『私の提言』連合論文募集

第7回入賞論文集
佳作賞

私が考える労働組合活動を通した組織力の拡大と連帯の強化

翠川 達男
(UIゼンセン同盟 関東労組 花正労働組合 中央執行委員)

 今から2年前に私達の労働組合が乗り越えた会社存続の危機の経験は、今回のテーマである「すべての働く者の連帯で、希望と安心の社会を築く」に沿ったものなので今回出筆させて頂きました。

 私達「肉のハナマサ」は中小飲食店をターゲットとした食品スーパーマーケットです。花正は今から2年程前に過剰なまでの出店計画から経営状況が悪化してしまいました。このことから運営資金は凍結し、店舗では納品が止まり、店内からほとんどの商品がなくなってしまいました。売場はそんな状況ですから店内に出る度にお客様からは苦情や不満などを言われる様な悲惨な状況が続きました。
あの時の棚板が剥き出しの売場とお客様の罵声が飛び交う、あの重苦しい雰囲気の中で「明日は会社が無いかもしれない」と言う不安な状態で働いたことは生涯忘れないと思います。

 そんな中、最初に会社から従業員に給与5%カットの要求書が出されたのです。この時に上部団体であるUIゼンセン同盟からご支援を頂き「花正合理化委員会」が立ち上がり、この不利益変更要求は跳ね退けることができました。しかし会社の経営悪化は更に加速し、倒産こそ免れましたが、ついには現在の資本先である全日食に事業譲渡することとなりました。
事業譲渡が決まり私たち従業員に待ち受けていたのは数十店舗にも及ぶ店舗閉鎖とその店舗のパート従業員の解雇と正社員の希望退職でした。この時、花正労働組合の事務所内は組合員の不安と不満が蔓延し正に嵐の様だったそうです。

 当時ハナマサ労働組合は、委員長と事務員の方の専従2名体制で運営しており、委員長は旧ハナマサと全日食との組合員の雇用条件などの企業間交渉を進め、また事務所では鳴り続ける組合員の雇用継続に対する質疑応答に追われていたようです。これらの全ての処理を専従執行委員2名で熟さなければならず、多忙な日々だったそうです。そんな沈没寸前である花正労働組合に手を差し延べてくれ支えてくれたのは花正の人間では無く他の単組や上部団体の方々だったそうです。
その支援は花正合理化委員会から始まり、その後も退職した組合員の再就職斡旋の際、他の単組から「本来なら中途採用は35歳までだけれども店長経験がある人なら人事に掛け合って50歳までは面接取り付けてみるよ」と声をかけて頂いたり、連合東部地協ではハナマサを何とかしようと「花やしき実行委員会」を立ち上げて頂き、当社から全ての食材を仕入れるイベントを開催したりなどの数々支援でした。
現在中央執行委員になった私に委員長から、あの苦しかった時の数々の支援を振り返り、「あんなに励まされ感謝したことはなかったし、あの数々の支援があったからあの苦境を乗り越えられた」と話していたことがありました。

 あの時の様な経験は2度としたくありませんが、会社倒産危機の体験を通して大切なことも経験しましたし、また学ぶことも多くありました。
当時の委員長の話や私の経験を踏まえ、私の考える「労働組合活動を通した組織力の拡大と連帯の強化」を以下の「組織内活動」・「組織外活動」の内外の活動に分け纏めてみました。

組織内活動として

①組織力の強化
組合員約1000名規模の組織でありながら労働組合としての活動は専従執行委員である委員長と事務員の方に任せきりとなっていると感じます。このことが我が花正労働組合の現状であり最大の弱みであると考えます。
今回経験しました会社存続の危機を通じ、このような大きな困難はいくら委員長でも一人では乗り越えることは非常に難しく、ピンチな時にこそ組合員が連帯団結し組織として立ち向かう事が不可欠であると痛感しました。
この団結力を強化するには、組合員一人一人が自分達の労働組合の活動に興味と関心を示し、活動に対し正しい理解を持ってもらうことは必要と思えます。
2年前に組合員の意識調査をおこなったところ「労働組合があってよかった」と回答を得たのは約80%近くありましたが、労働組合の活動内容を理解していますかの問いに対しては「わからない又は不透明である」などの回答が約70%近くもありました。
このことからも不透明で理解を得にくい組合活動の情報ツールの共有化は不可欠と考えます。具体案として以下の試案を挙げてみました。

ア)組合ニュースの発行
ニュースは以前から発行していますが、春闘や一時金妥結報告、また会社との新たな労働条件などの交渉結果をニュースをタイムリーに発行することでした。
ニュースの告知方法は緊急を要する報告が多い為、今まではFAXを使用していましたがFAXですと店舗の業務書類と混ざってしまい見落とすこともありましたので、今後は店舗連絡を使った電話での連絡やインターネットの組合掲示板での告知など見直しも必要かと考えます。

イ)機関誌の発行
私が中央執行委員に就任してから編集人として隔月で発行しています。発行の目的としては組合員に中々理解されず不透明な労組活動を、機関誌を通じ組合員に紹介報告することです。またその他にも機関誌内に一般情報誌的な季節イベント(花見情報や温泉情報など)や店舗を取材して各店舗を紹介するコーナーなど組合員が興味のありそうな記事も掲載しています。またお便りコーナーなども設け機関誌を通じ執行部と組合員が情報交換出来る様にしています。     
機関誌を発行し2年になり7月には11号を発行することが出来ましたが機関誌作成の苦労も多くあります。その苦労は文章構成や記事や取材に始まり製本まで全てが手作りであることです。そしてプロの編集人ではなく店舗業務の合間を縫って限られた時間で作成するので、企画編集力も乏しく面白い記事を作成できず、取材組合員からの反響が少ないことです。
簡単な懸賞クイズ形式のお便りコーナーを機関誌内に設けていますが、返信が0通の時もあり思った以上に機関誌は難しいものと痛感しています。
今後は組合員に興味を示して貰う為にも記事の内容を変更見直ししながら、組合員からの意見や感想などの反響をいかに得るかが課題と考えます。

ウ)店舗オルグの強化
オルグは直接個々の組合員コミュニケーションが図れ、情報収集が出来る有効な手段となります。しかしハナマサは1都5県に渡り50店舗程展開していますので専従者2名で全店オルグを実施するのは難しいのが現状と思えます。
そこで今までオルグを行わなかった非専従中執が近隣店舗を計画的に周ることで専従者の負担を減らし全店1年に2回はオルグできる環境をつくれればと考えます。

エ)非専従中執のレベルアップ
店舗での業務が中心となる非専従中執は私を含め中執のレベルに達していなく、労基法やトラブル発生時のノウハウ、また会社との団体交渉などの知識の、委員長との開きがあまりにも大きいと感じています。中執として不足している知識や経験を委員長による講義や上部団体主催のセミナーに積極参加し、知識やノウハウの取得に努めるべきであると考えます。

オ)各店舗の労組の支部化
組合執行部と店舗組合員の距離はこちらが考えるより遠く、オルグなどで店舗巡回すると、労働組合からの新聞や資料など開封されず机の上に放置されていることも稀でなく、このことからも組合員は労働組合への関心の低さが伺え、組織力の拡大となると難しいのが現状と思えます。
そこで組合執行部と店舗との距離を近づけ、もっと近くに感じる労働組合の窓口として、また各店舗の世話役として支部長の配置を試案します。支部長の役割としては以下の要件が挙げられます。

①店舗での配布資料の開封や掲示
②各店舗での現状や意見などの吸い上げ
③各店舗での労務環境の整備
④店長との労務トラブルの仲裁と執行部への報告
⑤店舗での慶弔見舞金の告知および案内
⑥支部長会議および定期大会の出席

 各店舗でのこれらの組合活動を通じ情報を共有することによりハマサ労働組合として組織全体の連帯強化を図れればと考えます。

カ)労働組合主催のイベントやレクリエーションの開催
固く思われる労組活動でありますが、通常の活動から少し離れた遊び要素の強いレクリエーションなどであれば労働組合の活動参加のきっかけになりやすく、さらにはコミュニケーションを深める事も難しくないと考えられます。
実際私が以前に所属していた労働組合がそうでしたが、若い組合員にはスポーツやアウトドアなどの体を動かすイベント、パート組合員にはバスハイクや旅行などのイベントなど仕事を離れた組合員の交流の場を設けることで、職場を越えた交流が生まれ、組織としての活動も活発になった経験がありました。
またイベント時にはグループを組んでの対抗戦やミニゲームなども盛り込むことにより連帯感も増し、さらに勝利した時の達成感や充実感はグループ全体で共有出来るものとなりました。こういうイベントを通じて普段接点の少ない執行部と組合員のコミュニケーションや連帯力の強化が出来ればと考えます。

キ)定期的な会議開催
現状のハナマサ労働組合では時間外に組合員が集まり会合を開くのは難しく、普段中々各店舗と情報の共有や意見交換をするのが難しいのですが、店長会議や部門会議の場であれば各店から人が集まるので、会議の後に時間を設け組合員に直接会議出席を促し現場の意見や情報交換をおこない共有できる場を作りたいと考えます。

②経営状態の確認および意見
労働組合は唯一経営陣と対等であり、意見出来る組織体であるので、経営状態を確認し、以前の様に会社が間違った政策に出た時に、経営陣と話し合いの場を設け現場の意見を交換出来る場を設けられればと思います。なお会社が新生してから経営陣との労使協議会は月一で開催しており情報意見交換はしていますが労使協議での会社へ、現場での問題や提案をする為にも組織内活動①のウ・オ・キは不可欠と考えます。
私も何度か労使協議会の場に出席させて頂いた事がありますが、その会議では経営陣と店舗での開きが感じられました。
以前委員長から成長する企業としてUNIQLOの話を聞いた事がありました。その話は「成長する企業は経営陣と現場の風通しがよく会社全体で一丸となり、どうすればヒット商品が生まれるのか日々思案を繰り返しているそうです。その中からUNIQLOはあのヒット商品であるヒートテックが生まれ、さらには女性社員の発案でブラトップが生まれたそうです」
この委員長の成長する企業の話からも企業の成長には会社全体の成長意識が最重要なことと考えられ、会社の末端の考えや意見を経営陣に言えるのはこの労使協議会ではないかと思えました。
もしこの提案から会社のヒット商品や画期的な販売促進手法が生まれれば、それは労使一体となった企業成長に繋がり、更にそれは従業員雇用の確保や拡大に繋がるものになると考えます。

組織外活動として

①単組の枠を越えた非専従中央執行委員の他労組との情報交換および交流の強化
今回の会社存続危機は花正単組で乗り切るのは不可能であり、上部団体や他労組の支援を得て、ようやく乗り越えることができ、今日の花正が存在していると強く思います。これも委員長の日頃の上部団体や他労組との交流があればこそだと感じました。ハナマサ労組=委員長の一本柱だけではなく、私達非専従中執での花正労組の柱が増えるのが今後の課題だと思います。
その為にも情報交換や交流の場として同じ流通業界が集まる業種間連合会議やSM分科会などの会議体には出席し交流を深めていければと考えます。

②上部団体主催のイベントの積極参加
一般組合員は、中々単組を越えた交流は難しいですが、上部団体主催のイベントは各単組との交流を深める機会であるので積極的に参加し、交流や情報交換を行う。
特に去年参加させて頂いた上部団体主催のボウリング大会は他労組の若い組合員と同じレーンで投げさせて頂き一緒に汗を流しましたがとても楽しく、花正の若手組合員にも好評でした。
また花正単組としてイベントを主催するのもまだ難しいので、上部団体主催のイベントに引き続き若手組合員に参加を呼びかけて他労組との更なる交流を深めていければと思います。

③他労組の職場見学及び組合見学
これは少し試案から外れ難しいかもしれませんが、交流を深めた労組が出来ましたら、一度職場や組合事務所などを見学させて頂ければと思います。
違う職場を見学できれば、その働き方は刺激になると思いますし、時短やモチベーション向上など良い働き方の手掛かりになるとも思います。
また他労組の事務所見学は他の組合執行部の活動内容や組合組織の在り方など参考となり、また普段の組合活動では接点の少ない他労組の委員長のお話など頂ければ、今までの狭い視野での活動から全く異なった色々な刺激を受け、私達の今後の組合活動の大きな発展になると思います。

おわりに

 我々組合員に何の前触れもなく嵐の様に襲って来た会社存続の危機でしたが、上部団体や他労組の方々の多大なるご支援を頂き今回の危機を乗り越えることが出来たことを、この場をお借りし厚く御礼申し上げます。
また今回のご支援にUIゼンセン同盟の組織力と連帯感の強さを改めて感じました。
そしてなによりも花正労働組合委員長として、あの幾つもの困難を乗り越え組合員1000名にも及ぶ雇用と生活を守り、私達の安心し働ける職場確保に努めて頂いた武井委員長に深く感謝すると共に武井委員長を蔭から支えて頂いた専従事務員の横森中央執行委員にも深く感謝いたします。

 今回の会社存続の危機を通じ私が感じたのは、最初に取り組むのは私自身の中央執行委員としての成長ではないかと思いました。
今年の10月は花正労働組合役員の選挙年となり、私は二期目となる来期も中央執行委員として立候補するつもりです。私の中央執行委員としての一期目は店舗での業務に追われてしまい、中央執行委員としての役割も明確に掴めず2年の月日が流れてしまいました。
しかし二期目に向けては、この論文を纏めることにより自分自身と花正労働組合を見つめ直すことができ今後の活動目標を「組織力と連帯の強化」という明確なものをつくることが出来ました。
この活動目標を進めていくにあたり、同じ花正労働組合執行委員のみんなと連帯感をもち意見交換や議論を繰り返しながら進めていき、組合員にとって身近な存在に思える組合活動に邁進していければと思います。
そして中央執行委員として知識と経験を一つ一つ積み重ね、また花正労働組合に困難な場面が訪れた時には委員長一人ではなく花正労働組合全体で委員長と共に活動出来る組織づくりに努めていければと思います。

 また今回の上部団体や各単組に支援して頂いた感謝の気持ちを忘れずに、他労組が困難な場に出会った時は、今度は私達花正労働組合が他労組の救済の手助け出来る組織として成長していける様に委員長の指導のもと今後の組合活動に努めていきたいと思います。

以上


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