『私の提言』連合論文募集


「私の提言 第6回連合論文募集」 講評

「私の提言 第6回連合論文募集」運営委員会
委員長 草野 忠義

 この「私の提言 連合論文募集」は故山田精吾・初代連合事務局長の遺志を受けた「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を、2004年から連合が継承し(事務局は〈社〉教育文化協会が担当)、今回で6回目を迎えたものである。「山田顕彰会」から通算すると、12回目にあたる。加えて今回は、連合結成20周年の節目でもあり、主催者側としても大いに期待していた。そのためもあってか、昨年の18編に対し今回は24人の方々から応募していただいた。応募者の皆さんに心からお礼を申し上げる次第である。また、連合と〈社〉教育文化協会が展開している「連合寄付講座」の開催大学の学生から3人の応募があったことは喜ばしい限りである。
  今回の応募論文については、応募一覧表を見ていただければお分かりのように極めて多岐にわたった提言をいただいた。すなわち、労働運動のあり方から労働運動のリーダー論、ワーク・ライフ・バランス、労働時間や雇用対策、派遣労働者問題、自殺対策、地域社会問題、共済と現在の労働運動が直面する課題ばかりではなく、協同組合活動、平和運動などに取り組んだ賀川豊彦氏が活動を開始して今年で100年を迎えることから、賀川豊彦氏の活動をふまえた労働運動への提言もあった。提言内容は、幅広く取り上げられており、しかもその殆んどが力作揃いであった。応募者の皆さんの旺盛な問題意識とその努力に心から敬意を表したい。
  それだけに、最終審査となった運営委員会では審査が大いに難航し、議論が白熱したことを報告しておきたい。特に今回は、労働運動の現職リーダーや元リーダーの方、あるいは以前の応募で入賞された方からの応募も多かったわけだが、審査の時点で、それらの方々の作品には、どうしても点が辛くなってしまいがちであり、その点についてはお詫びを申し上げたい。
 審査の結果は、本年度は優秀賞二編、佳作三編そして奨励賞一編を表彰することとなった。
  「優秀賞」の淺山論文「子育てと仕事の両立を労働組合がサポート―労働組合として出来る活動の提案―」は、自らの体験を通してワーク・ライフ・バランスとは何か、その実現のために労働組合は何が出来るのか、何をしなければならないのかについて真摯な態度で、かつ具体的な提言をしているところが高く評価されたものである。
  もう一つの「優秀賞」の竹村論文「連合は生活と仕事を切り結ぶファシリテータとしての役割を果たせ!~ワークライフバランス策試論」は、本人も育児中の一労働者という立場から「企業・行政の打ち出す対策には違和感を覚える。……一言で言って『わかっちゃいない』。」と指摘しつつ、問題の核心に迫っている。そして具体的に「企業あいのり型テレワークスポット」の設置を提案している。
  二編ともワーク・ライフ・バランスというテーマとなり、審査に当たった委員からは同じテーマで優秀賞と言うのは如何かという意見も出されたが、最終的には全員の賛成で優秀賞とすることとなった 「佳作賞」には次の三編が選ばれた。橋本論文「頼れる労働組合-学生への取り組みの重要性-」は、「連合寄付講座」の受講生からの応募であり、学生の目で「労働組合と若年層の溝」についての考察を踏まえ、労働組合の教育の大切さを若々しい切り口で訴えているものである。次の山岸論文「『男性中心』『正社員クラブ』からの脱却を 医療・福祉分野から始める労働組合改革」も「連合寄付講座」の受講生からの応募である。母親が介護職として働いているという経験から医療・福祉について関心を持ち、そして「連合寄付講座」を受講したことから、今回の論文につながったのではないかと推測している。その主張は明確であり、若者らしい気力に富んだものだとの印象を持った。いずれにしても、「連合寄付講座」の成果がこのような形で出てきていることは嬉しい限りである。三編目の堀内論文「新しい時代の組合指導者に求められるもの」は若干、精神論に傾きすぎのきらいはあるものの、労働組合の指導者として考えさせられるものがあった。中村圭介先生の評にもあるように「耳の痛い」こともあるかもしれないが、反省無き所に進歩無し、これも中村先生が言うように「素直に読んでみたらどうだろうか」と同じ意見を持ったところである。
  最後に、福山論文「意識改革を進めるために-能力主義の賃金制度と教育の必要性-」を「奨励賞」に推薦する声が大勢を占めた。実体験に基づいた提言であり、本人の苦労が偲ばれる作品で、もう少し具体的提言があれば、その上の賞に値するもので、激励の意味を込めて奨励賞としたものである。
  全体の評価や入賞作についてのコメントは、別掲の中村先生、大沢先生、大谷先生の寸評をご覧いただきたい。
  いずれにしても、努力して論文を完成し応募していただいた方々に、改めて感謝申し上げるとともに、ご多忙の中、審査にご尽力いただいた運営委員会の各委員の皆さんにお礼を申し上げる次第である。


寸評

東京大学社会科学研究所教授 中村 圭介

 こういう論文を待っていた。嘘じゃない。「理論」から導かれる提言でも、耳ざわりだけがよい提言でもなく、実体験に基づいた本音の提言を待っていた。なんとか、子育てと仕事を両立させようと苦労している、その当人の言葉は重く、私たちは真しに耳を傾けなければならないと思う。
  竹村論文によれば、ワーク・ライフ・バランスをめぐる多くの発言は実は真の姿を「わかっちゃいない」のである。淺山論文が指摘するように、どんなにすばらしい法律や施策ができたとしても、両立の現場である家庭、職場、地域が変わらなければ絵に描いた餅なのだ。竹村論文は両立支援のために企業あいのり型のテレワークスポットの設立を提言し、淺山論文は相談窓口の設置、情報交換の場の提供、冊子の作成などを提案する。いずれも労働組合が仲介者、促進者として重要な役割を担うことが期待されている。
  女性ががんばれば若い学生だって黙ってはいない。橋本論文は「労働組合よ、もっと学生に目を向けよ」と訴える。山岸論文は医療・福祉分野での組織化の必要性を強く求める。どちらの論文も質が高いと思う。組合に高い関心を持ち、自分なりの考えを持った若者が出てきたのだ。喜ばしいことではないか。
 同じく佳作となった堀内論文も運動の外からの提言である。ユニオン・リーダーにはやや耳の痛いことも言っている。反論があるかもしれないが、せっかくの提言である。ここはまずは素直に読んでみたらどうだろうか。
  福山論文は一番、私の心を打った作品である。そのまじめで、けなげな様子が何よりも好きだ。大変だとは思うが、仲間のためにがんばってほしい。真剣にそう思う。


寸評

日本女子大学人間社会学部教授 大沢真知子

 今回の応募作品は前回に比べて具体的な提言が多く、読み応えがあった。実際に組合活動をしてきたなかで、感じたことや問題が率直に書かれていて、こういう声を大切にしていくことが、組合活動を変え、組合のイメージを変えていくのだとおもった。
優秀賞に選ばれた2編は、まさにこのような視点から、すぐれていると多くの選考委員が考え、多数の支持をえたものである。
佳作に選ばれたものも同様で、優秀賞との差はそれほど大きくなかった。
回を重ねるごとに、学生さんからの応募がふえていることもうれしいことである。寄付講座の効果がここに反映されていると同時に、若者が組合を身近なものに感じられるようにはたらきかけていくことも重要になっている。

 今回提言論文を読ませていただいて、提言の内容が初回から比べて大きく変化しているのを感じた。背後には、日本の経済社会が大きく変化していることがあるようにおもう。短期の利益重視の経営に大きくシフトしていくなかで、労働者の雇用も不安定になりつつある。労働者本人が自身の権利を知り、自分の身を守っていくことが必要な時代になっている。それを教育する役割を組合が果たすべきだという提言が比較的多かった。労使間の信頼関係が次第に失われつつあるのではないかと感じた。
また、長期的なトレンドとして正社員の採用も抑制傾向にある。非正規労働者の割合がふえるなかで、非正社員問題との社会的連帯を訴えるものもふえている。組合が非正規労働に正面から取り組まなければならない時代になった。
今回の投稿論文のひとつに、組合の機関誌のもつ意味について論じたものがあった。そのなかで、この賞が創設されるきっかけとなった故山田精吾氏が、ゼンセン同盟の書記長であった時代に、印刷所に自ら足を運び、帰りがけにその労をねぎらって担当者を飲みにつれていってくれたことが懐かしい思い出として書かれていた。
ワークライフバランスの導入で仕事の効率化が叫ばれるなか、飲みにいったり、先輩から昔話を聞くといった、昔ならば当たり前であったことが、生活のなかから急速に姿を消しつつある。
仕事を効率よく切り上げることも重要性だが、風通しのよい職場を作っていくことはもっと重要である。わたしたちは本当にストレスがたまりやすい社会を生きている。そんななかで、労使が働きやすい職場を作っていくために組合が果たす役割も重要なのだとおもう。

 女性が仕事を家庭(育児)をどう両立させていくのか。これは一昔前には、女性が個人的に解決すべき問題とおもわれていた。両方を持とうとするのはわがままだとおもわれていた時代もあった。それがいまは、パートナーである男性社員にとっても、会社にとっても両立できる環境を整え得宇ことが重要な課題(チャレンジ)になっている。共働きが標準の社会に変化してきたからだ。それに正面から取り組んだ提言が今回の優秀論文に選ばれているのもこういった時代の変化が背後にある。

 いまわたしたちは何を失い、何をえているのだろうか。過去に積み重ねてきたよいものを生かし、新しい時代に適応するためには組合はどうしたらいいのだろうか。そんなことを考えるヒントが今回の投稿論文には数多くあったようにおもわれた。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 今回の論文は前回よりも内容も含め、レベルが高い論文が多かったです。そして、優秀賞の二人がそうであったように、ワークライフバランス関係の論文が多かったのも特徴です。
 審査の中で話題になったのは、「提言か業務か」ということでした。県の連合の会長からの応募も2編ありました。そして、確かに良いことが書いてある。でも、「この人たちは、これが業務じゃないか」ということが議論になりました。結果、やはり、「提言」ということにこだわりました。
 優秀賞のお二人は、テーマは、「ワークライフバランス」だったものの、切り口は、まったく違い、実体験に基づいたもので、非常に楽しく読ませていただきました。また、「組合員としての思い」がぶつけられていて、現場とのギャップも気づかされる内容でした。
 奨励賞の福山さんは、会社更生法の適用になった会社で派遣から正社員になって、執行委員をしておられる。文章などは、まだまだ論文という点から見ると、物足りないところもあるけれど、溢れんばかりの思いの伝わった内容で、かなり、これからに期待できると、審査員みんなが思ったはず。
 今年も学生さんからの応募も例年通りあり、佳作のうち2編は、学生が選ばれた。特に橋本さんの論文は、ほとんどの審査員メンバーが佳作に彼の論文を推していました。
 今回、審査員をさせていただいて感じたことは、昨年までは、結構、グチっぽいものや文句も多かったけれど、今年は、前向きな提言が多かった。また、現場と労働組合のギャップを指摘するものなどもあった。そして、現在の労働組合の活動が書かれたものもあって、働く人や労働組合の現場感の分かるものが多かった。
 審査員として、今回は、内容も分かりやすく、楽しく読ませていただけた。これからも、もっと、提言の論文をたくさんの人に身近かに感じていただいて、たくさんの人が、楽しくたくさんの「提言」をして欲しい。そして、大切なのはこれらの「提言」をただ、賞を渡して終わりにするのではなく、活かすことも大切だと、感じています。


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