埼玉大学「連合寄付講座」

2022年度第4ターム 埼玉大学 連合寄付講座「働くということと労働組合」

第1回(12/7)

【開講の辞】連合寄付講座において埼玉大学生に学んで欲しいこと
労働者を取り巻く現状と課題を知る-労働組合が果たすべき役割とは

教育文化協会理事長 相原康伸

 みなさんこんにちは。相原と申します。よろしくお願いいたします。みなさんの前で私の持ち得る知見をご披露できる機会を頂いたことを大変光栄に存じます。今日お話しすることは、少しふわっとした話に聞こえるかもしれません。就活に関係する話ももちろん出てくるのですが、世の中の見方や、グローバルが今どういう感じになっているのかとか、経験上みなさんにお伝えしておいたほうがよいだろうという、いくつかの観点についてご紹介したいと思っております。

 ひとつ考えてほしいのは、公益、公共の利益、これってどんな形をしていてどこにあるのか、どういう日常を過ごすと公共の利益に遭遇するのか。ちょっと頭に置いておいていただきたいと思っています。もうひとつは、行動変容です。公益にしても行動変容にしても、埼玉大学のみなさんと今後授業を重ねるうえで、さらには様々な社会や経済、グローバルなことを考えるうえで、絶対横に置けないふたつのキーワードだと私は考えています。
 公益も行動変容も見たこともないしその輪郭も定かではないのですが、私たちはすでに公共の利益を実現しようとして行動してきました。それはこのマスクです。この3年間、ひとりの健康を保つことは他者の健康を保つことにもつながる、自らの健康を保つことは周りにいるみなさんの健康にもつながるのだということを、私たちは受動的だけどこのマスクを通じて実践してきたともいえます。受け身ではあるけれど他者のことを考えて自らの行動をこの3年で見事に変容してきているとも言えると思います。ただし、今日以降の授業の中で私がみなさんとぜひ共有させてほしいのはpassive、受け身で行動を変容させるというよりは、自ら意志を持って、客体ではなしに主体として、お客さんじゃなしに主人公として、自らが日々の行動をどのようにどんな形に変化させ行動を変容させていくことが可能かどうか、このあたりについて少しお話ができればいいかなと思っています。

 連合を少しご紹介しておきます。連合のメンバーは700万人です。働く人達で構成されています。男性も女性もいる。ジェネレーションも様々です。みなさんの中では日々なかなか出てこない言葉がいくつか並んでいます。結集などはあまり使わないでしょう。もしくは改善、向上などもちょっと堅苦しい言葉に聞こえますね。さらには国際的な感覚などは、みなさんの身体にしみこんでいるグローバル感覚というのもあるかもしれません。
 ワールドエコノミックフォーラムという、ジェンダーギャップ指数を2006年から発表しているよりよい経済社会を作ろうという団体があります。その団体が若き起業家に、子ども達に持ってほしいポテンシャルは何かをたずねました。ひとつは創造性を発揮してほしいという点を、若い起業家のみなさんは子どもたちに求めています。それは、今までになかった新たな方法で問題解決をする、豊かな創造性を養ってほしいという観点です。そしてデジタルスキルももちろんあったほうがいい。もうひとつは他者と協力して複雑なタスクを乗り越えて実行していく、このコラボレーションの力が要る。さらには環境スチュワードシップ。言葉は少し硬いですが、自然の生態系というのは極めて脆弱なものだということを十分理解したうえで行動する子どもたちに成長してほしいと、強く訴えています。そして最後、実はこれが今日私が申し上げるひとつの通底する中身になるかもしれません。グローバルシチズンシップです。異文化の人々に対する普遍的な敬愛を持って他のみなさんと接することができるかという点について、多くの企業経営者が若いみなさんに求めています。連合も今申し上げた点は今後の社会を考えるうえでポジティブな点として受け止めています。

 労働組合の代表的な機能について、イメージ写真を持ってきました。私はこの左側の席の中央に座っていると思ってください。右側に座っているのは企業経営者、トヨタの社長であったり、もしくは様々な企業のリーダーと想像いただければよいと思います。こんなかっこいいところで毎回労使の対話や交渉、協議を行ってはいませんが、働く人と企業のトップ、企業経営者は真正面から向き合うことが大変大事であり、このように印象的な写真を持ってきたわけです。
 労働組合は、職場で起こっている様々なテーマについて、そのボイスを集約し企業経営者に伝えます。こういう困難な事例がある、もっとこうしたら高い生産性を有することができるかもしれない、長時間労働でみんな疲れている、私たちが求める賃金はこうあるべきだ、労使の制度もしくは福祉制度はこうあるべきだ、などなど様々なボイスを集約し、ひとつひとつの要望をまとめ、政策に持ち上げて具体的な形として企業経営者に求めています。この椅子の配置から思い浮かべていただければと思います。日本の法律では、経営者のみなさんは、私たち労働組合から話し合いを求められればその協議に応じなければならない、という約束事があります。100%労働組合の言うことを聞きなさいというわけではありません。椅子に座らなければならない、協議を開始しなければならないという点が法律で定められています。
 企業労使の間だけで解決できるテーマばかりではありません。例えば私の出身の自動車産業でいうと、自動車には大変たくさんの税金が課せられています。その税金についてもっと安くすることはできないのか等、労使の間だけでは解決できない国の制度、もしくは地方自治体の制度に求めることについても私たちが政策として提言しています。

 もうひとつ、労働組合の横顔としてご紹介できるのは相談機能です。私たちが年間で受ける働くことに関わる相談件数は約2万件です。コロナ禍において3~4割数字が大きくなりました。相談件数が多かった背景は、ひとつに女性からの労働に関する相談が大変増えました。非正規雇用のみなさんにおける労働相談件数が大変増加しました。およびフリーランスのみなさんの労働相談の件数が大変増えることとなりました。コロナ禍の影響が、弱い立場にある働く人たちを直撃した状況をご紹介します。
 みなさんもバイト先で経験されたことがあるかもしれません。例えばお客様から辛辣な言葉を受ける、もしくは不条理な言葉を投げかけられる、アルバイト先で自分が嫌な思いをしているなどについてもありますよね。カスタマー・ハラスメントなどと最近呼ばれますが、私たちとしては、コーヒーをサーブしてくれる、もしくは役所のみなさんが書類を出してくれる、カウンターの向こうにいるみなさんも同じ働く仲間という目線で、私たち自身がカスタマーとして対面する働く仲間にどういう目線を持って付き合うことができるのかなどについても新しいテーマとして申し上げておきます。
 年が明ければ12年前となるのですが、東日本大震災。全国から働く人たちを集めた延べ3万人のボランティアは、自衛隊に次ぐ大きな規模となりました。無償で4月から9月まで半年間、働く人たちの力を結集して宮城、岩手、そして福島、この3県における働く人たち、町の人々に対するサポートを心掛けたところです。ただ、私たちがサポートに出かけて行った先で、例えば軒先でおばあちゃんから「村・町からもらったおにぎり、おにいちゃん、おねえちゃんたち食べてもらえる?」なんて言って出されても、とてもじゃないけどいただけません。サポートする気持ちで行ったその先で、本当はたくさん泥を掻いて一日も早い復興にあたるべく行ったボランティア自身が、人々の温かさに触れて人間的な成長機会をいただくこととなりました。

 連合についてはいくつかの機能を切り出して分担しています。ひとつは教育です。今日まさにこの現場が教育文化協会としての機能を発揮する場です。および国際労働財団、国際的責任というところです。このふたつは私が担当させていただいております。そして連合総研、シンクタンクです。教育文化協会では、埼玉大学も含め、全国であらゆる世代に学びの機会をご提供させていただいています。次にでてくる大学もいくつか散見されましたので、もしこの先埼玉大学で私がお話する機会があれば新しい情報をお持ちしたいと思っています。
 学びの機会は埼玉大学だけではありません。インドおよびネパールで、親が貧困で公立学校に入れない子どもたちに十分な教育を行い、そして橋を架けて公立学校に移動してもらうということを行っています。腕に技能を付けてほしい、技能向上を手助けしたいということです。アジアを中心に今まさに開発途上にある国々のみなさんは社会的保護を受けることができていません。教育の機会になかなか恵まれません。そして健康安全をつかさどる社会保障制度の外におられる方が少なくありません。そのことをもって企業の中もしくは働くことを通じて、自己実現や自らの技術向上という局面に接することができない多くのみなさんがおられるので、なんとか就労に結びつけるように縫製作業であるとか、様々な機械の設備の修繕であるとか、技能向上の機会をご提供しています。
 さらには、ろうきん、もしくは全労済なんて言葉を聞いたことがあるかもしれません。昔は働く人たちは担保がなかったので、銀行からお金を借りることができなかった。もしくは火事になった際も、水害にあった際も、せっかくのマイホームやアパートが流されても十分な保障をもらえることができなかった。だからそれなら働く人たちがお金を出し合って銀行を作っちゃおうと、保障できる会社を作っちゃおうということで、ろうきんや全労済を作ったということをご紹介しておきます。
 少しかっこいい言い方かもしれませんけど、労働組合というのはなんのために存在するのかと問われれば、一人一人の可能性を可能な限り開く、そのために何ができるのかということを組織の命題として掲げるべきだと思っています。

 年が明ければロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年になります。コロナ禍が始まる前に日本の労働組合に研修に来たウクライナの若者が、2月24日の侵攻以降、私たちにメールを届けてくれています。最初は大変なことになったという10行くらい、そのうちそれが3行くらいになって、少し間が空くようになって、メールが来ないと心配していたところ、最近届くのはaliveという一行だけ、なんとか生きているよということを私たちに告げてくれています。それは、ウクライナの働く若者が、わずか2週間日本に来て日本の労働組合の状況を学んで現地に帰り、ウクライナの労使関係をより健全にしようと努力している彼らが、戦争状態に巻き込まれたうえで、数千キロ離れた日本の私たちに、働く仲間に今日も生きているということを伝えたい、このエモーショナルな気持ちはどこから出てくるのか。それは働く人たちの、ある意味しんどさも、働くうえでの喜びも誇りも、知らない間に共有できているというのが、国は違えど人種は違えど、働くということについてはどこかしら共感し共鳴するところがあるというところが、働く者同士の連帯につながっているのではないかと思うところです。
 もうひとつ、ミャンマーのことだけはお伝えしておきたいと思います。日本においては、ウクライナとロシアの関係が嫌でもSNSや様々な媒体を通じて、私たちの目、耳に届きますが、ミャンマーの話はちょっと出てこなくなりました。ウクライナについてはアメリカをはじめとしてヨーロッパ、日本もそうですが、西側諸国が全力で財政支援、もしくは武器・弾薬などを含めて支援活動をしています。ミャンマーは政府が市民に銃口を向けています。国の中から民主化の動きが出てこないと、なかなか難しい状況にあるということです。私たちはミャンマーの働く人たちを日本にお招きして、民主化や企業労使の健全性をこのような形にしていけば作れるのだということを学んで戻っていただいて、やっと作った民主的な政権が三度倒されたということになるので、ロシア同様ミャンマーはアジアの同胞としてもう一回私たちの頭の真ん中に据えてもいいと申し上げます。

 少し堅い話になって恐縮ですが、労働組合の根拠規定はどこにあるのかというと、憲法で労働組合の活動は保障されています。それが28条です。ただ、その3つ前の憲法25条にみなさんよくご存じの生存権が記載されています。生きるうえでの当然の権利を持ってしかるべきだ。その点からすると生存するうえで働く、労働というのは尊重されて、尊厳あるものとして取り扱われてしかるべきだ、もしくは社会の進歩にとって働くということは大変重要なことだ、したがって団結したり交渉したりもしくは行動するということが、働く者の権利として認められています。
 人類が生まれてはじめて経験したストライキがどこで起きたか。紀元前1300年のピラミッドの建設現場で、最初のストライキが行われたと記されています。研究論文によれば、それは与えられる給食のグレードが悪くてこんなもの食べられるかと言った、もしくは一日の働く時間が長かくてへとへとに疲れちゃうということだった、もしくは不安全で石がごろごろ落っこちてくるところでこんなところじゃ働けないとして王様に文句を言った、職場を放棄した、どれも当たらないんですね。その当時ピラミッドの建設にあたった工夫はもっとよい藁を下さいと王様に申し上げたわけです。もっとよい藁、食べるわけでもないし、安全にも関係ない。質の悪い藁では石がエッジが立ったようにきっちりとおさまらない。グレードのよい藁であれば接着の効果が高く、そしてきれいに立ち上がっていくということだったんです。この背景には、働く人は紀元前であっても、ピラミッドであっても、五重塔であっても、三重塔であっても、より良い仕事に結びつけたいという、内在する仕事に対する誇りを知らないうちに私たち自身は持っているんだということを確認しておきたいと思います。ただし、働く人たちが前向きに、よりよい日々を、もしくはより良い仕事を、誇りをもって生きたいということについて内在する強いものを持っていたとしても、それだけによりかかっていては、働く人の安全や健康を害する状況をなんとかシャットダウンすることはできないということも、労働組合として十分承知するところです。

 黄色いマルで労働組合と企業とは、ということを書き出しました。私は労働組合のところに立っている者と理解いただきたいのですが、労働組合と企業が話し合った結果はこの黄色いマルの中に書き込んだその労使、労働組合と企業にふさわしい、もっともよい答えを導くということになります。労使関係で生み出される対話の結果は、その周りにつながっていっています。労働市場であったり、バリューチェーンであったり、社会であったり、様々な観点に労使の話し合いの結果が導かれていっている、影響しているということを確認しておきたいと思います。
 ただ、私が申し上げたいのは、社会や経済の前にひとつだけ修飾語をつけるとしたら、「健全な」と付けたいと思います。労働組合と企業が話し合った結果は、それぞれの当事者だけに良いのじゃなしに、健全な社会や健全な経済につながる話し合いがそこにあるのかどうか、労使は高い見地から学んでいく必要があります。
 ここで、ある店長とアルバイターの対話を思い浮かべてください。A君がB君に「この12月の賃金明細、22時以降4回シフト入っていたのに、割増賃金が加算されていないよね?おかしくないか?」と尋ねました。B君は「あれおかしいな。一回店長に聞いてみようぜ」となりました。私はこの店長の行いがなかなかいけていたなと思っているんです。それは、「ちょっとみせて。あれおかしいな。本当だ、確認してみたらやっぱり25%の割増4回分払っていないね、すぐ支払うよ」となりました。ここまでは誰でもできるかもしれない。そこの店長は「ちょっと待ってね、他のアルバイターはどうなんだろう。一回点検してみる」となったんです。「ありがとう、社員はついていたけど、他のアルバイターにもやっぱりシフト分の割増賃金ついてなかった。ごめんな、ありがとう。助かったよ」ということを言ったわけです。この店長の行いが良かったことは当該のA君とB君のコンディションをよくすることのみならず、店長とA君、B君の件は解決したけれど、他は大丈夫かというところを確認し実行しアクションし対処したというところです。
 このことを私たちはソーシャルダイアログ、社会対話と呼んでいるんです。埼玉県の幼稚園、小学校、保育園のみなさんもソーシャルディスタンスはあっという間にこの2年間多くのみなさんが口にすることになりました。ただ私たちが強烈にみなさんにお届けしたいのは、同じソーシャルでもソーシャルダイアログ。よりよい社会に向けた対話は、労働組合や会社。そんな遠いところの話じゃなく、私たちが日々生活する中でも自分たちだけじゃなくて他は大丈夫かということについて議論したり、もしくはアクションすることにおいて私たち自身がソーシャルダイアログ、社会をよくする対話に、積み重なるその行動にそう遠くはないところにあるんだということも申し上げておきます。

 ただ、私たち労働組合には弱点があるんです。私はトヨタに入ったときに労働組合がありましたので01番です。すでに入った企業に労働組合があった場合です。入社と同時に労働組合に入ることになりました。みなさんは04番です。ただ、私が01から04番まで数字を大きいほうから小さいほうにわざと縮尺を変えたのは、私たち労働組合のエネルギーが遠くになればなるほど小さくなってないか、これから働く人や、ウーバーイーツで自転車をこいでいるみなさんにぼくらの取り組みは伝わっているかいということです。このたびウーバーイーツで自転車で配達している彼ら彼女たちは、労働者性が認められる判決が出ましたので、少し展望が開かれることになってきましたが、01番の人は自らの労使関係の中で話し合われた結果は、自らの労働条件をひき上げることについてもっとも合理性を持って判断しますが、それが02や03や04まで、経済や社会を安定させる方向までたどり着いているのかどうかということを、私たちは強く自覚しておかなければなりません。02と03の間、もしくは01と02の間に線を引きましたが、インサイダー・アウトサイダー理論ですね。これは理論として定着しています。当該の私たちインサイダーにとって最も良い答えは、アウトサイダーの人たちにとって必ずしも良い答えとはなりにくい可能性があることを労働組合としても十分自覚して対応していかないと、ウーバーイーツのみんなのことは知らないよ、会社に入ってたまたまだけど組合があった、それはラッキーだったけれど、その他の人たちのことは知らないよというのでは、社会対話から大きく外れることになると申し上げておきます。

 今から申し上げる話は、埼玉大学のみなさんに、こんな将来だったら私たちの未来は明るいものはひとつもないというホラーストーリーをご提供するつもりは全くありません。私たち自身が事実を、ファクトを目の前にし、それを真正面から受け止めることではじめて公益、行動変容につながると思うからです。

 まず分断と貧困の状況から申し上げます。これは一人当たりの実質所得の伸びです。赤いマルが三つありますが、先進国の富裕層、新興国の働く人たち、ここにおける賃金の伸びが高かったということはうなずけるところです。日本をはじめとして私たちはどこにいるでしょうか。先進国の中低所得者層の実質所得の伸びが極めて芳しくなかったという点がひとつあげられます。なおかつ先進国の富裕層にその富が相当程度偏っているという事実がここに表されています。象が鼻をもたげている形からこれはエレファントカーブと呼ばれているわけです。
 次に相対的貧困率です。大人二人の世帯において相対的貧困率は11%にとどまりますが、大人一人の世帯においては相対的貧困率は半数まで持ち上がってしまうという事実があります。さらに、ひとり親世帯の進学率は、高校まではほぼ全数のみなさんが上がっていかれますが、大学となると59%に低下するということを数字が示しています。ここでひとつ申し上げたいのは、ひとり親家庭というのはみなさんどう考えます?それは自己責任ですか。二人親がいるのが当然であって、ひとり親家庭まで面倒みれないよ、それは人生の判断だったり、そういう運命のもとに生まれたお二人だったんだから、ひとり親家庭を選択した、もしくはやむをえず選択せざるを得なかったというのは、それは自己責任が伴うものだと私は切り捨てたくない。経済環境がいかなるかたちであっても、大きな格差が生まれないための政策がどこにあるべきかという点です。一方で現実として雇用形態間の賃金格差、みなさんはどうです、太い親、細い親なんています?あんたのところいいよね、太い親でさ、うちのところは細いからだめだよということが平気で出てくるような社会が、私は健全性が高いと言いたくありません。
 日本の労働市場の特徴を一つあげると、初職決定率の高さがあります。初めての職の決定率。日本は90%以上です。埼玉大学を卒業する、卒業証書をもらうまでに最初の職が決定している割合は、日本は90%以上です。きわめて高い。一方でドイツ60%台、アメリカ40%台。アメリカやドイツのみんなからすると、「埼玉大学いいよな、社会に出る前に内定もらってるんだって、すごいよね。卒業証書もらった瞬間に4月から行くところ決まっているんでしょ。うらやましいよ」というドイツの学生がいる一方で、「お疲れ様だな、日本の埼玉大学のみんなは。初職決定率が高いのは大変うらやましいけれどチャンスは1回なんだな。一回最初の初職決定になにかトラブルが出るとなかなか難しい状況になるんだな」という声が聞こえそうです。初職決定率の高さ、日本の労働市場の特徴を踏まえながら、労働組合としていかによりよい労働環境づくりを進めていけるかは大変重要なテーマです。
 今までの話を総合すると人生のカードを引く権利をそもそも持ってるよね、かつ、そのカードは1枚じゃないよねということを私たちは強く意識しなくてはなりません。みなさんが卒業するとき、こんなコロナじゃなければ海外旅行だったり、会社に入ってからも色々な形で海外との接点が出てくると思います。発展途上国の空港に着いてレンタカーもしくはタクシーを呼んで、事業所まで行くときに最初の四つ角に着くと、コンコンと右側のドアをたたいてきますよ。この花飾り買ってちょうだいと言うちっちゃな子どもが。次の交差点に行くと左側のドアをたたいてきますよ。ぜったい冷えていなそうなペットボトルを買ってくれないかという少年が現れますよね。いやノーサンキューだと言って事業所に進むわけです。問題は花飾りを作った彼女の、ミネラルウォーターを持ってくる彼の、子どもたちは、もう一回花飾りとミネラルウォーターを売る可能性が高いということです。学びの機会に恵まれず、就労する機会に恵まれない彼ら彼女たちのこの状況は、負の連鎖、貧困の連鎖です。これをどのように断ち切るのかが世界各国の大命題になっているのです。ワクチンの関係もあります。WHOが報告している中間報告なので、すでに数字はどんどん動いて行っていますが、全世界でワクチンを打った回数49億回、そのうち発展途上国で打たれたのは2千万回、割合にして0.4%、したがって健康や安全をつかさどるうえでの最低限のボーダーラインにもたどりつけないようなみなさんがおられるということも、私たち自身が頭に置いておきたい点です。

 2つめの観点、人口の関係です。私1960年生まれですので、学生のみなさんのお父様お母様からするとおそらくひと世代上でしょう。みなさんのお父様お母様は1975年を中心にした前後くらいじゃないかなと思います私が小さなときに見てきた映像とみなさんのお父様お母様がご覧になった映像は大きく異なると思います。ひとつは第1次ベビーブーム。一番左側のスケールのところで1945年です。第二次世界大戦が終了して戦地から多くの若い兵隊さんが戻ってきて家庭を作り、そしてお子さんをもうけることになった第1次ベビーブーム。1970年代を中心にして大きく山があるのはその子どもたちが生まれたということで、第2次ベビーブーム。第3次ベビーブームの山をみつけることはできますか。日本に第3次ベビーブームは到来しなかったんですよね。第1次ベビーブームや第2次ベビーブームと同じ高さで到来するとは思えないけれど、2000年前後のみなさんの出生当時の年齢のところに、本来であればもう少し高い山がでてきても良さそうなものです。だって第2次ベビーブームのみなさんのボリュームがあるんだから。そこからすると2000年代くらいには、もうちょっと山が高くなって良かったんじゃないかと思うわけです。ただ、結婚も出産もお子さんをもうけるかも国から言われたくないですよね。介入ですから。結婚は当事者間の問題であり、お子さんをもうけるかもうけないかもその家庭におけるご判断になるわけです。埼玉県庁から、さいたま市役所から、あなた結婚してくださいみたいな話はあり得ないし、なんで子ども持たないのみたいなことも絶対あり得ないということは前提に置いたうえで、人口問題はこれくらいナイーブな話なんですが、国の政策がすごく強く効く政策課題ともいえるんです。今日本で移民というと、人手不足ですから海外から多くのみなさんを招き入れて様々な現場で働いてほしい、職場についてほしい。日本に入ってくるみなさんを想定します。1945年から10年間、日本は移民政策をとりました。でも、逆です。ブラジルに行こう、ハワイに行こう、ハワイの日系三世、ブラジルの日系三世、サンパウロに日本街ありますけれど、そのみなさんは、日本はまだまだ成長余力が少なく日本ではみなさんまかないきれない、国際社会に出て行ってそこで生活してほしいといって移民政策をとったわけです。ブラジルやハワイの二世三世全員がその人生めちゃくちゃになっちゃったと言いたいわけじゃありません。ナイーブな家庭問題もしくはこのベビー関係に対しては日本の国の政策の効きが極めて強いということを申し上げておきます。
 ただ、私たち労働組合も大きく反省しなくてはならない点があるんです。なぜなら第二次ベビーブームを迎えた多くの若いお父様お母様が、家庭を持った当時の働き方はどうだったか。長時間労働じゃなかったか。働く上でへとへとになって子どものことを考えようなんていう夫婦の関係になかったとすれば、私たち自身は大きな反省を持たなくてはなりません。働く現場が健やかではなかったということが子どもの数にも影響を及ぼしたとなれば、その当時労働組合はどういう対応をしていたのか叱責されて当然です。したがって、働く上でのモデルを大きくチェンジしているところです。みなさんよく実感されていると思いますが、私が1960年から1983年に就活をするまでの経験もしくは今までのところは、日本の成長モデルは、若い健康な男性正社員が長時間働くというのを基礎に置いてきました。今はどうですか。年齢、性別、雇用形態、障がいのありなしに関係なく、人々がもっとも可能性をひらくために短い時間の中で高いアウトプットをどうやって導き出すのか。今までの成長モデル、働き方のモデルを、埼玉大学のみなさんは職場に出たときに大きく実感されると思います。もしくは行き届いていない点があるのだったら皆の力で変えようということを私たちが心掛けていかなくてはなりません。

 人口ピラミッドは、1965年から右下のところまでどんどん動いていくわけですが、みなさんはどこのラインに入っているかというとブルーのところです。16歳から64歳までの生産年齢人口にあたります。この生産年齢人口における変化が日本の第3次ベビーブームとあいまって2018年当時から徐々に人口減少の状況に入っていますが、ボリュームが減ることと同時に生産年齢人口のボリュームが変化していっていることを私たち自身が頭に置いておかなくてはなりません。ヨーロッパ諸国が100年かかって高齢化社会に到達した一方で、日本の社会の変化は4倍速なんです。諸外国から比べると4倍のスピードで生産年齢人口の縮小度合いのスピードが速い。倍速×2。したがって政策課題の判断も極めて速くしなくてはならないのです。

 埼玉が、みなさんの出生地がどこにあるかご覧ください。赤い線は右側のスケールで2045年の高齢化率。棒グラフは左側の軸で65歳以上の人口のボリュームをご覧ください。ここで申し上げたいのはふたつです。ひとつは東京一極集中、もうちょっというと埼玉を含める東京圏の一極集中の度合いです。ここに記載していないのですが、東京、神奈川、千葉、埼玉在住の20代30代の女性は、今430万人です。この430万人は、北海道から沖縄までの同世代の女性の3分の1を占め、東京、神奈川、千葉、埼玉、この4都県に住んでいるということなんです。ブラックホールのように相当な吸引力なんですよ。なぜブラックホールのようにというか。一生にかかって女性が産む子どもの数の特殊出生率が、全国は1.30です。日本でもっとも少ないのは東京で1.13です。ブラックホールのように、東京に東京圏に集まる。だって埼玉大学があるんだから、就職口があるんだから。気持ちよく渋谷や六本木に行きたい。青森の人は東京に来てもらっては困るなんてことを無碍に言うつもりは全くないけれど、地域地域の活性化が大変重要だということなんです。私は今日北海道から飛行機に乗ってきましたが、東京圏に送り出す女性が最も多いのが札幌市です。なぜか。札幌で働こうとしたときにキャリア形成が見えないからなんです。札幌市の中で女性が働こうと思うと、みずからのキャリアを形成していくステップが見えないので、仙台に出る、仙台にとどまらず東京に出るということになるんです。したがって札幌、仙台、もしくは名古屋、大阪、福岡、広島などなど、多くの都市において、ある程度そのブロックにおける拠点が、地方都市が活性化され、いきなり東京に流入してくるような防波堤になることも国づくり、町づくりに大変重要だということを申し上げておきます。
 この前韓国の坂道で大変悲惨な事故がありました。日本の人口は1億2千万強、韓国においては5200万人と聞いています。ソウル近郊に住まわれる方たちが2600万人、相当な集中度、過密度になります。韓国における出生率は0.8台と伺っていて、日本韓国共通の私たちが乗り越えなければならないテーマが内在していると申し上げます。

 DXについて、右側に書いてあるアップルやアマゾン、私たちがよく目にするところですが、いくつかのテーマを抱えています。ひとつは莫大な富を上げているうえにおいてその雇用量が決定的に小さいという特徴があることを申し上げておきます。もうひとつは莫大な富を重ねている一方で、税の公平性を欠いている点が世界から指摘されている。各国でお仕事しているのに、適正に税を払っていないんじゃないのという疑義が生じている点を申し上げます。もうひとつは、これは私よりみなさんの方が詳しいんですが、データは誰のものかということです。アマゾンでこのリップを買ったらこのハンドバックとこのワンピースをみなさん買っています、この本を買ったら上下巻あわせて買っている人がいます、と出ます。コンビニエンスだし私たちにとっても有益な情報がありますが、本当に私たちが見なければいけない、探さなければいけないデータというのは与えられるデータじゃなしに耳に痛いデータかもしれないということを申し上げておきます。
 みなさんが活躍する時代はWEB3.0からさらにそれ以上行くんでしょうね。WEB1.0、私経験しました。検索機能、ググると、これ本当にこんなに出てきていいのかなというくらいWEB1.0を経験しています。WEB2.0、SNSで昔の友人と新しい友人と会話を重ねることができています。WEB3.0、VR、バーチャルリアリティの中で新しいワールドを作っていくことに多くのみなさんが挑戦していくことと思います。

 コロナ禍において私たちが再認識したのは、このスライドのとおりのことですよね。私の出身は製造業ですから真ん中からちょっと右、この20年間でその産業で働く人たちの数が大きく減ることになりました。アメリカに工場作りました、タイに工場作りました。事業所も海外展開していますから、多くの利益は国内および海外で上げることになってきた。就業環境にも変化があった。一方で、上に伸びているのはそこで働く人たちの数が増えているところです。左から2つめのところ大きく伸びていますよね。これは介護であったり福祉であったりという多くのニーズがそこにあることを象徴的に表しています。一方で箱の中には、そこで働く人たちのおおむねの賃金水準を記載してあります。私たちがコロナ禍においてもっとも大事だと感じた健康、安全、介護などなどにあたる人達の数は増えたけど、社会的なニーズや社会的な位置づけにふさわしいとは思えない賃金水準がそこにあるんだということも、このコロナ禍において再確認されたところです。いわゆるエッセンシャルワーカーです。欠くことのできないエッセンシャルワーカーがそこにおられたということです。
 私たちが承知しておかなければいけないDX、デジタルトランスフォーメーションは、私がもっとも腹落ちした専門家の言葉一言でいうと、わかりやすくいうとコンプリートチェンジ、完全に変わるんだということです。実は、産業や働く価値、社会のありようや民主主義は、コンプリートチェンジ、根こそぎ変えていく可能性がある、ということを聞いてうなずきました。
 中国からのツーリストはまだ入ってきていませんが、中国からのツーリストは2019年の暮れまで、なんで日本に来たいと思ったインセンティブが生じたか。それはキャッシュを使いたかったからもひとつのインセンティブと言われています。お財布からお札もしくは500円玉を出して、店先でキャッシュを、コインを、お札を使いたいと思ったからです。中国ではすでに全部デジタル化ですから。ピッとやってQRコードで、もしくはほかのバーコードで全部支払い完了するので、デジタル化が進んだ社会からみると、日本はお金を使っているらしい、財布から現金を出しているらしい。なつかしいね、日本に行って雷門でもう一回お買い物してみようよ。お札を使ってみたいよね、というくらい世の中は前に進んでいるということを、私たちはそういうところからも実感するわけです。

 時代と労働なんてちょっと大きく構えすぎましたが、狩猟の時代に矢じりの先をとがらせて獲物によく刺さるように、もしくは農業の時代に一番最適な水をひいてきていつ種を蒔けば収量があるのか、もしくは商業の時代にもいつそれを市場に出せば最もいい価格で取引がされるのか、さらにはAIを使って最もよいビッグデータの情報を得てさらなる効率的な生産や販売につなげるのか。いずれの時代も私たちは人類の知恵がそこの背景にあったということ、社会の発展の礎に働く人の知恵があるんだということは強く自覚をしておきたいと思います。
 そのときに先ほどのコンプリートチェンジは、ミルフィーユなんだという説明も私としてはなかなか合点がいくところです。ミルフィーユって上からフォークいれるとばらばらになってうまく食べられないですよね。ぐちゃぐちゃになっちゃう、最後。これからの時代はネクストソニーとか、ネクスト東芝とか、産業単位のビッグカンパニーが生まれてくるというよりは、デジタルのパワーが、水平、横切りに人々の生活を大きく切り替えていく可能性があるということです。これはプラスもあればマイナスもある。プラスでいうと、ある医科大学のゴッドハンドのあの先生に執刀してほしいよね、オペレーションしてほしいよねというゴッドハンドのデータは、沖縄もしくは離島の遠隔地にすべてデータが送られ、ゴッドハンドが離島にもいるようなかたちでオペレーションがされる時代になってきていますよね。そうなるとITが進みAIが進み私たちの生活が横切りに変わっていくということは医療格差がなくなりますよね。あそこの県に住んでいないと、東京にいないといい医療が受けられないんだということはなくなってきます。そうすると全国のドクターが常に私の主治医だというような感覚にもなれるわけです。働くうえで私たちがAIやITをどのようなかたちで取り込み最もプラスサイドに転化し、社会のデザインを変えていくのかということに私たちが注力する必要があります。

 最後、ジェンダーなんですよ。この前モンゴルの若い30代のみなさんとオンラインで会議しました。僕手元でモンゴルのジェンダーギャップ指数、全世界でいうと何位なんだろう、僕らは116位だけどせめて同じくらいなのかななんて思ったら僕らより40番も上だった。モンゴルのほうが社会開発が進んでいるんですよね。本当に恥ずかしいけどアンコンシャス・バイアス、モンゴルだから社会が遅れているだろうという知らないうちの無意識の偏見が私を支配していたわけです。日本のほうが絶対いい国だみたいに思っていたわけです。ジェンダーギャップ指数だけ見るとアンコンシャス・バイアスに縛り付けられていた私が本当に恥ずかしいと思う。日本も上げましたよ。2019年で121位、2021年は120位、喜ぼう。ここには書いていないけど2022年は全世界で116位まで上がりました。ただ対象国が10か国減りました。なんだそれみたいなこともあるんですが、116位に甘んじている私たち日本においては、苦手科目を克服しようということなんです。苦手科目2つあるんですよ、日本は。経済と政治なんです。これ4科目でジェンダーギャップ指数、国の順位が決められています。政治、経済、教育、保健。各分野において男女の比率がどうなっているのか、政策決定される場所にどのようなみなさんがそこについているのかということなんです。日本の苦手科目は政治と経済です。政治、衆議院議員において女性の割合は10%、参議院議員において女性の割合は20%。埼玉県における市町村議会においても同様の感じですよ。政策決定しているところにほとんど女性がいないんだ。経済もそう。企業のトップにおいても同様ですよ。みなさんの経験をイメージしてください。生徒会長、小学校のときの生徒会長、主に6年生がなるのかな、上級生だから。それは男性女性半々です。中学校になったときの生徒会長、女性の割合は何割か。小学校は5割5割だよ。それが中学校になったときに女性の生徒会長は何割か。5割だと思う人、小学校と変わらないんじゃないと思う人は手を挙げて。4割だと思う人手を挙げて。ちょっと下がるよね、やっぱりね。この話の流れから言って下がらないとおかしいよね。3割だと思う人手を挙げて。2割だと思う人手を挙げて。正解。2割なのよ。小学校のときには5割5割だった生徒会長が、中学校になると女性の生徒会長って2割にどーんと減るのよ。これってなにさっていう話なのね。これって制度がどうだ、苦手科目が経済社会だなんて言ってると同時に、もしかすると成長とともに社長って男性なんじゃないのと、男性を思っちゃっていれば、女性も知らないうちにアンコンシャス・バイアスでそんなもんだなんて思いどっかにない?これは深いよ。私たちが心の中に内在しているなにかが作用してアンコンシャス・バイアス、無意識の偏見があって社会のありようを形成しているとすれば相当深いよ、これ。まず自らのアンコンシャス・バイアスを確認しようということかもしれません。なぜなら大きく家庭の風景が変わっているから。この40年かけて専業主婦、小学生が帰ってくるとお帰りって出てくる、お母さんが出てくる専業主婦世帯は1200万世帯から600万世帯に半減。逆に言うとお父さんもお母さんも共に働く世帯はこの40年間で600万世帯から1200万世帯に2倍増。そうしたときに家庭の中で誰がお皿洗うの、誰が家事面倒見るの。専業主婦がいる家庭じゃないよ、お父さんお母さん一緒に働いているのよとしたときに、子どもが生まれたときにこの子育ては誰が面倒見るの。家庭内における私たちの役割分担比重を男性女性の中で相当見直ししないと。みんな3割に手をあげたんだから、さっき。2割はほんと3人か4人くらいだ。ということを考えたときに大きな変化をもたらすのはなかなか難しいんじゃないかと僕は思う。なぜなら今日女性も男性もたくさんおられるけれど、とりわけ女性においてはキャリアの中断が発生するんですよ、出産を契機として。めちゃめちゃ大きなテーマなんだ。したがって日本の女性をそのままスライドして長時間労働にいれることはやめよう。なぜなら長時間で残業があったとき育児、家事の負担が女性に集中していれば出産を契機にして、仮に正規雇用だったときには正規から変わりますよ。家の中に入っちゃう。子育てがだいたい終了したと思われるときにもう一回労働市場に戻ろうとすれば、そのときにはパートタイマーなどの選択をせざるを得なくなる。そうなると賃金の格差がでてきて教育の機会に恵まれず低技能の業務にしかつかざるをえないという環境になっちゃうわけです。家庭内の風景がこれだけ変わっているときに、制度も私たちの心のうちもコンプリートチェンジじゃないけど全部切り替えていく、ということを私はここで強く申し上げておかなければなりません。

 社会学においては共感の壁という学説があります。共感しあえる範囲、その仲間をしるすものです。私もペットもですね、家族同然ですよ。それは今申し上げた共感の壁、共感する壁の内側に、まさに家族同然のようにペットを入れて喜びも悲しみも共有する。一方で、わが子でありながら共感の壁の外において虐待に走ってしまう大変悲しい事件も散見されるところです。したがって私たちが社会を作っていくときのベースラインとして、もう1回共感もしくは共感する輪郭みたいなものを再構築していく必要があるんじゃないか。それは私たち労働組合でいうと働く現場をもとにして共感しあえる仲間というのをどのように作っていくのかみたいなものも副次的に健全な社会を作っていくうえでは大変重要なことだと理解するところです。

 外国人労働者、このグラフでは140万人強のところでストップしていますが、さらに今上がっていっています。外国籍をもって日本で働くみなさんの人数です。そのときに私も含め多くのみなさんが今後政策的な課題として取り上げるべきは、もしくは取り上げざるを得ないこと、もしくは取り上げたほうがいいテーマは、先ほど申し上げた移民のテーマが僕はあると思っています。答えはまだ見いだせていません。ただ現実のところだけいうと、日本における移民、諸外国における移民の割合は大きく異なる点だけは承知しておきたいんです。ヨーロッパサイドはこの移民については15%から20%ですよね。日本の移民の割合は桁が違う、2%。多くのみなさん、さっきの人口減少なども含め、もしくは私たちが今後社会を作っていくうえで外国人のみなさんとグローバルシチズンシップをどのように私たちが結びあうのかというのは、社会を構成する私たちが不可避のテーマではないかという点も申し上げておきたいと思います。
 もうひとつはLGBT、これも私が埼玉大学でもう1回お話する機会があったら、おそらくこの棒グラフはデリートしていると思います。意味がないと私は思うから。もちろんLGBT Q+も含めて私たち自身が自覚しなければならないテーマである。100人のうち8人該当するらしいよと帯グラフにすることにどういう意味があるのか。該当者をあぶりだすかのようにマイノリティを仕分けしてそれを数値化した帯グラフにどのような意味を見出すのか。ひとりひとりにはまぎれもなく尊厳がある。Sexual Orientation and Gender Identity、SOGI。LGBTの帯グラフでマイノリティを仕分けすることじゃなしに、そもそも私たちは尊厳があるひとりひとりとして誰からも尊重されてしかるべき、私たちにはSOGIがあるのだというふうにとらえるほうが現代としては適切ではないのかというふうに思っています。

 「res ipsa loquitur」ラテン語で、物事はそれ自体が語るということわざがあります。コロナ禍においてアイスランド、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、台湾、とりわけドイツのメルケル首相などは特筆した女性リーダーとしてこのコロナ禍を全力で国民と一緒に、市民と一緒に乗り越えようじゃないかと言う演説が心を打ったと日本にも伝わってきました。もちろんメルケルさんは物理学者として偉大な首相であり、リーダーであり、ドイツを率いるための多くの資質を兼ね備えた彼女ではありますが、ものごとはそれ自体が語るというところから引きつけてみると、メルケルさん、女性リーダーをうみだす社会のありようがそこにはあるのだ、そこのありよう自体がメルケルさんを語らせているのだという理解につながるのです。日本において残念ながらメルケルさんのような女性首相というのはまだ現れていませんが、その彼女自身に大変な資質があり努力があったということもさることながら、彼女を語らせる社会のありようがそこにあるのかどうかという点について、私たちは見つめ直してみる必要はないでしょうか。

 日本の小さな子どもたちは身体的健康は高いんですけど、精神的幸福度は低いんですよね。結びにあたってこんなことをいうのは大変残念なんだけれど、自ら命を絶ってしまわなければならないような割合は、他国とくらべて極めて高いということも今画面でご覧になっていただいているとおりです。
 これ、シルバー民主主義を書きだしました。年齢別投票率の状況です。年齢の高いみなさんの投票率が高いということを示しています。年齢の低いみなさんにおいて投票率が低いということなんです。ボリュームゾーンである高齢者の人数、多いですね。高齢者の人数が多いところにもってきてその人たちがじゃんじゃん投票している。おじいちゃんおばあちゃんに投票行くななんて言えませんよ、投票の自由がありますから。ただし、テーマは若年層のみなさんが今後長く生きていく、私たちの社会や経済を作っていくうえでなにも意思表示しなくていいかということです。諸外国の若い人たちとお話をし、私が感じることは日本において法律というのは私たちを縛るルールだ、このようにしなければならないという、法律というのは私たちに課されたルール、基準であるというふうに理解する旨が多いですが、海外の若い人たちとしゃべっていると「法律?それは相原さん、ルールという前に権利ですよ」というふうに答えるみなさんが圧倒的です。日本の場合は国の成り立ち上、法律を自らのものとして権利獲得した経験というよりは、お上が私たちを縛るルールとして心構えとして理解したという経験値が内在しているというふうに、承知しておく必要があるかもしれません。

 実はこれ新しい投票率をご覧いただいていますけれど、左から三番目、オーストラリア、アジアパシフィックの仲間として、オーストラリアの投票率高いですよ。ひし形のところ、これ18歳から24歳ですから、オーストラリアの投票率を高めているのは18歳から24歳の若い人たちが全体を引き上げているといえます。右側の赤いところ、どうですか、四角は18歳から24歳です。全体の投票率を低めているのは若い人たちの投票率だともいえなくもない。ただ一方でオーストラリアは投票に行かないと罰金があるんですよ。金とられるんです。金とられてまでも投票率あげたいですか、みなさんは。僕はちがうね。お金とられてまでも投票率を高めたいとは思わない。私たちはみずからを行動変容するということを先ほど申し上げたところです。
 例えば環境問題などもあるんですよ。地球の温度がどんどん上がっていっている、水面が上昇しているみたいなこともあるんですが、私たちがチャレンジしなければいけない社会課題は僕も含め20歳代のみなさんも含め自分の生涯を一生かけてもその結果が見届けられないようなレンジの長い社会課題を相手にしているということだけは承知しておきましょう。バトンを次々に渡して地球の温度が上がらないようにするにはどうすればいいのか、石炭使わないようにするにはどうしたらいいのか、などなど自分の生涯を閉じるその日に全部の結果が見届けられないような社会課題に私たちが挑戦を重ねていっているということ自体、私たち自身が十分理解しなければならない点です。

 真ん中の働くという島を健全なものにすれば、健康も暮らしも学び、スキルアップにもつながるということを書き出しました。池袋もしくは新宿に1枚100円のTシャツがぶらさがっていて、これいいよね、こんないいデザインのTシャツ買っちゃおうかなと思ったときに、私たちが頭にすべきは、この1枚のTシャツ、安い方がいいよ、安い方がいいけどその商品にはサービスの背景にどういう労働があってこの100円のTシャツができているの、ということが強く求められる時代になってきているということです。ユニクロのダウン、セーター、Tシャツ、その綿花はどこでとれたものでしょうか。とれたところの場所によっては米国は輸入できませんよ。ビジネスに障害がでます。それは十分承知しておいてください。ルール変更が諸外国でおきていることも私たちは頭に置いておかなくてはなりません。人権はビジネスを前にすすめる重要なテーマになってきているということです。

 未来の予測はなかなか難しいのですが、私も一瞬のうちにたちまち言えるものではありませんが、リンカーンが未来を予測することは私にとってはむずかしいことだと、ただ最善の方法は私たち自身が未来を作ることだとおっしゃったと聞いております。働く人の中には看護師さんもおられるんです。看護師さんはこのコロナ禍にあって投薬をし、化学的療法を持って対処する以前にその本人に備わっている治す力を最大限に引き出すことが看護師としての大命題なんだと、したがって化学的療法に頼らざるを得ない日々は本当につらかったというのを働く看護師から多く聞いたことがあります。したがって看護師さんは備わる力を引き出すというところに自分のやりがいを見出すわけですが、その看護師さんは同時に働く人たち、もしくは病気にかかっているみなさんの意識や行動を変えること自身がもっともむずかしいことなんだというふうにもおっしゃっている点には頭に置いておきたいと考えています。
 私たち自身が頭に置くべき点をいくつか申し上げたところです。私のお話は以上とさせていただきます。大変ありがとうございました。


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