『私の提言』

講評

「第12回私の提言」運営委員会
委員長 南雲 弘行

 本提言募集事業は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を継承して、2004年から「私の提言・連合論文募集」として衣替えし、第8回から「私の提言-『働くことを軸とする安心社会』の実現にむけて-」として、連合が目指す社会像実現のための提言を組合員のみならず幅広く募集を呼び掛け、実施してまいりました。今回で「山田精吾顕彰会」から数えて18回目、連合の事業となってからは12回目の募集となりました。

 今回は過去最多となる31編の応募を、連合の組合員、組合役職員、OB、大学生、教員や専門職の方々など幅広い層からいただきました。また、労働運動の次代リーダーを育成する「Rengoアカデミー・マスターコース」の受講・修了生、現在全国15大学で開講している「連合寄付講座」の聴講生、海外在住者からも提言が寄せられ、応募のすそ野が広がってきていることを大変喜ばしく感じました。

 取り上げられたテーマは、非正規労働、外国人労働、若者・女性・高齢者の雇用問題、ワーク・ライフ・バランス、格差・貧困、長時間労働、組織率向上、労働教育、地方活性化など多岐にわたり、今の社会状況を映し出すものでした。

 提言を評価する任務を与えられている運営委員会としましては、前回「優秀賞」の授与を見送ったことから、「優秀賞に値する提言とは何か」を改めて議論し、慎重に審査に臨みました。今回の「優秀賞」選出にあたっては、問題意識や着眼点の鋭さをはじめ、提言の明確さ・オリジナリティ・斬新さ・具体性・実現可能性等の要素を重視したほか、論文としての構成力も考慮しました。自らの職場体験に基づく現場感覚あふれた提言や組合活動の枠にとらわれない自由な発想による提言など、読み応えのある提言が多く、最後まで議論は尽きませんでしたが、最終的に「優秀賞」1点、「佳作賞」2点、「奨励賞」3点を選定しました。来年は質・量ともさらに充実した提言が寄せられることを期待しています。

 また、男女、年代、職業、地域にかかわらず、厳しい労働環境に対して何とかしなくてはならないとの強い思いをそれぞれに感じることが出来ました。31編の提言に託された応募者の思いを真摯に受け止め、「すべての働く者」が安心して働き続けられる社会を実現できるよう、労働運動をさらに前進させていかなければならないと考えています。

 以上が、議論経過と全体の講評についてです。入賞作についてのコメントは、運営委員の橋元秀一さん、廣瀬真理子さん、大谷由里子さん、吉川沙織さんに寸評をいただいておりますので、ぜひご覧ください。

 最後に、応募いただいた方々に改めて感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員の皆さまに御礼申し上げます。


寸評

國學院大學 橋元 秀一

 過去最多の31編が寄せられた。応募者は組合員に留まらず、学生から定年退職後の方まで年齢や職業、立場等も実に幅広かった。それを反映してか、多彩な論点にあふれており、今日の労働組合運動に期待される課題の広がりを感じさせた。入賞から漏れた作品にも重要な問題提起は少なくなかったが、「提言」を趣旨とする選考であることをご理解いただきたい。

 【優秀賞】となったのは、押田卓也氏「『働くことを軸とする安心社会の実現に向けて』~運動をさらに広げていくために~」である。押田氏は、労働組合員数が減少し組織率も低下していることに対する連合の取り組みを強化・補完する観点から3つの提言を行っている。[1]労働教育を推進するために、基金を設立することやワークルールを学ぶ電子教材を作成すること、[2]多様な人材を活用し社会の共感を得るために、高齢者やパートなどの非正規労働者を連合組織内議員に登用し擁立すること、[3]組織力強化のために、連合、地方連合、地協、産別、単組、外部団体間の活発な人事交流を行うことである。いずれも重要で有用な指摘であろう。提言部分の論述に大半の紙幅を割いていれば、提言事項の必要性とその理由、得られる効果などについて、より具体的で深い考察ができたのではないだろうか。とりわけ[3]の「内向きの活動」や「マンネリ化しがち」、「タテとヨコの関係」についての指摘は重要な課題であるだけに惜しまれる。

 【佳作賞】の久保田愛氏の「ワーキングマザーの視点から見る今後の制度のあり方に関する提言」は、産休・育休制度を利用した自らの経験をふまえ、制度が整っていても「働くことがとても苦しい」実態を明らかにしている。諸制度それぞれの有用性と問題点をあげた上で、「当然の営み」として守られるべき人が「周囲に迷惑をかける」「評価が下がる」とする不安の中で利用しており、「公正さを目指した制度作りが安心社会の鍵」であるとしている。具体性や明確さがやや弱いものの、制度利用に伴う問題点を率直に叙述しており、有意義な提起となっている。

 同じく【佳作賞】となった福井美津江氏「人間らしく働く権利を守るために~「労働組合って何?」から踏み出す新たな一歩~」は、同僚がセクハラ被害にあった会社での経緯を振り返り、会社の対応のひどさ、正当な指摘をしただけで配転させられた自らの経験、悩み追い込まれていった心理を要領良く簡潔に描いている。連合福井の労働相談をきっかけに労働組合を知り学び、「前へ大きく一歩踏み出せ」るようになったという。組合を知らない人々へ、連合の広報や情報提供の必要性を強調している。提言の具体性や提示のしかたが不十分ではあるが、実感のこもった読ませる作品であった。

 【奨励賞】となった三氏も重要な問題を提言している。具体性の弱さ、根拠の不明確さ、表現上の工夫などにやや不十分さが見られたものの、有意義で貴重な提起であった。今後、さらに多くの方々が応募くださり、多彩で豊富な論点が連合へ提言されることを期待している。


寸評

東海大学 廣瀬 真理子

 今回の「私の提言」には、これまでで最多の31篇の応募がありました。一篇、一篇の提言を大切に拝読しましたが、入賞作品の選考過程では、各審査員の視点の違いなどによって、評価が大きく分かれました。そして長時間の審議の結果、以下の提言の入賞が決まりました。

 まず、今回優秀賞(1点)に選ばれたのは、押田卓也さんの「働くことを軸とする安心社会の実現に向けて~運動をさらに広げていくために~」でした。本提言は、非正規労働者の増加や、それにともなういわゆる「ワーキングプア」と呼ばれる人々の問題などに注目して、雇用環境が悪化している最近の日本社会の改善への道に、連合運動が不可欠であることを主張する提言でした。具体的な改善案についても明確に述べられており、まとまった提言になっています。さらに申せば、「連合が地道な活動を積み重ねていくことが必要であり、そのために組合員一人一人が自らの役割と責務を果たしていかなければならない」と言及された点について、もう一歩踏み込んだ提言を聞かせていただきたかったです。

 次に、佳作賞(2点)ですが、まず、久保田愛さんの「ワーキングマザーの視点から見る今後の制度のあり方に関する提言」では、就労と子育ての両立支援策について、公立高校の教員の立場から、現行制度の課題と、制度以外の仕事と子育てをめぐる葛藤について述べられていました。そして、これからの両立支援策のあり方について「公平な制度づくり」と、「利用者の責任」が提言されています。本提言のなかで「表向きの選択肢とそれ以外」という表現にみられるような、制度の陰にある問題についても改善案を提示していただけたら、さらに充実した提言になったのではないでしょうか。

 また、福井美津江さんの「人間らしく働く権利を守るために~『労働組合って何?』から踏み出す新たな一歩~」は、職場の同僚が直面した上司からのハラスメント問題によって、ご自身も退職に追い込まれてしまった体験をもとにして、パートタイマーも安心して働ける環境を構築することと、そのための労働組合の役割の重要性について言及しています。提言としてはやや弱い面もありましたが、個人的な体験をもとにしながら、それにとどまらず、社会性を持った問題提起がなされている点が評価されました。なかなか表面化されにくい問題を取り上げた貴重な提言であり、労働組合をはじめ、周囲の環境がその問題をどのように受け止めて改善に向けて取り組むかという点が、まさに問われていると思います。

 そのほか、奨励賞として次の3点が選ばれました。紙幅の都合で題名の表記は省きますが、中澤真弓さんは、高齢社会において喫緊の課題ともいえる、潜在医療資格者の活用について提言されました。また、御厨成海さんの提言は、労供運動を安心社会のひとつの軸にするための条件についてでした。そして、和田祐哉さんは、安心できる地域社会の形成のために、労働者の視点を持つ地方議会議員の必要性と、そのための連合の役割についての提言をされました。それぞれの提言の着眼点に評価が集まりましたが、今後もそれらのテーマについて議論を深めて、さらなる提言に発展させていただきたいと思います。

 応募された皆様は、猛暑の時期の締切り日に向けて、テーマを絞って相当の分量の文章にまとめて提言として発表することに、多くのエネルギーを費やされたことと想像しています。今回、受賞には至らなかった方々の提言のなかにも、貴重な指摘がいくつも見出せました。こうした皆様の具体的なアクションが、少しずつでも、社会をより良い方向へと変えていくための力につながるものと信じています。来年もまた、多くの方々から応募があることを楽しみにしています。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 全体的に読みやすく分かりやすい提言が多く、かなり審査員メンバーの票にばらつきがでました。
「分かりやすいだけでいいのだろうか」
「思いはわかるけれど、提言になっているのか」
「提言である以上、実行できるかどうかも大切ではないか」
審査員メンバーのそんな意見の中で、今回優秀賞に選ばれたのは、基幹労連の押田卓也さんの論文、「働くことを軸とする安心社会の実現に向けて」となりました。押田さんは、現在、Rengoアカデミーでも学んでおられるそうです。それだけに、グローバルな視点からも、身近な視点からも労働問題を取り上げ、労働運動の大切さを提言されています。非常にリーダーとしての観点からも知っておくべき内容ももりだくさんで、論文としての評価が高く、優秀賞となりました。

 佳作の福井美津江さんの論文は、非常に現実的で、内容としては、興味深く、「こんなことがまだ起こっているんだ」「この実態を知ってもらうことこそ大切じゃないか」と、何人かの審査員メンバーは、強く押されました。が、論文としては、「まだまだ期待したい」ということで佳作となりました。

 同じく、佳作の久保田愛さんの論文も「思い」は、かなり伝わるし、言いたいことが分かるものの、「論文としては、まだまだ次に期待したい」ということで佳作になりました。

 ただし、この2点は、現状を的確に伝えていて、ぜひ多くの組合活動をしているメンバーに読んでいただきたいと思います。「これが現実なんだ」と、耳の痛い内容もあると感じています。

 奨励賞となった中澤真弓さん、御厨成海さん、和田祐哉さんの論文もそれぞれ読みやすく、言いたいことが伝わる論文でした。中でも、和田さんの論文は、「議会改革を連合主導で」という内容でグローバルな視点での提言で、「その通り」と納得できるものでした。中澤さんも御厨さんも「その通り」というものですが、斬新さがあればもっと良かったということでこれからに期待して奨励賞となりました。

 今回、応募数が過去最多で31編ということで、審査員メンバーも読むのに時間がかかったけれど、盛り上がりました。これからも、ひとりでもたくさんのメンバーに提言に興味を持ってもらって提言していただけると嬉しいです。

 と、同時に労働組合や連合のリーダーメンバーにこれらの提言を読んでもらって、提言が提言で終わらないように、ひとつでもふたつでも実行に移してもらえることを期待しています。


寸評

参議院議員 吉川 沙織

 「私の提言」連合論文の運営委員として、第7回以降、選考に携わる機会を頂いており、はやいもので今回が6度目となる。第7回までは「論文」、第8回以降は「提言」として受け付けているが、今回の最大の特徴は、第1回から通じて、提言数が最も多かったことであろう。また、昨年は、運営委員間での活発な議論の末、優秀賞を初めて「該当なし」としたが、今回は多くの議論を経て、2年ぶりに優秀賞を選出したところである。

 毎回、選考は、それぞれの運営委員の予備審査結果を本審査当日、出席した運営委員が目にし、それぞれの評価のポイントについて意見を出し合うことから始まる。今回、多くの運営委員から出されたポイントは、「提言」としての明確性、「提言」としての強さや自らの経験等に基づく具体性等であった。これらを基準に運営委員間で共通認識を醸成し、議論の末、優秀賞1編、佳作賞2編、奨励賞3編を選出した。

 優秀賞は、押田卓也氏が選出されたが、特筆すべきは、Rengoアカデミー・マスタコース受講生から初の受賞者となったことであろう。押田氏については、多くの運営委員から「提言」としての明確性について言及があり、最終的に優秀賞に選出された。

 佳作賞は、久保田愛氏、福井美津江氏であるが、2編に共通するのは、自らの経験や実体験に基づく文章の強さ、労働相談の必要性、現状の制度が抱える問題点と制度に留まらない運用課題等について、的確に触れられていることがポイントであったと考える。評者としては、久保田氏の提唱する、働かないことを軸とした安心社会が、働くことを軸とした安心社会を築くために必要な存在であるとしている点に斬新さを感じ、評価のポイントとした。

 奨励賞に選出された3編は、中澤真弓氏、御厨成海氏、和田祐哉氏であるが、それぞれ自身の経験に基づく運動論、高齢社会における喫緊課題への対応策、市民参加による議会改革等について評価され、奨励賞選出となった。また、今回は久々に学生の入賞はなかったが、第9回の際には、学生の提言が優秀賞に選出されていることから、次回以降も学生からの積極的な応募を期待したい。

 最後に、運営委員の一人としては、提言数が増える取り組みを一貫して求めてきたことから、今回が過去最高の提言数であったことは喜ばしいことであるが、より一層、提言が増えることを願ってやまない。と同時に、連合に対しては、多様化する社会情勢等に対応する貴重な提言を運動全体の活性化に活かすため、なにより、働くことを軸とする安心社会の実現に資するため、真の意味で活用して欲しいと願うところである。


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