか。
また、成果が短期では判断しにくい業務の評価はどうしているのか。
5. 同一年齢間での処遇の格差は「成果重視型」人事制度でどう変わったのか。評価格差が実際は縮まっているのではないか。
6. 年齢別の賃金カーブはどのように変化したのか。
7. 2001年改訂時の組合の基本的な考え方について


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