『私の提言』

講評

「第15回私の提言」運営委員会
委員長 南雲 弘行

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、第8回から「私の提言・働くことを軸とする安心社会」として、連合が目指す社会像実現のための提言を組合員のみならず幅広く募集を呼び掛け、実施してまいりました。「山田精吾顕彰会」から数えて21回目、連合の事業となってからは15回目の募集となりました。

 教育文化協会HP、連合HP、公募ガイドなどを通じて、今回は44編の応募をいただきました。「どなたでも応募できます」という呼びかけに賛同し、労働組合役職員、会社員、教職員、学生、OBなど、多くの方から自身の経験に基づく切実な提言を応募いただいたことは大変喜ばしい限りです。テーマも、障がい者支援や高齢者雇用、両立支援、長時間労働の是正など多岐にわたりました。その一方で、労働組合役職員からの応募は今回5編にとどまりました。連合・労働組合に対する提言が年々減少していることや、単位組合(企業)で働く組合員・現役労働組合役職員(特に30代~40代)からの応募が少ないことは大きな課題として受け止めており、次回以降、積極的な働きかけを行っていきたいと考えています。

 提言を評価する任務を与えられている運営委員会としては、①文章表現、②具体性、③独自性、④社会性、⑤現実性の観点から、「連合・労働組合に対する提言になっているか」
 「自身の経験を踏まえたオリジナリティある内容であるか」などを念頭に最終選考にあたり、委員の総意で「優秀賞」1点、「佳作賞」2点、「奨励賞」2点を選出しました。今回は審査の結果、残念ながら「学生特別賞」の選出を見送りました。連合寄付講座を受講している大学生からの応募も続いており、労働教育の裾野が少しずつ広がっていることは回を重ねるごとに感じています。次回こそ、学生らしい斬新な提言が寄せられることを期待しています。
 「優秀賞」を受賞した西岡奈緒子さんの提言は、有病者や障がい者が働き続けられる社会の実現に向けて、当事者の視点から、在宅勤務の導入や法整備の充実、ネットワークの形成など、具体的な提案がなされています。その他の受賞者の提言も、通信制高校で働く教職員を取り巻く環境改善やプロボノ契約を活用したCSRの推進、労働安全衛生に関する取り組み、高齢者とベンチャー企業のマッチング制度など、自身の経験や課題認識に基づいて書かれたものばかりです。置かれた立場は様々ですが、それぞれの提言から、より良い社会を実現していくために、何かを変えていかなければならないとの強い思いを感じることができました。

 最終選考にあたっての議論経過は以上ですが、入賞提言についての詳細なコメントは、運営委員の橋元秀一さん、廣瀬真理子さん、大谷由里子さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。今回の44編の提言に託された思いを受け止め、いかにして連合運動に生かしていくかがわれわれの使命であると思います。「すべての働く者」が安心して働き続けられる社会の実現のため、より多くの皆様からの提言をお待ちいたしております。

 また、最後になりますが、応募いただいたすべての方に感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆様に御礼申し上げます。


寸評

國學院大學 橋元 秀一

 今回も多彩な作品が寄せられたが、高齢者や障害者に関する論点の作品が目立った。応募者は前回よりも減少し、労働組合員の応募が少ないことが気にかかった。次回には、もっと多くの方々に、とりわけ労働組合の役員や組合員に日頃感じている問題意識を提言として応募くださることを強く期待したい。

 さて、今回の受賞作は次の5作品であった。
 優秀賞は、西岡奈緒子氏の「有病者や障害者の雇用機会拡大と雇用継続の実現のために必要なソフト面での整備について」である。この作品は、「有病者や障害者の雇用機会拡大と雇用継続の実現のためにソフト面でどのような整備が必要とされるか、自身の経験を踏まえて提言」したものである。職場での前向きな理解に励まされながら就業を続けつつ、同病の方と知り合ったことをきっかけに情報交換の輪を作り、相談活動へと歩を進めてきた努力には頭が下がる。しかも、その過程での体験から、ネットワークの形成と活用の重要さを指摘し、そのネットワークの中心となり形成のコーディネーターとなることが連合に求められるとしている。テレワークの拡充、有病者や障害者にも短時間勤務で柔軟に働けるようにする法整備を行う必要があるとすることなども含め、有意義な提言を寄せていただいた。有病者や障害者の雇用機会拡大と雇用継続の実現に向けて、連合の取り組みに期待されることが多いことを示唆しているものと言えよう。

 佳作を受賞した作品は、久原弘氏の「通信制高校における安心して働くことのできる職場への実現のために」と小池都司氏の「プロボノ制度による労働力の有効活用への提言」である。前者は、通信制高校の実情を踏まえ、教員の置かれた現状を描きつつ養護教諭等の配置の大切さを指摘している。後者は、休日などを利用して専門的知識を活かした社会貢献に関する提言である。いずれも有意義な提起であるが、連合がそうした課題にどう取り組むことが求められているかと言ったような、連合への提言としての考察を添えていただければより良い作品なったのではないかと思われる。奨励賞は、安全衛生啓発の取り組みを強調する松木伸介氏「既存の取り組みを生かした安全衛生第一文化の醸成」と、人手不足のベンチャー企業でリタイアした高齢者の就業を提案する三宅理沙氏「高齢者雇用ベンチャー企業奨励制度の提案―超高齢社会でのこれからの働き方」である。

 最後に、提言執筆の上でご留意いただきたいことを簡単に述べさせていただく。募集は連合への「提言」であるから、言うまでもなく連合に対する提言内容が明確に示されていることが必要である。そして、その理由や根拠を提示することも求められる。単なる感想や希望表明、誰に対する提言なのか不明であるのはもったいない。「提言」として、上記を含む考察や分析の作品を多数お寄せいただけるよう期待したい。


寸評

東海大学 廣瀬 真理子

 今回の「私の提言」の審査対象となった応募作品は40篇で、昨年よりも、やや少なくなりました。しかしながら、応募者の人生経験を通して発する社会への問いかけや、社会の改善をめざす提言には、その方ならではの熱意がこめられており、「働くことを軸とした安心社会」の意味も、さまざまな角度からとらえられていました。審査会で審議を重ねた結果、今回は、優秀賞1篇、佳作賞2篇、奨励賞2篇が選ばれました。以下に選考理由とコメントを述べます。
 まず、審査会で最も評価が高かったのは、西岡奈緒子さんの「有病者や障害者の雇用機会拡大と雇用継続の実現のために必要なソフト面での整備について」と題する提言でした。西岡さんは、みずからの病気を通して、進行性の病気になった人が就労継続を希望する場合、短時間勤務や在宅勤務など柔軟な働き方を可能にするような法整備をはじめ、治療・療養と職業生活の両立のためのガイドラインの普及・啓発や、企業間また患者間での情報交換が必要であることを挙げています。健常者中心の社会や働き方に一石を投じた視点が、高く評価されました。欲を申せば、病気や障害に対する職場の理解を深める方法や、ネットワークづくり、また在宅勤務の課題などについても、より具体的な提言をうかがいたいと思いました。
 次に、佳作賞には、久原弘さんの「通信制高校における安心して働くことのできる職場への実現のために」と、小池都司さんの「プロボノ制度による労働力の有効活用への提言」が選ばれました。久原さんは、不登校の問題などを抱えて通信制高校に在籍する生徒の安定的な学びのために、教員だけでは間に合わない教育現場に、養護教諭とスクールカウンセラーの常駐が必要であることを述べています。現場を熟知した教員の切実な声ともいえますが、日本の将来の教育のあり方にもつながる提言になっています。小池さんは、最近、用語が注目を集めている「プロボノ」が、労働力の流動性を高めるという見方に立って、その導入に積極的な提言を行いました。新しいアイデアが審査会で評価されましたが、現在のところはその定義も明確ではなく、有償ボランティアや副(複)業との違いをどのように位置づけているのか、また、「休職中の働き方」という形容矛盾などについても少々疑問が残りました。
 そして、奨励賞には、松木伸介さんの「既存の取り組みを生かした安全衛生第一文化の醸成」と、三宅理沙さんの「高齢者雇用ベンチャー企業奨励制度の提案―超高齢社会でのこれからの働き方」が選ばれました。松木さんは、とくに高齢労働者や外国人労働者が増加する職場において、職場環境整備の基本ともいえる安全衛生の確保を最優先することが、労働者ばかりでなく企業にとっても有益であり、そのための連合の役割を重視した提言を行っています。三宅さんは、学生の立場からの応募でしたが、高齢労働力への期待が明確に示されていました。しかし、高齢者の健康寿命よりも生産寿命に注目する点や、経済的に困窮している高齢者を働けない者として提言の対象から排除する点などに、高齢者に対するやや偏った見方を感じざるをえませんでした。もう少し高齢者像を幅広くとらえて、ていねいに分析されたら、より現実的な提言につながるように思います。
 今回、学生特別賞は、「該当者なし」という結果でしたが、社会人になる前に、ぜひ学生の視点から、安心して働ける社会づくりのための条件整備などに、意欲的な提言を寄せていただきたいと思います。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回の傾向として、時代を反映してなのか、障害者雇用や高齢者の働き方に触れた提言が以前よりも増えました。そして、優秀賞に選ばれたのは、ソニーマーケティング株式会社の西岡奈緒子さんの提言です。
 西岡さん自身、3歳の時に筋ジストロフィーの診断を受け、「いつまで働き続けられるだろう」という不安を持ちながら働かれています。一方提言では、自分の現場を踏まえた企業や団体への取り組みへの提案もあり、非常に好感が持てる内容でした。よって、満場一致での優秀賞となりました。
 全体的に提言としては、政策提言的には弱いものも多く、佳作、奨励賞は審査員メンバーでもかなり意見が割れました。そんな中で佳作賞に選ばれたのは、山口県の通信制高校教諭である久原弘さんと、アクセンチュア株式会社のCSR部門アナリストの小池都司さんの提言でした。
 久原さんの提言は、リアルな通信制高校の現場が描かれていて、非常にイメージしやすい内容で、提言も明確です。また、小池さんの提言もCSRの現状としてのリアリティがあります。その中で、ある特定のスキルや経験をもった人が、その専門知識を活かして組織や団体に属して社会貢献をする「プロボノ制度」について提言されていて、非常にわかりやすいです。どちらも、その気になれば実行できる提言です。なので、個人的には、この提言の読者がその気になってくださることを期待します。
 奨励賞には、東京医科歯科大学の学生の三宅理沙さんと、電力総連の執行委員の松木伸介さんが選ばれました。松木さんの提言は、政治にも触れていて、わたし個人としては、このようにきちんと連合や労働組合の活動を書いた提言が出てくることは、とても大切だと感じています。ただし、執行委員であるだけに、自分が書いた提言の内容をぜひ、少しでも実行して欲しいです。そこに期待しています。
 今回も学生の応募が5点ありました。その中で、高齢者雇用についての提案をされている三宅さんの提言が学生の中では、いちばん評価に値するということで奨励賞ということになりました。学生の視点ではあるものの、若者と高齢者の相互理解を深めて活かし合いたいという思いが強く書かれた提言です。
 高齢者を消費のターゲットでなく、供給側にシフトしていく試みが必要とのメッセージは、「本当にその通りだよなあ」と、思わせます。もう少し具体策があれば、良い提言になるのでこれからも期待しています。
 これら、5点が今回入賞した作品となります。できれば、やはり、もっと労働組合の現場で活躍されているメンバーからのリアルな提言があると嬉しいです。そして、政策に活かされるのが理想です。来年に期待します。


寸評

参議院議員 吉川 沙織

 連合「私の提言」募集の運営委員として、第7回以降選考に携わる機会を頂き、今回が9度目となる。これまでの選考過程を通じて今回、特に挙げるべき点としては、以下の2点ではないかと考える。
(1)優秀賞・学生特別賞の選出に関する議論が多くあったこと
(2)応募件数が昨年より大幅に減少したこと

 前回は、過去最多の応募件数であったにも関わらず、本審査に出席した全ての運営委員が納得のうえ、スムーズに優秀賞が選出できたことに鑑みると、今回の本審査が困難なものであったと言わざるを得ない。今回、まず議論となったのは、優秀賞・学生特別賞に該当する提言があるのか否かについてであった。
 前回の予備審査から、提言の具体性・独自性・社会性・現実性等の評価項目を設定し個別審査イメージを明確にしたことや、評価する提言数の上限を設定したことにより運営委員間で評価する提言が収斂されやすい環境だったにも関わらず、予備審査段階で、優秀賞・学生特別賞ともに「該当なし」とした評価が複数存在したためである。

 これまで全ての選考の中で、優秀賞を「該当なし」としたのは、第11回(2014年)の1度だけである。今回においては、評者を含めて委員の半数が優秀賞とした西岡氏の提言があったため、委員間での活発な議論の結果、西岡氏の提言を優秀賞に選出することに決定した。評者自身は、優秀賞に選出された西岡氏の提言を高く評価している。西岡氏自身の体験に基づき、ICTとテレワークの活用の紹介や未だ法整備が追いついていない現状と課題について的確な指摘があり、提言として訴えかけるものがあると感じたからである。

 最終的に、委員間で今後の課題等も含めて認識を共有したうえで、優秀賞1編、佳作賞2編、奨励賞2編を選出した。なお、学生特別賞については、これには該当しないものの、三宅氏が学生の提言の中では秀でていたことから奨励賞に選出したが、第9回(2012年)においては、学生が優秀賞に選出されたことを考えると、学生の今後の奮起に期待したい。

 これまで、運営委員の一人として、提言数が増える取り組みを一貫して求めてきたことから、今回、提言数が減少に転じたことは悲しい思いであり、今回の振り返りを次回に活かして欲しいと願う。また、今回の本審査の中でも議論となったが、「働くことを軸とする安心社会」の実現につながる提言としてこれまで募集してきたが、連合に対する提言など、募集内容についても今一度議論し、多様化する社会情勢等に対応するための「私の提言」にブラッシュアップしていくことを検討する時期に来ているのではないかと考える。


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