私の提言

奨励賞

プロボノ制度による労働力の有効活用への提言

小池 都司

 昨今様々な社会問題に対して、民間企業や非営利組織が改善に向けて活動をしている。しかし、その活動の大きな阻害要因となっていることが一つある。労働力不足である。少子高齢化が叫ばれて久しいがその傾向は加速するばかりで、一部の企業では労働力不足を理由に事業が成り立たなくなっているという。その傾向は民間企業に限らず、昨今の社会問題に取り組む企業や非営利組織にも当てはまる。非営利組織は賛同者や企業から資金提供を受けて特定の社会問題に対して活動をするが、昨今の労働力不足はこうした組織にも押し寄せており、組織によっては事務仕事で一日を使い切ってしまい、本来するべき組織の活動にまで手が回らなくなっている。私自身企業では会社のCSR部門に所属していたため、様々なNGO・NPO、企業のCSR担当者と共に活動をしていたが、いずれの組織も人手不足のため、財務・経理・事務作業・組織の目的である活動を全て一人で回さざるを得ないという組織も度々目の当たりすることがあった。その結果、社会問題を改善していくどころか、担当していた職員自身が体調不良のため辞めてしまうという、また別の社会問題を生むような状況を生み出していた。
 こうした民間企業・非営利組織は今後もさらに増えていくことが予想される。それは、社会問題に携わる民間企業・非営利団体に限らず、商業活動を行う民間企業など様々な組織に当てはまる。そこで、この提言書では、そうした労働力不足を打開するプロボノ制度について私から提言したいと考えている。
 まず、プロボノとはある特定のスキルや経験をもった人が、その専門知識を活かして、組織や団体に属して社会貢献をすることを言う。ここでいう社会貢献とは非常に幅広い分野を内包し、労働問題、人権問題、貧困問題などはもちろん、自然環境や科学など様々な問題のことを指す。そうした分野に対して専門知識を持っている人、または、企業などで特定のスキル(プロジェクトマネジメントやプログラミング、PCスキル等)や経験(経理・財務・人事・物流等)を持っている人が、それまでいた組織内や別の組織で活動することがプロボノ制度というものである。ここで重要なのが、ある特定のスキルや経験を持った人の対象に限定がないというところである。つまり、男性であろうと女性であろうと、マイノリティと呼ばれるLGBTの方でも問題なく、健常者と障がい者の区別もないということである。誰もがこのプロボノ制度を活用することができる。
 プロボノ制度は、既に組織に属している人が時間の合間や休業中に使うことができる制度になる。例えば、産休で仕事を休んでいる女性が仕事はできないものの何か社会貢献活動をしたいと思った時、このプロボノ制度を活用することで、仕事で得た業務スキルなどを非営利組織や他の民間組織に利用することができる。また、日中は通常業務をしている人が、業後の数時間のみ社会貢献をしたいと思った時にもこの制度は活用できる。
 それでは、プロボノ制度をいかに企業や組織で活用するかについて記載したいと思う。まず、プロボノになるための制度つくりが組織や団体内で必要になる。先述の通り、プロボノ制度は既に組織に属している人が活用する制度であるため、属している組織と受け入れる組織の両社でのプロボノ契約が必要になる。ここで重要なのが、両者にとってwin-winなプロボノ契約が必要になる。プロボノを受け入れる組織としては、労働力不足のため活動に賛同して協力する人材を必要としているが、プロボノを出す組織としてはむしろ労働力を流出させてしまうのではないかという危惧もあるかと思われる。そのため、このプロボノ契約では業務の時間や期間を決めておく必要がある。たとえば、日々出社をしている人に対しては業後のみプロボノが可能、或いは週に1日~2日間のみプロボノとして活動することが可能、といった時間や期間の決め方がありうる。また、プロボノを出す組織としては、契約をする動機の一つとしてCSR活動をしていると対外発進する機会を得るためである。昨今、民間企業はただ商業活動を行うだけでなく、顧客や消費者の信頼を得るためにCSRの一環として社会貢献活動を行っている。プロボノ契約もその一つにあたり、組織の人員をプロボノとして出すわけなので、単に資金提供をするよりも効果的に社会貢献活動を行うことができる。そのため、プロボノ契約時にはCSRの広報に組織間で協力することも記載しておくと良い。例えば、プロボノが活躍している写真などを企業のホームページに掲載する承諾をもらうなどが挙げられる。こうした関係を図で表すと以下のようになる。


(小池作成)

 続いて、プロボノ制度における給与についてだが、この制度で業務を行う人は有給・無給いずれも可能である。ただし、人材の十分な活用を考えるならば有給で行う方が望ましいと思われる。無給の場合、生活に余裕がない人にとっては社会貢献活動に携わるよりも通常の業務を選択してしまい、NGO・NPO団体も限りあるリソースを失ってしまう恐れがある。そのため、できる限り人材の流動性を考えるのであれば有給でのプロボノ制度を確立するべきである。この有給について、基本的にプロボノを出す側の組織が負担することになる。それは、プロボノ契約は組織からするとCSR活動の一環であり、社会貢献活動とはいってもあくまでも業務の一つとしてとらえるべきだからである。プロボノはボランティア契約ではなく一つの仕事であり、その仕事に対する支払はプロボノを出す側の組織がするべきである。その代わりにプロボノを受け入れる側の組織も社会貢献活動の場を提供する。
 プロボノ制度によって、これまで社会貢献活動に携わりたくても携われなかった人だけでなく、仕事の合間や隙間時間を使って自分のスキルや経験を活かしたいと考えている人のリソースを十分に活用することができる。また、社会貢献活動を行う民間企業・非営利団体の労働力不足に対して有効な対策と言える。人材の流動性を高めることができるのである。
 ここまで社会貢献活動を行う組織に対するプロボノを記載したが、私はこの制度が民間企業の商業活動においても活用することができると考えている。プロボノという言葉は社会貢献活動を指しているが、制度の仕組みそのものは民間企業の労働力不足にも効果的な対策になりうる。
 基本的に企業というのは、その企業内のリソースを駆使して商業活動を行う。しかし、昨今の労働力不足が原因で一人の社員にマルチタスクが求められており、それが結果として残業の増加、重労働、過労死などといった様々な社会問題につながっている。こうしたときに、一人の社員にマルチタスクを求めるのではなく、社外のリソースを利用することでより効率的に人材の活用ができると思われる。例えば、資料作成や表計算といった時間を要するものの作業自体はスキルや経験があればできる業務について、プロボノが対応することでよりスピーディーかつ効果的な業務を遂行することができる。その分、本来その業務を対応するはずだった社員はより優先度の高い業務に着手することができる。また業務に限らず、ある特定の専門的な知識が必要となる会議においてオブザーバーとしてプロボノを導入することで、会議そのものを有意義なものにでき、より戦略的かつ効果的な案を導くことができる。
 それでは企業・社員にとってこのプロボノ契約をするメリット・デメリットを記載したいと思う。まずメリットについて、前述のとおり企業のCSR活動として非常に有効な手段の一つであることが挙げられる。また、企業は自社の社員を他の組織に出すことになるため、そこでの新たなスキルや経験を自社で活用してもらい、新しいアイディアを自社に生むことができる。さらに、社員にとっても、様々なスキルを活用する場を得られて、よりある特定の分野におけるスペシャリストとして活躍できる。加えて、企業・社員ともに、他の組織との交流によって新しいビジネスを構築する機会を得ることができる。続いてデメリットについて記載する。デメリットとして挙げられるのが、企業の場合は社外秘情報などセンシティブな内容の業務もあることからプロボノ契約が可能な業務が限られる恐れがあることである。但し、このデメリットはプロボノ契約時に守秘義務契約を付随することで、万が一にも契約違反になった場合の罰則・罰金を設けておくことで抑止力になると考えられる。また、労働力をプロボノとして提供するため、その時間自社における労働力がなくなることを意味している。そのため、企業側も労働力不足に瀕していた場合、よりその状況を悪化させてしまう恐れがある。しかし、プロボノ契約の時間・期間を定めておくことが有効である。プロボノを希望する社員に対して、プロボノを実施できる時間・期間をあらかじめ決めておくことで、労働力不足を生み出すことがなくなると考えられる。但し、あまりにも厳しい制約をかけすぎてしまうと、今度はプロボノ制度を使用できる社員が少なくなり、実質制度だけのものになってしまう。そのため、適宜制度を更新することも念頭に、社員のニーズと企業のニーズをくみ取ったより良い制度を作っていくことが必要である。
 私自身これまでプロボノとして様々な組織で活動をしてきたため、その効果は非常によく理解している。民間企業に務めながらプロボノ契約を結んでいる団体や民間企業に対して短時間、或いは時に1日単位での社会貢献活動や商業活動を行い、そこで様々なスキルや経験、人脈を得ることができた。加えて、私自身当妻の育休を支えるため育児休業のため仕事を休むことが多々あった。その際に本業である仕事をするには職場から離れているため難しいが、プロボノ契約としてNGOやNPO、民間組織の特定の分野の業務を在宅で行う機会を得て、その分給与も得ていた。
 ここまで記載した通り、プロボノ契約というのは「働くことを軸とする安心社会」において、非常に有効な手段であると考えられる。具体的に橋ⅠからⅤまでに掲げている各観点に当てはめてみた場合、どの範囲で合うかについても記載したいと思う。
 まず、橋Ⅰに掲げている「教育と働くことをつなぐ」という観点からいうと、社会貢献活動や商業活動を通じて新しいスキルや経験を学ぼうと思った時、仕事を辞める必要などなく、その活動を行っている組織の中で直接仕事を通じて学ぶことができる。また、プロボノ契約を大学と企業或いは非営利組織の間で結んでおくことで、学生のうちから学んだ知識を組織の中で活用することができる。例えば、プログラミングを大学で学ぶ学生と非営利組織がプロボノ契約を結び、社会貢献活動をしたいと考えるその大学の学生がプログラミングのスキルを使って組織に貢献するということも可能である。そのため、こうした経験が学ぶ場から働く場への円滑な移行支援につながると考えられる。
 橋Ⅱに掲げている「家族と働くことをつなぐ」の観点からいうと、諸事情で所属組織から離れている人が隙間の時間を活用して別の組織で働き続けることができる。また、有給であればその分の賃金も支払われるため、働き続けることができる公平・公正なワークルールの実現につながる。プロボノ契約はテレワークともシナジー効果が高く、在宅での仕事が可能となれば、ワークライフバランスを実現するにとってもよい制度となる。男性は自宅での家事や育児、地域づくりへの参加をしやすくなり、女性にとっても仕事をつづけながら妊娠・出産・子育てといったライフイベントに対応しやすくなる。
 橋Ⅲに掲げている「働くかたちを変える」の観点からいうと、プロボノ契約によって誰もが自分のスキルを活用して活躍できる場が提供されるため、働く側が選択できる働き方の多様化を実現できる。健常者だけでなく障がい者、マイノリティのLGBT、育児休業中の女性など幅広い人々が、自分の環境や事情に鑑みて一番適した働き方を選択することができる。
 橋Ⅳに掲げている「生涯現役社会をつくる」という観点では、プロボノ契約が社会貢献活動を主目的としたものであるため、社会的貢献や文化活動など幅広い活躍をサポートするのに適したものとなっている。
 橋Ⅴに掲げている「失業から就労へつなぐ」という観点では、産休で仕事を休んでいる女性にとってプロボノ契約は短時間から仕事をすることができる制度のため、復職の第一歩として本業の仕事ではなくプロボノの仕事をすることで仕事の感覚を慣らしていくということも可能である。
 「働くことを軸とする安心社会」を支えるにあたり、NPOや社会的企業が協業をしてこのプロボノを活用することで「新しい公共」の促進につながる。さらには、企業にとってもCSRの推進にとって有効的な施策となると考えられる。本業をしつつ、或いは本業を一時的に離れている人にとっても、プロボノ契約は自身のスキルや経験を活用して新しい場で仕事をすることができることから、雇用創出や労働条件の向上を起点とする持続的な成長の好循環の実現に対して非常に効果的である。
 プロボノ制度は女性・障がい者・外国人・LGBT問わず様々な労働力を、労働不足に瀕している組織で利用でき、また、労働を提供する人々にとっても自分のワークライフバランスを軸に働きやすい環境を自分自身で選択することができる。非常に優れた制度ではあるが、その運用のためにも組織間での綿密な制度づくりが必須である。組織のCSR担当や人事担当者、労働組合同士が密に制度内容を作り、且つ、組織の経営層がこうした制度に対して協力的であればあるほどより運営もしやすい環境づくりが出来上がる。まずは第一歩として、企業のCSR部門や人事部門、労働組合がこの提言をもとにして話し合いの場を設けて、自社におけるプロボノ制度がどこまで適用可能かを議論していただけると幸いである。先に挙げたような守秘義務契約等様々な決め事があるかと思われるが、そうした制約も一つ一つ決め事を定めていくことで解決できるものと考えている。また、実際に自社の社員ニーズや経営層のニーズをヒアリングすることも重要なステップの一つである。ここで言うニーズとは、社会貢献活動への関心だけでなく、プロボノという形で他社や非営利組織で活躍するという働き方、産休・育休などの休職中における働き方といった、様々なニーズをヒアリングする必要がある。そうして初めてしっかりとしたプロボノの制度が創られるのである。
 私の提言が様々な組織で取られることで、どのような業種・規模の組織であろうと、また、商業活動か社会貢献活動かに関わらず、プロボノ制度が労働の流動性を活発化させることができると考えている。この提言が幅広く活用させることを期待したい。


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