『私の提言』連合論文募集


「私の提言 第4回連合論文募集」講評

「私の提言 第4回連合論文募集」運営委員会
委員長 草野 忠義

 「私の提言 連合論文募集」は、「山田精吾顕彰会」による論文募集事業を、2004年より「連合運動への提言」として連合が継承し、また昨年の第3回からはより多くの方々に応募していただけるよう名称を「私の提言」と改め実施してきた。第4回目を迎えた本年も、同様のテーマで募集し、計21編の応募をいただいた。うち9編が一般の方々からの応募であり、その中で、連合が2005年より実施している「連合寄付講座」を受講した大学生の方からも3編の応募があったことは大変喜ばしいことであった。

 最終審査を行った運営委員会では、各委員が事前に行った個別の審査結果を持ち寄ったが、 今回も「優秀」「佳作」とも全員一致というものはなく、選考作業は難航した。まず各委員が自身の選考基準や視点、感想を述べ合い、その後、各委員間で侃々諤々の議論を行いながら論文ごとに慎重に検討を重ねた末に、苦しみながら選んだ次第である。結果として、入選作と紙一重で惜しくも選にもれた論文も数編あったことを申し添えておきたい。

 応募論文の内容は、巻末の一覧表の論題に示す通りである。いずれも労働運動にかかわるもので、テーマも「今後の労働運動のあり方や組合活動の活性化方策」「非正規雇用を取り巻く課題」「労働運動への女性の参画」「地域公共サービスのあり方」「企業の社会的責任への対応」「今後の人材育成や技能継承」など多岐にわたるものであった。

 さて、全体を通じた感想であるが、少し厳し目に申せば、格別目新しい視点からの論文は総じて少なかったように思う。また、問題意識としては優れているものの、さらにもう一段階、具体的な「私の提言」としての掘り下げに欠けるものが少なくなかった。こうした点は、ぜひ組織外の運営委員をつとめていただいた中村・大沢・大谷各先生の寸評をお読みいただきたい。

 優秀賞の船田論文「パートタイマーの働きがいを高めるマネジメント」は、まさに現在の連合運動が喫緊のテーマとして直面する非正規雇用を取り巻く課題について、“現場主義”の視点から、同じ職場に働く仲間としての連帯感の向上に取り組む姿勢が運営委員からも共通し、高く評価されたところである。

 優秀賞の吉田論文「『女性の意識改革』×『労働組合の進化』=『豊かな社会』~より良い労働環境を目指して」は、日本女子大学において実施した、「連合寄付講座」の受講をきっかけに労働問題に関心を抱いた筆者の意欲がひしひしと伝わる論文であり、労働運動に携わるすべての組合役員に希望を与える清々しい内容であった。

 佳作賞の鈴木論文「市民活動と地域の労働組合―『新しい公共』をさがして―」は、公務部門への批判や不満が高まっている中で、市民との信頼と連携という切り口から、「新しい公共サービス」の目指すべき方向性を感じさせる示唆に富む論文であった。

 佳作賞の広本論文「世代と時代の間の中で」は、現在の労働組合が抱える様々な課題について、職場の視点から、これまでの自らの組合活動を振り返りつつ分析する筆者の高い問題意識と素直で真摯な姿勢に共感が持てる内容であった。

 佳作賞の山本論文「『指定管理者制度に抗して』―公共教育施設で働く労働者の想い―」は、指定管理者制度導入という職場環境の激変に直面し苦闘してきた筆者の熱い想いが強烈に届く論文であり、地域あるいは中小労組の立場から労働運動の現状に喝を入れる内容であった。

 昨年に引き続き特別に設けた奨励賞の普天間論文「CSR(企業の社会的責任)に関して労働組合のこれからを考える」も、優秀賞を受賞した吉田氏同様、「連合寄付講座」の受講をきっかけに労働組合の活動に興味を持った方からの応募であり、CSRへの対応という労働組合にとって大きな、また時宜を得たテーマを取り扱った好内容の論文であった。

 本論文集の発行にあたっては、優秀、佳作と奨励に入賞した論文を掲載した。ぜひ多くの皆さんにご一読いただきたい。冒頭でも触れたが、今回はじめて「連合寄付講座」を受講された大学生から応募があったことは、本論文募集事業の今後の発展はもちろん、大学教育の現場と労働組合との更なる連携強化を感じさせる出来事であり、大変心強く感じたところである。

 最後になるが、惜しくも入賞されなかった方々の論文も、入賞作と僅差であり、今後のますますのご研鑽を期待したい。そしてこれらの提言は、今後の連合運動、労働組合活動にぜひ活かしていただきたいと考えているし、次年度はさらに多くの方々からの応募を期待したい。


寸評

東京大学 社会科学研究所教授 中村 圭介

 僕はちょっぴり不満であり、不安である。みんな懸命に書いてくれているということはわかる。けれども、僕の心に響くような「私の提言」を読み取ることができなかった。だから、不満なのだ。でも、もしかしたら、僕の方の感受性が弱まってきたのかもしれない。まだ50歳代半ばなのにぼけてしまったのか。そう思うと不安になる。

 良い論文がなかったというわけでは、決してない。むしろ、例年どおり、いや例年以上にいろいろ教わることが多かった。それだけでも、審査委員をしていて良かったと思う。山本論文は、民営化の荒波におそわれる自治体関連施設で働く人々の苦悩を語った、迫力満点の論文である。指定管理者制度の導入に伴い、雇用を守るために、年間所得の20%削減などの労働条件の切り下げを甘受せざるを得なかった。こんな実態があることを是非、他の多くの組合員たち、特に民間企業の組合員たちにわかってほしい。今後、どう展望を切り開いていったらよいのか。一つの大胆な道は積極的な経営参加だと思うが、どうなっていくのだろうか。とても心配している。

 吉田論文はその明るさがよい。女性が、「男化」せずに、家庭と仕事を両立させながら、いきいきと仕事をしたい。そうした社会を実現するために、労働組合に期待する。だが、当の組合も男性中心だ。それを直すためには、女性がどんどん組合役員に進出したらよい。家庭と職場の板挟みに悩むのならばインターネットをもっと活用すればよい。まだまだ意識が低いというのならば、大学などでもっと組合のことを教えたらよい。こう主張する吉田論文の根底にある明るさ、素直さが僕は好きだ。このまま成長していってほしい。

 労働組合自らが、パートタイマーの働きがいを高めるためのセミナーを開催しているというのは、僕は知らなかった。不勉強である。それを教えてくれたのが船田論文である。パートタイマーの人々を巻き込んでいく様子を興味深く読んだ。読み終わって、ふと思ったことがあった。なぜ、これが労働組合主催なんだろうか。なぜ、会社主催ではないのか。決して非難しているわけでも、批判しているわけでもない。これもまた、職場レベルでの経営参加なのだろうと考えれば、納得する。次の課題は、この実践を、店レベル、会社レベルでの経営参加、労使協議にどう結びつけるかだなあと思った。

 今回は大学生が大活躍であった。連合の寄付講座の成果である。しかも、いい加減な論文ではない。ちゃんと調べあげた立派な論文ぞろいである。寄付講座もいいじゃないかと思った。次はフリーペーパーでも出せばなどと気軽に考える。「Rengo-25」だとまずいか。次回以降は、もっと学生の応募が増えると思う。うかうかしていられませんぜ。


寸評

日本女子大学 人間社会学部教授 大沢 真知子

 審査委員をさせていただくのは今年で4回目になる。今回も手書きの論文からカラフルな図表入りの論文まで、年齢層も学生さんから現役を退いた方まで、多種多様な個性あふれた論文を読ませていただいた。それぞれに読み応えがあり、かつ多くを教えていただいた。

 今年は21編の応募があり、通常は、優秀論文を数編、佳作論文を数編、事前に選んで運営委員会で最終的に決定するというのがいままでの流れである。ところが、わたしは、佳作や奨励賞にふさわしいとおもわれる論文は数編ずつ選択したのであるが、優秀論文に推した論文がなかった。
佳作や奨励賞に選んだ論文はどれも力作で、それを推薦することに対してためらいがあったわけではないのだが、そのなかに組合運動に対する提言とよべるものがあったのかというと、明確な提言が述べられているようにおもえなかったのだ。
しかし、考えようによっては、そのこと自体が重要なことを示唆しているのだともいえる。労働者のニーズが多様化するなかで、組合の果たす役割も多様になっているからだ。
そうやって今回の提言を読み直してみると、90年代に入ってから日本の労働市場が大きく変節したことがあらためてわかる。

 21世紀の日本のキーワードは多様性である。その多様性を受け入れ包括し、みながそこで公平に取り扱われ、平等に参加しているとおもえるしくみが作れるのかどうかがいま問われているのだとおもう。
ここにおいて、組合が貢献できるという主張をするのが、優秀賞に選ばれた船田洋一さんの論文「パートタイマーの働きがいを高めるマネジメント」である。この論文では、組合みずからが企画したセミナーを通して、正社員とパート社員がそれぞれのもつ強みと違いを認識することができた経験をもとに、このような多様な価値を認め合う職場作りに組合が貢献することこそ会社の持続的な成長を可能にし、かつ従業員をもしあわせにすると訴えている。

 今回のもうひとつの優秀賞に選ばれた吉田麻子さんは、現役の学生さんである。大学で開講されている寄付講座を受講し、授業をとおして組合の存在の重要性に気づいたことが論文執筆の動機になっている。他力本願ではなく、わたしたちひとりひとりが労働者としての権利を知り、働く者がつながり合うことで現状をよくしていく。その原点に立ち返って組合の重要性をつぎの世代に語り継ぐ(寄付講座の)重要性に気づかされた。

 優秀論文2本以外に佳作に選ばれた論文も力作が多かった。企業の社会的責任という観点から労働組合の役割について考える普天間論文、市民活動が地域に根づくまでを体験的につづった鈴木論文、また、いまの規制緩和の流れのなかで、自治体関連施設に導入されている「指定管理者制度」について述べている山本論文。これらを読むと時代の変化がどのような方向に向かっているのかがよくわかり、興味深かった。


寸評

志縁塾 代表 大谷 由里子

 20歳代から70歳代までの幅広い応募がありました。
本当にみなさん、たくさんのことを調べておられて、読ませていただいているこちらも、「こんなこともあるんだ」「こんなことが起こっているんだ」など、とても勉強になることもたくさんありました。
また、学生の方の応募も多く、新鮮で斬新な目線もあって、「このままいろんなことに興味を持って、すくすく育って欲しいなあ」と、思わず思ってしまいました。

 ただ、残念なのは、「私の提言」論文の募集であるはずなのに、「提言」が少なかったこと。もっと、自由に「こうすればいい」「こんなことができるはず」「こんなことをすべき」などの「提言」を書いて欲しかった。どちらかというと、レポート的なものが多く、「これからどうすればいいか」のメッセージ性に欠けるものが多いように感じました。

 今回、優秀賞の一人に学生である吉田麻子さんが選ばれました。彼女が描く女性の理想。「家庭と仕事をうまく両立して、自分が学んできたことを活かし、さらにスキルアップしながら会社・社会に貢献する」姿。何年も前から、たくさんの女性が、理想としながら、なかなか実現できないのは、なぜか。たくさんの現状を調べて、彼女なりの解析をしていて興味深く読めました。学生に対する、労働組合のアプローチの提案もあって、ぜひ、読者の方にも読んで欲しいです。

 もうひとりの優秀賞の船田洋一さんのテーマも「働きがい」です。労働組合も賃金だけでなく、「働きがい」を提案する今の時代らしい論文だと感じました。「モチベーションマネジメント」は、これからの労働組合のテーマのひとつだと、わたしは感じているだけに、たくさんの会社の事例も書かれていて、楽しく学べる論文のひとつでした。

 今回、奨励賞にも学生が選ばれました。学生の立場から、「CSR(企業の社会的責任)に関して労働組合を考える」という、テーマにチャレンジ。たくさんのことを調べて、聞き取りをして書かれてました。そのチャレンジ精神に期待しての奨励賞でした。


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