私の提言

優秀賞

「労働教育」の必要性と新たな提言
―小学校における「労働教育」の実現に向けて―

塙 万里奈

1.はじめに

 本稿では、連合の掲げる「働くことを軸とする安心社会」の実現に向けて、「教育」の観点から新たな提言を述べる。まず、若者が仕事につくまでの職業意識の変遷から「労働教育」の必要性を考察し、「労働教育」の現状と課題をまとめる。その後、小学校段階の教育に注目し、小学校でどのような「労働教育」を目指すべきか、またそれを実現するためにはどうすればよいかを提言として述べたい。

2.なぜ「教育」か? ―若い世代の職業意識の変遷―

 人はどうして働くのか。その理由には、「生活のための所得を得て、自分の能力を発揮する」という自分にとっての側面と、「一人一人が働くことで社会を存続させる」という社会的な側面の2つが存在する(注1)。誰しもにとって職を得て働くことは、生きる上で必要不可欠な行為である。
 それでは、これから社会に出て、社会を支える一員となる若い世代は、職業にどのような夢を抱き、実際にどのような就職先を希望しているのだろうか。まず、若者の希望職種の変遷を以下のデータを例に、段階別に追ってみていきたい。

子どもの夢はなぜ形を変えるのか
 ベネッセ教育開発センターが実施した、小・中・高校生対象の第2回子ども生活実態基本調査では、子どもが将来つきたい職業ランキングにおいて次のような結果がでている。男子では、なりたい職業ランキングの第1位が、小・中学生で「野球選手」、高校生で「学校の先生」である。女子では、第1位が、小学生で「ケーキ屋さん・パティシエ」、中・高校生で「保育士・幼稚園の先生」となっている。本ランキングでは、中・高校生になるにしたがって、全体的に安定した職業を希望する傾向があると考察されている(注2)。
 一方、大学生の進路希望に関しては、株式会社ジョブ・ウェブが実施した志望就職先の意識調査で、次のような結果がでている。この調査では、志望就職先の1位が三菱UFJ信託銀行、2位が公務員、3位が三井住友銀行となっている(注3)。就職先に関するランキングは他にも多数存在し、一概にまとめることはできないが、大学卒業後、学生の多くは、企業もしくは公務員としての就職を希望することが予測できる。
 それでは、幼いころはケーキ屋さんで働くことを夢見ていた子どもが、大きくなってなぜ企業で働くことを望むようになるのだろうか。上記のデータを安易に比較することはできないが、多くの人にとって、幼いころの将来つきたい職業と、実際に就職する際の職業には大きなギャップがあることは想像できる。それには次のような理由が考えられる。
 まず1点目として、若者自身が時とともに、世の中には様々な職業があることを見知っていくことが挙げられる。2点目として、若者が、実際に就職できる可能性について考えるようになることが挙げられる。つまり、自分がなりたいと思うことと、実際になれるか、ということの違いに気づいていくのである。また、3点目として、若者が次第に、賃金、福利厚生、雇用の安定性などに意識を向けるようになることが考えられる。
 この3点目は、働く人一人ひとりが、公正なワークルールのもとで、適正な賃金を得て、ワークライフバランスを保ちながら自己実現していくために、重要な視点である。各々が幼い頃に、なんとなく抱いていた「かっこいい」「楽しそう」といった仕事への憧れは、次第に「この仕事で得られる給料で満足した生活が送れるか」「生活をきちんと保障してくれるか」「将来性のある職場か」といった視点をもつことで、形を変えていくのだと予想できる。
 それでは、若者が上記のような視点をもって、働くことについて真剣に考え出すのはどのタイミングなのか。それは多くの場合、就職活動の時期であると考えられる。その就職活動の時期に、若者は社会に出て働く上で、働くことの意義や労働者として必要な権利等の知識を得ることができているのかを、次に考察したい。

就職活動で十分なのか?
 現在、就職活動の時期を迎える大学生は、各大学が準備するキャリア支援行事や、その他様々な就活支援のセミナーに参加する機会がある。そこでは、就職に向け、業界や職種、また就職活動の進め方について等、様々な情報を得る機会がある。しかし、そこでの最も高い関心ごとは、「内定をとるにはどうすればいいか」「企業はどんな人材を求めているのか」「どうすれば採用されるのか」という内容のものである。志望する企業の福利厚生や労働環境については、企業の提示する情報やOB訪問などから知ることができるが、実際に働く上で重要な、労働者としての権利や、労働組合の役割についての知識をあらためて学ぶ機会は、ほとんどないことが予想される。それは、就職活動の時期にある大学生にとって、一番重要なことは、まず希望する企業の内定を確実にとることであるため、内定につながること以外の知識についてじっくり学んでいる余裕はないと考えられる。
 それではこの現状にどう対応すべきなのか。その答えは、「教育」の中にあると主張したい。今回、私が受講させていただいた、連合寄付講義「労働組合論Ⅰ」もその一つであるといえる。働く際に労働者として知っておくべき知識や考え方は、すぐに身につくものではなく、長い目で少しずつ育まれていくものであろう。そこで、今後の学校教育で、労働教育を展開していくための課題と提言を、現状を踏まえた上で以下に述べていきたい。

3.労働教育の現状と課題

学習指導要領にみる労働教育の現状
 それでは、今実際に学校教育では、勤労に関してどのようなことが教えられているかを知るため、中学校・高等学校における現行の学習指導要領を概観し、労働教育に関わる学習指導事項とその内容の取扱いについて確認したい。
 まず、中学校学習指導要領社会科編をみると、公民的分野の内容(2)において、「社会における企業の役割と社会的責任について考えさせる。その際、社会生活における職業の意義と役割及び雇用と労働条件の改善について、勤労の権利と義務、労働組合の意義及び労働基準法の精神と関連付けて考えさせる」とある。この内容の取扱いとしては「網羅的で高度な取扱いにならないよう特に配慮するとともに、身近で具体的な事例を取り上げる旨が示されている(注4)。これより、中学校は、子どもが初めて「勤労の権利・義務」「労働組合」という言葉とその意味を正式に学ぶ場であることがわかる。また、それぞれの事項に高度な内容まで深入りしすぎないこと、身近な事例から考えることが配慮されていることがわかる。
 次に、高等学校学習指導要領公民編をみると、現代社会の内容イ(2)には、「現代の経済社会における技術革新と産業構造の変化、企業の働き、公的部門の役割と租税、金融機関の働き、雇用と労働問題、公害の防止と環境保全について理解させるとともに、個人と企業の経済活動における社会的責任について考えさせる」とある。また、政治・経済の内容(3)アには、「大きな政府と小さな政府、少子高齢社会と社会保障、住民生活と地方自治、情報化の進展と市民生活、労使関係と労働市場、産業構造の変化と中小企業、消費者問題と消費者保護、公害防止と環境保全、農業と食料問題などについて、政治と経済とを関連させて考察させる」 とある。これより、高等学校では、「企業の働き」「雇用と労働問題」「労使関係と労働市場」「中小企業」等、中学校よりも具体的な仕組みや課題に踏み込んだ内容になっていることが読み取れる。
 そして、これらの内容の全体にわたって配慮すべきこととして、「基本的な事項・事柄を精選して指導内容を構成するものとし、細かな事象や高度な事項・事柄には深入りしない」という事項が書かれている(注5)。この配慮事項からは、中学校と同様に、高度な内容までは踏み込まないようにすることが求められていることがわかる。

現行の学習指導要領より考えられる労働教育の課題
 以上を踏まえると、学習指導事項に定められている、「勤労の権利と義務」「労働組合」「労働基準法」「企業の働き」「雇用と労働問題」「労使関係と労働市場」という言葉に見られるように、現在の学校教育では、将来主体的な働き手になるために必要な内容が、網羅されているように見える。しかし、気になるのは、配慮事項に「高度な事象・事柄には深入りしない」ことが中学校・高等学校いずれにおいても銘記されていることだ。この「高度な事象・事柄には深入りしない」という言葉からは、数多くの指導事項がある中で、特定の内容について深めていくカリキュラムの余裕がないことがうかがえる。
 このことから、高等学校を卒業した段階の若者は、「労働者の権利」「労働組合」等について、基礎的な言葉やその仕組みを「知っている」ことが考えられるが、その知識が表面的なものになってしまっている可能性があることが予測できる。現に、連合は、「教育振興基本計画の審議の状況」に関する意見(2007)の中で、「使用者と労働者との関係やそれぞれの責務について、現状では労働の現場で学ばねばならないが、労使それぞれに十分に学んでいるとは言えず、様々なトラブルの要因となっている。学校教育を終えた学生・生徒は社会に出るのであって、十分な知識の無さ故に『被害者』にも『加害者』にもなる可能性は否定できない」と述べている(注6)。つまり、高等学校までの教育を修了した段階で、若者に労働・雇用問題に対応できるだけの知識が身についていない現状があるということだ。

4.今後の労働教育に向けた提言

 それでは、現代の若者が、学校教育を通して、社会に出て働く上で必要な知識を身につけられていない現状に対し、教育がすべきことを、文部科学省に向けた連合の提言を踏まえた上で、以下に述べていきたい。

連合の文部科学省への提言
 連合は、「『キャリア教育・職業教育』における連合の意見」の中で、キャリア教育・職業教育に対する考え方を次のように述べている。

 連合は、中央教育審議会への意見発表などで、勤労観・職業観を養うための労働教育の重要性について言及してきた。「労働の尊厳」の学習、特にワークルールや「働く者の権利」を深く理解し、勤労観・職業観を醸成することは、学校から職業への円滑な移行を可能にするだけでなく、労働安全の確保や「ワークライフバランス」、ディーセントワーク社会の構築といった点からも重要であると考える(注7)。

 さらに、連合は学校教育に対し「現在の学校教育では『労働基本権』や『労働基準法』『雇用契約』の重要性について十分に教えられていない」ことを指摘し、「義務教育を含む学校教育の各段階で『労働教育』=働くことの意義と、労働を通じての社会への貢献、働く者の権利・義務について、生徒・学生が確実に会得する ことの重要性を述べている。
 具体的には、「働くことの意義を学ぶ授業時間を確保する。その中で、労働の尊厳を深く理解するとともに、働くことを通じて社会に貢献できることを学ぶ」「日本国憲法や労働関係法で保障されている『働くものの権利』について具体的に理解できるよう、カリキュラムを充実させる」「健康で働くための諸制度や労働安全の確保の大切さや『ワークライフバランス』の必要性を学ぶ」こと等を、提言として掲げている(注8)。
 以上の連合による提言を、先ほど概観した学習指導要領の指導項目と比較し、現在の「労働教育」で必要とされていることを次に考察したい。

今の「労働教育」に足りないものは何か?
 中学校・高等学校の学習指導要領の中には、「勤労の権利と義務」「労働組合」「労働基準法」「雇用と労働問題」「労使関係と労働市場」等のキーワードが、学習指導項目として掲げられている。それに対して、連合は、現在の学校教育では、「労働基本権」「労働基準法」「雇用契約」について十分に教えられていないことを指摘し、「働くことの意義」「労働の尊厳」「働くものの権利・義務」「ワークライフバランス」等について確実に学べるようにすることを提言している。これらの項目を比較すると、連合が提言している労働教育における学習指導内容は、すでに大部分が学習指導要領に定められていることがわかる。しかし、それにも関わらず、連合が上記のような提言をしているのはなぜなのか。それは、連合が述べている「ワークルールや『働く者の権利』を深く理解し、勤労観・職業観を醸成する」 「重要性について十分に教えられていない」「生徒・学生が確実に会得する」「具体的に理解できるよう、カリキュラムを充実させる」「・・・の必要性を学ぶ」という言葉からも見られるように、現行の学習指導要領に定められている指導内容が、学校教育を終えた段階の若者に、生きた知識として十分に定着していない現状があるからだといえる。その諸因は様々だと考えられるが、今回私が最も重大な原因だと感じるのは、上記に掲げられている知識の「必要感」が、学校教育を通して育まれていないことである。

なぜ「必要感」が大切なのか
 私が、若者に上述の知識を知る「必要感」を育むことが重要だと感じる理由には、次のようなものがある。
 まず、もし学び手が「必要感」を感じられないと、たとえ労働者の権利や労働組合の知識について学んだとしても、その知識は表面的なものになってしまうからである。そして、自分には関係ないこととして捉えてしまい、将来自分が雇用や仕事の条件で悩んだ時など、その知識が本当に必要とされたときに、情報を主体的に引き出せないことが考えられる。さらには、「必要感」を感じることなしに提供される知識は味気なく、労働組合や権利の仕組みに対して「つまらなそう」「堅苦しい」というような、マイナスのイメージをもってしまう危険性もはらんでいる。
 一方、「必要感」が個人の中で育まれれば、その知識を自分のものとしてたくわえ、必要とされたときに知識を自ら活かすことができるであろう。また、すべての事象はつながっているため、一つの事柄に「必要感」をもつことができれば、自分から主体的に知識を広げ、仕組みを理解していくことができると考えられる。例えば、若者が「ワークライフバランス」について「必要感」を強く感じることができれば、「現在働いている人は、このバランスが保たれているのか?」「労働者にとってどのような制度が必要なのだろう?」「その制度は誰が決めるのだろう?」といった疑問から、「雇用問題」「労働組合」「働く者の権利」等について知識を広げていくことができると予想できる。実際に、私は今回連合寄付講義の「現代労働組合論Ⅰ」を受講し、自分が将来働く職場で、労使の関係が公正なワークルールのもと成り立っていてほしいという「必要感」を強く感じた。そのため、労働組合の意義や働き、労働者のもつ権利についてより詳しく知りたいと感じ、これからも自ら必要な知識や情報を調べていきたいと思うことができた。
 以上の理由から、私は現在の「労働教育」において、労働に関する知識の「必要感」を育むことが最も重要であると考えている。そのためには、「労働教育」に関するカリキュラムの新設や、学習指導事項の増設をすることには賛成できない。なぜなら、現行の指導要領にある指導項目ですら、すべて十分に学ぶことができていない状態で、教える内容を新たに作り増やすことは、学校現場の教育を逼迫させ、結果的に若者が学びとる内容が希薄になってしまう可能性が考えられるからだ。
 それよりも、「必要感」を育むためには「労働教育」の質を高めていく必要がある。ここでいう「質を高める」とは、物事を関連させて、じっくり考えていく力をつけることである。これらについて、「小学校における労働教育」でできることと、そのための提言を以下に詳しく述べたい。

小学校における「労働教育」の質を高めるために
 私はこの「必要感」を育む時期として特にふさわしいのは、小学校段階だと考えている。なぜなら、小学校の段階で、労働に関する知識の「必要感」をもつことができれば、中学校・高等学校において、具体的な労働に関わる制度・権利・仕組みについて学ぶ際に、生徒が主体的に知識を吸収していけると考えられるからだ。
 また、もう一点の理由としては、すでに小学校で行われている教育実践の中に、「労働教育」の素地となるものが多く存在していると感じるからである。この素地となるものと、労働に関わるキーワードをつなげて考えることが、先ほど述べた「労働教育」の質を高めることにつながっていくと考えている。そこで、ここで述べる「労働教育」の素地についてと、それらが労働に関わるどのような要素につながりえるかを、具体的な教育実践を例に挙げて、以下にみてみたい。
 まず、一つ目の例として、国語科の光村図書出版の教科書に掲載されている「百年後のふるさとを守る」という教材を扱った実践について考察したい。この文章は、江戸時代に紀州藩で大地震と津波が起こった後、村から人々が流出するのを止めるため、浜口儀兵衛という人物がある計画を思いつき、その一大事業を成し遂げるという、実話に基づく話である。この話の中で、儀兵衛は始め、自らの財産で村人に食糧や衣服を買い与えるが、村人が求めているのは自ら働き、自分の手で生活のための稼ぎを得ることだと気づく。そこで、儀兵衛は、村人が、自分たちの故郷で、自ら働き手となり、またその賃金で生活を支えられるようにするため、村人の手によって大堤防を建設する計画を立て、実行する。この文章をみると、この内容はまさに、東日本大震災後の現在の私たちが置かれている状況と重なっているといえる。実際にこの教材を読み終えた児童は、「震災後の今、儀兵衛のような人間になり、被災地を支援したい」という感想を残しているが、「でも、どうしたらできるかわからない」と、具体的に何をすればよいかまでは、思いつかない様子であった。ここで、連合が現在行っている地域雇用・経済の再生などの復興への取り組みを、発展学習として取り上げれば、児童が、すでにもっている疑問に引き寄せながら、雇用問題や労働組合の働きについて興味をもつことができると考えられる。
 次に、体育におけるソフトボールの教育実践の事例を挙げたい。この実践では、ソフトボールの試合を、はじめはあえて明確なルールがない状態で行った。すると、試合中に、「片方のチームがずっと点をとり続けている」「もめ事が多くて試合がすすまない」という不具合が生じ、試合後に児童が自ら、試合のルールについて話合うことを提案していた。このような実践からは、児童が、ルールづくりの意義、審判の重要さを学ぶことができる。体育は一見、「労働教育」とは何の関係もなさそうに感じるが、ルールづくりに取り組む中で、ルールが公正であること、全体でルールを共有すること、必要に応じて訂正していくことの大切さを実感することができる。このことを仕事の場に置き換えることで、労使で交渉を重ね、公正なワークルールをつくることの重要性に、つなげていくことができると考えられる。
 三つ目の例として、社会科の米作り産業の単元について述べたい。この単元では、農業を支える人々について学ぶ中で、JAの役割について知ることが指導事項の一つに挙げられている。ここで、各JAの労働組合の意義に注目し、労働組合が農家の人々の暮らしをいかに支えているか、現在農家の人の労働条件にはどのような問題点があるか、等の内容を、調べ学習のテーマとして取り上げることで、児童がより具体的な視点から、労働組合の存在に触れることができると考えられる。また、各JAの労働組合が、産業別組合である全国農林漁業団体職員労働組合に加盟していること、さらにその上には連合があることを取り上げることで、日本の労働組合の構造についても知ることができるであろう。
 このように、現在すでに行われている小学校の教育実践の中にも、「労働教育」につながる要素は多く存在しているといえる。これらの要素を、教師や教育に携わる大人が意識的に、社会・雇用・労働の枠組みとつなげていくことで、次第に児童の中で、労働に関する制度や権利を知ることの「必要感」が育まれていくと考えられる。それでは、教育現場でこのような「必要感」を育む教育を行うために、まず何をすればいいのだろうか。最後に、この教育を実現させるための一歩となる提言を述べたい。

教育の実現のために何をすべきか?
 上記のように、今行われている教育実践の中で、「労働教育」につながる要素を探すためには、実際に教育実践に携わり、目の前の児童・生徒の実態をよく把握している者と、今現在、社会の中で雇用問題や社会制度の改善に取り組んでいる者の、双方の知識・考え方が必要であると考えている。そのため、現場の教師と、連合のメンバーによる、初等教育段階の「労働教育」に関する研究会を立ち上げることを、新たな「労働教育」を実現するための提言として掲げたい。
 この研究会では、教師と連合のメンバーが、現行のカリキュラムを教科横断的に確認しながら、具体的にどの教科のどの単元で、労働の権利や仕組みに関する発展的学習につなげられるかを、検討していく。ここでの連合のメンバーの役割としては、実際に社会で起きている雇用・労働問題から、若者がどのような知識・考え方を身につけておく必要があるかを教師と話し合うこと、また、教育現場に提供可能な「労働教育」に貢献しうる人的・物的リソースの提案をしていくことなどが挙げられる。教師側の役割としては、今の子どもたちがどのような職業観、また労働に関する知識をもっているか、という実態を踏まえた上で、具体的な学習活動の展開を、連合のメンバーと共に計画を立てていくことが挙げられる。
 上記のような「労働教育」の研究会は、中等教育・高等教育の段階のものに関しては、多く散見される。しかしながら、初等教育段階での「労働教育」の研究会は、積極的に行われてこなかった。その理由としては、次の2点が考えられる。一つ目は、「労働組合」や「労働者の権利」等の内容を初等教育で触れるのは、難易度が高い可能性がある点である。小学校では、各教科、基礎的な知識を定着させる段階なため、上記のような労働に関わる知識は子どもにとって理解しにくいことが考えられる。二つ目は、「労働教育」の重要性を知りつつも、日々の実践の中で発展的にその内容を扱っていく機会をつくるのは、現場の教師にとって難しいと予想される点である。小学校の現場にいる教師は、複数の教科のカリキュラムを同時に進行させていかなければいけない。そのような中で、あらたに「労働教育」として発展学習を行うことは、教師個人、また一部の教師の意志だけでは困難が多いことが考えられる。このような理由から、これまで小学校における「労働教育」の研究会が浸透しにくかったことが、予想される。
 これらの課題を解決するためには、まず、現段階で「労働教育」に対して積極的である学校が、研究開発校制度等を利用して、試作的に「労働教育」の導入を行うことがあげられる。この研究開発校制度とは、「学校教育に対する多様な要請に対応するため、研究開発を行おうとする学校を『研究開発学校』として指定し、その学校には、学習指導要領等の現行の教育課程の基準によらない教育課程の編成・実施を認め、その実践研究を通して新しい教育課程・指導方法を開発していこうとするもの」である(注9)。この制度を利用することで、特定の学校が集中的に「労働教育」に取り組み、そこで生じた小学校における「労働教育」の困難点やさらなる課題の振り返り、また、その実践の効果を、研究発表会等で広く伝えていくことができるだろう。まずは、特定の学校が「労働教育」に取り組み、その実践を広く伝えていくことで、先ほど述べた「労働教育」の研究会も、より活発に立ちあがっていくことが考えられる。

5.おわりに

 現在、教育と社会の間のギャップがあると言われているが、この教師と連合のメンバーによる研究会は、教育と社会をつないでいく、懸け橋となるだろう。若者が将来働くことに対して、希望と安心感をもちながら、働くことに向けての準備ができるように、今の教育が少しずつ良いものになっていくことを願っている。私自身も、将来教育に携わる者として、今回自分が連合寄付講義で感じた「必要感」を、どのようにすれば子どもに感じてもらえるか、じっくり考えていきたいと思う。

以上

○引用文献・参考文献

(注1) 一橋大学連合寄付講義 2012年6月29日 講義配布資料7ページより
(注2) ベネッセ教育開発センター 第2回子ども生活実態基本調査 速報版(2009)
(注3) 株式会社ジョブ・ウェブ 2013年新卒 就職活動の意識/動向調査(2012)
(注4) 中学校学習指導要領(平成10年12月告示,15年12月一部改正) 文部科学省
(注5) 高等学校学習指導要領(平成11年3月告示,14年5月,15年4月,15年12月 一部改正) 文部科学省
(注6) 「キャリア教育・職業教育」に関する連合の意見より 文部科学省
(注7) 「キャリア教育・職業教育」に関する連合の意見より 1.連合の「キャリア教育・職業教育に対する考え方」 文部科学省
(注8) 「キャリア教育・職業教育」に関する連合の意見より 2010年度~2011年度 政策・制度 要求と提言<抄> 文部科学省
(注9) 研究開発学校制度について 文部科学省

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