第1回 ILEC幸せさがし美術展

選評

<絵画の部>

勅使河原 純
(美術評論家/
世田谷美術館学芸部長)

 応募総数243点で入選が37点であったから、この種の公募展としてはなかなか厳しい選考になったと思う。「かなり描けている」、「表現がソフィスティケートされている」という印象のものでも、作者の気持ちがクリアに伝わってこない作品については、入選入賞の高いハードルを飛び越せない残念な結果となった。全体的に技術レベルは高く、特に日本画のなかに審査員をうならせる高度なテクニックのものが集中していたように思う。表現の傾向は多様で、プリミティヴなものから抽象的、観念的なものにまで広がり、現代人の気持ちの複雑さをよく反映していた。作者の年代も10代から80代辺りにまでおよび、年少者と高齢者の表現が不思議と似かよっている。人の描く絵は、ひとつの大きな円環を形づくっているのかもしれないと、ひとしきり話題となったことであった。
大賞を獲得した白井不二子さんの作品「夜の風景」は、茶褐色に統一された色彩が抜群に美しく、シャープな黒線が心地よいリズムを刻む心象風景である。地井武男さんが、レンガを表す矩形のひとつひとつに込められた作者の思いを熱っぽく語り、都市の洒落たアンニュイに大きな共感を表明した。一方優秀賞の藤原彩佳さんの「アトリエのおばあちゃん」は、終始池田香代子さんが推した作品である。絵をとおして、作者とおばあちゃんのあいだに芽生えた心の交流が、過不足のない筆でみごとに定着されている。これまた一頭地を抜く、心優しくも溌刺たる世界であった。
 
地井 武男
(俳 優)

 私が小学生の頃、というとだいぶ昔のことだが近くに住む先生のところに、なかば強制的に絵を習いに通わされていた。その頃はまだ戦後の荒廃した時代で、しかも千葉の田舎町で、さして裕福だったわけではない家庭の子が先生に絵の手ほどきを受けるなんてことはあまりなかった時代であったと思う。陽当たりの良い先生の小さな部屋で、夢中になって絵を画いていたことが今でも思い出される。その後も特に専門的に絵の勉強をした訳ではないのだが、俳優を志し、碌に仕事もない20代の頃、三畳一間の暗い部屋でも必ず部屋の片隅に絵の道具だけは広げて置き、時々思い出したように絵を画いてきた。私にとって絵を画くということは、心の語りかけであり、安らぎであり、仕事で疲れた自分をニュートラルにする絶好のチャンスでもあった。今回、情熱あふれるみなさんの絵を拝見し、絵の中のあたたかな、平和な心に触れた時、私にとっても、このうえとはいえない喜びでした。 益々素晴らしい絵を画きつづけてくださるようお祈りいたします。
 

池田 香代子
(翻訳家)

 圧倒されました。まず、作品の多様さに。そして一点一点にありありと感じられる人生に。もちろん、高い技術にも目を瞠りました。けれども繰り返し全作品を拝見するうちに、技術も表現手段の一つであり、表現の前提ではないのだということを、あらためて発見しました。 すると、ある作品群が存在感をもって一歩前へ歩み出てきました。それらは、どうしてもそのように表現したかった作家の制作中の心躍りを後追いしないではいられない作品でした。
ILEC大賞に輝いた白井不二子さんの「夜の風景」は、躍動感のある筆致で街角を表現された深みのある作品です。優秀賞の藤原彩佳さんの「アトリエのおばあちゃん」は、絵を描くしあわせを背後の筆立ての動きのある表現に託していらっしゃいました。
努力賞と奨励賞に振り分けるのは、正直言ってお手上げでした。どの作品にも個性がきらきらしていたからです。私は考え抜いたすえに、かけがえのなさという尺度で選ばせていただきました。それが、作家のみなさまに敬意を表す一番上等な尺度だと思ったからです。


<写真の部>

木村 恵一
(写真家)

 「幸せさがし美術展」第2回は、第1回と同様多くの応募がありました。そして幸せさがしのテーマに挑戦した楽しく元気いっぱいの作品をたくさん見ることができ大変心強く思いました。相変わらず不況下ニッポンの昨今ですが、入選した作品をみていますと不況風など吹き飛んでしまうような素晴らしい作品に心が豊かになります。当たり前のことですが写真は撮らなければ写りません。そして心を豊かにし写真を撮ることに喜びを感じなければ素敵な写真は写りません。入賞された方々の写真は自分自身の感情を表現することに生き甲斐を感じて撮っているからこそ優れた作品をつくりあげることができたのです。 大賞の「夏のひととき」は心なごむ光景で、いつまで見ていてもあきない楽しさでいっぱいです。素晴らしい出会いの瞬間を絶好のフレーミングとシャッターチャンスで捉えた優れた作品です。優秀賞の「喜び」もシャッターチャンスが決め手となりました。今の時代、泥にまみれた元気いっぱいの少年の顔を見ているだけで嬉しくなってしまいます。 次回もまた楽しみにしています。


<書道の部>

川合 広太郎
(NHK学園教諭・書道科)

 他部門に追いつけ追い越せと今年度から新たに加わった「書道の部」。何よりもうれしいことは「第1回目の審査」にたずさわれたこと。時が経つに連れて形骸化し、本来の審査から離れていく現実があちらこちらで見られる中、そんな公募展にはなってもらいたくないし、してはならない、という強い思いで審査に臨んだ。
「書」は、何度でも書けるがその一回の仕事に後から手を加えることができない。「瞬間の芸術」。言ってみれば「音楽や演劇」にも似た性格を持っているのかもしれない。それだけにたった一枚の作品が語るものは大きい。出品者にとって、おそらくは時間的にも体力的にも、やむを得ず選んだ一枚だろう。「書いても書いても納得いかなかった」「貴重な時間を使って集中して仕上げたんだ」という作品の裏側のドラマが、みなさんの作品から見えてきた。特に、今回受賞した作品からは「上手さ、巧みさ」に加えて、「ちょっとした日常の幸せ」を探そうとこの美術展にかけた強い思いが伝わってきた。大賞に輝いた作品をご覧になれば、誰もが異論のないところだろう。
「忠実に古典に立脚した作品」「古典にない表現方法を自分なりに駆使した作品」と選考には苦労するが、「書」だっていろんな表現があっていい。 
純粋に、「よい作品」が選ばれる公募展でありつづけることを願っている。また次回、われわれ審査員の頭を悩ませてほしい。



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