JIL「労働組合の現状と展望に関する研究」(44)




パート労働者の人事・賃金制度~伊勢丹労使の取り組み~

金井利樹
(株)伊勢丹人事部人事企画担当係長
久間 毅
伊勢丹労働組合本部書記長

B5判/56頁 2002年3月 (社)教育文化協会発行 無料配布


 日本労働研究機構(JIL)は、1994年1月に「労働組合の現状と展望に関する研究会」(略称:ビジョン研)を設置し、1996年8月以降、順次、その研究成果を刊行してきております。
(社)教育文化協会はこのたび、日本労働研究機構(高梨昌会長、花見忠研究所長)のご厚意により、ビジョン研の研究成果を当協会の会員各位に頒布させていただくことになりました。ご尽力を賜りました皆様方には、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
本書には、ビジョン研の2001年7月24日報告(2002年2月刊行)を収録しました。どうぞご活用ください。

報告概要

【金井利樹人 事企画担当係長】
1. 従業員構成と契約社員の位置づけ
   伊勢丹の従業員は社員、メイト社員、サムタイマー社員という3本の柱で構成されている。社員は契約期間無期で、日給月給、勤務地非限定、人事異動非限定、職種も限定していない。メイト社員は販売を中心としたスペシャリスト的な契約社員であり、1年の有期契約で、日給月給ではあるが、新宿の婦人服販売、リビング系販売など、勤務地(エリア限定)や領域、職種を限定しての採用を行っている。サムタイマー社員は各店舗別に採用し、時間給で働く契約社員(1年)であり、事業所限定で勤務し、人事異動も職種、地域限定となっている。
2001年の従業員労務構成は社員約4,900名、メイト社員約300名、サムタイマー社員約2,100名(人数は生産性要員の形に換算したもの)であり、サムタイマー社員の比率は29%、メイト社員と合わせた契約社員比率は3割を超えている。契約社員比率は本社スタッフ部門では2割以下であるが、営業部門では4割弱であり、特に2001年に出店した立川底では60%強と高い契約社員比率の店舗構成になっている。契約社員の役割も次第に変化しており、当初は社員業務の補完を担う役割であったが、販売においては中核を担うように変化してきている。
その中で社員とメイト社員、サムタイマー社員の担う仕事が部分的に交差してきているため、仕事の違い、期待役割の違いを明確にしようと整理をしている。売場を想定した期待役割では、基幹社員については売場をマネジメントするマネージャーを期待し、短大卒を中心とした社員についてはマネージャーをサポートするアシスタントマネジメント業務までの役割を期待している。メイト社員については、そのアシスタントの下にある小さなブロック単位を担うリーダーを期待し、サムタイマー社員については、従来の補完業務から一般業務にかけての仕事を期待する、という区分を行っている。
2. サムタイマー社員の労働条件・処遇
   サムタイマー社員制度は1988年2月に導入された。本人は幅広い時間帯の中から就業時間を選択し、会社としては必要な時間と場所に必要な人を勤務させることによって、人的生産性を向上させるということが考え方の中核になっている。
サムタイマー社員はGI、GII、Lの3つに区分されている。GIは週あたりの契約日数が2-5日、週あたり契約時間12-27時間で、雇用保険・厚生年金・健保は非加入である。GIIは4-5日、27-35時間、Lは4-5日、20-35時間で、ともに雇用保険・厚生年金・健保に加入している。このうちGIIとLは2000年10月から組合員化を進めている。
サムタイマー社員の賃金体系は、販売から事務部門まで、8種類の時給べ一スの職種給がべ一スにある。その上に能力給があり、能力評価によって10円から40円のアップを積み上げていく。さらに一部の職場に支給する職場手当、曜日・時間帯手当などの手当その他、年2回支給の賞与がある。職場手当は食品、レジなど、その値段を払わないと人が集まらないなどの場合、市場価格との調整の役割を担っている。
3. 今後の課題と検討の方向性
   第1に、無期雇用社員と契約社員のバランスの問題がある。サムタイマー社員は、これまでフロー比率を拡大してきたが、現状で3割を超えるバランスになっており、どこまでの比率がいいのか、見えにくくなってきている。そこで、比率ではなく、必要要員数の管理を徹底することとし、名店で社員として最低限必要な人数のカウントを始めている。
第2に、要員構成の多様化によるマネジメントの高度化があげられる。現状では社員の他にサムタイマー社員、メイト社員がおり、さらに派遣で働いている者や、取引先から数千人の規模でセールスパートナーとして来ている方もおり、こういった様々な雇用形態の人の現場でのマネジメントが求められてきている。そこで、マネジメント側の教育と、契約社員に対しての教育を整備・拡充している。
第3に「働く時間」と「必要な時間」のギャップがある。サムタイマー社員については契約時に曜日と時間帯を設定し、パターン化されてきているため、現場の時間帯別、曜日別の繁閑と不整合が出てきている。そこで、もう少しフレキシビリティのある働き方を労使で検討課題として認識している。
第4に、成果を反映しにくい能力給の問題がある。GI、GII、Lのどのグループについても、Aの評価であれば何十円上がるという同一のピッチになっているが、GIは労働時間も短く、補完業務が中心である一方、Lはリーダー業務に近い作業をやっているというように、グループ別に仕事が違う部分があるため、より個人のやりがいにっながる能力給を検討した方がいいという問題意識を持っている。
最後に、同一職務における店舗間の賃金差異、市場価格との不整合がある。名店で採用しているレジの人の賃金がそれぞれ違うのは、市場価格に合うということでは良いが、そこにルールやバックグラウンドがあるのか、見えにくいという問題意識を持っている。べ一スがあった上で市場価格を加味した賃金設定に整理した方がいいのではないかと検討している。
【久間毅 労働組合本部書記長】
1. 組合としての課題認識
   第1に、要員ミックスが進展しており、組合もこれを前提に考えなければならない時代になってきている。バブルの崩壊と共に93年以降は会社は急速に正社員の採用を抑制しており、一方で年間二百数十名が退職するため、正社員の人数は徐々に減っている。これを補う形でパートタイマーが確実に増えており、担い手が変わってきている。
第2に、収益構造の改善のためには、人件費のあり方を意識しなければならない。構造的に膨らんでいく人件費をどうコントロールしていくのかが労使の共通の課題である。
第3に就労意識が変化し、企業との関わり方が変わってくる中で雇用形態が多様化している。組合としてもその』人一人に視点をあてて取り組みをしていかなければいけない。
2. サムタイマー社員の現状
   サムタイマーは(実人員数として)G1 930人、GII l,500人、L 100人の計2,530人であり、従業員比率は36%、支店によっては社員数を上回っているところもある。一つの事業所でとらえれば、労働組合が果たして働く者の代表といえるのかという、根本的なところにも関わってきており、組合としてはサムタイマー社員との関わり方に取り組んでいかなけれぱいけないという問題意識があった。ただし、社員に近い形で働いている方もいれば、扶養家族という位置づけの中で働いている方もいるため、様々な価値観があることも認識しなければならない。
3. 組織化に至った経緯
   サムタイマー制度は1988年に発足し、初年度には350名ほどが入社した。組合としては翌89年の春闘時に、社会保険に加入しているサムタイマー社員を組織化したいという要求を挙げたが、会社としては時期尚早と判断し、取り組むことができなかった。
1996年に執行部内に組織化担当を設け、その後は関連企業の組織化にも取り組んできた。1998年にはメイト社員制度が発足したが、これは労使で部会で研究をして、新たな制度として作り上げてきた経緯もあって、制度導入時より組織化を実現した。
サムタイマー社員の組織化については、1998年に労使で組織化プロジェクトをつくる合意形成ができ、次の事項について労使で協定をしながら取り組みを進めてきた。
(1)  最終的には全サムタイマー社員を組織化するが、優先的に社会保険加入者を組織化すること。
(2)  初回の再契約時から組合員とする「ユニオンショップ制」の労使協定を結ぶこと。再契約時からとしたのは、初年度でやめていく方も多いため、人事からの助言を受け入れた。
(3)  学生のサムタイマー社員は非組合員の扱いにすること。
(4)  組合員化と同時に労使で行っている共済会員にも取り入れていくこと。
(5)  組合規約上の権利と義務(選挙権・非選挙権、組合費の設定)は社員の組合員と同一とすること。ただし、初年度については経過措置として、組合費は社員が本給の1.8%であるのに対し、サムタイマー社員は1.6%と格差を設けた。
 上記の内容を労使プロジェクトの中で基本的事項として協議決定した上で慎重に組織化を進めてきた。1999年にはサムタイマー社員全員を対象とした意識調査を実施し、それをふまえて1999年10月には組織化の基本曲考え方を本部定期大会で提示している。さらに2000年には懇談会を2回開催し、同年の本部定期大会で正式に組織化を決定、同年の10月11日に再契約を結ぶ社会保険加入者の方(1,500名)から組合・共済加入を実現した。
4. 組織化の目的と取り組み姿勢
   組織化の目的は、(1)同じ職場で働く仲間の総合労働福祉の向上、社会的な地位の向上、(2)多様な雇用形態を前提とした、社内の一体感の醸成と、それによる職場の活性化、労働生産性の向上、(3)サムタイマー社員の比率増大の中での組織防衛、の大きく3つが挙げられる。
基本的な取り組み姿勢としては、(1)組合の主体的活動として取り組むこと、(2)健全な労使関係を前提として組織化を推進すること、(3)多様な雇用形態で働くメンバー一人一人を尊重すること、(4)メンバーの声を公平、公正に反映できる、民主的な組織運営をめざすこと、(5)労働条件の取り組みを行っていくこと、の5点が挙げられる。
5. 組織化に取り組んだ上での感想・結論
   組織化の意義、重要性を執行部内で十分に議論し、理解を深め、意志を統一することの必要性が痛感された。また、組織化は組合の主体的活動ではあるものの、健全な労使関係を前提に進めるべきであり、会社側の皆さんにも組織化の意義を理解してもらうことの必要性を痛感した。さらに、組織化の準備には多くの議論と労働力が必要であり、そのためには交渉力や組織力が重要であることを改めて認識した。
組織化はあくまで方法論であり、「何のために組織化するのか」という目的を見失わないようにしなけれぱいけない。組織化の評価は、組織化後の組合活動の実践にあると考えている。
組織化は単に組織を拡大するだけではなく、組合のあり方を根本的に見直す好機である。今後の労働組合は、雇用の流動化を背景にする中で、限られた雇用形態だけの範囲に留まる活動ばかりに固執していると、組合自体の存在意義や組織の衰退を招かざるを得ないという強い危機意識が不可欠である。サムタイマー社員の組織化は、これまで正規の社員のみ取り組んでくれば良かった組合の存在意義そのものも見直す好機になった。
6. 初めての春闘を終えて
   改めて、多様な価値観、就労意識を持った人たちが、様々な働き方のもとで伊勢丹で貢献してくれており、それにより当社が成り立っていることを実感した。それ故に、一律的な賃金の引き上げに取り組むことばかりが必ずしもメンバーのロイヤリティーやモチュベーションを高めることにつながるとは言えない。103万円の枠の問題など、単組だけでは取り組めない内容であり、難易度が従来の取り組み以上に高いと認識している。
制度導入から十数年の歳月を経て、この間制度改定もあり、現状としては名店ごとでかなり処遇の格差が出てきている。したがって、まずはこの働き方の現状をふまえながら、今後労使通年の交渉の場において、労働環境の整備に取り組んでいくことが急務である。整備していく上では、要員ミックスの視点(社員、メイト社員、サムタイマー社員の各々が、なにを担うのか)を意識しながら、その中でサムタイマー社員の働き方(担う職務と契約時間、適切な賃金等)を検討していくことが必要である。合わせて現場における制度の正しい理解とお互いの立場を尊重し合う風土の醸成、そして何よりも正しいマネジメント、労務管理の徹底が肝要であり、今後労使を挙げて取り組んでいきたい。
サムタイマー社員が組織化されたことによって、組合教育や春闘時の職場会議など、組合役員の労力は倍になったが、サムタイマー社員の生の声をきけるようになった。労使を挙げてこの人たちがやりがいを見いたせるような制度にしていきたいと感じている。


目 次

報告概要

(金井利樹人事企画担当係長報告)
1. 従業員構成と契約社員の位置づけ
2. サムタイマー社員の労働条件・処遇
3. 今後の課題と検討の方向性

(久間毅伊勢丹労働組合本部書記長報告)
1. 組合としての課題認識
2. サムタイマー社員の現状
3. 組織化に至った経緯
4. 組織化の目的と取り組み姿勢
5. 組織化に取り組んだ上での感想・結論
6. 初めての春闘を終えて


報 告

(金井利樹人事企画担当係長報告)
1. 従業員の構成とその変化
2. サムタイマー社員の役割と労働条件
3. 今後の課題

(久間毅伊勢丹労働組合本部書記長報告)
1. 組織化の背景
2. 組織化への道のり
3. 組織化の目的
4. 組織化に取り組んで考えること
5. これからの取り組み


討議概要

1.サムタイマー社員の区分とそれぞれの働き方について
2.サムタイマー社員の組織化について
3.サムタイマー社員の組織化による変化<
4.パートと正社員の均等待遇問題
5.組織運営の中でのサムタイマー社員の位置づけ


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