私の提言

佳作賞


「『現代型労働組合活動』のすゝめ」
~誰かが、ではなく全員で。~

津崎 暁洋

1.はじめに:
  「感性」「理論」の両面から考える、労働組合活動に求められるもの

 100年後の日本では、労働組合はどのような変化を遂げているだろうか。おそらく、今も昔も色褪せない「歴史や伝統」と、その時代だからこその「変革や革新」の両立によって、発展し続けているのだろうと思うし、心からそう期待したい。
 私は、この提言を行うにあたり、これまでの歴史の重みを認識しながらも、あえて「現代型」という言葉を選択した。そして、歴史や統計などの詳細データや目指すべきゴールに関する詳細説明については可能な限り省略し、できる限り方法論の掘り下げ部分に力を傾けた。労働組合の基本的・根源的な組合活動論を語る時に、目指すべき活動理念や最終到達点は大きくは変わらないと考えたからだ。
 私が行う提言は、以下、(1)(2)に表現される、現代的な現場視点や一部経営視点を背景としながら、提言ポリシーや目指すべき到達点を示し、その方法論について詳しく述べていく。もちろん、(進め方や伝え方をはじめとした)プロセスに工夫を加えるだけで組合活動が劇的に改善することはない。しかし、おそらく、まだまだ改善できる部分はある。そう信じて私の提言をスタートする。

(1)「感性」を背景とした3つの組織課題(現場視点に基づくもの)

①「分かりやすい(=参加しやすい)」組合活動

②「言いたいことを言える」職場

③エンプロイアビリティ(=雇われるチカラ)」の向上

 これらは、現場視点による感性を大切にしながら、「今こそ必要だ」と思われる組織課題について抽出し整理を加えたものだ。
 まずは、「分かりやすい」組合活動だ。組合員の組合離れが叫ばれて久しい昨今、分かりにくい組合活動を「分かりやすく」組合員に伝えることはとても重要だ。ベテラン組合員にとっての当たり前は、若い組合員にとっては当たり前ではないことも少なくない。今こそ、伝えるための想像力を、これまで以上に働かせるべき時ではないだろうか。
 次に、「言いたいことを言える」職場の重要性だ。言いたいことがある若者は沢山いるが、言える環境がなければ言いたいことを言わない若者も多いように感じる。風通しの良い職場風土は、生産性にも好影響をもたらすが、逆に、「どうせ言っても仕方がない」と認識させてしまうような風土であれば、生産性はもちろんのこと、労働組合の存続・精神衛生上・当事者の成長など、様々な観点から、大きなマイナスが生まれる。
 最後に、「エンプロイアビリティ」の向上だ。近年、会社が高く評価する社員と、労働組合が役員要請を行う組合員が重複することが増えるなか、彼らに組合役員の受諾を決断してもらう(=役員の次世代育成を円滑に進めていく)うえで必要なのは、組合活動を通じて(組織や組合員に対して)「何を与えられるか」だけでなく、組合活動から(自分が)「何を得られるか」でもあると考えている。
 組合活動の大半が、処遇や労働条件の劇的な改善に繋がるわけではない現実があることから考えても、活動への参画が自分の将来にとってプラスになるという見返り的な要素に、私たちは目を向ける必要があるのではないか。

(2)「理論」を背景とした3つの組織課題(経営視点に基づくもの)

①「イノベーション」の創出

②「若者」と「女性」の活用

③「グローバル化(語学だけでなく、ダイバーシティ環境下での活躍も含む)」

 これらは、著書「ハーバードでいちばん人気の国 日本(*1)…」のなかで、筆者が主張する「日本に欠けていること」であるが、確かにそう思う。実際、産別(フード連合)や自単組(キッコーマン労組)における日々の活動のなかで、これら3つが重要な課題となることも少なくないからだ。そして、これらは、経営的な視点から見た主張ではあるものの、労働組合の発展は、会社の発展なくしては実現できない。これらのゴールに向けた、労働組合としての施策案などについても、後ほど提言したい。

  • *1:佐藤智恵著:「ハーバードでいちばん人気の国・日本 なぜ世界最高の知性はこの国に魅了されるのか(PHP新書)」参照

2.提言にあたって:4つの提言ポリシー

 提言を行うにあたり、最初に4つの提言ポリシーを述べておきたい。
 第一に、「労使にとってWin‐Winとなりうる提言」を目指した。例えば、ダイバーシティや安全衛生に関する推進策の浸透については、労使共同による働きかけが効果的であり、良好な労使関係が解決策の土台になることも多い。また、前項で述べたように、組合活動参画が組合員のエンプロイアビリティにプラスに働いた場合も、労使双方にとってWin‐Winとなりうる。
 次に、「大手であろうと中小であろうと実現可能な提言」を心がけたことだ。例えば、賃上げや一時金の獲得については、大手も中小も一律の戦略を採ることは簡単ではない。しかし、これから行う提言については、基本的には企業規模は関係ない。
 第三に、「連合に集う仲間を増やすための提言」でもあるということだ。組織化や組織強化を最重要課題の一つと位置付ける産別や単組がそれらを実現させるためには、「産別に加入する意義」や「(そもそも)労働組合を結成する意義」などに魅力を感じてもらわなければならない。「幅広い意義を幅広い対象に、これまで以上に伝えていくこと」の重要性も意識して提言を行いたい。
 最後に、「仕事でも組合活動でも活躍できる組合員を増やすための提言」を目指した。前述の通り、仕事で活躍し会社から高い評価を得る組合員と労働組合から組合役員要請の声をかける組合員は一致することが多くなってきている。したがって、

  • 要請を受けた組合員が組合役員を担う決断をする確率が上がること
  • 決断した組合役員が、組合活動や業務遂行において活躍すること
  • 活躍する役員が、周囲の組合員達にとっての目標や理想像となること

 これらの好循環が実現されること、踏み込んで表現すれば「組合役員のブランディング」が実現されることが、働きがいのある職場や良好で適切な労使関係を構築する近道の一つになるのではないだろうか、と考えての提言だ。

3.6つのテーマと具体的な提言内容

 近年、組合活動を推進するうえで、実際に組合員研修などで取り組んできた方法論や中央執行委員長として組合員にメッセージ発信してきたことのなかから、伝えるべきと考える「取り組みの背景や趣旨」や「実施内容」などについて述べて、私の提言としたい。

※前述の6つの組織課題(1.(1)(2))の解決を目指し、4つの提言ポリシー(2.)に則り、以下の通り、6つのテーマに分類した。

~具体的な提言内容:6つのテーマと方法論~

(1)「組合って何?を想像させる(組合活動を分かりやすく)」
 ① 組合員研修:『もしも労働組合がなくなったらツアー』

(2)「知識・人間関係・アイデアを広げる」
 ② 組合員研修:『周りを知ろう、あんな職場・こんな職場』

(3)「言いたいことを言える職場づくり」
 ③活動理念:『関係性から始めよう、組織の成功循環モデル』

(4)「若者の活躍と次世代リーダーの育成」
 ④ 組合員研修:『ミドルマネジメントセミナー(中間管理職研修)』

(5)「組合活動における女性の活躍」
 ⑤ 組織運営:『中央執行委員のうち1/4以上を女性が担い活躍』

(6)「ワーク・ライフ・シナジーとエンプロイアビリティ」
 ⑥ 活動理念:『インプットあってこそのアウトプット』
 ⑦ 活動理念:『ワーク・ライフ・バランスというよりワーク・ライフ・シナジー』

(1)「組合って何?を想像させる(組合活動をわかりやすく)」

① 組合員研修:『もしも労働組合がなくなったらツアー』

《取り組みの背景や趣旨》
 私が組合役員を担ってきたなかで、先輩組合役員や現場の年配組合員からよく教えられたのが「昔は『劣悪だった職場の環境改善』や『高度経済成長期の数万円レベルのベースアップ』に向けて『皆でハチマキを締めて闘う時代』だった」という昔話だ。そのようななか一方で、現代型の労働組合活動を目指した時に、昔のような「労働組合さえあれば〇〇の恩恵を得られる」という感覚を持つ組合員はそこまで多くはないのではないかと感じたことがきっかけだ。そして、労働組合の存在意義をプラス面だけで伝えるのではなく、一度打ち消す形(~が無かったらどうなるか)で若い組合員の想像力を膨らますことはできないか。その課題解決のために生まれたのがこの取り組みだ。尚、ディスカッション方式とした理由は、「他人から組合活動の意義を熱く吹き込まれるよりも、可能な限り自分自身で結論に辿り着いてもらいたい」「議題となっている組合活動に自分の参画も必要であることを参加者に感じてもらいたい」と考えたからである。

《実施内容》
 若年層の組合員をターゲットとしたディスカッション方式のセミナーである。労働組合の存在意義や労使関係の重要性などを、一通り伝えたうえで、「労働組合があれば〇〇ができるではなく、仮に労働組合がなくなったら□□ができない」という視点から、組合活動における具体的な危機場面(業績悪化に伴う会社の賃下げ提案への対応/重篤な労働災害発生時の再発防止要求/ハラスメント対応など)を議論のテーマとして設定する。そのうえで「労働組合がある場合」と「労働組合がない場合」双方の状況下において、より良い結論をディスカッション方式で導いていく。

(2)「知識・人間関係・アイデアを広げる」 

② 組合員研修:『周りを知ろう、あんな職場・こんな職場』

《取り組みの背景や趣旨》
 組合役員として、様々な職場の組合員と膝を突き合わせれば突き合わせるほど、「自分は他の職場の組合員よりも頑張っている/他の職場に比べ辛い想いをしている」といった多くの愚痴や悩みに直面するが、実際にはどの職場の組合員も日々懸命に頑張っている。「このギャップをいかにして埋められるか」「『隣の芝は青いこと』にどうすれば気づいてもらえるか」この課題を解決しようとしたのが、研修実施のきっかけだ。
 また、会社にセクショナリズムが存在するのは当然であり、会社が職場間の垣根を越えた情報交換・意見交換機能を充たすことは容易ではない。したがって、このような機会創出はまさに労働組合の得意技の一つであると言えよう。

《実施内容》
 多様な職場から参加者が集まる組合員研修を実施する際に、少し長めの自己紹介パートを設ける。研修に臨むにあたり、参加者は事前課題として「趣味や特技を伝える文章/プライベートの写真/自分の仕事内容を紹介する文章/自分の仕事内容を表現できる写真」等を作成、提出してもらったものをまとめた冊子の該当ページに着目しながら、同じグループのなかで自己紹介を行う。
 また、グループに分かれて単純に自己紹介するだけでなく、自己紹介を受けた人がその人のことをグループの皆に紹介するという他己紹介も導入し、お互いに興味を持たせるための環境づくりも行う。
 結果として、自分だけが厳しい境遇にあると考えていた参加組合員が、「他の部署の組合員も自分と同様に苦労や葛藤がありながら日々の業務に取り組んでいることが分かり、気持ちが楽になり、視野も広がりました」といった反応を示すことも少なくない。
 実は密かに、私がとてもまじめに思い描く未来像の一つが、「社内報やグループ報を読んだ時に、今までなら読み飛ばしていたページに目が止まる人数や回数が、会社全体として増え続けること」だ。日頃は異なる職場で働く仲間同士が、職場の垣根を越えることにより刺激を受け、「無関心の対象」から「知り合い」に変わることは組織論的にも好ましいし、前述の人数や回数の増加は、その証左となるはずだ。

(3)「言いたいことを言える職場づくり」

③ 活動理念:『関係性から始めよう、組織の成功循環モデル』

《取り組みの背景や趣旨》
 「組織の成功循環モデル(*2)」というのは「『関係の質→思考の質→行動の質→結果の質』がグルグル好循環していく」というダニエル・キム氏の理論だ。私たちは、この「組織の成功循環モデル」に基づき、当労組におけるあるべき職場像を模索してきた。
 最悪なのは「会社の業績や成果があがらない(結果の質↓)→対立が生じ命令や指示が増える(関係の質↓)→受け身で聞くだけになり考えて仕事をしなくなる(思考の質↓)→自発的・積極的に動かない指示待ち人間になる(行動の質↓)」→「さらに業績や成果が下がる(結果の質↓)」というバッドサイクルだ。このように「結果の質」をスタート地点とした場合、結果が伴わず従業員の行動力の減退にまで繋がってしまうリスクがある。そこで、労働組合として着目しているのが、バッドサイクルの対極にある「関係の質から始まる好循環(グッドサイクル)」である。

  • *2:マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱

図1:「組織の成功循環モデル(ダニエル・キム氏提唱)」の活用

《活動理念》
 労働組合にとって、「言いたいことを言える職場づくり」の実現は、生命線と言っても過言ではない。私たちは、これまで以上に、生産性向上や主体的な業務姿勢といった、高いパフォーマンスを求められるようになるだろう。そして、そうなればなるほど、組織の最大効率を求められることとなり、職場内外の関係性がどのような状態で保たれるかが重要になってくる。
 良好な関係性を実現する鍵は、決して課所のビジョンや上司の責任だけではない。中間管理職がいかに責任感を持って関わるべきなのかについては事項((4))で述べるが、所属員の立場からも、職場の人間関係を良好にするためにできる貢献は必ずある。

(4)「若者の活躍と次世代リーダーの育成」

④ 組合員研修:『ミドルマネジメントセミナー(中間管理職研修)』

《取り組みの背景や趣旨》
 全国の職場の組合員の悩みを聞いていると出てくるのが、上司への愚痴であることは少なくないが、数年前に管理職に対する不平不満を言っていた組合員が、その数年後にいざ管理職になった途端に、逆に組合員達から非難される存在になってしまうケースを耳にする。もちろん「立場が変われば…(労働者から管理職層への変化に伴う)」という側面も理解できるが、これほどまでに手のひらを返したような横暴な変化を遂げてしまうことは、該当職場の後輩達に対しても会社組織に対してもマイナスにしかならない。だからこそ、組合員であるうちに、「徹底的に現在の不満を導き出し」「他責ではなく自責で捉えることの大切さを知り」「自分が管理職になった時にも、今信じるスタンスを可能な限り大切にしてほしい」と思ったのがきっかけである。

《実施内容》
 対象は、次席クラス(総合職の管理職一歩手前の組合員/工場現場の職長や班長など)の組合員(中間管理職層)であり、研修の前段で、日頃、管理職と組合員の板挟みになっている立場だからこそ感じている想い(例えば「私はこんな上司にはなりたくない」「自分の後輩が上司から罵声を浴びているのが許せなかった」といった不満/一方で「この人のおかげで今の自分はある」「あの時あの上司がかけてくれた言葉は自分の糧になっている」といった感謝)を事前課題として作成、提出してもらう。研修当日には、そういった不満部分をお互いに吐き出してもらい、感性が高まったタイミングで、外部講師によるリーダーシップ論を、ディスカッションも交えながら真剣に学んでもらう。そして、研修の肝である「『他責』ではなく『自責』で捉えた時に今の自分にできる役割発揮は意外と多いこと」への気づきを得てもらう。研修の最後には、「今、所属長を批判している自分が、5年経って管理職を担った時に、部下から同じような批判を受けないように今持つべき志」や「5年後の自分に恥ずかしくない、すぐにできる明日からの職場での活躍」を宣言方式で誓い合う。

(5)「組合活動における女性の活躍」

⑤組織運営:『単組の中央役員人数の1/4以上は女性が担い、活躍してもらう』

《取り組みの背景や趣旨》
 ある女性組合員に「女性が活躍するために、一番必要だと思うことは何ですか?」と質問したときに、「会社や世間は、時間外労働を厭わず、私生活よりも業務遂行ばかりを優先するバリキャリ的な人しか管理職として活躍できないと考えていないでしょうか?」と逆質問を受けたのがきっかけだ。その頃から、「一部のスーパーウーマンが活躍するだけではいけない」「女性として当たり前の感覚を持ちながら、私生活を犠牲にせずに活躍できる職場づくりが必要」「(そういった)活躍のあり方を労使双方が真剣に考えるべき」などと考えたのがきっかけだ。

《実施内容》
 中央執行委員11~12名中、3人を女性から選出し、通常の協議事項について、男女関係なく真剣に向き合ってもらいたい旨と、女性として認識している当たり前の感覚で該当の協議事項に積極的に参画してもらいたい旨を伝えた。「独身/ディンクス/子どもがいない夫婦/子ども○人/子育て+介護…」といった多様な環境下にいる女性社員たちの立場や感覚を念頭に置きながら、彼女たちは高いレベルで中央執行委員会の議論に貢献してくれた。
 また、実は、3名のうち1名は、育児短時間勤務(1時間早帰り)を選択しており、非専従役員の要請をした時に、当然だが彼女は不安を口にした。そこで私は「中央執行委員会の協議事項を全員で議論する時間を1時間短縮すること(=彼女の帰宅時間までに協議事項の議論を終えること)を組織として約束し、彼女も英断してくれた。職場の多様なニーズに会社や職場がしっかりと対応すべきであると日頃から発信を続ける労働組合の総本山だからこそ、この結論を導くことができたことは大きく、これは、組合組織にとっても、もちろん私自身にとっても、大きな経験となった。
 私たちは、多様なニーズにどこまで対応し、どのような方法で組織の最大効率を目指していくのか。本件に限らず、様々な場面において、組織として真摯に向き合う必要があるだろう。

(6)「ワーク・ライフ・シナジーとエンプロイアビリティ」

⑥ 活動理念:『インプットあってこそのアウトプット』

⑦ 活動理念:『ワーク・ライフ・バランスというよりもワーク・ライフ・シナジー』

《活動理念》
 一例として、現代に強く求められる「イノベーションの創出」について考えてみたい。イノベーションを生み出そうとする際に、日常業務に忙殺されてしまっていては、「人と異なる視点」「広く深い知識」「豊かな経験値」などを獲得していくのは簡単ではない。
 自身のアウトプットを増やすためには、必ずといっていいほど一定量のインプットが必要になってくる(もちろん、当事者の資質や努力による側面もあるが)。
 私は、労働組合における活動や経験もインプット増加に寄与できると考える。例えば、「考えの異なる職場の主張を総意化して臨む経営層との交渉経験」「単組活動や対外活動による社内外の情報獲得や人脈拡大」「政策制度実現や労働者自主福祉運動への貢献に伴う社会性の醸成」などは、創造力を増しイノベーションを生み出すうえでも、仕事を効率的に進めるうえでも、経験者のエンプロイアビリティを押し上げるだろう。
 また、余暇の時間に、趣味や見識を広げたり、友人や家族との関わりを深めたりすることも、単に充実感を得るだけでなく、結果として「インプット」の向上に貢献し、それは仕事で求められる「アウトプット」の向上にも繋がる。
 私たちは、「ワーク・ライフ・バランス(以下WLB)」の実現を目指して、年休取得や時間外削減の施策実施を行うが、本当の意味で組合員の日々を充実させるためには、「ワーク・ライフ・シナジー(以下WLS)」の視点を大切にすべきだ。WLBは、仕事とプライベートを7:3、6:4のように、比重を傾けるシーソーのような考え方だが、WLSは、仕事と私生活の「相乗効果(1+1=2ではない)」を狙った考え方である。
 働き方改革の推進のもと、時間外労働の削減がもたらすものは、可処分所得や人件費の減少だけではない。減った時間外労働によって生じるインプット可能な創出時間を、いかに前向きに受け止められるか、このシフトチェンジは労使双方が注力すべきだろう。

図2:仕事外のインプットあってこそのアウトプット(仕事含)

4.おわりに

 まずは、タイトルに含まれる「~誰かが、ではなく全員で。~」に触れておきたい。
 2017年に、キッコーマン労働組合では、組合結成70周年記念事業の一つとして、組合員公募によるユニオンスローガンの策定(組合員公募による作品群から組合員投票で大賞を決定する方式による)を行った。その際、最終候補に残った作品のなかには、「本部役員の活躍を期待する声を込めたスローガン」も含まれていたが、そのスローガンとは対極にある「誰かが、ではなく全員で。」が最多票を獲得することになった。「誰かが、ではなく全員で。」がユニオンスローガンに決定されたことは、単組の組織運営にとっても非常に大きく、自分事として組合活動を捉えた投票行動を行ってくれた組合員にも敬意を表したい。
 私たちの先人は、(高度経済成長時代も含め)「(強力な指導力やリーダーシップも背景として)皆がハチマキを締め、近い温度感で、同じゴールを目指す組合活動」によって労働組合の礎を作ってきてくれたが、現代は、「スピード豊かな変化に対応しながら、多様性(ダイバーシティ)の観点から最適点を目指す組合活動」が、これまで以上に求められている。ここで重要なのは、組合活動に「誰かがではなく全員で」が求められることは昔と変わらないが、その実現に向けたハードルは、ハチマキを締めて自ずと団結してきた時代よりも高いことだろう。そして、だからこそ、私たちはその変化から目を逸らさずに組合活動(=現代型労働組合活動)を維持・発展していかなければならないのだと考える。
 私たちの組合活動は先人が積み上げてきてくれたレールの延長線上にある。そして私は、「歴史や伝統」の重要性を先人から受け継ぐ一方で、(今の現場感覚に基づきながら、)「変革や革新」を加えられる役割も担っている。おそらく過渡期であろうこの時代に、産別や自単組の仲間に支えられ、刺激も受けながら、組合活動をど真ん中で推進させてもらっていることに感謝したい。最後になるが、私の提言が、働く仲間たちの未来のために、連合や労働組合などの活動推進の一助となればこの上ない喜びだ。


戻る